なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
長らくお待たせしました。ちなみに何かちょっとグダグダしているような気がするかもしれませんが、まあ気にしないで下さいw
朝。鳥の囀り声を聞き、僕、八坂真尋は何となくなく目を覚ました。
昨晩。というか深夜、僕がニャルラトホテプにフォークを突き刺して以降も色々あった。
何でもニャルラトホテプには真逆の声は聞こえて、僕が真逆と入れ替わった際僕の声は全く聞こえていないらしい。
「それじゃあなんだ? 僕が真逆に体を乗っ取られたら、この世界にはツッコミがいなくなり、ボケの収束がつかなくなるってことか?」
思わず僕はそう言わざるを得なかった。
考えてもみろ。僕のツッコミは全て真逆以外には聞こえないということだ。つまり、ボケしかいなくなる。そういうことだ。
そう考えただけで頭が痛くなる。それに胃も。
「はぁ……」
ため息が漏れた。それも途方に暮れた長いため息が。
「逃げたい……こんな現実からさっさと」
「真尋さん。随分黄昏てますねぇ?」
「一体誰のせいだと思っている。それとお前、なんでここにいんの」
「それはもう! 真尋さんの寝顔をですね」
目を開け、何かしら気配を感じた僕がそちらを見ると、そこには昨晩のキャッチフレーズのようにニコニコとしたニャルラトホテプがいた。
一体どのようにして入って来たのか。いや、言わなくてもわかる。おそらく、鍵をこじ開けてでも入って来たのだろう。こいつはそれをやりかねない何かがある。
僕は体を起こすと、本日二度目のため息を吐いた。毎日こんなことが続けば、胃が持ちそうにない。
「大体お前、昨日はプライバシーがどうのこうの言ってたよな?」
「そんな昔のことは忘れました」
「そうか、お前飯抜きな」
「スイマセンユルシテクダサイ」
「わざとらしいから却下」
「そこをなんとか~?」
またもため息が出た。ああ、もういっそのこと夢であってほしい。本当に。切実にそう願っているが、当然これは現実だ。
「わかったよ。下で待ってろ」
「やたー!」
バンザーイ!
と言わんばかりに両手を上げて喜ぶニャルラトホテプ。そのまま出て行くかと思っていたが、そんなことはなく。
「なあ、今から着替えるんだが?」
「わかってますよ。ささっ、私など気にせずに!」
いい加減さすがの僕も我慢の限界だった。むしろ今までよく我慢していた方だと思う。
とりあえず僕はポケットからフォークを取り出しチラつかせる。こんなこともあろうかと、僕はいつでもフォークを持ち歩いているのだ。
「えっ……えーっと」
「出て行くよな?」
「ハイ、申し訳ありませんでした」
そう言うと、ニャルラトホテプはトボトボと僕の部屋から出て行った。
「まったく、何なんだあいつは」
ため息混じりにそう吐き捨てると、僕は服を着替えた。
着替えを終えると僕は下の階に行き、台所に立った。
コンロの火を点けフライパンを置き、そこにベーコンを落とす。十分に油が出たらそこに卵を4つほど落とし、暫くしてから水を入れて蓋をする。朝食ではよくあるベーコンエッグだ。
それが出来上がると、僕は冷蔵庫からレタスやトマト、キュウリなどの野菜を出してサラダを作る。
「それにしても、なんかやけに静かだな」
何がこんなに静かだと感じさせるのか、その原因はすぐにわかった。
普段ならいつも耳元で聞こえている真逆の声が、今朝は全くしないのだ。何と有難いことか。
「まさか、やっとストレスの原因が消えたのか?」
「なるほど。つまりそこで襲いかかれば」
《あいつを物に出来るわけだ》
ん? 今何か聞こえた気がするけど、気のせいだよな。
「なるほど、その作戦で真尋さんを私の物に――」
「って、お前ら一体何の話をしているっ!?」
話の最中に聞こえた僕の名前に、思わず声を上げる。一体あいつらは何の話をしているって言うんだ。
「何って?」
《そりゃ、八坂真尋をどう攻略するかっていう》
「何でそんな話をしているんだよっ!? ていうかお前……」
そこで僕はようやく気がついた。ニャルラトホテプ以外に一人、椅子に座っている者がいることに。
それもただの人間ではない。半透明ながらもしっかりと姿を見て取れる、僕にそっくりな嫌、僕の容姿をしている。
「まさか……お前、真逆か?」
《え? 何? 親父ギャグ?》
「違ぇよ! ていうか人の話を聞けぇ! テレビを観るなぁーっ!!」
《んだよ、うるさいなぁ》
そう言うと半透明の人間はため息を吐く。
どうやら、と言うかやっぱり真逆のようだ。
「お前、何だよその姿は」
《これか? ほら、某カードゲーム漫画であったじゃん? 主人公に現れたファラオの魂とお話する際、そのファラオもしくは主人公が隣とかに現れる演出。それ出来ないかなと思ったら何と出来ちまったんだよ》
嬉々と真逆が説明する。
しかし何故僕の姿なんだ?確かあの話は主人公の二人が似ているからってことだったが。
「そうか。でも何で今まで試さなかったんだよ?」
《そりゃお前、ご都合主義ってやつだろ》
「何をメタ発言しているんだお前は」
「それより真尋さん、早く早く!」
ニャルラトホテプが「飯早く食わせろ」と言うかのように、涎を垂らしてまでせがんで来たため、僕は吐露しながらも朝食をテーブルの上に並べた。
すると「おぉー!」と歓声を上げて、ニャルラトホテプはすぐ様がっつき始めた。
《相変わらず美味そうなの作るな、お前は》
「これくらい誰でも作れる」
《そうかもしれんが、見ろよあいつの顔》
そう言うと、真逆はニャルラトホテプの事を指差す。そこには幸せそうに料理をがっつく姿が。
《俺も食いてぇよなぁ……》
そうか。こいつは実体がないに等しいから、美味い食事も出来ないんだな。そう思うとどこか可哀想な気も--
「今までそんな事言わなかったが、何で急に」
《あれだろ? ご都合主義ってや――ってイッテーっ!?》
変な裏声を出して叫ぶ真逆。一体何があったのか。それは何となく僕がフォークを突き刺したからだ。まさか刺さるとは思ってもみなかったけど。
《何で刺さったんだよ!? お前何!? そのフォーク何か特殊加工でもしてあんの!? ゴーストハンターかよお前は!?》
「さあ? ご都合主義ってやつじゃないか?」
《そんなもんこの世界にあって堪るかっ!》
「それは僕の台詞だっ!! と言うかツッコミしないんじゃなかったのか?」
《お、俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇぞ!》
「いや、でもお前ツッコミを--」
《これは罠だ! この世界の神が俺を陥れるために仕組んだ罠だ!》
「もういい、お前黙れ」
《そんなこと言ったってしょうが無いじゃないか》
はぁ、と深いため息を吐く。いつにも増して、真逆のテンションが高い。誰かに止めてほしいくらいだ。
そんなことを思っているとふと、僕の服の袖が引っ張られる様な感触がした。
見ると、ニャルラトホテプが何かを訴え掛けるかのような幼い眼差しで僕の事を見つめていた。
「なんだよ?」
とりあえずニャルラトホテプに問い掛けてみる。
しかし、何故かニャルラトホテプは一向喋らずに無言を保ち、僕を見つめたまま動かない。
……。まさか、コイツ。
「もしかしてだけどお前、食事の量が足りないとか言うんじゃないだろうな?」
するとその瞬間、ニャルラトホテプがニッコリと満面の笑顔になった。
テーブルを見ると、コイツの分の料理がすでになくなっている。
一瞬殺意が湧いた僕だが、先程の喧嘩と言うか真逆とのやり取りで気疲れしているため、怒ろうにも怒る気になれない。
仕方ない。そう心で呟き台所に向かおうとしたその時、僕はふともう一度テーブルの上を見た。
僕の朝食が――ない。
「なあ、お前」
僕がそう言い振り返ると、ニャルラトホテプの肩がビクッとほんの一瞬動いたのが見えた。
「僕の朝食がどこ行ったか知ってるか?」
ニャルラトホテプの体が小刻みに震え出す。
暫く無言が続くかとそう思った時、ニャルラトホテプは振り向き満面の笑顔を僕に向け――って。
「やっぱりお前か! お前が食ったのか!?」
「だ、だだだって、大変美味だったのでつい!」
「だったら何で最初に食べたって言わなかったんだよ!?」
刹那。静寂がリビングを包み込む。そして。
「テヘ☆」
と言って、舌を出した。
ああ、そうか。
ワナワナと込み上げて来るどす黒い感情。フォークを握り潰しそうなくらい握り締め。
「ちょ、真尋さん? お、落ち着いて下さい」
感情のままにフォークを、ニャルラトホテプの額に突き刺した。
「ば、バンブルビぃぃぃぃーっ!?」
その際ニャルラトホテプは天高らかに、変な叫び声を上げたのだった。
《と言うわけで俺達は、ニャルラトホテプのショッピングの付き添いに来たのであった》
「何がと言うわけなのか小一時間問い詰めていいか?」
《お前、これなのか?》
「違ぇよ!」
わけのわからない真逆は放っておき、僕はニャルラトホテプの頼みで買い物に来ているのだが。
「こ、これは! 「黒鋼のストライバー」のDVDBOXしかもフィギュア付き! これは買わねば!」
僕は何と言えば良いのか、正直わからなくなっていた。
しかもどう言うわけか僕はカゴ持ち。さっきはしゃいでいたDVDをその中に入れるとすぐ様陳列された棚に魅入るニャルラトホテプ。
そして僕は何となく周囲を見渡す。アニメやらゲームやら色々と言うか、ごく一部と言うか。数多くのアニメグッズが置かれている。
ここはいわゆるアニメ専門店。アニメ好きの真逆に頼まれてよく来たから、この場所に関しては別段何とも思わない。のだが、唯一気掛かりなのはニャルラトホテプだ。
おかしい。明らかにおかしい。僕は狙われているはずだ。それを考慮した場合、この場所に僕がいると言うのは何かの間違いだろうか。
「おい、ニャルラトホテプ」
「これも、あれも、それも! 全部買いですよってぎょえーっ!? 刺さった!?」
とりあえずこのバカときっちり話をするため、僕はニャルラトホテプの手の甲にフォークを突き刺す。
《うおっ、痛そうだなあれ》
「他人事のように言っているが、いざとなればお前にも突き刺すぞ」
刺さるのわかったしな。
《おお、怖い怖い》
「真尋さん。何でフォークを持って――」
「こういう時の為に決まっているだろ」
「そうですよね。そんな気はしてましたよ」
一度嘆息し、僕はジトっとした目でニャルラトホテプを見る。
「そ、そんなに見られると。ポッ」
「刺すぞ」
ぐさ。という具合に、もう一度ニャルラトホテプの手の甲にフォークを突き刺す。
「い、痛いですよ真尋さん」
「じゃあ会話出来るよな?」
「ワタシムズカシイニホンゴ……すいません。ちゃんとしますので許して下さい」
「よろしい」
やっと話を進められる。そう思うとまたため息が出る。
「それで、お前の目的って言うのはこれか?」
そう言って買い物カゴの中にある品を一つ手に取りチラつかせる。
「そうですけど?」
「お前、朝行かなきゃいけないとか言ってたのって、こんな所なのか?」
「こ、こんな所とは失礼な!」
《そうだぞ。アニメは凄いんだぞ》
「どうでもいいから真逆、お前は黙ってろ」
まったく。朝ニャルラトホテプが行かなきゃいけないから、どうしても行きたいからと言うからついてくれば、まさかアニメ専門店に来るなんて思ってもいなかった。と言うか。
「お前、仕事ほっぽり出してなにやってんだよ」
「いえ、これでも真尋さんの護衛ですよ?」
「だったら普通外に出さないと思うんだけどな」
何だか頭が痛くなって来た。これもどれも全部真逆とコイツのせいだ。
《何で俺のせいなんだ?》
「うるさい。心読むな気色悪い。大体何でこんなもんの為にわざわざ地球になんか来るんだよ」
「いえ、私は真尋さんの護衛の為に。あと真尋さんお言葉ですが、あまりご自分の星の優位性を卑下しない方がよろしいかと」
《そうだぞ、そうだぞ。アニメは凄いんだぞ》
いっそこいつ等滅ぼしていいだろうか。
特に真逆。ニャルラトホテプが現れてから異様に鬱陶しく感じる。いや、会った時から鬱陶しかったけど。
「っていうか、どういう意味だよそれ?」
「それはですね――」
《この地球が惑星保護機構によって厳重に保護されているその理由は、娯楽における文化レベルが高いからだ。俺等にとってごく当たり前の物でも、他の惑星からすれば珍しい物でかつ素晴らしい物。簡単に言えば恒星間移動がニャル子達の世界では当たり前のことだが、この星の住民からすれば喉から手が出るほど欲しい技術であるのと一緒ってわけだ》
……。いや、ちょっと待って。
《ん?何だ?分かり難かったか?》
「いや、説明に関してはクソが付くくらい分かりやすかったけど、この前と言い何でお前そんなに詳しいんだよ?」
「それに何で私の個人名まで知ってるんですか」
《……。あ、頭が……》
「よし刺すぞ?」
《じ、冗談だが。何で知ってるかは俺にもわからんな。なんせほぼ無意識に言ってたし》
なるほど、真逆についてわかった事がある。それはコイツにはどうやら解説機能があるようだ。
《いや、んな機能ねぇから。俺ロボットじゃねぇから》
「つっこまないんじゃなかったのか?」
《は、計ったな!? シャア!》
うん、よくわかった。真逆はバカだという事が。
《何を今さら。んなことより、さっさと会計済ませろよニャル子》
「えっ?あ、はい」
真逆に言われ返事をすると、ニャルラトホテプいやニャル子は僕から買い物カゴを手渡されるとそそくさとレジに向かって行った。
《何だろうな。何かあいつ見てると、懐かしい気がする》
その際、真逆がそう呟いていたような気がした。
どうも皆さん。この作品を読んで頂きありがとうございます。
いやはや、一話目から多くの人に見て頂けて光栄です。ありがとうございました。
そして今回の話、自分としては少しテンポが悪かった様に思うのですが、どうでしたでしょうか?アドバイスなどがあればよろしくお願いします。
では、次回でまたお会いしましょう。