なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第二十話 忍ばない愛、覚えていますか?

 

 

 

「ったく! 支度するのが遅いんだよ!」

「真尋さんが悪いんですよ! あれほど大事に持っていてくださいと言いましたのに!」

 

 ニャル子(真尋)と真尋(ニャル子)は朝から通学路を疾走しながら揉めていた。

 騒動の原因は真尋がニャル子に渡された黒い結晶体をどこかにやってしまったことにある。正直俺も存在を忘れていたくらいのそれは、ニャル子曰くエネルギーを集積したものであり、お守り代わりなのだそうな。

 いつだったかノーデンスの空間に閉じ込められたニャル子が、この結晶体を通じて外にやってきたことから色々と便利なものなんだろう。

 まあ主に俺のせいで全然活躍してないんだけども。

 

「そんなかさばるものいちいち常に持っていられるかよ!」

「だからってどこに置いたか忘れることないでしょうに!」

 

 ちなみにその結晶体はベッドの下に転がっていたのを俺が見つけ、この小さい体で潜り込んで拾ってやった。ベッドの隙間から落ちたのか壁側にあったが、この体なら朝飯前だ。

 

「そんな大事なもんなら自分で持ってろよ!」

「なにを仰いますか! 私は我が家の家訓を忠実に実行しているだけです!」

 

 それにしても走りながら叫ぶとか、朝から元気な奴らだ。

 俺はクー子に対戦を申し込まれほとんど眠ることも出来ずというか、コントローラーの操作でまじ疲れているというか。

 クー子も心なしか走るスピードが遅い。あとすごい眠そう。それに当然のように俺を抱っこしている。

 だからやる前に「程々にして寝るぞ学校あるんだから」て言ったし、零時を過ぎたあたりから「ほらやめて寝るぞ」て言ったのに、結局夜中の四時までやっていたのだから当然の結果である。

 

「……あぅ……もう一人の少年……私はもうダメ……私の屍を越えて学校に行って」

「いや俺本当なら学校行く必要ないんだけどな。真尋から離れるとヤバいかもだからついて行くだけで、授業は受ける気無いからな?」

「……もう一人の少年のケチ」

「いやそもそもなんでお前の代わりに授業受けるって話になってんだよ」

 

 正直真尋から離れてもいいという確証が得られれば、家でゴロゴロしつつ邪神ハンターのゲームをやっていたんだが……まあほんと確証は無いしな。実験的に離れようにも、場合によっては即消滅もあり得るしリスクが高い。

 それにこいつらと一緒にいた方が楽しいし、その分充実した1日を遅れるわけだから離れる理由としては弱い。

 

「ほらクー子、急がないと遅れるぞ」

「……もう一人の少年の鬼……悪魔……スパルタの亡霊」

「俺のCVは玄田哲章じゃないからな?」

 

 そうこうしている内に真尋たちが通う高校が見えてきた。

 これ幸いといった具合にホームルームに間に合ったニャル子(真尋)たちは、肩で息をしながら教室に入り自分の席に着く。

 

「真尋さん真尋さん。そっちじゃないです」

「えっ? ああそうか」

 

 今真尋とニャル子は入れ替わっている状態だ。焦って走ってきたのもあってか、真尋は本来なら自分の席である場所に座っている。

 だが実際の体はニャル子であるため、ニャル子の席に座るのが正解であった。

 

「ていうか結界で全部誤魔化せるんじゃないのかよ」

 

 今朝出てくる前、入れ替わっている二人をどうやって誤魔化すかでちょっとした会議になった。

 色々と話し合った末に結界で誤魔化せばいいのでは? という話に落ち着いたものの、ニャル子は真尋の体の中にいるし、真尋の方はというとニャル子の体で生体時間加速(クロックアップ)は使えたくせして結界のやり方が分からないと言い始めたため結局クー子が張ることになったのだ。

 なおこの時のクー子の返事は虚な目で「……だーいじょうぶ……まーかせて……」という心配極まりないものだったのだが。

 

「仮に出来たとして今のコイツにそれが出来ると思うか? 真尋」

 

 俺は机に突っ伏しているクー子の頭をポンポンと優しく叩く。

 

「……ばたん……きゅう……」

「ああ、うん。期待した僕がバカだった」

「そいやお前の友達はまだ来てないんだな」

「ん?」

 

 いつも真尋の前の席に座っている友人余市の姿がないことに気がつき言ってみる。

 俺の記憶にある限りだと、真尋の友人余市は遅刻どころか病欠すらしたことがなかったはず。

 

「本当だ。確かに珍しいな」

「なんか風邪とかでもひいたんかね」

「ていうか珠緒さん……イス香さんの姿もありませんね」

 

 言われてニャル子(真尋)の後ろの席に顔を向ける。確かに余市の席同様、暮井珠緒の席はもぬけの殻だ。ただまあ。

 

「あいつはどうせクー子みたいに地球産のゲームのやりすぎで遅刻だろ」

「……真逆さん……やけに火の玉どストレートにありそうなこと言いますね……」

 

 いやだってクー子とヤッフーカートのオンライン対戦してた時、なんかあいつっぽい名前のやつとマッチングしたし。

 てか今更だけど俺がコイツらと会話してる時周りからどう映ってんだろなこれ。まあ特に注目とか浴びてないあたり、特に気にしなくても大丈夫なんだろうけど。

 周囲に微弱ながらも結界の気配があるし、どうやらクー子がなんとか俺の存在も誤魔化してくれているらしい。

 

「お前ら席につけー」

 

 間もなくしてクラス担任が教室に入ってきた。ホームルームが今にも始まりそうだというのに余市の姿も暮井珠緒(イス香)の姿もない。

 ニャル子(真尋)も気にしているのか、視線は余市の席に向いている。まあ親友なのだから心配になるのも仕方ない。

 

「余市は今日体調不良で休むそうだ」

 

 担任からも確定事項を告げられる。

 珍しいこともあるもんだ。まあ真尋のことだから放課後見舞いに行こうって言うんだろうけど。

 

「暮井はまだ来てないのか」

 

 余市と違って連絡がないってことは遅刻でほぼほぼ確定か。例の強硬派に見つかって襲われたとかでなければいいんだが、まあそれは多分ないと思う。初対面の印象からも察するに。

 

「……そうです……そうですよ……今私は真尋さん……」

 

 ふと真尋(ニャル子)がなにやらぶつくさと呟いているのが聞こえてきた。

 なにを考えているのやら、やれ「これは天が与えた千載一遇チャンス」だとか「大丈夫だ。フォークを刺されるくらい怖がらなくてもいいじゃないか」とか、真尋が聞いたら不安になるだろう内容だ。というか気がついてすごい不安そうに見てる。

 うん。まあ、なんとなく次にどう行動しようとしているのかは予想がつく。

 昨日の出来事を思い出す。真尋はニャル子の体にいることをいいことに、クー子を従わせるためにニャル子名義の誓約書を書いた。当然効果はテキメンで、クー子は俺共々真尋の部屋から退去した。

 となったら当然――

 

 ガタッ!

 

「ニャ、ニャル子……?」

 

 同じような事をニャル子も出来るよなって。

 

「ニャル子! 好きだー!」

 

 真尋(ニャル子)はニャル子(真尋)の腕を掴み、ホームルーム中の教壇の横に連れ出して叫んだ。真尋からニャル子に向ける愛の告白を。

 

「え……?」

 

 ニャル子(真尋)だけでなく教室中の人間が凍りついたように静止する。その破壊力は計り知れず。疲労困憊で突っ伏していたはずのクー子が勢いよく起き上がり完全復活を果たすくらいの凄みがあった。

 

「ニャル子っ! 愛してるんだ! ホームステイしてくる前から好きだったんだ!」

 

 真尋(ニャル子)はニャル子に対する愛をそれこそ学校中に聞こえそうなくらいに叫んでいく。

 一方で状況をまだ掴めていないニャル子(真尋)はきょとんとした顔で凍りついたまま立ち尽くしている。

 そいやよくよく考えればこの手のイベントは初だからあいつも反応が追いつかないんだろうな。

 よしここは一肌脱いで助けてやるか。一応実体はあるわけだし、ちょっとクー子の結界に干渉して声だけでも聞こえるようにして。そうすればあいつに助け舟出してやれるよな。

 

「せーの……」

 

 ニャル子に。

 

「えー!? 八坂くんとニャル子さんってそういう関係だったのッ? 知らなかったー! あでも私二人きりで歩いてるところ見たもんね!」

「な? は? はぁぁぁぁぁぁーッ!?」

 

 ようやく状況を理解したニャル子(真尋)は絶叫する。

 

「ちょ、ちょっと待」

「そうだ! 毎日一緒に帰るあの時間! わた、僕は幸せで幸せでどうにかなってしまいそうだー! ニャル子っ! 愛してるー!」

「おま、なにいって」

「けどお前はちっとも僕には振り向いてくれない……こんなにも愛しているのに全然言い寄ってくれない這い寄ってくれない! このままじゃ僕はどうにかなってしまいそうだー!」

「ちが、違うんだみんな」

「お前はいつもニコニコ毎日一緒に帰ってくれるのに、僕の愛は受け止めてくれない。こんなにも胸が苦しいのに、お前はどうしてそんなにも焦らすんだ。その綺麗な碧眼でまっすぐ見つめてくるのに、どうしてこの愛を受け止めてくれないんだ!」

「てめ、いい加減に」

 

 狼狽えるニャル子(真尋)。実にいい気味である。人を簡単にほいほい投げるからこういう目に遭うんだ。戒メロン。あ、キレてないっすよ?

 

「でもニャル子さんが僕の愛を受け止めてくれたら、僕はこの抑えきれない愛を存分にニャル子さんに注ぎます! 力一杯目一杯愛の結晶が誕生するまでありとあらゆる場所に愛を注ぎ込みます!」

「おま、それ以上言ったら!」

「今夜すぐにでもニャル子さんとまぐわいすまいーる!?」

 

 言い終わるより先にニャル子(真尋)の鉄拳が真尋(ニャル子)の顔面に突き刺さった。自分の体であろうとお構いなしに撃ち放ったあたり余程余裕がないんだろうな。ヤレヤレ愉快。

 

「ま、真尋さん……じ、自分の体ですよこれ……もしかしてマゾなんですか?」

「ふざけろっ! お前なんのつもりで!」

「こうやって公衆の面前でここまで高らかに宣言してしまえば既成事実ができたも同然。これでクラス内であろうと愛を確かめ合えますよ真尋さん」

「誰がそんなことするかよ!」

 

 おや? なんか背中が熱い。

 振り返るとクー子が目に怒りの炎を灯して立っていた。どうやら校内中に響き渡らん限りの愛の告白を聞いて覚醒したようだ。これはまずい。とりあえず落ち着かせないと。

 

「おいクー子」

「……もう一人の少年……わたしの心が言っているの……もっと燃えたいもっと燃やしたいって……」

「あ、はい。そうですか」

 

 どうやら寝不足でかなり機嫌が悪いようです。

 

「……少年……ニャル子に告白なんて……許さない……」

「僕じゃねぇよ。お前今の状態知ってるだろ」

 

 異様な熱気が教室中に広がる。せめてホームルームが終わるまで耐えてほしかったところだが、我慢の限界だったようだ。

 真尋のクラスメイトが慌てて窓を開けていたりするが、それで熱が逃げるわけもなく、そもそも熱源が――。

 そんな時焼け焦げた空気を切り裂くかのように教室のドアが勢いよく開けられた。

 

「ま、間に合ったのですョ……! ぎりちょんセーフなのですョ……!」

「いや間に合ってねぇよ」

 

 思わずツッコミを入れる。

 珠緒(イス香)が肩で息をしながら、クマだらけの目のまま教室に入ってきた。今にも倒れそうな足取りにニャル子(真尋)が慌てて駆け寄る。

 

「どうしたイス香! 一体なにがあったんだよ!」

「疲労困憊ですョ……疲労コンパイルですョ……ぴょいーんですョ……」

「いやなに言ってんのかわかんねぇ」

「カンガルーのように飛びたいんだよきっと」

 

 いやそれでもわかんねぇけど。

 

「恐ろしい目にあったのですョ……」

「まさか強硬派のやつらになにかされたのか!?」

 

 クー子が一応張っている結界のおかげで会話の内容も誤魔化されているんだろうけど、大声で強硬派だのなんだ言うのってどうなんだろうか。

 まあ仮に会話内容が変わってなくても、ちょっとした小芝居程度にしか受け取られないんだろうけど。多分。

 てか切り替えはえーなアイツ。やっぱり芸人気質あんだろ真尋。

 

「……違うですョ」

「あ?」

「ゲームのやりすぎで疲れたですョ」

「そこの窓から放り投げるぞコラ」

 

 ほらな、やっぱり。

 オンライン対戦中にいかにもな名前があったんだよな。確か名前は「偉大なるイス香んダル」とかだったような。なんで征服王なのかは知らんが。

 

「ちょっとだけヤッフーカートのオンライン対戦に潜り込んだのですョ。そしたら延々と首位を独走している人がいたんですョ。試しにマップで観察してみたら、もはや空飛んでる並の速さだったのですョ。異次元の速さだったのですョ。チートですョ」

「あ、ごめん。あれ一応人力なんよ」

「まさか……あのバイク乗りのファンキーウッホ使い『湖のマーサーCAR』はアナタだったですョ……真逆さん」

「お前ら揃いも揃ってなんの話をしてるのかさっぱり分からん」

「さてはあのゲームやり込んでるですョ」

「さあ? 答える必要はない」

「おい話をやめろバカども」

 

 ニャル子(真尋)が額に手を当てて項垂れる。背後の気配に気がつくことなく。

 

「そうだな。話は済んだか? 八坂ニャルラトホテプ、暮井珠緒」

「あ……」

 

 クラス担任がニャル子(真尋)の背後に陣取っていた。ホームルームの真っ只中に愛の告白やら遅刻してくるやらで大変お冠の様子。

 

「君たち学生の本分は学業だ。交友関係を深めるのは結構だが、時と場合を考えて節度ある行動をするように」

「はい、すみません。反省してます」

 

 ニャル子(真尋)が深々と頭を下げる。その傍らで珠緒(イス香)は怪しげなドリンクを飲んで「あらひれほろー」みたいなことを言っているが、あれは大丈夫なんだろうか。

 

「……ニャル子に告白……許さん……許さないぞ少年」

「いや誰だよお前」

 

 クー子はクー子で怒りのせいか疲労のせいか完全におかしくなってるし、真尋(ニャル子)は「これで既成事実が」って同じ事を呪文のように唱えているし。んー、これぞまさしくカオスというやつか。

 

「まともなのは……俺だけか」

 

 天を仰ぎ、広大な海原に一人ボートで流されているような気分になりながら俺は呟く。

 一限目の開始を合図するチャイムが校内に鳴り響いた。カオスで楽しい一日の始まりを知らせるチャイムが。

 

「真逆、あとでお前覚えておけよ」

「え、俺なんかした?」

「……理由はもちろんお分かりだよな?」

 

 やっぱ始まらなくてもいいかもしれない。

 

 

 

 





 どうも、作者の姉川です。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 さて序盤と違い徐々に真逆が原作メンツと噛み合うように書いているつもりなんですけど、皆さま的にはどういう印象ですかね?
 そろそろ明かしてもいい頃合いなので言いますが、序盤の真逆の異様なほどのウザさと噛み合わなさはわざとやっていました。
 その辺の理由は最終章で真逆の正体が明かされると同時に明言するつもりですが、果たして上手く書けているか正直不安なところです。
 もしよろしければ序盤と現在に至るまでの真逆の印象を感想に頂けると参考にできますのでよろしくお願いします。

 そんなこんなで本作はまだまだ続きますので、どうぞ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
 あとなんとなく察してる方もいらっしゃるかと思いますが、最終章はゴリッゴリのオリジナル展開です。一応の警告も兼ねての報告とともに、ここでお暇させていただきます。
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