なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
「さあお昼ですよ皆さん! 英語で言うと〝Lunch pack〟です!」
「お前はなんでいつもそうやってボケるんだよ。普通に言えよ」
真尋(ニャル子)の突然の流暢な英語を聞き、ニャル子(真尋)が呆れた表情でツッコミをいれる。
時間が過ぎるのもあっという間で、今はもう昼休みに入っていた。
現在俺たちは屋上に足を運んでいる。ここなら昼食を取りながらでも今後のことを気兼ねなく話せる。
つってもこの体じゃ俺は何も食えないんだけど。とても残念なことに。
「それでニャル子さん、本日のメニューはなんですョ。気になって夜しか眠れなかったのですョ」
「お前夜すら眠れなかったんじゃなかったか?」
「それでお昼ご飯はなんですョ!」
「おい無視するな」
しれっと真尋(ニャル子)が作った弁当を食べようとするイス香に対し、ニャル子(真尋)は拳を作って苛立ちを募らせる。殴らないのは相手がクラスメイトの体を使っているからであり、そうでなければ容赦なく鉄拳かフォークが飛んでいたことだろう。
「ていうか、精神交換機? あれの充電はどうなったんだよ?」
ニャル子(真尋)が当然の疑問を投げかける。
「残念ながらまだまだ充電中なのですョ。もうしばらくお待ち下さいなのですョ」
イス香曰く、この調子ならば夕方まで充電が掛かりそうなんだとか。
それまでは二人の精神が入れ替わったままということになる。
ふむ、何事もなければいいのだが。
「さあ皆さん用意が出来ましたよ! ささ、真尋さん。沢山召し上がってください!」
「これは……カレー?」
容器を手渡され、ニャル子(真尋)が怪訝そうに中身を見つめる。
中には白飯とその上にカレーがたっぷりと掛けられている。
カレーライス。キャンプの定番としても根強い人気を誇る料理。俺も昔仲間と一緒に作ったことがあるが、やはり親しい人間とワイワイ食べるカレーは格別ってもんだ。
「オォー! これが噂に名高いカレーライスですョ!」
「向こうじゃ珍しいもんなのか?」
「それは当然ですョ! 地球の娯楽だけでなく食文化も、ワタシたちにとっては記録上でしか確認の取れない夢幻のようなものなのですョ」
「そうなのか」
「と言っても昨日の晩御飯と今朝食べた物もカレーだったですョ」
「そうか……暮井の家では昨日の晩御飯カレーだったんだな」
最早突っ込む気も失せたようで、ニャル子(真尋)はイス香の話を適当に流しつつスプーンで一口掬って食べた。
「うん、意外といける」
「そうでしょうそうでしょう? 昨晩クー子と真逆さんがゲームで遊んでるのを他所に仕込んでおいた甲斐があったってもんです」
そいや昨夜なんかキッチンの方でコソコソと何かやっていたような気がしたが、なるほどカレーの仕込みをしていたのか。
ん? でも今朝はカレーの鍋なんて無かった気がするけど。
「真逆さん。気にしたら負けですよ?」
「あ、うん。いやまた心読んでたのかよ」
「それより真尋さん! これで私のこと妻として認めてくれますか……?」
「誰がお前を妻として認めるって?」
「おい無視かよ」
いやまあ確かに、今回はこのまま敢えてずっと喋らずに黙って最後まで成り行きを見守ろうとしてましたけども?
だからって無視はないと思うんだ。だって悲しくなるじゃん。空気に徹するのと無視させるのとじゃわけが違うじゃん。クライマックスじゃん。
「……少年、フーフーして?」
「は? いやなんでだよ。お前生ける炎なんだから熱いのとか平気だろ」
「……私、猫舌」
「生ける炎なのに?」
「……うん」
「炎の化身なのに?」
「……うん。だからフーフーして?」
「自分でできるだろ」
「ニャル子の吐息で……フーフーして……私の……はぁはぁ……あそこに……」
「お前やっぱり病院行った方がいいんじゃないかな」
猫舌――なるほど。そこはあいつとは違うんだな。
あいつは熱いの余裕だった筈だし。ああでも辛いの苦手だったか。それこそキャンプでカレー作った時こっそり辛くなるソース掛けられて、涙目になりながら犯人を追いかけてたし。
「……もう一人の少年……フーフーして」
「えっ? いや俺の口全然風とか出せないけど」
「……じゃあ……はい、あーん」
「いやどうしてそう極端な方向に行くかなこの子は」
クー子が掬ったスプーンをこちらに向けてくる。まじに食べさせようとしているらしい。
気持ちは有難いが、前述したようにこの体には物を食べる機能がない。と思う。正直まだ試してないから実際のところは分からないが、何となく無いと思っている。
というかあったらそれこそこの体の謎が深まるだけだ。なんせただのぬいぐるみのはずだしこの体。
「……二人ともケチ……フー……フー……」
「自分で出来るなら最初からやれよ」
肩を落としながら不満そうに息を吹きかけるクー子を見て、ニャル子(真尋)は一口二口と食べ進めながら呟く。
食べる速度が落ちていないあたり、ニャル子の作ったカレーがお気に召したようだ。
こいつが気にいるんだから余程美味しいのだろう。やべぇ、ちょっと味が気になってきた。さっきせめて一口くらい試しに行ってみるべきだったか?
「あ、真逆さんのもありますよ。一応口もあるみたいですし、試しに食べてみます?」
「え? マジで? お前いいやつだな」
「マッテローヨ!」
真尋(ニャル子)は鞄から他のタッパーよりも二回りほど小さいものを取り出すと、そこに少量のカレーを掛けて俺に渡した。
スプーンも今の俺の手に適したサイズのものを渡してくれた。どこで手に入れたのかは謎だが有難い。
「イッテイーヨ!」
「う、うむ。いただきます」
恐る恐るカレーを掬ってみる。
周囲も結果が気になるようで注目している。そこまで見られると流石の俺でもちょっと恥ずかしい。
ただうむ。なるほど。んー、なんだろう。匂いを嗅いでみた時点でちょっと嫌な予感がするが。
深呼吸のような所作の後、俺は意を決して一口食べてみた。
「こ、これは……!」
俺は続け様に二口、三口と行き、最後には掻き込んで全部平らげた。
「どうやらちゃんと食べれるみたいですね」
「……ない……」
「おや? 足りませんでしたか? ではおかわりを」
「……しないん……」
「ば?」
俺はタッパーとスプーンを地面に落として声を震わせる。
確かに食えた。食った後どうなんのかさっぱり分からんが一応物を食うことは出来た。
俺の嫌な予感は的中してしまった。
そもそも前提として匂いを感じることが出来なかった。市販のルーの香ばしい匂いでさえこの体は認識してくれないようだ。
ともなれば味覚もないのでは? そう思っていた。
いざ食ってみた結果、案の定味がしなかったのだ。
「ニャル子……味がしないんだ……味が……しないんだよ……」
「真逆さん……そんな……まさかあなた禁断の果実しか食べられない体に……?」
「確かにあの果実見た時なんか美味そうだなって思えて――ねぇよ。そもそも見た事ねぇよ。つーかこの体ぬいぐるみじゃねぇのかよ。なんで物食えんだよ。いよいよもって怖ぇよ。この後食べた物どうなんだよ」
「いや私に言われましても」
とりあえず意識をお腹のあたりに集中させてみる。食った物が入っている感覚はない。つまりカレーライスは口から体内に入ることなくどこか異次元へと消えたという事になるのだろうか。
なにそれ怖い。え、まじでこの体邪神の素材とかで出来てる?
「それにしても地球にはこんな素敵な食文化もあるのに、消えてしまうなんて勿体ないのですョ」
俺が自分の今の体について困惑している中、ふとしたイス香の一言が場を凍り付かせた。
「は? 今お前なんて?」
あまりにもサラッと口にしたため、ニャル子(真尋)が食事の手を止めて問いかける。
真尋(ニャル子)とクー子に至っては今まさに掬ったスプーンを口に持って行く最中だったようで、あんぐりと絵に描いたような大口を開けて硬直している。
「こんな素敵な食文化があるのに――」
「違うそうじゃない。お前なんでそんな典型的な返しをするんだよ。その後だよ」
「ああ、地球が消えてしまうという話についてですョ?」
イス香はタッパーの中身を全部掻き込むと、一息といった具合に口の周りを吹き始める。まるでこちらを焦らすようにじっくりと。
「地球が消えるってどういうことだよ?」
「詳細は不明ですが、ワタシがいた未来の地球は宇宙連合の決定により危険惑星として処分された後なのですョ」
「なん……ですと……?」
宇宙連合――その名前に真尋(ニャル子)が動揺した声を発する。
ニャル子が所属する惑星保護機構は宇宙連合の傘下にある。自分の所属する組織の実質トップが、未来では愛する星を消す決定を下していると知って流石にショックだったのだろう。
「おいニャル子どういうことか説明しろよ」
「いや私に言われましてもパート2」
「お前らんとこの惑星保護機構がエンタメを守るために地球を保護惑星指定にしたんだろ? だったらそのお上である宇宙連合の意向でもあるんじゃないのかよ」
「そうですが、それはあくまでこの時代ではという話なのでは」
「マジかよ。未来の地球は一体何やったんだよ」
真尋が動揺するのも仕方ない。未来の話とはいえ「地球が無くなっています。しかも外部からの干渉が原因です」と言われて「はいそうですか」と受け入れられるはずもない。
しかし未来では地球が無くなっているねぇ。未来のデータベースに真尋の名前があったことが原因だったりするんだろうか。それだと俺が原因ということになるが。
「肝心なことはワタシにもわからないのですョ。ワタシのいた時代では地球に関する情報は検閲削除されているのですョ。イースの偉大なる種族が誇る膨大な量のデータベースの中でさえ、ほんの一握りの情報しか得られないのですョ」
つまり限られた情報しか手に入らない状況の中「現地で最強の人物」という限られたワードで、ニャル子だけでなく真尋の名前まで上がったってことか。
やっぱり大分マズイ状況に進展しつつあるみたいだなこれ。どうするか。クー子の言う通り、少しばかり軽率な行動をしすぎたか。
でもまさかここまで影響が出始めるとは思ってもなかったし。
「おい、真逆」
真尋の存在そのものが消えることはないと確約された。とプラスに考えることもできるが、俺が真尋になっちまってる可能性もあるし。
ただそもそもイス香たちイースの偉大なる種族が持つ情報が正確という保証も無いからなぁ。
「なぁ、おい真逆」
とりあえずしばらく様子見ってことで行動を少し控えるか。少なくとも戦闘はニャル子やクー子に任せて、どうしようもなくヤバい状況になったら助太刀するくらいに留めて――
「お前はそんなに外界をシャットアウトしないと考え事が出来ないのかよコラ」
「あだ、あだだだだ、おーあだ」
色々と考え事をしているとニャル子(真尋)に頭を鷲掴みにされた。
この体になってからもう何度経験しているか分からない痛み。そろそろ慣れてきたかもしれない。なんてこともなくめちゃくちゃ痛い。
「仕方ねぇじゃん。そのニャル子の声で真尋みたいなノリで呼ばれるとか流石に慣れてねぇもん」
「みたいなじゃなくて中身はその真尋本人なんだが。というかお前が黙ってクソ真面目に考え事に耽ってると不安になるからやめろ」
「え? なに? それはつまり今すぐボケろってこと?」
「ちげぇよ。なんでそう解釈すんだよ。極端かよ」
「ボクたん難しいこと分からないよ」
「はっ倒すぞお前」
別に思ったことを言っただけなんだが。あとこのアイアンクローから早く解放してほしい。
と思っていたら解放されたので、華麗な着地を決めて一息つく。あー痛かった。大体ニャル子の体なせいで余計に痛いんだよな全く。
「でなんだよ。用があるから話しかけたんじゃないのかよ」
「お前なら何か知ってるんじゃないかと思ってな。ほら、お前なんか色々とやたら詳しいし」
「流石に俺も未来のことまでは分からんて。いや確かにイス香が持ってる精神交換機については知ってたし見た瞬間に『あ、やべぇ』と思ったけど」
「逆になんでそれは知ってんだよ」
そりゃ過去に同じ目にあったことがあるからですし鱒寿司。と口にすることは避ける。口が裂けても言えないだけに。
「ともかく俺も未来については知らん。なんで消される決定になったかなんて、それこそ決定した奴らにでも聞かねーとさっぱり分からん」
「あるいは強硬派の者なら何か知っているかもですョ。連中は独自に文献を秘匿しているのですョ。その中に何かこの件に関する真実が書かれているものがあるのかもしれないですョ」
「なるほど……これは強硬派を探す理由が増えましたね。詳しく聞いて洗いざらい吐いてもらわないと」
腕を組みながら真尋(ニャル子)がいつになく真剣な面持ちで言う。ほんの一瞬だけこっちを見たような気がするが、はて、気のせいだろうか。
「とりあえず戻るか。そろそろ昼休みも終わるし」
「そうですね。ところで真尋さん」
「なんだよ?」
「真逆さんが食べたカレーってどこに行ったんでしょうね?」
「お前なんで既に終わった話をさも後々の伏線みたいな雰囲気で言うんだよ。本人がわからないことを僕が知るわけないだろ」
「いやだって気になりますし鱒寿司」
それについては俺も未だに気になっているところだ。
しかしそんなことをいちいち談義している暇などなく、俺たちは午後からの授業を受けるため教室に戻るのであった。
マリネーの下りは神の手によって消滅した。なんていう話はともかくとして、どうも姉川です。
さて真逆の視点で描写していることによりどんどんとコイツの正体が割れようとしているわけですが、皆々様はどう捉えているのか気になるところです。
まあ答え合わせはまだまだ先なのですがね、ガハハ。
正直前書き後書きで書くネタが枯渇したので次回以降、とりあえずイス香編ラストまでは私の下らないノリの後書きは無しでいきます。
ではその時までサヨナラサヨナラサヨナラ。