なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
「ん? んん? むー?」
「……おはよう、もう一人の少年」
意識が覚醒し真っ暗だった視界がはっきりすると、目の前にクー子の顔があった。
俺の体を両手で包むように持っていたクー子は、覗き込んで顔色を伺っている。というかなんか顔が近い。
「もしかして俺……寝てたか?」
「うん。お昼休憩終わって教室に戻ってきたら電池が切れたみたいに突然」
屋上から教室に戻ってきてからの記憶がないのはそういうことかと納得する。
「ここは?」
あたりを見回すとどうやら既に放課後になっているようで、どこか見覚えのあるような路地に来ていた。
「……少年の友達の家に向かう通り道」
「あー、余市の家に向かってるのかこれ」
道理で見覚えがあるわけだとまたも納得する。
どうやら俺の予想通り、真尋の提案で余市の家に見舞いに行くことになったらしい。
「起きたのか真逆」
「ん、おはよう真尋」
「お前も寝ることあるんだな。付き合い長いけど初めて見た気がするぞ」
言われてみて確かにと腕を組む。
真尋に憑依してからというもの、俺は睡眠をしたことがない。真尋が寝ている間は心の奥底に閉じこもって退屈な時間を過ごしていたし、霊体のような状態でそれなりに自由に動いていた時も眠ったことはなかった。
「俺がこの体にだいぶ馴染んできたってことなのかもな」
「そのまま一生起きないのかと思ったぞ」
「お? なんだ? 心配してくれてたのか?」
「は、はぁ!? い、いや、心配してたら余市の家に向かってないだろ。お前はバカなのか?」
言い淀んだあたり少しは心配してくれたらしい。
「ズルいですよ真逆さん。まだ私には一度もデレっぽいイベントが来ていませんのに」
「え? あ、うん、なんかごめん」
真尋(ニャル子)が黒いオーラを纏いながら恨めしそうにこっちを見ている。
言われてみると確かにニャル子はフォークを刺されたりするばかりで、真尋のそういった場面には居合わせていなかったかもしれない。
「ん? でも幻夢境の時真尋のやつかなりお前のこと――」
「あー! 手が滑った」
「デボラぁー!?」
突然のフォークが俺の脳天を突き刺す。そいえば投げられるばかりでこの体にフォーク刺されたことなかったなぁ。
じゃなくて。
「痛いんだけど。急に何すんだよ。お昼に食べたカレーが飛び出るかと思ったぞお前」
「いや悪い。何か余計な情報が飛び出るような気がしたもんだから」
「そんな理由で脳天突き刺される身にもなって欲しいんだが」
「……あともう一人の少年を手に乗せてる私の身にも」
投げられるよりも痛かったし何なら普通に泣きそうなくらいにビックリした。
クー子もさすがに驚いたようで青ざめた顔で目に涙を浮かべたまま抗議する。
「……大丈夫? もう一人の少年」
ふとクー子が俺の頭を優しく撫でた。
なんとなく心地が良い気がして、少し目を細める。これが猫の気持ちなんだろうか。そいやこの体のモチーフ猫だったな。
「お前は優しいなクー子。今夜もゲームの相手してやるよ」
「……じゃあ今夜は太腿太郎電鉄をやろう」
「……いやごめん。なにその如何わしい感じのゲーム名。何すんの?」
「……ゴールに設定された混浴温泉の地を目指してサイコロを振って鉄道の旅をするゲーム。ちゃんと全年齢対象のゲームだから大丈夫」
「その内容で全年齢なのが信じられないんだが」
「大丈夫ですよ真逆さん。そのゲームの通称は桃鉄あるいは桃電ですから。ちなみに私は桃鉄派です」
「それと噂ではお邪魔鬼が超美人で巨乳なお姉さんに変身してお金ではなく白い液体を奪う裏ルートもあるらしいですョ」
「もう色々とアウトだわ。つーかなんで唐突にそんなドが付く下ネタをぶっ込んでんだ」
何やらとても怪しいゲームの話をしていると、ふとニャル子(真尋)がこちらを凝視する視線に気がついた。
「どうした真尋? まさかお前も一緒に桃鉄やりたいのか?」
「そんな怪しいゲーム僕はやらないぞ」
「えー! やりましょうよ真尋さん! そして温泉旅館で沢山子作りしましょうよ!」
「おい待て。ゲームの話だよな? 現実での話じゃないよな?」
「……このゲームはフルダイブ体感型ゲームになってる。つまり私とニャル子が子作り……ぐふっ、ぐふふふふふ……」
「勝手にやってろ。じゃなくて、なあ真逆お前気づいてるか?」
気づく? 何を?
「んー? なんかあったか?」
俺は自分の体を隈なく見てみる。
何処かおかしなところがあるんだろうか。と思ったが特に変わってる様子はない。頭や背中に張り紙とかひっつき虫みたいなイタズラがあるわけでもないし。
「言うか言うまいか悩んだし、正直今僕はすごく気が楽だから言わない方が良いかとも思ったんだが」
「いや何がだよ」
「今回のお前なんかやたらとツッコミ役に回ってるよなって」
ツッコミ役に回ってる? 俺が?
「俺が……ツッコミ……?」
「何ならさっきの桃鉄の下り、お前に振られるまで僕は黙ってたからな?」
「う、嘘だ……俺を騙そうとしている」
「……これは無言でニャル子(少年)の胸ぐらを掴んだ後にくんずほぐれつする流れ?」
「そんな流れ私が断つに決まってるでしょうが。てかなんで真逆さんとクー子で友情コンボ発動しようとしてんですか真尋さん」
「僕が知るかよ」
俺がツッコミをしている。
その指摘を受けて脳内に数々のシーンが浮かび上がった。
確かにツッコミをしている。あれほど避けていた、やりたくなかったツッコミを自ら進んで特に意識することなく。
それはつまり。つまり。つまり。
「そんなことより真尋、早く余市の家に行こうぜ。お見舞いに行くんだろ?」
「えっ? あ、そ、そうだな。そんなことで済まされることなんだな……今の流れで」
いやだって正直そろそろボケのネタが尽きてきたし、元々俺もツッコミ気質なところあるし、何より放っておいたら収集つかなくなりそうだったし。
つまりこれは名誉ある撤退なのだ。来る時に汚名を挽回すればそれでいいのだ。
「せめて返上してくれ」
「心を読むな」
そんなこんなでおかしくも楽しいやり取りをしている内に余市の家にたどり着いた。
普通の一軒家で特段変わった様子もないが、ニャル子(真尋)と真尋(ニャル子)は屋根上あたりを見ながら口を開く。
「……なぁニャル子」
「……真尋さんも思いましたか」
なんとなく二人が考えていることは分かる。
今の今まで強硬派の名は出どもその正体が明かされることはなかった。
そしてイースの偉大な種族であるイス香が真尋のクラスメイトの体を使っている。
そしてそして今日まで病欠すらしなかった余市が学校を休んでいる。ともなれば。
「真尋さん……もしかして余市さんは」
「やめろ言うな。言ったらその通りになるから絶対に言うな」
「いやでも」
「……まあ余市の体をその強硬派とやらが使っててもおかしくはないよな」
「真逆……お前なんで言うんだよ」
いやだって言う言わないで結果が変わるなんてことはないだろうし。
「とりあえず会ってみればいいんだよ。もしかしたらただの思い過ごしかもしれないだろ?」
「まあそうだけど」
「大丈夫だ。問題ない」
「……そのセリフは大丈夫じゃないフラグだからな?」
俺のセリフにニャル子(真尋)は額に手を当てて項垂れる。
真尋も分かっているのだろう。この流れはもう逃れようとしても逃れられないことを。
「皆さん! イースサーチャーの充電が完了したのですョ!」
しかもこのタイミングでイス香が持つ探索機の充電が完了。もはや回避不可能な流れが出来ている。
「ムッ! 強硬派の反応があるですョ! やいやい強硬派! 姿をあらわせーいですョ!」
イス香の威勢のいい声の直後、余市家二階の窓ガラスを叩き割って人が飛び出てきた。
あれ大丈夫かな。窓ガラスの取り付けってそれなりにすると思うけど。なんてこと考えていると、その人物は地面に降り立ち邪悪な笑いを俺たちに向けた。
その人物とはそう、真尋の親友で本日体調不良で学校を休んだはずの余市健彦である。
「……お疲れさん」
「……どうしてこうなるのか」
「日頃の行いじゃないか?」
「少し言い返せないのが腹立たしい」
俺とニャル子(真尋)が少し会話を交わしている隙に余市は走り去っていく。
「くそ! 追いかけるぞ!」
俺たちは急いで余市の後を追いかけた。
道中、余市の体を乗っ取った強硬派が呼び出したナイトゴーントや他の邪神の類たちに阻まれたりもしたが、その辺はクー子が難なく処理してくれた。
今日のクー子はなぜかやる気に満ち満ちている。今朝は風前の灯だったのが、今は燃え盛る業火の如く。あまりに一瞬で片付けるものだからあのニャル子ですら唖然としたほどだ。
加えて強硬派のやつが何かしようとしていたのが見えたが、それすら間に合わないほどに。
恐らくだが真尋(ニャル子)がニャル子(真尋)に告白した時の怒りが残っているのだろう。怖い怖い。
さて追いかけること数分、何処か見覚えのあるような無いような公園に辿り着き俺は首を傾げる。
「あれ? ここって……」
ニャル子(真尋)にも覚えがあるあたり、どうやら存在しない記憶ではないらしい。
「ここって昨日の帰りに見かけた公園じゃないです? ほら、何かオブジェクトでも作ってるんですかねー的なこと言ってたじゃないですか」
いややっぱり違うかもしれない。
「え、そんなことあったっけ?」
「何言ってんだよ真逆。疲れてるのか?」
「或いは憑かれていたの方かもしれませんよ?」
「なるほどあり得る」
「いやそこで納得すんなよ真尋」
て、今はそれどころじゃないんだったな。
視線の先には強硬派に取り憑かれた余市が立っている。普段朗らかな笑顔を振り撒いているあいつがしなさそうな邪悪な笑顔で。
「それ以上近づくな! この体がどうなってもいいのか?」
そう言って強硬派の男……なのかは知らんが、まあ余市に取り憑いてるんだから男だよな。多分。
強硬派の男は逃走の際に邪神を打ち出していたイス香が持つ機械と同じものを、銃のように頭部を狙って突きつけている。
「取り憑いた一般人を人質として扱うなんて卑怯ですョ! 強硬派!」
「卑怯もらっきょうもあるものか!」
なんかどこかで聞いたことあるセリフだな。
「我が名はイス
「そんなことさせるかってんですよ! クー子やっておしまい!」
「アラホラサッサー」
気のないようなそれでもノリのあるような返事をしてクー子は機動砲台を展開する。
「なんだそのノリ」
対して俺はニャル子(真尋)と声が被りながらツッコミを入れる。確かに今日の俺はツッコミのウィルスに感染しているのかもしれない。
「ふん! やはり来るか惑星保護機構! だがこちらにも切り札はある! 先程は使えなかったがこれでも喰らえ!」
そう言ってイス動と名乗った強硬派は手に持っている機械に何やらカートリッジを装填する。
そしてレンズ部を上空へ向け高らかにこう叫んだ。
「宇宙CQCジャマー!」
光がレンズ部から天高く発射される。次の瞬間、光は霧散し粒子となって地上に降り注いだ。
「宇宙CQCが使えない……?」
クー子が驚くのも無理はない。光の粒子を浴びた途端、展開していた機動砲台が塵となって消えてしまったのだから。
「な、なんですと!?」
真尋(ニャル子)も驚く。
「どうだ! これで貴様らの宇宙CQCは使えまい!」
「クソっ! おいなんとかならないのかよ!」
「その言葉を待っていたのですョ!」
ニャル子(真尋)の問いに待ってましたと言わんばかりの声音でイス香が答える。どうやら何か対抗策があるらしい。
「こんなこともあろうかと用意していたのですョ! 受けるがいいですョ!」
あ、この流れ嫌な予感がする。
「宇宙CQCジャマーキャンセラー!」
イス香も負けじとイス動並の声量で高らかに叫ぶ。と同時にイースサーチャーから上空に向けて光が放たれた。
霧散した光はイス動が放った光と同様、粒子となって地上に降り注ぐ。
「あ、出てきた」
粒子を浴びた途端、クー子の機動砲台が再展開される。
「宇宙CQCジャマー如きがどうだってんですョ!」
ここから反撃が開始する。そう誰もが思う場面だろう。だが俺は何となく察している。
「なぁ真逆、もしかしてこの流れ……」
どうやら真尋も察したらしい。
「バカめ! この俺がそれを見越していないとでも思ったか!」
嬉々として声を上げたイス動は再びカートリッジを装填し、レンズ部を上空に向けた。
「喰らえ! 宇宙CQCジャマーキャンセラーブレイカー!」
イス動が放った光が霧散し粒子となって地上に降り注ぐ。宇宙CQCを封じられたクー子の機動砲台は塵となって消えた。
さて俺はここから何回この説明を繰り返すことになるのだろうか。
「なんの! 宇宙CQCジャマーキャンセラーブレイカーイレイザー!」
イス香が放った光が霧散し粒子となって地上に降り注ぐ。クー子の機動砲台が再び展開される。
さてこの説明も何回繰り返すことになるのだろうか。
「甘いな! 宇宙CQCジャマーキャンセラーブレイカーイレイザーコンファイナー!」
イス動が放った光が霧散し粒子となって地上に降り注ぐ。展開された機動砲台は塵となって消えた。
やっぱり何度も同じ文は飽きるからな。多少のアレンジは必要てものだろ。エンドレスエイト。
「そっちこそ甘いですョ! 宇宙CQCジャマーキャンセラーブレイカーイレイザーコンファイナーオブストラクター!」
イス香が放った光が霧散し粒子となって地上に降り注ぐ。塵となったはずの機動砲台が展開され、反撃のチャンスはやってきた。
「たかが宇宙CQCジャマーキャンセラーブレイカーイレイザーコンファイナーを無効化されただけだ! 喰らえ! 宇宙CQCジャマーキャンセラーブレイカーイレイザーコンファイナーオブストラクターバスター!」
「小学生の喧嘩かよお前ら……」
あれだな。バーリアバリアバーリアてやつだな。アイツらもよく似た喧嘩してたなぁ。
「たかが宇宙CQCジャマーキャンセラーブレイカーイレイザーコンファイナーオブストラクターバスターのひとつ、これで打ち消してやるですョ! 宇宙CQC――」
以降、宇宙CQCを封じる封じさせないの攻防は幾度となく繰り返された。
その間俺は説明を放棄し、ニャル子(真尋)は項垂れて肩を落とし、真尋(ニャル子)は時が止まったかのように硬直し、そして攻防のど真ん中にいたクー子は何かに縋るような涙目をこちらに向けていたのだった。