なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第二十四話 最強の巫女と呼ばれた魂

 

「ふぅ、なんとかなったか。助かったよ真逆」

「Oh、こんな些細なこと気にするんじゃないぜベイベー」

「誰なんだよ一体」

 

 俺の参戦によりナイトゴーントの群勢は程なくして全滅した。

 遂に覚醒を果たした我が愛刀、酒瓶を模したぬいぐるみのバット――通称「粉砕バット」またの名を「真酒スペシャル」が文字通り火を吹きながら敵を粉砕したのだ。

 これからよろしくな真酒スペシャル。

 いややっぱ酒瓶でいいや。いちいち言うのなんか面倒くさい。

 

「まあお前たちもよくやったよ。だが殆どは俺のおかげ。やはりサブキャラには荷が重かったみたいだな」

「……少年。この天狗になった鼻をへし折っていい?」

「いいけど程々にな」

 

 天狗になんてなってない。当然の結果に対して当然の反応をしているだけだ。別にそれに対して何かあるわけでも……。

 

「てあっつ!? 熱っ! あっつい! いや熱いんすけど!?」

 

 なんでか知らないけどクー子が俺を抱き締めるなりメラメラと燃え始めた。

 

「いや待ってなんで燃えてんの? お前宇宙CQC封じられてるんじゃ?」

「……これは怒りの炎……宇宙CQCとは関係のない燃えたいという衝動が形になったもの」

「それがあるなら最初から使えば良かったんじゃないですかね!?」

 

 ツッコミを入れている間にもクー子の炎は俺を焦がしていく。

 これでも俺に熱いという感覚があるだけで特に外傷とか出来るわけでもないあたり、この体は本当にただのぬいぐるみなんでしょうか。

 

「まさかあれだけの群勢をこの短時間で対処するとはな。だがもう遅い! 制御ユニットはたった今完成した!」

「あれ? お前俺にフォーカスされなきゃ動けないんじゃ」

「そんなバカな世界があるわけないだろう! ただの時間稼ぎのための方便だ!」

「えっ? もしかして俺騙された?」

「真逆、お前バカなんだな」

 

 いやもし騙されたってんならニャル子もグルということになるんですけど。なんのために?

 あ、まさかこいつ。真尋の体に入ったら心が読めるの分かったからついでに俺の正体を探ってんじゃ。

 

「おいニャル子お前」

「そんなことよりあれ止めないとマズイですよ」

「いやそうなんだけどもさ」

 

 釈然としないがニャル子の言うことは最もだ。クソ、こうなったら真意を探るために俺もこいつの心を読めるか試してみるか?

 

「クー子、止めなさい!」

「……うん!」

 

 俺の思考も他所に真尋(ニャル子)が指を差し、それに応えてクー子は俺をニャル子(真尋)に預けると前傾姿勢を取った。

 

「遅いと言っているのだ!」

 

 しかしクー子が動くよりも早く、イス動は持っていた装置を宙に投げた。

 本来なら装置は重力に引かれて地面に落ちるはずだが、それはそうなんてことなく宙に止まり回転を始めた。

 すると回転に呼応したかのように突風が巻き起こり、イス動の背後にある巨大オブジェクトに掛けられたブルーシートがどこかへと飛んでいく。

 

「な、なんだよあれ」

 

 謎のオブジェクトの全貌が明らかになり、ニャル子(真尋)が動揺する。

 見てくれはあまりにガラクタと言っても遜色ないものだった。廃材など有り物で作られた柱とコードが巻き付いた天高くそびえ立つ塔。その姿は俺が過去に目にしたものと大差ない物だった。

 

「これぞまさしく全地球人類と我々イースの偉大なる種族の精神を交換するための装置! 精神交換装置だ!」

 

 そしてあれがもし俺が相対したものと同じかあるいはそれ相応の装置なのだとしたら。

 

「くっそ、こりゃマズイな」

 

 幾ら力が使えると言っても、この小さい体じゃ装置の起動前には辿り着けない。思い付く手段はひとつしかなかった。

 

「おい真尋! 俺をあれに向けて投げろ!」

「どうにかなるのか!?」

「どうにかするしかねぇだろ!」

 

 俺の呼び掛けに応えるとニャル子(真尋)は振りかぶって全力で俺を投げた。

 さすがのコントロールで俺は一直線に制御ユニット目掛けて飛んでいく。

 どうでもいい場面で馬鹿みたいに何度も投げられた甲斐があったってもんだ。速度もあるしこれならギリ間に合うか?

 

「思い通りにさせるかってんだよ!」

 

 俺は酒瓶を両手に持ち縦回転をしながら突っ込んでいく。そのまま宙に浮いた制御ユニットを破壊しようと試みた。

 

「んな!?」

 

 しかし制御ユニットに当たる寸前のところで謎の力に阻まれた。なにやら制御ユニットの周りを障壁のようなものが守っているようだ。

 

「ぐ、ぬぬぬ……ッ!」

 

 無理矢理押し込もうと力を込めるがそれでも障壁にはヒビひとつすら入らない。

 

「こ……のォ……んだよコレ!」

 

 幾ら全力を出せない体とはいえこの強度は異常だった。まるで俺の力そのものに耐性があるかのような……。

 

「ぐぅ……っ!?」

 

 結局は突破できず、小さな体は障壁に弾き飛ばされた。

 このまま地面に激突するのかと思った時、何かが俺を柔らかく包む。

 

「……もう一人の少年大丈夫?」

 

 弾かれた軌道の先にクー子がいた。どうやら俺を助けるために走ってくれていたらしい。

 上手く受け止めたクー子は安否を問うために俺の顔を覗き込む。なんか近い。

 

「あ? ああ……助かったよ」

「今のは何?」

「分からない。だが――」

 

 俺は歓喜極まり声高に笑うイス動に視線を向ける。

 

「あのまま破壊されるのかと肝を冷やしたが、さすがは大首領様が設計した制御ユニット! 自立防御の機構まで組み込まれていたとは!」

 

 いくら他者の設計とはいえ自分が制作した制御ユニットの機能を把握出来ていないのはおかしい。つまり本来そんな機能は存在しないということだろう。

 となると誰かが俺の邪魔をしたことになる。一体誰が?

 

「……もう一人の少年?」

 

 いや今は考えても仕方がないか。すぐに姿を見せないということは、まだ正体を隠したい輩なんだろうし。

 

「悪い。まさかあんな機能があるとは」

「くそっ、このまま地球はあいつらに乗っ取られるのか?」

「……いや俺の予想が正しいのならこの装置は恐らく――」

 

 俺の話を遮るように精神交換装置が起動する。制御ユニットは装置に取り込まれたのか姿がない。

 起動と共に塔の周囲は淡い光に包まれる。エネルギーの収束に伴い地面も揺れている。

 

「フゥハハハーハァー! ここに地球人類との精神交換は為される! 喪われし地球の英知が今! 我らがイースの偉大なる種族のものに!」

 

 目を覆うほどの光が塔から放たれる。こうなった以上もう止める手立てはない。もはや対抗手段はあの塔を破壊する以外に無くなったことになる。

 勝利を確信したイス動の宣言が天高らかに響き渡った。

 

 

 幾許かの時が流れると光は収まり、異様なほどの静寂が訪れた。

 景色も変わっていなければ意識が変わっているわけでもない。

 

「あれ? 何も変わって……ない……?」

 

 ニャル子(真尋)もその異変に気がつき、目を開けて自分の体を眺めている。

 そう何も変わっていなかった。確かにあの塔は起動したが、イス動の言う精神交換は起きていなかった。

 

「バカな!? 装置は確かに起動したはず!」

「ただのこけおどしだったのですョ?」

 

 イス動の動揺にイス香がほくそ笑む。その実に嫌味たらしく極悪な表情を果たして人様の体で見せていいのだろうか。

 

「どうやら失敗したようですね。どれ、さっさとあの強硬派をとっちめて万事解決」

「いや……違う。あの塔は確かに起動した。ただあれが精神交換装置じゃなかっただけだ」

「その口ぶり……真逆さん、あれがなんなのか知ってるんですか?」

 

 真尋(ニャル子)の問いかけに俺は頷く。

 

「あれは精神交換装置じゃない。この地球を破壊するためのいわば地球抹殺装置だ」

「んなっ……!?」

 

 俺の発言にニャル子(真尋)が驚く。他二人も同様に驚愕した表情でこちらを見ている。

 ただ一人、俺を抱き抱えているクー子は無表情のまま俺の顔を覗いていた。そして何度も言うけどなんか近い。

 

「……もう一人の少年。それはどういうことなの?」

「その辺の説明は多分もう少ししたらあるだろうな。今回の黒幕から」

『あーテステス。本日は晴天なり』

 

 塔からそんな緊張感のない声が響き始める。

 声を聞くなりイス動は姿勢を低くすると、片膝をついて頭を垂れた。

 

「お、おお……大首領様!」

 

 どうやら俺の言った通り、未来にいるであろう黒幕との交信が起こっているらしい。

 

「だいしゅりょう?」

 

 ニャル子(真尋)が首を傾げる。

 

「大首領は強硬派をまとめた組織のトップですョ」

「お前の口からそんな説明ひとつも聞いてないんだが?」

「穏健派でもその存在は不透明だったのですョ。その正体は果てなき闇のヴェールに包まれている謎の人物なのですョ」

「そ、そうか」

 

 ニャル子(真尋)がなにか言いたげな表情を見せる。あれは大首領が情報の流出に気をつけているのか穏健派の情報収集が足りていないのか、イス香の雰囲気的に後者じゃないかなとか考えている顔だ。

 ちなみに俺も後者じゃないかなと思っている。

 

「だ、大首領様……わたくしめは精神交換装置を完成させ、大首領様から賜りました図面通り、制御ユニットを組み込みましてございます!」

『ほう、それは真実だろうな?』

「は、はい。しかしどういうわけか装置を起動しても地球人類との精神交換は実現せず……」

『いやそれで良いのだ。ご苦労だった。そして残念だが……』

 

 塔に巻きついたコードの類がまるで触手のように蠢く。見たところ先端には武装も取り付けられているようだ。

 そしてその異変にいち早く気づいたニャル子(真尋)はすぐ様イス動――親友である余市健彦の体の元に駆け出した。

 

『君にはここで消えてもらう』

「は?」

 

 触手のようなコードの先端からレーザー光線が発射される。

 

「余市!」

 

 間一髪のところでニャル子(真尋)が余市に突進、押し倒すような形で助けた。

 

「ちょ、ま、まま真尋さん! 私の体でなんて破廉恥な!」

 

 側から見れば自分が愛する男以外を押し倒したように見える光景に真尋(ニャル子)が動揺の声を漏らす。

 

「うっさい! こうでもしなきゃ余市に当たってたろうが!」

「いやそうですけども……なんかこう釈然としないというか……これは嫉妬? 嫉妬の感情ですか?」

 

 なんというか少しニャル子に同情する。

 一方で状況が飲み込めていないイス動は困惑した表情で大首領の操るタワーを見上げた。

 

「大首領様……い、一体なぜこのようなことを!?」

『君が精神交換装置だと思って組み込んだ制御ユニットは、実は人類抹殺兵器のコアだったのだ。つまり君は地球撲滅の片棒を担いでいた……ということになるな』

「地球殲滅!? な、なぜそのような。この装置は我々イースの偉大なる種族が地球人類との精神交換を行い、その知識を得るための――」

『その前提からして誤りだったということだ。私は最初からこの地球を殲滅するために君を送り込んでいた。何故か? それは私はイースの偉大なる種族ではないからだ』

「え……?」

 

 動揺を隠せないイス動は口を開いて唖然とする。無理もない。悲願とも言うべき地球人類との精神交換のための装置が、その地球人類を抹殺するための兵器と聞かされて平静でいられるはずもない。

 

『強硬派の大首領とは仮の姿。しかしてその実体は……宇宙連合より業務委託された組織、チャイルドガードの者である』

 

 チャイルドガード――俺の知らない組織の名前が出てきたか。まあ当然か。

 

『君を始末すれば私の計画は完遂する。あとはこの兵器をもってして、地球諸共人類を殲滅するだけだ』

 

 無数にあるコードのひとつがイス動に襲い掛かる。その先端は鋭利に尖っており、突き刺さればかすり傷では済まないだろう。

 隣にはまだ体勢を立て直せていないニャル子(真尋)もいる。このままではどちらかに直撃コースだ。

 

「そう簡単に行くと思うなっつーの!」

 

 直様クー子の腕の中から抜け出すと、咄嗟に酒瓶の口部分を逆手に持って槍のように投擲する。

 酒瓶は一直線に襲い掛かるコードへと向かい、その先端を粉々に破壊した。まさに間一髪だった。

 

「真逆、助かったよ」

「な、なぜ……助けた?」

「別にお前を助けたわけじゃねぇ。あのままじゃ真尋にも危害が及ぶし、それにお前が使ってる体は真尋の親友のものだ。守って当然だろうが」

 

 イス動は少し沈黙した後「すまない」と言って俯いた。信じていた者に裏切られたのが相当ショックだったのか、或いは事の重大さを理解したのか。

 どちらにせよ今のイス動に抵抗や戦う意志は見られない。あとはあの塔を対処すれば解決するはずだ。

 

『ほう、驚いた。その形でもそれなりの戦闘力はあるようだな巫女よ』

「…………は?」

 

 今こいつなんて言った?

 

『私には他にも協力者がいてな。その者から貴様をとりわけ警戒するよう忠告を受けているのだ。この時間軸の地球にはかつて()()()()()()()()()()()()()が宿った男がいる……とな。差し詰め貴様がその魂なのだろう?』

 

 大首領の思わぬ発言に流石の俺も一瞬思考が停止する。

 協力者だと?

 あり得ない。俺を巫女と呼ぶやつなんて存在するはずがない。

 だが当てずっぽうで言っているようにも思えない。恐らく、過去に俺と接触したことのある誰かが――。

 

「おい真逆。あいつ一体なんの話を」

「……クソが。どこのどいつだか知らねぇが面倒なことしやがって」

 

 未来の情報に真尋の名前があったのもそれが原因だろう。

 だがなんのために俺の存在を巫女という肩書きで広めたのか意図が分からない。ましてわざわざ俺のいる時間軸から未来に行くことになんの得があるというのか。

 さっきの障壁もおそらく奴の言う協力者が張ったんだろう。感触や僅かに魔力の流れを感じたことから魔術の類か。

 目的は大首領の装置を起動させることか?

 いや違う。それだけが目的なら、イス動に全面協力して俺たちが気づく前に起動させればいい。

 あるいは他の尖兵を用意して俺たちを排除しようとすればいいだけのことだ。装置の起動が目的なら俺たちを泳がせる意味がない。

 くそ、分からないことだらけで思考が纏まらない。

 どこだ。どこで見ている。

 

「真逆さん! 危ない!」

「……あ?」

 

 不意に真尋の声が聞こえた。

 

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