なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第二十五話 大首領を倒せ!

 

 何かが俺に覆い被さるように崩れた。

 

「あ……ぐ……ッ!」

 

 耳元で響く呻く声。

 

「クー子!」

「クー子さん!」

 

 三人が同時に名前を叫んだことでその正体をようやく認識する。

 

「クー子……?」

 

 呻き声はクー子のものだった。

 状況の整理がつかず俺は目を泳がせる。

 協力者に思考を割いて隙だらけになった俺を庇ってレーザーに打たれたらしかった。

 

「……もう一人の少年……大丈夫?」

「ぅ……ぁ……?」

 

 声が上手く出せない。

 

「……よかった」

「良く……ねぇよ。おま……なんで……?」

「……だって約束したから。今夜ももう一人の少年とゲームするって」

「ざけんな! お前が怪我したらゲームなんてやってる場合じゃねぇだろうが!」

「……これくらい平気だから……うっ……!」

 

 射抜かれたのは肩の辺りと脇腹の辺り。傷口も深く出血している。

 位置的に俺が避ける先を予測して同時に発射されたらしい。

 生ける炎であるクー子にこれだけの深手を負わせているあたり、ただのレーザーではないことを裏付けている。これも協力者の入れ知恵なのか?

 

『ほう、邪魔が入ったか。まずは最も危険な因子から排除しようと思ったのだが』

 

 幸い治癒魔術の心得は多少持っている。まだこの傷の具合なら簡単にすぐ治せるはずだ。

 

「治してやるから少し待ってろ」

 

 クー子をなんとか横たわらせると、傷口に手をかざす。

 脳裏にかつての記憶が浮かぶ。ほんの一瞬だけ映し出されるその情景になんの意味があるのか。

 俺が使う治癒の魔術は代償として記憶が抹消される。選ばれる記憶はランダム。映し出される情景は、所謂ところ今際の現象だ。

 力に目覚めた――いや、力に目覚めてしまったあの日の記憶が蘇る。

 畳の床いっぱいに広がる血の海。その中に横たわる二人の亡き骸。思い出すだけで、吐き気を催すほどの怒りが込み上がるあの光景。

 生涯忘れることはないだろうと思っていたその記憶が、クー子の傷を癒すにつれてゆっくりと消えていく。

 

「もう大丈夫だ。立てるか?」

「……うん、ありがとう。こんなことも出来るんだ、もう一人の少年」

「まあ……な」

 

 さて、俺は今しがたなんの記憶を失ったのか。判断はつかないが、どうでもいい記憶であることを祈ろう。

 

『あれほどの傷を一瞬で治すとは……やはり奴の言うことに誤りはなかったか。侮れんやつだ』

 

 どういう意図があってか、向こうは治療が終わるまで手を出してこなかった。余裕というやつだろうか。あとでその高くなった鼻っぱしをへし折ってやるのが楽しみだ。

 だがそれよりも今は聞かなければならないことがある。それはこいつの目的だ。目的がわかれば協力者の目的も割り出せるかもしれない。

 

「お前の目的なんだ。なんのためにここまでのことをする。未来で地球が消滅してることと関係があるのか?」

『宇宙児ポ法だ』

「……は?」

 

 俺の代わりにニャル子(真尋)が声を発する。事実俺も同じことを言おうと思っていた。あまりに想定外の言葉に反応出来なかったが。

 宇宙児ポ法……宇宙児ポ法? それってえーと宇宙児童ポルノ禁止法とかそういう略か?

 

『宇宙児ポ法――すなわち宇宙児童買春、児童ポルノ処罰法だ。それにより地球は全宇宙の児童に対する性犯罪の温床と判断され、惑星ごと罰せられたのだ!』

「えーと」

 

 ニャル子(真尋)が困惑した表情を見せる。

 俺も言葉が出ない。その代わり腹の底から何かが湧き上がるような感覚がある。

 

「それってもしかしなくても、地球製のエンターテイメントのことですか?」

 

 真尋(ニャル子)が問いかける。すると大首領は「そうだ」と即答した。

 

『末期の地球が生み出したアニメや漫画、そこから派生した商品は、まこと看過できぬものだった。肌色分は多すぎるわ下着を履いていなくても光の加減で見えないだけですという言い訳を平気で用いるわ雑誌掲載分では――』

 

 ツラツラと大首領は罪状を読み上げるかのように羅列していく。途中から個人的な恨み辛みも羅列しているような気がするが、概ね内容は理解出来た。

 理解したと同時に、沸々と溶岩のように燃え上がる感情が、今にも爆発しそうになっていることに気がついた。

 何かは分かっている。口にするまでもない。

 その感情が大きくなるにつれて、大首領の言葉が遠ざかっているあたり、相当来ているらしい。

 

「それが……お前の目的か?」

 

 遂には抑えきれず問いかけた。

 

『そうだ。地球の罪は明白だ。それは過去の地球とて例外ではない。こういったエンターテイメントコンテンツによって児童に対する性犯罪が発生しないよう、その芽は潰しておくに値する。そう判断したからこそ』

「ああもういい。もういいよお前。この際お前の言う協力者が何考えているとかもどうだっていい」

「あの……えーと……真逆?」

 

 ニャル子(真尋)が恐る恐る声をかける。どうやら俺の溢れんばかりのこの感情は愛くるしい体でも隠せなくなっているらしい。

 

「前もって宣言してやるよ、大首領」

『ほう、何をだ?』

 

 ひとつ呼吸を置く。気持ちは落ち着くどころか、滝のように止めどなく溢れてくる。

 

「てめーの敗因はただひとつだ。てめーは俺を怒らせた」

 

 体が宙に浮く。周りを炎が覆う。黒く燃え盛る炎は人の形を成しながら大きくなっていく。

 この形態を使うのは二回目。暴走して大きくなりすぎた嵐の根源を止めるために使って以来だ。

 

形態(モード)……《終焉に誘う火の巨人(スルト)》」

「どうしましょう真尋さん」

「どうしたんだよ、ニャル子」

「また私の出番が奪われそうです」

「そうだな。お疲れさん」

 

 下の方で何か言っているが気にしない。今はもう目の前にいる大首領を、つっても本人は未来で椅子に踏ん反り返っているんだろうがぶん殴りたい。

 

『あーその、すみません。何を怒っていらっしゃるのでしょうか?』

 

 思いも寄らぬ姿になった故か、大首領は狼狽えた声を発する。触手のようなコード達も大首領の感情につられて狼狽えたように僅かに後ろに退いている。

 

「そうだな。色々と思うところはあるが一番の理由は」

『一番の理由は?』

「……クー子に傷をつけたことだ」

 

 火の拳を振りかざす。

 最後の悪あがきで大首領はコードに装備したあらゆる兵器を使うが、この形態には全くの無力。全ては塵へと還っていく。

 

「思い知れ、そしてその胸に刻め。お前の言葉は所詮、詭弁であると」

『おのれ……認めぬ。こんなことは認めぬぞぉぉぉ!!』

 

 容赦なく振り下ろした拳は巨大なガラクタの塔を破壊した。

 

 

 

「お、恐ろしい何かを見たのですョ」

 

 イス香が震えた声で言う。

 

「あー、その悪かった。ついプッツンしちゃって」

「あんなこと出来るならもっと早くからやれよ」

「いやこれ代償があるからよ。今はこの体のおかげで特になんとも無いが、初めて使った時は全身火傷で一週間ほど寝込んだからな?」

「そんなヤバいやつなのかよあれ」

 

 真尋が苦笑する。

 今はイス香の精神交換機の充電も終わり、ニャル子と真尋の精神はそれぞれ元の体に戻っている。

 

「ちっ、あのレーザー私が受けていれば真尋さんとワンチャンあったでしょうに……」

「何か言ったかニャル子?」

「いえ何も。しかしこれで一件落着ですねー。いやー今回も良いところがなかったですなー私」

 

 どこか恨めしそうに俺を見るニャル子。俺が全部片付けたことが不服なんだろうな。まぁ、本来ならこいつが解決すべきこと……なんだろうし。

 つい怒りで何も考えずに行動しちまったけど、また余計なことしちまったなこりゃ。

 

「悪かったって。埋め合わせとして好きなアニメグッズ買ってやるよ。真尋が」

「おい、なんで僕を巻き込む」

「え、ほんとですか! あ、でもそれなら真尋さんの愛を私にたっぷり注いでほしいというか」

「言ってろ。それよりクー子、大丈夫か?」

「あーもうなんでそこでクー子に行くんですか? 真尋さぁーん!」

 

 ニャル子の話を無視して真尋はクー子を気にかける。

 対するクー子はどこか上の空で呆然と立っていた。その目線は溶解したガラクタの塔に向けられている。

 

「クー子?」

「あ、うん。大丈夫。もう一人の少年が完璧に治してくれた。問題なくニャル子と子作りできる」

「なんでそこで私の名前が上がるんですか」

「……レーザーに打たれた私は愛する人と濃厚なキッスをする権限が与えられている」

「んなわけないでしょうが。脳味噌も一緒に焼かれたんですかあなた」

「……私にはニャル子が書いた誓約書がある。だからニャル子を好き勝手できる」

「どわー! そうだった! 忘れてました! ちょっと真尋さんどうにかしてくださいよ!」

「無理だな。諦めろ」

 

 どうやらクー子も元気なようだ。良かった良かった。

 

「クー子、ありがとうな。守ってくれて」

「……ううん、気にしないで」

「なぁ真逆、そいや大首領がお前のこと巫女だとかなんとか」

 

 うわ、まっず。そいや大首領のせいで身バレ寸前状態なんだった。すっかり忘れてた。

 

「あー、あれ? いや誰かと勘違いしてたんだろ」

「いや明らかにお前も反応してたろ」

「気のせい気のせい。それよりもイス香、その強硬派のイス動はどうするつもりなんだ?」

「話題逸らしやがった」

 

 いやだってまだ明かすわけにはいかないし。てか出来れば全ての事が終わって元に戻るまでは明かしたくないし。

 

「強硬派はワタシが責任持って未来に連行するですョ。大首領に騙されていたとはいえ、やることはやってしまってるのですョ」

 

 弁明の余地も無いと思っているのか、イス動が無言のまま顔を逸らす。

 コイツはコイツでやってはいけないことをしちまったが、多少同情するところはある。

 

「あとの処遇は穏健派のお偉いさんに任せるのですョ」

「そうか。暮井と余市は……」

「ちゃんとお返しするのですョ。ただこれまでのことについての記憶は消させてもらうのですョ」

 

 イス香の判断は正しい。あれだけのことがあったんだ。当人たちはその事を知らない方がいいだろう。

 

「それでは皆さんサヨナラなのですョ。それと真逆さん」

「おん?」

「正体はなんであれ、皆さんにとって真逆さんは真逆さんだと思うのですョ」

 

 こいつなんで急に。でもまあ、その言葉は素直に受け取っておくか。

 

「そうだな。達者でな」

「それと、やっぱりチート使ってたのですョ?」

「いやだからあれは人力で」

 

 俺が言い終わるよりも先にイス香は精神交換機のトリガーを引いた。

 すると光が天高くどこかへと飛んでいった。きっとあのまま未来の自分達の体に戻っていくのだろう。

 後に残されたのは、精神が交換されていた暮井珠緒と余市健彦の二人。どちらも寝息を立てて地面で眠っている。

 

「良かった。二人とも大丈夫みたいだな」

 

 特に問題が無さそうなのを確認して、真尋は胸を撫で下ろす。

 目まぐるしかった事件もこれでようやく幕を閉じる。

 ただ気掛かりなのは、俺の正体を未来にいる大首領に明かしたのは何者なのか。

 一応は破壊に際して介入される可能性も考えて《終焉に誘う火の巨人(スルト)》を使ったが、杞憂だったのだろうか。

 それとも今もどこかで俺たちの様子を伺っているのだろうか。

 どちらにせよ、あまり気持ちのいい話ではない。またどこかで今回みたいにそいつが邪魔してくるとも限らない。

 

「さて、じゃあ二人を家に送り届けてから帰るか」

「そうですね。帰ったら何します? 太もも太郎電鉄、通称桃鉄?」

「え、それ本当にあるのか?」

「え? ありますよ?」

「マジかよ。著作権どうなってんだそれ」

 

 だが相手がどんな奴だったとしても、コイツらは俺が守る。例え俺がどうなろうと絶対に。

 

「……行こう? もう一人の少年」

「ん? ああ、そうだな」

「……もう一人の少年も帰ったら桃鉄やる?」

「いや、それはちょっと遠慮したいかもしれない」

 

 それが俺に出来る唯一の、この世界への贖罪なのだから。

 

 

 

 

 

 

「おっと、そういえばメールをしませんとでした」

 

 ニャル子はふと集団から離れると携帯を取り出す。

 

「真尋さんの体にいた時は、万が一真尋さんに覚えられてしまったらてことで控えていましたからね」

 

 慣れた手つきでニャル子はメールの文面を書いていく。その内容は誰にも見られぬよう、特に八坂真尋に気づかれぬように素早く打ち込んでいる。

 

「これでよし、と。にしてもあの力、やはり真逆さんは只者じゃないですね。一体どんな経験を積んだらあんなことに……む?」

 

 不意に誰かの視線を感じ、ニャル子はハッと気配のした方に体を向けた。

 

「誰ですッ!」

 

 辺りを見回すが誰もいない。

 ここは住宅街のど真ん中。高いビルやそういったものは無い。屋根に人がいればすぐに目立つはずだ。

 

「ずっと誰かに見られているような」

 

 消えない視線。ニャル子の背筋に悪寒が走る。

 小首を傾げた時、遠くから「ニャル子ー!」と呼ぶ真尋の声が響いた。

 

「あ、はいはい! すみません今行きます!」

 

 ニャル子はすぐさま駆け出す。

 消えない視線に警戒心を募らせながらも、ニャル子は満面の笑顔で真尋の腕に抱きつく。

 余市を背負っているため真尋はバランスを崩して倒れそうになるが、なんとか持ち堪えて、返事の代わりにニャル子の脳天にフォークを突き刺した。

 ニャル子の悲鳴が児玉する中、その様子を遠くから眺めてほくそ笑む女の姿があった。

 今しがたニャル子が見ていた先の屋根の上に女は立っている。

 煌びやかな白銀の髪を風に靡かせて、まるで全てを見下したかのような目で女は視線の先にいる集団を見つめている。

 

「ほんっと、全くもって期待外れですね。もしかしたら巫女を抹殺できるかもと思っていたのですけど敵いませんでしたか。せっかく弱点とか色々教えてあげたというのに」

 

 女は腕を組み、人差し指を唇に当てる。その艶やかな仕草とは裏腹に、女の目にはドス黒く底知れない闇が宿っている。

 

「でもまあ、完全体になった私を止められる者は誰もいません。それはあの巫女とて同じ。私が覚醒するまで、せいぜいそうやって誰かを守るために力を使ってればいいですよ」

 

 女はクスクスと笑う。

 

「結果この世界はゆっくりとあなたという存在に侵食されていく」

 

 そんな女の顔は。

 

「そしてそれが私を完全体に導くトリガーとなるのですから」

 

 ニャル子の顔立ちに、或いは幻夢境で消滅したニャル美に瓜二つだった。

 

 




 ちょっと展開が早足すぎたかな? と思わないでもない作者の姉川です。
 まあその……大首領のあの長い台詞を書いても良かったんですけど、流石にちょっとどうかと思って割愛しました。ええ、これ裏話。

 ひとまずこれでイス香編は終了。次の章ではついに可愛い男の子の彼が登場します。真逆と彼がどんな関係を築くのかにご期待ください。
 そして彼が出てくるということは当然、真逆が体として使っているあのぬいぐるみを送った真尋の母も帰ってくるわけで。さてはて一体どんな展開になっていくのやら。

 原作ファンの皆様であれば、本来なら起こるべきイベントが起きていないこともお気づきのはず。
 そんなこんなのこの作品、一体どのような展開で進んでいくのか、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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