なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第三十話 トリオ勢揃いはじまりました!

 

 

「真尋は死んだ。平穏な日常が崩壊していくことに耐えられずSAN値がマイナスに振り切れたのだ」

「勝手に殺すな縁起でもない」

「だからってゼロフレームでナチュラルにフォーク刺さないでもらっていいですかね……?」

 

 頭にフォークが突き刺さっている真逆は無視して、とりあえず現状の整理をしよう。

 さっきは少し醜態を晒してしまったけど、今は落ち着いている。よし。

 今いるのは僕が暮らしている家だ。リビングの椅子に僕と母さんは隣り合って座り、その向かいには宇宙人三人を座らせている。

 昨日までは両親が旅行に出ていて、その代わりに二人の宇宙人が居座っていた。

 這い寄る混沌ことニャルラトホテプのニャル子。惑星保護機構という組織に所属している。ところ構わずやたら僕のこと好きと言ったり、僕によく分からない食い物を食わそうとしたり、色々としてくる厄介なやつだ。

 そういえば昨日僕の体で愛の告白をしたせいで、今日は案の定周りからの視線が痛かった。

 まあ今はそれは置いておいて、次に火の属性を持つ生ける炎、クトゥグアのクー子。

 ニャル子に好意を持ってるらしく、ところ構わず発情して時には直視できない行為にまで発展しそうになることもある厄介なやつだ。

 僕が初めて出会った時はニャル子と敵対関係にあったクー子だが、今はニャル子同様惑星保護機構で働いている。しばらくは二人とも地球の幻夢境の勤務になる予定らしい。

 

「おい真尋。なんか総集編みたいな構成で始まってないか?」

 

 さてそんな二人の関係者に僕は今朝偶然出会ってしまった。

 

「あ、マジで無視するんか。聞こえてるのに無視するんか」

 

 登校している道中でぶつかってしまった少女――ではなく男。名前をハス太というらしい。

 風属性の邪神ハスターらしいが、詳細はこれから語られるのだろう。多分。

 そんなハスターと話している時に声をかけてきたのが僕の母親だった。名前は八坂頼子。とても優しい自慢の母親だ。

 ここ数日毎年恒例となっている新婚旅行で留守にしていた母親に、その間に僕が何を体験したのか説明したところで今に至る。

 

「なるほどね。惑星保護機構。宇宙人。地球の娯楽をねぇ」

 

 三人との出会い頭に警戒心を顕にしていた母さんは、三人の顔を順に眺める。正確にはハスターは多分惑星保護機構とは無関係なんだろうけど、宇宙人という括りでいえば変わりはない。

 本来なら信じられないような話だけど、反応から察するに何かしらこちら側に関わっているのは明らかだ。

 

「息子さんを狙っていた連中は始末……もとい排除されましたが、また同じように狙ってくる輩がいないとも言い切れないので、引き続き私が護衛している次第です」

 

 ニャル子が珍しく真面目な説明口調で真面目なことを言う。どうやら母さんの前でいいところを見せたいらしい。

 

「……わたしはニャル子と一緒に地球の精神面を守りに。それと……」

 

 ふとクー子が言い淀んだ。視線が一瞬真逆の方に向けられているのに気がついて、何を言いかけたのかなんとなく察する。

 

「それとニャル子の貞操も守りに」

 

 いつもならこの発言に拒否反応を示したりしているが、ニャル子も一瞬のクー子の所作に気がついたのか特に何も言わなかった。

 代わりに怪訝そうな表情でクー子の顔色を伺っている。

 

「ふむん、なるほどね」

 

 どうやら母親も視線に気がついたのか、真逆の方に顔を向けた。

 それに釣られてかハスターの視線も真逆に向けられる。

 全員の視線が真逆に向けられている。

 

「え? なに? あれか、これが視姦てやつか? いやんえっち」

 

 対する真逆はアホだった。

 

「うん、まあこの子が特にあなた達を警戒している様子が無かったから無害なんだろうなーとは思っていたのよ? でも念のためにね」

 

 真逆を両手に乗っけて母親が微笑む。

 

「え? 母さん真逆のこと知ってたの?」

「そりゃ大切な息子の身に起きたことですもの。知ってて当然です」

 

 人差し指を立てて、澄ました顔で母さんは答える。

 真逆の存在を知っているのは初耳だった。両親がいる時に真逆は表に出てなかったはずだし、一体いつの間に面識が。というか。

 

「おい真逆。なんで母さんがお前のこと知ってるって黙ってたんだよ?」

「それはまあ」

「私がお願いしたのよ。私達がヒロくんと過ごしている時は極力表に出ないでね、ということと、私達が留守にしている間は守ってあげてねていうことも含めて」

「ん……まあそゆこと」

 

 なるほど。そういうことなら確かに合点はいく。僕にその記憶が無いのは、多分真逆が初めて僕の中に入った日のことだからだろうし。

 ただこいつ初めてナイトゴーントに襲われた時遊んでたんだけど、あれはどういう了見だったんだろうか。

 

「でも良かった。その体ちゃんと使えたみたいね」

「まあそれなりに。助かったよ。感謝してる」

「あれ? なんか我々、置いてきぼりされてません?」

 

 二人だけで進んでいく話にニャル子が思わず突っ込む。隣に座るクー子とハスターも頷いた。

 というかハスターに至っては完全に蚊帳の外で、序盤からだいぶ反応に困っている様子だ。少し不憫に思う。

 事実僕もついていけてなくて、何が何やらといった状況だし。

 

「でもまさか本当に邪神の素材で作るとは思わなかったけど」

「一応今回の狩りで素材は揃えられたからね。発案してくれた教授にも感謝しないと」

「いやほんと何者なんだよその教授……」

 

 勝手に話を進めていく二人に僕たちの目は点になる。そろそろ止めるべきだろうか。

 

「あの……母さん」

「うん?」

「その……狩りって?」

「あーうん。話せば長くなるんだけど、私アルバイトしてるのよ」

「アルバイト?」

 

 詳しく話を聞いてみるとあまりに頭が痛くなる内容だった。

 なんでもごく普通の高校生だった母親は、ごく普通の大学に入り、ごく普通のゼミに入ったそうな。ただゼミの教授が邪神ハンターだったということを除いて。

 教授には結婚した後にも狩りに誘われていたらしく、年に一回の新婚旅行に行っていたのも、そのための口実に近いものだったという。

 僕の体験も大概だけど、母さんの話もあまりに荒唐無稽な話だった。ご近所さんに話したら大多数が変な目で見るだろうくらいに。

 

「最初おかしいと思ったのよねー。『実戦民俗学』て書いてあって、『実践民俗学』の書き間違いじゃないかなぁて。でも入りたいゼミがもう埋まってたし、空いてるのがもうそれしか無くて」

「で入ってみたら文字通り実戦する民俗学だったっていうオチなわけだな」

「そゆことよヒロちゃん」

「だからその呼び方やめてくんないかな……」

「ちゃんと単位もくれたし、労働の対価として現金もくれたし」

「無視かい」

 

 どうやら母親は真逆のことを『ヒロちゃん』と呼んでいるらしい。

 真逆の名前が僕と同じだから分かりやすくするためなんだろうけど、なんだかこっちまでむず痒い気持ちになってしまう。

 

「改めてごめんなさいね。ヒロちゃんがあなたたちと普通に接している以上、そこは信用するべきだったわ」

「あ、いえ、そこは構わないのですが」

「……私も気にしてない」

「あ、えと、僕も気にしてないです」

「地球を守ってもらっている以上、私も協力を惜しまないわ。悪い子でもないみたいだし、ここを拠点にしてもらっても構いません」

 

 母さんの言葉にニャル子とクー子が顔を見合わせて花を咲かせる。と言ってもニャル子の花はすぐに萎れたんだけども。

 

「さて、じゃあ次はあなたのこと聞かせてもらえるかしら?」

 

 母さんはそう言ってハスターの方に顔を向けた。

 うちに用があるのはなんとなく察しているけど、なんの目的があるのかは不明なままだ。

 ここではっきりさせておかないと、後々面倒に巻き込まれても困るし。いや、まあ多分巻き込まれるとは思う。うん。

 

「そうですよハス太くん。確か年賀状でセラエノ図書館の司書に就職したと言っていませんでしたっけ? そんなあなたがどうして地球に」

 

 待ってましたと言わんばかりにニャル子が詰め寄る。話に入りづらくてヤキモキしてたんだろうなこいつ。

 てかこいつらの世界にも年賀状って文化があるのか。

 

「あ、うん。そうなんだけど……とーさまに戻ってこいて言われて」

「なるほど。お父様にですか。そりゃなんでまた」

「とーさまのお仕事手伝わなくちゃいけなくなって。それでね。地球へはとーさまに人捜しを頼まれて来たの」

「人捜し?」

 

 なんとなく察しがついたのか母親が問う。

 

「メモに名前が書いてあって、そこにはやさかよりこさんて書いてあって」

 

 言いながらハス太は母さんの顔を見る。

 ここへ来る前に自己紹介をしていたのもあり、捜し人が母さんだと気づいていたのだろう。

 

「つまりあなたのお父さんが探しているのは私なのね?」

「うん、多分。でも僕、なんの用があるのか詳しく聞いてなくって」

 

 萎縮したように身を縮こませてハス太は頭を下げる。

 なるほど。それもあってずっと居心地悪そうにしていたのか。

 

「お父様に電話で聞いてみるとかは出来ないのですか?」

「僕もそう思ってさっき掛けてみたんだけど、お仕事忙しいのか全然出なかったの」

 

 言われてみると家に来るまでの道中、落ち着きのない様子で電話をかけていた気がする。

 

「ふむ。こういう時は何かと訳知り顔をしている真逆さんにでも聞いてみますか!」

「訳知り顔て……いや俺も分からんぞ。ハス太の父親には会ったこともねぇし」

「ちっ、使えねー」

「なんで俺ディスられてんの?」

「ジョーダンですよジョーダン。本気にしないでください。でも目的が分からない以上、お母様を連れて行かせるわけにはいきませんし」

 

 真逆とニャル子の下らない掛け合いはともかく、確かに理由が分からない以上僕も母さんをハスターの父親の元に連れていくことは賛同できない。

 せめて何かしらヒントになりそうなものでもあればいいんだけど。

 

「母さんは何か心当たりは無いの?」

「心当たりと言われても……私、邪神ハンターと名乗れるほど強いわけでもないし。そのお父さんとも多分面識はないだろうし」

「本当ですか? 実はハス太くんのお父様との間に生まれたのが真尋さんてことも」

「へぇ、面白いこと言うのねニャル子さん?」

「あ、いえ、なんでもないです。悪い冗談でした。すんません」

 

 僕よりも先に母さんがフォークをちらつかせる。

 こいつたまにデリカシーの無いこと言うよな、うん。今のは本人を前にして口にする発言じゃない流石に。

 

「後でもう一度とーさまに掛けてみる。繋がるかはわからないけど」

「そうね。私も理由を聞いてみたいところだし、お願いしようかしら。とりあえず今日はうちに泊まっていって頂戴。もしかしたら君のお父さんの方から連絡があるかもだし」

「え? いいの?」

「うん! もちのロンよ!」

 

 母さんはそう言って人差し指を立てながらウィンクをする。本当に僕はこの人の息子なんだろうかと一瞬疑ってしまうくらいには、若々しくそれでいて違和感のない仕草だった。

 

「さてと。じゃあお待ちかね。ずっと我慢していたムスコニウムの補給をしないと!」

 

 そして切り替えも早かった。

 

「せめて人前ではやめてって言ってるじゃんか母さん」

 

 母親に抱きつかれながら、取り立てて貰えないと分かっていても抗議する。顔が熱い。

 

「ムスコニウム……?」

 

 聞き慣れぬ単語にニャル子が小首を傾げた。

 ムスコニウム。なんでも僕を抱擁すると生成される謎の元素らしい。これが不足すると母さんは本調子にならないんだとかなんとか。

 毎年旅行の後の出会い頭に必ず行われる儀式なのだが、再会して早々色々あったからか後回しにしていたらしい。

 それを説明するとニャル子は腕を組んで「ふむ」と僕をまじまじと見る。

 

「なんだよ?」

「お母様。私にもその栄養素を頂けないでしょうか?」

「ぼ、僕もその……真尋くんのその……まひろくんニウムが欲しい」

 

 なんだろう。ハスターの言うそれは何か別の意味に聞こえてしまうのは気のせいだろうか。

 というかなんで挙って僕を求めようとするのか。

 

「よ! モテ男! 隅に置けないねぇ! 両腕に世界を包んでる!」

「お前は何が言いたいんだ真逆」

「いやなんとなく掛け声をしようと」

 

 頭が痛くなって来た。

 このタイミングで事件なんて起こってみろ。僕はもれなく発狂するか顔がムンクの叫びになるぞ。

 

「……少年のお母さん。さっきから私の心のアンテナが反応しているあれはなに?」

 

 ふとクー子が指を差しながら問いかけた。ソファ前に置かれたテーブル。その上には何やら箱が置かれている。またか。

 

「母さん、まさか……」

「ふふふ、そのまさかよ。お・み・や・げ」

 

 語尾にハートマークがついていそうな仕草と口調で言うと、母さんは立ち上がってその箱へと向かった。

 

「ジャーン! 今年はこれ、レーザーアクティブ!」

 

 母さんは毎年お土産にレトロゲーム機を買ってくる。

 家に所狭しと置かれているゲーム機も、母さんが旅行のお土産として買ってきた物が殆どだ。

 

「うわ、こんな如何にも古そうなのよく見つけたな。しかも箱綺麗だし。これまさか新品?」

「流石ご明察。その通りよヒロちゃん」

「だから……いやもう諦めてるけどさ」

 

 にしても真逆と母さん思っていたよりも仲良いな。もしかして知らない間に交流とかしていたんだろうか。考えられるとすれば僕が寝ている時とか。

 

「よくもまあこんなもんを見つけてくるなぁ。新品てことは高かったんじゃないのか?」

「それが聞いてよ! なんと新品で五万円だったの! 安くない!?」

「それはまあ確かに安いかもだけど」

「しかもしかも! ちゃんと周辺機器も新品で置いてあってね! これ含めて五万円なのよ! もうね、ひとつなぎのお宝でも発見しちゃった気分よ!」

「あ、うん、そう。それは良かったデスネ」

 

 どうやらあの真逆でも全然話についていけていないらしい。

 クー子はその辺詳しいのか、隣で指を咥えながら「すごい。やりたい」と呟いているが。

 

「てわけで、部屋に持っていって遊んでもいいわよ? ヒロくん」

「うぇ? ああ、うん」

 

 急に話を振られて困惑する。一瞬だけ妙な違和感があった。多分真逆との呼び分けに慣れていないせいだろう。

 

「……もう一人の少年、一緒にやろう?」

「え、いや、俺今日はあれの続きやりたいんだけど」

 

 深い知識があるわけでもないからか、流石の真逆もレトロゲームにはそこまで興味を惹かれていない様子だ。或いは一昨日買ってあげたゲームの続きをやりたいていうのもあるんだろうか。だいぶ気に入ってたみたいだし。

 

「……くすん、じゃあ一人で寂しく孤独のゲームする」

「ったくもう分かったよ。少しだけな」

「……もう一人の少年のそういうところ好き」

 

 こいつらの会話はどっちかというと兄妹とかそういうのに近い気がする。

 さて、とりあえず話はひと段落したか。なんかもう話がごちゃごちゃしてて、結局のところ分かったことは母さんが邪神ハンターのアルバイトをしているということくらいだったけど。

 でもまあこれはこれで平和ではあるし。毎日毎日事件が起きていたら身も精神も保たないし、このまま何事もなければ。

 

「真尋さん真尋さん。少し内緒のお話が」

「んだよニャル子」

「いや、感傷に浸っているところ悪いですが、これ見てください」

「これ?」

 

 ニャル子の顔から彼女が指差すものに視線を移す。

 ニャル子の異様に長い癖っ毛がピンと天井に向けて直立している。どういう原理なんだろうかこれは。

 

「なんだっけそれ。邪神レーダーだっけ?」

「いえ、今回はフラグレーダーです」

 

 よし聞かなかったことにして無視しよう。

 

「ああ! ちょっと待ってくださいよ真尋さん!」

「どうせ何かのフラグを検知とか訳のわからんこと言うんだろ。付き合ってられるかよ」

「そう言わずにちょっと私の話を聞いてくださいよ!」

 

 ニャル子の叫びに視線が集まる。こいつさっきわざわざ囁いて来ていたのに、これでは内緒話も何もないと思うのだが。

 

「いいですか真尋さん。これが立っているということは誰かと誰かの間にフラグが立ったということです」

「んだよ。僕とお前の間にフラグが立ったとか言うつもりかよ」

「それはもう最初から立ってるじゃないですか」

「へし折っていいか?」

「ど、どうしてそんな冷たいことさらっと言えるんですか真尋さん」

 

 だってこいつあのニャルラトホテプだしな。もし恋人にでもなったら最終的に悲惨な結末を迎えそうだし。

 

「くっ、やはり本来あるべきイベントが起こらないとぶつぶつ」

「んで、何がなんだって?」

「ですから、誰かと誰かの間に」

「その誰かと誰かって誰なんだよ?」

「ズバリ!」

「ズバリ?」

「…………」

「…………?」

「さあ?」

「……お前晩御飯抜きな」

「ちょ、そんな! どうか御慈悲を!」

 

 直立していた癖毛も萎れ、ニャル子は涙目で訴えかける。

 真剣に聞いてやって損した気分だ。やはりコイツと話すと少し疲れる。まあ嫌というわけではないけど。

 

「二人は何を盛り上がっていたの?」

 

 僕たちの様子を眺めていたハス太が首を傾げながら問いかけた。その時だった。

 

「むっ!?」

 

 またもニャル子の癖毛が直立し、天井を貫きそうな程一直線になった。

 

「今度はなんだよ」

 

 またも変なレーダーが発動したのか。そう思っていたのも束の間、家のチャイムが鳴り響いた。

 タイミングからして嫌な予感がする。

 

「はいはーい。何か荷物でも頼んだかしら?」

 

 家主である母さんが率先して玄関先に向かっていく。

 マズイ。そう本能が告げている。

 

「母さん! 待って!」

 

 呼びかけるが、すでに玄関に向かっている母さんの足を止めるには至らない。

 ニャル子に顔を向ける。頷いているあたり、どうやらやはり邪神レーダーによる反応らしい。

 いよいよもって焦りが出始める。

 

「母さん! 開けちゃダメだ!」

 

 しかし呼び止めも虚しく、母さんは玄関の扉を開いてしまった。

 たまに人の話を聞かない時があったけど、なんでよりにもよってこんな時に。と愚痴が漏れそうになる。

 

「あなたが八坂、頼子さん……とお見受けしますが?」

「あ、はい。そうですけど」

「フフフ……それは重畳……!」

 

 玄関越しに怪しげな格好をした女が立っていた。

 

 

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