なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第三十一話 アイ・ニード・ユー

 

「母さん! 開けちゃダメだ!」

 

 真尋の叫びも虚しく、真尋の母親頼子は玄関の扉を開けた。

 玄関先に立っていたのは修道服にも似た黒い外套を着た人物。見てくれだけでも怪しさ満点のそいつは、口元に薄ら笑いを浮かべている。

 それに人払いのための結界が張られているのも感じる。まさかこいつが昨日俺の邪魔をしてきたやつか?

 いや多分違う。もし俺と敵対関係があるやつなら、極力姿を隠して行動するはずだ。じゃないと俺が即座に問答無用でぶっ潰すし。

 この身の小ささを生かしてこっそりと気配を消しながら近づき、顔を見上げてみる。

 女だ。髪は緑色で顔立ちから見積もれる年齢は真尋の母に近しい一方、纏っている唯ならぬオーラが人間ではないと直感させる。

 けど俺の記憶には該当する人物も類似する人物もないし……こいつは一体誰なんだ?

 

「あなたが八坂、頼子さん……とお見受けしますが?」

「はい、そうですけど……?」

「フフフ……それは重畳……!」

 

 聞いてみた感じ、目当ては真尋の母さんか。でもなんで真尋の母親と接触しようとしてんだ?

 あれか。ハス太の父親と同じ理由だったりするのか?

 

「全員! そこを動くな!」

 

 女が叫ぶ。

 特に拘束しているわけではないが、その一言はニャル子たちの動きを止めるのに十分だった。

 拳を握りながらその場に固まる面々を見て、女はまたほくそ笑む。

 

「それでいいのよ、それで」

「くそ! お前母さんをどうするつもりだ!」

「別に取って食おうてわけじゃないわ。危害を加えるつもりもない。ただこのご婦人には我々に同行し協力してもらいたいだけ。ここにいるということは、あなたもそうなんでしょう? ハスター」

「えっ?」

 

 突然の名指しに困惑するハス太。

 動揺を隠せない真尋もハス太の方に顔を向けて、よもやといった表情を見せる。

 

「ハス太、まさかお前最初から」

「ち、違くて! ぼく、なんのことだか!」

「あくまで惚けるつもりなのね。まあいいわ。宇宙の覇権は我々が頂く、ただそれだけよ」

「宇宙の覇権ねぇ」

 

 女はふと俺の方に視線を向けると、真尋の母親を抱き抱えて向かいの家の屋根に飛び乗った。

 しまったな。あまりに大層な言葉を口にするもんだからつい我慢出来なかった。

 慌てて全員外に出ると、変わった空模様が広がっている。やはり感覚に狂いはなく、結界が張られていた。

 

「おいお前ら、早くなんとかしろよ!」

「なんとかしたいところですが、向こうにお母様がいる以上、下手に手出しが出来ません」

「……ニャル子に同じく」

「クソ……っ!」

 

 二人の返答に真尋が歯噛みする。明らかに冷静さを失っている様子だ。親に危機が迫っているのだから当然の反応なのだが。

 親の危機か。親の危機……?

 

「どうやらお前たちもこのご婦人に目をつけたようだけど、残念ながら我々が先に確保させてもらうわ。ハスターの陣営に渡すわけにはいかないもの」

「あのー、ごめんなさい。あなた私のこと狙っているみたいだけど、一体なんの得があるのかしら?」

 

 真尋の母が問いかける。これまた当然の疑問だ。

 

「ご婦人、あなたはご自分の価値をわかっておいでではない。あなたを引き入れたものが、宇宙の覇権を握れるというのに」

 

 またそれだ。女の話を聞いている限り、真尋の母は宇宙の覇権とやらを握る鍵になる人物らしい。

 あまりにスケールのデカい話だが、それは真尋の母も同じ思いだろう。自分のどこにそれほどの価値があるのか疑問視している様子だ。

 

「うーん、私そんなにすごくないんだけど。それよりもヒロ君の方がずっとすごいのよ」

 

 突然の息子自慢が始まる。やれ可愛いだの、色々こなしちゃうだの、可愛いだの。なんか可愛い二回言ってたけど、とりあえず自分の息子は凄いんだぞアピールをする。

 それを聞いても怪しげな女は眉をピクリともさせていないあたり、真尋の母にしか興味がないらしい。

 

「それにあそこにいるヒロちゃんだってすごいのよ?」

 

 急に対象が俺に変わり面食らう。もし本来の体だったり、真尋の体を使っていたりしたら赤面していたかもしれない。

 

「……もうひとりの少年、顔が赤い」

「え、嘘」

「……うん、嘘」

「……んだよ」

 

 隙あらばたまに弄ってくるクー子である。

 今はそれどころじゃないんだから、こんな時くらい大人しくしててほしいところなんだが。

 

「これを聞いてもまだそんなことが言えますか? ご婦人」

 

 怪しげな女はふと何かを真尋の母に耳打ちする。いつもの体なら聞こえているのだろうが、この体でこの距離は上手く聞き取れないらしい。

 真尋の母が驚いたように少し目を見開き、女の顔をしばし見つめた。そしてひとつ頷くとこちらに向き微かに笑った。

 

「ごめんねーヒロ君。私やっぱり行かないといけないみたい」

「は……? はぁ!? いやどうしてそうなるの母さん!」

「だってだってぇ、確かにこれは私にぴったりだと思うのー」

 

 女が何を吹き込んだのか、母親の発言にわけがわからないと真尋が声を上げる。

 対する母親は特に聞く耳を持たず。女に同行するつもりのようだ。

 ふむ。真尋の母自身も認めるぴったりなことねぇ。あの口振りからして邪神ハンター案件でないだろうと仮定して、じゃあ他に何かあるだろうか。

 

「これで両者合意の上ね? ならば子供達がどうというものでもないわ」

 

 女は勝ち誇ったかのように鼻を鳴らしつつ、上から目線で物を言う。

 真尋の母親にぴったりなこと。ぴったりなことねぇ。ぴったり……ぴったん……ぴったんぴったんたもじぴったん。あっ。

 

「くそ! 一体何がなんだか!」

「あー真尋。俺、あの女の目的が分かったかもしれない」

「……えっ?」

 

 俺の発言が思いも寄らなかったのか、真尋が唖然とした表情でこちらを向く。

 

「分かったのか?」

「ちょ、真逆さん。それは急展開すぎますよ。大丈夫です? 世界から消されません?」

「えっ、まだ答え言わない方がいいのこれ? 言ったら俺消されるの? じゃあやめようかな」

「いやお前ボケるか真面目にやるかどっちかにしろよ」

 

 だってまだ消えるわけにはいかないし。てか消えたくないし。

 でも多分答えこれだよなぁ。だってこれまでの流れとか、あと真尋の母の趣味とかその辺考慮したらほぼほぼこれだと思うんだよなぁ。

 

「フフ、所詮ただのこけおどしよ」

「お前さぁ、多分宇宙でゲーボボボボーボボーボボ」

 

 突然空から滝のような水流が降り注ぐ。俺の台詞はそのせいでどこかで聞いたことのあるフレーズに変えられてしまった。

 あまりに早い反応。俺でなきゃ見逃してるところだ。

 

「クー子……お前……」

 

 原因はそう。クー子にもあった。

 俺の頭上に突如現れた氷の塊をクー子が秒で溶かした。その結果空中から降り注ぐ滝が生まれ、俺は水浸しになったというわけだ。

 こいつの火力なら蒸発させることもできるだろうに、さてはわざとだな?

 

「……ごめんなさいもう一人の少年。濡れスケが見えると思って」

「クー子さん? 俺の体がぬいぐるみだってこと理解してます?」

 

 そもそも俺の貧相な体で濡れスケとか誰得だよ。

 

「……そういう需要もある」

「いや無いだろ」

 

 おかげさまで体が水を吸ってすごく重いわけで。つーかマジ重い。一部邪神の素材で作られてるらしいのに、なんでこういうところはぬいぐるみなんだよ。

 

「フフフ、命拾いしたわね」

「ほら言ったじゃないですか真逆さん。歴史の修正によって消されても知りませんよ?」

 

 それを言ったら俺がまだここに存在してる時点でその歴史の修正とやらが働いていない証拠になるんだよなぁ。いや、黙ってるけど。

 

「悪いけどー、次あの子たちに手を出したら協力はしないからー」

「あ、うっ……すみませんご婦人。つい反射的に」

 

 反射的に息の根を止めようとするとは、相当都合の悪い話だったんだろうか。

 

「それでどうやってその場所に行くのかしら? もしかしてあれかしら。モドリ玉的なのがあるのかしら?」

「まあ端的に言えばそうですね。それよりもう一人協力を要請したい者がいまして」

 

 女がそう言って懐から取り出したのは銀色に輝く長方形の何か。人差し指と中指で摘んだそれを、こちらの方に投擲した。

 

「受け取りなさい! 女王(クイーン)!」

 

 銀色の何かは真っ直ぐに失速することなくトップスピードで飛んだ。

 

「これは……?」

 

 標的はクー子だった。

 クー子は銀色の何かを受け取ると、まじまじとそれを見つめて硬直する。心なしか顔も強張っている。

 

「ちょっとあんた何警戒心もなく受け取ってんですか! 私に見せなさないよ」

 

 覗き込もうとしてニャル子はすぐに舌打ちした。

 

「これ正面からじゃないと認識できない特殊な加工がされてるじゃないですか。ほんのちょっとコンマ単位で角度が違っても見えないとかいうなまらヤベー加工ですよこれ。ちなみに人間が見るとおかしな物が書いてあろうと無かろうと何故かSAN値が減るというおまけ付きです」

「なんだその取ってつけたようなおまけは」

 

 思わず真尋と声を揃える。

 

「ていうかそんなことよりクー子! あんた早くそれを――」

「……ごめんなさい、ニャル子。私も行かないといけないみたい」

「はぁ!? あんたまで何言ってんですか。まさかその紙に洗脳する効果でも」

「……ニャル子から離れるのは凄く不本意でニャル子ニウム欠便症になるかもしれないから不安だけど、私は約束の地に行かないといけないの。ニャル子と約束の地でランデブーするのもドラマチックでエキセントリック」

「あーはい、いいです。その発言で洗脳されていないのは分かりましたからあまり近づかないでもらえます?」

 

 クー子に掴みかかって問答していたニャル子だったが、少しだけ距離を取る。顔を引き攣っているあたり貞操の危機を感じたらしい。

 それよりも女の協力対象がクー子にも及んでいるということは、これはもう確定だろう。

 うん、安心した。今回は大事件じゃないみたいだ。真尋の母さんの命の危機かと思ったけど、どうやら杞憂らしい。俺が放っておいても解決すると思う。

 いや、一応変な介入がないか警戒はするけど。

 とりあえず俺は真尋たちと行動を共にして成り行きを――。

 

「あー、クー子? お前なんで俺を持ち上げてんの?」

「……もう一人少年はこっち」

「はい?」

「……もう一人の少年も私と少年のお母さんと一緒に行く」

 

 え? なんで?

 

「え? なんで?」

 

 心の声と口から出た言葉が完全に一致する。

 いやまあ確かに俺も多少興味あるけど、それはそれであって別に実際に見てみたいわけでもないし。

 

「……その方が面白そうだから」

「いやいやいや。そんな理由でおいそれと真尋から離れるわけには」

「……ちなみにもう一人の少年に拒否権はない」

「だろうと思ったよ畜生ッ!」

 

 虚しく叫び声が響く。思わず声が裏返っちゃって恥ずかしいったらない。

 いつの間にやらクー子は女の横に降り立ち、眼下にいる真尋たちを見下ろしていた。

 恐ろしく早い移動。俺ですら見落とすとは。てそんなことはどうでもよくて。

 

「えっ? マジで行くの? 俺も?」

 

 思わず俺は女の方に顔を向けた。果たしてどんな表情をしているのだろうかという興味本位が大半を占めたまま。

 

「えーと、女王(クイーン)。あまり部外者は立ち入らせたくないのだけど」

「……大丈夫。もう一人の少年はきっと役に立つ。私の第六感(サイドエフェクト)がそう言ってる」

「そ、そう……」

 

 女は気まずそうな目をこちらに向けてくる。

 とりあえずそんな目をされても俺は何もできないぞ。と首を横に振って返した。

 

「おいニャル子! これはどうなってるんだよ! 真逆は別にいいとして」

「俺は別にいいんかい」

「なんでクー子まで! なんとかしろよ!」

「そして無視かい」

 

 最近ほんと俺の扱いがぞんざいだよな。いや別にいいんだけどさ。寂しくないけどさ。寂しく……ないけどさ?

 

「と言われましても、真逆さんまで加わったら戦力差がさすがに……」

 

 引き攣った笑いを浮かべながらニャル子は俺に視線を向ける。あいつ的に一番の厄介は俺だと考えているらしい。

 まあさすがに今回は戦いに参加するつもりは無いから安心してほしいと目配せしてみる。あと仮に何かあっても俺がなんとかするしという意味合いも込めて――みたけど人間の体じゃなくてぬいぐるみだから多分伝わらないよなこれ。

 

「とにかく、これでもうここに用はないわ。早く行きましょう」

 

 女がそう言うと何処からかともなく球状のものを取り出した。それを地面に叩きつけると忽ち緑色の煙が周囲を包み込んでいく。どこかで見たことのある代物だ。

 しばらく煙を眺めていると、不意に強烈な眠気に襲われた。何度かすでに経験しているものと同じ感覚だ。

 真尋から離れる影響かそれとも別の何かか。原因を探る余裕もなく意識を手放した。

 

 

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