なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第三十四話 恋する風、だれが八坂真尋の命を救ったのか

 

 

 よし、まずは状況の整理をしよう。

 さっきまで僕は気を失っていた。幸いにも五体満足で生きている。

 周囲を見渡してみる。見覚えのある景色。ハイドラちゃんの攻撃で海に放り出されながらも無事ルルイエに漂着したらしい。

 ニャル子とハス太の姿は見当たらない。その代わりに小さな銀色の球体が浮遊している。これはロボット?

 近くにいることからこのロボットに助けられたということだろうか。

 

『状況の理解ご苦労様。少しは落ち着いたかしら?』

 

 ロボットのスピーカーから聞き覚えのある声が響く。口調や雰囲気が違うがその声音はニャル子に似ている。もしかしてあいつが用意した凄い技術で作られたロボットなのだろうか。

 

『本来なら私の本体が解決策を完成させるまで静観しているつもりだったのだけど、まあ状況が状況だから仕方ないか』

 

 違う。このロボットはニャル子が関わっている物じゃない。それははっきりと理解できた。

 

『で、いつまで黙っているのかしら? 幾ら超高性能なAIとはいえそう黙りこくられると対応しづらいのだけど』

「……お前、真逆の関係者か?」

 

 単刀直入に聞く。そうとしか考えられなかった。

 質問に対し銀色の球体ロボットは円を描くようにして飛ぶと、クイズ番組とかでよくある音を鳴らした。その動作いるだろうか。

 

『正解。と言っても正確には人間じゃなくて超高性能で非の打ち所がないスーパーウルトラAIちゃんなのだけど』

 

 あまりに傲慢な発言に呆れる。なんというか、こういう所はニャル子に似ているかもしれない。

 

「お前が助けてくれたのか?」

『正解。本来あなたの身を守るべき物質がヒロの中にあるみたいだし。だからまあ不本意ながらも助けてあげたというわけ。感謝なさい。これは一つ貸しだから、いずれ倍にして返してもらう』

 

 あといちいち余計な一言が多い気がする。なんとなく喧嘩腰というか。こういう所も少し似ている気がする。

 

「まひろくーん!」

 

 少し遠くから僕を呼ぶ声が響いてきた。聞いた感じハス太が僕を探しているようだ。

 

『と、そろそろ時間切れみたい。悪いけど私に関する情報は口に出せないよう、呼吸確保ついでにちょっとあなたの体を弄らせてもらったから。ただの意識操作みたいなものだから害はないし普通に生活もできる。安心なさい。それじゃ』

 

 次の質問を投げかける暇もなくロボットの姿が忽然と消えた。それと入れ替わりになるようにハス太が側に駆け寄ってくる。

 

「まひろくん! よかった無事だったんだね!」

「あ、ああ……」

 

 あまりに嵐のような突然の出来事に呆然とする。時間の流れるままに事が進んでいって肝心なところまで理解できていない。

 分かっているのはあのロボットが真逆の関係者によるものだということだけ。口振りから僕を助けるために姿を現したようだが、それ以外に関わるつもりはないようだ。

 

「まひろくん? ぼーっとしてどうしたの?」

 

 あまりに虚空を見つめていたからかハス太が心配したように顔を覗き込む。距離が近い。

 

「実はさっき――」

 

 真逆の関係者が助けてくれて。そう言おうとしたが上手く言葉に出せない。ロボットの言っていたことが本当なのか、それとも思考が追いつかなくて言葉を紡げないのか。どちらにせよ今言うべきことではないという思考が働き、僕は被りを振った。

 

「ああ、いやなんでもない」

「うん?」

「それよりここって」

 

 気持ちを整理するためにもう一度周りの景色を見てみる。今いる場所がどのあたりかは分からないが、遠くに見える建造物からルルイエであることが伺える。

 

「うん。どうやらなんとかルルイエに着いたみたい」

 

 ハス太の発言からも認識違いでないことが確約される。

 

「でもほんとうによかった。まひろくんが無事で……」

「その、心配かけたみたいだな」

「気がついたらぼくしかいなくて、もしかしてまひろくん死んじゃったんじゃないかって思ったら不安で」

 

 今にも泣きそうな声と表情でハス太が言う。よっぽど心配してくれていたらしい。

 とりあえず安心させるために優しく頭を撫でる。するとハス太は目を細めてゆっくりと僕の顔に、いや多分この感じは僕の唇に、

 

「ておい、それは幾らなんでもおかしいだろ!」

 

 慌てて近づいてくるハス太を引き剥がして距離を取る。

 

「ああ! そんな……なんかいい雰囲気だし、せっかくだからまひろくんにぼくの初めて貰ってもらおうと思ったのに」

「いやその理屈はおかしい」

 

 なにがせっかくだからなのだろうか。そもそもハス太って男だよな?

 

「お前……海水のせいで体が冷えて熱でもあるのか?」

「へ、平熱だもん!」

 

 それにしては顔が赤い気がする。いや待てもしかしてそういうことなのか?

 ようやく頭がまともに回り始める。状況から察するに、ハス太はどうやら僕に好意を抱いているらしい。一体どのタイミングでその好意を抱いたのかは分からないけど、ともあれこのままだとマズいことは確かだ。

 

「ぼく……まひろくんと合体したい」

 

 あまりに脈絡のないニャル子みたいな発言に内心頭を抱える。

 

「待て待て。僕たち男同士だよな?」

「恋愛にルールなんてないんだよっ! たまたまぼくが好きになったひとが、たまたま男のひとだっただけだもんっ!」

 

 そう詰め寄られても。そもそも僕とハス太は今朝方会ったばかりの関係で、あまりに早すぎる展開というか。

 そういえばニャル子のやつも僕のことを一目惚れしたとか言っていたし、というかそれなりに時間が経っているのにニャル子が来る気配がまったく無いというか。

 

「な、なあそれよりニャル子はどうしたんだ? あいつの姿がないけど」

 

 取り敢えず話を逸らそうとした時、ぴたりとハス太が固まった。なにかよくない雰囲気を感じる。これはあれか。修羅場ってやつか?

 

「まひろくんはニャル子ちゃんのこと好きなの?」

「えっ? ああいやそういうわけじゃなくて。ほら姿がないとそれはそれで心配だろ?」

「でもキス……してたよね?」

「いやあれはあいつが勝手にやっただけで!」

「でもいやじゃなかったんだよね?」

「それは……」

 

 否定しようとして口を閉ざす。嫌だったと言えば嘘になる。実際少し受け入れそうになった。けどあれは母さんのことで気が動転していたからであって、冷静な今起ころうものなら全力で拒否する。そう拒否する。

 

「ぼく……こんなにもまひろくんのことが好きなのに……」

 

 遂には涙まで浮かべ始めた。

 こんな時真逆がいたらどうするだろう。きっとこの状況をより厄介な方向に持っていったに違いない。あいつがいなくて良かった。

 とにかく今は一刻もはやくこの状況から脱しなければならない。幾ら真逆が側にいるとはいえ、こうしてる間にも母さんの身に危機が迫っているかもしれない。

 

「あー、えーと」

 

 どうにかしないと。そう思った時ふと前に読んだ本の記述が脳裏を過ぎった。

 

「そうだハス太。だったらこうしよう」

「ふぇ?」

「前に読んだ本に書いてあったんだけどさ。天文学の話だと、この世界のものはみんな二千五百万年周期で動いているらしいんだ。つまり、二千五百万年経つと今とまったく同じ状態になるってことだ」

「えっ、そうなの?」

「うん、そうなの。だからさ、今のお前の僕を好きだって気持ちが、もしも二千五百万年後にも変わらないでいたら、その時はお前を受け入れてやってもいい」

「ほんとっ?」

「ああ。だからさ、今は我慢して一緒にニャル子を探して、それから母さんのところに行こう」

「う、うんっ! わかったやくそくだよ!」

「ああ、約束だ」

 

 よし。なんとか今はこの場を切り抜けられそうだ。実際そんなことにはならないだろうし、きっと大丈夫だ。

 

「じゃあ、ゆびきりしよっ」

「えっ? ああ、指切りね。うん」

「ゆーびきーりげーんまーん」

 

 そっと差し出されたハス太の小指に自分の小指を絡めつつ、言い様のない不安を募らせる。よくよく考えたらコイツも宇宙人なんだよな、こんな可愛らしい見た目をしているけど。

 

「うーそつーいたーら、ハリ湖のお水千杯のーます」

 

 その最後の物騒なフレーズを付け足さないでもらえるだろうか。などと思っているとハス太の小指が離れる。果たして指切って良かったのだろうかと多少の不安はあるけど、とにかくこれで問題なく行動ができるはず。

 

「それでニャル子がどこにいるのか分かるのか?」

「うん。あっちの方からニャル子ちゃんの匂いがしてるから」

 

 匂い。どうやらハス太は嗅覚が鋭いらしい。

 試しに僕もその匂いとやらを探ってみる。が特にこれといったものは感じられない。ニャル子の邪神レーダーみたいな特殊な検知機能なのかもしれない。

 

「そうか。じゃあ案内してくれるか?」

「うんっ。こっちだよ!」

 

 駆け出すハス太の後を追って僕も走り出す。

 

「どのくらい離れてるんだ?」

「そんなに遠くは……んっ、あたらしい匂い? これクー子ちゃんのだよ」

「なんだって?」

 

 そういえばクー子のやつ母さんたちと一緒にいるんだったな。ともなれば匂いがするのも当然か。

 

「どこにいるんだ?」

「ニャル子ちゃんといっしょにいるみたい」

 

 まずいな。あの二人のことだ、どうせバチバチにやり合うに違いない。

 クー子はともかく、ニャル子の方は亡き者にしようと本気で掛かる可能性がある。早く合流しないと取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

「急ぐぞ!」

「う、うんっ」

 

 しばらくハス太の後を追って走っていると開けた場所に出た。

 何かの広場みたいな場所に二つの影がある。まだ僅かに距離があるが、僕の目はそれをニャル子とクー子の二人だとはっきり捉えた。

 

「ニャル子! クー子!」

 

 今にもぶつかりそうな二人を制止するために叫ぶ。

 声に気づいた二人はこっちに顔を向けた。ニャル子が少し安心したような表情を浮かべている。

 

「真尋さん、ご無事でしたか。あの状況ではぐれてしまったので心配していたんですよ?」

 

 そう思うなら探すなりしてくれても良かったのではないだろうかと思わないでもない。

 あるいは無事なことを確信していたから一人で行動したのか。どちらにせよこれで無事合流できた。

 

「けどあれで無事でいるとは、さすがは私の未来の夫です」

「誰が未来の夫だ誰が」

 

 謎のロボットに助けられたと言い掛けたが、ニャル子の『未来の夫』というありもしないワードに反応してしまった。言いそびれたし、別にわざわざ口にすることでもないだろう。

 

「……少年。服を乾かさないと風邪をひく」

 

 ふとクー子がそんなことを言って人差し指をこちらに向けた。すると何か温かいものに包まれていく。あっという間に濡れていた衣服が乾き、体が軽くなった。

 

「ああ、えと、ありがとう」

 

 一応礼を言っておく。

 

「……ん」

 

 対しクー子が無表情のまま微かに頷いた。どことなく嬉しそうにしている気がする。

 

「真尋さん、先に行っててもらえますか? 私はちょっとクー子と拳で語り合うと書いて話し合いがありますので」

「は? いやちょっと待て」

 

 二人の衝突を避けるために来た僕はたまらず反論する。が聞く耳持たずといった様子のニャル子はハス太の方に顔を向けた。

 

「ハスター君。真尋さんのお母様の匂い辿れますよね?」

「う、うん、たぶん」

「待てよ。僕らだけじゃ」

「大丈夫です。もっとも厄介なのは目の前にいるこの女ですので。それ以外ならハスター君で十分のはずです」

 

 不安を口にすれば一緒に来るだろうと思ったが、どうやら何か固い意志があるようで梃子でも動かない様子だ。こうなれば僕ではどうすることもできない。きっと避けられない戦いなのだろう。

 だからせめてどちらか一方だけにならないように言葉を残しておこう。そう思った。

 

「分かった。けどこれだけは聞いてくれ」

「どうしましたか?」

「……なに?」

 

 ひとつ深呼吸して言う。

 

「母さんのコロッケは……僕が作る料理よりずっとおいしいぞ。だからさ、その……もう遅いし、こんなことさっさと終わらせて帰って、一緒に晩御飯を食べるぞ」

 

 やがて二人は親指を立ててこちらに見せる。

 

「ハス太、いくぞ。母さんはどっちだ?」

「あ、えっとね。たぶんこっち」

 

 その仕草に背中を押され、僕は二人の無事を祈りながら走り出す。

 しばらくしてから少しだけ気になり、走りながら背後を見た。もう二人の姿は遠くなりもう判別できなくなっている。

 その代わり微かにニャル子のこんな声が聞こえた気がした。「真逆さんについて少しだけお話しましょうか」――と。

 

 

 

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