なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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 ついに真逆の正体が明かされます。と言っても本人の口から出るわけではないですが。
 元々オリジナル要素もあった本作ですが、今回の話以降オリジナル要素が強くなります。苦手な人は苦手かも。

 それでも大丈夫という方は、どうぞ最後までお付き合い頂ければなと思います。




第三十五話 憑依の謎、真逆の秘密

 

 ニャル子とクー子は睨み合う。

 これから巻き起こるのは熾烈な戦い。張り詰めた空気を感じれば誰もがそう思うだろう。

 だが二人にとっては違う。これから行われるのは戦いではない。話し合いだ。それも重要な。

 

 真尋とハス太が来る少し前のこと。

 妨害に遭いつつもルルイエになんとか辿り着いたニャル子は、はぐれた真尋を探すでもなく真っ直ぐ本拠地に向かった。

 本来なら安否を確かめるべく真尋を探すところだが、この時の彼女にとって真尋がいないのはむしろ好都合だった。というのも、彼がいない所で確かめたいことがあったからである。

 そして確かめる相手はこれまた好都合なことにすぐ見つかった。いや正確には待っていたと表現するのが正しいか。

 

「……ようやく来た。ニャル子」

 

 クー子だ。

 クトゥルーに属する女に何かを吹き込まれた彼女は今、最悪の敵となって目の前に立ち塞がっている。

 クトゥルーの女に女王(クイーン)と形容された彼女が、一体なにを言われ、なんのために協力するのか。いつもならそう問いただしたことだろう。

 だがニャル子にとってそんなことは至極どうでもよかった。それよりも重要な、確かめるべきことがあるからだ。

 そしてそれについて話すのは今が絶好の機会だった。真尋もいない、真逆もいない今が。

 

「クー子……あんた――」

「ニャル子! クー子!」

 

 まさに話を切り出そうとしたタイミングで来たのが、真尋とハス太だった。

 

 走り去る真尋の背中を見送りながら、ニャル子はほっと胸を撫で下ろす。危うく真尋のいる前で話すところだったと。

 

「……少年は、いい子」

 

 クー子が呟く。去り際の言葉を賞賛しているのだろう。

 

「当たり前です。真尋さんは私の夫なんですから」

 

 愛しの真尋がいない今が好都合というのは、なんとも皮肉なものだとニャル子は自嘲する。

 

「……ニャル子、いつもより怖い。もしかして怒ってる?」

「怒ってる? ええ、そうですね。私は今とても怒っていますよ」

 

 戦闘態勢を維持しながら携帯電話を取り出し、メールボックスを開く。ここへ来る道中に届いた『該当者なし』という件名のみが書かれた白文メールが一番上に表示されている。

 

「……なにをそんなに怒っているの?」

 

 問いかけながらもクー子は察していた。ニャル子は頭がいい。故に、真実に辿り着いたのだと。

 いつまでも隠し通せると思っていなかったクー子は、今こうしてニャル子が話を切り出すのを待っている。真尋の耳に届かなくなる時を。自分が問いただしたいことはその後でもいい。

 

「真尋さんも見えなくなったことですし、少しお話しましょうか」

「……話ってなにを?」

「そんなの決まっているじゃないですか。でもただ話すのは面白味がないので、ここはひとつ私の仮説を」

「仮説?」

 

 携帯電話をしまい、構えを解いてニャル子ははっきりと言った。

 

「それではゴホンっ……真逆さんの正体について少し話しましょうか」

 

 やっぱりとクー子は内心微かに笑う。さすがは私が()()()ニャル子だと。

 

「まず私が疑問に思ったのはその存在です。あれは私から見てもかなり異質ですよ。魂だけの状態、しかしそれでいて異様に強い力を持っている。それも私やあなたと似た力を。多分ですがハスター君のと似た力も持っているんじゃないですかね」

 

 自分が最も強いと思う姿に変わる力。すべてを焼き尽くす炎の力。これらは真逆が実際に披露してみせた力だ。どちらも非常に強力で、他を寄せ付けない凄みがあった。これに加えてもしハスターの風に関する力を持っていたならば。

 

「それだけの力を持っているのなら、我々の所属する惑星保護機構でも情報をキャッチしている可能性があります。そう思って私は数ある伝手を使って少しばかり調査をしてもらったんですよ。その返事がさっき来ました。該当者なし、と」

「……いつそんな調査を依頼したの?」

「イースの偉大なる種族の一件が終わった時ですよ。あの事件で未来の情報の中に真逆さんを示すものがあると分かりましたからね」

「……さすがニャル子。すごく優秀」

「ですが結局真逆さんを示す情報は現代にはない。それに加えて未来の情報では、正確には真尋さんを指している。それってつまり真尋さんに憑依して以降の情報しかない。もっと言えば最近の情報しかないと捉えられますよね?」

 

 ニャル子は腕を組み、クー子の双眸を見る。動揺の色はない。得られた情報から導き出された結論をただ待っている様子だ。

 

「そこで私は思ったんですよ。もしかして真逆さんはこの世界の存在ではなく、別の世界から来たのではないか……と」

 

 どれだけ過去を遡ってもどれだけ未来に進んでも真逆に関する情報が無いとするならば、それはもう別の世界から来たとしか考えられない。そうニャル子は結論づけていた。

 元よりその可能性は頭の片隅にほんのちょっぴりだけ小粒の石くらいにあったものだ。しかしその小さな可能性は時間が経つごとに膨れ上がっていき、ひとつの結論として成り立ってしまっている。

 

「それもただの別世界ではない」

 

 ニャル子は思い出す。いつだったか真逆が今いるルルイエに関して話していたことを。

 

「真逆さんは以前ルルイエに関する情報を口にしていました。結構詳細に語っていましたが、ひとつだけ食い違っているものがありました。それはここの外観です」

 

 ここ地球のルルイエランドは、地球外のものが表立って地球産の製品を購入できる場所としても親しまれている。内部の建造物もアトラクションがほとんどで、その外観はいわば明るいテーマパークだ。

 

「まだ我々の世界に馴染んでいなかった真尋さんも同じようにこことは正反対のものを想像していたようですが、真逆さんの場合は違います。あの口振りは完全に自分で目にしたことがあるような感じでした」

 

 ニャル子は思い出す。真逆がイースの偉大なる種族、イス香に対して最初にとった行動を。

 

「イースの偉大なる種族がやってきた時もそうです。真逆さんはイス香に対し強い警戒心を見せました。彼の質問はやたら詳細なものでした。あんな質問、実際に自分が経験していなければできないことですよ」

 

 幻夢境での時もそうだ。真逆は一目で蛮神が操られていることに気がついていた。もしかするとこれも彼は経験したことがあったのかもしれない。

 目にした数々の行動がニャル子を一歩ずつ真実に近づけていた。

 

「もしかして真逆さんは……我々のいる世界とかなり近しい世界――いえ、この際はっきり言いましょう。真逆さんの正体それは」

 

 ニャル子は少し躊躇う。本人が隠している以上、口にしない方がいいのではないかと。

 だがここまで話した以上、もう後には引けない。意を決してニャル子は導き出した答えを言った。

 

「真尋さんの別の可能性……ではないでしょうか」

 

 ニャル子の答えを聞き、クー子は無表情ながらもどこか嬉しそうに軽く拍手する。

 

「その反応……やはりそういうことですか」

「……悪いけど、正解かどうかまでは言えない。ただちょっとニャル子の頭の良さを賞賛しているだけ」

 

 それは裏を返せば正解と言っているようなものではないか、とニャル子は歯噛みする。

 八坂真尋の別の可能性――即ち真逆の正体は並行世界からやってきた八坂真尋である。性格など真尋と違う部分もあるが、そう考えれば辻褄が合うことが多い。

 特に真逆がなぜ真尋に憑依したのかは、真逆にとって最も近しい存在が真尋だったからと考えれば至極当然の結果である。

 真逆の言うどちらか一方が消滅してしまうかもしれないという懸念も、正体を考えれば妥当なものと言える。

 

「なるほど……通りで記憶がある程度戻っても隠そうとするわけですよ」

 

 ニャル子は笑う。答えに到達した嬉しさからではなく、その答えに薄ら寒さを覚えて思わず笑ってしまっていた。

 そういえば真逆が「その設定はないわー」と口にして落ち込んでいたことがあったが多分、いやきっとそう。彼は真尋とは真逆の設定を付与された存在なのだろう。

 その事実に、記憶を取り戻したことで理解した彼はショックを受けたのだ。よりによってそんな世界に漂着してしまったのかと。

 真逆に同情心を覚えつつも、ニャル子は正面にいるクー子に掴みかかった。

 

「あんた、なんでそれを知っていながらずっと黙っていたんですか」

「……もしニャル子が同じ立場だったら……どうする?」

「そんなの決まってるじゃないですか! そんなの……そんなの……」

 

 反論しようとしてニャル子は言い淀む。

 当然言いふらすに決まっていると言いたかったが、そうしている自分をどうしても想像できなかった。理由は分からない。が、きっと黙っていただろうという謎の確信があった。なにせ相手は別の世界の真尋なのだから。

 

「分かりました。それについてはもう責めません」

 

 クー子から手を離す。離して異変に気がついた。

 

「待ってください。クー子あなた……」

 

 いつもならあれだけの距離近付いていれば、ところ構わずどんな状況であろうとクー子は発情していた。認めたくはないが、クー子の持つ自分に向けられる感情は確かなものだとニャル子は考えている。断じて認めたくはないが。

 しかし今はどうだろう。この上なく落ち着いている。それが却って気持ち悪かった。まるでゆっくりと触手に絡め取られそうになっているかのような、言い様のない悪寒が背筋に走った。

 

「……ごめんなさいニャル子。私、あなたに対する思いがどんどん薄れているみたい」

「は? いや、それは嬉しいんですけど、一体なにがどうなって」

「……これは多分、もう一人の少年の影響」

「真逆さんの?」

 

 ニャル子はクー子の言っている意味が分からなかった。まさか真逆に恋をしてしまった(親父ギャグではない)とでも言うのかと考えたが、言い方が少し気に掛かる。まるで自分の意思に反しているとでも言いたげな口振りだ。

 

「……ところでニャル子……今ニャル子すごく真剣な顔をしてる。雰囲気も……すごく真剣」

「なに言ってんですか。そりゃ真剣にもなりますでしょうよ。こんな大事になっているんだったら尚更」

「……それは……本当にニャル子の意思?」

「はぁ? あんた豆腐の角に頭でもぶつけましたか? さっきから何を言って――」

 

 いやそんなまさか。否定したくても、ニャル子はある可能性が脳裏を過り離れない。

 

「あんた、真逆さんになにかされたんですか!?」

 

 ニャル子の叫びにクー子は頭を横に振った。

 

「……違う。もう一人の少年も……私にこんな影響を与えているとは思ってもいないはず」

「じゃあ一体なにが……」

「……私自身もなにが起きているのか分からない。ただ……もう一人の少年から正体を教えてもらった日以降、知らない人の記憶を時々見るようになった。多分……もう一人の少年の世界の……私の記憶を……」

「なっ……んですって……?」

 

 ニャル子は絶句する。

 真尋にも同じ現象が起きていた。だがそれはあくまで、同じ肉体にいた真尋と真逆の魂の繋がりが強くなってしまっているが故の現象だと考えていた。

 その現象がクー子にも起きているのだとすれば、真逆との関係性が深まった段階で発生する現象だと仮定できてしまう。

 ニャル子は最悪の事態を想定する。そんなことが起こり得るのかは分からないが、このままだと真逆のいた世界に塗り替えられてしまうのではないかと。

 クー子の口振りもそれを示唆しているのだ。このまま真逆を放置すれば最悪の事態を招きかねないのだと。

 

「……仕方ないですね。こうなった以上真逆さんには大人しく――」

 

 直後、ニャル子の頬を何かが掠めた。ぬめりとした感触に触れてみると、赤い鮮血が手に付着している。

 動揺した表情でニャル子は周囲を見る。いつの間にか機動砲台に囲まれていた。クー子との距離も気がつかない内に離れている。

 

「……ニャル子……今なんて言おうとしたの?」

「あっ……いや……」

 

 ニャル子は視線を逸らす。

 大人しく消えてもらうしかない。そう言いかけた。そうすればこの世界の危機は問題なく去るはずだと。

 当然クー子がそれを良しとするはずがないのは明白だ。察知して警告してきたのだろう。そもそも一瞬の気の迷いで出た考えに過ぎない。

 

(あれ? ていうか、私がルルイエに来たのって真尋さんのお母様をお救いするためでは……?)

 

 よくよく思い返してみれば、株式会社クトゥルーの野望はどこへやら。クー子の敵対心もそれとはかけ離れている。よもやこれも真逆による影響なのではないか。そうだ。きっとそう。

 このままでは熾烈な戦闘になる。もはや今回の事件とは関係のないものを巡って血と血の争いが起きてしまう。

 混乱した思考を元に戻すべくニャル子は深呼吸する。落ち着こう。落ち着け私。そう言い聞かせるように何度も息を吸っては吐く。冷や汗が止まらない。

 その様子を見て、動揺するニャル子を追撃するかのようにクー子は問い掛けた。

 

「……ねぇニャル子……ニャル子はいつから変身ができなくなってるの?」

 

 瞬間、ニャル子は目を見開いてその場に固まった。

 

 

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