なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第三十七話 ソレはダレにも止められない

 

 

 宇宙の次世代ゲームハードとやらを眺めていると、入り口の扉が開く音が聞こえた。

 

「母さん!」

「あらヒロくん?」

 

 真尋の母親が振り向く。どうやらニャル子たちの協力でここまで来れたらしい。

 傍らにはハス太の姿もある。走ってきたからか少し肩で息をしている様子だ。

 ちなみに俺は今もなお真尋の母親に抱き抱えられている。やっぱりなんか落ち着かない。

 

「ここまで来るなんて。余程我々の邪魔がしたいようね」

「当たり前だ! 母さんを返せ!」

 

 二人を見てルーヒーが呆れた様子で言う。

 当然これに真尋も反応し、拳を握りながら叫んだ。

 一触即発。緊迫した空気。本来なら今にも戦闘が始まりそうな雰囲気だとでも言うのだろうか。

 だがしかしまあなんだ真尋。鬼気迫る表情のところ悪いんだが、あまりにもこう間の抜けた真実が待っているというかなんというか。

 正直俺どう反応したらいいのか分かんねぇし、とりあえず静観しているんだけど、真実を知ったらなんか飛んできそうだよな。フォークとか。

 

「そうしてこのご婦人を取り返したところで、次はそこにいるハスターの陣営に引き渡す腹づもりでしょう?」

「えっ? ぼく?」

 

 突然話を振られてハス太は困惑する。

 やたらと対抗心を燃やしていることから、おそらくだがハス太の父親もなにかゲームハードの開発に関わっているのだろう。

 そいや以前にもクー子がなんか宇宙のゲームハードについて熱弁していたようなしていなかったような。いつだったか。

 確か徹夜でゲームに付き合わされた時になんか言ってたっけか。操作に夢中で話半分にしか聞いてなかったからはっきりとは覚えてないけど。

 

「とぼけるでないわ! ここに来たのも我が社が作る次世代ハードの情報を盗みに来たのでしょう!」

「……は? なに? いまなんて?」

 

 真尋が思わず聞き返す。

 うん。そらまあそういう反応になるわな。同じ状況なら俺もそうする。絶対にする。花◯院の魂を賭けてもいい。

 

「ヒロくん! これちょっとすごいかも! これが宇宙のゲームハードなんですって!」

 

 母親の言葉に真尋はさらに困惑した表情で首を傾げる。さながらフクロウのように。

 

「ゲームハード? ゲームハード……」

 

 今きっと真尋の頭の中では急速にこれまでの出来事を整理しているのだろう。そう。俺が答えに行き着いた時のように。

 そして答えに辿り着いた真尋は頭を抱えて高らかに叫んだ。

 

「伏線はそっちかぁぁぁっ!」

 

 まあね。そう言いたくもなるよねうん。

 

「まあ……その……どんまい真尋」

「お前なぁ、分かってたんなら最初から勿体ぶらずに言えよ」

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」

「二度も同じネタを使うな」

 

 なんと理不尽な。そもそもあの後言う機会なんてなかったし。

 

「まあとりあえず……受け取れぇぇい真尋!!」

「いやなんだよその変なテンションは」

 

 渡されてた名刺を真尋の方に投げる。

 本当はこう人差し指と中指で摘んでシュバっとやりたいけど、今指ないから両手でぶん投げるというおマヌケな絵面になってしまった。

 受け取った真尋はそれを見てぷるぷると肩を震わせている。多分ここに来るまでの出来事を想像して怒りを滾らせているのだろう。

 

「つまりなんだ? 僕はまたよくわからん宇宙スケールのしょうもない小競り合いに巻き込まれただけってことか?」

「端的に言えばそういうことになるな」

「じゃあ母さんに協力って」

「ゲームハードマニアのお前の母親の知識を使ってゲームハード市場で優位に立ちたいんだと」

 

 強い脱力感に苛まれたのか真尋は深い溜め息とともに肩を落とす。額に手を当てて今にも天を仰ぎそうな勢いだ。

 

「そう。そしてそこにいるハスターの父親は憎きライバル会社、CCEの取締役!」

「CCE……?」

 

 聞き慣れない単語に真尋が首を傾げる。これ以上首を傾げたら顔が一回転するんじゃなかろうか。

 隣ではハス太がぽかんと口を開けている。全然話について行けてないのだろう。

 

「おい真逆。お前なんか聞いてんだろ解説しろ」

「え、また俺解説役に回んの?」

「お前以外に誰が今ここに事情を把握してるやつがいるんだよ。おらさっさとしろよ。久々の出番だぞ喜べよ」

「えー。いや俺も今回振り回されてる側なんだからもう少し慈悲をくれてもよくね?」

「うっさい。早くしろ」

「ちぇ……あーと」

 

 朧げながらにクー子が熱弁していた内容の一部が浮かんでくる。もとい思い出す。

 

「カルコサ・コンピュータ・エンタテインメント。確か『HS3』ってゲームハードを開発した会社だってクー子が言ってたな」

「我々の覇道をことごとく阻む忌々しいゲームハードよ!」

「んでルーヒー達株式会社クトゥルーはそれの対抗馬にあたる『エックス・オス』てハードを作ってるんだと」

「じゃあここにあるでっかいのって」

「そう。いずれ出す開発中の最新ハードってやつ」

 

 真尋は呆れた表情で装置を見上げる。これだけデカいゲーム機は見たことがない、という物珍しさよりもなんでゲーム機をこんなどデカい装置にしたんだという思いが勝っているのだろう。

 

「聞いて驚け! 見て笑え! これこそが我が社の粋を集めて生み出したゲームハード『エックス・オス731』! そのスペックはHS3の三倍! このハードにしかできない光源処理に加え、コントローラー不要の画期的かつ圧倒的な操作性! それによって生み出されるこれまでにないリアルで新しいゲーム体験! しかもサーバーであるこのハードを通じてアカウント購入者の脳内に直接ソフトを配信し展開されることにより、いつでもどこでもその素晴らしい体験ができるという、まさに非の打ち所がない完璧で究極なゲームハードがこの――」

「いや話が長いんだよ! もっと要約して簡潔にまとめろよ!」

 

 真尋のツッコミはごもっともである。

 まあ要するにこのバカでかい機械ひとつでバーチャルリアリティなゲーム、いわば昨今なにかと娯楽作品で題材になることが多いVRゲームが出来るってわけか。

 そう聞くと面白そうではあるし、実際に一度はプレイしてみたいという気持ちも湧いてくる。

 あいつがこれを見たらなんて言うんだろうな。多分見た瞬間装置にはなにを使われているかとか、スペックの数値とか、それに見合ったゲームソフトのデータ容量とかを羅列したりしそうだ。

 

「それでどうです八坂頼子。このゲームハードであれば地球のゲームハードにも引けを取らないでしょう。あとはあなたのアドバイスを受けてブラッシュアップすれば」

 

 その上で多分こう言うんだろうな。

 

「んー。でもこれ、失敗すると思う」

「……え?」

 

 真尋母の口から出た発言が思いもよらなかったのか、ルーヒーは目を点にする。

 

「そ、その……ご婦人。理由をお聞かせください」

「確かに凄い技術が使われているのも分かるし、実際に体験してみたら面白いのかもしれないわ」

「では、だったらなぜ」

「だからこそよルーヒーさん。地球のゲームハードの歴史を紐解いていったら分かるんだけど、大抵はスペックが高い方が負けているのよ」

「な、馬鹿な……!」

 

 目を丸くして驚くルーヒーに対して、真尋の母親は根拠を述べていく。

 そもそもスペックが高いということは、それ相応のゲームソフトが要求されるということだ。

 そうなれば当然ソフトの開発に掛かる費用も時間も嵩んでしまう。場合によっては開発に数年を要してしまうこともあるだろう。

 それらを避けるべく予算を抑えて早期開発したとしても、今度はユーザーの期待値を越えなければ「ここの会社の作るゲームは面白くない」というレッテルを貼られることになる。スペックが高いゲームハードともなれば当然相応の質をユーザーも求めてくるだろう。

 他にも考えられる要因は多々あるだろうが、それだけリスクの高いゲームハードに果たしてソフト開発に携わる者たちは寄り付くだろうか。と言いたいのである。

 

「ソフト提供してくれる会社さんが定着してくれるだけの魅力がこのハードにあるのかしら?」

「そ、それは……」

 

 ルーヒーは思わず言い淀む。

 真尋の母親にも別に夢や希望を否定する気はない。ただ夢や希望だけでは現実に打ち勝てないという――てなんでこんな深い話みたいな風に語ってんだ俺。気持ち悪いな。

 んまあそもそもの話。

 

「だからごめんなさい。私力になれそうにないわ」

 

 この母親がここへきたのはただの興味本位で、別に協力しようという意志はあまり無いから前提からして崩れてるんだよな。うん。

 

「ええっ!? で、でもご助力頂けるという約束では」

「え? 誰も協力するとは言ってないよ? そもそも素人の私が開発に協力なんて土台無理な話よね」

「え、じゃあ母さんがここに来たのって」

「うん、ただの興味本位」

「そ、そんな……」

 

 と、その時どこからかともなく着信音が鳴り響いた。音の出所を探ってみると、どうやらルーヒーのポケットから鳴っているようだ。

 

「あ、えと、失礼」

 

 突然の着信に戸惑いつつルーヒーは携帯電話を耳に当てる。

 

「もしもしルーヒーです。あ! CEO! はい! エックス・オス731の開発は順調に進んでおり――え、開発を中止? ま、待ってくださいCEO! 現状でも十分稼動が可能で――え? すでに決定されたこと? ま、待ってくださいCEO! CEO!」

 

 一方的に電話を切られたのか、ルーヒーは手を振るわせて携帯電話を落とす。

 会話の内容的になんとなく察しがつくが一応聞いてみよう。

 

「なんだって?」

「上層部の会議によりエックス・オスの開発は中止。会社はゲーム開発から撤退し、私はそのままリストラ……」

 

 まあそういうことだろうな。うん。

 あまりのショックにルーヒーは膝をつき愕然とした表情で天を仰ぐ。体が真っ白になっているような錯覚さえするほどに消沈している。

 流石の真尋もこの状況に居た堪れなさを感じているのか同情の眼差し送っている。

 

「まあその……ルーヒーだっけ。元気出せよ」

 

 真尋、その言葉は多分追い討ちだぞ。

 

「ふ、ふふふ……ふふふーははははは!!」

 

 突然ルーヒーが高笑いを上げた。壊れたのかな。頭を叩けば治るだろうか。

 

「まだよ! 今ここで装置を起動して、その性能を世に知らしめればまだ可能性はある!」

 

 ルーヒーは装置の基盤に駆け寄ると、おそらく起動のために必要なコマンドを打ち込んでいく。さながら狂ったサイエンティストのように。

 どうせゲームが起動するだけだし別に身構える必要はないだろう。起動したとて、そもそも普及しているわけじゃないんだし。そう思っていた時だった。

 

「なっ……グ……ぅっ!!?」

 

 不意に言葉では表すことのできない不快感に襲われた。背筋が凍るほどの悪寒といえばいいだろうか。

 困ったことに俺の直感はよく当たる。というかこの感覚は非常にまずいパターンの感覚だ。

 

「待てルーヒー! そいつを動かすな!」

 

 原因を探る余裕もなく慌てて俺は止めに入る。このままでは取り返しのつかない事態にまで発展してしまう。そんな予感がしている。

 脳裏に過るのはかつて経験したこと。俺が相対したやつの中に〝人類すべてを洗脳し支配する装置〟を起動した男がいた。

 もし同じようなことが起きようとしているのなら止めなければならない。ルーヒーの意思とは関係なく、なんらかの原因で装置が書き換えられているのであれば尚更だ。

 

「離しなさい! 今やらなければいつやるというの! 今でしょう!」

 

 だが俺の静止も虚しくルーヒーは最後のキーに触れた。

 静寂していた装置が動き出し、ゆっくりとエネルギーを充填していく音が響く。

 

「クソっ!」

 

 間に合わなかったことを察した俺はすぐに振り返り、背後にいる真尋たちに叫んだ。

 

「全員俺のところに来い! 今すぐ!」

「は? 急にどうしたんだよ真逆」

「説明してる暇はねぇ! いいから早く来い!」

 

 叫びながら俺はルーヒーの襟首を掴んで無理矢理装置から引き剥がす。

 放り投げられて尻餅をついたルーヒーは思わず「ちょっとなに!?」と戸惑いの声を上げているが構っている暇はない。

 俺の行動を見て余程のことだと察したのか、真尋と真尋の母親も寄ってくる。その中央に着地した俺はすぐさま力を解放した。

 

「全員もう少し俺に寄れ!」

 

 周囲に結界を張り巡らせる。もし本当に洗脳の力が働くなら、この結界内にいれば影響を受けないはずだ。

 とそこでふと視界の遠くにいるハス太の姿に気づいた。

 どうやら状況を上手く飲み込めずその場に留まってしまったらしい。

 

「ハス太! お前も早く来い!」

「えっ? えっ? あ、うん!」

 

 ようやく余程のことだと理解したのか、戸惑いながらもハス太はこちらに駆け寄ろうと一歩踏み出した。

 直後、起動した装置の頂点から赤い波動が数回放たれた。

 

 

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