なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第三十八話 洗脳のX/主の名のもとに

 

 

「な、なにが起こったんだ……?」

 

 状況が掴めず真尋が唖然とする。

 

「今のはなに? あんな挙動私の想定には」

 

 覚えのない機能にルーヒーも真尋同様に唖然としてしまっている。

 ルーヒーの手によって起動してしまった『エックス・オス731』は頂点にあるアンテナから赤い波動を放った。

 数えてみたが放たれた回数は三回。もし俺の知る装置と同じ機能を持っているのだとすれば、赤い波動はある特定の対象を洗脳するための周波数を放ったことになる。

 そしてその対象はおそらく。

 

「あぐっ……うぅ……」

 

 微かに呻く声が聞こえ、俺は警戒心とともにその声の主を見る。

 声の主は膝をつき頭を抱えていた。体は小刻みに震え、歯を食いしばってまるで何かに抗っているような様子だ。

 その声の主ハス太は行動が遅れたせいで結界の枠内から外れていた。俺の予測が正しいならコイツも洗脳対象になっているはず。

 

「ハス太? どうしたんだ?」

「おい真尋。今は近づかない方がいい」

「いやでもなんだか苦しそうにしてて」

「ぅあ……アァ――ッ!!!」

 

 真尋の声を遮るようにハス太が突然絶叫を上げた。

 

「ハス太!?」

「ダメよヒロくん。近づかないで」

 

 慌てて駆け寄ろうとする真尋を母親が静止する。俺が警戒しているのを見て察してくれたのだろう。

 

「ま……ひろ……くん……逃げて……」

 

 かろうじてまだ意識があるのかハス太はそう真尋に伝える。痛みからか目の端から涙が溢れそうになっている。

 

「逃げて……ッ!」

 

 堪えきれなくなった涙が頬を伝った直後、ハス太の周りに暴風が吹き荒れた。

 暴風はハス太の姿を覆い隠す竜巻となり轟々と唸りを上げている。踏ん張らなければ飲み込まれそうな程の勢いだ。

 

「な、何が起きてるんだよ!?」

 

 真尋が声を荒げる。

 すると暴風が突然止み、竜巻が忽然と消えた。

 

「ハス太……なのか……?」

 

 竜巻の中から出てきた人物を見て、真尋はまたも唖然とする。俺の隣にいるルーヒーや真尋の母親も同様だ。

 先程までいたハス太の小柄な姿はなく、代わりに白い仮面をした男が立っている。仮面の開口から見える金色の双眸は静かにこちらの様子を伺っている。

 見たところ子供の姿から大人の姿になったらしい。そういうところも似ているのかと感心すると同時に、あの時と同じ状況に頭を悩ませる。

 おそらくこの状態のハス太はニャル子やクー子よりも厄介な力を持っているはず。

 

「なあハス太? どうしたんだよ?」

「何を言っても無駄だ。そいつは操られてる」

「操られ――て、どういうことだよ?」

 

 今のハス太がどんな力を持っているかも重要だが、それよりも確認しなきゃならないことがある。

 

「ルーヒー。質問いいか?」

「な、なにかしら?」

 

 仮面の男に警戒しつつ俺はルーヒーに問う。

 

「このゲーム機、お前1人で作ったのか?」

「そんな私1人でこれだけの規模のものを――まさか!?」

「ああ。おそらく誰かが密かにプログラムを仕組んだんだろうよ。ゲーム機としてではなく、洗脳装置として機能するように」

「でもそんなこと一体誰が!」

「さあな。ただそいつは――」

「主の命により判決を下す」

 

 これまで閉口していた仮面の男が俺の言葉を遮った。人差し指を立ててまるで品定めするかのように、あるいは最初から標的を決めており敢えて焦らすかのように腕を動かす。

 犯人の全貌はひとつも分からないが誰かはなんとなく察しがつく。以前遭遇した大首領が口にしていた協力者とやらだろう。そしてその目的もおそらく。

 答えは後者。人差し指を俺の方に突きつけはっきりと男は告げた。

 

「貴様に与えられるのは死だ」

「やっぱりな。俺を消すことが目的らしい」

 

 嫌な予感が的中か。参ったな。となるとあと二回の波動ってありゃニャル子とクー子に向けられたものか?

 だとすればかなりマズい状況だ。

 この場にいるのが俺1人だった場合はなんとでもなる。だが今は真尋やその母親も一緒だ。二人に攻撃が行かないように守りながらとなると流石に戦いづらい。

 斯くなる上は。

 

「ルーヒー、悪いが二人を安全なところに連れて行ってもらえるか?」

「まさかあなたあのハスターと戦うつもり?」

「ああ。こうなった以上あいつをどうにか気絶させて洗脳を解くしかない。つっても加減してどうにかなる雰囲気でもないし、あんま傷つけたくないし気は進まないが……」

「……だったら私からひとつ提案があるわ」

「あん?」

 

 ルーヒーは白い仮面をしたハス太のことを一瞥してから、『エックス・オス731』の方に振り返った。

 

「少しでいいから時間を稼いでもらえるかしら」

「なにするつもりだよ?」

「エックス・オスの中に洗脳するプログラムが仕組まれているというのなら、それを解析し書き換えれば逆に解くための装置に出来るはず」

「可能なのか?」

「その手のことは得意のつもりよ」

 

 なるほど。確かにルーヒーの言うことができれば俺も無理矢理洗脳を解く必要がなくなる。

 俺のやり方だと記憶に障害が出る可能性もあるし、実際()()()()()()()()()も同様の対応で解決したから、装置を介した洗脳解除は安全性があると保証もされている。

 だったらやらない手はないか。

 

「その提案乗った」

「けど真逆、お前その姿じゃまともに相手出来ないんじゃ」

 

 真尋の心配は最もだ。実際この小さなぬいぐるみの姿のままじゃまともに相手出来ないだろう。だが。

 

「この間のスルトのおかげで変身自体は可能なことが実証されたからな」

 

 ニヤリと笑……えてないけど自身の中に眠る力を呼び覚ます。すると視界が漆黒の闇に包まれ、姿形を変えていく。

 モード・ナイアルラト――俺の基本戦闘形態。黒鉄の装甲に身を包んだこの形態はいわばアーマーを装着するようなものでどんな体格にもなれる。巨人にもなれるし、今の状態から人型にもなれるってわけだ。

 

「ほらこの姿ならいけるだろ?」

「あなた変わった力を持っているのね」

「けど大丈夫なのか? なんかあいつ強そうだぞ?」

「相手はハスターだろ? なら戦ったことあるし、同様の力を持った仲間もいたから対処法は知ってる。時間を稼ぐくらいなら余裕だ」

 

 とはいえ流石に戦いの余波に巻き込まれる可能性があるからな。そうなると取れる手段はひとつか。

 

「ルーヒー急いで装置に迎え。二人もだ。防護の結界を張って攻撃が行かないようにする」

「分かったわ。無茶だけはしないでねヒロちゃん」

「あいよ」

 

 三人が装置に走っていくのを見送り、俺は背後の装置を覆うように防護の結界を張り巡らせる。強度は俺の攻撃にも耐えられるくらいにしてあるから、そう簡単には突破されないはずだ。

 それに装置周辺に張っておけば、もしクー子やニャル子が参戦してきたとしても対処できる。よし。

 

「さてと、大変長らくお待たせしましたお客様」

 

 白い仮面をつけ大人の姿となったハス太と対峙する。

 目元の開口から冷たく凍てつくような双眸がこちらを睨んでいる。

 

「律儀に長い間待っててくれてありがとうございます。これよりお待たせした分沢山おもてなしをさせていただきますね」

「おい真逆。急にふざけ出すなよ。あとその語尾にハートが付きそうな口調も気持ち悪い」

「いやいや。これも時間稼ぎの一環だっての」

 

 真尋の茶々をあしらいつつ俺はハス太を観察する。

 コイツ俺が三人を守れるようになるまで待っててくれたのか? もしかして多少なりとも洗脳に抗えているとか?

 

「待っててくれるなんてもしかして良い人ですかー?」

「貴様以外殺す価値もないだけだ」

 

 なるほどな。標的以外は攻撃する意思すらないと。強固な命令故かそれともハス太が少しでも抵抗しているのか。どちらにせよおかげで助かったというものだ。

 

「なるほどー! つまりお客様は私以外に興味がないと。キャ! 大胆!」

「いやマジでキツイってお前そのノリ」

「いちいち五月蝿いよお前。この方がシリアス味が薄れてコミカルになるだろうが」

「時間稼ぎの名目はどこに行ったんだよ」

「それも込みなんだよ。だからはい黙る」

 

 ったく。人がどう動くか考えてる時に。

 

「ておい真逆! ハス太が!」

「あ?」

 

 真尋に言われて俺は白い仮面の男を見る。

 

「しまっ!?」

 

 白い仮面の男が右手をこちらに掲げて攻撃態勢になっている。

 咄嗟に俺は体を左にそらす。すると同時に逆巻く大気が穿つように放たれた。

 

「ぐぅ……!?」

 

 放たれた暴風が俺の右腕を抉り、切断し、粉砕する。それでも尚勢いが止まることなく、竜巻は背後の結界に直撃してようやく消えた。

 想定外の破壊力だ。俺の攻撃に耐えられるだけの結界にしていなければ瞬く間に破壊されていたかもしれない。

 

「まずは右腕から貰った」

「ヒロちゃん!」

 

 腕が無くなったのを見て真尋の母親が動揺している。隣にいる真尋も同様だ。動揺だけに。

 

「まさかこの俺が……ちくしょお……ちくしょおおお……!!!」

「……おいお前まさか」

「なんちゃって!」

「やっぱりかよ」

 

 軽く力を込めると右腕が生えてきた。

 動揺してるところ悪いけど装甲で腕生やしただけだから問題ないんだよな。うん。

 

「てい」

「おあいたー!!?」

 

 背後から突然フォークが襲ってきた。後頭部に直撃している。本来そこに頭は無いはずなのにすげぇ痛い。

 

「お前なんでフォーク投げてんだよ!」

「お前がふざけるからだろ!」

「だからって戦闘中の俺になにも投げること――」

「えい」

「あばーっ!!?」

 

 今度は真尋の母親がフォークを投げた。額に刺さっている。こっちもなんでか痛い。

 

「なんで追加で投げた!?」

「心配させた罰……かしら?」

「あ、あなた達緊張感あるのか無いのかどっちなのかしら?」

 

 ルーヒーのツッコミは最もである。いやほんと。

 

「マズイわ! 二撃目が来るわよ!」

「あん?」

 

 ルーヒーの警告を受けて振り返ると同時に、白い仮面の男の手から先程と同じ攻撃が飛んできた。

 だがすでにその攻撃は見切っている。腕を吹っ飛ばされてまで経験しているのだから尚更だ。

 

「おいおい。この俺に二度も同じ攻撃が通用すると思うなよ」

 

 そう呟くと俺は右手のひらを前に突き出し、滑らかな動きで全身を回転させる。

 放たれた暴風を右手のひらで受け止め、回転を利用しその勢いを殺すようにゆっくり、ゆっくりと手のひらで包み込む。

 左手を添えて大気を捏ねるように小さく圧縮し、最後には完全なる無へと変えた。

 

「……ッ!?」

 

 これには流石に驚いたようで、仮面の男の冷たい双眸が驚愕の色に変わっている。

 

「今のはまさか大気を操ったの?」

 

 ルーヒーもまた驚いたように問いかける。

 

「だから言ったろ? ハスターとは戦ったことあるってよ」

「あなた一体何者なの……?」

 

 まあタネは他にもあるけどここは敢えて伏せておく。別に説明が面倒だからじゃないぞ?

 

「さて、お前さんの遠距離攻撃はもう当たらないがどうする?」

 

 さっきのは威力を確かめるのも目的で敢えて隙を見せてやったに過ぎない。

 確かに想定を超えた威力ではあったがそれまでだ。把握してしまえば幾らでも対処できる。

 

「てかおいルーヒー。手を動かせ手を。こっちに見惚れてる場合じゃねぇぞ」

「え、ええそうね。ごめんなさい」

 

 ルーヒーは慌てた様子で装置のパネルに向かうと、素早い手で何かを操作していく。おそらく内部プログラムを弄り始めたのだろう。

 

「チッ、ご丁寧に幾つもの防護壁が敷かれているわね。少し時間がかかるわ。それまで持ち堪えて」

「あいよ。さて次はどんな攻撃がくるのかね?」

 

 指先をクイクイと動かし挑発する。

 この挑発を受けてか、それとも最初から次の一手を決めていたのか仮面の男は手刀で切り裂くような動作をした。

 大気で作られた刃がこちらに飛んでくる。数は二つ。見たところなかなかの切れ味のようだが俺には無意味なもの。避けるまでもない。

 

「言ったろうに。お前の遠距離攻撃はもう俺には当たらないってさ」

 

 大気で作られた刃は俺の元に辿り着くことなく霧散する。

 

「こうしてる間にもお前さんは刻一刻とタイムリミットが迫っているわけだが。いいのかい? 主の命とやらが潰えてしまうわけだが」

「……ならば」

 

 仮面の男が拳を構える。遠距離がダメと分かれば近接戦闘に持ち込むわけか。面白い。

 たまには体を動かしたいところだし、少し遊んでやるか。

 

「来いよ。お手並み拝見と――」

 

 その時俺の中で時間がゆっくりと動いているかのような錯覚が起きた。

 何かが仮面の男の背後に飛んでくるのが見えたからだ。

 その何かはゆっくりと仮面の男の後頭部目掛けて飛んでいく。

 見覚えのある服装。見覚えのある髪色と髪型。あの炎のような赤い髪色はそう、クー子だ。

 

「な……っ!?」

 

 クー子だと認識したと同時に、二人の後頭部がゴガチンと物凄い音を立てて激突した。

 その衝撃に仮面の男は前のめりに倒れて撃沈している。不意に襲われたこともあって反応すらできなかったらしい。アレは痛そうだ。

 一方でクー子の勢いは止まらず、俺の方にまで向かってきた。

 

「うおっ!? ちょ、クー子!?」

 

 咄嗟にクー子の体を受け止めて様子を確かめる。

 目を回し「きゅー」と力の無い声。頭には幾つかたんこぶが出来上がっている。どうやら激突する前にも何者かにやられたらしい。

 

「もう一人の……少年……逃げ……て……」

「どうしたクー子! 一体誰に――てあれ? お前洗脳されてないのか?」

 

 俺の疑問を他所にクー子は弱々しい震えた声でこう言った。

 

「逃げ……て……ニャル子……が……」

 

 と。

 

 

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