なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした   作:姉川春翠

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第三十九話 天才は止まらない

 

 

「逃げ……て……ニャル子……が……」

 

 ニャル子? まさかニャル子が洗脳されて。

 

「アレは……もう……誰にも止められない……逃げて……ガクッ」

「おい今ガクッて言ったぞ。そいつ口でガクッて言ったぞ。そいつ割と余裕あるんじゃないか?」

「真尋。お前さっきからわざとか。俺にツッコミやらせるためにわざとやってんのか」

「うん」

「うんじゃねぇよ」

 

 マジで緊張感無いなコイツ。もう場慣れしすぎて感覚麻痺したのか?

 とりあえずクー子を床に寝かせて状況を整理しよう。

 ハス太は先程の激突で完全に伸びている。変身が解けて子供の姿になっていることからも一目瞭然だ。マジであれは痛そうだったから起きたら頭撫でてやらないと。

 それよりも気になるのは。

 

「クー子がニャル子から逃げろって、まさかあいつも」

「そのまさかかもしれねぇな。っと……おいでなすったようだぜ」

 

 コツコツと足音が響く。

 音の方に顔を向けると、俯きブツブツと何か念仏のように呟きながら歩くニャル子の姿が見えた。

 何言ってんのか聞き耳立ててもいいけど、自分の意思じゃないだろうしここは耳を塞いでおこう。俺には何も聞こえていない。

 

「ニャル子お前まで……」

「あーいや真逆。多分あいつ洗脳されてないぞ」

「は?」

 

 何言ってんだコイツ。この話の流れでニャル子が洗脳されていないパターンとかあるか普通。

 そもそもあの装置の洗脳を防ぐ手段なんてコイツらには無いはずだし――無い、はず……いや待てよ。

 足元で伸びているクー子を見る。

 言われてみればクー子が洗脳されている様子はなかった。ニャル子にやられたからと思ったが、そもそも意識があるならどんな状態であれ洗脳されるはず。

 そうなっていないのはなんらかの原因で洗脳から逃れたと考えるのが自然。ならば一緒にいたであろうニャル子も例外ではない。

 俺もニャル子の念仏のような声に耳を傾けてみる。

 

「真逆さんのせいですよ。真逆さんのせいで私の心はもうズタズタなんですよ。なんですか? クー子と一緒になって私の心を弄んで楽しいんですか? 意味わかんないんですよ。大体なんですか。こんだけ私の心を乱しておいてオチがゲーム機でしたって舐めてるんですか? 私が舐めるのは愛しの真尋さんの肉棒だけでいいんですよ」

 

 あーうん。確かにこれは洗脳されていないかもしれない。あと結構ど直球な下ネタ口にしてるけど大丈夫かコイツ。いやいつも通りか。

 

「なんかお前に怒ってるみたいだけど心当たりはないのかよ?」

「いやさっぱりわからん。俺なんかしたか?」

「お前が自分の正体をいつまでも明かさないからじゃないか?」

「いやそれは――」

 

 色々と思い返してみる。

 ニャル子のところに向かった時のクー子の表情を思い出す。あれは最初から何かしら話をしようと考えていたのかもしれない。

 床に寝かせているクー子を見る。戦闘になったというよりかはニャル子に一方的にやられたという感じだ。

 そして今し方聞いたニャル子の呟きの内容。

 とこんな感じで整理してみた結果行き着いた答えは。

 

「あーうん、言われてみるとそれかもしれない」

 

 いつだったかクー子は「軽率な行動は控えるべき」と忠告してきた。

 あの時の発言はニャル子に気づかれるからという意味も含んでいたのだろう。

 ニャル子もバカじゃない。むしろ頭がキレるやつだ。真尋と入れ替わった時も俺の心を読んで探っている気配があった。

 おそらくあの一件でニャル子は俺の正体や秘密の答えに近づき、その答え合わせを今回クー子相手に行ったのだろう。

 で、色々と憂いていたところに今回の事件の真相を知りブチギレた。といったところだろうか。

 

「どーすんだよアレ。多分あまりの怒りで我を忘れてるパターンだぞ」

「んー」

 

 腕を組みとりあえず考える。

 現状ニャル子のおかげでハス太が気絶しているから目下の問題は解決したも同然だ。

 ハス太以外は誰も洗脳されていないわけだし、今回の事件は解決と言ってもいいだろう。

 ひとまず変身解くか。

 

「まあこれに関しては俺が話をつければ済むことだろうし。ちょっと話してくるわ」

 

 トコトコとニャル子に近づき、俯いてる顔を下から覗いてみる。

 

「おーいニャル子。てなんだお前その顔」

 

 目が血走り、眼球が飛び出んばかりのなんというかこう、どっかの元帥みたいな顔している。

 

「真逆さん……あなたは私を怒らせました」

「あ、うん。なんかごめん。理由は察したけどなんかごめん」

「私は許します。ですがこの拳が許すとは限りません」

「それって許してないんじゃないか?」

 

 あ、なんか頭鷲掴みにされた。

 まあ仕方ない。ここはもう甘んじて受け入れよう。思うがままにするがいいニャル子。俺はサンドバッグ、いや、うさばらし猫です。

 

「ふん! ふん!」

 

 頭を鷲掴みにされたまま、壁に押し付けられ、腹部を殴られる図はまさにあのシーンを彷彿とさせるだろう。うん。実際そんな感じ。

 

「この! それでも! 男ですか! 軟弱者!」

「んー、それはちょっと違うんだよなぁ」

「よくも! ずけずけと! 恥を知れッ! 俗物!!」

「あ、それは合ってるかもしれない」

「お前ら実は遊んでるだろそれ」

 

 殴られていると真尋が呆れた顔でやってきた。

 真尋が背後に立っていても構うことなくニャル子は俺の腹を殴り続ける。

 そいや朝おにぎり食べなくて正解だったなぁ。この状況、もし食べてたらまた虹色の滝を出すところだったし。

 

「ほらニャル子、もう気が済んだだろ?」

「いいえ真尋さん。まだトドメの一撃が残っています」

「トドメの一撃?」

 

 ニャル子は俺の頭を鷲掴みのまま、右脚を高く振り上げ大きく振りかぶる。

 綺麗なフォームだなぁ。そうか、俺また投げられるのか。

 

「喰らえッ! 太陽ぉおおおーッ!!」

「それすでに一回やったネタァアアアアアーッ!」

 

 ニャル子は俺を思い切りエックスオスに向かって投げた。その勢いはまさに一発の弾丸、いや威力は大砲のそれだ。当たれば機械はひとたまりもなく破壊されるだろう。当たればね。

 

「ヒブッ」

 

 自分が張った結界に阻まれズリズリと地面に落ちて倒れ伏す。痛くはないんだけど心が少し泣いています。

 

「なっ! なんですとぉー!? 小癪な! バリアを張ってやがるんですかあの機械!」

「あーいや、真逆がハス太の攻撃から守るために結界を張っていたから」

「結界? ていうかハス太くん何かあったんですか? なんか地面に倒れて伸びてますけど。しかも黄衣の王の状態で」

「それお前がやったんだけどな」

「えっ?」

 

 気分が晴れたのかいつものニャル子に戻っている。殴られたりした甲斐があったと考えよう。

 ため息とともに仰向けになると、ルーヒーが屈んだまま心配したように覗き込んできた。

 

「あの……一応データの書き換え終わったのだけど」

「あ、うん、ご苦労様。そのまま起動してハス太を元に戻してやってくれ」

「あのハスター気絶してみるみたいだけど意味あるのかしら?」

「気絶してようと脳の中にある周波数は残り続けるからな。それと聞きたいんだがデータのログから洗脳の対象とか見れたりするのか?」

「そうね。見れるかもしれないわ」

「悪いがちょっと見せてくれるか?」

 

 俺は起き上がるとルーヒーの肩に乗り、パネルの表示を覗いてみる。

 表示には確かに洗脳の対象が記録されていた。対象は俺の予想通りニャル子、クー子、ハス太の三人だ。それ以外は対象にされていない。

 二人が洗脳されていないのであれば他に対象がいるのかとも考えたが杞憂だったらしい。

 どうやって洗脳から逃れられたのかは疑問だが、まあ結果オーライとしておくか。

 

「犯人はどうして対象をこの三人に絞ったのかしら? そもそもどうしてこの三人が来ると? それに――」

「さあな。まあ俺を確実に消せるのはこの三人だけだと思ったんだろうよ」

「さっきの戦い方といいあなた一体」

「ヒロちゃんはヒロちゃんよ」

 

 ふと真尋の母親が肩に乗っていた俺を両手で拾い上げた。

 

「うちで預かっている居候さん。少し特殊な子だけど、優しくていい子よ」

「……そうですか」

 

 笑顔で答える真尋の母に対し、これ以上の言及はできないと観念したのかルーヒーは肩を落としながら微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

『まったく……世話の焼ける子たちだわ……』

 

 球体型のAIロボットは浮遊しながら呆れた声音を発する。

 時間を少し遡ること、今彼女がいる場所ではニャル子とクー子の二人がいた。正確にはニャル子が一方的にクー子を殴っていた。

 微かに残る赤い血溜まりがその壮絶さを物語っている。

 

『仲がいいのか悪いのか。まあ記録を探った限り本体の私も赤髪の子とはよく喧嘩してたかしら。喧嘩といっても子供のじゃれ合いみたいなものだけど。それよりも』

 

 ふとAIロボットは搭載されたレンズから宙にウィンドウを映し出す。ウィンドウはデータ内にあるログをどんどん遡り、今回起きた事象を再解析していく。

 過去に起こった事象のあるデータと照らし合わせると、今回のそれが過去と同じものだという検証結果が出た。表示されたグラフも完全に一致している。

 即ちまったく同じ装置が使われたということである。

 

『やっぱり私の中に組み込まれてるデータの中に同じ波長のものがあった。だからさっきアラートが鳴ったのね』

 

 それにしても普通ここまで用意周到にデータを組み込み、その対処が可能な装置を取り付けるだろうか。

 超高性能で究極のAIである彼女でも、ここまで予期している本体の頭脳に理解が及ばなかった。

 無論、その究極なAIの生みの親も彼女の言う本体なのだが。

 

『まあおかげであの子達を洗脳から守ることができたわけなのだけど……にしても不愉快ね。こんなの向こうの世界からやってきた誰かが暗躍してるとしか』

 

 ウィンドウを閉じ、AIロボットは光学迷彩を起動させて転移する。転移場所は洗脳装置のある場所。

 AIロボットは高い位置から装置を俯瞰し分析する。彼女の中にあるデータと照合し、その結果が次々と表示されていく。

 

『んー、向こうの世界の装置からは遠く離れた見た目をしているわね。元々はゲームをするのが目的のものみたいだけど……なるほど。開発に関わった彼女も弄っていて気づいたみたいね』

 

 AIロボットの視線の先、ルーヒー・ジストーンもまた腕を組み思案を巡らせていた。

 洗脳装置になり変わっていたエックス・オスのデータを書き換えながら、彼女はある不可解な点に気がついていた。

 本来あるはずのゲーム機としての機能が完全に無くなっていたのである。

 犯人が幾らデータを改竄しようと、元々の機械設計からしてゲーム機の名残りはデータ上のどこかにあるはず。

 だが今のエックス・オスにはまるで元からゲーム機としての機能がなかったかのように書き変わっているのだ。

 つまり目の前の装置は()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになる。

 

『世界の書き換わりが進行している。流石にこのまま静観しているわけにもいかないし、どこかのタイミングで接触を図る必要がありそうね』

 

 AIロボットは解析をやめると再び転移する。

 転移した場所はルルイエの中心地から大きく外れたところ。彼女が真尋を助けて寝かせていた場所だ。

 

『けどそれよりも先に本体に現状を知らせないと』

 

 光学迷彩を解くと、レンズからレーザーのようなものが照射された。

 何もない空間に黒い穴が出来上がっていく。ワームホールだ。彼女の体がようやく入れるような大きさのそれは、今にも消えそうな程に不安定な揺らぎを見せている。

 

『ったく難儀なものね。この小さくて不安定な穴を作るためだけに活動や思考に必要なもの以外のあらゆる機能を停止させないといけないなんて』

 

 元の世界に戻るための穴を見ながら、AIロボットはまるで嘆息するかのような声音で呟く。

 

「ええ、そのおかげであなたを簡単に始末できます」

 

 不意に背後で声がした。

 AIロボットはすぐさまレンズを回転させて背後を見る。

 直後彼女の体を何かが貫いた。人の腕だ。

 

『な――ほど――今回の――件――私を誘き――めの餌だった――わけ』

 

 ノイズ混じりにAIロボットは呟く。彼女の不安定な視界に襲撃者の顔が映る。

 銀髪の長い髪を靡かせ、その女は笑みを浮かべていた。その顔はどことなくニャル子に似ている。

 

「驚きました。一撃で機能停止しないとは。見た目とは違って頑丈ですね」

『成――姉――さん――いえ違う――貴方は――だれか――しら?』

 

 女は感心した表情でロボットと出来上がったワームホールを見据える。

 

「この体を目にしながら私が琴ノ宮成美でないことをすでに把握しているわけですか。異次元に己の分身を送り込む技術といい、さすがは天才といったところ」

『残念――けど――あなた――本体――まだ知らない――』

 

 女はくすくすと笑うと、腕を引き抜きAIロボットを地面に叩きつけた。

 その衝撃で穴の空いた体から幾つもの部品が散乱する。それでもなお機能が停止していないのを見るに、余程頑丈に作られているようだ。

 

「なるほど。では今まさに私のことを報告しに帰ろうとしていたわけですね。ですが残念。あなたが私のことを観察していると気づいてから、この機会を伺っていたのですよ」

『――そう』

「おや、AIでも絶望して何も言えなくなることがあるのですね。これはいい学びを得ました」

 

 女はしゃがむと、見下した目でロボットを観察する。いつ機能が止まるのか時間を計測するかのように。

 

「安心してください。あなたに代わり私が彼女たちを見守りましょう。なにせ私の愛を振り撒くために貢献してくれているのですから」

 

 女がそう笑うのと同時にAIロボットのレンズから光が消えた。生成されたワームホールも閉じている。

 完全に沈黙したのを確認してから女は立ち上がった。天を仰ぎ、目的達成の余韻を味わうように息を大きく吸う。

 吸った息をすべて吐き出すと、女は満悦した表情で踵を返す。もはや邪魔するものはもう何もないと高揚している。

 

『愛……ですか……』

 

 だがそれも長くは続かなかった。

 機能を停止したはずのAIロボットが再び動き出したのだ。それどころかレンズから光を照射し、ホログラムの少女を映し出している。

 

『あなたが口にしたそのワードのおかげで正体に辿り着けました。今頃あなたに関する詳細な情報は私の本体に送られています』

「なん……ですって……?」

『私を漫画本に出てくる考えなしのお間抜けさんと思わないことです。超インテリジェンスで宇宙一で最ッ高の頭脳を持つ私があなたの襲撃を見越していないとでも? 三十五分前から本体が持つ端末に情報を流し続けていましたよ』

 

 ホログラムの少女が発する煽るような声音を聞き、女の額に血管が浮き出る。

 

「では先程のは縁起だったとでも?」

『ええそうです。AIによる縁起も見抜けないだなんて、あなたの情報処理能力は地の底に落ちているようですね。そんな頭の悪いあなたにひとつ教えてあげますよ』

 

 ホログラムの少女は満面の笑顔を作って言った。

 

『データを送る方が私自身を送るよりも断然に簡単なんですよ』

 

 女は舌打ちするとAIロボットを踏みつけて粉砕した。ホログラムが消え、今度こそ完全なる沈黙が訪れる。

 

「まったく。彼女のAIとはいえ相変わらず私を不快にするのが上手ですね」

 

 満悦した表情はどこへやら、女は怒りで声を震わせる。

 踏み砕かれる直前、AIロボットが『アイナ』と微かに言っていたことにも気がついていない。

 

「まあいいでしょう。こちらへ来るというのであれば、彼女たち諸共返り討ちにして差し上げますよ。取り返しのつかない万全な状態でね」

 

 くつくつと笑うと女はその場から姿を消した。 

 

 

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