なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
そして自分のギャグセンスの無さが悲しい(せつじつ
あと、この作品タイトルの略称が決まりました。
略称は「なんやさ」です。
今、僕、八坂真尋は学校にいる。隣には半透明状態の真逆という、僕に憑依している外人が立っている。
《いや、俺外人じゃねぇから》
――お前外人みたいなもんだろ。あと、突っ込まないんじゃなかったのか?
《クソ、お前どうしてもそっちの世界に引き込みたいのか》
――当たり前だ。真逆は多分寒いボケよりツッコミの方が向いてる。その方が僕は楽ができる。
《要するに楽したいだけだな》
――そうでもある。
《ところで真尋、お前――》
――ところで真逆、聞きたいんだけど。
《人の話聞けよ。なんだ?》
「あいつ、なんでここにいんの?」
僕は真逆に問うと、ある方向に視線をやった。
そこには、人だかりが出来ていた。その大半はクラスである。その中心にいる人物は、突然現れ、突然僕を護衛すると言った、ニャルラトホテプ星人――ニャル子がいた。
《お前を守るためだろ?》
――そんなことはわかっている。
《じゃあ何が問題なんだ?》
「僕の日常がどんどん壊されていってる気がする」
《それは今に始まったことではないな》
うんうん、と隣で頷く真逆。
一体誰のせいだと思っている。お前だよお前。
《つかお前、俺と声出さずに話できるのか?》
別に出来てもおかしくはない。真逆は僕の心を読める。それを利用すれば声を出さずとも会話出来る。
ちなみにこれは真逆が僕に憑依して一ヶ月後くらいから出来ている。何故こいつはわざとらしく話を振って来るのだろうか。
真逆のことはさておき、今一番の問題はあのニャルラトホテプだ。学校には行っても構わないなどと言うのだから安心したと思えば、あいつはさも当たり前のように転校生としてクラスの中に入ってきた。しかも、八坂ニャルラトホテプ星人などというふざけた名前でだ。
《分かり易くていいと思うが》
――良くない、全然良くない。何故八坂という苗字が入ってる。おかげで親戚という身も蓋もない嘘を吐く羽目になったじゃないか。
そう真逆に愚痴りながら、僕は再びニャル子に視線を向けた。
それに気付き、ニャル子はこちらに満面の笑顔を浮かべてくる。少し殺意が湧いた。
「真尋さーん!」
「こっちに話しかけるな」
「ちょ、冷たくないですか!?」
冷たくない。当然の反応だ。
「そうだよ八坂君」
そう言ったのは、クラスで「歩くスピーカー」の異名を持つ女子。名前は、何だったか忘れた。
《ひでぇな、おい。ダメだなぁ、真尋くんは》
「うるさい黙れ」
「ちょっと何その態度!?」
しまった。どうやら真逆への切り返しが声に漏れてしまったようだ。
歩くスピーカーが僕を睨みつけてくる。怖くはないのだが、少し気まずい。なんとか誤魔化さないと。
「あー、えと、ちょっと耳鳴りがして」
「大丈夫ですか、真尋さん?」
「あ、うん。大丈夫」
ニャル子が意外にもフォローしてくれた。さすがの彼女も、今のはまずいと思ったのだろう。
《なんか、すまんかった》
しかもあの真逆までもが謝ったのだ。明日は嵐かもしれない。
少しクラスの空気が重くなったが、自分が言われたと思っている歩くスピーカーはそれ以上言及しなかった。
内心ホッとしていると、ふとニャル子がドヤ顔でサムズアップしているのが見えた。今回はありがとうと言おうと思っていたが、それで気が失せた。
休み時間が終わり、現代国語の授業が始まった。
始まってすぐに教諭が黒板に書いたのは、簡単な四字熟語の穴埋め問題。これくらいなら誰でも解けるという様な物ばかりが一つ二つと羅列されていく。
それを僕は眺めながら、ふと隣のニャル子の席を、正確にはその机の上に目をやった。
ノートだ。そこに書かれているのは勉学に関するものではなく、直線を幾つか書いた♯の字のようなもの。
そう。隣に座るこの異星人は、あろうことか、マルバツゲームをやっているのだ。
絶対に目をつけられる。
その思いは的中した。教諭がこちらを、いやニャル子の方を向いたのだ。
「なるほど。君が噂の留学生か」
「え?あ、はい」
ほら見ろ、目をつけられた。
だが男性教諭は存外怒ることなく、むしろ異国の学生に対する優しさが見受けられた。
「君もやってみるかね?何、簡単なゲームだと思ってくれればいい」
ニャル子は不思議そうに黒板を眺めると、首を傾げた。
「空欄を埋めればいよろしいので?」
「そう、四字熟語という、中国から伝わった格言だ。隣の人の便覧を借りて見ながらでもいいから、一つやってみるといい」
「了解しました、サー」
いや、教師相手にサーはないだろ。
思わず口に出しそうになるが、グッと堪える。
そして、黒板に書かれた問題を見て、僕は嫌な予感がした。
□肉□食――そう板書されているのだ。
まるでボケろと言わんばかりの設問だ。ニャル子ならばボケかねない。それも、ろくでもないボケをだ。
例えばそう――焼肉定食だとか。
《いや、人肉屍食と書くに一票》
――いや、さすがにそれはないだろ。
しかし、真逆へのツッコミも束の間、ニャル子が書いた文字を見て引いてしまった。
人肉屍食。真逆が言った通りの、予想斜め上を行く解答が書かれていたのだ。
クラス中が引いている。教師もどう反応すれば良いかわからない様子だ。
「え、なんですかこの空気」
当の本人は、さも当たり前のような顔をしているのだから尚の事だ。
実際僕もどう反応したらいいのかさっぱりわからない状態だ。
《まさか本当に書くと思わなんだ》
適当に言った真逆も、よもや的中するとは思っていなかったようで、口元には乾いた笑みが浮かんでいる。
「正解だと思ったんですがねぇ」
「お前、ウケ狙いに行ったんじゃないのかよ?」
「ウケってあーた、私は真面目に答えましたよ?」
「人肉だか屍食だかのどこが真面目なんだよ」
明らかに、誰が見てもふざけてるとしか思えない答えだった。
だが答えた本人は真面目に答えたと言う。それが真実かはわからないけど、目の前のニャルラトホテプは嘘をついている様子には見えない。
しかも、
「実家の斜向かいのお宅の愛犬、ティンダロスくんの常食ですよ?」
などと言ってる始末だ。
「お前らの常識を持ち込むな」
思わずため息が漏れる。
だが正直言うと、真逆よりマシだと思ってしまう。なんせこいつのボケは寒い上に、意味不明。何と言うか、前々から思ってたが、色々噛み合ってない気がする。
《ちなみに俺は「五里霧中」を「ゴリ(蘇生に)夢中」と脳内変換していた時期がある》
「お前やっぱりボケない方がいいと思うぞ?切実に」
◇
授業終了のチャイムが鳴り、僕はすぐさま机に体を投げ出す様な形で、大きなため息を吐いた。
一限の授業以降、午前の部終了まで、僕はニャル子に終始教科書を見せてやらなければならなかった。
それ自体は別に問題はない。一番の問題は、やたらボケを噛まそうとしていたことだ。中には言わせてはならない内容の物もあった。
おかげで僕は防衛線を張らねばならず、午前中から気疲れする羽目になったのだ。
「真逆、お前より面倒くさいとは思わなかった」
あまりにもの疲労に、思わず真逆への発言が漏れてしまう。
だが今回は問題はない。なぜなら、周囲の耳に入るのは「まさか、お前より面倒くさいとは〜」になるからだ。 誰も最初の「まさか」が「真逆」という名前のことを指しているとは思わないだろう。
《おーおー、俺より面倒ってどういうことだ?》
まんまの意味である。
真逆の場合、声は僕と(反応したりしなかったりと曖昧だが)ニャル子にしか聞こえていない。つまり、こいつのボケはスルーしても何ら害はないのだ。
しかしニャル子は違う。こっちは実体もあり、声は僕以外の人間にも聞こえる。スルーしようにもスルー出来ない、してはいけない状況になる。
よって、いちいち止めたりしないといけないニャル子の方が面倒ということになる。
《成る程な。確かに午前中はほとんど俺のボケをスルーしてたな。たまに拾ってくれるが……あれ? なんか目の前が霞んで……》
「さて、そろそろ昼飯買いに行くか余市」
「もう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。なんか慣れてるから」
ある意味真逆のおかげだ。真逆と会っていなければ今よりもっと疲れていただろう。
ちなみに今話したのは友人の余市。結構長い付き合いである。
「さあ行こう、やれ行こう。早くしないとパンが無くなって」
「真尋さん真尋さん」
「さあ行こう、やれ行こう。早くしないとパンが無くなって」
「真尋さん真尋さん」
「さあ行こう、やれ行こう。早くしないとパンが無くなって」
《おい、いつまでそれを続けるつもりだよ》
真逆がツッコミを入れた。よし、これでこいつもこっちの世界に――。
《夫婦漫才かよ》
「これのどこが夫婦漫才だよ」
どうやら、まだこいつはこっちの世界に来たくないらしい。
「んで、なんだよニャル子?」
「いえ、どこに行くんですか? 真尋さん」
「どこって、パンを買いに」
「パンがないなら私の愛妻弁当を食べればいいじゃない。byマリー・ニャルラトワネット」
「悪い、すげー勢いで意味わかんねぇ」
呆れた眼差しで見ていると、ニャル子は鞄から包みを取り出した。見たことのある形。何かはわかる。だがわからない。
「なんだよそれ?」
「真尋さんのために私が愛情たっぷり込めて作った弁当ですよ!」
「はぁ」
そんな気はしていたけど、やっぱり弁当だった。しかも僕のために作ったという。
そうなると当然と言うべきなのか、周りからの視線が痛い。こいつはまた、と内心毒づいてしまう。
「あー、お邪魔みたいだから俺は一人で行ってくるよ」
ほら見ろ。余市が勘違いした。絶対こうなると思った。
僕は微笑みながら去って行く余市を無言で見送ると、ニャル子の方に向き直る。
「さあさ、どうぞどうぞ」
「なんで僕が食べなきゃいけないんだ?」
「それは勿論、先程申した通り、真尋さんのために作った弁当ですから。もしかして、食べてくれないんですか?」
そう言うと、ニャル子は瞳を潤ませてこちらを見つめ始めた。
周りからの視線が余計に痛くなる。
「食べてあげなよ八坂くん。女の子が頑張って作ったんだから」
その上今朝問題になり掛けた、歩くスピーカーの異名を持つ女子が擁護に回った。
「私、病弱であまり学校にも行けませんでしたから、こういうのに憧れてたんです……」
そしておかしな設定まで追加し始めた。
このままではクラス中に誤解され、望んでもいない様な悪い意味のレッテルが貼られてしまう。
「わかったよ、食べればいいんだろ食べれば」
「――っ!? ありがとうございます!」
そう言うとニャル子は満面の笑顔を浮かべる。不覚にも可愛らしいと思ってしまった。
弁当の包みを受け取り、机の上に置く。
何と無く嫌な予感がする。よからぬ物が入っているんじゃないか。そんな気がしてならない。
ただ、それよりもまずは、
「お前らは散れ! 頼むから!」
周囲に集まっていた人を払う。これは食べる前にやらなければならないことである。幾ら何でも、大勢に見られて食べる気は起きない。
僕の言葉に、周りにいたクラスメイトは、各々の席に戻って行った。
それにしても、何故僕はニャル子という害的存在がいながら、意外にも順応しているのだろうか。
不思議に思いながら、僕はため息を吐く。
「どうしました? 真尋さん」
「いやさ、お前。自分の正体バレたらまずいんじゃないのかよ?」
「大丈夫です。どうせバレるなら諸共というやつですよ」
呆れ返って言葉も出なかった。
仕方が無い。そう思い、弁当の包みを開いた。
二段のお重箱が出てきた。
蓋を開け、中身を見ようとして、踏み止まった。
やはり何か嫌な予感がする。
《安心しろ、中身は普通だから》
真逆からの擁護。余計に心配だ。
と思いつつも僕は真逆との付き合いが長い。だからボケる時の口調等はよくわかっている。
そして先程の真逆の口調は、いつになく真面目だった。それこそ、今日は嵐になるのではないかと思ってしまうくらいに。
だから僕は迷わず弁当を開けた。
ある意味予感は的中した。
弁当箱にみっちりと入れられた桜でんぶの上に、申し訳程度にハートの形をした白飯が乗せられている。
「意味がわからない、お前って存在が」
「行動の上を行き、私の存在そのものを否定してますね」
だがそれ以外は普通だったのだ。
それだけに主食の意味不明さが際立っているが、それ以外は見た目の華やかさだけでなく栄養バランスも考えられている。
《だから言ったろう。普通だって》
真逆が言うのも最もだった。
僕が予想していた物よりも、遥かに普通なのだから。
「……いただきます」
では味は?
恐る恐る、僕は唐揚げを口に放り込んだ。
「……う……うまい」
美味かった。肉質も柔らかく、噛んだ時の弾力もある。味付けも完璧で、絶品とも言える美味さだった。
次にナポリタンを口に入れた。
これもまた不味くなかった。むしろどこか懐かしい味がする。
「よかったです。朝早起きして、真逆さんに監視されてまで作った甲斐がありました」
しれっととんでもない事をニャル子は口にした。慌てて周囲を見る。よかった、気づいてないみたいだ。
しかし、真逆が監視?
《別に。俺は料理食えない分ちょっとうるさいだけだ》
そう言って窓際で遠くを見ている真逆が言った。
半透明な体。しかし、顔は薄っすらでもはっきりと見える。
やっぱり、こいつは優しい。それ故にこいつのボケは噛み合っていない。長い付き合いの僕はそう感じている。
「だけど監視するならするで、この主食も止めてくれよ」
《ああ、それは面白そうだったから止めなかった》
「……おい」
前言を撤回したい気分に駆られた。
真逆の行動理念は、面白いかそうでないかだ。そういう部分が多い。だから面倒くさいのだ。
「ささ!どんどん食べてください真尋さん!」
でもまあ、こういうのも悪くないかもしれない。僕はそう思った。
弁当を食べ終えた頃、ふと僕は窓際で外を眺める真逆を見た。その時のあいつの顔は、どこか、何かを懐かしんでいる様にも思えた。
◇
昼休みが終わり、午後一発目の授業世界史。昼を食べ終えた一発目に暗記物となると、当然眠気が襲ってくる。
午前の疲れもあり、僕はウトウトとしながらも必死に黒板を見ていた。
と、その時だった。
「敵の潜水艦を発見!」
突然ニャル子がわけのわからない言葉を叫んだ。寝ていたのだろう。
しかしその思考は直後の出来事で全て吹き飛んだ。
「ダメだ!」
「ダメだ!」
「ダメだ!」
「ダメだ!」
「ダメだ!」
と、先生、余市と続き、最終的には僕以外の男子生徒が「ダメだ」と叫んだのだ。
これにはクラスの女子も唖然としていた。無理もない。
「いや意味わかんねぇよ!?」
かく言う僕も、思わずツッコミを入れてしまったのだから。
「何を言ってるんですか真尋さん。潜水艦を発見したらダメだと叫ぶのが巷の常識ですよ?」
「そんな常識があってたまるか!」
何か頭痛くなってきた。誰か昼休みのあの和やかな時間を返してくれ。頼むから。
「というわけで先生」
「何がというわけだ、おい」
「真尋さんが具合悪いそうなので、保健室に連れて行きます!」
誰がそんなことを!
言おうとして、ニャル子に手で遮られた。
「真尋さん、敵ですよ。一緒に来てください」
小声でニャル子が言う。
敵。つまり、僕を攫おうとしている奴がとうとう学校にまで現れたということだ。
「さあさあ行きましょう真尋さん! 早く行かないと一生治らない物になってしまいます!」
そうだな。このままじゃ、ストレスで胃に穴が開きそうだ。
ニャル子に引かれるがまま、僕は立ち上がり廊下に出る。その際にクラスを見渡すと、先程の奇行の影響が残っているのか、生徒のほとんどがフリーズしたままだった。
「僕まで行かないとダメか?」
廊下に出ての一声がこれだった。
当然である。僕まで行く必要がないのではないかとちょっとでも思っているからだ。
「ダメですよ。私一人で行って、その隙に別働隊が来たらどうするんですか」
その通りだった。
そうなると僕だけの問題ではなくなる。わかっているからこそ、今ニャル子について行っているのだ。
「ああ、早くこんな日々が終わればいいのに」
心からの嘆息が、気がつけば漏れていた。
だがこの時僕は気がついていなかった。
いつもボケるはずの真逆が、先程の教室を出る前のニャル子の発言「敵の潜水艦を発見」にすら反応していなかったことに。
さて、一年という時を経て漸く投稿された今話。もうだめだ、おしまいだぁ!(ぉぃ
自分のギャグセンスの無さが身に沁みる。
さて、感想の中に幾つか、真逆のボケが寒いとありました。よくわかります。ボケが噛み合ってないと。
ここでネタバレ兼言い訳させて頂きますと、真逆の噛み合わないノリ、これ、伏線です(な、なんだってー
そこらへん踏まえてもう一度読み直し、今回の話にたどり着くと、多分正体わかっちゃうんじゃないかな?マジで。
嘘です(は?
ふふふ、信じるか信じないかはあなた次第。
以上、作者である私、不屈の心のただやりたかっただけのコーナーでした。
また次回でお会いしましょう。