なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
お待たせしました。久々の更新です。
心地の良い波の音。どんぶらこ、どんぶらこ。そんな擬音が聞こえそうなくらい穏やかに、僕は得体の知れない何かに乗って海上を移動していた。
ここは一体どの辺りなのか、僕には見当もつかない。
ただそれも気になるが、もう一つとても気になることがある。
「いやー絶好の行楽日和ですね!」
「なあ?ニャル子」
「なんでしょう、真尋さん」
「なんか、すごい時間飛んだ気がするんだけど気のせいか?」
「……キングクリムゾン!」
理解した。今の一言で理解した。要するに何かがサボって、本来あったはずの時間が無かったことにされたんだ。何故わかるのかは不思議だけど。
潮風に吹かれながら、僕は周囲を見渡す。
鳥が宙にいた。だがその鳥は風を受けて優雅に舞うことなく、空中で静止している。
海を見れば、魚も同様、水しぶきを上げたまま動かない。
まるで時間そのものが止まっているかの様だ。
《様だ、じゃなくて止まっているんだよ。海上都市だか海底都市だか、どっちでもいいが、ルルイエが浮上したことにより今全ての時間が止まっている。今見ている現象もそのせいだ》
「解説どうも真逆。やっぱりボケない方が合ってると思う、切実に」
冗談交じりに僕はそう言う。
が、真逆からの返しがなかった。いつもの真逆なら「だが断る」とか言いそうなものの、それすらない。
「真逆、お前どうしたんだ? 昼頃からなんか元気ないし。いつもみたいにうるさくないし」
こうも静かだと、逆に調子が狂ってしまう。歯車が噛み合ってない、そんな気分だ。
隣に薄っすら――呼び方は面倒だから霊化にするが――状態の真逆。その表情はいつになく冴えない。
《別に。ただ、ニャル子のこと見ていると消えた記憶の片鱗みたいな物が蘇って来て》
成る程。道理で元気がないわけだ。さすがの真逆でも、そんな状態ではボケる気も起きないらしい。
《でもその風景はいつも白黒で、出てくる人の顔はのっぺらぼうで》
何だか空気が重い。
僕は何故か、言いようのない居心地の悪さを感じていた。
これはもうニャル子に助け舟を出してもらうしかない。
「そいやニャル子、お前真逆の言葉に反応しないんだな?」
「真逆さん?あ、そう言えば、朝弁当を作っているのを見張られて以降、声を全く聞いてませんね」
「なに?」
いよいよ持ってわけがわからない。
昨日はちゃんと真逆と話もしていたはずだ。ニャル子の話が本当なら、今朝まで僕以外にニャル子にも聞こえていたことになる。
真逆は言った。ニャル子を見てから、自分が無くした記憶の一部が見えると。
そしてそれがきっかけであるかの様に――って、なんで僕はこんなに真逆のことを考えているんだ。
真逆は静かなのだ。いつも五月蝿い真逆が、だ。なら、それでいいんじゃないのか。
「ニャル子、今どこ向かってんの?」
「真尋さんと私の愛の園――すいません、嘘です。ですからフォークをちらつかせないで下さい」
ニャル子とは会って間もないが、こいつが今尚通常運転であることはわかった。
「今我々は、ルルイエという敵の本拠地のような場所に向かっています」
「いやちょっと待て、敵の本拠地なんて初めて聞いたぞ!」
「今言いましたもん」
「……」
「今言いましたもん」
そうだった。あったはずの時間が無かったことにされているんだった。紛らわしいことをしてくれる。
「まあ敵の本拠地って言っても、オークション会場がルルイエってだけなんですけれどね」
「成る程。で、僕も行かないとダメか?」
「ここまで来て、今更何を言ってますか真尋さん」
「いや、狙われてる僕はオークション終わるまでどこかに隠れていればいいんじゃないかって。そしたら商品は届かないわけだし」
「……おお」
ニャル子がポンと手を叩く。
どうやらこいつは後先考えていなかった様だ。
「いやいや。私には真尋さんを守る以外にもう一つ、組織の壊滅という任務もありますし。両方を達成するにはこれが一番なんですよ」
「それにしたって、単独でやる必要はないだろ?仲間とかいるだろ、宇宙規模の組織なんだから」
すると、ニャル子はあからさまに無言になる。
「み、みんな出払っているんですよ」
「実は友達がいないだけだったりしてな」
すると、ニャル子は黙った。黙りながらも、ほんの僅かな涙が浮かんでいる。どうやら的中したようだ。
ふと、気づいた。
妙に肌寒い。吐く息も、白さがある。
「な、なあ、ニャル子」
「なんです?」
「妙に寒くないか?」
「そりゃ、南極に近づいてますし」
今とんでもないことを聞いた気がする。
「なんだって?」
「だから、南極ですよ南極。知らないんですか?」
「いや、知ってるけど、なんでだよ」
「いや、ルルイエってそこら辺ですし」
ニャル子はさりげなく経緯の数字で位置を言ったが、僕にはさっぱりわからない。ただわかるのは、今ここにいる場所が言いようも無く寒いということだ。このままでは凍え死にそうだ。
「さ、さむ、寒い」
「暖めましょうか?人肌で」
「いやいい」
「仕方ありませんね、それならばニャルラトホテプ星伝来の薬品を」
「それも遠慮するから、一番いいのを頼む」
どうせまた何か、便利機能的な物があるのはわかっているんだ。
いちいち突っ込むよりも先に、さっさとこの寒さをどうにかしたかった。
故にこの寒い中、僕が凍傷覚悟でフォークをちらつかせても仕方ないはずだ。そのはずだ。
「わか、わかりましたよ。では真尋さんの周囲だけ、適正温度にします」
パチン、とニャル子が指を鳴らすと、先程までの寒さが嘘の様になくなった。
どういう理屈かはわからないが、どうせ宇宙のとんでも科学か何かだろう。
――大分毒されてるな、僕。
「ところでニャル子」
「今度はなんですか、真尋さん?」
「あれ、何?」
気がつくと、周りに何やら僕らが乗っている生物に似た何かが沢山泳いでいた。
「ルルイエへ向かうための水上タクシーです」
「そういうことじゃない」
「じゃあ、どういうことですか」
無言で僕はニャル子を睨んだ。
「え、えと、あれはルルイエのお客さんですよ」
「あれ全部が?」
「はい、あれ全部がです」
当然の様にニャル子は答えた。
「何が目的だよ。あれ全部オークションの関係者とかじゃないよな?」
「可能性はありますが、殆どが遊びに行く人ですよ」
「……は? 遊び?」
「ほら、見えてきましたよ」
そう言うとニャル子は前方を指差した。
霧によってよく見えないが、ポツリと何かが浮かんでいる。それが徐々に大きくなっていく。
やがて、巨大な島が視界に入り込んできた。
これが、目的地である、海底に沈んだ都市、ルルイエ。
それ自体は別にいいのだが。
「……なんでライトアップされてるんだ」
島の中に見える大きな山は、イルミネーションのように光り輝いている。さらに花火まで打ち上がった。
まさに歓迎ムードというべきか、それに触発された様に僕らの乗る得体の知れない生物が速度を上げた。
ふと、空を見上げると、巨大な影が見えた。それが一羽、一羽と、島に飛んでいく。
今乗っている生物が水上タクシーとすれば、あれは旅客機的立ち位置なのだろうか。
「なあ、ニャル子」
「はいはい、なんですか真尋さん。さっきからそればっかり」
「さっき遊びに行くって言ったよな?」
「はい、言いましたが?」
「いまいち理解出来ないんだが」
「遊園地に遊びに行く以外の目的があるんですか?」
「……はあ?」
遊園地。今、遊園地って言ったかこいつ。
「あれ、言いませんでしたっけ?ルルイエは宇宙一のテーマパークなんですよ」
……ダメだ、思考が追いつかなくなってきた。
そうだ、こういう時は解説くんに頼るとしよう。
《おい、その解説くんってのは俺のことか? おい》
それ以外に誰がいるのか。
そしてツッコミの世界に来つつあるな、よし。
《何がよしだ、ツッコミはやらん。あと俺も知らんからな。俺の記憶の中にあったルルイエは、もっと殺伐とした禍々しい所だったからな》
真逆の記憶というのが少し気になるが、今は目の前のことに集中しよう。
そう。ルルイエと言えば普通は真逆の言う様な雰囲気の姿を想像するはずだ。そうでなくても、神々しいというか、そういうもののはず。
だがニャルラトホテプのニャル子は言った。ルルイエは宇宙一のテーマパーク、遊園地であると。
「真逆さんの記憶の中の物がどんなのかは知りませんが、あのルルイエランドは最初からテーマパークとして作られていましたよ」
「ルルイエランド?」
「はい。株式会社クトゥルーが運営しているルルイエランドです」
ルルイエランドっていうと、某なんたらランドみたいな感じだろうか。理解に苦しむ。
「全宇宙に無数とあるルルイエランドですが、最も人気なのがあれなんですよ」
「えっと、じゃあ石造都市作って原生生物と覇権争いしたってのは」
「結構合ってますよ。と言っても、クトゥルーは会社法人としてテーマパークを建造しただけなんですけど。降り立ったのもわりかし現代ですし、時間も止まってたので原生生物とのいざこざもありません」
最早言葉も出なかった。理解の範疇を越えている。それこそ、目の前にいるニャルラトホテプを行き着くとこまで否定しそうなくらいに。
しかしそれは言わないでおく。
それにしても意味がよくわからない。ここも解説くんに頼むべきか。
《俺の記憶と違うから説明できませんですしおすし》
「よし分かった。おいニャル子、もっとわかりやすく説明してくれ」
ボケを許す暇も与えず、フォークをチラつかせる。
ニャル子は顔を引き攣りながらも、説明を始めた。
「我々は真尋さんを狙っている組織を追ってルルイエに行きます」
「それは聞いた。問題はそのルルイエがわからないんだよ」
「ルルイエはあそこに浮かんでいる豪華な島のことですよ」
「違う、そうじゃない。テーマパークのことだ。全宇宙にあるそのルルイエランド? をなんで地球に作らなきゃいけないのかってことだよ」
少しイライラしながらも疑問を言うと、ニャル子はにたりと笑った。フォークで刺してやろうかと思ったけど、話進まないしここは堪えるとする。
「真尋さんにお話しましたよね。地球は保護されてて、例外を除いて我々惑星保護機構や、認可された輸入業者以外は立ち入りを許されていないと」
いや、初めて聞いた気がする。
「で、その例外ってのがルルイエランドなんですよ。現地時間で何十年に一度、星の並びが正しい位置になった時だけテーマパークが浮上するこの時だけ、一般人が地球に観光目的で入れるのです」
「だからなんで地球に」
《あれだろ、地球の文化のため。そこら辺は俺の記憶と一緒だろ多分》
「ザッツライ! あ、そうそう真逆さんの声聞こえますよ真尋さん」
何故今報告するのかと。
それはさておき、何時だったか(確か昨日のはず)真逆とニャル子が話していた、地球の立ち位置の様な物を思い出してみる。
地球に存在する文化、例えば映画や漫画と言った娯楽は宇宙人からすれば喉から手が出るほど欲しい物。そのため街中に宇宙人が右往左往しないために、ニャル子が所属する惑星保護機構が規制を敷いている。という話だったはずだ。うん、そのはず。
《つまりルルイエは、ある一定の条件を満たすと現れる、誰でも入れる隠しダンジョンみたいなもんか》
「まあ、そんなところですかね?」
「ちょっと待て。勝手に話を進めようとするな」
《いやいや、そろそろ理解しようぜ? どこの誰とは言わんが、呆れるっての》
どこの誰とは誰だよ。思わずツッコミそうになるがここは堪える。話が進まなくなる、というのは明白だから。
「真尋さん。つまりあれですよ。ルルイエというのは、三人倒すとプレイ出来る、車を破壊するステージですよ」
「なんだそのいやに限定された、持ち主涙目の最悪なボーナスステージは」
明らかにそういうもんじゃないだろうに、何を言っているんだこのニャルラトホテプ星人は。
「あ、着きましたよ真尋さん!」
大体の内容はわかった。今僕が地を踏んだ、このルルイエランドは、宇宙人が直に地球の文化に触れることが出来る、数少ない場所らしい。
そのため、中は宇宙人だらけになっている。これが皆、地球の何かしら興味があってやって来ているのだと思うと、複雑な気分になる。
でもまあ確かに、興味のある物や好きな物は、ネットで見るよりも直に見てみたいと思うから、分からないでもない。
「あれはルルイエランドのマスコットでして――」
それにしても先程からニャル子が横で、ふと目にしたマスコットについて語っている。耳をシャットダウンするつもりだったが、聞いてみると明らかに危うい説明だ。
「というわけで、一緒に写真撮りませんか?」
「存在自体が危うそうな存在とは関わりたくない」
《遊園地のマスコットだぞ? 撮らなきゃ損だろ》
「見た目歪な存在とは関わりたくない」
ただでさえ周囲は人間でない何かばかりで頭が痛くなって来ている状態で、写真なんぞ撮ってたまるか。
とりあえず、さっさと事を終わらせたい。そしてニャル子を帰らせたい。真逆のせいで平穏なんてものはやってこないが、少なくとも二人厄介なのがいるよりマシだ。
「よし、さっさと行くぞ」
「お、やる気ですねー、真尋さん」
「やるのはお前だろニャル子。僕は何もしないし、極力関わらない」
ああ、なんだか胃がモヤモヤする。早く平穏よ、やって来てくれ。
そう願いながら、僕はニャル子と共にオークション会場へ向かうのであった。
《あれ? なんか俺ハブられてね?》
「お前は存在してないだろ」
《Oh……マイドント》
「意味がわからん」
本当に早く、僕に平穏を下さい。
如何でしたか?
どうも、不屈の心です。
最近寒くなりました。皆さんは如何お過ごしですか?
私は、毎年寒い時期は、コタツか布団に入ってゴロゴロしています。
さて、あと数話で第一巻辺りが終わるわけですが、真逆の正体はなんなんですかねぇー? というか、段々空気と化してきている気がする。
ですが大丈夫。もうすぐ真逆が活躍します。恐らく多分←
では、次回もお楽しみに。