なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
連日じゃないけど連日投稿です。
ルルイエランドの中を走らされること数分(時間が止まってるから分からない)。僕の視界に、教会らしき建物が入っていた。
「ここのようですね」
隣に立つ這い寄る混沌が呟く。
「一応聞く。合ってるんだよな?」
「はい。ほら、私の邪神レーダーが反応してますし」
なんだそのレーダーは。今初めて見たぞ。まあ突っ込んだところで無意味だから何も言わないけど。
「でもこんなところでやるもんなのか?」
教会のイメージと言えば、何かお祈りする場所、というものしかない。それがオークション会場と言われると、信じ難いというか、複雑な気分になる。
「一応、非合法のオークションですからね。人目につかないように、でしょうね」
人じゃないのに人目とはこれ如何に。何てこと思っても口にしない。うん、どうすればツッコミを回避出来るか大体分かって来た。
「と、忘れてました」
ふと、ニャルラトホテプ星人のニャル子が手を叩き、制服のポケットをまさぐり始めた。
一体何を出すつもりだこいつ。
「真尋さんにこれを」
そう言ってニャル子は黒い箱を僕の前に差し出した。大きさからしてポケットに収まる物じゃないが、気にしないでおこう。
「これなに?」
「婚約指輪です」
ニャル子が頬を朱色に染めて、そんなことを言った。よし。
「ああ! ちょ、なんてことを!」
僕はニャル子から箱を引っ手繰ると、そのまま地面に叩きつけた。ついでに四、五回踏みつける。
「バカなこと言ってないで、さっさと化け物退治に行くぞ」
「うう、フラグをことごとく潰してますね真尋さん……」
僕の言葉を尻目に、ニャル子はマジ泣きしながら箱を拾った。そして再びこちらに差し出してくる。
「なんだよ。今度は結婚指輪か?」
「それはそれで魅力的ですが、違います。お守りのようなもんです」
真面目な顔でニャル子が言う。そのため、ため息混じりに受け取った。最初からこうすればいいものを。
「で、これ何が入っているんだ?」
「災いですよ。イッツァ、カラミティ」
よし、こんな危ない物は空の彼方へ投げ捨ててしまおう。
「冗談です!冗談ですから投げないで下さい!」
「お前はなんでそう。開けさせたいのかそうでないのかどっちなんだよ」
頭を痛めながら、背負っていた鞄に黒箱を入れた。
「では、行きますよ」
仕舞うや否や、ニャル子が扉を開いた。鍵でも掛かっていたりするんじゃないかとも思ったけど、どうやら違うらしい。本当にここなんだろうな?
疑問を他所に、ニャル子は悠然と中に入って行く。僕も仕方なく、後に続いた。
「なんでこんな広いんだ」
中に入ってみると、外見に見合わない通路が目に飛び込んで来た。先が見えない程、その長さは果てしない。
「空間が歪んでますから」
「そうか、ならしょうがない」
どうせそんなことだろうとは思ってたけど、いざ反応すると、僕は大分毒されている気がする。
「奥に行きましょう」
ニャル子の声掛けと共に、僕は歩を進めた。
床を叩く音が反響している。静かだ。
静かで気づいたが、昼間同様、真逆の声が聞こえない。姿も見えないし、もしかして空気を読んだのだろうか。毎度こうなら有難いんだけど。
張り詰めた空気が続く。先程の騒がしい空気は何処かへ飛んで行ってしまったみたいだ。
「……お出迎えのようですね」
ニャル子が足を止めた。彼女の視線の先には、これまで僕を襲おうとして、ことごとく撃破(一部無かったことに)された、ナイトゴーントだ。
「真尋さん! 私に任せて先に行って下さい! いやなに、すぐ追いついてみせますよ!」
「分かったから、さっさとやっておしまい」
「アラホラサッサー! て私のボケをボケで倒された!?」
何と無くボケてみた。こういうのは普通真逆の役だが、うん。まあ気分だよ気分。そろそろ胃があれだから。
「ええーい、侭よ!」
使い道の間違えた日本語とともに、ニャル子はポケットから何やら取り出した。あれは確か『冒涜的な手榴弾』とか言ってた気がする。いつ言ってたか忘れたけど。
というか。
「おい、ちょっと待――」
制止する間も無く、ニャル子は手榴弾を投げた。
慌てて後ろを向き、耳を塞いだ。
爆発音が、塞いでいても響いて来た。地面にもその振動が伝わり、思わすその場にへたり込んだ。よし。
「さあ、片付けましたよ真尋さん! て、ひぎぃ!?」
フォークを投げると、物の見事にニャル子の額に突き刺さった。頭にリンゴが乗っていたとしても、結果は同じだったろう。
「ちょ、額って真尋さんあなた!」
「五月蝿い! こんな屋内でぶっ放すのが悪い! 生き埋めになったらどーするつもりだ!」
「この程度生き埋めになるなんて、って痛ぁー!?」
口答えしそうだったから、額に刺さったままのフォークを思い切り抜いた。額からドクドクと血が流れている。今思うと、少しやり過ぎたかもしれない。
「とりあえずそれ禁止だからな」
「で、ですがこの手榴弾は、私の宇宙CQCの中でも屈指の威力を……」
「最早近接でも格闘でもないだろ」
オヨヨと言いながら、額に手を当てて涙を流すニャル子。やっぱりやり過ぎたかもしれない。
「……でもまあ、額に投げたのは悪かったよ」
「……っ! 真尋さん……!」
「ほ、ほらさっさと行くぞ!」
ニャル子が抱き着こうとするのを交わし、進行を促す。その際にはもう、額の血は消えていた。
無言で再び進む。床を叩く音が、さっきと同様、反響している。一体どれだけ歩けばいいのか。いい加減疲れてきた。
「……真尋さん」
「なんだよ?」
少し項垂れていると、ニャル子がまたも立ち止まった。
顔を上げてみると、前方に終わりが見えた。どこに繋がってるとも分からない出口が開いている。
「……出口か?」
「正確には入り口でしょうね」
確かにその通りだ。この先には異形の生物やらがうじゃうじゃいるはずだ。敵の本拠地へと繋がっているのだから、入り口と言った方が正しい。
「行きましょう、真尋さん」
「あ、ああ……」
するとニャル子が、先へ進んだ。生唾を飲み込むと、僕も倣って足を運ぶ。
入り口を潜って視界に入ったのは、ドーム状の空間だった。外の見た目的に、こんな構造の物はあり得ない筈だけど、まあ空間歪んでる影響だろう多分。
それにしても。
「……誰もいないな」
「……そうですね」
周囲を見渡しても、なんの気配も無かった。外周には観客席らしきスペースがあるけど、そこには人一人、いや異形の一つもない。
本当にここであっているのか? そんな疑問が頭を過る。想像では、コロッセオに剣闘士を見んとする民衆を彷彿させるような、そんな光景だったけど、今目に映っているの正反対の物だ。
「おいニャル子。本当にここなんだろうな?」
白を切らし、ニャル子に問い掛けたそのときだった。
「ようこそ、本日の主賓」
突然、声が聞こえた。
そして視界に、いつの間にか立っていたそれは入ってきた。
老紳士。立派な顎髭と、白髪を持ったそいつは、何か貝のような物に乗っている。
「何だ、あれは」
「今回の黒幕と言ったところでしょう。ナイントゴーントがやたら現れるから、薄々気づいてましたがね。ノーデンス」
ノーデンスという名に覚えがある。と言っても、大雑把にだが。
「ノーデンスって、旧神の一匹ていう。人間に友好的なやつじゃなかったのか」
「いや、真尋さん。以前お話しましたが、地球住む人間を地球人と呼ぶのと一緒で、全部引っくるめてノーデンス星人って事なんですよ。地球のクトゥルー神話の元になったのは、綺麗なノーデンスだったんでしょう。こいつは逆の悪い奴ってことです」
ああ、そう言えばそんなこと言ってた。うん、何と無く理解した。
そんな時突然、周囲から歓声が上がった。驚いて周りを見ると、先程は何もいなかったはずの場所に、これでもかと異形の生物がひしめき合っている。想像してた光景ではあるけど、いざ目にすると気味が悪い。
「どうやらお客様も待ち侘びていたようだ。触腕を伸ばして」
「そんなもの伸ばすなよ」
思わずツッコミを入れてしまった。
「では、闇のオークションを始めよう」
そんなことはお構い無しに、客席の化け物達が更なる歓声を上げる。
「そんな余裕ぶっていいんですか、ノーデンス。この私が来たからには、あなたも、ここにいる客も皆殺しですよ」
時折、どっちが悪者か分からなくなる。仕方ないよな、仕方ない。
「ニャルラトホテプが派遣されるのは最初から分かっていた。であれば、幾らでも対策は出来よう」
おいおい。大丈夫か惑星保護機構。
「分かっていたからどうだと? 対策しようが、あなた方の死への時間がほんの少し延びるだけですから」
というか、こいつには逮捕という考えが無いのか? 何というか、ややこしい奴だな。
「ならばお披露目しようではないか。その対策を」
ノーデンスが片手を振り上げた。すると周囲の騒がしさは一転、静けさに変わる。
「何だよ、一体」
息を呑み、事が進むのを待つ。いや、別に待つ必要はないのかもしれないが、僕ではどうすることも出来ないし仕方ないよな。
「ふんぐるい・むぐるうなふ・くとぅぐあ・ふぉまるはうと」
聞いたことがあった。確か、真逆のやつも昔似たことを言ってた気がする。なんだったか。うん、忘れた。
「んが痛っ!」
あ、噛んだ。噛んだぞ今。
「ぐああ・なふる・たぐん! いあ! くとぅぐあ!」
「うん、お疲れ。噛んだけどお疲れ」
「ホントにですね、まったく。かっこつけて慣れないことするから」
「ええい、黙れ! その減らず口、叩けぬようにしてやる! 先生、お願いします!」
するとノーデンスが巨大な貝の乗り物を真横にスライドし、見えなかった向こう側を露わにした。
「あれは、炎?」
思わず声を漏らす。
そう、炎があった。
いや、ただの炎じゃない。
炎の中に、人らしき姿があった。それは少女とも取れる姿をしていた。僕と同い年くらいに見える。
だけど、そう、神々しく見えた。そもそもこのニャルラトホテプ星人も、本来神性を持ち得た存在なんだ。そう再認識させられた。
「げ、クトゥグア!?」
「クトゥグアっていうと、生きた炎の?」
「はい。私達ニャルラトホテプ星人とは犬猿の仲ですよ」
なんだか、相当まずいような気がした。
でもなんだかんだ言って勝てるだろう、こいつなら。
「……勝てる、よな?」
「いやー、その、あははは」
うん、ヤバイかもしれない。これまで苦もなく進んで来たけど、ここまでこいつが臆してるような雰囲気だと、ヤバイかもしれない。
「どーするつもりだよ! ここまで来て、勝てませんでしたとか言わないよな!?」
「いやー、でも、苦手なんですよ。しかも、あの個体」
「なんだよ?」
「あの個体、クー子とは宇宙幼稚園、宇宙小学校と一緒だったのですが、その、筆舌に尽くし難い喧嘩をしてきまして」
「なんだ、それなら対処法くらい」
「いえ、ないんですよねこれが。ホントに苦手なんですよ」
どうやら、ホントにやばいみたいだ。
「どうするんだよ、おい!」
イライラしながら、まさにニャル子の肩を掴もうとした時だった。
「真尋さん、危ない!」
いきなりニャル子が、僕の胸を押した。 堪らず転ぶ僕は、痛みに顔を歪ませる。
「おい、何を――」
何をするんだこの馬鹿。そう叫ぼうと思った僕は、顔を上げてその言葉を飲み込んだ。
ニャル子がクトゥグアに首の根を掴まれて持ち上げられ、苦悶の表情を浮かべていたのだ。
「二人きりの、誰もいないところでするがよい」
しゃがれた声に反応し、その方向を見やった。
ノーデンスだ。ノーデンスが両手を二人に突き出している。そこから出てきた黒い球体を見て、本能的にヤバイと感じ取った。
どんどん膨れ上がって行く球体。
そして、どうすることも出来ず、ニャル子とクトゥグアは黒い球体に飲み込まれるのをただ目にするだけだった。
「これ、冗談だよな?」
一人取り残され、呟く。
ここまで来ると、流石に危機感を隠せない。これまでニャル子がいたことで、有る程度感じずにはいたが、現状だとそれも叶わない。
冷や汗が流れる。これは、まずい。
「これで邪魔者もいなくなった。それではメインイベントと行こう」
ノーデンスの言葉を聞くや否や、足に違和感を覚えた。見て見ると、あいつの髭が絡んでいた。
「うわっ!?」
髭がいとも容易く、僕の体を持ち上げた。宙ずりにされ、逆さになっている。
「あ! ちょ!」
そのせいで、鞄が地面に落ちた。
「さて、会場の皆様に吟味して頂くとしよう」
髭に持ち上げられ、体がぐるぐると回される。まさに品評会のような、って冷静に分析している場合じゃない。
何か、何か手段はないか。
頭を回転させ、現状の打開策を探す。
そこでふと、思い出した。確かここへ来る前、ニャル子にお守りということで貰った物があるはずだ。それを開ければ何か。
だが、無理だとすぐに分かった。その貰った黒箱は、頭上に落ちている鞄の中にあるのだ。手を必死に伸ばしても、届きそうにない位置にある。
「くそ、離せよ!」
万策尽きた。そう悟り、それでも負けじと僕は体を動かし、叫んだ。
「離せよ!離――」
突然、口を動かせなくなった。ノーデンスに何かされたわけでもない。それにこの感覚、覚えがある。
《真逆! おい、真逆なのか!》
そう、真逆と入れ替わった時の感覚だ。
けど、声を掛けても返事は無かった。
代わりに、体が動き、絡まった髭へと手が伸びて行く。
「ん、何をする気かね?」
それを見たのかノーデンスが、ほくそ笑んだ声で言った。
「無駄なことだ。諦めるのだ」
しかし次の瞬間、それは悲鳴に変わった。会場がざわつくのが、何と無く聞こえる。
「ぎいぃ――!?」
何をしたのか。それは、僕の体が、ノーデンスの髭を引き千切ったのだ。
「ば、馬鹿な!? わしの髭は、人間の手では引き千切れぬはず!」
ノーデンスが驚く。無理もない。僕ならば無理だったはずだ。そう、僕ならば。
でも入れ替わった真逆には可能だった。こいつの怪力は、ナイトゴーント倒して尚、有り余る程の物なのだから。
けれど、何か様子がおかしい。真逆がやけに静かだ。
そう思った時、ふと僕の視界は両手を映した。
《なんだよ、これ?》
両手が黒い何かに覆われていた。いや、手だけじゃない。足にも、体にもだ。
《おい真逆! なんだよこれ! 何がどうなって――!》
必死に真逆に呼びかける。けど返事はない。
そして、僕の視界は漆黒に包まれた。
◇
真尋が意識を失った後、オークション会場は騒然としていた。
ノーデンスの顔は恐怖に染まり、他の怪物達も動揺を隠せなかった。
彼らは皆、今回の商品は"ただの人間"だと思っていた。
しかし、彼らが今目にしているのは人間ではなかった。彼らの下にやって来た"本来人間であるはずの存在"は、全身に漆黒の闇を身に纏っている。異形であり、中には神性を持つはずの彼らですら、その存在は自分たちを遥かに超える異形だった。
会場内の者達は皆思った。死神というものが存在するならば、まさにこの様なものの事を言うのではないかと。
彼らは思った。何だ、あれはと。
――彼らは目にする。死神がニィと笑みを浮かべたのを。
――そして彼らは耳にする。
『お前ら全員、皆殺しだ……』
――死刑宣告を。
あれれー?おっかしいぞー?
こんな展開、予定してたっけかなぁー?(プロット見ながら
はい、どうも。なんか、真逆の設定を考慮した結果、とんでもな展開をぶち込みました不屈の心です。
今回の展開のせいで、真逆の正体に疑問を持った方、いるんじゃないでしょうか? いない? なら仕方ないですね、私のせいです。
次か、次の次に一巻の話が終わります。果たして真逆の正体は明かされるのか!?
次回もお楽しみに。