なんか八坂真尋に憑依したらしいけど、ツッコミとか上手くフォーク投げるとか出来ないし、何より面倒だからそこら辺は本人に任せて俺はボケに回ることにした 作:姉川春翠
「――さん! ――ひろさん! 真尋さん!」
誰かが呼ぶ声が聞こえて、僕は目を開けた。
すると視界に入って来たのは、ニャルラトホテプ星人、ニャル子の顔だった。
「真尋さん! 良かったぁ!」
満面の笑顔で、何かを歓迎している。
僕は、ずっと寝ていたのだろうか?
「ニャル子、僕は……」
朧げな意識の中周囲を見渡し、目を見開いた。
「なんだよ、これ……」
周囲は瓦礫の山だった。正確には、建物自体は無事で、でもオークション会場の客席であった場所は、砕けたりしていて大荒れになっていた。
「ニャル子、お前がやったのか?」
思わず聞いてみる。
すると、ニャル子は首を振って否定した。
「私が来た時は、既に」
じゃあ一体、何が。
考えていると、ある光景がフラッシュバックして来た。
そうだ。確かノーデンスの奴に捕まって。その時真逆と入れ替わって、それから――何か闇のような物に包まれて。
「もしかして、僕がやったのか?」
正しくは、僕の体が、だ。
ニャル子がやったのではないなら、それ以外にない。
ていうか。
「おいニャル子。どさくさに紛れて、何膝枕してるんだよ」
「ええ? 今突っ込むとこ、そこですか?」
うん。だってこいつ絶対何かしてそうだしやりそうだし。
「いやー、流石の私でも突然気絶してる人もとい、突然ぶっ倒れた人には何もしませんよ」
「突然ぶっ倒れた?」
体を起こしながら、引っ掛かった言葉に疑問を投げ掛ける。
「はい。ほら、真尋さんに渡した黒い箱があったでしょう?」
「ああ、お守りとか言って渡して来た」
「クー子を倒した後、それが開けられたみたいで。というのもあの箱はどこにいようと私を呼び出せるわけでして」
「お前、そんなまともでとんでもな物を僕に渡してたのか」
まあ真面目な顔して差し出して来たし、信じはしたけど。まさかそんな凄い物だとは思いもしなかった。本当に、何でもありだな。
「それで、よっしゃ来たー! と歓喜の下ここへ戻って来たら、真尋さんが仁王立ちしていましてね。と思いきや急に倒れるもんですから、そりゃもう驚きましたよ」
「仁王立ちから倒れるなんてよっぽどな」
仁王立ちしてたとか、どんな状況だったんだよ。いやまあ、真逆が体乗っ取ってたわけだし、あいつはやりかねない奴だけど。突然、我が生涯に一片の悔いなしとか言いそうな奴だし。
ため息を漏らし、もう一度周囲を見てみる。そう言えば、会場にいたあの怪物達はどうなったんだろうか。
「ニャル子。会場に来てた奴らは?」
「それが聞いて下さいよ! 皆殺しですよ、皆殺し! 私の楽しみが無くなっちゃったじゃないですか!」
「僕に文句を言うなよ僕に」
いやまあ、僕がやったようなものでもあるんだけど。というかこいつ、どこまで行ってもマイペースだな。
「まあ詳しくはあそこにいる人にでも聞いてみましょう」
そう言ってニャル子が指し示した方を見てみる。
《はぁ、ないわー。いや、これはないわー。はー? いやいや、ないわー》
「なんだよ、あのリアルに落ち込みまくってるやつは」
周りに黒いオーラまで出して、隅の方に体育座りしている何かがいた。半透明な姿を見ると真逆なんだろうけど。
「あいつ、なんか少し髪伸びてないか?」
首辺りまであったあいつの髪は、肩に掛かるまでに長くなっていた。所謂セミロングというやつだろうか。
「おい、真逆」
立ち上がり、真逆らしき何かに声を掛けた。
《いやでもさー? いや、ないわー。その設定はないわー。いやいや、ないわー》
ぶつくさぶつくさと何かを言っていて、反応しそうにない。念のため、もう一度声を掛けてみよう。
「おい、聞いてるのか真逆」
《やっぱりないよなー。ないない。ないわー、ないない》
返事がない。ただの屍のようだ。
まあ冗談はさておき(というか真逆は死んでるのも同義だし)、このままじゃ何がどうなったのか話が聞けない。
よし、かくなる上は。
「いい加減人の話を聞け」
《ぶべらっ!?》
なんの躊躇いもなく、脳天目掛けてフォークをぶっ刺した。
《おま、ちょ、普通頭刺すか!?》
「大丈夫。お前幽霊だから刺さっても怪我しないし血も出ない」
《そういう問題じゃないよね!? そういう問題じゃないよな!?》
ふむ、どうやら漸くツッコミの世界に来てくれたようだ。よし、これで僕も楽ができるな。
《ええ? お前そういう理由で声掛けたん?》
「いや、全然。あと心読むなって言ってるだろ」
《くそぅ、人が衝撃の事実を思い出してショック受けてるって時に》
「衝撃の事実ぅ?」
どうせこいつのことだ、どうでもいい話に決まっている。
「そんなことよりも、これの説明してくれ真逆」
そう、そんなことよりも、何がどうなってこの惨状なのかを聞きたい。
《それを話すと長くなる。そうさのう、あれは二十年程前だったか》
「誰がここでボケろと言った」
《いでおん!?》
今度は額に刺してやった。ニャル子の時は少し悪い気分になったけど、こいつにはならない。実体無いわけだし。
《くそぅ、こいつ》
「だから、早く話せよ。何がどうなってこうなったんだよ」
「真尋さん、私エアーマンならぬエアーウーマンになってますよ!」
「ニャル子。お前は何を嬉しそうに突然話に入って来るんだよ」
頭痛くなってきた。もう寝たい。
「真逆さん。私、気になります!」
《昔昔、あるところに――》
「いい加減話を進めろーっ!!」
もういやだ、帰りたい。
《仕方ないなぁ、真尋くんは》
「その慈悲を持って早く話してくれないか?」
すると真逆はわざとらしく咳払いをした。漸く話すようだ。
《まず、俺が思い出した衝撃の事実を話さなきゃならない》
「そうか、なら早く話せよ」
《いや、お前のせいで話せなかったんだけど。どうでもいいとか言うし》
「分かった分かった。悪かったから、早く話してくれよ胃が痛い」
すると真逆は大きく数回、深呼吸した。何を勿体ぶってるんだこいつ。
《俺、どうやら人間とニャルラトホテプ星人のハーフみたいなんだ》
空気が凍った。
え? 今なんて言った?
《だから俺、人間とニャルラトホテプ星人のハーフみたいなんだよ》
「はぁ!?」
真逆の言うとおり、ここに来て衝撃の事実だった。
まさか、ずっと僕に憑依していたのがそんなのだったなんて。
「いや、さすがに今になってそれはないだろう」
《だから俺も頭抱えてるんだろうが》
なるほど、落ち込むわけだ。忘れていた記憶を、いざ思い出せば、自分は人と異星人のハーフなんて。落ち込まないわけがない。かもしれない。
けどそうなると、色々説明のつく部分があった。
「なるほどー。それで真逆さんは私達に関する知識があったわけですね」
「なあ、ニャル子。あり得るのか? そんなこと」
「どうでしょうね。不可能ではないと思いますが、あまり事例を聞きませんからね。試しにやってみますか? わ・た・し・と」
「そうか、事例は無いのか」
「ちょ、無視しないで下さいよ」
ええい、喧しいニャルラトホテプ星人だな。
《まあ確定したわけじゃないけどな。俺が思い出したのは、ニャルラトホテプ星人の力が俺の中にあるって事だけだし》
そう苦笑して、真逆は前髪で隠れた左目を出した。
そう言えばこいつの容姿が結構変わっている。
まず髪の毛。僕と全く同じの髪型にニャル子の持つアンテナを付けたしたようなものだったのが、前髪が左目だけを覆い、後ろ髪の長さも肩程になっている。色も黒と白銀が混じっている。
顔も、僕と同じだったのが、何処と無く女性っぽくなっている気がする。
そして瞳の色だ。以前は両目とも黒だったのが、今は左が碧く染まったオッドアイになっている。
一体どういう理屈でこうなったのかはわからないが、少なくとも、記憶を少し取り戻したことで変化したのは何と無く分かる。
「なるほどな。それで何で、こんなことになったんだ?」
《この力、結構ヤバイっぽいのか、発現した時殺戮衝動が出たんだよ》
「殺戮衝動?」
《そう。異星人に対する殺戮衝動がな》
思わず、生唾を飲み込んだ。
隣にいるニャル子も、青ざめているのが分かる。無理もないか。こいつも異星人で、幸いというべきか、ノーデンスがどこかに飛ばしていなければその殺戮衝動の被害に遇っていたかもしれないのだから。
「そ、それって私も含まれるんですかねー?」
《いや、むしろ逆みたいだな》
「逆? どういうことだよ」
《どうやらニャル子。お前はこの力にとっての保護対象らしい。ついでにあのクー子ってやつもな》
「はぁ? なんでクー子まで。でもまあ、安心しました」
わけがわからなかった。何故ニャル子は異星人に対する殺戮衝動の枠外なのか。いや、仮にこいつが同じニャルラトホテプ星人だからとして、何故あのクトゥグアまで対象になるのか。
《それは俺にもわからん。記憶が戻れば分かるかもしれんが》
「そうか」
いやしかし、まさか、二年とちょっとの付き合いのこいつが異星人だったなんて。成る程、いつだったかの外人ってツッコミは間違いじゃなかったわけだ。
《おい、なんだよその、あれは》
「あれってなんだよ。まともに突っ込めよ」
記憶を少し取り戻しても、こいつはまだツッコミの世界に完全に入ったわけじゃないらしい。僕の苦悩はまだ続くのだろうか。
《いやだから、ツッコミはやらんてのに》
「でもたまにツッコミするだろお前」
《さあ? なんのことですかねー?》
あからさまに目をそらし、片言になり口笛を吹く真逆。こいつ自覚あるな。
「あの、真尋さん」
「ん? どうした?」
突然ニャル子が服を引っ張った。見ると、指で何かを指している。その先を追って行くと。
「あ、あいつは」
ノーデンスがいた。
「あ、あのー? 騒動は収まりましたでしょうか?」
「あ、はい。収まりましたよ」
「そうですか。いやー、良かった。それでは、私はこれで」
ノーデンスは何事も無かったかのように去って行く。
「なんて許すと思ってるのかぁー!!」
「ひでぶ!?」
ノーデンスの頭目掛けて、フォークを投擲した。
「わ、わわわ私は心優しいノーデンスですぞ!?」
「嘘を吐くなら、もっとマシな嘘を吐けないんですかね? こいつは」
ニャル子がポキポキと指を鳴らしている。クトゥグアと鉢合わせにされたことも含めて、かなり立腹しているようだ。
「いやー、良かったですねー? これであなたは目的を洗いざらい吐けるんですから」
ここぞとばかりにニャル子が話す。よっぽど真逆の話に入りづらかったようだ。
「おら、吐きなさいよノーデンス。何故真尋さんなんですか?」
そう、それも気になっていたことだ。別に地球人を狙うなら僕じゃなくてもいい筈だ。なのにやたら僕が狙われた理由が知りたい。
「真逆の被害に遇ってなくて良かった。お前には全部話して貰わないとな」
そして脅しを掛けると、ノーデンスは全部を話した。
途中から聞く気が起きなかったが、要約すると、僕は宇宙人受けする顔で、ドラマの撮影に使いたかったらしい。
成る程そうか。納得がいく――わけがない。
は? なんだって? そんな理由で僕は襲われたっていうのか? 日常を壊されてまで?
いや、日常はもう真逆のせいで壊されてるけど、これはこれで腹が立つ。よし。
「……おいニャル子」
「はい? なんでしゃう?」
「やってしまえ」
「了解。おら死ねやー」
バキ、メリ、ボキッ、ボリッ。そんなような音が響き渡る中、真逆のほうを見てみる。
笑っていた。まるで悪役のような、狂気混じりの笑いを。
こいつは一体何なのだろうか。
「真尋さん、終わりましたよー」
まあ何はともあれ。
「ニャル子、グッジョブ」
「恐悦至極」
これで、全ては解決した。これからまた、普通の日常を送るのだろう。真逆の正体も気になるけど、きっと死ぬまでわからないままなんだろう。ニャルラトホテプ星人ニャル子とも、お別れなんだろう。これで僕の胃は、解放されるのだろう。
そう思っていた時期が、僕にもありました。
「真尋さーん!」
要約すると、ニャル子は事件も解決し、帰る。筈だった。それをこやつめは、休暇などというものを取り、地球に滞在を継続することになったわけである。
ちなみに組織の黒幕の方だが、昨日惑星保護機構から連絡があって、なんでもよくわからない内に消されていたらしい。もしかしたら真逆の殺戮の被害にあったのか、それともたまたまニャル子が地面に向けて撃った謎光弾に消滅したのか。兎に角、黒幕も消え完全決着した筈だったわけだが。
「なんでお前は残ったんだよ、本当に」
「いいじゃないですかぁ。減るもんじゃないでしょう?」
「SAN値が減る。寿命も減る。何かもが減る」
もう、嫌だ。誰か代わってくれ。なんでもしますから。
《ん? 今なんでもしますって言ったよね》
「黙れ、この混成邪心」
僕の日常は更に崩壊していくのだろうか。それとも、いつか解放されるのだろうか。後者を願いながら、僕の非日常は今日も始まる。
「マジでこいつら、どっか行ってくれないかな」
これにて一巻分、終了です。真逆の正体、これで分かっちゃった人が続出しそう。
尚、原作の方ですが、一度(親が)売ったのを今また買い揃えています。とりあえず1、2、3、5、6を買いました。ん?何か足りない?いいかい、それは足りないと思うからry
さて、次回からは原作二巻目の話に突入です。果たして、あの人は無事で済むのか? 真尋の胃は? 真逆の正体は?
次回もお楽しみに。
P.S. 真逆の人物紹介、書くべきか悩んでいます(二回目