長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。
少しだけ、夏休みを謳歌しておりました。
今日からまた、投稿続けていきますので、よろしくお願いします。
「シスイ! 待て!! 落ち着け!!!」
「落ち着いてられるかよっ!! ハルトがっ、影分身を解かなきゃならねぇ事態なんだぞ!!!」
「そのハルトをそのような状況に追い詰めた敵の前に、お前単身で乗り込んで、何になる。」
「っ!!!」
厳しい言葉。ただ、それが現実だった。
「ミコト。二人を頼む。」
「えぇ。」
「……俺も行く。」
「……。」
「シスイくん……。」
「ハルトは俺らを守ったんだ。俺がもっと強ければ、ハルトだけが残ることなんてなかったんだ!」
その叫びは、【自分への失意】。そして、幼い頃から目標であり、憧れであり、兄であったハルトからの【大きな友愛の喪失】。
「!! シスイ、お前……、」
“写輪眼”
うちは一族が持つ、三大瞳術の一つに数えられる最強瞳力。
大切な者が開眼に関わるこの瞳術を開眼させるということは、つまり、波風ハルトという存在が、シスイの中でそれほど大きなものだったのだ。
普通ならば、写輪眼を開眼したことは、その過程が如何なるものでも喜ばしいことのはずだった。
しかし、
「なんでっ!! 俺はまだ!
ハルトのことを失ってなんていねぇ!!!」
口に出していても、頭では理解している。だからこそ、それが、瞳術という形で表れてしまったのだ。
それは、ハルトの凄さを一番知っているシスイだからこそ、あの影分身の消え方だけで、全てを理解してしまったのだ。
「……シスイ、ついて来い。」
「!!」
「あなた……、」
「イタチを頼む。
それから、シスイの親に伝えておいてくれ。」
「……わかったわ。」
この時、フガクがシスイを連れて行くことを決めたのは、この写輪眼が大きな負の感情の中で生まれるものだから。負の感情の中で手にした強大な力は、術者に多大な影響を与え、暴走を引き起こす場合もある。
それは純粋な子どもであればあるほど、その力にのまれてしまうのだ。
だから、その監視。……そう、思い込むようにした。
本当は見てみたかったのだ。
うちは一族の天才忍者と言われるシスイに、写輪眼を開眼させるまでの影響力を持つハルトが、最後に言ったあの言葉の、
『……どうか、木の葉を疑わないで下さい。』
その意味を。
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「……ハル、ト……っ、」
『主……っ。』
「くそっ、遅かったかっ!」
うちは一族の修行場所の一つ。ミナトたち一行がそこについた時には、既に人の影も気配もなかった。
広がるのは、先程まで戦闘が行われていたことがわかる、クナイや手裏剣の残骸。
そして、その凄まじさを語る、……赤。
『クシナっ!』
「!?」
──ボフンッ!!
弥白がギリギリのところで、大きくなって倒れかけたクシナを支える。
「ごめんなさい、ミナトっ。……ありがとう、弥白。」
『構わぬ。このまま、乗っておれ。』
その言葉に甘えて、クシナはそのまま弥白の背中に乗った。
『感知できぬところに行ったか……。』
「あぁ。ハルトのチャクラももう感じない。残留チャクラはまだかなり残っているから、結界を張って移動している可能性が高いな。」
地面に刺さっている一本のクナイを引き抜く。
「これは……、」
『主の血だ。』
それは、ハルトが最初に攻撃を受けた毒付きのクナイ。
「かなり強力な毒だね。」
『主のチャクラが途中から乱れ始めていた。その毒のせいだろう。』
──そんな中で、弥白を口寄せしたのか。
チャクラが乱されている状態、つまり、自分の意識でチャクラを操れていない状態で、口寄せをすることなど、不可能に近い。というより、どんな術も発動することは難しい。
「お前は消えそうじゃないかい?」
『あぁ。主からのチャクラの供給は切れておらん。今も、微弱ながら送られ続けていることはわかる。』
そんな中で、口寄せ動物を口寄せするだけじゃなく、その存在を維持し続けている。
ハルトの実力はかなりのものだと認識していたが、ここまでだとは予想していなかった。
そして、そんなハルトがやられた敵の姿が、全く見えなかった。
「弥白っ!!!!」
『!? ……シスイか??』
「シスイくん、それに……フガクさん?」
「久しいな、ミナト。」
「……お二人だけですか?」
うちは一族の集落で起こった出来事。ハルトがシスイにうちはの大人、それも警務部隊長に伝えに行くように言った時点で、警務部隊が動くと思っていた。
「お前の息子から、言われたのだ。」
「!? ハルトからですか?」
そんなミナトの疑問を見透かしたように、フガクは答えた。
「木の葉を疑わないでほしい、とな。どういう経緯かは知らんが、木の葉とうちはの間にいざこざがあることを、あいつは知っていたのだろう。
だからこそ、シスイとイタチと一緒に自らの影分身も付けた。」
──シスイから言われたことが、捻れて伝わらないように。
「その意を組んで、来たのは二人だけだ。うちはの者には、何もされていない。こちらが怒る理由も無いからな。」
「ハルト……。」
最早、どこまでもハルトは考えていそうだった。
うちはの優秀な二人に攻撃されれば、問題になりかねない。しかし、攻撃されたのが次期火影と名高いミナトの子どもならば、話は別。
『おそらく主は、そこまで考えておる。』
「!!」
『自らの父は、里を不安に陥れるような問題にすることはないだろうと信じ、自己犠牲を選んだのだろう。』
「……そうか。」
「ミナト……。」
子どもが、自分を信じてそこまでしてくれた。そのことを蔑ろにする訳にはいかない。
顔をあげたミナトは、決意をした強い眼をしていた。
「大丈夫だよ、クシナ。ハルトは俺たちの息子だ。
ハルトを信じよう。」
巨大化した弥白に乗るクシナに優しく語りかけた。
「ミナトさん、……俺っ、」
「シスイくん。ハルトとの約束を守ってくれてありがとう。」
「!!」
「きっと、君だからハルトも任せられたと思うんだ。
それに、君の瞳はきっとハルトを助けるのに役に立つよ。」
「っ! ……はいっ!!」
そう笑顔でシスイに言うと、立ち上がり、改めて気を引き締める。
「木の葉で捜索隊を出してもらう。この事を知れば、三代目もお許しくださるだろう。
フガクさん、ここには木の葉の者が来るまで、誰も近づけないで貰えますか?余計な混乱は避けたいので。」
「あぁ。分かった。」
「弥白。お前は、ハルトから送られてくるチャクラに変化があったら教えてくれ。
今は、お前だけがハルトの生きてる証だからね。」
『分かっておる。』
「……。」
『顔を上げろ、シスイ。』
クシナも加わり、大人たちだけで話している時、少し離れた場所でハルトがいたであろう場所を、シスイが俯いて見ていた。
「弥白、大きくなったな。」
『そんなことが言えるなら大丈夫、
……でもないようだな。』
弥白が下から見たシスイの目には、大粒の涙が溜まっていた。
どんなに天才と言われている忍だとしても、まだ幼子。
そして、その年齢で兄と慕っていた人をなくしたのだ。そういう感情になるのは普通のことだった。
弥白のふわふわの毛が、シスイの俯いていた顔を上げさせる。
『泣くでない。
主が我を残したのは、お主らに主自身が生きていることを見せるためだ。
お主が泣けば、主のしたことは無駄な事になる。』
「弥白ぉ……。」
『……仕方ない。』
弥白の首に抱きつき、涙を流し、そして誓った。
──絶対、ハルトは帰ってくる。
───次は、俺も隣に立てるようになる。
『……
お主はよい忍になる。』