ありがとうございます!
これからも頑張ります!!
「チャクラ、尽きちゃったかな。」
腕に感じる重み。それは、全く苦ではない、むしろ、喜びや嬉しさに近かった。
実際に、ハルトが行方不明になってから一年近く経っていたのだ。
ミナトが感じるそれは、久しぶりに感じるわが子の愛しい重みだった。抱きかかえた腕の中で、肩に寄りかかって眠る姿は、何処かクシナに似ていた。
──ガサガサ!
「!?」
突然、草木が音を立てる。敵の接近には気づかなかった。すぐに、音の聞こえた方向から離れ、クナイをかまえる。
『ミナトっ!』
「弥白っ!?」
現れたのは、ハルトの口寄せ獣である弥白だった。
『主は……、無事か。』
「あぁ……、無事だけど……、」
そこに弥白が現れることは、本来であれば、ありえない事だった。なぜなら……、
「弥白、消えそうじゃないのかい?」
『……我も驚いておる。気を失ってなお、我へのチャクラの供給は途切れておらぬのだからな。』
術者のチャクラによって呼び出されている口寄せ獣は、その人物のチャクラが無くなれば自然と消える。気を失うほどチャクラを使えば、本人の意思に関係なく、消えるのが定石であった。
「まさか、ここまでとはね……。」
『消えることの恐怖から、本能でやっているという可能性もあるが……、主の場合そうでは無いな。』
「ここまでくれば、俺も認めなきゃならないよ。」
──波風ハルトは天才である、と。
それは才能の宝であり、敵から狙われる危険な代物でもある。
『主のチャクラの量は、元来、不均衡であった。』
ハルトを抱えたミナトと弥白が歩き出しながら話す。
『我を呼び出す時……、あれは、術者自身も気づいてない眠っている力に引き寄せられて、口寄せされる。
主の場合、その気づいてない力と、自覚している力の均衡があまりに偏っていた。そして、主はその力を稀に無意識で使用していることがある。』
「君に勝てたのも、そのお陰ということかな?」
『……まぁ、それも無くはない。』
「?」
突然、言葉を濁す弥白の方を見ると、
『主に仕えたいと、……我が強く思ったのも理由の一つだ。』
「へー。」
『ニヤニヤするな、顔がだらしない。』
「弥白のデレ、ハルトが見たら喜ぶよー。」
『絶対に見せぬ。』
周囲も、そして本人も気づいていない。
未知の力を持つ息子を、ミナトは優しく抱きしめた。
───────────────────────
──……
夢の中……??
だって、いくら忍だからって中にふわふわと浮くことなんて出来ない。
でも、すごい心地いい感じで浮いてた。
『精神世界だ、主の。』
「!」
久しぶりに聞いた、その声。
「弥白!」
『久しぶりだな、主。』
弥白のことを抱きあげて、ぎゅーっとしといた。弥白も、嫌がらないでもふもふの毛をすりすりとしてくれた。
「弥白が解除したの?」
気絶した時も、弥白へのチャクラの供給がきれないようにしていたはずだった。
『そうだな。主の体力が回復した頃を見計らって、解除した。寝ていたこともあって、記憶もゆっくり循環したようだ。』
目を閉じると、弥白が見た映像が流れてきた。
「僕……、忘れられてなかったんだね。」
『そんな薄情な者が、主の周囲にいるはずなかろう。』
そうだね、と言う前にハルトの目から涙が零れた。
「帰ったら……、母さんに謝んなきゃなぁ。」
『そうだな。』
器用にハルトの肩まで登ってきた弥白が、ハルトの涙を拭った。
その涙は、戻ってこれた喜びと、味わうには恐ろしすぎた体験を物語っていた。
『その前に確認したいことがあるのだが……。』
「弥白にも何か変かあった?」
『いや。我自身には何も無いが、主のチャクラが乱れたのは感じた。』
「そっか。」
それは弥白が想像していた以上に落ち着いた声だった。
その乱れを初めて感じた時、弥白が滅多に感じることがない恐怖に近いものを感じた。
それを自らの身体に入れられたハルトの苦しみは、想像出来ないものだと考えていたのだが……。
「もう受け入れたよ。それに、
……僕が使いこなせることが出来れば、間違いなく強力になる。」
『!』
弥白は自らの主に対する評価を改めた。
今までも、決して低かったわけではない。契約したのだから、それ相応に使役もしていた。
それでも、……尾獣と同族である弥白でさえ、その評価を最高にしなくてはならないほど、波風ハルトは忍として秀でていたのだ。
「弥白に、僕のチャクラの流れを見てほしいんだ。」
『? ……構わぬが、何をするのだ。』
「僕の身体への負担がかかっている場所、わかんないかなぁと思って。」
『了解した。』
「一つ目。血継限界の“晶遁”を手に入れた。もう、だいぶ使いこなせているから、身体への負担はほぼ無いはず。」
そう言うと、ハルトは印を組んで結晶の手裏剣を出す。
『血継限界か……。火影に報告する必要がありそうだな。』
「そうだね。外交問題にでもなったら、たまったもんじゃないや。」
そんな風に笑って話せるのはここまでだった。
「二つ目。ここから……かな。」
『一体……、何を入れられたのだ。』
「これは、僕もはっきりと発動できるわけじゃない。それに、あんまり発動したくないしね。」
そう言って、次は目を閉じる。開けた時には、ミナト譲りの青い目ではなく、銀色の鏡のような瞳だった。
「これは……ねっ、……っ、鏡眼って言って……っ、瞳術をコピーする、新しいっ瞳術だってさっ。。」
『主! 今すぐ解除しろ!!』
「……っ!」
発動していた時間はわずか数秒。それでも、解除した瞬間、ハルトは肩でゼイゼイと呼吸をし、汗の量も尋常ではなかった。
「やっぱり……、まずい?」
『まずいどころの話ではない。目に集中的にチャクラが集まりすぎだ。
痛みは何度もやれば慣れるとしても、そんなことを続けていれば、失明しかねない。』
「そっか……、結構やばいんだね。」
弥白は見逃さなかった。
自分の主が、その目を覆うように手を当てた瞬間に、
まるで新しいおもちゃを手に入れたかのような、……そんな顔をしたことを。
そして恐ろしいと感じた。
自分が仕えた主が、一体どこまで考えているのか。
どこまで自分を犠牲にしようとしているのか。
──全く想像出来ないことに。