多くの『作品』時空を見下ろす、超越者たちの世界にて。
一人が、他の誰かの求めに応じたかただ書きたくなったか、チラシの裏に文章を書き綴り始めた。
幾多の時空について。
『現実』と呼ばれる、宇宙に出る力と意志に乏しい地球人が暮らす世界も含めて。ただし、その『現実』に多くある歴史の知識を用いて。
主に『銀河英雄伝説』という世界を中心に見ながら。
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まず、『銀河英雄伝説』の技術をいくつか初歩からまとめましょう。
技術全般について、もっとも重要なこと。
『銀河英雄伝説』は1980年代の初版です。第二次世界大戦以前の古典スペースオペラで木星にジャングルがあるようなことが多数あるのです。
『銀河英雄伝説』作中では亜空間跳躍(ワープ)・重力制御・慣性制御。この三つをまず強調します。
核融合が実用化されています。
さらに超光速通信があります。
重要な描写に、ゴールデンバウム銀河帝国の前身である銀河連邦から、テラフォーミングが採算割れになり中止され、人類が住む星が増えなくなる、というものがあります。
自由惑星同盟領でも、ウルヴァシー星はテラフォーミングの途中で放棄され、生活は可能なのに無人星のような状態でした。
最重要の設定として、異星人は出ません。また、異星生物を利用している様子もあまり見られません。家畜・作物などは現実とあらかた一致しているようです……小麦、鹿、紅茶、コーヒーなどがあります。
麻薬も合成分子であり、地球とは起源が違う嵐の惑星でとれる植物のようなものは見かけません。
ワープでは航行できない領域が広くあり、それでイゼルローン・フェザーン両回廊ができています。
また帝国・同盟は航行不能宙域によって閉じ込められたようになっています。
それで人類の領域は、合計でも銀河の五分の一だけです。
ワープそのものも50光速程度。本拠~国境の航行に一月ほど。銀河横断に一生以上かかるスタートレック・ボイジャーよりは速いですが、最初でも一年弱でマゼラン銀河まで往復できるヤマトよりは遅いです。
戦闘中の、戦闘宙域での短距離ワープは見られません。大質量の近くでのワープは禁じられています。『ヤマト(完結編)』で、ディンギル艦隊が波動砲をかわしてカウンターを決めるようなことはありません。
通常航行エンジンの出力……あるいは慣性補正装置や船体の強度の総合は、少なくとも戦艦が敏捷なドッグファイトをすることができるほどではないようです。
兵器は戦艦主砲が中性子ビーム砲。ほぼ艦全体を用います。
レーザー核融合ミサイルや、ウラン弾頭レールガンも補助的に使われます。
ワープそのものを武器として使うことは見られません。
防御シールドもあり、その限界を超えて攻撃されると艦船が沈みます。
キロメートル前後の戦艦が何千、何万と集団になって守り、集団で射つ。それが根幹にあるようです。基本的にはビーム砲による遠距離砲戦が、ミサイルを上回っているようです。
ナポレオン時代の陸戦と言われますが、戦艦より顕著に速度が速く高価な騎兵にあたる艦、一部要塞砲を例外に砲兵にあたる長射程・広域高威力攻撃も見られません。
一応艦載機、個人戦闘艇はありますが、現実地球における軍用機の役割=地形・前線を無視して移動できる。高所からの海上を含む偵察、超高速で防御陣の背後に揚陸する、超長距離砲、というような意味はありません。
むしろ接近戦で手数を増やすのが目的と思われます。
容易に携帯できるサイズの惑星破壊兵器は見られません。
軌道エレベーターは原作にはみられないようです。
超光速通信は即時と思われる、映像と音声を送れるものですが、どうやら高価らしく、気軽ではなさそうです。
遮断が容易で、そのため伝令シャトルや、地上では伝令や伝書鳩すら使われるとのことです。
ある程度は気象制御技術もあるようです。
核融合のエネルギーで食料を得られる水耕農場や、「大小便を水と食料に戻す」システムが、イゼルローン要塞という大規模設備と惑星にしか見られません。1000メートル級の戦艦があっても、補給がなければ飢えを訴え、距離の暴虐というものがあります。
ヤマトなら艦内ですべて循環させることが可能です。
水耕農場あるいは「大小便を水と食料に戻す」システムがきわめて高価で巨大であると思われる、それが、『銀河英雄伝説』の世界における開発の重大なボトルネックになっていると思われます。
イゼルローン要塞の水耕設備も、小麦タンパク質を肉がわりとする程度です。細胞を培養する家畜を殺さない肉、肉と区別がつかない酵母など、水耕農場の延長の技術はそれほど進歩していません。
少なくともルドルフ直前でも『スタートレック』のように貨幣の概念がなくなる水準ではなく、ゴールデンバウム帝国の方針として自動化を忌み人間の肉体を重視することが語られています。
帝国領では農業は人力の水準まで後退しているともあります。
技術水準の低さからか、オアシス惑星で人口300万人、最大人口の惑星でも20憶人程度という少なさも注目すべきです。
無人艦はありますが、有人艦を完全に代替するには至っていません。体当たりやプログラムされた囮など、比較的単純な動きしかできないようで、戦場そのものを任せることはありません。
慣性制御技術は、作中では最初に重要とされましたがそれほど使われていません。
小型の慣性補正装置はなく、それが大型パワードスーツ・大型人型機を不可能にしています……巨大な人型機が素早く動いたり、爆発で吹っ飛んだりすれば、中の人が加速度で死ぬ。
小さく高性能な熱を排する装置もありません。
『彷徨える艦隊(ジャック・キャンベル)』では、艦の加速につれて慣性制御装置が限界を訴える描写が緊迫感を誘い、また機動性の限界にもなりました……無理な方向転換で自壊した艦もあります。
『宇宙軍士官学校(鷹見一幸)』では、個人戦闘艇戦のキー技術です。頻繁な慣性吸収装置の使用で、大気中のジェット戦闘機をはるかにしのぐ超高機動戦を可能にしました。光速に近い速度で飛び、一瞬で静止し、即座に別の方向に加速する、それを超短時間で繰り返します。慣性吸収装置の限界は、燃料切れにも等しい死を意味しています。
また敵の技術ですが慣性中和技術は、角砂糖サイズで山脈の質量がある高質量散弾を普通の艦船に詰めて携行することも可能にしています。
『レンズマン(E・E・スミス)』では、慣性制御であるバーゲンホルムが銀河間距離すら、十年などではない短期間での移動を可能にする最速級の超光速移動技術になっています。
『銀河英雄伝説』の中核をなす、技術と社会との接点に劣悪遺伝子排除法があります。
遺伝子技術・医療技術も後退させています。皇帝家の乳児死亡率の高さは、毒殺もあるにしても高すぎますし、ブラウンシュヴァイク・リッテンハイム両家の出産数の少なさも医療技術の低さを示唆します。
ただし、有角犬程度の遺伝子改良か何かはあるようですが、重要ではありません。
同盟においても、人間の労働が必要なくなるほどの自動化はできていません。人間と変わらない言動・労働・軍務ができるロボットも登場しなかったはずです。
交通はかなり自動化されていますが、それも人手が足りなくなると機能しなくなります。それは現在の日本の信号機・道路補修も同様でしょう。
また原作では、超光速船に必要な船殻・船体が調達できないことが、流刑地からの脱出を抑止していました。
ちょうど現実現在で、いわゆるならず者国家やテロ組織が核兵器を作ろうとしても、マルエージング鋼という強い合金を買った時点で、その鋼を監視しているアメリカにバレてしまうように、ひとつの技術を押さえるだけで多数の人を抑圧できたのです。
アーレ・ハイネセンが子供の遊びから、ドライアイスの船を思いつくまでは。
同盟の日常生活は、ホームコンピュータはありますが2000年前後の日本とさして変わりません。テレビ電話が充実しているのもレトロフューチャーらしさがあります。
ソリビジョンというテレビのような、3Dの娯楽もあるようです。
ホームコンピュータから食洗器を制御することができます……1980年代から見れば天外ですが、2018年から見れば当たり前のことです。
重力制御を利用した球技もあり、同盟では学生が競い合いプロもあるようです。
多くのSF作品のワープ技術を分類すると、大きく分けて「戦場近くでワープ可能」「ゲート式」「戦場でのワープはない」となります。混在もあります。
『宇宙戦艦ヤマト(旧シリーズ)』では、星系の内側で波動砲を小ワープで回避しワープアウト直後にミサイルで攻撃、あるいは攻撃されながらワープして出現直後敵艦に激突、などということも可能です。
『スターウォーズ』も敵要塞のすぐそばに艦隊がワープアウトします。『マクロスシリーズ』のフォールド、『敵は海賊(神林長平)』のオメガ・ドライブも柔軟です。
『無責任艦長タイラー(吉岡平)』シリーズでは、ワープそのものの余波を武器とします。それほどに、危険を無視すればどこでもワープに入り、ワープアウトできます。
『スタートレック』も、ピカード・マニューバーなどワープを柔軟に駆使します。
『レンズマン』のバーゲンホルムはワープとかなり原理が違いますが、どこでも可能という柔軟性があります。個人携行可能であることが大きな特色です。
ゲート・ジャンプ点方式。星系の特定のポイントから、決められた別の星系の特定のポイントにジャンプできる……地下鉄のような印象の移動です。
『星界シリーズ(森岡浩之)』は独特の超光速航法で知られています。
『彷徨える艦隊』は星系の、重力場によってつくられたある場所から、特定の星系にしかジャンプできず、独特の戦略性を形成します。ある星から三つの行き先があり、Aは大都市で大戦力確実だが四つ行ける、Bは袋小路、Cは味方宙域へ向かう行き先があるからこそ機雷だらけに決まってる、などメリットとデメリットをじっくり考えて行動します。またジャンプ点に機雷を配置したり待ち伏せしたりもできます。
『海軍士官クリス・ロングナイフ(マイク・シェパード)』『ヴォルコシガン・サガ(L・M・ビジョルド)』などもジャンプ点を用います。この方式は比較的技術水準が低くても可能である……『クリス・ロングナイフ』では核融合の出力があるだけで、現存の宇宙船とさして変わらない……ため、生活水準が比較的低くても可能です。
『銀河英雄伝説』は戦闘中のワープが見られず、ジャンプ点方式に近いと思われます。
『銀河戦国群雄伝ライ(真鍋譲治)』も戦闘中のワープが見られませんが、化石燃料エンジンのように缶に負担をかけて速力を上げる描写が見られます。
独特なのが『エンダーのゲーム/死者の代弁者/ゼノサイド/エンダーの子供たち(カード)』シリーズ。超光速が(終盤まで)無理で、光速ぎりぎりに加速します。中の人間にとって数日、でもそれ以外の人間から見れば、光年だけの年数……何十年、何百年という年月が経過しています。
それは星系間移動を実質片道切符にし、それほど離れていない兄弟が、弟が行き先に着いたら弟は若いままで、兄は老人、というような悲喜劇を生みます。
転移とゲートが混在する『スーパーロボット大戦シリーズ』、ジャンプ点と、設備が巨大で爆弾になりますが速いハイパーネット・ゲートが混在する『彷徨える艦隊』など、複数の超光速航法が混在することもあります。
『宇宙軍士官学校』は星系内部に突然増援が出ますが、太陽の至近距離などに出られるほど柔軟ではなく、出るポイントはかなり予想できます。ただし負担は大きいですが、戦闘中のショートジャンプが可能です。大型のゲートによる大量輸送も混在しています。