今回……次以降、このようなテーマの本論を読むよりも、
『国家はなぜ衰退するのか』アセモグル&ロビンソン
『自由の命運』アセモグル&ロビンソン
『なぜ大国は衰退するのか』ハバード&ケイン
『政治の起源』フクヤマ
などを読む方がよいでしょう。
文明の発展を阻害する要因として、搾取はどうなのでしょう。
人はなぜ、これほどに残虐・邪悪なのか。
善悪、正義感情を一時別の棚に置いて……本当にそれは儲かるのか、儲からなくてもしたいからするのか。
文明が向上するため、富国強兵や世界征服のため、プラスなのかマイナスなのか。
現実のスペイン帝国もイギリス帝国も、いくつも大陸を得ながらフランスすら征服できませんでした。古代ローマ帝国や江戸日本は産業革命に達しませんでした。
宇宙戦艦SFでも、悪の帝国は多数あります。むしろそれがストーリーのわかりやすい起点ともなります。多くの剣と魔法なろう小説で、帝国がわかりやすい敵であるように。
その特徴は?
奴隷制。
人権がなく、罪がなくとも、いや幼児であっても拷問処刑される。
監視国家・秘密警察。
焚書・言論弾圧・思想統制。
差別。男女・民族・身分・人種、種族・機械生物・その他異質知性……。法の下の平等がない身分制度。
他国を激しく侵略する。
侵略で勝てば大虐殺を行う。
国内の工場などでの、極端な搾取が許可されている。
極端すぎる貧富の格差。
だから当然反乱・反抗(民主化運動)もあり、残虐に弾圧している。
現実の人類の、多くの国がやったことです。
ディストピアもその形の一つでしょう。それこそディストピア自体が、SFのジャンルの一つと言えるほど……ここでリストを出すまでもないでしょう。
多くのディストピアは宇宙戦艦を持たず、他の星や銀河を侵略してもいませんが。
『スターウォーズ』のパルパティーン帝国、『銀河英雄伝説』のゴールデンバウム帝国はまさに悪の帝国の代名詞。
またシリウス戦役の地球統一政府も実際には悪の帝国と化していました。
『宇宙戦艦ヤマト』のガミラス、ガトランティス帝国、暗黒星団帝国、ディンギルなどが地球を襲い、人類を皆殺しあるいは奴隷、脳移植の素材にすらしようとしました。
他にも『スタートレック』のクリンゴン・ロミュラン帝国など、『叛逆航路シリーズ』のラドチ帝国などなど実に多くあります。
『真紅の戦場』の各国もかなり深刻なディストピアです。
比較的普通の国でありながら、敵であるというだけで悪の帝国とみなされるケースもあります。
ここで疑問です。それらの帝国は、本当にそれで儲かっていたのでしょうか?
経済、損得抜きに征服をする帝国も多くあります。
人類を大虐殺する異星人も多くありますが、目的が異なることもあります。
『バーサーカー』など文明を持つ種族の存在を容認せず皆殺しにしようとする。実質単独の集合精神種族で、人類を理解できないケース、また人類という別の生き物が存在していることを認識できないケースも含みます。
『タイム・オデッセイ 三部作(時の眼・太陽の盾・火星の挽歌)(クラーク&バクスター)』の敵は何らかの超次元資源を節約するため地球人が文明を持って生きることを容認できないようです。
宗教的というべき、経済合理性が皆無の理由で人類を滅ぼす、という敵もけっこうあります。『スターウォーズ』非正史ですがユージャン・ヴォングは機械文明が許せない、『宇宙軍士官学校』の粛清者は違法実験の結果生じた人類そのものを駆除しなければならないようなこと、と。
『V(ビジター)』は食料として求めるという奇妙な目的です。
『蒼穹のファフナー』のフェストゥムはある種の善意ですらあるという奇妙さ。
『スコーリア戦記』のユーブ帝圏の貴族は遺伝子の次元でサディスト、悪そのものとなっています。
『ファウンデーション』のミュール、『銀河戦国群雄伝ライ』の群雄のように、帝国が崩壊した後の無秩序を収め天下を統一する、という目的で征服をする帝国もあります。
『星界シリーズ』のアーヴも、見方によってはその敵もそうでしょう。
『銀河英雄伝説』のローエングラム帝国もそうなったと言えますし、ゴールデンバウム帝国の同盟侵略の建前は、全人類唯一の政府を名乗ってしまっている帝国が、叛徒を討伐し唯一政権を実態にすることです。
戦乱の世を終わらせ平和を、というのは善と言えますが、征服される側、無理な外征で絞られる国民にとっては悪ともなるでしょう。
損得は問題ではない、ということも考えられます。目的は秩序……すべての人間が服従していることでも、あるいは魔術・宗教・道徳として心の底から正しくあることでも……であることも多くあります。
歴史的に多くの人間集団は、損得・秩序・宗教を混乱させていました。
現実の歴史でも、ペルシャ大帝国はゴマ粒のように小さいギリシャを手に入れようとしてひどい目にあいました。
スペイン帝国も、新大陸を征服してヨーロッパを征服できませんでした。
隋も秀吉も朝鮮半島を攻めて自滅しました。
征服をするのが義務である、とばかりに無理をして自滅する帝国は数えきれないほどです。
食べきれない。
その一言で表現できるでしょう。
多すぎる食物を食べたら、下痢をしてカロリーはマイナスになってしまう。
広すぎる領土を得たら、かえって国家予算がマイナスになってしまう。
『銀河英雄伝説』のローエングラム帝国の同盟征服は、差し引き損にならないか心配でなりません。
自由惑星同盟の帝国領侵攻は、帝国の入り口程度の辺境ですら食べきれませんでした。まして帝国全部を征服していたら……
駐留軍を置かなければならない。文官も割かなければならない。数の少ない信頼でき有能な家臣を派遣しなければならない。防衛施設も作ったり修理したりしなければならない。道路などの設備も必要。
アレキサンダー大王が、次々と都市を征服しながら旅を続け、その置いていった都市一つ一つに少しずつ将兵を割いていったことも思い出されます。
「搾取」これはそれ以上具体化する必要がない言葉です。
しかし、筆者は搾取について具体的なことを知りません。
たとえば、長時間肉体労働や単調な運動をさせ、睡眠不足を慢性化させることで精神を壊し、洗脳しやすくする…それは軍隊・宗教・部活・ブラック企業などで用いられます。
それで人を、死ぬ確率が高い銃を構えた敵陣に歩かせるのですから、役に立つというものです。
それ以外の様々な搾取は?
実体がない、観念の世界と言っていいものも多いのでは?産業革命の悲惨な労働、でも当時の農村よりましだった……残忍な搾取と言われる時代・場で、人口が急増している……
本当にその搾取が儲かったのでしょうか?
ベルギー王がコンゴで残虐な搾取を行い世界有数の金持ちになった、とは聞きますが……
特に植民地支配で疑問なのが、「市場が欲しい」同時に「現地の人を搾取する」という教科書に多くある描写です。
貧困な人は商品を買いません。
現地の裕福な人を購買先とし、そして現地の普通の人を貧困な重労働者にする、ならわかりますが。
でも現地の皆を豊かにしたら巨大市場ができるのに……と疑問が出ます。
「社会の矛盾」これもそれ以上具体化する必要がない、誰もが納得する言葉です。
でも具体的に何かと言われれば何もない…「時間」と同じように。
もう一つ、気を付けなければいけない罠。豊かな人が悪、貧しい人が善、という二項対立、また貧しい人が奪われ豊かな人が奪っている、というゼロサム。
筆者が大恐慌、バブル崩壊について知っていくとき、貧困層だけでなく富裕層も大損した、ということに衝撃を受けたこともあります。
また歴史上幾度も、平等のための革命がよりひどい悲劇をもたらしたことも思い出すべきでしょう。
搾取をなくすのは簡単ではない……何よりも、すぐ人は、貧しい人はおなかいっぱい食べたい、ということを忘れて別のことが目的になってしまう。搾取と戦うなら何よりも、誰もがおなかいっぱいで、拷問されず、虐殺されないことを目的とすべきだと筆者は思っています。
損得を問題にすると、考えるべき3つの対立……絡み合っていますが。
短期利益と、長期利益。
人間と、機械や設備。
農業至上主義と、商工業。
わかりやすい寓話に、「金の卵を産むガチョウ」があります。待って利益を得るか、すぐ利益を得ようとして台無しにするか。
労働者に食物も与えず鞭と火あぶりで働かせるか。
食事と休息を与え、教育するか。
土地を酷使し、砂漠化したら次を奪うか。
しっかり土地を休ませ、水利を整備し肥料を与えるか。
労働を機械化するか。資金を集め巨大なダムや水路を作るか。
いくらでもいる使い捨ての人間にさせるか。
農業が神聖だとし、交易・工業生産をむしろ否定するか。
交易や工業生産をガンガン推奨するか。
この三つの対立はどの文明にもあります。
そして、本来なら近代という巨大生産力に結び付く後者を選ぶのは、とても難しいことです。
貧しいからこそ前者を選んでしまい、だからこそ貧しいままという悪循環。
ここでは、伝染病も重要な問題になります。
充分に食わせ教育し給料を払ってやっても、半年以内に全員死んでいるのでは教育しがいがありません。質の高い生産をし、消費者となり、子を産み育てることがないのですから。
どうせ半年で全滅するなら……と残虐な搾取が、唯一儲かる方法になってしまう……
また、この二つの心のありかたは、前に考察した「欠乏と豊穣」とも深くかかわっています。
欠乏が当たり前の人間は、どうしても短い時間でものを考えます。何十年も先のことなど考える余裕はない。今食べられるだけ食べ、奪えるだけ奪わなければ飢え死にしてしまう。
特に動物の絶滅や先住民の虐殺に関しては、「自分がやらなくても他の誰かがやる」があります。
また、人間の精神構造として、「法と国家」と「族」の違いもあります。
法を守る、さらに普遍的な道徳も意識している人。
「血のつながった家族・部族……」と、「それ以外」をはっきり分ける。「それ以外」はどれだけ騙してもいいし虐殺するのが正義。人間ではない。「族」のためなら一丸で復讐する。
関係するのが、FBI以前のアメリカ……州境を越えたら追跡できない、あらゆる人が一期一会だから、石灰粉を入れた小麦粉のような嘘をついても逃げられる。それも近代以前では普遍的で、今の地球でもかなり残っています。
植民地を作るときの初期投資も問題になります。搾取している奴隷主たちが、ものすごい勢いで利子が増えていく借金に目がくらんでいることもありえます。
不安定な世界ではどうしても利子が極端に高くなります。今の、経済成長と調和する利子ではない……貸し手が希少、いつ借金を権力でなかったことにされるかわからない世界。徳政令、財産没収刑……旧約聖書にある定期的な借金キャンセル奴隷解放……いつ何があるかわからない世界では、貸し手は極端な利子を取り、猛烈な暴力で取り立てる。
資本主義というか利子と借金の本質、投資し、投資した以上の金額を得る……その過程の多くに、搾取というものはつきものです。
さらに搾取自体が目的化……少なすぎる征服者が統治しようとして、結果的に現地で高等産業を興すことすらさせない、貧困なままだったり人口を減らしたりすることもあります。
途上国は、経済成長を捨てて権力を持つ人たちが支配する体制を続けることが目的となっていることも多いのです。
宗教や、「白人の責務」、国の威信、共産主義と反共、独立など余計な「心」の問題が入ってしまうことも……それは奴隷解放運動になることもありますし、またポル・ポトの虐殺のように搾取をかえって悪質にすることもあります。
搾取は、特に植民地・開拓地の収益・持続可能性と考えることもできます。
開拓地からどれだけ税を取るかによって、
1開拓地が成長できる…新しく農地を開拓し、灌漑・工場・港湾にも投資して人口を増やすことができる
2反乱が起きるぐらい絞る
3絞りすぎて全滅する
と考えられます。
まあ、どれだけ絞れば反乱を起こすかはややこしい、中南米などはヨーロッパがめちゃくちゃになってスペイン本国が事実上なくなってやっと独立したりしていましたが。
植民地が作った金を、植民地の近くや中で投資させれば、植民地はより大きくなります。
ただしそれをやると、投下した資本を回収できるのが遅くなります。今でも株式会社は、利益を設備投資にするか株主に配当するかなど、常に迷います。
考えておくべきなのは、歴史のほとんど、今この現実の地球の多くでも、自給自足・それに近い小農村が圧倒的に多数、という国で構成されていることです。
自給自足、食うので精一杯。多少の余剰作物を納税し、あるいは売って鉄・塩など必需品を買う。小作人と地主の構造があるところも多い。
戦艦を作ることにはあまり貢献していない。
徴兵で多少の人口を差しだしたり、余剰労働力が都市に出たり。
それがある場合、特に餓死しそうになって出てきたときには最安労働力となります。
一般的な言葉では資本の蓄積とか何とかいいますが、筆者はちゃんと学んでいません。
ソ連の膨大な虐殺の相当部分は、農村から穀物を取り上げて海外に売り機械を買う、という政策でした。
独立性の高い農村の集まりから、工業主体の国家……それは中央集権・近代国家への変化にも大きくかかわります。
搾取ができてしまう、反乱を起こさせない……その要因として、人を支配する技術、精神も重要でしょう。
これは「なぜ戦うのか」それどころか、「帝国の衰退」にもかかわるでしょう。「心か物か」の、「心」側です。
人がなぜ群れ、従うのか。
本質的には、人はきわめて容易に洗脳できる……軍隊に、また奴隷に、宗教に。身分制度に。
……地球人、ホモ・サピエンスには、生来、「他者を奴隷化するプログラム」「他者に奴隷化されるプログラム」がプリインストールされている。
それは、実際には小学校の教室から、多くの人が知っているのでは。「天は人の上に人を作らず」は嘘、生来人は主人と奴隷がある、と。学校が平等を教えていても。特にある種の邪悪な人間は、容易にある種の生来の犠牲者を奴隷にできる。他にも様々な支配関係が自然にできてしまう。
人間には進化の水準で、ニワトリやオオカミに順序があるように、順序を決め服従し威張る精神構造がある……狩猟採集民では、富の面では平等になるような圧力、王を作らないように迷信や因習で抑えるシステムもあるが、群れそのものを導く首長に、また年長者に従う構造はある。
それが、血族の壁を超えて拡大したのが帝国……よその人を奴隷化し、服従させ、階層構造を作って農耕を続けさせ、搾取するプログラム。
それをわかっている征服者は、膨大な人を奴隷として搾取することができる。搾取される側はきっかけがない限り反抗できない……江戸時代のいくつもの飢饉、アイルランド飢餓、ベンガル飢饉、ソ連や中国での大規模な農民飢餓虐殺……どれも歴史教科書に書かれるほどの暴力反乱はなく膨大な人々が黙って餓死した。
ただし、何かがあってそのプログラムがバグったとき……社会の何かが抜けた時には無秩序な殺戮、流民になることもある。中国で繰り返し起きる農民反乱のように。
その人を奴隷化する過程は、人の悪を解放してしまいます。歯止めなく、無限に残虐に……それは時には、肝心の利益すら破壊することもあります。無限の超兵器を産むであろうアルキメデスを殺したローマ兵のように。
統治、帝国、搾取……それらを理解したいので、今スペイン・イギリス・唐・古代ローマなどについて色々読んでいます。
まずスペイン帝国。
コロンブスを用い新大陸を得た。にもかかわらず、ヨーロッパ征服すらできず衰退した。
今の筆者から見れば、あれだけの肥沃な大地と鉱山があるのにどれだけ馬鹿なんだ。
なぜ。
善悪を外して損得で考えれば、スペイン帝国の征服と圧政は儲かったのでしょうか?
本来、スペイン帝国が世界征服をするには。
船。大砲。馬。鎧。槍。優れた士官。優れた兵。優れた船員。その食料。帆布。火薬。鉄。
何よりも、食料と鉄を増やす。
多くの人が良質の子を育てる社会……法・医・教育・水道、港湾や道路、工場も。
なぜ史実では広大な大地が軍事力増大につながらなかったのか。
どうしていれば、今の筆者には無限の耕地・無限の鉱山と思える新大陸から、食料と鉄を得られたのか。
反乱予防とも関係し重大だと思えるのが、新大陸での鉄や銅の鉱工業。金銀ではなく。さらに繊維工業。……そちらの情報はあまり得られません。
何よりも船の性能の低さ、航海自体の成功率の低さ。麦を運んで採算を取るなど不可能。
また遠すぎる地をどのように支配したのか。どうやって独立運動を止めたのか。
残虐きわまりない征服と搾取、筆者にはむしろ憎い文化破壊も知られています……しかし、どんな悪行愚行にも大抵は理由があるもの。
戯曲ですが『ピサロ(ピーター・シェイファー)』では、美しい黄金像を溶かしたのは、船腹が足りないから体積を圧縮するため……またインカ王を裏切り殺したのは、自由の身にした王が一声かければ少数であるスペイン人は皆殺しにされるから……と、悪行にも理由がありました。
簡潔にまとめると、強すぎるキリスト教と伝染病が交易や間接統治を許さなかったし、距離・海運力の低さ・割ける人数の少なさが限られた利用しか許さなかった、となるでしょうか。
「儲け」「世界征服」それ自体が間違った問いである可能性もあるのです。
狂信的な宗教的熱情もありました。帝国の目的は世界征服ではない、という文書もあります。
実際には黄金と殺戮のむき出しの欲望としか見えないのに、建前としてたとえば、相手が知るはずのないスペイン語で「キリスト教国ならそう言え、答えなかったら蛮族として征服する」と叫んでからというド偽善もありました。偽善はあったわけです。
教会も、新大陸では教会は王権に従うということ、ローマ教皇の権威権力、いくつもの修道会、さらに異端審問官さえ普通の教会権力構造とは外れている、と錯綜していました。
教会も王権も、何度となく先住民を優しく扱うよう立法布告していたことは確かです……現地での実情はともかく。また布教改宗は譲れないとしても。
上のほうはひたすらそういう宗教的理想ばかり議論している。その間に下では残虐な征服と奴隷労働、それが極端な階層社会の形成になっていく……
最初に考えるべきなのは、スペインとは何か。
それ自体がとんでもないのです。本来はイベリア半島の北方隅っこで割拠していたアラゴン・カスティリャなどいくつかの王国……それが婚姻で結びつき、仮に一つになりました。さらにイスラム帝国の混乱に応じ、また十字軍の延長で拡大しました……レコンキスタ。
今もスペインは、バスク・カタルーニャと自治独立問題を抱えています。何度も深刻な内乱を経験しています。内部の遠心力が非常に強い。
水と油が混ざり続けるためには、敵が必要でした。ずっとレコンキスタで戦い続け、それが終わったら海に出ました。
さらにコロンブスの時代から、ハプスブルク……フランスをはさんだヨーロッパ中央、ドイツやオーストリアのあたりとも一つの国になりました。イタリアやシチリアもありました。一時はポルトガルも取りこみました。当時のスペイン王の称号はとんでもない数の王国名が並びます。無茶にもほどがあるというものです。
さらに宗教改革……ルターの論題が1517年、コロンブスが1492年、ほぼ同時期。スペインはカトリックの盟主として、また双頭の鷲の旗を掲げるローマ帝国の後継者として、プロテスタントとの戦いが膨大にありました。特にオランダの独立戦争は新大陸の金銀があるのに王が破産を繰り返したほど。
宗教改革に対する反動、教会は反動を強め異端審問が爆発し、社会を厳しく締めつけました。それは経済にも大きな妨害となりました。
イベリア半島の先住民だったユダヤ教徒も、イスラム教徒も追放してしまいました……優れた能力を持つ膨大な人口を失い、暴力と狂信しか知らない人間ばかり。
さらにイギリスを攻めて無敵艦隊の壊滅、オスマン・トルコとの戦争……
あまつさえ、そんな世界中を征服し世界中で戦争するのに、スペイン王が徴兵徴税できるところはカスティリャ王国ひとつしかありませんでした。ナポリもカタルーニャも断固拒否。
というわけで、ヨーロッパ大陸での動乱がスペイン王国の関心の大半でした。新大陸に割く力はごくわずかだったのです。
コルテスもピサロも、事実上本国からの支援なしで征服を成し遂げたのです。
一言で言えば、食べ過ぎで消化不良。とにかく領土が、王国が手に入ってしまう。のちにはフィリピンも手に入れてしまう。それを支配しようとして無理をして自滅していく。手放せと忠告したくなりますが……
まずカトリックの守護者、ローマ帝国の後継者のプライド。本質的には分裂している国上層の内情。
富が手に入る。王が献上された金塊を見てしまい目がくらみ帳簿を忘れる。膨大な費用をかけてしまい、借金をしてしまっている。……
領土を手放すのは簡単ではない、それができたのはフランスがルイジアナを、ロシアがアラスカを売ったぐらいのことです。収支計算といってもGNPという概念もなければ、損得など計算のしようもありません。
さらに、レコンキスタの過程は、封建領主の集合体から絶対王政への、歴史の変化もありました。
レコンキスタそのものが、膨大なユダヤ人、イスラム教徒を国外追放した、実質民族浄化の面もあります。膨大な人間を人間と認めず殺し追い出し奴隷化することも、当たり前になっていたというものです。
絶対王政が過渡期だった、それは王権が強かったといってもまだまだ徴税能力が低いことを意味し、財政基盤がない……そこで大砲、帆船という高価な兵器が必要になり、徴兵制が発達しないので傭兵。それで借金。産業水準が低いことも、税収の低さにつながります。
スペイン王室は何度も破産を繰り返し衰退しました。
十字軍精神も強いものがあり、宗教改革に反応したカトリック、精神・宗教もきわめて強く当時の歴史を動かしていました。大航海時代の大きな動機に、アジア側のキリスト教国プレスター・ジョンの伝説もあります。
建前上は征服・統治に利を求めるなという文書が多数あります。産業を強め富を蓄えて世界征服をする、という目的意識そのものが、当時の為政者の価値観とは違っている可能性も高いのです。
まず何よりも、疫病による先住民の人口減少。
狂信的といっていい信仰。それが先住民の文化を徹底的に否定し破壊せずにはいられませんでした。
あまりにも外見も習俗も違う、違う人種との接触……人種差別が、ヨーロッパ人の根幹になってしまったのも痛恨です。
スペイン生まれのスペイン人、新大陸生まれのスペイン人、混血、先住民、となる階層……さらに先住民貴族もあり、黒人奴隷もあり、先住民も多様でした。
複雑なカースト制度ができあがってしまいました。
本質的には、本国から軍が気軽に往復できない距離……前に考察した、遠すぎると背負った税米を食べつくしてしまう問題の変形。軍事力・監視も行き届かず、往復/人・物・情報問わず輸送が困難になってしまう、というわけです。さらに本国の関心も少ないので人もそれほど割かない。
よくピサロやコルテスが即独立しなかったなと思えるほど……あまりにも先住民が死に過ぎた、それでもこちらは少数にもほどがある、言葉も何も通じない、製鉄技術持つ人なんていない、というか義務は少ないから独立するメリットがない、とにかくまとまってないと即皆殺しにされかねないから国王と神の名で命令し続ける、……
本国との距離、他者の目がないこと。貧困。正規軍でもない。狂信。違いすぎる人種。違う植生や食物から感じる恐怖。それらすべてが、人間の邪悪を最大限に開放し、「何をしてもいい」というトリガーを入れて、虐殺と搾取の限りが荒れ狂ってしまった……
スペイン本国は、征服した新大陸で征服者が封建領主となり、本国に歯向かう事態を心配し、抑制しようとはしていました。
王室はビシタ・レシデンシアという監視官は作りました。副王・高等法院など現地での権力の統合と分立も考えていました。独立までの時間の長さは、それらがそれなりに成功したのでしょうか。
ちなみに、社会が発達していたスペイン領では特に、先住民の統治システムを利用することも多かったそうです。傀儡政権に任せ、庶民はある程度今まで通り……それも少数が多数を征服する定石の一つです。
本質的には、今の目でスペインの利益のためにと考えれば運がなかった……
先住民帝国がもう少し賢く、伝染病に壊滅せず、バイキングの末裔でもあってキリスト教のかけらでもあれば、交易ができたかもしれない。潰してしまったのが間違いだった、でも潰せてしまった。
ほぼ無人となっていれば、北アメリカのように、最終的にアメリカやカナダのように豊かな国ができたかもしれない。
スペイン人もお返しの伝染病で全滅するようなら、手を引けたかもしれない。
豊かな森ではなく砂漠だったら割が合わないと手を引いたかもしれない。
砂糖という巨大需要が生じなかったら、アフリカ沿岸に砂糖に適した巨大島があれば、あるいはサトウダイコンがもっと早く実用化されていれば、また違ったかもしれない。
スペインが昔は金銀が豊富で、コロンブス以降の時代には水銀だけはめちゃくちゃ豊富だったのもある意味不運……アマルガム法で金銀採掘ができてしまった。
何よりも、船の性能の低さ。
何もかもが不運に転がっているように見えます。
もっと根本的には、当時の船が沈む率の高さ、敵国の私掠戦を排除できない海軍力の低さもあります。
船そのものの性能も航行技術も低い……たとえば経度測定が無理……ため、体積当たりの価格がとても高い物以外採算が取れません。
金銀、それも美しい像をそのまま運べず溶かして体積を減らす。
虫から取れるコチニール、ブラジルの語源となった赤い木など染料。
インド洋方面からだがスパイス。
そのようなものしか。
麦どころか布や鉄さえも採算が取れない……
肉を大量にうまいまま保存する冷凍技術・缶詰技術はまだない。ラード・オリーブ油・蒸留酒はある程度作れそうだけれど、本国は嫌がる……競争相手を作らせるな、そのためにスペイン本国の業者は税を払っている……みかじめ料。
馬と兵士そのものも運べない。
植民地で製鉄所は作れず、鉄鉱石と木炭や石炭を本国まで運んで採算が合う海運力もない。
そうなれば、ただ高い教育を受けた、たとえば鍛冶ができる人材が流出していくだけです。本国にとっては損にしかならない。
また、得た黄金や銀で本国の民を富ませ人口を増やし、鍛冶屋や農民を、兵や士官を増やす……そちら側の回路もありませんでした。
教科書には、スペイン王室は贅沢と戦争で浪費した、とあります。
ですが本来なら、贅沢をすれば下にも金は落ちるはずです。女を買い豪遊すれば、化粧品や食材の業者にも金が回る……
戦争をしても、自国の兵士に給料を払いその兵が故郷に水路を掘る……銃を作る人に代金を払い、それで新しい銃工場が……
それもありませんでした。なぜかスペインは、贅沢も戦争も、どの金も変なところに流出してしまって本国を豊かにしないようです。……最大の大砲工場が独立戦争を起こしたアントワープというのは乾いた笑いしか出ません。
のちにブルボン朝に交代してから新大陸に製造業は不要、ともされました。
ブルボン朝への交代から独立国になりそうなイエズス会も追放することにもなり、また北アメリカでのアメリカ独立戦争、啓蒙思想の流入などもありました。
さらにナポレオンによるスペイン本国の征服は、最終的に新大陸がスペインに服従する正統性を失わせ、独立運動につながりました。
他にも黒人奴隷の反乱なども……結局のところ、ラテンアメリカがスペインに反抗しなかったのは、反抗できる力がつくまで育つ時間が必要だった、というだけのことともいえます。
本質的にはスペイン本国は、それほど広い領土を支配する力などなかったし、力をつけることもしなかったのです。
……悲劇的なことに、独立後もうまくいく国を作るための社会構造がない……手足を砕かれた孤児を路上に放置するようなことになってしまいました。
スペインに限らず多くのもと植民地で、本質的には少数のヨーロッパ人が多数の先住民を統治するための無茶なシステムが作られ、そこからヨーロッパ人が撤退したら国が機能しない、という悲劇が起きてしまいます。
どうすれば機能する国を作れるか、どうすれば拷問・飢餓・戦乱・奴隷・文化弾圧のない、公正な法と治安があり豊かな産業が育つ国を作れるか……その問いの答えはいまだに知られてはいないのです。
筆者個人は、国という概念を捨てて戦国時代のように、無能なら下克上される、信玄堤を作って勝つような構造にする、また公海の巨大船にいくらでも難民を受け入れる、と考えていますが……それこそ誰も賛同するはずがありません。これまでの債務・援助総額より安いし虐殺もあるけど少ないと思いますけど。
搾取……本質的には愚行のはずです。
需要というのは、「欲しい人」が「金を持っている」状態でなければ存在しません。需要がなければ不況です。
また、多くの人々が教育を受けられず、子を産み育てる余裕もなく死んでいけば、兵士も技師もいなくなります。
搾取が横行する、法や人権が弱い国では、進歩も止まるでしょう。権威主義、反乱防止、特定宗教の強制のために言論など、ひいては学問の自由も否定されますから。
ガトランティス帝国ならうまくいくかもしれません。が、それも宇宙すべての既存文明が滅んだ瞬間に終わるでしょう。モンゴル帝国が、アレクサンダーが征服の限界に達し終わったように。
また思想の自由などがない帝国では技術が進歩しにくいという問題もあります。確かにデスラーを厚遇し瞬間物質移送機技術を火炎直撃砲とする寛容さはありました……それも強さだったのかもしれませんが、あの派閥抗争の激しさでは新技術が潰されることも多いでしょう。
ただし、問題が……ガトランティスがうまくいく。徹底した搾取で膨大な富を得て、その力で軍事的に、あるいは経済的に征服してくる相手に、勝つのは困難。
『北斗の拳』にある、一時的に筋力が倍増するが一定時間後必ず死ぬ秘孔を思い出します。それをやられると勝てない、でも勝者も滅び、結局誰も得をしない。
史実での、遊牧民やソ連の強さにも通じます。
もうひとつ、人間が不要な技術水準になっても、搾取もくそもなくなるでしょうが……それはそれで戦艦数はあるので勝利はできます。人間をどうするにしても。
筆者としては、目的を明白にしてほしい、愚行は嫌いです。
世界征服・宇宙征服なら、多くの戦艦を作るために技術を進歩させ、人に食料を与え、法と安全と伝染病予防をし、自由に学問をさせるのが正しいはず……それで多くの工場と技師、戦艦と士官水兵ができ、進歩していくのだから。
目的を誤ると、搾取は余計ひどくなり、それで誰も得をしないという悲惨を通り越して笑うしかないことになってしまう……
といっても、その多数の戦艦のための条件は、もっともっとほかにもあるかもしれません。筆者はまだまだ人間、人間集団というものを理解してはいないでしょうし。
いや、人類そのものも、それを理解してはいない……実際多くの、非効率な国々がある。けれども一歩一歩進歩し、知は蓄積されている……人類は全体としてはよくなっている。
筆者はあくまでスティーヴン・ピンカー、リチャード・ドーキンス、カール・セーガン、スティーヴン・ホーキングの側に立ちます。