宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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少し大きめの改稿。論との関係が低い部分の削除など。
このテーマは一本ではとても書ききれません。ある部分が膨大に膨らんでもいます。


一般文明論・栄枯盛衰

 あらゆる文明を横断し、その一般論を見出そうとする……

 まず西にヘロドトスがあり、それ以降の歴史家たちも。東は司馬遷から歴史書の伝統が。イスラムにもイヴン・ハルドゥーン。

 そしてアーノルド・J・トインビー『歴史の研究』。

『大国の興亡』『文明の衝突(サミュエル・ハンチントン)』から『サピエンス全史(ユヴァル・ノア・ハラリ)』と多くの一般歴史書。

 最近はビッグバンから現代まで一望するビッグヒストリーという流れもあり、多くの良書が出ています。

 

 あらゆる文明を並べ、共通する一般則を見出す。

 さらにSFを加える。現実の歴史だけでなく、想像の目を広げる。

 それで高く評価されるのが『三体』、特に第二部『黒暗森林』でしょう。

 あらゆる文明に共通する項目……宇宙の物質は有限、生物の増加は無限。

 さらに技術爆発の可能性と、宇宙の広さから生じる猜疑連鎖。だからすべての文明がすべてを敵として息を潜め、存在と位置を漏らした文明を少し勇敢な文明が皆殺しにする、暗黒の森。

 

『ファウンデーション』『火の鳥』『ジーリー・クロニクル(バクスター)』『銀河帝国の崩壊』など多くの野心的なSFが、数々の文明の、種族の衰退を描いてきました。

 

 栄枯盛衰。『銀河戦国群雄伝ライ』で正宗が雷に教えた四文字。それこそ、地球・SF問わずあらゆる文明に共通する真理……でしょうか?

 

 なぜ。

 何よりも、なぜ『銀河英雄伝説』の銀河連邦は退廃し衰退し、ルドルフが出るに至ったのか。

 

 そう……どれほどトインビーや劉慈欣に及ばなくとも、現実の地球のあらゆる文明、そして多くのSFの文明の共通項を探ってみるとしましょう。

 

 それは恐ろしい面もあります。現代を強く支配したマルクス主義・中国共産党思想は、「歴史には一般法則がある。**こそがそれだ」という強い主張でもあります。

 だからこそ現在権力を持つ解釈者の論に異を唱える者、それどころか法則の反証になりそうな事実すら消し去るということにもなります。

 

 また、SFは人間の創造物であり、多くは商品でもあります。売れるかどうかという編集者の判断、作者の精神、執筆当時の常識や社会道徳などに束縛されてもいます。

 

『三体』の面白さは、一般法則を見出すことにあります。

 たとえば、船で太陽系外に逃げることがなぜできないか……

 少数が、遠い宇宙に逃げるということは、人類である限り不可能……究極の不平等となり、不満が激発するに決まっているから。

 という強い法則を見出しています。

 

『ヤマト2199』のイズモ計画とヤマト計画の対立、イズモ計画の徹底否定。

『タイラー』で颱宙ジェーンを前にタイラーが移民船計画を潰したこと。

『天冥の標』で、播種船が、出発準備が整ったとき太陽系の危機を知った。播種船本来の目的通り全滅リスクを避けるため出発するべきだったが、それを拒み、議論しているうちに故郷と心中するはめになった。

 

 まあ、『地球消滅の日』『七人のイヴ』など少数だけ生き残らせることを選んだ作品もいくらかはあるにしても。

『怨讐星域』では少数の脱出が、残され別の方法で新天地に行けた人々のすさまじい恨みとして受け継がれました。

 

 

『ファウンデーション』の心理歴史学は、人間の巨大集団である歴史自体を数学的なモデルとして予測し、制御するというものです。

 それと通じる、人間そのものの一般論。

 さらに『三体』は宇宙の、すべての文明の共通した真実を見出そうとします。本当にありとあらゆる生物やそれに類似した存在がなす、あらゆる文明に共通するものがあるなら、それはもうあらゆる『作品』にも、おそらく『現実』にも適応できる真理というべきでしょう。

 そしてこの『現実』の人類は、フェルミ・パラドックス+大沈黙、現時点のSETIの負の成果……このあたりには電波信号発信者はいないらしいし、かなり広い範囲でダイソン球はないらしい……という恐ろしい事実、データを知っているのです。どんな文明にも共通する何かと、絶対に関係する事実を。

 さらに、今この時の人類の選択は、第六の大絶滅で終わるか、それとも地球の生物が宇宙に広がるかの境目でもあります。

 

 間違いないと言えること。

 熱力学第二法則。

 どんな形の異星の知的存在でも、複雑で意味がある何か……文明をより一般的にした表現……を作り保つには、よその高い秩序エネルギーを消費する。形あるものは必ず崩れる。

 環境、森林・土壌・鉱山・水路などの消耗。

 マルサスの罠……収穫が増えれば人口が増えてまた皆が飢える。

 人の欲は無限で、世界が作る富は有限。

 

 文明のような複雑なものは、進化から生じる可能性が圧倒的に高い。

 進化の本質、多数が生まれわずかな生き残り以外は死ぬ。運も実力のうちの残酷な弱肉強食。

 

 栄枯盛衰を、物だけを見れば、落ちた果物がカビて崩れるのと同じ、大発生からの自滅でしかない……?

 

 

 人間、人類そのもの……

 生物であること、酸素呼吸など様々な性質。

『ファスト&スロー(カーネマン)』など行動経済学・進化心理学などの本に書かれた、心のありかた。

『ヒューマン・ユニヴァーサルズ』に抽出される共通点。

 

 バブルとその崩壊、ペロポネソス戦争のシケリア遠征~第二次世界大戦のインパール~『銀河英雄伝説』のアムリッツァも、人間の本性であり宇宙に広がっても、どの作品世界でも絶対に繰り返すと断じていいでしょうか?

 

 

 本当かどうかわからない、複数の本に書かれていること。

 資本主義はフロンティア・搾取する先住民がなければ成立しない、もう地球全体で尽きた(水野和夫)

 科学技術は今が限度、科学技術ではなく精神(特に日本人論者多数)

 トインビーとフランシス・フクヤマが共通しつつ違いを持って語る……人間には精神が必要。トインビーは宗教、フクヤマはテューモス。

『歴史の研究』にある、「概ねすべての文明の歴史は、地理的膨張が質的な堕落と一致する幾多の実例を提供している(原文は旧字体あり)」

 銀河連邦も、自由惑星同盟も?

 

 

『現実』の歴史であまりにもよく見られる、少なくとも言われる。

 財政。

 貧富の格差の拡大。奴隷大農場。

 暴君。

 宦官外戚。

 相続争い。

 狂気じみた暴力宗教。魔女狩り。

 道徳的退廃・人種汚染の恐怖。

 道徳の強化。

 伝染病との接触。

 

 近代の建前を除けば、すべての群れは、自分たちが絶対に正義だと確信し、他の群れすべてを敵・罪・穢れ・邪教として滅ぼしたがる、滅ぼしきれないなら接触しないでいたがる。

 

 拡大による、腰兵糧三日から広い国の質的違い。人口も150人以上で質的に変わる。おそらくはその上の桁数でも、集団が質的に変わる数がいくつもある。数千人の都市国家と数百万人の帝国では絶対に質が違うはず。ならば数十億人の一つの惑星と、数千億人の多数の星々の国も……さらに何百兆、というところでも……

 

 常に繰り返される、外戚宦官に宗教が加わる腐敗争いと重税。自作農から大荘園。

 定期的に起きる、気候変動を理由とする騎馬民族のドミノ・トコロテン……何十年何百年、砂漠が豊かな草原となって馬と人を増やす。それが突然草原だったところも砂漠になり、人も馬も羊も飢え、近隣を襲う。襲われ追い出された騎馬民族はまた別のより弱いところを襲い、押し出された騎馬民族が文明を襲い破壊と殺戮の限りを尽くす。生まれた時から馬に乗り絶対服従を叩き込まれ、家畜も連れるため補給の心配もない騎馬民族は、ロシアがコサックを機関銃で掃討するまで常に農業文明より強かった。

 土壌の破壊。港湾が埋まる。木が切り倒される。鉱山が枯渇する。

 

 共有地の悲劇・人を恐れぬ大型動物の絶滅……所有権に欠陥があると、資源そのものが壊される。

 

 いくつもの文明の興亡、いや興隆中の文明でもある動乱を見ると、

・外的要因(圧倒的な侵略者・疫病・気候変動・遊牧民……)

・資源枯渇(土壌、鉱山……)

・財政

・内部での配分、相続争い

・宗教など人が信じること

・帝国が長いこと存在していると、各地が育っていき、育てば独立したがる

・技術発達、人口増による国そのものの変質

それらが影響しているように見えます。

 そして、それらに対応しようとする。たいていは、より保守的に、復古・原理主義・道徳という間違った解答で。

 

 ……人間には、進化によって刻まれた多くのプログラムがあります。

 試行錯誤。試行錯誤の禁止。

 奴隷化。

 宗教、神話、呪術。

 群れて戦う。敵味方識別。

 蛇を恐れる。

 汚いことを嫌う。

 道徳を暴走させる。

 ほかにもたくさん。

 

『現実』とは関係がないが、多くのSFに共通する。

 居住可能惑星主義。

 宇宙でも優良鉱山は希少。簡単に手に入る小惑星に鉱山価値はない。

 傲慢+過剰な暴力・搾取。

 多くの文明は他者との接触、特に平和的な交易を好まず、一方的に皆殺しにしようとする。奴隷制も好む。

 

 メタに言えば、ローマ帝国の衰退、大航海時代という歴史を欧米作家は誰もが学んでいるので、それに近い出来事を描くのはやりやすいです。

 ただし問題は、欧米教養層が読んでいる古典本……ギボン・シュペングラー・トインビー・ウェルズなどはものすごく精神論が強い、当時の知識と偏見で描かれていることでしょうか。アリストテレスの奴隷制擁護と同様のことが多くあります。

 

 

 興亡の一般論、経済学、資源、社会学などの複合?

 たとえば……多くの人が豊かになれば出生率が下がる。出生率が下がると需要が減る。需要が減れば投資収益率が減る。

 投資収益率が減れば、自然なインフレがなくなって国の財政が苦しくなる。さらにそれに格差拡大・技術革新による生活保護の増加、老人の増加も加わる。財政が破綻し、経済全体が崩壊する。

 また、先進国の特に工業は賃金が上がることによって競争力を失う。

 風が吹けば桶屋が儲かる、にも思えます。

 そういうことなら、貧富の格差が拡大することからも財政破綻・衰退が必然と言えそうです。

 

 もっとも一般的に、中国などを参考に考えてみましょうか。

 初代皇帝が動乱の戦国を統一する。

 初代や二代目が、大工事をしたり外を侵略したりして、民の負担が限界を超え大反乱がおきて自滅することもある。幼い後継者、強すぎる家臣や皇后の家族、皇帝の家族の反乱などもわりとよくある。

 初代のカリスマだけで皆が従っていたら、タガがなくなれば反乱。それを押さえられる、特別なトップがいなくても動く軍・官僚など制度……おそらく付随する「心」も……あれば、反乱を鎮圧できる。

 二代目がうまくいって、戦争国家から平和国家への転換がうまくいくと、長期帝国になる。

 平和国家。駅伝制度、道路などインフラ整備。法、宗教などを整える。王宮、神殿なども作る。

 

 上から大きく見れば、人口が増える。開拓が進む。動乱で破壊された農地が再び耕され、食糧生産が増える。

 本来ならそこで、人口が多く人口密度が高い国に適応したシステムを作るべきですが、それは難易度が高い……

 

 歴史的には、派手な印象が強い帝王が多く出る。大工事や対外侵略、文化など。

 それから衰退がはじまる。中国史では、大規模な反乱、短期間の王朝名変更などもある。そのまま滅びることもあるが、遷都して中興することもある。

 ただし必ず宮廷の腐敗がある。宦官外戚。重税。

 

 心ではなく物だけを上から見れば、開拓の余地がなくなり、農地が疲弊する。木材や石材を手に入れるまで長い距離が必要になる。港湾・運河・水路が、無理な開拓で流出した土砂で埋まる。

 食料生産が低下する。

 伝染病もかかわる。文明中枢から遠い辺境の民に対して、長く多くの家畜と大人口が生活していた大文明は強い伝染病を持っており、圧倒的に有利。だが、辺境の民も長い年月で独自の伝染病を持っている。また、遠くの別の文明とも接触したりすると一気に伝染病が交換される。栄養状態が悪くなり、人口密度が上がり、清潔に必要な水や燃料が減ると伝染病はさらにひどくなる。

 長い時間の中で、一定の確率で気候が変動する。大凶作を、一度か二度は公の倉から食料を与えてしのげても、それも尽きる。

 ユーラシアの奥の草原で、雨が多い何十年に増えた人口が、雨が減って砂漠化したことで飢え、トコロテンを起こす。

 何度も騎馬民族を撃退すると、費用が積み重なる。

 

 帝国自体がバラバラ……地方有力者が事実上独立する。中央が素早く連絡を受けて素早く軍が駆けつけ、また食料を配る機能がなくなっている。賊も多くなり、交易や旅行が減り、通信がなくなる。中央も地方に関心を持たなくなる。

 税金が高すぎれば、農民は税を逃れるために豪族に頼り、徴税権が及ばない独立国ができる。

 宗教反乱も起きる。同時に防衛力を失った地方から、騎馬民族が襲う。

 そして滅亡、動乱期に入る……

 

 中国史は見事にこのパターンですが、日本や西洋はどうでしょうか?

 日本は平安朝が比較的早期に、地方の治安維持・食わせる能力を失い、開拓民地主である武士が独自の階層を作りました。それ以降は長く、武士の代表が幕府という律令制度の例外的な穴を利用した政府を作り、国の多くを統治しました。

 基本的に水田地主である武士の最大の関心は相続と水争い。幕府が求められるのは公平な調停者であること。巨大な宮殿を作る必要はないし、許されません。

 また、鎌倉幕府の時代も室町幕府の時代も、治安水準は結構低いです。鎌倉時代に、義経を讒訴したと憎まれる梶原家、三浦家など多くの家が滅ぼされたように、結構しょっちゅう武力抗争があります。室町時代の盛期でも関東に関東公方が入れないのは常態化していました。

 

 中東の栄枯盛衰はかなり中国に似ているような感じです。イヴン・ハルドゥーンは、砂漠の遊牧民が強い連帯意識(アサビーヤ)を持ち尚武の心を持つため強く、王朝を開き都市を築いて贅沢に慣れアサビーヤを失い滅びるパターンを見出しました。

 ヨーロッパは?古代ローマ帝国が滅んでから、さまざまな民族が入り乱れ、統一帝国ができることなく小さい国々の興亡が長く続きました。

 それからいくつかの大きめの国になりました。ドイツは統一に失敗しました。

 その中でも、十字軍や農民反乱、宗教戦争などはある程度、資源枯渇人口過剰による文明崩壊症状に近かったということは?

 ヨーロッパの深い森が急速に切りつくされていったこともあります。黒死病という大疫病もありました。

 それが、新大陸……木材、新作物、バッファローの骨を化学薬品で処理した肥料やグアノなどが手に入ったことで事は大きく変わりました。

 

 そう考えてみると日本とヨーロッパは、もともと豊かでした。

 水産資源が豊富……江戸時代の日本はイワシを肥料としました。ヨーロッパもニシンやタラが豊富にあり肥料にしなくても食べて出す、骨をそこらに捨てるだけでも肥料分が土地に供給されるでしょう。

 火山が多いので、災害も多いかわりに肥料も供給されます。

 雨も多く灌漑にそれほど依存しないので塩害が少ないし、水路が埋まったら終わりということも少ない。木材が比較的早く萌芽更新され、長い期間製鉄製塩が続けられる。

 

 

 栄枯盛衰に抵抗する、文明自体を長期間存続させる。それ自体が難しいことで、考えるべきテーマです。

 

 それを丁寧に厳しくやったのが『タイラー』。老い巨大な権力と財力を手にしたタイラーは、何千年か後に帰ってくる宇宙的災害に対抗するため、酷薄非情の限りを尽くします。

 何もしないでいれば何千年後かには、人類は滅んでいる可能性が高いという計算結果が出る。

 だから何千年後に帰ってくる宇宙の軌道に、タイラーの娘が慕いドムが妻と選んだほどの人を含む、すぐれた何百人もの人を冷凍睡眠カプセルで放り出す。確率的な損失も計算に入れて。

 文明が平和で腐らないよう……ウナギの宙輸で、ピラニアを入れて危険な状態にした方が、食われる分を計算に入れてもより多くが生きる……自作自演で重武装犯罪組織を作る。その犯罪組織にタイラー自身の精子を奪わせ、自分の血を引く実験体を何千も作らせ殺し合いで競わせる。

 それに対抗すべくクローンも作らせ、あえて一族の低い身分から出発させ苦労させる。

 銀河を三つの国に分け戦争を続けさせる。

 

 敵と戦うためでも文明を何万年も維持することができなかったのが、『反逆者の月』です。

『三体』も、戦うため、地球人の生存のためにすべてを尽くす文明形態が崩壊し、膨大な餓死と混乱が世界を覆い、軍事力も破壊しました。

『ガンダム』の宇宙世紀も文明崩壊に至ったそうです。

 

 

 悪の帝国と戦っている勢力は、「敗北したら人類文明そのものが終わる」という思いで戦っているのでより必死になります。

『銀河英雄伝説』『スターウォーズ』『スコーリア戦記』『オナー・ハリントン』『彷徨える艦隊』など多くの作品で、人々はその正義と悪の構造で戦っています。皮肉なことに、悪とされる勢力の側の人々も、自分たちこそが正義だと確信しています。

 

 

 また、栄枯盛衰に抵抗するためには、定常……いかなる変革も許さない、変わらない文明という解もあります。

 現実の人類が好む解の一つです。古代エジプトは何千年もいかなる変化も進歩もない。明帝国もイスラムも、変わらないことそれ自体を目的としたかのよう。江戸幕府も進歩を厳しく抑圧しました。発明工夫それ自体が犯罪だったのです。

 挙げられないほど多くのディストピアも、変わらないことそれ自体を目的としています。

 いや、ユートピアも変わらないという点では同じです。

 ユートピアもディストピアも、外から凶悪な蛮族に襲われたらもろいでしょう。兵器の進歩がないのですから。

 

 オースン・スコット・カードの作品の多くは、すさまじい管理で無理に文明を維持しようとします。『エンダー』シリーズにも、禁じられた遺伝子改良で生まれた天才児であるビーンを殺すか偉い人が考えたり、遺伝子改良とひきかえに精神病と宗教を仕込んだり、いろいろな非情措置があります。同じカードの『無伴奏ソナタ』がけた外れに残酷でしょう……絶対に、とことん、体制が害とみなす音楽を許さない。

 

『ローダン』は、テラナーだけが《それ》のおめがねにかなっているという残酷さ。テラナー以外は破滅か、進歩が止まり腐ることが決まっているのです。

『デューン』は予言という要素があるのが興味深いところです。

 文明を導こうとする、モーセから始まる系譜……これもまた厄介で重大です。モーセ、(神のスポークスマン)預言者の要素がある作品も、すぐ挙げきれない……

 

 

 変化そのものをもたらすのは科学技術の進歩、人口の増加、他者との接触など多様にあります。

 だからこそ、変化を拒む文明は科学技術の進歩自体を抑圧し、他者との接触を嫌がります。

 それでも、たとえば江戸時代の日本は厳しく鎖国していても、江戸初期の日本を支えていた関東・越後平野など大開拓地が種切れになった、金銀の枯渇、木綿や砂糖の普及、寒冷化や火山活動などさまざまな変化がどうしても起きました。

 それに応じようと、幕府は三大改革を行いました。

 他者との接触は新しい征服先、戦争、伝染病、新作物を含む外来種、技術・文化・宗教の流入など多様な面があります。

 

 開拓の限界と言っても、少なくとも『銀河英雄伝説』では星が尽きたわけではないのに人類は衰退し、ルドルフに至りました。

『火の鳥 未来編』も、星が尽きたとは描かれていません。

 どう限界なのかはわかりにくいこともあります。

 

 技術の限界も、開拓や征服の限界と同じような影響を与えるでしょう。

 

 

 多くの星にまたがる文明には本質的に気候変動はないように見えますが、宇宙の物理法則が変わる作品もあります。

『ヴォルコシガン・サガ』でバラヤーは、ワームホールが突然消失し他の星々から切り離されたことで剣と馬の文明に落ちました。

『ギャラクシーエンジェル』も人為的ですが超光速航法が失われ、文明が崩壊したことは同じです。

『星間帝国の皇女』も、時空全体の変化で超光速航行が不可能になりそうになっています。

『タイラー』では銀河を飲み込む規模の超巨大超光速ブラックホール、颱宙ジェーンの襲来があります。

『宇宙戦艦ヤマト 完結編』も別銀河が出現衝突したことで幾多の星が災害に遭いました。

『イデオン』、それを原作とした『第三次スーパーロボット大戦α』は隣の銀河のバッフ・クランすら滅ぼす大災害が起きました。

 それは『現実』の人間が恐れる、神罰……上位存在の攻撃による文明滅亡に近いものでもあります。『タイム・オデッセイ』が敵が遠いうえに技術水準が高いのでそんな感じになります。『2001年』シリーズ(クラーク)も同じように、上位存在にさえ思える相手があります。

『神の鉄槌(クラーク)』『アルマゲドン』『ディープ・インパクト』『地球最後の刑事』『七人のイヴ』『怨讐星域』『地球消滅の日』など巨大隕石衝突なども同じような宇宙的災害で、近いものがありますか。

 また『バーサーカー』『オペレーション・アーク』など文明を見つけたら破壊する自動機械も近いでしょう。

 そのような圧倒的な破滅に対し、人がどう立ち向かうか、あるいは立ち向かうことすら許されないものにどう対峙するか……それもまたSFの粋です。

 

 

 栄枯盛衰として、覇権の移動もあります。

 トインビーなどの描く歴史は、ヘゲモニー移動の歴史でもあります。イタリア、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカ。これからは中国ともいわれますし、アメリカの覇権は動かないともいわれます。

 さらに過去を探求する歴史家たちともつなげられるでしょう……中国やイスラム帝国の圧倒的な富の優位から、西洋に力が移動した。

 それ以前のローマ帝国の興亡も繋げられるでしょうか。

 また、「木を切りつくして次に行く」面もあるでしょう。メソポタミアからギリシャ、ローマ、そしてヨーロッパ。ヴェネチア、マドリード、アントワープ、ロンドン、ニューヨーク、シリコンバレー。そしてもしかしたら深セン。

 東洋でも黄河流域から長江流域。日本でも九州から奈良、京、そして関東。

 技術による覇権移動もあります。鉄道・蒸気機関機械・製鉄・銃砲……それらは強く時代を変え、どの国も革命に直面しました。

 

『マクロス』も『ガンダム』の宇宙世紀以前も、『スーパーロボット大戦OG』も、技術に伴う統合戦争がありました。

 戦争による覇権移動も大きいものです。

 

『銀河英雄伝説』の歴史も、地球~連邦~帝国、と力が移動しました。

 それは地球~テオリア(アルデバラン)~オーディンという首都の移動でもありました。

 本来ならそれは同盟に覇権が移動すべきでしたが、それは失敗し、最終的にはフェザーンを首都とするラインハルトが勝利しました。

 中国史でも、本来南方が強いはずなのに北方の勢力が天下を統一することが一度を除いて繰り返されます。

 

 少し違うかもしれませんが、シンギュラリティ、人間そのものが変わってしまう、進化することも「覇権の移動」の一種かもしれません。

 それを恐れる人間の努力も話に含めるべきでしょうか。

『エンダー』シリーズで、違法な遺伝子改良で作られたビーンを恐れた上層、『パタリロ!』で首が長いキリンの子を殺せば首が短いキリンは滅びないで済む、と乳児検診に浸透し超天才児を抹殺すると決めている医師組織、『X-MEN』など突然変異で生じた優等人種に対する恐怖。

 ……突然変異自体を恐れる迷信もあります。それと似た、人種的な恐怖感、優生学が結び付いた妄想も、『現実』の20世紀前半を強く支配しました。

『ヴォルコシガン・サガ』のバラヤーは簡単な手術で治せる口唇裂の赤ん坊も家族が殺す、どれほど皇帝が禁じても完全には消えない……『銀河英雄伝説』も、遺伝子が劣化しないためと劣悪遺伝子排除法……

 コンピュータが人類を上回るシンギュラリティは、『ターミネーター』『ギャラクティカ』など戦争になる話、『デューン』のように戦争のトラウマから抑圧している話、『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』など戦争から共存する話、『月は無慈悲な夜の女王』『タイラー』など消滅する話、『ブラッド・ミュージック』『幼年期の終わり』『カエアンの聖衣』などコンピュータとは別の方面からの人類の変質などいろいろとあります。

 

 日本史では、階級・階層間の力の移動も結構重要です。

 天皇と豪族の飛鳥時代。

 仏教が力をつけた奈良時代。

 貴族が治める平安時代。

 武家が力をつけて鎌倉時代。

 農民が力をつけ、足軽が増えて戦国時代。

 海外からもたらされた新兵器を活用した織田信長。

 江戸時代における、武士から商人への力の移動。

 下級武士による明治維新。そして上からの産業革命、官僚と起業家、不在地主、植民地。藩閥から、巨大財閥や地主、賊軍出身も含む軍人たち。

 戦後、農地改革から金の卵、そして高度成長。

 バブル崩壊からの、非正規と正規、自営業の衰退。

 そして……今『現実』の日本は、どの層が力を持っているのでしょう。自民党の完全勝利に見えますが……

 

 新しい階級が力をつける。それを体制にどう取り入れるか。これがまた困難です。

 武士が勃興したとき、平安貴族制度には武士を採用し出世させる余地がありませんでした。律令制は変更不能なものでした……中国からの輸入品でしたし、法律を検討して改正するシステムもありませんでした。

 かろうじて、征夷大将軍という本来は地方征服のための、律令の外のシステムを利用して武士政権を作り、力を失った朝廷や公家と共存させました。

 その武家政権も、鎌倉幕府は執権、室町幕府は管領と、将軍と実権が分離しました。

 武家政権の、要するにどんな役職があるか、それぞれどんな家柄か、そのあたりはとてもややこしく、有職故実というように過去に強く束縛されるものでした。柔軟な変更ができないのです。

 ほかにも悪党たちを利用する南北朝、戦国では応仁の乱で足軽が活躍しました。それも、従来の朝廷と幕府のシステムには入れようがないものです。

 商人の成長、幕藩体制で商人に幕府の財務大臣をさせるとかは無理でした。ジョン万次郎すら使うことにどれほど困難があったことか。

 

 世界史でもイギリス以外はブルジョワの成長を体制に容れられず、フランス革命が起きました。

 

『銀河英雄伝説』でのラインハルト……

 まず軍から台頭。平民・下級貴族出身の高い能力を持つ若い士官を抜擢。ラインハルトが功績をあげて昇進したのも、その抜擢制度があったからでしょう。この地位はこの家柄と厳密に決まっていたらどれほど功績をあげてもそれは無理です。フランス革命前のフランスでは何代続いた貴族以外は絶対に昇進自体が禁止という法さえありました。

 そして地位を得たら、ブラッケなど革新官僚と、さらにブラウンシュヴァイク公の部下だったフェルナーらを抜擢……ブラウンシュヴァイク配下の官僚を大量に引き立てた可能性が高いでしょう。

 ケスラーによって改革された憲兵に警察力を頼ったというのも重大です。

 ラングを生かし使ったのも重要なメッセージになるでしょう。ラング自身が処刑されても、その周辺の有能な人々は使い続けたと思われます。

 同盟やフェザーン、門閥貴族領や辺境の農奴をどう統合するかは作品後に任されています。

 問題なのが、原作内では征服した自由惑星同盟からの抜擢が事実上トリューニヒトだけだということです。人材マニアと必要性から言えば、キャゼルヌは三顧の礼で招くべきだと思えるのですが。

 

 

 人材抜擢といえばそう見えないけれど重要なのが、『ヤマト』の白色彗星帝国が、漂っていたデスラーを拾った……明らかに、ガミラスの瞬間物質移送機の技術を得て火炎直撃砲を作り、デスラー自身にもかなりの軍も与えた。

 これはとても重大なことです。モンゴル帝国同様、徹底した破壊と殺戮の反面、有能な者、優れた技術は身分・呪術に縛られずに登用したということです。

 

 

 抜擢。それ自体が圧倒多数の宇宙戦艦作品の華です。いや軍、いや企業を含む人間集団すべての。

『紅の勇者 オナー・ハリントン』のオナー、『真紅の戦場』のケインをはじめ、すさまじい闘志と運で絶望をひっくり返し英雄となり優れた上官に認められて出世。実力以上の仕事、多くの部下の生命を預かり、一人一人意見と人生がある部下とぶつかり合って、時には上層部と対立しつつ成長していく。

 その変形として、上官がみんな死んで士官候補生が指揮を執ることに……『ホーンブロワー』から『銀河の荒鷲シーフォート』『彷徨える艦隊』『孤児たちの軍隊』、実は『機動戦士ガンダム』のブライト・ノアも目立ちませんがその系譜です。

 日本のロボットアニメでは、さらにその変形として、あらゆる理由をつけて民間人少年をパイロットとして戦わせるのが一般化しています。

『タイラー』の元帥に至る出世……年金関係の閑職から引退した老将を世話して司令官の太鼓持ちとなり、大敗の危機で二階級特進を前借して老朽駆逐艦をもらって大勝利……も、多くの先行作品のパロディであるほど。

 

 抜擢がある限りその組織は健康であるともいえます。逆に長い長い目で見ると、民族や階級の力のバランスも変化するのです。

 一人の抜擢。一人の英雄。それも常に歴史を変えます。

 特にコロンブスの、まともでない地球の大きさを前提とした無茶な計画をスペインが承認したとき、どれほど歴史が変わったことか。

 

 

 支配階級の退廃・衰退によって文明が危うくなることもあるとされます。

 特に抜擢ができなくなると、衰退はひどくなります。

 ただし、『現実』での帝国の退廃は、特に中国では新しい政権が前の政権を批判して正統性を高めるための宣伝、また道徳が必要だと叫んで自分の支持率を上げるためである可能性も高いので、うのみにはできません。

 人間が道徳物語を異様なほど好むことにも注意すべきです。

 

 実際問題として、今の『現実』にも科学を嫌う勢力は多く、強いものがあります。

 進化論を否定するキリスト教を強く信じる勢力。温暖化も否定する保守派。

 日本でも、特に本屋で見る本や論壇誌の大半は、科学技術が進歩する未来を考えることも許しません。

『銀河英雄伝説』の冒頭、連邦の衰退でも神秘主義が言われました。ただ、神秘主義が強まったのは、イギリス帝国に陰りがみられた時代の特徴でもあり、大英帝国衰退を心配した論者たちの声でもあります。

 

 

 相続、継承。

 支配階級というか王室に子供ができないだけでも国が危うくなります。

 現実にも古代ローマもスペインもイギリスも日本も中国も、ばかばかしいぐらい多数の例があります。

 ただでさえ権力争いで死ぬ可能性も高いのに。近親婚による病気の多さ、血友病なども史実にあります。

 産業革命前の、イギリス王家でも何人も産んで全滅は珍しい事ではありません。医者に見せる金があっても、下手をしたらあったからこそ……瀉血とか水銀とか、かえって有害な迷信医療の時代……

 医者を拒み自分で薬を調合し……どうせ水銀入りの薬を飲むよりそこらの雑草を飲んでる方が、それこそ現代の視点で見て正しい……運動と粗食で本当に長生きした徳川家康は、それだけでも歴史的な偉業を成し遂げたと言えるでしょう。

 というかこの皇后とその王に健康な男子が二人いたら、あるいはこの王が生まれた時に母后ともども死んでいたら、歴史が変わっていただろうということもいくつもあります。

 目立つのは跡継ぎがないから離婚したいというイギリス宗教改革。

 他にも正妻に子がなく側室から生まれたことで、また王が天才だったり、逆に超暴君であったりすることでも歴史は大きく流れを変えているのです。

 

『銀河英雄伝説』は根本的に、ゴールデンバウムの血そのものが腐っていると言われます。多数の寵姫を持つフリードリヒ四世も健康な子は女二人だけ、皇太子も死んでいます。継承権を持つ現皇帝の従兄弟とかも見かけません。

 健康な男子が何人もいたら、ラインハルトもやりようがなかったでしょう。それ以前に姉を奪ったのがたくましい筋肉と多数の健康な男子を誇る益荒男でもラインハルトは反抗したでしょうか?

 そしてゴールデンバウム朝は、その初めからルドルフは健康な男児に恵まれませんでした。アウグストゥスのように。また皮肉な悲劇となった豊臣秀吉のように。ほかにも歴史上幾多の英雄や大帝王が、十万の軍を動かし大国を攻め落とし巨大な宮殿を得、膨大な金塊の上に座しても、息子だけは買えないという悲劇に泣きました。またうらやむべき息子がより大きな悲しみの元になることも。

 

『スコーリア戦記』はスコーリア王家の子供不足が深刻です。ただでさえ子が少ないのに、強くなければだめだと前線に出して戦死者も多数……王家の、それもタイプが異なる適合者がいなければ超空間ネットを維持できず国が亡びるのに。

 原作開始寸前に、未開星からかろうじて血を補給できましたが、それでも危機を通り越して絶望の域です。敵はそこを狙い、情報で勝って一人また一人と王族を捕え拷問で別の王族の居場所を吐かせ、勝利を引き寄せています。多くの犠牲もいとわず。

 

『タイラー』もラアルゴン皇室は、ラングという奸僧に引っ掻き回され幼帝一人に追い詰められました。その幼帝がたまたま天才だったからよかったものの……簒奪寸前でした。

 後にもラアルゴン原理主義が、地球人の血が混じる皇帝を認めなかったことが銀河三分のきっかけになりました。

 

 王制・帝政……一人が権力を独占する独裁者と、地位や財産の相続が結び付く。地球人がもっとも愛する政体の一つと言えるでしょう、はるか離れたエジプトも中国も、メキシコもインカも帝政を取りました。

 長所も多いのでしょう。それでも、帝政には本質的な問題がいくつもあります。

 昔の人間の、特に乳幼児死亡率の高さ。不妊症の治療も、性別指定もできません。

 また犯罪者とされれば一族郎党連座で処刑であることもあります。

 宗教によって異なる結婚道徳も……キリスト教に支配される西洋では、一夫多妻制が公認されることはついぞありませんでした。

 

 相続制度。

『ヴォルコシガン・サガ』でコーデリアが本質を抽出したように、確実にY染色体を受け継ぐ子を得るために世界共通の性倫理がある。女に、結婚前も結婚後も純潔貞節を強要する……地球人は、ある子がある母の子であることは古代から確定できたが、ある子がある父の子であることは現代技術までは確定しがたい。

 コーデリアの故郷ベータ星では、インプラントで避妊し、その状態を装身具で示すだけで済む。

 

 優れた者が相続しなければ国が亡びる……と皆が思っているが、都合よく長子が優れるとは限らない。

 長男が劣り、弟が優れていれば、必ず弟をという声が出る。

 そして「優れる」をどう判定すればいいのか。

『銀河英雄伝説』でラインハルトは、ゴールデンバウム朝を否定するため帝位を子に相続することを否定するようなことを言いましたが、結局は赤子に相続させました。

 その代案、本当に実力がある人に相続させるのは困難すぎる……どんな基準で。

 試験は論外です。アンドリュー・フォークは士官学校主席。ラインハルト自身も帝国士官学校主席の無能者複数を罵りました。

『魁!男塾(宮下あきら)』では、ある権力者は何人もの男子に、刀剣で殺し合いをさせて一人を選びました。ですが、試験で選ぶのとどう違うのでしょう。

 指名しても絶対文句が出ます。

 結局は戦争で、内戦で決めるしかない。しかしせっかく統一したのに内戦じゃ本末転倒。

 

 ついでに、レイモン・ポアンカレがいます……第一次大戦時代のフランス大統領、アンリ・ポアンカレのいとこ。知能が少しでも遺伝するならとんでもなく頭はよかったでしょう。ですが彼が残した結果は、負けはしませんでしたがひどすぎ、次の祖国滅亡の原因も。

 指導者が賢くても、それで国が勝つとは限らない。

 

『スターウォーズ』では、パルパティーンは自分の寿命と相続を考えていたのでしょうか?EP4~6に、彼の結婚は出てきていません。ダース・ベイダーを後継者としつつ敵と見、さらにルークを招きましたが、うまくいっていたとしてどのように、ルークに帝国を相続させるのでしょう?

『レッド・ライジング』は貴族が腐らないよう、実際に死人が出るバトルロワイヤルを課します。ただし不正皆無=わが子を助けるな、弟を殺されても遺恨を持つなというのは無理。

 

『ペリー・ローダン』では、ローダンに細胞活性装置を持たせ不老不死とすることで相続問題を出させていません。しかしそれは、ローダンの子には将来相続する希望がないということ。親心もあって里子に出した子には背かれ、無事な子も苦労を続けています。

 それは不老不死がある作品すべてに共通する問題です。

 

 さらに、その子自身が優れているとしても、それが何でしょう。

 後継者、王子は一人の人であるというより、一つの集団の代表者です。生母。生母の家族……有力者。生母の出入り商人。宦官。自分の妻妾。領土の領民や大商人。自分の家の使用人。などなど。

 ある王子が脱落すれば、その集団すべてが落ちる。

 皇太子自身は知勇兼備の優秀者なのに、その生母の家族が罪とされ生母もろとも死罪となったことも。

 生母と対立することすらあります。生母の周辺の人々の集団と、子の周辺の人々の集団が対立する、ということで。

『現実』で武田義信や松平信康は父に切られましたが、本人の言動や能力不足ではなく、国としての戦略、どこの戦国大名と組みどこと戦うか、誰の子であるかが理由です。

 

 個人か派閥か……これも歴史の根本問題です。

 暴君や英雄王のすさまじい事績は現にありますが、それも個人か集団か。

 

 歴史的にいくつもの文明が、相続のルールが明白でなかったがゆえに悲惨な動乱と衰退を味わいました。

 古代ローマ帝国、モンゴル帝国、中国の五胡十六国などに顕著です。日本も南北朝時代に侵略を受けなかったのは幸いです。

 古代ローマは初期に実子に恵まれない皇帝が多かったためか養子が多い。それは五賢帝時代など最良の若者を選べるプラス面もありますが、マイナス面も。また帝政と言いながら共和制の残渣も多く残るため、市民が歓呼すれば即位、親衛隊が担げば即位、というめちゃくちゃさ。

 モンゴルは圧倒的な強さにもかかわらず、相続制度が実質ないんじゃないかというぐらい。それはほかの遊牧民帝国にも共通します……大帝国を築いても、すぐに相続争いで四分五裂するのが常。

 中国の、三国志の後はどうしようもなく、家族を皆殺しにする狂帝の繰り返し。

 さらにそれに外患、気候変動、疫病などが加わると滅亡にもつながります。中南米帝国、レコンキスタのイベリア半島イスラム帝国、インドなどは内部で争っている時の侵略で、ごく少ない兵力に潰されたそうです。

 

 安定するのは長男絶対のルールが確立した場合のみと言えます。

 さらに、相続が確定したら兄弟を皆殺しにするという極端なルールも中東にありますが、その場合にはその皇帝が早死に・男性不妊だと最悪王朝が途切れます。

 

 誰が相続するか、自分は誰に従わなければならない・自分が従えているのは誰か、それがはっきりしていなければ仕事も何もできません。

 特に革命後などの動乱期は、どうしていれば死刑にされずに済むか、すらわかりません。

 軍隊は全員が、一意的に順番を決められることがもっとも重要なことです。

 一意的、数学用語です。答えが一つだけになる。プラスマイナスのどちらを入れても正解、などがない。

 ある国の軍隊から、将軍から二等兵まであちこちの部隊から何十人かランダムに異世界に飛ばして集めたら、すぐさまその人たちは順番通りに並ぶことができます。神学でよくあるように、解釈次第で別の順番が出てくるということはありません。

 学校の生徒も、一意的に並ぶことができます……学年>学級自体の数字やアルファベット順>出席番号。

 それが「秩序」、織機で作られている織物、並び揃えられた糸を意味する漢字から生じる言葉です。

 人間社会が機能し、高い軍事力や農業生産があるにはどうしても必要なもの。ただしそれが強すぎ、秩序自体が目的になればすべてを破壊することもある。

 衰退した文明では、とにかく順番がしっかり見えません。逆転可能に見えてしまいます。下剋上。

 人間が、継承順位が確立していない時代は常にひどい内戦。江戸幕府の安定の大きい理由の一つが、継承を確立したことにあるでしょう。ゴールデンバウム銀河帝国が滅びたのも、直接的には継承問題でした……フリードリヒ四世が意図的に仕込んだと思われる。

 

 洋の東西を問わず、宦官・外戚・生母・僧などが暴威をふるうことも常です。

 彼ら、宮廷……皇帝の「家庭」で権力を得る人。

 昔の人に、公私の区別はありません。今でもある程度以上の地位、あるいは地域や文化によっては、家でのパーティーや冠婚葬祭の出席が大きな公務です。

 皇帝の「家庭」がすなわち「宮廷」であり、政府。ならば、その家庭で、皇帝のハーレムの世話をする宦官が、将軍や大蔵大臣以上の権力をふるうこともある。

 その、使用人である権力者も、一つの「族」の長。人は何か得たら、すべて家族に分け与え、一族の食えない者を食わせ、貧しいが優秀な子を学校に行かせなければならない……今の途上国でもある腐敗の構造。

 宗教・呪術も宮廷闘争と強く関係し、文明の衰退にもかかわります。

 呪術を使った罪で族滅できる法システムでは、誰も無事ではいられません。

 宗教は国富を無限に、無意味に浪費します。……公共投資の面もあるかもしれませんが。また宗教はほぼ常に、技術の発達を抑圧します。

 宗教だけでなくある権力を取ったグループが、特定の言葉、心、宗教などで固まっている場合、それが技術を破壊する可能性もあるのです。明で、鄭和の航海があったのに航海を否定した儒者官僚のように。

 

 根本的には、人はあまりにも一番上に立ちたい。けれどその座は一つだけ。

 そしてその格差が大きすぎる。

 忠実に支えると弟本人が決意しても、それで手柄を立てて巨大な名声・財産・領土・軍・支持者を得たら、もう簒奪するか粛清されるかしかない。『ファウンデーション』でベル・リオーズ将軍が忠実だったのに粛清されたように……他人でも粛清されるなら、まして継承権がある弟なら確実に。

 また、社会が急拡大、征服や高度成長の時代でなければ、負けた者が耕す田はない。

 全てか無か、殺すか殺されるか。一人の生命だけではない、玉座のゲーム(ゲーム・オブ・スローンズ)の最低入室預けチップは、リヒテンラーデのように一族郎党。いやキャスタミアの歌、クロップシュトックのように領民に至るまですべての生命、それも拷問の上の死すらあり得る。

 でもそれは、当然別のことに使えた力を無駄に捨てるわけです。

 

 

 経済、不況の延長ということも考えられます。

『現実』の大恐慌はナチス、第二次世界大戦という空前の惨事につながりました。民主主義と資本主義そのものに絶望した人が世界中に、膨大にいました。

 

『宇宙のランデブー2(クラーク)』でも超絶な恐慌で、宇宙観測すらろくにできない状況が生じました。

『三体2 黒暗森林』でも文明崩壊に近い超恐慌がありました。

『タイラー』では、全人類の大統領となったタイラーは思いっきりハイパーインフレを暴走させました……自分の再選を捨てて、銀河レベルの超災害から市民の目をそらすために。

 

 財政破綻、ハイパーインフレで滅んだ銀河帝国というのは覚えがありませんが、十分あり得ることでしょう。

 

『銀河英雄伝説』の銀河連邦の自壊は、けた外れの、長期にわたる「不況」であったと考えるのが原作に一番近い気がします……内戦・疫病は文字としてはなく、資源枯渇はあり得ず、外敵はないのですから。海賊が増えたという描写はあるものの。

 

 不況、経済低下にはどんな理由があるでしょう?

 一番有害なのがハイパーインフレとされます。『タイラー』はハイパーインフレを大衆操作の目的で利用しましたが。

 実際には、格差拡大=大多数の貧困化による需要低下、長期的には教育水準の低下による労働力の質の低下もあるのでは?

 また、多数を貧困にさせる世界で、まともに技術が発達するでしょうか?

 膨大な資金がありつつ、それが技術発展・新大陸開発につながらないこともあるでしょうか。

 

 開墾先・征服先・技術革新、要するに経済成長がないと、次男三男の行き場がなくなります。そうなると内部で争い、限られたパイを奪い合うことに……

 

 技術の停滞、それ自体が問題であることもあり得ます。

『銀河英雄伝説』冒頭の描写では、技術の停滞は銀河連邦の停滞の症状の一つとされますが、それが根本原因であったということは?

『火の鳥 未来編』でも、科学も文化もちっとも進歩しなかった、とありました。

 

 

 格差。特に有害な、ごく一部の勝者以外希望を、生命さえ失う格差の拡大。

 それは、本質的に開拓・征服の限界と裏腹です。

 極端に格差が激しい、極貧者が多い状態だと、低賃金で働かせればいいので機械化に投資されない、という問題もあります。

 歴史以前の始原、農耕文明が多くの狩猟採集群れを呑んでいった過程は……史料が乏しい。ヨーロッパが北アメリカやオーストラリアを食った大航海時代は参考にならないでしょう。

 社会は極端な格差があるとしても、次々と征服する国、開拓する土地があれば、貧しい人も人間らしい生活を手に入れられる希望があります。

 あらゆる宇宙戦艦作品に大きい格差がみられ、それは不満、反乱の元となっています。多くの「悪の帝国」はその不満に対し、暴力で応えより不満を強くしています。

 格差の拡大は、歴史的には荘園に民と土地が集中し、相対的に国が弱まることにもなりました。長く見れば需要の減少にさえつながります。

 拡大した格差が資本として正しく投資すれば、技術の進歩・征服・大規模土木工事などがうまく循環して国力を高めることもあります。

 

『現実』では、経済学理論という変なものが格差を拡大させ、多くの人を殺すことすらありました。自由競争を訴える学派が勝ったためにアイルランド飢饉で百万人死に、マルクス主義が勝ったところでは何千万人も殺されました。経済学者が国を乗っ取ったチリでは三万人以上が虐殺され、いまだに学者たちはそれを誇っています。

 ただ、格差がどんどん拡大していけば……最終的にはただ一人がすべてを持ち、残り全員が餓死すれば。その勝者は、黄金の山の上で餓死することになるでしょう。

 多く人々を奴隷にして殺すだけでは、全体の需要が減るのでは?筆者には、どうしても「残虐な奴隷化・プランテーションと搾取」と、「市場」が両立するようには思えません。

 実際の、「搾取した」奴隷農場はどの程度の需要を作っていたのか?まだ奴隷化されていない現地人……狩猟採集生活でも、村水準の独立国でも……どちらが生活水準は高い?

 さまざまな「悪の帝国」の征服はどのような経済を生むのでしょう?たとえば『ボルテスV』で、敵側が勝っていたら?

『叛逆航路』シリーズは、悪の帝国が勝利したのちの被征服世界の、経済や社会や政治を詳しく描いていると言えるでしょうか。

『スターウォーズ』のパルパティーン帝国に、建設的な面はなかったのでしょうか?『ファウンデーション』のミュール帝国が後に再評価されたように。

 

 

 地域と分業、権力と格差。

「近代世界システム」の本質、中核、周辺と世界を色分けし、要するに儲かる仕事は中核に集中し、周辺では奴隷が呻吟する。周辺から資源を奪って中央に集め、中央で作る。現実に、鉄鉱石鉱山があるオーストラリアに製鉄所がない。資源がない日本が繁栄した。

 

『銀河英雄伝説』では?『航空宇宙軍史』では?『スターウォーズ』では?『真紅の戦場』では?

 少なくとも、銀英伝の鉱山惑星であるヴェスターラントやカプチェランカは人口も少なく工業生産はないようです。

 全ての資源を首都星に集め、特に戦艦を作る工業は首都星がやる。

 描写は断片的ですが、シリウス戦役以前の地球の圧政は、資源を収奪し中央が豊かになる、という構造です。

 シリウス戦役での地球や、『月は無慈悲な夜の女王』や『ガンダム』宇宙世紀は、植民地の空気にも水にも代金を取ることで金を中央に吸い上げたようです。

 しかし、その「金」とは何でしょう。金(きん)に価値があり、それを、労働条件の悪い低賃金の鉱山で掘らせるならわかりますが……

 

 工業だけではなく、金融や政治そのものも、中央に集中されるようです。

『ファウンデーション』では、首都星は官僚機構だけで惑星全体が都市におおわれていました。

 

 すべての地域が、あらゆる産業を持つ。特に工業。分業と貧困・搾取に苦しめられた『現実』はそれを求めました。

 ヨーロッパ帝国から独立した国は自分たちも製鉄をすればいいと考えました。

 自立、自給自足。

 しかし、豊富な鉄鉱石と石炭の鉱山がある国も、それで豊かにはなれませんでした。

 特に自給自足にこだわり貿易を拒む北朝鮮はすさまじい貧困です。

 それが現実の教える容赦のない法則です。

 ナニカがなければ、豊かになれないのです……資源と自給自足だけではだめ。

 多くの、資源の呪いに陥った国もその証明でしょうか。古くはスペイン帝国、新しくはナウルや中東の産油国、さらにイギリスやオランダすら石油が出たことで衰退を感じました。

 同じ罠に落ちている宇宙戦艦SFはあるでしょうか?

 首都星が工場や官僚機構を独占しているから貧しい、なら各星系が工場も作り、事実上独立すればいい……本当にそうなるでしょうか?交易の必要すらなくなるリスクがあります。まあ交易が多すぎるのも、いつ超光速航行が不可能になるかわからないと考えるとリスクになるのかもしれませんが。

 

 

 宇宙戦艦SFで、ロシア革命のように市民革命からの悲惨、善意が地獄への道を舗装する悲劇はあるでしょうか。

『紅の勇者 オナー・ハリントン』はフランス革命後に似ています。

『彷徨える艦隊』のシンディックがソ連に似ているのは、過去に共産主義革命があったのでしょうか?

『銀河英雄伝説』の、自由惑星同盟でのクーデター、救国軍事会議の方針は民主主義・福祉の否定と精神統制、ルドルフの方針に近いものでした。

 

 

 民主主義国も、宇宙SFでは腐敗することが多いです。銀英伝の銀河連邦、自由惑星同盟。ガンダムの宇宙世紀の地球連邦。『彷徨える艦隊』のアライアンスも、軍人の信頼を失い自らもクーデターにおびえています。

 経済のプレカリアート化、二極化それ自体が、民主主義そのものにとって有害?

 

 

 より一般的に、改革そのもの。

『現実』の多くの文明が改革の必要性を感じ、改革をしました。

 それによって衰退が防げたのかどうかはわかりません。

 古代ローマにおける、グラックス兄弟の改革とそれに対する反動。シーザー、アウグストゥスと継がれた帝政という改革。キリスト教、帝国の分割や遷都。

 江戸時代の日本の、三大改革。後期の二つの改革は、銀英伝の救国軍事会議にも似た、思想・娯楽の禁止が強いものでした。

 そして明治維新という、唯一の大成功。

 中国やオスマントルコが、産業革命で強化されたヨーロッパの侵略と圧力に対抗しようと繰り返し失敗した改革。

 イースター島で、苦しくなった時にとにかく多数のモアイを作り、ある時点からはモアイを破壊して、根本的には木材枯渇による飢えに抵抗し続けたこと。

 スペインがコロンブスの無謀な航海に出資したのも、レコンキスタが終わり征服という美味しい果実がなくなることに怯えたからもあるでしょう……適応するための改革の試みともいえたわけです。奇妙な失敗に終わったにせよ。

 

 衰退に抵抗するため。また、外に出現した極端な力に抵抗するため。

 様々な国が変わろうとします。

 それらを見ると、文明そのものが衰退しているのだから無駄なことはやめろとすら言いたくもなります。

 改革の多くは、明らかに間違った方向……宗教、道徳を強め、文化、中でも科学をより厳しく抑圧する方向に進んでしまいます。

『老人と宇宙』では、地球人のコロニー連合を恐れた多くの異星種族はコンクラーベという集団を作って対抗しようとします。

 

 そして『銀河英雄伝説』の、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムによる革命。

 ルドルフは、バカだったのか天才だったのか。バカであったとしては成果がよすぎる……何百年も王朝がもったし、帝制そのものはその後も続く。貴族号も廃していない。原作では、貴族・軍・官僚の三位一体によるものとされます。

 長続きした王朝には江戸幕府や明朝、古くは古代エジプト帝国もあるでしょう。古代ローマ帝国も、東ローマを加えればかなり長い。

 

 どの程度の時間が必要だったか、同盟との接触は関係するかなど疑問はありますが、結果的には多数の貴族領、小さい国に巨大な文明を分割し、人口を大きく減らしました。

 国が大きすぎるのが病巣だとしたら、国を分割することができない……13日戦争などのトラウマがあるから。それが厄介な制限だったと思われます。

 国を分割しないことが、中央集権>守る艦隊の派遣が遅い=大きい国が不都合ということにもなります。

 人口急減=すぐ助けに行けない地域の焦土化でしょうか?…独立は全人類唯一のため容認できない。

 また農奴化による労賃の削減……先進国が、労賃上昇で競争力を失う現象も関係するでしょうか。もし今の世界で全世界の人が最低限の金を与えられ、最低賃金を決めてしまったら、資源を抜きにしても全世界の産業が、文明そのものが崩壊するということはないでしょうか?

 

 

 海賊との戦いも文明の変質としては重要でしょう。

 いくつもの、特に宇宙海賊が多く強い作品は、超光速航行が不可能になった作品同様、文明崩壊にはならないのでしょうか?まともに交易ができているのでしょうか……

 その海賊を倒すのは、功績として高く評価されるのは当然でしょう。

 

 

 帝国の衰退、文明崩壊は、「食べられなくなる」からだというのが筆者の考えの中核ですが、色々調べると本当に「食」が重要かどうかも疑わしくもなります。

 江戸時代日本は天明の飢饉などがあったのに、なぜ国が崩れなかったのか。流民の大規模武装蜂起が起きなかったのか。

 他にも多くの、大飢饉を起こしたのに崩壊しない帝国……イギリス、ソ連、共産中国……

 中国史でも、最初の秦の崩壊は飢餓と暴政が強かったにせよ、それ以降は常に宗教がきっかけになります。

 単純に考えて、帝国の規模が大きくなると、たとえばスペイン帝国はナポリが飢えたからインカからジャガイモを運ぶ、というのは不可能でした。ある程度の規模から、食料の融通が非現実的になります。ある程度以上の帝国は、どの程度人は食う必要があることを考えるのでしょう?

 では納税は?交易と同じ、高価な商品のみ。

 もう「食べる」意味がなくなり、ただ服従だけが残ってしまう……

 ただ、穀物を運べない程遠い、穀物が主産物である地を、どう搾取……人。数トンの食糧を濃縮した、人そのもの。

 人を支配できればいい。少数が多数を支配する、人間に共通する何か。それだけでも帝国は存在する、ではそれが壊れて帝国が滅びるのは、何がきっかけでしょうか?宗教?

 

 そして「食」と関係あるかわからない、多くの文明の衰退で特に目立つ、財政。

 江戸時代の日本も、古代ローマ帝国も、スペイン帝国も、国は財政的に破綻しました。金銀でできた貨幣を何度も改鋳……金銀を少なくして貨幣の数字だけ増やしました。

 中国史を見ればどの帝国も、最初のうちは征服の勢いでやった大規模な工事や侵略を続け、時には二代で崩壊し、時には節約し民を大事にする名君が出て中興しました。

 その財政破綻には、戦争技術の変化という面もあるでしょう。大砲と帆船、大規模な土塁の要塞は膨大なカネを必要とし、近代国家になれなければ破産するだけでした。そして第一次・第二次世界大戦はまた別物と言えるほどの超負担で、大英帝国やロシア帝国の崩壊につながりました。

 古代ローマ帝国は最終的には、防衛力すら失いました。

 

『銀河英雄伝説』では相続も狂い門閥貴族による簒奪が目前、一方の自由惑星同盟も国民・軍人の信を失っていました。

『彷徨える艦隊』でも両方疲弊し、民主主義側でも軍人が政府を信じなくなっていました。

 

 最終的には資源枯渇を強調する作品もあります。

 

 また、幾多の作品で、「崩壊した古代帝国」が見られることも考えるべきでしょうか。

 古代ローマ帝国の遺跡に驚嘆した、もはやセメントを用いた大規模工事などできない中世の人々が、半ば迷信で共通意識に刻んでしまった概念。

「崩壊した古代帝国」自体は、剣と魔法ファンタジーでも多くの作品にあります。

 それらの帝国は、どのように崩壊したのでしょう。

 技術の暴走。けた外れの、おそらくは神罰である自然災害。それらさまざまな理由が言い伝えられます。

『ロスト・ユニバース』『ガルフォース』は超兵器の暴走。

 

 

 何よりも。

 大きくなった子供に、無理に子供服を着せたら動きにくく破れる。女の子が大きくなったら生理用品が、のちには避妊具が必要になる。

「新しいぶどう酒を古い革袋に入れる者はいない。そんなことをすれば、革袋は破れ、ぶどう酒は流れ出て、革袋もだめになる。新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。そうすれば、両方とも長もちする。(マタイによる福音書9-17)」

 この言葉は、古代ローマ帝国の幹部こそが聞くべきでした。キリスト教自体を信じるよりも。シーザーやアウグストゥスはある程度わかっていたとしても。

 

 国の規模が変わる。国の技術水準・生産力が変わる。新しく運河が完成する。力を持つ階層が変わる。

 周囲の国の技術水準が変わる。遠くから新しく船を発達させた国がやってくる。

 地球全体の何百年単位の気候変動で、平均気温が変わり風や雨が変わる。

 資源が枯渇する。

 しかし、あまりにも多くの国は変化に対応できない。

 人間は、一切変化させないことが善だとする傾向が、とてつもなく強い。変化を拒む、「欠乏」側の精神も強い。

 そして進歩ではなく、復古と狂信を選ぶこともあまりにも多い。

 また、変化に対応することには成功しても、そのための無理が後に罠となり破滅することもある……近代日本のように。

 オスマントルコなども、西欧が強くなったことはある程度知り、まず工場を買ってそれを動かすことができず、のちには「信仰が弱く、古く正しい生き方から外れたから」と誤った変化を求めて滅びました。

 

 正しく自分と、全体を見る。何をすればいいのか見る。それがどれほど難しいか。

 しかもそれが正しくてさえも、そのために必要な犠牲が大きすぎて、近代日本のように改造手術は成功したが数十年後に狂い弱体化して潰される、となるかもしれない。

 それほどに、変わることによって衰退を避けることは難しい。

 

 だからこそ、栄枯盛衰は限りなく普遍的に思えるのでしょう。

 

 おそらく多くの星間文明も。

 そう……ルドルフが、180センチを超えた子に、4才用子供服は合わないと思った。それは正しかった。

 しかし、人類の性に負けてしまった。ペテロが眠気に、多くの人がアルコール中毒に負けるように。道徳、宗教。「心を統制すれば救われる」。

 指数関数を否定することを選んだ。

 

 そして、「心か物か」という問いが、さらに大きく深いものとして見えています。




このテーマはこれからも考え続けるでしょう。
まだ読んでいない、読みたい本も、読み返したい本もいくつもあります。
全く分かっていないと言い切れる分野も多くあります。

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