宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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上位存在

 多くのSFに、上位存在というものがあります。

 

『現実』の人間から見れば、まず神、神々。また、上位の民族や貴族など。学者など知識階級。怪物。

 それらと上位存在は近い存在と言えるでしょう。

 

 原始の人たちの神々。あらゆるものを擬人化する人間の精神構造が作り出した、人間と同じ心を持つ超越者。古い神話では、まさに嵐や地震など自然災害、戦場や政治の理不尽と残酷のように残虐で、欲望のままに暴れ、理不尽に人を殺し犯す、今の道徳で見れば悪としか言いようがない存在。

 悪霊と神々は区別がつかない、ともいえます。

 その悪霊が暴れ、自分たちを害さないように、とさまざまな儀式が発達しました。その多くは人畜の生贄。それが宗教となりました……

 そしていつか、宗教が発達するにつれて慈悲深い神の姿をとるようになりました。

 

 また宗教は政治とも経済とも深い関係を持ち続けました。

 多くの人の、心の中の知り合いとして神や聖母、聖者、天使、仏、祖先などはいます。

 

 

 さらに、生きた同じ人類である上位者。

 特にインド。昔、馬を使うアーリア人に征服され、そのまま厳しいカースト制度が作られました。武力をふるう支配階層は、まさに生きながらの神。

 他にも、支配民族と被支配民族がはっきり分かれるところは多くあります。中南米では無残なことに人種による階層ができてしまっています。

 そうでなくても、ある程度以上大きな農業帝国ができれば、圧倒的な格差が生まれます。経済的にも、武力においても、法においても。

 大航海時代から帝国主義時代の近代西洋人も、植民地競争に参加した日本人も、ほかの侵略者も、すべて自分たちは上位の種族であり、下の種族を従え搾取し導くのが使命だ、と悪の限りを尽くしました。

 

 悪質な侵略手法に、間接統治と代理戦争があります。分断して統治せよ。

 現地の貴族の隣に侵略民族が立ち、その支配を助け、干渉し、利益を吸う間接統治。

 本国、欧米の二つの列強が争っている。直接本国同士が戦争をするかわりに、現地で対立する集団を見つけ、武器や知識、訓練を与え、膨大な借金を課して戦わせ、死の商人が儲ける。

 強大な侵略種族は、その知性で侵略される者を、操ってしまう。

 

 強い者は弱い者とは、違う。断じて同じ種類の人間ではない。強い者は神の子孫であり、

青い血が流れている……とされます。

 幼児期からの栄養状態の違いや訓練もあり、体格も腕力も違います。近代のイギリスでも、イギリス人の男はあえてボクシングでの挑戦を支配される有色人種に許し、ルールに適合した技術と体格で勝利し自分たちが上位の種族だと体に刻み込んだものです。

 さらに読み書き計算という魔法としか言いようがないことができる。星を見て方向を知り、種をまく日を決めることができる。

 そしていつでも、弱い一般種族からすべてを奪い、気まぐれに殴り犯し殺すことができる、すさまじい権力を持っている。古代の嵐の神々と同じ、邪悪で強大で絶対に逆らえない神々にほかならない。

 家畜と人の関係と同じく。

 

 

 そのような存在は、SFにおいてさまざまな形で出てきます。

 

『宇宙戦争』の、まさに原住民に対して西洋人がやったように、圧倒的な技術力で破壊殺戮の限りを尽くす異星人。…技術力が高く、残忍で、強い。

 他にも多くの侵略系異星人。

 

 それに対する人間側の対応として、『スーパーロボット大戦OG』では人類の権力者は地球を売って生きのび権力を維持しようとしました。欧米の侵略者に迎合し権力を維持した、中南米から東南アジアまで数多くの原住民権力者のように。

『V(ビジター)』も現地、地球自体の権力と異星人が強く結びつきました。

『彷徨える艦隊』のある異星人も、政治力で地球人を操り、泥沼戦争を起こさせました。またスパイダー・ウルフ族は交渉に成功し、地球人を高い技術力で助け導いてくれました。

 

 大航海時代の西洋人のように、技術力が高くとも征服・殺戮・奴隷を求める種族は、ある意味理解しやすい相手です。『ヤマト』のガミラスやスーパー系ロボットアニメの敵のように。

 

 ただ皆殺しにしようとする敵も、それなりにわかりやすいとも言えます。

 多いのが『バーサーカー』型。『オペレーション・アーク』『啓示空間』など多くの作品に見られます。

 上述のように宗教的な理由であることも。

 

 

 

 相手とまともに交渉できない、理解不能であることがあります。

 大航海時代の歴史は、西洋側によって書かれています。だから西洋側から見て、どれほど相手が理解不能で劣った存在か、書かれているのはそればかりです。しかし、文字があった中国やイスラム、日本の側が西洋について書いたものがあれば、そちらから見て西洋こそ理解不能でしょう。

 さらに文字がなかったため書き残されない、国家もないし所有や法の根本概念も異なるアフリカなどの人々から見た西洋はもっと。

 

 理解不能性が高く、さらに人類に対して敵対的なのが『タイム・オデッセイ』の魁種族。きわめて高い技術水準がありつつ、交渉なしに人類を滅ぼそうとしてくる。

 

 理解不能であり、敵味方がはっきりしないのが『老人と宇宙』のコンスー族。

 白色矮星を支配する桁外れの技術力で、地球・コロニー人を助けることもあり、その敵に技術を与えることもあります。何か、宗教的な論理で銀河各種族の争いを煽っているらしい。交渉がうまくいけばコンスー族の代表が死ぬまでの白兵戦をしてくれることもあり、勝てば助力を得られます。

 

 最後に種明かしがあるにせよ、人類にとって長く理解不能だったのが『幼年期の終わり』のオーバーロードでした。

『2001年 シリーズ』の、モノリスの主も人類から見て理解不能です。

 

 

『ローダン』は《それ》をはじめとするさまざまな上位存在にテラナーは翻弄されます。

《それ》はテラナーを選び、細胞活性装置という不老不死をローダンたち主要人物に与えました。それから《反それ》との「宇宙のチェス」でローダンたちを翻弄しました。テラナー自体をチェスの駒としルールにこだわる。まさに代理戦争。

 その勝利に貢献した「ほうび」が、七銀河公会議という侵略者を呼び込んだこと、という理不尽。

 時に《それ》が捕らわれの身になり、ローダンたちに助けられもします。

 ほかのさまざまな上位存在とも、ローダンたちは翻弄されつつ対決し、テラナーの生き残りをかろうじてつかみ続けます。

 

『天冥の標』も上位存在ともいうべき特異な異星人どうしの争いが、代理戦争の構造で人類を翻弄し、さらに別の異星人も操って巨大な戦いを起こそうとしました。

 

 

『レンズマン』のアリシア人とエッドール人は、ある程度発達してからの神と悪魔のようにわかりやすい善と悪です。ただしアリシア人にとっても、人類もほかの人間族も戦いのための道具にすぎません。それも代理戦争。

 

『宇宙軍士官学校』のオーバーロードと言われる上位種族も、けた外れに技術が発達しているだけの人類のようです。各星の人類に試練を課し、敗れた種族が滅びたり、ロストゲイアーとして衰えたりしても座視します。戦いでリソースが限られているからとも言われますが。

 そして主人公がちょっとした、思念情報システムでの事故のような交信があった、という理由で地球人にとんでもない助力をする、という気まぐれな感じもあります。

 

 

 試練、という考え方も結構あります。

 上述のコンスー族や、『宇宙軍士官学校』の魂の試練。

 また『ヤマト』のスターシヤは簡単に助けるのではなく、試練としてコスモクリーナーを取りに来いと言いました。完結編のアクエリアス星の精霊も、生命を与え、同時に滅ぼす災いでもある、愛と試練の女神です。

 

『銀河鉄道999』のメーテル、エメラルダス、キャプテン・ハーロックらも、人間より上位の存在のような印象があります。メーテルは鉄郎に旅という試練を課します。

 

 

 上位存在というほどでなくても、コンピュータの面が強い世界では、強大な権力を持つ人間であり、同時にプログラムである存在が見られます。

 

『量子怪盗 シリーズ』も何体かの、超絶的な知性体が権力をふるっています。

そして主人公はそれらに翻弄され、また怪盗ルパンが権力を翻弄するように戦っています。

『楽園追放』『楽園残響』では、支配者の疑り深く欲深く、自分の勝手な論理を他者に押し付ける、暴君としての面が強く出ていました。

『サイボーグ009』の001は知能を増強され超能力をつけられ、ある意味上位の存在です。

 

 他にも多くのディストピアもので、その支配者は上位存在にも見えるでしょう。

『火の鳥 未来編』はコンピュータを、『銀河英雄伝説』はルドルフという一人の政治家を上位存在だと思い信じすがったことで……そしてラインハルトも……

 

 同じ人間であっても、黒幕・犯罪組織・権力者が、上位存在のように動くことがあります。

『現実』でも代理戦争で後進国の内戦を操る人々は、自分たちはボアザン星人と地球人と同じく上位存在だと当たり前のように確信しているでしょう。

『銀河英雄伝説』の地球教は長い戦争を操ります。『敵は海賊』のヨウ冥(ヨウは出にくい漢字)も世界を支配しています。

 数々の作品のすさまじい権力と財力を持つ権力階層。現場の将兵を駒、あるいは娯楽とまで貶めて使い捨てる上層部。

 もはや本人たちは自分を上位存在と思っています。断じて、断じて同じ人間などではない。

『真紅の戦場』『レッド・ライジング』『星系出雲の兵站』などでは、上の階級の人の心理もかなり丁寧に描かれています。

 だからこそ、憎悪も深い……『銀河英雄伝説』のシリウス戦役での地球やゴールデンバウム帝国の門閥貴族は無残に倒されました。『月は無慈悲な夜の女王』でもそれなりの血が流れています。

 やや異色ですが『光の王(ロジャー・ゼラズニイ)』は能力的にも神々の域に達しています。

 

 

 面白い形で人類に干渉し、歴史を変えた……『鉄腕アトム』の「アトム今昔物語」では、異星人が人類を脅迫して奴隷だったロボットの解放を強いました。

 ちょうどイギリスが、征服と搾取と同時に奴隷制や未亡人殉死の風習と激しく戦ったように。

『幼年期の終わり』のオーバーロードも、闘牛を禁じるなどしました。

 

 アシモフのロボットシリーズでは、ロボットは慈悲深く人類を管理しています。

 その状態が本当に望ましいかどうか、と問うものでもあります。

 

 といってもSFは、「現在の人類は愚かでダメだ」と「人類を技術で進化させようとしても絶対ダメだ」という、ダブルバインド、詰んでいるとしか言いようがないメッセージが圧倒多数の作品に共通した根底にあります。

 

 

『ギャラクシーエンジェル』のウィル族は、子供が積み木で家を作っては壊すように、宇宙を何度も作っては破壊してきた強大極まりない存在です。

 人類の低い文化文明を認めないのが、ある時期までの西洋人と共通します。

『スタートレック』シリーズのQも、全能でありつつ幼児じみた未熟な心を持っています。

 

 

 顔を出さない上位存在……特に、昔栄えていた文明が滅び、その遺跡だけが見つかるタイプの作品の、その昔の文明の主という形での上位存在もあります。

『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』は、オールドタイマーと呼ばれる過去の種族の遺跡を争奪し、ときにはその遺跡と交渉することもあります。

 戦いが続いており、めちゃくちゃに兵器の水準を上げ続けていること、それ自体がオールドタイマーを恐れる人類が、それが帰ってきて牙をむいた時に対抗するためです。

『啓示空間』『共和国の戦士』『海軍士官クリス・ロングナイフ』『真紅の戦場』『クラッシャージョウ』『ロスト・ユニバース』などでも、失われた遺跡の高い技術力を持つ異星人を地球人は意識し、時には絶望すら覚えます。

『マクロス』では過去にプロトカルチャーが滅ぼされたことが地球人との戦いとも関係します。

 

 

 人間との違いが極端な存在。上述した、宇宙レベルの自然災害や物理法則の変化。物質的な体を持っていない存在。

 上述のように、技術水準の低い人類にとっては巨大隕石も同様の存在です。

 

『火の鳥』の、火の鳥そのものがまさに古い神話の神のようです。

 最初のうちはまだ理解可能な勧善懲悪で行動することが多かったです。しかし、のちにはおぞましいまでの理不尽をぶつけてきます。

 惑星を簡単に滅ぼせる力がありながら、無残に滅びる人たちを救わず見捨てる。

 気まぐれに近い感情で地震で居住に不適な星の地震を止め、そして自分たちの責任とは言えない悪意で住民が欲深くなったら無造作に滅ぼす。

 その他、勧善懲悪とは程遠い、荒ぶる神、道徳を超越したかの如く圧倒的な存在です。

 

『ヤマト』でもスターシヤ、テレサ、ルダ・シャルバート、惑星アクエリアスの精霊は女神のように宇宙に姿を見せて語りかけ、生死も超越しています。

『スターウォーズ』ではフォースの特殊な運用として死の超越があり、オビ・ワン・ケノービやヨーダ、後にはアナキン・スカイウォーカーもルークの前に顔を出すことがあります。

 

『都市と星』では、善悪両方の超越的な存在を、多くの人類および同等種族が人為的に作り出しました。

 他にもシンギュラリティものの、超越知性……『シンギュラリティ・スカイ』や『SF飯』の大母などが見られます。

 

 意識があるように思えないのに、強大な悪意としか思えないものに『航空宇宙軍史』の宇宙の流れがあります。そのせいで人類はループに……

 

『タイラー』の銀河を飲み込む超巨大超光速ブラックホール、颱宙ジェーン。それは単なる自然災害である以上に、まるで意思があるように、タイラー自身のように想像を絶する加速をしてきます。タイラーが真にライバルと認めた唯一の存在でもあります。

『さよなら銀河鉄道999』のセイレーンは意識がなく、自然災害と、巨大で本能で動く生物を合わせたような存在です。ただ機械生命の生命力を食べたいと機械文明を滅ぼしました。

『イデオン』のイデ、またその延長である『スーパーロボット大戦』の無限力や、多くのラスボスはほとんど宇宙そのものとも言えるでしょう。

 それ以上、「多くの宇宙」より上の存在もマーブル・コミックなどに見られます。

 そのような高い次元の存在には『サイボーグ009超銀河伝説』のボルテックスもあります。『最後にして最初のアイドル(草野原々)』もその次元でしょう。

 

 そんな上位存在は、祈りを聞き届けるでしょうか。

 特に甘い作品の超存在は主人公たちの苦闘を見て、恩恵を授け生存を許してくれます。

 しかし、人類が何をしようと気まぐれに滅亡やもっと悲惨な破滅を与える、自然現象や悪魔のような存在もあります。

 特に今のSFは、『クトゥルー神話(ラヴクラフト)』の、人間とは異質でけた外れに強大な神に潰されるだけの人間、という世界観も強くあります。

 

 

 人間が上位存在に反抗する。

『ガルフォース』では、はるか上が決定した新種族を作る計画を現場の一人は悟って、絶対に嫌だと拒絶しそのために生命を落としました。

 はるかな上層部は、下の人間にとってはもう上位存在も同然です。

『銀河の荒鷲シーフォート』では勝利することも理解することもできなかった敵が、単純なプログラムで動く存在だと判明しました。

『敵は海賊』のヨウ冥は上位存在を殺す力を持ち、支配されまいと戦い続けます。

『スーパーロボット大戦OG』のシュウ・シラカワも自分を支配する者は神であろうと絶対に許しません。

 

 

 地球人には共通して、「自分たち(一族)は、他とは質が違う偉い存在だから他はすべて踏みにじるべき、文化宗教を否定し奴隷化するか皆殺しにすべき汚い虫けら」「自分たちがあがめている神、掟に従わなければ世界そのものが滅びる」という事実上デフォルトの心があります。

 それを投影した上位存在たちとの対決。それもまた、圧倒的な強敵との戦いと同じく人間を輝かせるものでもあるのでしょう。

 相手が人間的であれば、独立と解放、勝利を求める闘士として。理不尽な存在であっても、最後まで心を燃やし続けることで。

 それしか認められないのかもしれませんが。本来は、神や妖精と出会う民話や伝説は多数あるのですが。

 

 昔は、神と争うことなど許されはしない、が結論でした。

 旧約聖書のヨブ、ヨナ、そしてアブラハム。人間の心に入っている勧善懲悪がノーという神の行い……ヨブは悪いことをした覚えがないのに天罰としか思えない災難、ヨナは憎い敵国を救えと言う命令、アブラハムは愛する息子を生贄にせよという命令……

 ヨブは圧倒され、ヨナは鯨に飲まれて従い、アブラハムはわが子に刃を振り上げました。

 新約聖書でも陶工が粘土を茶碗にしようが便器にしようが粘土は文句を言えない、神が人をどうしようが勝手だ、とあります。

 

 しかし、それが神ではなく、異星人でも人や自然現象であれば?




『トリポッド』については「精神技術・麻薬・宗教」に移しました。

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