また「人の幾何学」は別の形で発表できたらと思っていた文章ですが、無理そうなのでここで。
『銀河英雄伝説』の根底にあるのは、一つのとても単純な計算です。
こちらは科学的事実……銀河の恒星数二千億。銀河の五分の一=四百億。
原作に書いてあること。人口、連邦時代の最大で三千億人……原作開始時点で、同盟分の領域増もあるのに合計四百億人。ヴェスターラントが三百万人。
ひとつの星の平均で五百万人としたら、星数はわずか一万。
四百万に一つの星にしか、人は住んでいない。
もうひとつ原作に書いてあること、帝国辺境……二百の星系、三十の有人星、五千万の人口。やや田舎のほうです。
こちらはおよそ十分の一が有人星です。
森があって恐竜が歩いている星、ものすごい鉱山しか相手にしない?
いや、星系が少なすぎます。銀河二千億の、五分の一の、半分の、辺境。それだけでも百億ぐらい星があってしかるべきでしょう。
ものすごく航路がいい星しか数字に含まれない……そうとしか思えません。
ちなみにエコニアで、水が多く緑豊かな星には多くの人が住む、とありました。
他にも歴史・人類のあらゆるところで、単純な数学でわかることは多いでしょうね。
『三体2』の「暗黒の森」自体、ごく単純な、数学的で普遍的で物理学的な真実から導かれたものです。
異星人が、現在の地球人の人口と、地球の大きさ・温度・大気組成・大陸配置ぐらいを知ることができたら、それで地球人についてどの程度のことを理解するでしょう?
「ハーバー・ボッシュ法がなければ地球で養える人口は30億以下、だからそれはあるだろう」
「逆に核融合程度でも有効なエネルギーがあれば、海水を淡水化してもっと多くの人口を養っているだろう。だからそれはないだろう」
など結構言えることはあると思います。
総人口というのはそれほど大きいデータ、というわけです。
『スコーリア戦記』は兆という地味に大きい数字だったりします。
『ファウンデーション』は10の18乗という大人口自体が心理歴史学の計算を可能にしました。
宇宙戦艦作品でも、『三体2』の「暗黒の森」を作り出したのは、圧倒的な距離による通信・観測・対話・交易の困難です。この宇宙が、たまたま星と星の距離がものすごく遠く、光速が相対的に遅いということ、それ自体。
『現実』のフェルミ・パラドックスも、星と星の距離が主因かもしれません。
距離の防壁・暴虐はそれ自体、『銀河英雄伝説』同盟の主戦略でした。
もっと根源的には、物理学者の研究によると、たとえば『現実』の空間3次元・時間1次元+電磁気力や重力の逆2乗とは別、たとえば空間5次元・時間1次元とかを想像して計算したら、電子が原子核に落ちるようなことが起き何十億年も生物が生活するのは無理だそうです。
それほど、数学の根本が、われわれの生活や社会そのものを制限し、規定しているのです。
特に物理学者にとっての聖杯、「万物の理論」「究極理論」。物理学者たちは、宇宙の今の在り方……電磁気力と重力の強さの比、光速などあらゆる数値……が、数学自体から必然的に導き出されることを、激しく望んでいます。
さらに言えば、『現実』を規定する技術……「空飛ぶ車を注文したのに手に入ったのは140字」、というか超光速が今のところ無理だったり、核融合を亜鉛製ピストンで起こせなかったり(亜鉛の融点や強度が低い)すること自体、この宇宙の物理法則、数学で描かれる何かが決めていることです。
逆にセメントそのもの、鉄とセメントの膨張率が近くアルカリが防錆になるなど相性がいいからの鉄筋コンクリート、鉄と鉄の転がり摩擦の低さ(鉄道)など、神の恩寵といわれて納得するようなことも多くあります。
数学や基礎物理学に属することで、膨大な作品に共通することはほかにもあるでしょう。
あらゆる文明・生物やその類似物を支配するのは熱力学第二法則。要するに諸行無常・盛者必滅・掃除しなければ部屋は汚れる・覆水盆に返らず。
ゲーム理論、囚人のジレンマと、それをゲーム化した場合の最強戦略「しっぺ返し」も膨大な作品に共通して出てくることです。
この評論で繰り返し出てくる、指数関数の威力。チェスあるいは将棋盤に、1、2、4、8……前の二倍、と置かれた米粒の、現在の世界農業生産すらぶっちぎるとてつもない数。それは「暗黒の森」の根源でもあり、またマルサス理論の根源でもあります……どれほど多くの資源があっても、生物の指数関数増殖はあっという間に消費する。それは≪進化≫という、『現実』の地球人も、おそらくはあらゆる文明を作る異星知性も作り出した、文明の本質に直結します。膨大な数が生まれほとんどは死ぬ。
物理学自体が違う世界を追求した奇跡的な作品が『クロックワーク・ロケット』シリーズ(グレッグ・イーガン)です。また、同じイーガンによる物理学そのものを描く作品として『白熱光』『万物理論』を挙げておきます。
数学は経済学を通じて、今この『現実』の世界も強く支配しています。自由世界において経済学は宗教と同等であり、またマルクス主義も同じような権力をふるいました。
また数学は、共通の言語や身振りなどを持たない異星人と意思疎通する究極の手段でもあります。
『現実』のアレシボ・メッセージは素因数分解を本質にしています。
『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』では、遺跡にビーム砲で素数を撃ちこむことでコンタクトを成功させました。
素数メッセージは他にも無数に使われます。相手に知性があるかもしれない、と思ったらとりあえず送ってみるものです。
少し変わった、数学に関係するファーストコンタクトに、『彷徨える艦隊』のスパイダー=ウルフ族があります。糸を出す生活もあり、地球人の言語などとはやや異質な、模様・糸の張り具合を用いる言語・思考法をします。
種族や文化がある数字にこだわることもあります。
『宇宙のランデヴー』のラーマはすべて「3」です。
『火星航路SOS/惑星連合の戦士』の異星人の一つは何もかも「7」です。
地球人が進化による偶然で、手指が10本だから10ばかり使っている、さらに地球が母恒星1・衛星1で、自転周期と衛星の公転周期が約30、自転周期と母恒星を公転する周期が約365、という偶然から12・60を基礎とする数体系も使う、ということを相対化するものです。
『叛逆航路』で滅ぼされたガルセッド星の文化は「5」を基としており、だからこそ皇帝が24挺全部没収したと発表した銃がもう1挺どこかにあるはず、と主人公は希望を保ちました。他者の文化に関心を持たない皇帝はそれに気づかず、持つ主人公は気づいたのです。
他にも、筆者はあまり多くは知らないのですが、ファーストコンタクトもの全般を見渡せば多くの数学があることは間違いないでしょう。
《人間社会の幾何学》
『現実』の古代の人類は、単純な幾何学に支配されています。現在の人類もおそらく想像以上に。
まず、1乗2乗則。正方形を考えればわかります…1辺1単位の正方形を4つ田の字に並べれば、1辺は2単位、面積は4倍になります。
そして周囲は4から8、2倍です。
それは円でも楕円でも、相似であれば変わりません。形が変わっても、「大体の大きさ」でも変わることはありません。きわめて普遍性の高い法則です。
さらに空間では2乗3乗則になります。
たとえば人間を10倍にしたら、足の骨の断面積は10倍、体重は100倍。断面積一単位当たりの体重が10倍。だから10倍は強い素材でなければ同じ形はあり得ません。
「人が歩くのは、優れていれば一日40km」…これもとても重要な基準となります。
「人は食物を食べ、水を飲み、糞尿を出す」
「特に都市を築くには、木造・レンガ・石を問わず、大量の木材を消費する。生活にも燃料として木材が必要とされる(石炭・石油・天然ガスが本格的に利用されるのは遅い)」
「木材の多くは水に浮く」
「昔は缶詰がない」
など、あたりまえですが大変に重要なことが多くあります。
木材はレンガにも必須です……燃料として。日干し煉瓦であっても漆喰を焼く燃料や、雨除けの板材が必要です……漆喰は石灰石などを火で焼いて作ります。
石材が豊富でも、漆喰・セメントは必要です。どちらも燃料を消費します。また、石材を得るには「ころ」として丸太を用います。
火薬がない古代において大きい石材を切り出す事実上唯一の方法は、火で焼いてから水で急冷することです。コーヒーのサイフォンや耐熱ガラス鍋を加熱した状態で水をかけたら割れてしまうのと同じ現象です。その火に燃料が必要なのです。
モアイ像を作ったイースター島は、島の木を切り尽して滅んだのです。
レンガ・石材ともに、木材は足場を作るのにも必要です。ビル建設に欠かせない足場、鉄鋼加工技術が低い昔は当然木材です。
宇宙戦艦作品では同じようなことは?
人が空気・水・食料を必要とすることなど?
『ガンダム』の宇宙世紀は常に資源不足に苦しみ、結局資源枯渇で文明崩壊に至ったそうです。
《円形都市》
わかりやすく理解するため、円形の都市を考えましょう。中国・西洋式の、都市全体が要塞となった都市です。
単純化のために、城壁も建物も木造とします。
円形都市には、巨大なメリットがあります。
「円は、周囲の長さ合計を一定としたとき、内部の面積が最大になる図形である」
ことと、
「任意の円周上の二点を結ぶ線分の長さは、直径以下である」
こと。
短い「周囲」で大きい面積を囲える。それは、現実の古代の、高い城壁がなくてはならない都市建設者にとっては、少ない石やレンガで大面積の土地を囲うことができる、という意味です。労働も少なくてすみます。建設費用が少なくてすむのです。
さらに、たとえば10mに一人の守備兵を置くとしたら、同じ面積の都市あたり守るべき人数も最小ですむのです。
任意の二点を結ぶ線分の長さ……
こう想像してください。壁の、北側に敵が兵力を集中しました。しかしそれは陽動であり、本命が東南から襲いかかりました。
円であれば、守備隊の移動が短い長さですむのです。逆に正方形の城であれば対角線から攻められたら、長い分だけ守備隊の移動に時間がかかります。
また平時にも、道路も短いので、内部はより緊密に連絡されるのです。道路工事費用も安く、道路舗装材も少なくてすみます。
それは、巨大な艦船・宇宙都市・移動要塞・都市帝国を想像しても、廊下・配管の資材が少なくて済むのは大きな節約となるでしょう。
『現実』F-15戦闘機の、またRX-78ガンダムやコスモタイガーの、重量の何割が「電線」でしょう?あるいは「油ホース」?『現実』でもフィクションでも、戦艦の重量のどれほどが電線やパイプでしょう?体積のどれほどが「廊下」でしょう?
円の「面積が広いわりに周囲の長さが短い」ことには、長所と裏腹の欠点もあります。
太いペンで円を描くように、「周囲の長さ」に幅があると考えてください。
同心円に挟まれたその部分は、都市に欠かせない木材を調達し、糞尿やごみを捨てる土地面積でもあります。
また、都市から耕しに出て、日が暮れたら都市に帰る、田畑の面積でもあるのです。……都市から離れたところに農家を作ってそこで寝泊まりするのは危険です。騎馬民族に襲われたら身を守れませんから。
円の周囲の短さは、その利用できる土地も最小にしてしまうという欠点にもなるのです。反面、守りやすくもあるのですが。
簡単に考えましょう。直径10kmの都市から、幅1kmの地の面積は約(3.14×(6^2-5^2)=34.5km2です。そして都市内部の面積は、78.5です。
では直径が20kmになったら?
幅1kmの地の面積は約65.9、都市内部の面積は314です。
面積はおよそ4倍、「幅1km」の面積はおよそ2倍。きれいに1乗2乗則が成立しています。
4倍の面積ということは、人口も4倍と考えられます。4倍の人間は、当然4倍の食糧や燃料を消費し、4倍の糞尿を出します。
しかし、それを処理する面積は、2倍にしかなっていない=一人当たりの、「周辺の土地」は半分になってしまうのです。
それは都市が拡大すればするほど、ひどくなっていくということです。
都市が大きくなればなるほど、一人当たりの農地・森林・ごみ処理場が小さくなる……これは円でなくても必然的なことです。
かといって、小さい都市を多数作り、それが緊密に連絡する……というのも難しいものです。
似たものとして、飛行機のエンジンがあります。小さいのを多数つけるほうが効率がいいとされます。
しかし実際にはそれは難しく、特に戦闘機のエンジンは1つか2つです。
銃砲が発達してから、円形要塞には別のデメリットも浮かびました。
もっとも有効な防御は十字砲火。二か所以上から同時に銃撃砲撃する。
しかし、円形だと緊密に火器を置かなければ、死角ができてしまう。死角の中に入れば、壁そのものが攻撃側を守ってくれるのでゆっくり掘るなりなんなりできる。
それを防ぐために、五稜郭のような要塞ができました。
『レンズマン』などには、五百パーセント重複した対空砲火網、というようにそういう時代の火器要塞防護の言葉が残っています。
宇宙戦艦作品の場合には、1乗2乗ではなく2乗3乗の形をとるでしょう。
サイズが2倍、面積が4倍、体積が8倍。サイズが3倍なら面積9倍、体積27倍にもなります。
《水運》
その問題を解決するのが、水運です。特に河川。
水運は現代の、高速道路や鉄道の存在感を兼ね備えています。現代でさえも、超大量輸送は水運が最安です。
また、特に流れのある川に流してしまうのは、糞尿処理としても昔の技術・乏しい資金では最善でした。
それによって、本来可能な以上に遠くから木材を運び、糞尿を流すことができてしまいます。
また、水は戦いにおいても重要です。
水堀・泥田は最高の防壁となります。反面、水路で敵も大量に早く軍を移動させ、食料を運ぶことができます。
鎌倉の遠浅の砂浜でさえ、船から陸まで長い距離を砂に足を取られつつ歩かなければならず、その間は弓矢のいい的です。そのことはノルマンディー上陸作戦でも変わりません。
水運というものがあれば、たとえば川岸や海岸に沿って細長い都市を作ることもできます。汚物も流され清潔で、高速大量輸送が常にあります。
ただしそれは、船から襲ってくる敵からも、陸側から長く伸びた壁を襲う敵からも、やや脆弱になるということです。
海ならばリスボン地震のように津波、川ならば洪水や、川が土砂で埋まることもあります。
《日帰り戦争》
普通の人間が、ある程度の荷物を持って、歩ける距離はせいぜい40キロメートル。
それはハイキングや軍の行軍などで示されています。
また、持てる荷物もせいぜい40キログラム程度です。体格のいい現代人の、優れた運動能力を持つ男性であっても。
自動車・鉄道などはありません。
人間は、激しい運動をすれば飲み水だけで一日10リットル近く、水筒を入れて10キロは必要になります。食料も、レトルトパックがない時代には重い荷物になりました。
武器や甲冑、寝具も持たねばなりません。
昔は、何百キロメートルも離れたところに戦争に行くのは、現実的ではないのです。
前述のように、1乗2乗則は別のはたらきもします。
開拓に行ったり征服したりする土地も、国が大きくなると相対的に減るのです。
人の動く速度に限界がある以上。
将棋盤のまんなかに『王』を置けば、一つの動きで八つ動けます。
田の字に四つ王を置き、味方がいるところは取れないとすると、どれも三つしか動けるところがありません。
さらに隣も手を出せるところは、よくて半分こ。実質二つしか取れるところがないのです。
九つの王を置けば、真ん中の王は動けません。
100の王を広い将棋盤の真ん中に正方形に並べれば、端にある王しか新しい領土を取れません。
中の王、すでに開発された土地で増えた人口は、好きなように開拓できないのです。
開拓するためには長距離を旅しなければならないのです。
それを立体とすれば、一つの王のまわりは26となり、それから……容易に計算できるでしょう。
要するに膨大に増えた体積=人口、それに対して帝国の表面で増えるわずかな面積、ビーチボールの厚みぐらいを分け合うことになるわけです。
それが、膨張……開拓でも征服でも……を続ける帝国にとって限界になるかもしれません。白色彗星帝国という、話を一乗、一次元に圧縮する別解を選ばなければ。
それが、『銀河英雄伝説』でルドルフを産んだのかもしれません。『スターウォーズ』のパルパティーン帝国も。
逆に無限速の交通が普及した『反逆者の月』はその制約がない、かわりに悪質伝染病一発で全滅しました。
《ちょっとした計算》
以前も言ったことですが、冥王星の質量と、適当な豪華客船の重量=排水量で、ちょっと計算してみてください。
10の何乗か、ぐらい。指数は足し算引き算が、掛け算割り算になる。
冥王星の資源の一部だけでも、簡単に兆の上、京=一万×一兆の収容人口になります。
ああ、月でもいいのですが月には水が少ないようなので。冥王星なら水もアンモニアも十分以上にあるでしょうからね。
どの銀河帝国も、本来は恒星系ひとつだけでもまともに利用すれば京やその上の単位の人口になる。
逆に何がそれを阻害しているかを考えるのが楽しいところです。
たとえば『ガンダム』の宇宙世紀は、いつも資源が足りない資源が足りないばかり言っていて、結局は文明崩壊に至りました。
氷は足りるはず。鉄は足りるはず。酸化ケイ素も足りるはず。硫黄もアンモニアも足りるはず。何が足りないのでしょう。
何か、核融合炉などに必要な、ものすごく肝心な資源がものすごく足りないのでしょう。
イスカンダリウムのような、現在の周期表には載っていないような。普通に、小惑星を蒸留して手に入るものではない。
《艦の形》
戦艦の形も、単純な数学が支配しています。
『現実』の水上船の延長。
特に海などの生物。
球。
直線。
円盤。変形としてのリング。
砲弾型。
戦艦の形をどうするか。
宇宙戦艦の歴史を見れば、本当に最も古いのは『月世界旅行(ウェルズ)』の巨大砲弾(どんぐり型)でしょう。
それから、エドモント・ハミルトン、E・E・スミスらスペースオペラ時代にはロケットをベースとした現実的な艦船が多く描かれます。どんぐり型も多いです。
『宇宙英雄ローダン・シリーズ』は球形・赤道環つきという形を作りました。
『スター・トレック』は円盤の後ろに二本のナセル。
『スターウォーズ』は、ミレニアム・ファルコンは変形の円盤状、スターデストロイヤーは三角形の水上艦に近い構造、デス・スターが巨大球形。
日本で『宇宙戦艦ヤマト』が水上船そのものを宇宙に上げました。それは美的に人を満足させたものか、多く模倣されます。
その変形として、『ガンダム』から『ナデシコ』、『タイラー』の〈信濃〉に至る、艦首が双胴となった人型機母艦の系譜が生じました。
『銀河英雄伝説』は前方投影面積最小を最優先した、細長い艦形。巨大な銃にエンジンと居住区をつけているようなものです。
『新スタートレック』のボーグキューブは立方体という変わった形です。
ほか『火星航路SOS』には七角形の巨大艦がありました。
比較的技術水準が低い、人工重力技術を持たない作品は、回転するリングを持つことが多いです。
球形は、少ない装甲材で最大のペイロードを持ちます。
方向転換に必要な力も小さいです。
廊下・パイプ・電線なども最小限で済みます。
また、ある程度以上大きい天体が重力だけでほぼ球形になる、それが準惑星の条件ともされるように、重力を考慮するほどの規模になると構造上必然、少なくとも大幅に楽でしょう。
ただし反面として、修理などのために中に手を突っ込むのが厄介です。
また前方投影面積がやや大きくなるという欠点もあります。
細長い直線状は、逆に『現実』の船のようにモジュール製造・修理が可能になる可能性があります。ダルマ落としのように輪切りになる、その輪を個別に作ってつなげることで効率よく建造し、また壊れた部分を取り換えるだけの修理。手軽です。
ただし、銀河英雄伝説では戦闘中にまともに方向転換することが事実上できません。まして艦隊戦の最中の方向転換は壊滅するだけの愚行です。
……指摘を受けて、「同重量、つまり素材は同じとして同体積の、剛体棒と剛体球の、回転モーメントと、それぞれの端に回転力を加えた時のモーメント」に挑戦してみましたがわけがわからなくなったのでご自分で計算してみてください。球の方が回転させるのは楽、ただしエンジンが中心から遠いほうが回転させる力は大きくなる、それがどう打ち消し合うのか……。
細長い船は、現在のコンテナ船のような極めて効率の高い荷役も可能です。最小限の、『門』の形をしたクレーンで大量の荷物を容易に扱えるのです。
心当たりがありませんが、ムカデなどのように節構造を持つ生物、それ自体を艦船とするか、その生態を模倣した作品もあり得るでしょう。その場合も生産が容易で、また故障した部分を交換するのも容易でしょう。
水上船の延長の形の艦船も細長い直線状と共通します。特にブロック工法・モジュラー生産とコンテナ。
ただし、ヤマトなどは砲が狙える範囲が上半分だけなどの欠点がどうしても出てしまいます。それをカバーしたのが『ガンダム』のサラミスや『イデオン』のムサッシなどです。
ヤマト=大和には、後ろにも主砲があります。ましてヤマトには煙突ミサイル・艦首魚雷ミサイル・舷側ミサイル・艦首波動砲もあります。艦首方向・舷側方向・真上のどれを敵に向けたいのか理解に苦しみます。
特に艦隊戦ではどうするのでしょう……大和には波動砲がないので舷側方向でしょう。日本海海戦のT字が理想。
『ヤマト3』では回転しながら突撃という解も示されました。
砲の配置として、『銀河戦国群雄伝ライ』の智の戦艦についてやや詳しい説明があり、五丈の師真はその欠点を利用して勝利しました。
全砲が前を向く。ただし揚弾機構に欠点、二つの砲に一つしかないので、連射が遅い。
ただしそれは、反面として出会い頭では全砲を注げるし、余計な揚弾機構の分の重量・費用・人員と人員のための食物・水・衣類・スペースを必要としない、という巨大なメリットにもなります。索敵し、奇襲し、全弾叩き込む、に限れば最強です。
相手のメリットを出させず、相手にとって不利な戦いを強要する、それこそ天才軍師というものです。
また『無責任艦長タイラー』のラアルゴン艦船は、正面に全砲を集中します。その上で、円錐状に布陣して突撃することで、全艦の全砲を前方に集中します。「ラアルゴニアン・ギムレット」と呼ばれる戦法。
後退を考えない、横や後ろから襲われたら終わりという、武人精神を重んじるラアルゴンらしい艦設計であり、また戦法でもあります。
細長い形は、宇宙ロケットやICBMを見ればわかるように、大気圏内の極超音速飛行にも適した形です。
大気圏で活動する艦船は、マッハいくつだろうとバリヤーで強引に突破するのでなければ、実際には形は限定されます。
特にロボットアニメで、衝撃波をほとんど考慮していいない、マッハ5とか10とかの飛行戦艦や戦闘機が多く見られるのがツッコまれています。
細長い形に近いものに、魚などの形があります。
『彷徨える艦隊』の艦船はサメに似ているようです。
シューティングゲームの『ダライアス』がまず魚などの形をした機械の敵を作ってヒットし、多くのシューティングゲームが模倣しました。『ガンダム』にもカニに似たハサミを持つロボットは結構あります。
生物は実に豊かな、見た目イメージの宝庫であり、だからこそ見た目が事実上すべてであるシューティングゲームで多用されます。
中間。円盤。
円盤状であれば、ある程度は廊下や電線を短くできると同時に、上からクレーンで、一部分だけ引っこ抜いて交換することで素早く修理できるでしょう。
小型の大気圏機にする場合、空力上有利であることもあります。ただし超音速になると衝撃波がぶつかるため不利になるでしょう。
前方投影面積も球や立方体よりはましです。
ただし円盤が好まれる理由として、『現実』の人類の歴史で、UFOを最初に報告した人の言葉が歪曲されて「空飛ぶ円盤」が大きい見出しとなって大ヒットし、それが固定観念になったことも大きいでしょう。
その流れが別であれば、別の形の宇宙戦艦が多くあったこともあるでしょう。
球形及び円盤は、回転による連射という動きが可能です。
『ヤマト』の都市帝国はベルト状の周囲を回転させつつミサイルを連射します。
『ローダン』のトランスフォーム砲も冷却が必要であり、だからこそ回転連射が有用な攻撃法です。
特に球形艦は、回転のために必要な力が最小限であり、その戦法に適しています。
『ヤマト』にはガトランティス艦などに、円盤状の速射砲も見られます。
日本のロボットアニメで、艦首双胴が多いのも不思議です。スフィンクスの形を思わせることもあるでしょうか。
また、双胴部分を巨大砲として利用する作品も多くあります。二つの長く伸びた棒の間に力場を発生させ、それを砲とする、というのは『ナデシコ』、『逆襲のシャア』のフィン・ファンネル、『蒼穹のファフナー』など特にロボットアニメやそれに寄る作品に多く見られます。
立方体。ボーグキューブという例外的な形。
どのような合理性があるのかは不明です。圧倒的な強さはあります。
少なくとも『現実』の地球人は、あらゆる部屋・荷物をまず直方体で考えます。それが合理的であることもあり得るでしょう。
艦砲の配置で、三次元空間では大きい矛盾があります。
球形で、全体に配置したら半分しか敵に向けられない。反面、どこから攻撃されてもすぐ反撃できる。
対照的に、たとえば円盤にして、片面だけに砲を全部乗せ、そちらの面を前にして突っこめば全砲集中攻撃できる。でも後ろから来られたら終わる。
どうすべきか。人型機さえ、そのジレンマの解の一つでしかないと言えるでしょう。
『ヤマト』では、特に暗黒星団帝国に、長い触手の先端に砲をつけた戦車が見られます。しかしその構造では、許容できる反動が小さいでしょうし、弱点にもなります。
『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』の腕付きレーザー砲は、漫画版では小惑星に隠れて射撃することすら可能にするほど便利です。ただし、反動のある実体弾は発射できません。
ついでに、艦橋や煙突、古くはマストと帆を支えるロープも、砲から見れば邪魔です。大和であっても、前の主砲は後ろを撃てません。
たとえば艦橋も煙突もない、鯨の背のような構造の頂に砲塔があれば、ひとつで360度全周を見渡せるわけです。無論一つだけだとそれが壊れたら終わりますが。
数学・物理学……その進歩はそれ自体、文明を進歩させ、新兵器の開発につながり、生活水準を向上させた歴史があります。
特にマット・リドレーなどの私有財産至上主義者は、科学と技術は無関係だと主張します。しかし原子論なしのハーバー・ボッシュ法肥料、相対性理論なしの原爆やGPSはありえません。彼らの主張は、要するにマンハッタン計画・アポロ計画のような国家主導の科学に対する嫌悪感が強く感じられます。
ある時期から、西洋では科学と技術が手を取り合って進歩し、めちゃめちゃに強力な兵器、膨大な食料を手に入れ、それで世界を征服したのです。
「勝ちたければ、科学・技術を進歩させるべきだ」
本来はそれが正しいはずですが、多くの作品世界は、また『現実』の人類も多くがそれに背を向けます。
進歩するのは自分を否定することであり、多くの既得権者を貧しくすることであり、辛いのです。道徳感情や宗教も、進歩を強く否定します。現代の哲学や知識人も。
多くの衰退する国で、科学の進歩が止まっています。『火の鳥 未来編』『禅銃』……そして『現実』でもいくつかの面で。
科学を抑圧することを選ぶ作品も多くあります。『銀河英雄伝説』のゴールデンバウム帝国は自動化を忌み、『デューン』は人工知能を禁じ、『ガンダム』の宇宙世紀ではサイコフレームなどの技術が禁じられます。
逆に、地球人の素粒子物理学実験を妨害して、科学の進歩を封じるという『三体』の攻撃は究極に恐ろしいものです。
前も少し書きましたが、科学者、特に天才、それ自体がストーリーを大きく動かすことも多いです。
『ヤマト』の沖田艦長も、軍人であると同時に科学者でもあります。
『キャプテン・フューチャー』のカーティス・ニュートン自身も優れた科学者であり、その父ロジャー・ニュートンと、後に仲間の一人〈生きている脳〉となったサイモン・ライトの天才が遂げた研究、それを狙う悪漢のために数奇な運命をもって生まれ育ちました。
天才とそれを狙う悪党の構造は『宇宙のスカイラーク(E・E・スミス)』をはじめ、古典から膨大な作品に共通します。
また多くの、特にスーパー系のロボットアニメも、天才科学者による超科学を軸として動きます。
だからこそ天才科学者は、それこそペーパークリップ作戦があったような戦略兵器でもあります。『禅銃』では税として徴収されるほど。
数学・物理学……あらゆる文明の共通部分。そして自滅にも勝利にもつながる最終兵器。
ああ、多くの作品では科学力ではなく心で……物量ではなく特攻・自己犠牲で勝つ、としなければならないんでしたね。ですが、特攻機も科学で作られている……
何よりも、数学や物理学は共通している。そのことにまず圧倒されます。