宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

26 / 49
予言・時間

 上位存在、神々の話に関係するのが、予言。

 予言と密接にかかわるのが時間。

 

 予言は、実に多くの宇宙戦艦ものでも重要な役割をはたしています。『現実』でも。

 

 予言と言っても、分類してみると見方が変わります。

 超能力や占い。神。

 人間の心による未来予測。

 優れた知性による洞察。

 相手の心を読み、行動を見抜く。コミュニケーションそのもの。

 科学による未来予測。天文観測やその延長。

 タイムマシン。

 

 イデオロギー、支配と結びついた予言。

 計画や陰謀。

 謎解き。

 社会が予言をどう扱うか。

 

 予言というものが、どれほど人間の心と一体であり、人間にとって本質的に重要であることか。

 

 

『スターウォーズ』の根本は、アナキン・スカイウォーカーと「フォースのバランスを取り戻す」存在の予言の関係です。予言自体は確かに成就しましたが、誰があのような形だと想像したでしょう。

 

『スタートレック・ボイジャー』にも予言を真に受けるクリンゴン人の集団が出てきます。

 

『ファウンデーション』こそまさに予言から始まる物語です。

 

『人類補完機構』にはアバ・ディンゴという予言機械があります。

 人間が超コンピューターを頼るときも多くは、予言能力をあてにします。

 

 

 一番普通の、人間が普通の方法とは別に、未来がどうなるか知ってしまうこと。超能力とか占いとか。

 ノストラダムスやエドガー・ケイシー、となるとアカシック・レコードという、多くの話で使われるガジェットにつながります。

 また重要なのが、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の文脈。神のスポークスマンを強制された人間の言葉。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のマフティーはイスラム教の救世主を意味する、多くの乱に関わる言葉マフディーに関わります。

 

『デューン』は強い予言の力を持ち、救世主として予言されたポウルの、悲惨な予言を避けるための苦闘が中心です。

 また、ずっと以前から、ロボットを排除した帝国は多くの予言組織に支配され、また計算によるある種の予言も利用していました。

 

 映画『マイノリティ・レポート』をはじめフィリップ・K・ディックやカート・ヴォネガットなど戦艦が少ないSF作家の幾多の名作で、各種の未来予知と対応が描かれます。

 

 

 

 普通に未来を予測する……普段の人間がごく普通にしていることも。単に、学校や仕事に行かなければ嫌なことが起きると「予測」するから行く。信号を守らなければ痛い思いをすると「予測」するから守る。

「理性」の本質でもありますが、理性とは遠い微生物であっても「エサ濃度が高い方向に移動」したりします。感情、あるいは本能のみによる行動……なわばりを侵された動物が怒ってかみついたり、ある種のハチがクモの急所に針を刺して運び生きたまま卵を産んだり……も、予測をしている、理性があるような行動です。

 

 頭がいい人間は、得られる情報や歴史の知識などから、未来の歴史の流れをかなり予想することができます。

『銀河英雄伝説』のフリードリヒ四世やヤン・ウェンリーは未来をかなり洞察しました。

 

 小人数だけが知ることができる情報から未来を予測する、というパターンもあります。それは信じてもらえないこともあるし、口外を禁じられることもあります。

 軍事などでは多くの機密があり、組織の縦割りも加わって結果的に誰も情報を総合できず避けられたはずの破局……まさに9.11テロがそれです。ただ、その反省から強すぎる組織ができ、世界中で深刻な人権侵害が起きました。

 

 自分には破滅が見えている、しかし権力者たちはそれを無視し、自分は石を投げられるばかり……カサンドラ、トロイ戦争の神話の、予言ができるのにそれを聞いてもらえない王女の悲劇。

 歴史の流れが変わるときにしばしばあることです。

 特に権力が、皇帝でも民でも、強い傲慢に陥っているときに。

 破滅が分かっているのに信じてもらえない、それは強い苦悩になります。

『ジョーズ』はその変形と言えるでしょう。

『パーンの竜騎士(アン・マキャフリイ)』も脅威を忘れた権力者が警告を無視します。

『天空の防疫要塞』や『反逆者の月』でも、人々は恐ろしい敵を忘れ権力ゲームにうつつを抜かしています。

『復活の日』などでも同じように、少数の良識が潰されます。

『さらば』『ヤマト2』では、テレサの警告や観測された白色彗星を政府が無視すると決めたことから、ヤマトは反乱に踏み切ります。

『銀河英雄伝説』のヤンは、ラインハルトの戦略を見通し、クーデターやフェザーン回廊からの侵攻を読みますが、上層部に聞いてもらえず大切な人を多く失い自分も絶望的な戦いを押し付けられ、それでも戦い続けます。

『共和国の戦士』や『量子真空(アリステア・レナルズ)』の主人公は、あまりにも圧倒的すぎる異星人の存在を知り絶望しました。

 

 未来からの警告に『タイムスケープ(ベンフォード)』『月の光(劉慈欣、アンソロジー所収の表題作)』もあり、どのように警告を受け止めるかにもなります。

『航空宇宙軍史』や『ファウンデーション』は、予言対策が目的、大義となり人命などを軽視します。『ファウンデーション』ではそれも肯定的に扱われていますが……

「人間らしく生きたい」というのは、常に人間にとって優先順位が低い。

 むしろ、予言の持つ、人間の心を動かす勢いの方が常に勝利してしまう。

 

 

 頭脳による予測に科学の味付けがあれば、多数の人を統計的にみる生命保険からギャンブル、プランテーションの投資、資本主義そのものにもつながります。

 

 その極端な形が『ファウンデーション』の心理歴史学。計算による予言、その中であり得る最善をつかみ取るための、膨大な人たちの苦闘。第二ファウンデーションのありかを示唆する言葉を解釈するための努力。

 高い計算力がある人を、死ぬまで絞ることでその場所を算出させるミュール、それを止めるためにあえて射殺したベイタ。

 予言が、ファウンデーションの理念が、膨大な人にとって人命よりはるかに重いものになってしまっていました。

 

 また科学的な観測からの予想もあります。これの、科学的という面を重視するか、常人には理解・運用が困難という点を重視するか……

 近代科学の一番の力は、高い予言力。正確に日蝕を予言することができる……『ソロモン王の洞窟』で、それだけで神様扱いしてもらえたように。

 カール・セーガンやリチャード・ドーキンスはその威力を強調し、科学を一度使ってみろ、すごいんだから、と読者を煽ります。

 

 天気予報という規模も効果もものすごい兵器。特に海戦では圧倒的な力を発揮します。天文台がそのような役割を果たすことも。

『宇宙戦争』でも火星人の出発をまず天文学者が観測しました。

『タイラー』では、銀河間天文台が多数の銀河にまたがる超災害を予測しました。

『ヤマト』でも白色彗星をはじめに観測したのは天文台でした。『完結編』でアクエリアスも観測しています。

『三体』は天文台を通じてメッセージを受け取り、メッセージを発信し、何百年も前に艦隊到達を知ってその準備のために人類文明全体を作り替えようとしました。

『宇宙のランデヴー』では、大型隕石の被害があったからこそ二度とやられまいと人類は宇宙を熱心に観測し、訪問者を見つけることができました。

 

 

 破局までの時間がわかる、という状況も、科学なら作り出すことができます。

『七人のイヴ』『地上最後の刑事』などは観測したからこそ、破局がいつ来るかわかり、少数ですが生存者はいます。

 人間以上の圧倒的な知能も予言ができる、あるいはそう信じさせることもあります。

 

 

 銃や艦砲で敵を狙い撃ちすることも、あるいは敵味方の戦力を比較して勝敗を検討する戦略も、随所に予言があります。

 昔の戦争は神秘的な意味での予言が重要でした……古代ギリシャ・ローマ関係でも古代中国でも、占いで戦争のいろいろを決めるのが当然。

 

『スターウォーズ』のフォース、また『ガンダム』シリーズの各種ニュータイプやそれに近い能力、『デューン』のポウルも短時間の予知・読心を戦闘に応用しています。

 

 

 タイムマシンという技術があれば、それだけでも予言と同じことが可能になります。

『バーサーカー』を起源とし、『時空大戦』など多くの作品に引き継がれる、過去に警告を送り、未来の情報を利用して再挑戦を繰り返す戦い。

 本来は『航空宇宙軍史』もそれのはずですが、それが皮肉な罠に変わった話です。

 その先にはループ系の話が多数あります。

 

 

 これは宗教と権力の本質にも関わりますが、予言をはじめとする超能力=上位存在である証拠=道徳的に人間以上である証拠=権力をふるう根拠となるのが人間の根底的な思考法です。

 そのため、人は超能力を求めますし、超能力を納得してもらえばそれだけで権力を得ることができます。

 

 イデオロギーとしての予言。

 宗教の教義に予言がある。というより多くの宗教、特にユダヤ・キリスト・イスラムの宗教の核心は予言にある。

 マルクス主義の本質は予言であり、その予言の解釈は膨大な人を拷問処刑し、科学を抑圧することにもなりました。

 それらの予言は、命令とも不可分に入り混じっています。

 だからこそ予言自体、多くの文明では死刑でも足りない犯罪でもあります。公による予言の解釈に異を唱えることも。

 イスラム教は、ムハンマドが自分が最後だと宣言することでそれ以降預言者を名乗る者は問答無用で偽物・大罪人とするシステムを作りました。

 

 

 情報を求め、軍や秘密警察、諜報組織、暗黒組織などが激しく争い、その一員や一匹狼、巻き込まれた個人が活躍する物語は、むしろ冒険小説でこそ多く見られます。冒険小説のプロットに従うSFも多数あります。

 

『フラッシュフォワード(ソウヤー)』は多くの人が未来を知ったことの影響。同時に、その予知に付随して多数の事故もあり、その被害も強い影を落としているのが興味深いところです。

 

 

 大きい計画、陰謀なども予言と深い関係があります。

 予言者であると多くの人に思わせることができれば、いくらでも貨幣、権力、軍を支配することが可能です。

『造物主の掟』ではペテン師がモーセを演じ、支配を求める人類の思惑を外して普遍的な道徳を与え、人類と別種族の両方の道筋を変えました。

『現実』でモーセは神の言葉を伝えることでユダヤ人を導き、律法という法と政治制度を押しつけ、軍事指導者としても導きました。ムハンマドも同様のことをしています。中国での幾多の宗教農民反乱も。

『デューン』のポウルも、それを期待されているとわかっています。

 

 予言、神の命令は歴史をも変える、圧倒的な軍事力につながります。

 多くの征服王は神に予言されたと叫んで巨大な国を征服し、虐殺奴隷化破壊の限りを尽くしました。のちの、スペインのコンキスタドールも神の命令だと叫びました……それは予言とも深く共通しています。

 露骨に神の命令・予言とはわずかに違うにせよ、大英帝国・フランス帝国・ロシア帝国の征服、アメリカの「明白な天命」もそれに近いものがあります。

 ソ連や共産中国も、独裁者が解釈したマルクス主義が予言である、その予言が征服を命じている、と次々と征服の手を広げました。ヒトラーも予言の面があります。

 また第一次世界大戦前後からは人種・民族に関する恐怖の予言が語られ、それによっても多くの戦争が戦われたものです。

『銀河英雄伝説』のルドルフが出たのも、衰退が滅亡に至るのを皆が恐れたから……このまま退廃したら滅亡する、と予言して、と言っていいでしょう。

 

『現実』のモーセは、神による予言でもある命令に従ってユダヤ人たちをエジプトから脱出させ、征服国家を作らせたと言われます。

 その物語は失われた地球を目指し脱出する『ギャラクティカ』となりました。

 その変形として、失われた地球を求める『ファウンデーション』の続編、また第二ファウンデーションの探索もあります。

『ヤマト』のイスカンダルへの旅は西遊記の、史実の玄奘三蔵による取経の変形です。別の国からの宝を手に入れる……聖杯探求、不老不死の薬、ゴムやパンノキの苗など同じモチーフの物語は無数にあります。

 さらに変形として姫君を助ける、となると『スターウォーズ』などになります。

 神に導かれて逃げる、あるいは故郷に戻ろうと彷徨する、『オデュッセイア』『アエネーイス』の延長にある物語も上述のように、『スタートレック・ボイジャー』『彷徨える艦隊』『ガンダム』『マクロス』『イデオン』をはじめ多数あります。

 様々に変化する物語、ただそこには予言・神の命令という要素が共通して深く流れているのです。物語だけでなく、人間の歴史も、本当の神によるかどうかはともかく膨大な影響を与えています。

 

 

 予言を物語として扱うと、そこには謎解きの要素が加わります。ミステリ寄りにすることもできるわけです。

 同じ予言という材料があっても、それをどう料理するかで結果が変わる。特に誤った解釈をしたために破滅する話は、半ば神話である「クロイソス王が戦争を検討し、偉大な国が滅びるという予言を自分に都合よく解釈して自滅する」話を源泉に、人類の物語の根本のひとつ。

 

 さらに精緻なのがオイディプス王の物語。予言に描かれる災厄を回避しようとする努力が予言を実現させる、予言・運命の力のすさまじさを描く話。

 それに限りなく近いのが『航空宇宙軍史』です。

 予言を否定するか、「未来のことは未来の人に任せればいい」と受容するか、「一つの籠にすべての卵を入れるな」をやれば成就しないのに、努力するから……

 

 予言の中にある謎を解こうとする、というのは『三体3 死神永生』にもあります。与えられた童話を何とか解釈しようと努力する人たちはいましたが……

 

 

 

 何よりも『現実』の予言の困難の本質は、「未来の技術を予測する」に尽きます。

 だから、過去行われた未来予測はどれも今見れば大きく外れています。

 今我々の手元にある未来予測もそうでしょう。

 

 逆に『三体』の暗黒の森は、技術爆発……どんな未開文明もいつ、短時間で超技術になるかわからないという、技術の予測不能性を前提としているからこそ説得力が高いものです。

 

 

 あらゆる物語、また歴史そのものをどれほど強く予言が動かしていることか。

 

 予言は神・上位存在の行動命令であり、法となり……あらゆる形で人間を、歴史を動かします。

 予言は物語そのものであり、人間はとても強く物語に支配される……

 勝利が予言されているのなら安心して戦える。でも、本当に?どれほど多くの戦いが、勝てるという予言を信じて戦われ、悲惨な敗北に終わったことでしょう。

 あるいは、正しい予言を持っていたのに、無視したり間違った解釈をしたりして悲惨な敗北に至ったこともどれほどあるでしょう。何よりも『現実』の、太平洋戦争の日本……絶対に負けると計算結果が出ていたのに。東日本大震災でも、「ここより下に家を建てるな」石碑や、高台に予備電源をという声が無視されていらぬ被害が出ました。

「人は信じたいものを信じます」。『彷徨える艦隊』で繰り返される、地球人の本性レベルの罠。それはほかの多くの作品にも破滅をもたらします。

 予言に頼る、というのはある意味、「俺は全知だ(だからこれ以上考える必要はない、別方向の作戦や科学を検討する必要はない)」に近いのです。傲慢、思考停止なのです。

 

 予言は、物語は、人間を支配するバックドア=ハッキングしやすいプログラムの穴である、ともいえるでしょう。予言に頼り続けるべきか、それとも頼らない道はあるのでしょうか?

 あります。生物の、r戦略。タンポポが多数の種を飛ばし、どれか一つでも土に落ちてまた種をつければいい。「一つの籠にすべての卵を入れるな」。その生き方は、予言に支配されるものではありません。それにはわずかな変異による進化というおまけもついています。

 また爆発的な技術進歩も、予言を無意味にします……シンギュラリティ、技術的特異点は予言を、未来予測を破壊するものです。技術を禁じることは破滅だともわかります。

 

 多くの作品や『現実』で指数関数増殖を権力が恐れ憎むように、「一つの籠にすべての卵を入れるな」や、多様な方向での科学技術進歩、人類の進化やシンギュラリティも、権力が恐れ憎むものです。

 むしろ予言、誰もが同じことを信じ、同じことをする方を好みます。楽をすることを。

 ですが、それは破滅への道なのです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。