宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

28 / 62
乱・腐敗

 上述のように、『銀河英雄伝説』には多くの内乱があります。

 原作の時代帝国のクロップシュトック、カストロプ、そこで語られた60年前のヴァレンシュタイン。もっと前の、流血帝アウグストの打倒。

 さらに前の、ルドルフ崩御直後の共和主義者の反乱と大虐殺。

 同盟のクーデター。

 ラインハルトが帝国を手にしたリップシュタット戦役と首都制圧。

 さらに言えば昔のシリウス戦役も考えによっては内乱です。同盟自体、帝国から見れば内乱、叛徒とされました。

 

 人類の歴史は、反乱の歴史でもあります。古代ローマ、スペイン、大英、唐それぞれいくつも大きな乱があります。

 

 反乱・内乱の理由にもいろいろあります。

 首都での権力闘争。

 小さいものでは親衛隊が皇帝を殺す。宦官、正義派若手官僚層、権力のある家を皆殺しにすることも多くある。

 家督相続。

 宗教。

 独立運動。

 奴隷反乱。

 飢えた農民の大反乱。

 新技術で飢える職人の運動が、暴動、鎮圧に至る。

 労働運動と弾圧に暴力が強まる。

 共産主義。

 クーデター。

 人工知能。

 

 

 宇宙戦艦作品でも内乱、裏腹の統合戦争は重要です。

『スターウォーズ』はまさに反乱同盟軍の奮闘が主です。

『スター・トレック』でもボイジャーの旅のきっかけはマキの反抗とそれを鎮圧しようとする艦船の活動にあります。『スタートレック 叛乱』と映画のタイトルにもなっています……それは比較的小さめの命令反抗ですが、反乱には違いありません。

 

 小規模というなら『火星の人』では、何人かがNASAの決定に反抗して別のプランを強要しました。反乱の重さを十分に覚悟してです。

 規模自体が小さい反乱は、たとえば探検隊の中での反乱があります。宮廷内での相続争いもそうなりがちです。

『ヤマト』のテレビ1作の藪一派の乱があります。また、2・さらばのヤマト自身の反乱があります。「永遠に」は占領された状態からのレジスタンスがあります。

 さらに小規模では、王侯貴族の家庭内、犯罪組織内での争いもあります。『スコーリア戦記』の皇太子の自殺未遂から王女との駆け落ち、『タイラー』での幼帝暗殺未遂など。

 

『マクロス』『スーパーロボット大戦OG』『宇宙軍士官学校』などの世界を作り、多くの恨みを残す統合戦争。

『スーパーロボット大戦OG』のDC戦争にもスペースコロニーの反抗の面があり、後々まで多くの残党が活動しています。また権力の中枢に近い高官が異星人であり、その直属部隊が牙をむくこともありました。ほかにも昔からの闇組織や怪人もあります。

『ガンダム』は内乱が圧倒的に多いです、全人類単一国家であることが多いからですが。

 ロボットアニメの中では、巨大な軍事力を持つマッドサイエンティストが敵である場合もあります。『キャプテンフューチャー』では科学者たちを拉致し、放送を支配できる組織がぽこぽこ出てきます。

『月は無慈悲な夜の女王』や『月面の聖戦』は革命の成功例と言えるでしょうか。

『ローダン』はもとよりローダン自身が、異星人の技術を独占して祖国に叛逆したのです。勝利した反逆者が皇帝と呼ばれている、それだけのこと。その後も超能力者など多くの乱がありました。

『反逆者の月』ははるか昔の反乱が、人類の支配構造と月そのものを作っています。また、その反乱そのものが期せずして文明の種を維持し、完全な滅亡を防いだという面もあります。

『叛逆航路シリーズ』ではまさにブレクの、一人での反抗がきっかけに皇帝の内部分裂が表面化し、多くの星で激しい内戦が起きました。

『デューン』は滅ぼされたアトレイデ家の生き残りが砂漠の民を率い、移動宮廷を素早く制圧して皇位を奪いました。

『V(ビジター)』や『インディペンデンス・デイ』はレジスタンス活動です。

『タイラー』でも銀河を統一したアシュランに多くの勢力が反抗し、後にタイラーによる統一にもイサム・フジを含め多くの反乱者が出ました。タイラーの娘キサラは関わった王族の相続争いに巻き込まれました。その後も宗教団体による反乱もあり、ラアルゴン皇室の分裂をきっかけに銀河三分に至りました。

『彷徨える艦隊』ではファルコ大佐が多くの艦を連れて離反し、ギアリーにとって大きなトラウマとなりました。その後も反対派は蠢動し続け、ギアリー暗殺を狙います。外伝では異星人と接する重要星系の司令官が中央から離反し、独立国を形成しました。

『老人と宇宙』ではジョン・ペリーがコロニー連合に反抗して地球に真実を告げ、地球諸国も離反するし、コロニー連合のいくつもの星も離反しようとして鎮圧され、その繰り返しに疲れた軍人の離反さえありました。コンクラーベも多くの種族が潜在的に争い、武力を用いた襲撃もあります。

『天冥の標』の伝染病攻撃・甲殻化した勢力の蠢動もある意味内戦というべきでしょうか。

『星界の紋章・戦旗』では、戦いの中でアーヴに背を向ける勢力や、あくまでアーヴに反抗し家族同然の絆さえ断ってしまう指導者などが描かれました。

『ヴォルコシガン・サガ』でもマイルズが生まれる前後に、保守貴族によるクーデターが起きました。コーデリアが武家貴族にも認められる活躍をし、勝利したヴォルコシガン家が圧倒的な力を得ました。ほかにもユーリ狂帝の事件などがあります。セタガンダ帝国でも裏切り者が遺伝子資源を奪おうとしてマイルズが昔の部下とともに巻き込まれたこともあります。マイルズの最大の功績の一つは、セタガンダ帝国に征服された人たちの独立運動を収容所に潜入してまで支援したことにあります。

『銀河の荒鷲シーフォート』『宇宙兵志願』などでは半ば棄てられた下層人の暴動反乱が頻発します。軍人にとってその鎮圧はストレスの多い仕事です、異星人でも敵国民でもないので。

『銀河乞食軍団』は一運送会社が国家に冤罪で手配された者をかばって官憲と闇の争いを繰り広げ、『黎明編』では地方星系が中央軍の干渉に反発して中央艦隊を撃滅し、大規模艦隊に潰される事件が起きています。

『三体』ではまず地球三体協会が地球を売ろうとして官憲と戦いました。いくつかの戦艦の離反と逃走もあります。ウェイドらが技術制限政策に抗議して反乱を起こし、チェン・シンの決断で鎮圧されました。

 

 ロボットによる反乱なども多数あります。『ギャラクティカ』や『タイラー』の信濃事件、『デューン』や『目覚めたら~』の過去にあったという機械知性戦争。

『鉄腕アトム』での凶暴なロボットが暴れる事件もそれの変種と言えます。

『火の鳥 復活編』では同じルーツを持つロボットが、不公平な刑罰に抗議して集団自殺するという奇妙な反抗がありました。また個体として主人を殺したロビタもありました。『乱世編』では源平の乱、『太陽編』では宗教という共通点を持つ、壬申の乱と未来の宗教国家と反抗組織の乱が交互に描かれます。『望郷編』では欲望に取りつかれ扇動された人々が女王を脅し、滅びに至りました。

 

 

 多数の内乱をコントロールできなくなったら、『ファウンデーション』や『禅銃』のように文明崩壊状態となります。

 それを統一しようと、『銀河戦国英雄伝ライ』では英雄が活躍します。『ファウンデーション』のミュールもそうです。天下統一を図る英雄から見れば、すべての群雄が反逆者になるのです。『銀河英雄伝説』や『宇宙嵐のかなた』の帝国から見て、法的にそうなるように。

『宇宙の戦士』『真紅の戦場』『銀河の荒鷲シーフォート』などは文明崩壊状態だった過去の影響で、人権や民主主義の水準が低い政治体制になりました。

 

 膨大な作品の宇宙海賊の活動も、ごく小さい範囲の内乱に近いものです。『現実』でも湖賊や塩密輸人が反乱勢力になったこともあり、バイキングが新しい国を作ったこともあり、また多くの海賊山賊が帝国を弱らせ、後の滅亡の症状ともなりました。

 過去から活動している秘密結社が、実際には強大な戦力を持っていることもあります。

『レンズマン』では海賊と思っていたボスコーンが、実際には体制よりはるかに強大な別文明でした。

『ロスト・ユニバース』では犯罪組織が作った巨大艦と思っていたのが、人類全軍が束になっても勝てない存在でした。

『若き女船長カイの挑戦』では宙賊集団が全人類を掌握しようとしています。

『敵は海賊』のヨウ冥は実際には世界の裏の支配者です。

 

 

 乱そのもの。乱、秩序が乱れる。織る準備をして並べていた糸がひっくり返ってもつれたように。

 今までは、どちらが上だったかはっきりしていた。でも、それがわからなくなる。

 殴り合い、殺し合いでどちらが上か決めるしかない。その結果、協力が失われる。

 

 二人で、一人では動かせない岩を動かし、水路を作れば両方何倍もの収穫を食える。

 でも、協力するより殺し奪うことを選ぶ。

 結果、勝った方も収穫は増えない。最悪は漁夫の利を食らう。

 でも、襲う。親の仇だから、神に命じられたから、そちらの方が儲かるから、自分が上のはずなのに生意気を言ったから、殺すことで地位が上がり女にもてるから。

 それは内乱の最小のものであるとともに、腐敗そのものでもあります。うまい汁を吸う、フリーライダーの方が儲かる。

 さらに言えば、二人で頑張れば収穫が増えるような水系がない、荒地では奪い合う以外にない。では現状はどちらなのか、どう判断すべきか。

 

 それは本質的に、囚人のジレンマでもあります。

 協力すれば両方儲かる、でも協力しないことで自分の利益が最大になる、だから両方協力しないことを選ぶことが合理的になってしまう。結果的に、両方が損をする状態に、落ち着いてしまう。

 囚人のジレンマを解くのは、犯罪組織。囚人が両方組織に所属していれば、裏切って無罪で出所したら組織に殺される。だから協力する。でもその組織が弱れば、うぬぼれて組織を騙せると信じれば……

 

 また、人間の元からのありかたの問題でもあります。

 地球人、人類はアリと違い、群れ動物ですが個々の意識・欲望があります。群れに参加したい、協力したい、スキンシップを保ちたいという欲望も強くありますが。

 自分が死にたくない、休みたい、食べたいという個の欲と、集団に尽くしたいという欲が葛藤しているのです。食事中にトイレに行きたくなるのと同じように。

 加えて、他人の心の中を読むことができない。『三体』の三体人や『エンダーのゲーム』のバガーなら同胞の心はお見通しなのに。

 さらに、規模の異なる群れ、時代の異なる道徳も問題になります。

 人間の心で強いのは家族。家族を拡大した部族・宗族・民族。昔の道徳……復讐、客人保護、穢れ、呪術など。

 それに対して、規模の大きすぎる国家。多くの部族の、神々の共存。成文法。そして近代の腐敗を禁じる官僚制、警察や軍隊、政教分離、方言禁止……

 

 

 

 内乱・内戦の重要な要因に、腐敗もあります。腐敗した国に苦しめられた人々が体制を倒そうとする。『火の鳥 太陽編』のように。

 ただし、それも権力を求めている反乱者が、大義名分として腐敗を言うこともある。

 腐敗は、帝国・文明そのものの栄枯盛衰にも大きく関わります。

 

 腐敗というのも、搾取などと同じように、誰もが知っていますが正確に説明できない言葉です。

 

 近代でない国は腐敗がひどい、近代国家……自由民主主義が正しいという価値観も危険です。腐敗と軽蔑される国もそれはそれでうまくいっており、無理に近代化したらもっと悪くなることもあります。

 近代軍の戦闘力だけでも、かつてはファシズムやソ連型共産党という対立候補があり、今も中国共産党が成功し続けています。同じ近代西洋でも、君主制で国教会があるイギリスと、政教分離で共和制のフランスは異質と言えます。

 内部で争っていたら弱くなる。しかし海を捨てた中華は新技術を容れられず、戦争が絶えなかったヨーロッパは船・大砲・科学・組織を進歩させて勝利しました。

 

 逆に、「世界を良くしたい」という人間にどうしてもある欲求が乱の元になることもあります。銀英伝の同盟クーデターがまあその最たるもの。

 

 腐敗……『ガンダム』の宇宙世紀の連邦は常に腐敗していると言われますが、具体的なことは描かれていません。『閃光のハサウェイ』では地球での人間狩りの残酷さ、『UC』で貧困のままのコロニーが描かれていますが。

『彷徨える艦隊』のシンディック、『真紅の戦場』の各国、『銀河乞食軍団』の星涯(ほしのはて)なども腐敗がひどいと言われます。

 大きい貧富の格差が固定されている。給料が安い。税金が重すぎる。稼ぎよりも借金の利子の方が大きい。法的に奴隷状態。

 腐敗がないのであれば公平であるはずの、犯罪の取り調べや刑罰、税金、徴兵、事業許認可などが、賄賂で決まるか、あるいは人種・宗教、権力者に近いか、身分で決まる。

 特に低い身分の人、特に女性は安心して暮らせない。『銀河乞食軍団』で逃げた女が横暴な警官に強姦虐殺されそうになったことや、『銀河英雄伝説』のアンネローゼのように。

 

 要するに戦艦の代金を贅沢のために横流しして、戦艦がなかったり使えなかったりするという事態もひどい腐敗です。そうなったら戦争に負けます。

 

 腐敗は道徳の根源にもかかわります。

 単純に言えば、皆がそれをやると皆が損をすることが腐敗とも言えます。カントの義務をひっくり返せば。

 公と私で、私を優先すること……でも、「私」は個人とは限りません、かなり多人数の一族郎党であることも多いのです。そして「公」も、たとえば明治藩閥政府は「公」でしょうか?薩長藩閥の何人かの集団が好き勝手しているだけ、と言われたら?清帝国は八旗、元帝国はモンゴルという少数の他者が好き勝手しているだけ、では?

 ラインハルトがリヒテンラーデ一族を処刑したのも、「ゴールデンバウム帝国の宰相として犯罪を犯した者を国法で裁いた」と書類上は言えますが、実際には露骨に「権力闘争で勝った者が、負けた者を八つ当たりこみで殺した」でもあるのです。

 

 分かりやすい考え方は、時代が違う複数の道徳の対立。

 昔の道徳では、力がある人間は自分に従う人々・家族やその延長を、守らなければならない。たとえ犯罪を犯して警察に追われている、であっても。反面として従う人々は、警察に協力してはならない……マフィアの沈黙の掟は、古い道徳では犯罪組織でない普通の農村でも当然。

 すべての人が、同じ法律で裁かれる、という近代の「道徳」と、昔の「道徳」が対立するところに「腐敗」と言われることが起きる。

 昔の世界では当然の、唯一の秩序であるパトロン・クライアント関係、家族・血族、宗教などが、近代の価値観からは腐敗とされる、と。宗教・道徳の価値観とも、近代法システムは異質なので、近代から見れば腐敗、宗教から見れば自然な情、ということもあります。

 親戚の真犯人をかばうため、無実のよそ者を逮捕し拷問して処刑した警官。客観的には、あるいは近代法治国家という道徳を信じている人から見れば「腐っている」けれど、古い道徳から見れば「人としての義務を果たした善人」となる。

 問題は、その古い道徳で動く警官が多い国は、近代的な軍隊・工場を動かすのが難しいということ……警官が、潰れるほど高額の賄賂を要求したり、また親戚である手工業業者が「あんな効率のいい工場が動いたら俺たちが飢えてしまう」と言ったらその人たちのために工場を潰さなければならなくなる。

 また弱い者は、納得しにくい苦にさらされます。『叛逆航路シリーズ』で、テロ事件の容疑者が被征服民だったときに、官憲がろくに調べようともせず犯人と決めつけようとしたように。

 逆にその疑いから、弱い側の人々は官憲に訴えるなと相互に圧力をかけ、それが腐敗を強める悪循環にもなります。

『ヴォルコシガン・サガ』で簡単に治せる口蓋裂の赤子を殺された母が、ろくなことにならないしひどい目にあうだけだと止められながら歩いて山を越えて訴え出た、訴えなければ山村の人間関係が守られ、腐敗が強化されたのです。

 

 根本的に、人は親族・自分についてくる人を守り、食わせ、教育費を払い、理不尽な官憲から守らなければならない……それが、賄賂を取って親戚の若者の学費にする、儲かる仕事の許可を親戚に与える、官憲に圧力をかけて親戚を無罪にさせる、という腐敗に直結するのです。

 

 腐敗が少ない。

 それは何が生み出すのでしょう。

『宇宙軍士官学校』のケイローンは、常に戦争があるせいもあり軍事国家なのに腐敗とは無縁と言われています。結構権力闘争はありますが。

 腐敗を嫌う心理は、『スターウォーズ』のパルパティーンの即位にも関係しています。腐敗した元老院に対する反発から、と。

『レンズマン』は、レンズマンが絶対に腐らないということが銀河パトロール隊システムの根幹となっています。

 

 多くの宇宙戦艦作品や歴史小説、現在のマスメディアでも「腐敗と戦う」のは善玉とされます。

 英雄たちが腐敗と戦い、悪の帝国を倒してちゃんとした法治国家を作る、というのは悪を倒す、勧善懲悪のように人が好む物語なのです。

 腐敗を嫌うあまりに、ロボットや独裁者に政治を任せたり、革命を起こしたりということも多いようです。

 明の太祖・朱元璋などは繰り返し臣を粛清しましたが、それでも腐敗は絶えませんでした。共産中国も年中腐敗と戦っています。

 アメリカはイラクなどを滅ぼしましたが、腐敗した国しか作れませんでした。いや、アメリカが海外に作る傀儡政権は、日本以外異様なまでに腐敗しています。傀儡政権は腐敗しているほうが、アメリカの国益に尽くしてくれるからでしょうか。イランでも南ベトナムでも中国蒋介石でも長い目で見るとアメリカに大損させてる気がしますが。

『宇宙嵐のかなた』ではどの独立政府も帝国が征服し、同じ法と最低賃金を強要します……それはある意味では腐敗を打破し正しい法治国家という恵みを与える、とも言えますし……単なる征服でもあります。その結果差別が禁じられた種族もあったりします。

 というわけで腐敗との戦いは、革命や征服の大義名分にもなるのが……

 

 前にも挙げた、『星系出雲の兵站』で、腐敗のせいで効率が悪い地方星の工場、それを中央星から派遣された官僚が効率よくしろ腐敗をきれいにしろ、とやった、それに対してテロ……その事件も、「戦争のために、工場の生産効率を上げる」「腐敗を一掃して民の生活をよくする」に対して「有力者の家の階層でできた社会構造を壊したらもっと悪いことになる」「階層構造・格差社会は守らねばならない」など、悪の側にも古い道徳があったわけです。

 

 たとえば『スターウォーズ』のパルパティーン帝国は、腐敗自体は少ないかわりに誰にとっても残酷、ということはないでしょうか?

『ファウンデーション』のミュール帝国も、腐敗からは遠く生活水準も高かったのに強く憎まれました。そりゃまあ人の心を操る怪物が支配してるんですから。

 

 

 ラインハルトがゴールデンバウム帝国に対して怒ったのは、まず美しい姉を皇帝に奪われたこと。

 権力がある者は、弱い者から奪っていい……それを不正、腐敗と感じ、それがない国を作ると誓った。同時にラインハルト自身は、ルドルフが帝国を作ったこと自体を悪と思わない、彼にできたなら自分がやってもいい、という考え方もある……ただしそれも、弱肉強食が帝国のイデオロギーであることもある。

 それがどれだけ強かったかはわかりませんが、前に母親の事故死で、身分が高かった加害者が正しく裁かれず父が壊れたこともあるでしょう。

 軍に入ってからも、同じ功績・同じ罪でも、貴族と平民であまりにも扱いが違うことに怒り、また軍を動かすあらゆるところで賄賂が横行していることにも怒ります。

 軍に腐敗が多ければ、文字通り食料はたくさん倉庫で腐っているのに、前線の兵が飢えているということもあり、戦争そのもので弱くなってしまいます。

 といっても、自由惑星同盟も政治家が賄賂を受け取っていました。ヤンは贈収賄が報道されないのが本当の腐敗だと言い、まさにヤンの査問会について抗議しようとしたフレデリカが報道も支配されていると思い知らされたことで、同盟が心底腐っていると表現されました。

 ロイエンタールが同盟を統治したとき、大胆に腐敗を裁いて支持されました。

 根本的に、ラインハルトが両国をよくしようとする……それが、収奪的から包括的(『国家はなぜ衰退するのか』ダロン・アセモグルら)、アクセス制限からアクセス開放(『暴力と社会秩序』ダグラス・C・ノースら)に移ろうとしているのであれば、史実で多くあった失敗の可能性もあるのが不安なところです。

 ラインハルトが求め、実現したのは公平な法と公平な税だと思いますが……それは極めて困難で、多くの条件を必要とするのです。

 

 

 

 

『現実』の歴史にも無数の内乱・反乱があり、その展開を真似たSF作品も多数あります。

 腐敗も、それこそどこにでもあるというほどに多くあり、それは豊かな国と貧しい国の差を作っているとも、文明が衰退する原因だともいわれます。

 

 日本史では大化の改新から、壬申の乱、藤原仲麻呂と天皇中心の国家が固まるまで。

 長屋王の変、薬子の変、菅原道真の件のように宮廷闘争も小さい乱と言えるでしょう。

 平将門の乱という大きい事件が貴族国家の衰退を告げ、それから平家と源氏の争いがありました。鎌倉時代も三浦など多くの氏族が滅ぼされる小さい内戦が無数にあります。

 鎌倉時代の始まりは、源義経の追討という一人の将の粛清を、守護地頭という武家による全国支配システムの構築に利用し、さらに奥州藤原家まで滅ぼし全国統一を成し遂げるという、血も骨も腸の中身も利用しつくすしたたかさが興味深いものです。

 そして南北朝で北条から足利、とはいえ不安定で内乱は多数。それが応仁の乱で戦国時代に、多くの戦いの末に秀吉の天下統一、短い平和から関ヶ原、大坂の陣で徳川幕府ができ、島原の乱を最後に長い平和がやってきました。ただしその中でも一揆はいくつもあったようです。大規模な農民反乱にはならなかっただけで。

 それが黒船をもとに崩れ、比較的小さな戊辰戦争で政権が交代し明治時代に。それは尊王攘夷という「心」、幕府では改革ができないという焦り、大名側下級武士の出世欲などさまざまな思惑がぶつかり合っての動きでした。

 その明治政府も西南戦争に至る多くの士族の反乱、さらに秩父事件など民の反抗もありました。

 その後武力反乱は絶えたように見えましたが、5.15、2.26とクーデター未遂が相次いだことが日本の軍国化と敗戦に大きく影響しています。

 また、ある時期以降の日本政府は共産革命を強く恐れ、国民を厳しく弾圧しました。

 戦後は安保闘争が最大、あとはいくつかの左派テロぐらいですが、オウム真理教事件という量的には小さいものの質的に衝撃的な事件がありました。

 

 古代ローマでも、中国でも、ヨーロッパのどの国も、事実上国ごとに上と同じことができ、いくらでも厚い教科書を書くことができるほど多くの内乱があります。

 中でもイギリスの清教徒革命と名誉革命、アメリカ独立戦争、フランス革命、ロシア革命は国家自体、体制そのもの、支配システムそのものを変えたとも言えますし、他の影響も巨大です。

『月は無慈悲な夜の女王』はアメリカ独立戦争の影響が非常に強いです。

 また『スターウォーズ』のパルパティーンの戴冠は、古代ローマの帝政移行を強く真似ています。

 

 国家であるうちは、集団同士の暴力が抑制されている。

 その抑制が外れたら内乱になり、完全に抑制がないと戦国乱世になる。日本や中国は最終的に統一される、というイメージだが、ヨーロッパは天下統一が困難であり、アフリカでも南アメリカでも天下統一をイメージする者はいない。

 

 逆に、他のすべてが変わらなくて、ただ「国に対する忠誠心」だけが消え失せたら?

 逆に、国に対する忠誠心だけが強固にあり、物理的な要因が全部消えたら?

 経済は、信頼が失せるだけでバブル崩壊・恐慌に至ることもあるようです。

 たとえば、スペインがナポレオン一世に支配されたとき、中南米の植民地はいっせいにスペインから独立しました。いくらなんでもコルシカ人に従えるか、と。

 

 独立や宗教、民族などの反乱・反抗は、「心」の面の方が圧倒的に大きいものです。

 古代ローマ帝国支配下のユダヤ人たちは、独立国だった時期より、灌漑と道路が行き届き、交易を保護された豊かな暮らしができ、公平な法で支配されていたはずです。しかしマサダの遺跡に刻まれるほどの玉砕をしました。

 アメリカの南北戦争では、奴隷を支配するこれまでの暮らしを守るために、と何十万人も戦死したものです。

『ファウンデーション』で前の世代の英雄である商人を収容所で残酷に殺した、腐敗したファウンデーションと、実力主義で安定したミュール帝国……物質的にはどちらがいいかは明らかなのに、ファウンデーションのため、「セルダン・プラン」のためとミュールに抵抗する人たちがいます。

 

 

 乱と食の関係はどうでしょう。『論語』で孔子が、信・食・兵の順に重要だと言いました。

 食わせなかったことで乱が起きた、というのはわかりやすいです。特に中国の農民反乱など。

 ただ、食わせても乱が起きたこともあります。

 食わせなかったのに乱が起きなかったことも多くあります。

「民を食わせなければ政権は倒される」か「民をすべて餓死させても政権には問題ない」か。

 中国史において、政権側がどの程度防衛・福祉の義務を負っているかは知りません。

 アイルランド・ベンガル・ソ連など近代史における餓死虐殺は、民を膨大に餓死させても反抗を恐れなくてよかったようです。特にひどいと言われるベルギー領コンゴでも、反乱と言えることは起きていません。

 民を餓死させ、かわりはいくらでもいる状況……どのように作られたのでしょう。逆に、中国の流民による王朝転覆はどのように?秦と黄巣を除けば基本的に宗教反乱をきっかけとします。太平天国のように王朝転覆に至らないこともありますが。

 逆に、ヨーロッパである時期多発した農民反乱はすべて鎮圧され、それ以降民はフランス革命まで実に大人しいままでした。フランス革命後も多くの国が革命を起こしては鎮圧されています。

 ヨーロッパはかなり民を鎮圧するのがうまいようです。ただし、フランスとロシア、どちらも失敗すると悲惨なことになりましたが。ほかにもハイチやブラジルなど多くの革命があります。

 

 飢え死にしたくない、拷問されたくない、犯されたくない、皆殺しにされたくない。

 それは本当に重要なのか、それとも大義の前では些細なのか。

 これも歴史の中ではとても重要なことです。

 また、宇宙戦艦作品の帝国も、実際に何が支えているのかにも関わるでしょう。食べる、生きるとは関係ないほどの忠誠があるのか。

 

 

 何よりも根本的には、「なぜ、少数が多数を支配することができるのか」。

 多数の方が強いはずなのに。

 今の民主主義社会でも、1%が儲かり99%が貧しくなることが起き続けています……それを逆転させる政党が生じ当選することがない、99%のほうが1%より多いはずなのに。

 

 地球人の、バックドア。

 あるコードを入力すれば、地球人は奴隷になる。

 それは、餓死に至っても反抗しないほどに強い。

 そう思えばいいのでしょうか。

 

 ついでに、アイルランド、ベンガル、ウクライナという近代における大規模餓死は、どれも食糧生産そのもののが絶対的に不足しているからではなく、穀物を貨幣・所有・商品と扱うことによるものでもあります。

 膨大な穀物を生産している地域で、生産している人々が餓死した。

 その地域全体で、飢え死にしそうな人に最優先に穀物を与えれば餓死はしなかった。

 にもかかわらず、その穀物は商品として別の国に輸出され、それによって餓死した。

 そんなことをされた人たちは、教科書に載るほど暴れるのではなく黙って餓死した。

 

 逆に、それほど強く人々を結び付けている、心の「ナニカ」はどんな時に崩れるのでしょう。

 また、その「ナニカ」がないために豊かな資源がありながら貧しい国もあります。

 その説明には、世界システム論の、先に工業化した国の周辺・資源や原料農産物の供給者の役割になったら貧しいままだ、がありますが。

 

 

 

 帝国そのものが崩れ、内戦に陥るに至る……そのパターンも改めて見てみますか。

 

 主に中国で、帝国が統一されてから。あるいはある程度の範囲で安定してから。

 

 それまで。流民が荒らし、ろくに耕作がされていなかった地が多い。重税・戦乱による略奪などが限度を超えると、農民は農地を捨てて流民に加わるので、耕作されない土地が生じる。

 耕作放棄地を律令・公地公民で平等に分配する。

 土木工事。交通路にも灌漑にもなる水路。堤防。場合によっては河川の流路変更を正式にする。

 情報。土地台帳と戸籍。

 道路・単位などの統一。

 駅伝制度。政治制度。公地公民制など。塩や鉄の専売制。

 情報と交易を助け、また津々浦々の自給自足村が、ちゃんと塩と鉄を買い、同じ暦に従って耕し、工事などの人を出すようにする。

 

 農業がやりやすくなる。農業生産が増え、食料がいきわたる。

 王都ができる。多くの人が集まる。特に王侯貴族の見栄えを整えるための、高級衣類・家具の需要が短期間で膨大になる。

 宗教も。

 

 巨大宮殿を建てるため、納税のためなどもあり、また商業もあり軍もありで多くの人が都市に集まると、情報が配分され、集められる。

 分業と工夫によるより優れた工業や商業ができる。

 広い地域のあちこちから、多様な素材を、安く安定して手に入れることができる。多様な素材でいいものを作り、広い範囲や豊かな帝都に売ることができる。

 都市の本質は、情報を集め交配させることにある。僻地の漬物や泥染め革であっても価値が出ることはありえる。

 より遠くとの交易ができるようになれば、とんでもない富が生じることもある。

 新作物を入手できれば人口の爆発的増加にもつながる。それがなくても、より優れた品種・農法が広がってわずかに農業生産が増すこともある。

 同時に新しい都は清潔の問題が出る。最初のうちは清潔、でも何代も時間がたつにつれて汚くなる。

 人が集まれば当然伝染病も交換される。

 

 道路・水路が整備され、駅伝が行き届く。外、特に騎馬民族との戦いは意識し続けるため、辺境との連絡も頻繁。そうなると商人も行き来し、商業路にもなる。

 人口が増え、次男三男が余れば辺境の開拓も始まる。

 灌漑水路ができ、干拓をすれば、それまで農業に不適だった地も農業ができるようになる。

 

 食糧生産が多く余裕ができれば、たとえば米のようなデンプン作物から麻・木綿・ベニバナのような繊維・油など作物への転換もあり得る。

 自給自足農村に商人がより多く入る。

 より広い範囲に人がいなければ、農業にあまり適していなくても牧畜ができる。遠くの森から皮革・角、果物、銘木など加工すれば高価になる品を手に入れることができる。

 

 

 ではなぜそれが、衰退になるのでしょう?

 国全体が緊密に結びつき、農業を基盤として工業まで生産力が高まった。

 それがなぜ、より発展するのではなく衰退になるのでしょう?

 巨大な力がそこにあるのは確かです。

 大運河を作ってもよし、近くを征服してもよし。……秦や隋、秀吉は初代で大工事や外征をして自滅しましたが、50年待ってからやれば大成功だったのでは。実際大運河は大いに役立ったのですから。ただ、統一までの膨大な余力の行き場、まだ弱い威信を強める、という理由もあるのでしょうが。

 

 まず、産業革命以後の、技術水準向上による富国強兵のビジョンは、近代以前の中国では全員が悪魔教になるよりひどい悪だ、ということを忘れてはなりません。

 進歩どころか「情報を集め交配させる」こと自体、宗教・官僚・道徳家は嫌います。商業・工業も。自給自足農村を理想とするのは洋の東西を問わぬ人の常。

 

「心」だ、と言ってしまえば楽です。イヴン・ハルドゥーンの言うように、連帯意識=アサビーヤが都会のぜいたくな暮らしで衰えたから、と。今も多くの人が言います、人が贅沢に慣れ、民主主義という間違いを信じ、利己的な主張をし、自由で心が腐り、信仰を失ったから……信仰、規律、体罰で人の心を叩き直し、個人主義を消し去ればまた楽園が来る、と。ですがそれはルドルフへの道です。

 

 

 木を切りすぎ、その結果農業生産力が低下する。容易に開拓できる森や湿地、低い枝になった木の実が枯渇する。

 そうだとして、それがどう腐敗に結び付く?

 

 群雄の一つが次々と征服を繰り返し、得た領土や奴隷を部下に分配する。

 それも、比較的近い、地も肥え水も豊富で木材もあり、文化も違いすぎず、金銀やほかの金属もたっぷりある地。はるか遠くの半砂漠とか伝染病地獄の密林とかではなく。

 帝国が天下を統一し、干拓で農業生産が増える……大工事が、民を絞りすぎて滅びなければ運河が生産量を増す。

 それは高度成長で、それが止まる……

 

 どこかで、公民ではなく地主が強くなる。

 時間だけでも格差が拡大し、地主が多くの民と土地を手に入れる。

 軍の動きが悪くなり、海賊や山賊が増える。

 それは別々の事ではないのでは?

 国土の多くが森であれば、凶作があっても森の木の実を拾い、獣を狩って生きられる。

 森がなければそれができず、強い者に頼って実質奴隷・兵となるしかない。

 多くの子が育てば広い範囲が開拓され、森がなくなる。森がなくなれば、水路が埋まり道路も砂に埋もれ、交通が不便になり盗賊が隠れられる場が増える……農業も商業も真面目に頑張るのが割に合わなくなる、悪循環が始まる……?

 

 

 

 国の人材全てが集まり、力を合わせて、敵国に勝ち巨大な用水路を作る。

 それをしなくなり、国の権力という希少資源を奪い合うだけになる。

 国全体、国の外を見なくなる。

 どこで、集まって力を合わせること、人の力と金の力を集めて何かをすることが、割に合わなくなるのでしょう。

 なぜ。

 江戸時代の日本のように、容易に干拓できる湖や湿地が尽きることもあるでしょう。水路を作れば農地になるいい土地が種切れになることもあるでしょう。

 苦労して開拓しても、中央から離れすぎていれば税としてコメを持って行くのも割に合わなくなります。

 中国では中原から、特に西に離れれば離れるほど、草原から砂漠になっていき、農業生産は低下していき開拓が割に合わなくなります。東は海、北も南も似たようなものです。

 宗教もしばしば重大な役割を果たします。膨大な富を集め、無駄に使うことで。商人や貴族も、皇帝やその宦官外戚も贅沢が目的になり、搾取が強まります。

 

 ……高度成長が終わる、ということ?

 前に考えた、近代国家・近代経済がネズミ講だ、ということと同じ?

 全員が成長し続けることができなくなる、資源・土地の限界で?

 帝国全体が組織化され、高い軍事力や工業力を得たこと、それが別の投資になってより大きな収益を生む、それがなくなることで?

 

 土地面積を変えないまま。

 開拓。森を農地にする。

 干拓。湖沼や海岸を農地にする。

 水路開削。乾燥地を農地にする。

 新鉱山開発。

 航路開発、貿易。

 新作物、特にコロンブス交換のトウモロコシ・ジャガイモ・サツマイモは中国の人口も何倍にもした。

 新しい製鉄法。新しい工業製品。

 

 でもそれが限界になる……宗教や官僚が強まり、進歩を抑圧する。

 新大陸を発見できた西洋は、さらに多くの土地……まず金銀、配分できる所領を得、それから木材や砂糖を得た。

 だが中国は海を嫌う。日本やオーストラリアを攻め取ろうとはしなかった。マラッカを押さえて西洋との貿易の富をかすめようともしなかった。遊牧民の攻撃が激しくなったから、また国内の儒者官僚が道徳的に禁じたから……世界全体を見ることもなかった……

 

 より大きく見れば、帝国全体で森林や水資源、新しく開拓できる場、鉱山が枯渇する。少なくとも生産量をどんどん増やしていくことができなくなる。

 マルサスの罠……人口増加に、農業生産増加が追い付かなくなる。

 一定確率の気候変動や大規模な伝染病、振袖家事のような大火でさえも、公の資金の余裕を削る。

 西洋の新大陸発見は、少なくとも木材を実質無限にして造船や建築ができない状態を遅らせた。さらに石炭を利用する産業革命は、製鉄の限界もなくした。のちにはハーバー・ボッシュ法で食糧生産の制限も。よく言われる、征服地の先住民を撲滅して土地を分配し、あるいは先住民を奴隷化して安い農産物を大量に得た。

 

 それらがなく、これ以上征服できる敵国も、簡単に開拓できる森や湖もなくなったら。帝国の力ある人たちにとって、帝国を維持しメンテナンスするより、帝国を腐らせるほうが得になる。

 生物に似ている。白血球や脳細胞や心筋細胞として頑張るより、癌細胞として仕事をせず増える……寄生虫と化す方がいい。

 何が欲しいのか。物質?順番?道徳的な欲?

 実際には、皆が欲望通りにふるまう結果、帝国ができて興隆し、そして腐って滅びていく?

 

 弱い人々も、あてにならない法、警察に頼るのではなく、力ある人に頼る。頼る人を守るため、力ある人はより権力を求め、正義感の強い警官を潰す。

 ただ食うためでも強い人に頼る、それではただの私兵と豪族。

 そして、豪族に頼っていない人々は、その分の税金も負わされてますます困窮する。

 ……なぜ、帝国の拡大・経済成長の限界が、警察・法の不公平に結びつくのでしょう?

 時間そのもので豪族たちが強くなり、頼る人を警察から守れる力をつけてしまうから?

 

 そして中国では西や北から、常に騎馬民族が襲ってくる。勝っても報酬がない戦い。

 騎馬民族の脅威は中東イスラムも、インドもロシアも変わらない。

 

 中央政府が、寺院や商業都市を守らない。

 だから武装する。

 中央から守る軍が急行する>遅いし、移動のための物資が余計にかかる。

 現地軍だと当然独立する。

 

 賊が多くて旅ができなくなれば、豊作の地から凶作の地に食物を運ぶという機能が消える。反乱の知らせを受け取るのも遅れる。

 

 全体として、腐っていく。貴族や豪商、寺院のぜいたくがめちゃくちゃになる。

 すべて国のものだったはずの農地が、荘園になる。地方の豪族が支配し、気がつけば国と無関係になる。いつでも反乱を起こせる存在になっている。

 多くの人が、ますます増える税、ますます厳しくなる法に苦しむ。

 

 限界が来た時、宗教がはびこり反乱が……

 

 わからないのは、根本的な理由は拡大の限界・環境破壊による生産力の低下……単に、毎年の成長率が下がるでも……か、それとも時間そのものによる格差拡大・豪族の成長なのか。

 大動乱では金持ちが略奪されるため、結果的にかなり平等になることもある。

 しかしただ皆が耕しているだけでも、運よく何年か豊作が続いたり、賢い子が生まれたりした家でも、少し周囲より豊かになる。それに時間が加わると桁外れの格差が生じる。

 生産力の低下と、格差の拡大が複合する?そして、腐敗の方が強まるのは……外敵を征服していないから?中国王朝の後半はたいてい遊牧民の攻撃が強まった、にもかかわらず腐敗する……王朝初期の、儲かる侵略戦争と、儲からない防衛戦争では質が違う?

 だとしたら、儲からない防衛戦争を続ける『銀河英雄伝説』の自由惑星同盟は?また、帝国は同盟を侵略し続けることでどの程度儲かっていた?『スコーリア戦記』は?

 

 それとも、高度成長が終わること、それ自体?

 

 

 名君か暴君かで違う……とも思えます。

 ですが、皇帝の質も妙にパターンがあります。

『銀河英雄伝説』では暴君に帝国が潰されそうになると名君が出て持ち直し、それで同盟が潰される前にまた暗君に、が繰り返されたそうです。

『現実』のパターンを見ると、初代は当然優れたカリスマの持ち主。

 二代、三代、と優れた王が続いた時に帝国は続きます。

 あるいは優れた補佐役。『銀河英雄伝説』では皇祖ルドルフが正嫡なく死んだとき、ヨアヒム・フォン・ノイエ・シュタウフェンが女系のジギスムント一世をよく補佐し帝国を保ちました。

 前漢で劉邦の正妻呂公の一族が権力を独占しましたが、呂公時代は民は満腹していたといいます。

 

 実際問題、多くの長く続いた帝国を見ると、初代・二代・三代が長命名君であることが多いです。清、徳川幕府、ムガル……反面後半はごく短期で死ぬ、子供のうちに即位する皇帝がぎっしりと並ぶものです。

 おそらく逆に、二代が早死にしたりバカだったりした帝国はすぐ滅んだ……生物進化と同じ、足が速い馬の子孫が生き残った、足が遅い馬は死んで子を残せなかったから。二代三代が早死にしたら滅ぶから歴史に残らない……という可能性もあると思います。

『現実』では鉛や水銀を用いる化粧品や医薬品という制限も入ります。高貴な身分の子が大人になる、それ自体が絶望的に困難になるのです。

 さらに後宮の争いも加わる……『銀河戦国群雄伝ライ』の弾正は、多数の側室はいても後宮の争いがひどく娘一人しか残らなかったといいます。

 ゴールデンバウム帝国の「ルドルフの血が腐る」、異様に子が少ないのは、遺伝子だけはなく、後宮での暗殺や、鉛や水銀の問題もあったのでは?

 ただし、遺伝子そのものに問題があることもあります。

『現実』ではスペイン帝国、またロシア帝国の血友病など、近親婚による王族の質低下がありました。

『ヴォルコシガン・サガ』のバラヤー皇帝家……ヴォルバーラ家、ごく近いヴォルコシガン家も、狂気とごく近いところで踊っています。アラール・ヴォルコシガンの家族の多くを殺した狂帝ユーリ、皇帝の断で防げたセルグ皇太子……グレゴールは自殺未遂から家出をするほど悩んだものです。

 さらに、トルコなどで問題になったこと。後宮で隔離されて育った皇帝には、人間としての最低限の能力もない。これはどの王朝でも変わりません。

 逆に厳しく育てても、それはそれで歪みはあります。『レッド・ライジング』のように実際死ぬバトルロワイヤルを課すのは本当に有効でしょうか?体罰で膨大な勉強をさせることは、本当に有能な指導者を育てるのでしょうか?『スコーリア戦史』では前線に出すため、質は高いですが死亡率が高く滅亡に瀕しています。

 

 貴族の中から優秀なものを選んで、それに丸投げするというのも本来はいいでしょう。

 ですが権力も富も軍事の手柄も全部宰相が握れば、宰相の簒奪を防ぐことはできなくなります。

『銀河英雄伝説』のリヒテンラーデは簒奪の行動はしなかったです。

『ヴォルコシガン・サガ』のアラールは幼帝が成人したとききちんと権力を渡し、むしろ驚かれました。

『銀河戦国群雄伝』の智の正宗こと紅玉も弟の王座を簒奪しませんでした。ただ教育をする余地がなかったことが後に致命傷になりましたが。

『タイラー』ではラングが簒奪寸前までいきました。ドムやスレイは決して簒奪には踏み出さず忠実でした、皇帝がよかったからでもあります。

 ですが、『現実』では常に、絶対権力を得た宰相はそれだけではすみません。古い道徳があるからです、自分の一族を食わせ守らなければならない、という。逆に『ファウンデーション』にあるように、皇帝は叛意がなくても切らなければならないのです。

 オスマン・トルコ帝国は、キリスト教圏から優れた幼子を家族から引き離し奴隷として育て優れていれば宰相にもする……ただし世襲を認めない、とすることで清潔な軍人・宰相を得ました。しかし、子を作らせないことは完全には無理、また過剰な保守という問題も出ました。

 

 

 最終的には何が内乱を起こすのか、また内乱を止めるのか。

 腐敗を止める方法は本当にあるのか。……真の共産主義なんてもっと悪くなるだけです。

 

 そして、帝国が腐るのはなぜか。時間か、森林や侵略先の枯渇か、楽な生活か、心の腐敗か。

 仮説として、「高度成長状態でなければ腐敗を止めることができない、内乱に至る」と置いておきます。

 

 心か物か、に戻ります。




ここしばらく、いくつかの帝国(日本の政権も含む)のだいたい0年・30年・60年……と30年おきぐらいの事件を表にする作業をしています。HTML形式で。どう出せるやら。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。