前回検討した問い、「力をつけた帝国がなぜ、正しい投資による繁栄ではなく衰退になるのか」の、かなり決定的な答えが見つかりました。
それは、なぜ平和=格差拡大なのか、でさえあります。
「よい恵みの大地をつくるには、北では、明日のアメリカと同じように斧ひとつ、つるはし一つあれば十分であるが、地中海では、金持ちと権力者が口を出さなければならない」『地中海1(ブローデル)』
この一言です。
山と谷間が多く、わずかな平地はマラリア地獄の湿地干潟である地中海は、大金をかけなければ平地は暮らせるようにならない。
その前後からさらに出ること。
容易に開拓できる森と、巨大投資が必要な干潟や砂漠は、質が違う……
斧ひとつで、奴隷でないだけの家族経営自作農の三男が開拓できる地。雨で十分作物も得られる。
膨大な金を元手に、膨大な人間を集め、機械や学問を注いでやっと開拓できる、しかも広大な地。
ものすごく広大な地を、たとえば防潮堤を築いて風車も作って内部の海水を抜いて干拓する。マラリア地獄である広い湿地帯に溝をいくつも掘って水を抜き、干拓する。はるか遠くの雪山の氷河湖から頑丈な岩をいくつも砕いて水を引いて砂漠を農地にする。
いや、大西洋を渡る船だけでも。
莫大な初期投資。それは平和な帝国だからこそ存在する。
そして、膨大な金と人を集めて作られた農地で働く人たちは、農地を作った人に強く従属する。その事業がなければ家族ごと飢え死にしていた。あの不毛の地をこんな田畑にするなんて神の化身だ。工事の間、集団で厳しく管理され鞭打たれ、農地になっても厳しく鞭打たれる。膨大な借金もある。
工場も。ものすごく高価な機械を買い、多数の人を集め、大きな顧客・需要とも話をつける……以前言ったように、特に前近代では何か売ろうとしたら権力の許可が必要、正月の大きい寺社の屋台のように。
材料を買い付け、商品を運び出すための交通も。工員が生活するための上下水道や設備、奴隷同様であれば人々を殴り従わせることに優れた人、奴隷商人、また貴族官憲への賄賂も。
膨大な資金と平和、大人口があって、はじめてできる、農業でも工業でも、巨大な生産向上。
極端に安い、時には生存すら度外視した賃金。
それは当然、極端に安く膨大な農産物や工業産物を市場にぶちこむことになる。
小規模自作農・家族経営工場は壊滅する。
格差が拡大する。
巨大な農場や工場は、当然利益もけた外れに大きい。
金持ちが投資し、当然、けた外れに大きな儲けを得る。
小規模自営業・家族経営工場は、ただそのままでいても貧しくなり、競争に敗れて売れなくなって潰れていく。
……八百万円で作った家族経営の工場が八百万円を三倍にするのに二十年かかるなら、八百億円で作った大規模工場が八百億円を三倍にするには五年かからず、二十年後は八十倍にもなっている、ということがあるのではないか?八百兆円の製鉄所はもっと?
また巨大資本、大金をかけて作られた大農場は奴隷ばかり、あるいは大借金で永久に奴隷であることが多い……
一定の確率で起きる、非常のことも格差拡大を助長する。日本でのコロナ禍では、家族経営の食堂が潰れ、大規模チェーンは生き残った。
超金持ちと、持っていた土地や仕事も失う多数の貧乏人になる。
そうなったら、帝国はどうなる?
豪族ができる。
帝国にある程度対抗できる軍事力を持つ人が生じる。
皇帝もそれはわかっている。だから古代ローマも古代中国も、宗教と協力して商工業を抑えようとする。
超金持ちが生じないようにしたい。
多くの宗教が利子を禁じる。
平等を建前とする律令制の土地分配。
新大陸を発見したコロンブスからすべてを奪った王。
聞いたことがある話です、古代ローマの歴史で。自作農が兵役義務を果たす社会から、多数の奴隷を使う大土地所有貴族の社会。
グラックス兄弟の改革の失敗からスラ、シーザー、アウグストゥスに至る内乱の時代。
ではなぜ皇帝・幕府自らが、儲かりそうなところに運河を作ったり干拓したりしないのか……失敗したとき責任を取りたくない、徳川幕府の場合は振袖火事や、佐渡金山の枯渇などで資金不足?
特に首都から遠くに、巨大な農場や工場を作るとしたら、それはいくら皇帝直轄と言っても皇帝自身が出かけて監督し、収益を数えるわけにはいかない。誰かに任せなければならない。弟か、宦官の甥か、皇后の兄か……成功したら皇帝の強力すぎるライバルができる。
それが、広い帝国が衰える理由のひとつ?小さい国であれば儲かる事業は皇帝が直接やって、儲けも兵力も得られるけれど、国が大きければ誰かに任せなければならなくなって果実を渡しライバル豪族を作るだけになる……
強い皇帝と強い将軍は、大規模干拓にも適用される?
前に考えた、高度成長が終わると腐敗、という仮説をまた考えてみましょう。
統一まで。
皇帝に率いられた、流民をまとめる諸将が、次々と手近な、それなりに豊かな国々を落とす。略奪で多くの富を得て、それを分け合う。
統一直後でも、前漢の劉邦は反乱した功臣を討ったり匈奴と戦ったり、勝ったり負けたりですが結構自ら前線に出ていました。そのたびに多くの略奪品を分配し、部下たちの地位も心の報酬も与えていたわけです。
統一後、しばらくは流民たちが分配された土地を耕し、皇帝自身も身軽に近くの割と儲かるところを攻めたり、大工事をして大儲けしたりする。
豊臣秀吉も徳川家康も全国の金銀山を直轄にし、膨大な金銀を得た。家康は海外貿易も独占し膨大な富を得た。
そのように儲かる仕事を皇帝自身が独占する。
でも、国がある程度以上大きくなれば、自分で仕事をすることは難しくなります。どこの国も、皇帝は権威を強めるために巨大な宮殿の奥に閉じこもって限られた人としか会わない、という生活になります。
気軽に行ける近場に、儲かる征服先がない状態になることも大きいでしょう。
『銀河英雄伝説』のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは、すべてを奪って膨大な量をついてくる人たちに分配することで支持を強め、権力としたとあります。劉邦や足利尊氏のように、寛大に与えることで天下を取るタイプもあります。ただしそうすると、自分の直轄地が小さいというジレンマにもなります。劉邦は功臣粛清、足利は弱く動乱のまま、ルドルフは圧倒的に多くを奪ったため貴族艦隊も多いけど皇帝直轄の帝国軍も強い、となったのでしょうか。
宗教儀式でも、皇帝が自分で生贄を殺して肉を臣下に分配する規模であれば、皇帝を強めます。でも国が巨大化したら、それはできない……別の誰かが肉を分配します。
豪族が力を持たないように膨大な民の奴隷化を禁じる……とやらないのも、逆に皇帝自身が多数の奴隷を使う農場・工場で結構儲けているからやりにくい、があるかもしれません。皇帝の家族や近い宦官なども。
さらに国力が増え、よりたくさんの人が開拓を始める。
小規模な開拓もあれば、有力者が大規模な開拓をすることもある。
問題は、その有力者による大規模開拓や工場。とてつもない利益が生じ、強大な富と膨大な忠実な民を持つ人々を持つ豪族ができる。
そういう人たちが潰されないため。皇帝による粛清を避けるためだけでも、中央で権力闘争に勝ち続けなければならない。賄賂を渡し、できれば外戚になる。
そのために腐敗していく?
その上、十分強くなれば法を無視できる。法を無視できれば、よりけた外れに儲けることもできるし、多くの人を守りかばい、より頼りにされることもできる。どんどん強まる循環……腐敗とひきかえに。
さらに日本の室町時代を思えば、守護たちは幕府に潰されないよう京都に集まって公家同様に雅な暮らしと権力闘争をしている、その間に領土は守護代、その下の戦国大名に下克上され、気がついたら領土からの税金は来なくなりました。
さらに、相対的に衰えている皇帝は、地方の人の犯罪を罰し、地方の人が賊に襲われたとき守ってくれることもなくなる……そうなれば寺院も荘園も武装し独立する……
もうひとつ面白いのが、莫大な初期投資で広い土地を開発し、多くの奴隷で経営する……それは近代西洋の、植民地のプランテーションにも共通することです。
プランテーションと同じ構造がどのようにほかの歴史にもあったかはよくわかりません。古代ローマの属州、江戸日本のアイヌや琉球の砂糖農場も似たような搾取はあったと思いますが。
砂糖プランテーションは、近代的な工場の始まりでもあると言われます。
そしてその莫大な収益が、なぜ地方豪族を作らなかったのか……収益がそのまま、本国の投資家のところに行って、地方で膨大な人を支配している人の軍事力にならなかったのは……プランテーションは、稲藁で俵を作る熟練農と違い、別のプランテーションからサイザル麻の袋を買わなければコーヒー豆を輸出できない、教育水準の低い奴隷は高水準の労働が期待できないから?
船、大砲などの工業はがっちり本国が押さえていたから?
労働水準の高い稲や麦の、中国やヨーロッパの大規模干拓農地は、労働条件は奴隷的でも農民が兵としてもあてになった?
地理による、開拓が意味することの違い。
地理、地形、土地の性質……急斜面が多いか、砂漠か、湿地か、草原か、森か……それどころか、重量有輪鋤と発明が遅い高度な馬具がなければ耕せなかった、北ヨーロッパの粘土質の重い土も。
さらに開拓できるためには、刃物の技術史。斧が優れているかどうか。現代ではチェーンソーというまさに世界を変えた、今も変え続けている道具。
鉄条網という牧畜、所有、社会を全面的に変えた道具。
もちろん、伝染病に強いこと。ただ十人産んで八人は幼児のうちに死ぬのを何度も繰り返しただけでも。また医学の発達でも。
それらが開拓と、その形を決める……どんな人数の人の集まりか。
どれぐらい結びついているか。厳しく管理される奴隷か、律令制・班田収授か、馬を飼える武士……ヨーロッパも、またオスマントルコも……が守れる孤立した谷間か。
中南米の格差構造も、中国に民主主義の芽がなかったことも、そういう地形・農作物などが決めているのでは?
宇宙も。
波動エンジンに直結した機械で、水と空気を直接ブドウ糖とアミノ酸に変え、それで細胞を培養してステーキを作る……という目標を見ているか。
箱型機械に「アールグレイ、ホット」といえば内部で原子を積み重ねて磁器入りの熱い紅茶が出る『スター・トレック』世界か。
惑星表面を耕しているか、水耕農場か。
テラフォーミング、スペースコロニー、森と恐竜の星には、質的違いがあるのでは?
テラフォーミングやスペースコロニーは膨大な金と時間がかかる。
森と恐竜の星を開拓するのは、それこそたどり着けるだけの船と、斧と種もみ種芋でいい。種芋と犬と豚を積んだカヌーで太平洋に広がった人々のように。
小惑星を掘ることが嫌われるのも、そこで暮らすのは借金を負った奴隷ばかりになるから?地下を掘る『月は無慈悲な夜の女王』に空気税のような厳しい搾取があったように?『ガンダム』のようにスペースコロニーは必然的に空気税の世界になる?
だから、居住可能惑星にばかり人は住む?
巨大な格差を作る巨大投資。それは膨大な財産を持ち多数の人を従わせる豪族を作り、皇帝を脅かす。
だから皇帝はスペースコロニーを嫌う?
『月は無慈悲な夜の女王』『火の鳥 復活編』『老人と宇宙』『宇宙兵志願』などでは、開拓は極端に厳しく描かれています。
史実、もともと人類文明自体が欠乏が当たり前であった時代の開拓の記憶・歴史をふまえてしまうこともあるでしょう。
その厳しさが、権力者により強く依存する社会構造や、強い独立心も作ってしまう……?『老人と宇宙』『宇宙兵志願』では孤立した開拓星に行った主人公は精神的にも中央から切り離され、独立心を生じました。『航空宇宙軍史』『真紅の戦場』『ダグラム』などでは独立心を叩き潰そうとしますが……
『レッド・ライジング』ではもう開拓は終わっているのに、開拓がずっと続いているとだますことによって残忍な支配が正当化されていました。
テラフォーミングは、『現実』のどれと似ているでしょう。
新しい農地を(先住民を無視して)得る方法……
干拓。
森林伐採開拓。
新灌漑水路。
広大な草原を、まず放牧地にする。それから技術が進んだら、化石地下水をポンプで汲みだして巨大なセンターピボットスプリンクラーの円形農場を作る。
どれと似ているでしょう?
それこそ、自動機械を一つ放り込んで、数十年後に行けばいい、という作品もあるのです。それは……それこそ離島にヤギを放して数年後に戻ると多数の肉と皮が手に入るようなもの?……無論言葉にできない環境破壊とひきかえに。
時間がかかることは確かです。
ただし、成功すればそれ以上手をかけなくても生活できるようになる……スペースコロニーは基本的には生きていくだけでも多くの技術が必要です。
ただし『リングワールド』や『オマル』のような惑星規模になれば別ですが。
スペースコロニーは、不断のメンテナンスが必要な灌漑水路や、風車で水を汲みだし続け、いたずら少年が穴に腕を突っ込んで堤防を守るオランダのようなものでしょうか。
それがどんな経済や社会を生み出すのか……
「自給自足村」と変わらない星も多くみられます。
それはどのように社会を作るでしょう?
『繁栄』などにありますが、自給自足では貧しくなり、技術さえ失われます。
帝国が衰退し、技術水準が下がるのには格差の拡大だけでなく、多くの豪族が事実上小さい独立国となり、自分で自分たちを守り、商人も拒んで自給自足になることもあるでしょう。
商人を入れても、それは皇帝のスパイかもしれないのです。それでせっかく……税を払わずに贅沢しているのが、罰を受けるかもしれません。
だから自分たちで作るほうがいい……
特に、中国でも多くの文明でも、塩と鉄は専売です。自分たちで作って閉じこもっていた方がいい。
また、『銀河英雄伝説』のゴールデンバウム帝国でも、多くの農奴を使う貴族星は自給自足に近くなっていたようです。
自給自足、狭い世界でいると、心も狭く古くなるということもあるでしょう。
エジプトや中国のような閉ざされて豊かな地制が、何千年も何の変化もないことを選び続けるように。
外の世界、自分たちとは別の技術などの存在を認めず、狭い世界の道徳を強制し、傲慢にも進歩を拒み、技術に優れた敵の前に滅びる。
地理を理由とする、というのは『国家はなぜ衰退するのか』の著者が厳しく批判した態度です。
しかし筆者がいろいろ学ぶと、地理と作物はかなり決定的な影響があるとしか思えません。
少なくとも、コロンブスの瞬間の、中南米帝国とユーラシアの圧倒的な格差の説明としては『銃・病原菌・鉄』は高い説得力があると思います。
その地理と、『自由の命運』に詳しく書かれていた社会システムが、以前考えた「なぜ、アフリカのサハラ以南の奴隷を輸出した国々は、強くなろうとしなかったのか……日本が火縄銃を買って、娘を犠牲にしてネジの秘密を聞いたと言われるほど熱心に理解し、大量にコピー生産したように」の答えもかなり教えてくれたと思います。
航行可能河川。
家畜病。
規範の檻。
製鉄。
航行可能河川。これは、歴史において決定的であるようです。
入植した新大陸に航行可能河川があれば、それは鉄道と高速道路と上下水道と港湾が事前に作られているぐらいに都合のいいことです。
航行可能河川があるということは、安全なやや上流に素晴らしい港があるということでもあり、ほぼ間違いなく河口近くにもいい港があるということです。
水車というエネルギーも得られます。
運河という人工航行可能河川を作るのにどれほどの資金と人が必要かも考えるべきです。それがどれほど世界を変えるかも……スエズ運河やパナマ運河が。
逆に鉄道という技術は、航行可能河川がすべてを決める世界から大きく世界を変化させた意味もあります。
特にサハラ以南のアフリカは、神に呪われているかのように航行可能河川がありません。
海からすぐに、何千メートルもの高さの崖。あらゆる川は河口からさかのぼるとすぐ滝。ドラゴンクエスト2のひたすら上陸を許さぬロンダルキア南、また多くの作品にある浅瀬で船が入れぬよう封じられた地域のように。
あ、サハラ以北の地中海岸、特にエジプトは全く別です。エジプトというチート地域はもとより最古の文明、カルタゴもローマのライバル。アトラス山脈の雪水が砂漠を豊かに潤し、古代ローマ帝国の重要な一部であり、遊牧でも灌漑農業でも十分な文明を持っていました。
航行可能河川の問題は、実は中南米も支配しています。道路も含めて。
中南米の、特にスペインが支配した地域も、有能な航行可能河川が恐ろしいほどありません。スペイン人が無関心だった、むしろ反乱などを恐れて交通を抑圧したこともありますが、今も極端に道が悪い。
昔から、人が背に荷を負って山道を運ぶという地獄絵図がずっと続いています。それでは効率のいい大工業国家など不可能です。
航行可能河川が特に多いのは、イギリス。
それこそが、イギリスが産業革命を起こして歴史の勝者となった大きな理由ともいわれています。多くの、脇に道路があって馬で船を引く運河を追加することで力はさらに増しました。膨大な水車も作られました。
イギリスの航行可能河川は、良質の炭田に直結してもいるのです。中国がそうでなかったことが、大きな差を作った、と。
反面、スペインも航行可能河川が恐ろしいほど乏しい。さらにレコンキスタ後のカソリック・スペイン帝国は、教会が運河を掘ることに許可を出さなかったそうです。神が望むのならばそこは元から川だったろう、と。
フランスやドイツもそれなりに航行可能河川がありました。ただしライン川などは無数の泥棒男爵……川べりの岩山の上に美しい城を作って通行税を取る小領主に分割されていたそうです。
中国には黄河・長江があります。その間の中原全体が実は無数の水路で結ばれており、結果的に中国は極端に統一しやすい土地となりました。
そして大運河ができた時、中国の生産力は爆発的に大きくなったのです。
反面、沿岸自体が短く、鑑真をはじめとする遣唐使の苦闘、元寇の失敗を見るように、海はすごく悪かったようです。
日本も航行可能河川は少なくないですが、列島自体がごく若い火山島。海からそそり立ったばかりの、歳月で削られていない鋭く急な山々。
ヨーロッパの人が「これは川ではない、滝だ」というほどの急流。
また、関東などの多くは昔は一面の湿地で、川と湿地と湖の区別もつかない。
琵琶湖、また織田信長の躍進を支えた津島、信長と戦い抜いた一向宗を支えた長島や石山(大阪)など、優れた航行可能河川は古くから多くの富を作り出しました。
北アメリカも、ミシシッピという世界最大級の航行可能河川があります。それと蒸気船が組み合わさったときに巨大すぎる大地が膨大な利益を生み出しました。
また、五大湖からニューヨークに至る水系も多くの航行可能河川があり、運河となったときにアメリカの巨富そのものを作り出しました。
ロシアの広すぎる大地。多くの川が北極や黒海に流れています。
それは冬季には固く凍結し、ソリでの運輸が正解になります。
それ以外の、多くの季節では大地の多くは地獄のぬかるみとなり、ナポレオンとヒトラーを無惨に撃退しました。シベリア横断鉄道の工事はすさまじい地獄となりました。
氷と航行可能河川による一体性と、季節によっては徹底的にバラバラになること。それがロシアの国民性、歴史そのものを作っていると言えるでしょう。
海が素晴らしいのはインド洋。海流と風の規則性が高く、正しく法則をつかめば膨大な交易が可能でした。地中海も時々危険な季節風はありますが、沿岸航海で容易に利益を得られます。
北海および北大西洋も莫大な漁獲資源がありました。北海は膨大な木材資源を消費地に運ぶ役割もあります。
西洋文明が船と航海術=天文学を改良し続け、商売を続けながら豊かに暮らすことを生み出しました。船と天文学を進歩させ続けたからこそ、歴史の勝者となったのです。
サハラ以南のアフリカを支配する地理と病気の組み合わせは、アフリカに別の制限もつけています。
単純に……牛・馬が生きられない。特殊なハエが媒介する伝染病。それはイスラム帝国すらも阻んだと言われるほどです。
そして密林も、牛馬による交通を強く阻害します。
えげつないまでに、交通が不便。ほとんど物を運ぶことができない。軍隊が移動することができない。
それが、大規模な統一帝国を作ること、灌漑によって支配される大帝国、草原を走る遊牧民帝国などを不可能にした。
古代から、工業にとっても商業にとってもどうしようもない障害になった。農業にも。……腐る前に大量の穀物を運べなければ、農業の価値の質は大きく変わる。幸か不幸か、いや叫びたいほど不幸にも、ゴムやカカオやアブラヤシはいろいろと別でしたが……
さらに上述のように、人も熱帯伝染病が猛烈な攻撃をしてきます。だから新大陸を征服したスペインやイギリスも、長く暗黒大陸と呼んで奴隷取引だけに甘んじていました。伝染病が克服されるまでは。
その伝染病は、当然現地の人が帝国を作り強くなることも阻害しました。
規範の檻、これは『自由の命運』で詳しく語られました。
多くの研究で、人類はずっと昔の農耕以前、百人前後の狩猟採集群れで移動生活していた時にはかなり平等だったようです。平等になりたがる心も間違いなくあります。
その平等は、悪い面もあります。出る杭を打つ。妬み。
大きい獲物を狩ってきた人は強く尊敬されます。厄介な病気の治療法を見つけたり、とても収量の大きい作物を手に入れたりした人も、剣を打つ名人も、本来なら多くの尊敬と富を集めることができるでしょう。
それを抑える。
要するに魔女狩りと、いじめと、村八分。
呪術医が、魔術の言葉を使ってとても遠回しに、「お前調子に乗ってんじゃねーよ」という。あるいは家にちょっと泥をかけたりする……「空気読め」というメッセージ。
それをされた、強い人はみんなにごちそうする。貧しくなるまで。そうしないと村八分、最悪は村全体で一家ごと焼き殺される。
王が出ないように。国家ができないように。リヴァイアサンが生まれないように。
だからこそ、アフリカの奴隷輸出国はいつまでも弱い。今も弱い、国家がない。
さらにアフリカは、製鉄法自体が違ったそうです。
日本は、日本刀がありました。生産量は鉄鉱石をコークスで精錬する昔の中国に比べても恐ろしく少ない。木炭で砂鉄を焼くのですから。
しかし、恐ろしく質がいい鋼鉄。炭素量がちょうどいい……多すぎてもろい鋳鉄でもないし、少なすぎて柔らかい軟鉄でもない。硫黄や燐もすごく少ない。
室町~明の時代には、日本から中国への重要な輸出品でもあったそうです。
鋭い刀、それは爆発に耐える銃身にもなりました。
アフリカの製鉄法は、日本とはまったく違い鋼鉄ではなく、奴隷や黄金とひきかえにヨーロッパから買ったマスケット銃=火縄銃を自分で生産するには適していなかったそうです。
筆者はたまたまアフリカについて読んだだけで他は知らないのですが、中国・中東・インド、それぞれ古代の製鉄方法や、銅と、銅合金に必要な錫や亜鉛の分布が違うことも、どの程度銃砲を作ることが得意かを左右したのかもしれません。
それら……地理、精神構造、技術などすべてが、アフリカを呪ったとしか言いようがないようです。
強くなる、銃をリバースエンジニアリングして作り、法を作り自分も守り家族でも法を破れば斬るようにするより、奴隷を集めて売る方が儲かる構造。アフリカにも英雄の資質がある人は何人も生まれたでしょうが、その誰もが、その「構造」を理解し変えることはできないほど、その「構造」は強かった。