宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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世界・暦・地図

 世界の全体像に対する関心。天文に対する関心。

 それは科学の入り口であり、生きるために絶対必要でもあります。

 始皇帝の焚書坑儒も、医・占い・農の本は除外されました。それを奪えば人が生きられないからです。たとえば無人島で星占いの本があれば、星座から季節がわかるので農・狩・漁すべてに有利でしょう。農業が尊いというか農業以外は許さない秦帝国だからこそ、占いは一つ一つの村が知っていることが必要だったのです。

 

 また、世界全体に対する関心の有無……それは近代の入り口で、様々な文明の盛衰を決めたと言ってもいいでしょう。

 ムガル帝国やイスラム帝国は、インド洋でポルトガル商人が暴れていることに鈍感だったからこそ敗れました。一度連合軍を作って攻めようという計画はありましたが、タイミングが合わず失敗したそうです。交通・情報、また統治や外国を扱う思想など多くの問題が出てきます。

 明清も、西洋という蛮族に無関心だったからこそ、手遅れになり敗れました。

 逆に日本は、ある程度世界について関心を持つ人もいたし、関心を持つなという権力もそれが全部ではなかった、抑圧しきれなかったからこそ何とか間に合ったと言えます。

 ロシアも、本質的に鎖国が不可能だったから助かったともいえます。ロシアにとっては、ロシアを中東やヨーロッパから切り離す峻厳な山脈や地中海・ドーバー海峡のような水濠は何より欲しいでしょうが、それがあったらあったで西洋化できず敗者となった可能性も大きいのです。

 

 世界。世界の地図。天文。さらに宇宙観。

 それは宇宙戦艦作品の各国も大きく支配しています。

 

 

 天文台の重要性は上述です。『宇宙戦争』『宇宙戦艦ヤマト2/さらば』『タイラー』『三体』など、また技術水準が低くても『コンタクト』をはじめ多くの映画で、天文台から話が動きます。

 

 そして中国もイスラムも、天文台・天文時計を破壊したこと、それが文明全体での衰退の始まりとなったと言ってもいいでしょう。

 唯一ヨーロッパは、北海の貿易や水産が常に儲かったこともあり航海術・天文学を高め続け、その結果新大陸を発見したこともあり、文明の勝者ともなりました。

 

 同じような葛藤は『現実』のどの文明にもあったでしょう。また宇宙戦艦作品でも。

 

 

 暦そのもの、何暦を使うか、それをどう計算するか、それ自体がとてつもなく重要なことです。

 暦は大魔術でもあります。究極的には日食月食を予言するというとんでもない予言でもあります。『ソロモン王の洞窟』で、天文ノートを持っていた西洋人が、日食の予知で神と認められたように。『天地明察』で当時の朝廷が使った暦が日食を予言できなくなった不満が改暦のきっかけとなり、また最初の試みが予言を外したことがあるように。

 特に古代では日食月食だけで戦争の帰趨が変わった話があるほど、天文の影響力は巨大でした。

 普段の生活でも、特に太陰暦の月齢は、潮汐に密接に関わります。船を扱う人にとって潮の満ち引きを知ることはまさに死活……浅くなったら船底に届き座礁全滅になる暗礁もどこにでもあるでしょうし、潮が引く力で出港することも常です。だからこそ新聞の天気欄でもラジオの天気でも、毎日月齢もあるのです。月で夜が明るいかどうか、それだけでも街灯がない時代には、旅ができるかどうか、山賊にとっては襲いやすいかどうかを大きく左右するでしょう。

 

 現実に西暦は西洋文明、キリスト教中心の世界そのものでもあります。復活祭という重要な祝日があり、それを正しく定め、世界のどこでも同じ日に祝えるようにするため、常に難しい計算が必要になります。ヨーロッパキリスト教文明が天文学や数学を否定せず、科学水準が高かった、ひいては文明競争の勝者となった大きい理由の一つとも言えます。聖職者という高度な学問を持つ階級に膨大な富を集約し続け、独立に研究教育を続けることも必要としました。

 イスラム教のヒジュラ暦は、完全太陰暦を選ぶことにより、聖職者階級がないにもかかわらず広大な領域で暦を一致させ、しかも潮汐がわかりやすいため交易にも都合がいいという離れ業に成功しました。ただしそれは科学水準が低いままでも機能してしまうため、科学水準の衰えにもつながりました。一年の長さが太陽暦と違うというのも、西暦世界と接触し続けるなら大きなデメリットとなります。

 中国は暦計算を皇帝スタッフが独占し、宗教に決して譲らなかったことで、宗教団体が独自の法と経済を持つ集団となることが抑えられ、結果的に法の支配がある社会を作らせませんでした。中国は宗教性が薄めであるわりに、天という非人格神が皇帝と直結しているという奇妙な、支配魔術制度でもあるからこそです。日本もですが、元号という時間支配システムも大きい発明でした。

 江戸時代の日本には、客観的に見て相当正確な暦や地図を作る能力がありました。独自に発達した数学などが、それなりに優れていたということです。それが、明治維新後の日本の成功と関係していないでしょうか?

 

『現実』のいくつもの古代帝国においても、それぞれの暦、それを支える天文学が極めて重要でした。

 古代エジプトは、ナイル河の洪水に依存していました。沃土に埋もれた畑が誰のものか決めなおすための幾何学に並び、いつ洪水が始まり終わるかを決める暦も重視され、高度に発達しました。それはピラミッドの内部の天文学知識、アレクサンダー以後ですが地球の大きさをうまく測るなど高度な天文学とも直結しています。

 バビロニアも天文学に優れ、60進法や黄道十二宮などは現代の、占星術のみならず天文・暦そのものを強く支配しています。

 ユダヤ教からキリスト教に、七日に一日の安息日が受け継がれ、それも近代西洋に継がれて現代の人々の生活をとてつもない強さで支配しています。それこそ、西洋文明の支配の歴史を見るには、世界各地での七日周期暦生活こそ法や洋服、鉄道と同じようにいい観測点になるのでは。

 コロンブス以前中南米も、極めて高い天文・暦がありました。ただ、それは科学技術・戦闘力には結びつかず滅ぼされましたが。コークス製鉄で栄えた南宋がモンゴルに滅ぼされたように、科学水準が必ずしも戦闘力に結びつかないことも歴史では多くあります。

 

 暦には多様な宣言・メッセージ・権力の意味もあります。

 人間を支配するフィクション=物語、アイデンティティ=自分が何か、どの群れに属するか……それと暦が深くつながるため、支配の方法としてもきわめて重要なものです。

 祝日もそれに強くかかわります。例えば戦後日本では、建国記念の日を祝日にという激しい運動があり、それが右翼・保守派を運動集団として鍛え上げ、近年の勝利にも結びついています。現在も「昭和天皇の天皇誕生日」が「みどりの日」から「昭和の日」となるなど、保守勢力の強さをアピールし続け、生物にエサを与え続けて生かすように右派運動を生かし強めています。

 征服者の暦を使わないこと、それ自体が抵抗のシンボルにもなります。あるキリスト教系私立校では、建国記念日は休みとしません。受験で休みですが。

 民間と政府で違う暦が使われることも多くあり、それはその社会が統合されていないことを強く示します。

それこそ『現実』の日本でも、今も元号と西暦の争いは激しいものです。まして軍国主義が強まってから敗戦までは元号・西暦・皇起も、内戦よりひどい争いがあったでしょう。

『現実』の近代でも、フランス革命は以前より全く違う世界だ、というためもあり、革命暦を作りました。そちらは大失敗でしたがメートル法は成功した、というのが興味深いところです。

 ソ連も暦を作ったそうでしたが、うまくいかなかったようです。

 イランも、オスマントルコとは違う独自の文明だというアイデンティティとイラン暦が結びついており、イスラム原理主義の革命後イランさえヒジュラ暦ではなくイラン暦を用いています。

 他にもインド国定暦、北朝鮮の主体暦などもあり、多くの独立運動・民族運動・革命などと暦は結びついています。

 日本の明治政府がグレゴリウス暦を採用した、それ自体が西洋文明に両足とも移すという強い宣言でもありました。

 日本でも中国でも、旧暦、旧正月や旧盆は面倒な問題をいまだに作っています。

『天地明察』では、江戸日本の武家が正しい暦を作る、その重要性が様々な方向から描かれています。

 暦を作る能力を失い、元朝であるだけで不吉と否定するほど遅れた朝廷。中国の権威からの離脱。キリスト教と関係しかねないため禁断知識である西洋天文学も使う武家の主人公。

 天を支配する権利を、朝廷から武家に移すことの恐ろしさ……最悪不倶戴天の全面戦争、また莫大な金、巨大な利権にもなる。膨大な和算の知識と、知識の権利、前進を望む人と嫉妬し非難する人。知そのものを否定する武士道。林羅山や新井白石など幕府側知識人が西洋の科学に触れたときの反応も思い出されることです。

 主人公が前半生に積み重ねた、無論暦作りにも必須だった業績に全国を歩いての天文観測自体、地図作りとも直結していますし、日本独自の占星術の構築もありました。

 

『銀河英雄伝説』では宇宙暦、帝国暦、新帝国暦と多様な暦・年号があり、それ自体がそれぞれの国のアイデンティティを強く作っています。

 帝国暦自体が、以前とは別の世界、秩序なのだという宣告でもあります。新帝国歴も同様のメッセージです。同盟も帝国に対するアンチテーゼとして宇宙歴を続けています。ルドルフの誕生日など多くの祝日がそれぞれの国にあります。

 また、さまざまな惑星に住む人類にとって、地球の西暦由来の生活が非常に不便になることも語られています。その星の自転周期が24時間より大幅に長かったり短かったりしたらどうするんだ、と。西暦由来にしてもその星に合わせても大きな支障があるのです。

『スターウォーズ』のパルパティーン帝国では、帝国の日という祝日があります。もちろん帝国の暦も。ヤヴィンの戦いを原点とするBBY/ABYすら使われているようです。

 

 また人類の宇宙進出、それ自体を新暦・年号とする作品も膨大です。

『ガンダム』は宇宙世紀、CE(コズミック・イラ)など歴史時空を別にするシリーズごとに暦・年号があり、それこそ暦の名で時空を指定することすらできます。また、年表を作り歴史を創作し、ファンの想像も組み入れて年表の穴を埋めていくという技法それ自体が、ガンダムシリーズのヒットにつながる重要な要素だったとも言われます。

『スーパーロボット大戦OG』も新西暦を用いています。

 核戦争などの過去がある諸作品も、多くは新しい暦・年号を用いています。それこそ膨大すぎてすぐには調べられない。もう何年もかけて、あらゆるSF・SFアニメを見返して調べ直すべき話です。

『三体シリーズ』も、危機紀元、抑止紀元……といくつもの暦・年号で時代を区分しています。

 印象が強いのが、『すばらしい新世界(ハックスリー)』のフォード暦です。フォーディズムこそが、要するに第二次大戦以降の時代の中核であることを見事に洞察した、と。

 

 それこそ、あらゆるSF・SF映画ドラマ・SFアニメの「暦・年号」全部集めて、それだけで一冊の本は余裕で作れるでしょう。

 

 

 

 考えてみれば、宇宙SFの相当部分の目的は探検・探索です。

 

『マップス』はタイトル通り、まさに地図が核心にあります。地図が記された石を手に入れ、地図をたどって世界を知るための旅に出る、と。

『宝島(スティブンソン)』など、宝の地図に関する無数の作品にも通じます。『無限航路』もそれに入るでしょう。

『機動戦士ガンダムUC』は、ラプラスの箱という宝の地図に向けた案内にそって話が進みます。

 

 大航海時代、あるいは近代もかなり時間が経ってからのある時代の最高峰登山・南北極探査・初期の飛行機など冒険の流行もふまえています。グレートゲームやアフリカ探検も多くの人が熱狂したコンテンツでもありました。それら冒険・探検の小説はそのまま、多くのSFに書き換えられていると言ってもいいでしょう。

 イギリスの、探検・冒険好きが、英米の繁栄によってそのまま全世界に移植されたこともあるでしょう。

 

 そのもっと以前に、エンリケ航海王子がアフリカをめぐるというビジョンを持ち多くの事業を行ったこと、それがヨーロッパ全体に広がり受け継がれ、世界地図を作り世界を支配する執念というべきものとなったと言っていいでしょう。

「近代」それ自体が、全世界を探検し、測量し、地図を作り、征服し、先住民を絶滅させあるいは奴隷化し改宗させ、土地と鉱山を奪い開発する、という強烈な使命感に突き動かされた営みでした。

 

 世界全体をとらえる、地図を作る、というのが重要な目的になるのです。侵略の第一歩としても。

 

『スタートレック』の冒頭のナレーション「宇宙、それは最後のフロンティア……」も、まさに宇宙を探索し、新しい生物や文明を知るための任務であることを強調しています。

 なぜそれを求めるのか。

 測量、生物調査などは高い科学能力が必要な知的な仕事でもあります。

 平和な時代でしたが、ダーウィンが南米大陸を旅し多くの生物・人類についての知識を得たビーグル号は英国海軍の艦であり、その旅と調査自体が英国海軍の任務でもありました。

『宇宙船ビーグル号(ヴォクト)』はまさに古典の一つです。

『ヴォルコシガン・サガ』のコーデリアは、バラヤーに嫁ぐまでは先進星の調査船船長でした。それはとてつもなく高い知性を必要とする難関資格であり、遺伝子工学の天才でも、自分では夢に見ることもできないと深く尊敬しました。

『宇宙戦艦ヤマト』の沖田艦長は優れた科学者でもあります。それも必要とされるのです。

 ほかにも『砂漠の惑星(レム)』など調査要素が高い艦船の艦長は高い知性も必要とされます。

 もちろんスタートレック歴代シリーズの艦長や上級士官も、皆優れた科学者でもあるのです。

 

『星界シリーズ』ではごく自然に、新しい星の発見はそのまま征服です。

『叛逆航路シリーズ』でも過去のラドチ帝国はあらゆる人類文明を、膨大な暴力で併合してきました。

『宇宙嵐のかなた』でも、発見即征服となるのは当然のことです。

 逆に、征服されたくなければこちらから探査し続けなければならない、敵を知らなければならない、という道理をきちんと守っている作品世界は少ないものです。

『航空宇宙軍史』の全体のテーマに「終わりなき索敵」があります。敵を見つける、それ自体が文明の目的となっている……だからこそ……

 

 戦略的に、敵の向こうに味方を求めるという動きもあります。

 大航海時代の大きな動機は、プレスター・ジョン伝説……中東を支配しヨーロッパに敵対する強すぎるイスラム教帝国、その向こう側に、キリスト教を信じヨーロッパの味方になってくれる勢力がある、ということを頼みにしてでした。

 中国でも、漢が西の草原から攻める匈奴と戦うため、張騫(ちょうけん)らをその向こうに使いとして出し、より広い世界の地理について多くの情報を得ました。

 中国ではほかにも、たとえば不老不死の薬を求めるなどであちこちを探索することはあります。また仏教との接触後、本場で学び経典を得るために多くの僧がインドに赴きました。

『彷徨える艦隊』では結果的にですが、敵対的種族の向こう側で友好的種族と接することができました。

『時空大戦』でも遠くの味方との接触に成功しています。

 援軍を求める旅は『反逆者の月』にもあります。

 

 結果論ですが、『ヤマト3』では第二の地球を探す旅で、ヤマトはボラー連邦、ガルマン・ガミラス帝国という銀河全体の情勢を知り、外交によって勝利を得ました。その外交上の貯金は完結編でも勝利につながっています。

 

 地形面、また大きな利益を求めることもあります。

『現実』では、テラー号など大きな犠牲を出しつつ北西航路、アメリカ大陸を北に迂回するアジアへの近道が模索されました。

『銀河英雄伝説』の自由惑星同盟の発祥、アーレ・ハイネセンらの超光速船団が前人未到の宇宙を多くの犠牲を出しながら旅し、ついにイゼルローン回廊を突破して新宙域を見出したことも重大な探索です。

 フェザーン回廊を発見し宇宙を裏から支配した地球教の執念、またフェザーンは第三回廊探索を妨害し続けたともいわれます。

 それこそ『現実』では、黄金目当て、黄金境エル・ドラードを求めて多くのコンキスタドールが様々な冒険と蛮行を繰り広げたものです。それをそのままなぞるようなSFも少なくありません。

 

 前述のように『宇宙戦艦ヤマト』、『ファウンデーション』の公式続編、『ギャラクティカ(旧、リ・イマジン双方)』『スタートレック・ボイジャー』など主要宇宙SFの多くで、目的を果たすために前人未到の宇宙に行く、何かを探す、というそれ自体が重大な任務となります。

『スタートレック・ボイジャー』のように付随的であっても、宇宙の地図を作ることそれ自体が大きな功績となるでしょう。

『彷徨える艦隊』の、ギアリー艦隊の最初の帰還旅自体、艦隊を守りキーを持ち帰るだけでなく、シンディック深部の探査も功績の重要な部分です。現に深部の放棄された基地を調査したことから、異星人の存在という重大な情報をつかみました。のちには未踏の異星人宙域を探査する任務もありました。

 地図を作る、ということはそれ自体が侵略でもあります。

 江戸時代の日本は、日本地図が外国に渡れば侵略しやすくなる、とシーボルト事件で多くの人を罰しました。

 また幕末の、西洋の艦船は次々と、日本の港を測量しました。同じことを別の国にされたら人口密集地を砲撃されるのと同じぐらい戦争になるでしょう。

 

 昔の超文明があるタイプの多くのSFでも、その遺跡の探査、優れた技術や宝物を得たいと危険な旅に行きます。

『リングワールド』はまさしく、とんでもない遺跡の探査そのものです。

『海軍士官クリス・ロングナイフ』でも昔の種族の大きな遺跡の発見があり、それを奪おうとする勢力との戦争もありました。

 ほかにも『クラッシャージョウ』『啓示空間』など、古代超文明の遺跡を求める冒険は無数にあります。

 

 逆に探索・探検、ひいては世界全体を見ることを軽視する文明も『現実』の歴史に多く見られます。

 自己満足。外の世界について知りたいとも思わない。自分たちの帝国だけが世界全体となっている。

 特に近代において、イスラム・中国・インドなどが世界情勢に無関心を続け、そのまま敗者となったとされています。特にイスラム圏で、西洋の本が翻訳されることがほとんどなかったことが強く批判されています。

『三体』の地球も、暗黒森林や暗黒の戦いもあり、逃亡主義に対する精神闘争が激しかったこともあり、外の世界に関心を持とうとしない傾向がとても強かったものです。

『ヤマト2/さらば』の地球も姿勢として閉じられていました。

 

 世界を知りたいかどうか、それは文明自体の態度そのものであり、そのまま存亡につながります。

 

 

 地図を考えるには、座標系という考えも重要になります。

 むしろ、布に地図を書いたあらゆる文明が、デカルト座標の考えに至らなかったことが不思議なのです。布に書いた地図と、数字二つを別に送れば強力な暗号になるはずなのに。

 

 座標に至らなくても、要するに自動車の右側通行・左側通行の海版、宇宙版も実際的には重要でしょう。

『彷徨える艦隊』では恒星の公転面で、「スターワード」という座標系を恒星ごとにつくります。それがなければ艦隊に簡潔に命令することが不可能です。恒星のない場に行くことがない超光速方式だからでもあります。

『タイラー』で、宇宙ヨットに乗ったタイラーが巨大戦艦信濃に「スターボー!」(こちらが優先だから道を譲れ)と叫んだシーンも印象的です。海を知る者にとってスターボード優先という常識があるからこそ。ポートとスターボード、昔の、船尾舵以前の舵櫂の時代からの海上交通ルールが宇宙にも使われている。まあ『ヤマト2』で、アンドロメダに押しやられたシーン……

 多くの、技術水準が高い作品では光の線を用いた宇宙艦船の誘導があります。

『さよなら銀河鉄道999』では、999号が優先される車両のため待避線に入れと命令され、それを屈辱だと車掌が悔しがります。

 

 別の文明と接触し、交易し、征服などで統合されたときには、その交通ルールがどれほどの混乱になる事か。

『銀河英雄伝説』の帝国と同盟で、沖縄で右側通行から左側通行になるような混乱はなかったでしょうか?

 

 

 宇宙観、宇宙そのものをどんなものと理解するか……

『三体シリーズ』の暗黒森林説、それ自体がとても大きな宇宙観です。さらにいくつかの、次元が崩壊した痕跡などの補強証拠や、意味が見えにくいコンスタンティノープル陥落の話も、より大きなものを示唆します。

『クラッシャージョウ』では、宇宙に知的生命体は一つしか存在できない、われわれは孤独なんだ、という恐ろしい説が出てきます。

『銀河鉄道999』でもメーテルは、別の生命が出会ったらどちらかの絶滅しかない、と恐ろしいことを教えます。

 

 世界をどのようなものと理解するか。それも個人だけでなく、政府全体の方針、具体的な予算や任務としていくらお金や人材を出すか。

『宇宙のランデブー』で、イタリアが大型隕石で大被害を受けたからこそ天文台に予算を出し、それが大発見につながったように。

 方針決定に入る、宗教的な感情や希望的観測、文明の毒である傲慢と自己満足、道徳感情による汚染。『三体シリーズ』で、逃亡主義を否定するあまり自滅したように。

 

 さらに、最悪の事態を考えれば『新スタートレック』の「超時空惑星カターン」……滅亡が不可避で文化・遺伝子のサンプルを打ち上げるくらいしかできることがない、すら『現実』もどの作品文明も他人事ではありえないのに。

『三体3』では、逃亡主義に対する反発から、宇宙に地球人の文化・遺伝子サンプルを打ち上げることすら反対され、ルオ・ジーが力を尽くして多くの文化財を冥王星に所蔵し、さらに「石に刻む」という何億年の年月に耐える唯一の方法も見出しました。

『反逆者の月』では、シールドを応用したコンピュータは、伝染病による生物全滅から数万年の歳月でことごとくデータごと消えていました。

 

 そのさらに先には、まともな技術水準では何をしても無駄な、宇宙全体の滅亡すらある……

 

 宇宙、生命とは何なのか、どれだけ人は知りたいのか、あるいは知りたくないのか。

 どんな必要があれば知ろうとするのか。そのために何をするか。

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