古代文明がどんな資材を使えるか。
それは意外なほど歴史を動かします。
それこそ、時代区分自体が石器時代・青銅器時代・鉄器時代、となります。古いかもしれませんが。
どこにでもある、ただし良質な刃になる黒曜石などは比較的産出が限られ交易が必要な石器。
銅そのものも少ないし、使いやすくするためには青銅にする=錫が必要、その錫が極端に限られるためどうしても高価・貴族用になる青銅。
そして、技術さえ知ってしまえばどこにでもある、民が武装できる時代につながる鉄。
意外なことに、「ノコギリ」という単純な道具も世界を大きく変えたものです。
薄く弾力のあるノコギリがない時代では、木の板を手に入れる方法は、アウトドアで最近よく聞くバトニング・斧を用いる薪割りの延長です。丸太を立てて小さい切れ目を入れ、クサビを差し込んで、そのクサビを叩き込んで割っていく。
それで得られる板は、中心を通る小さい角度の扇形となります。
ノコギリとは微妙に性質が違い、優れた面もあるのですが、どうしても広く自由な形の板を手に入れるには適しません。
板がないと、大量の穀物を積むような船を作れないのです。大きい丸木舟は、生育に何百年もかかる巨木が尽きたらもう作れません。
そして大量の穀物の水運があるとないとでは、文明の質が決定的に異なってしまうのです。
水運でなければ大量に運ぶことはできず、遠隔地から適切に税を取ることができません。多少の貴重品が運べてもそれだけの文明と、大量の穀物を運べる文明は質が違います。
多くの細い竹ひごのようなものを編んで巨大な籠を作り、それを皮のような素材で覆うか、あるいは特殊なタールのようなもので防水するかして巨大船、ができるような、質と量の素材は現実の地球人には与えられていません。一人が乗るような小規模な舟なら、細い木と皮、布とタール、葦などで原始的民族が使うものは結構あるのですが。
それも逆説的な制限なのです。
人類に与えられている素材は何か。その文明で与えられている素材、作物、家畜は何か。その違いがあるからこそ、文化の多様性というものもあるわけです。
SFであれば、その違いがあらゆる作品の社会構造その他すべてを支配していると言っていいでしょう。上述した、物理法則自体が『三体シリーズ』の暗黒森林を作っている、のように。
車、特に大型家畜が引く車も世界を変えたことが知られています。
それには、軸受けという技術、そのための金属加工なども必須になります。
それら、加工技術そのものも本来は非常に重要なのですが……やはり宇宙戦艦作品では一般に、工場の描写は少ないものです。
宇宙戦艦作品では、装甲材という形で素材が重要になります。
ある程度上述ですが『銀河英雄伝説』では、アーレ・ハイネセンがドライアイスの船を思いつくまで、船体素材がないことが流刑星からの脱出を防止していました。
史実で、竜骨やマストに用いる巨木が制約になったことを思い出します。特に西洋の造船では、外洋の波に耐える代わりに大きい木が必要とされました。ついでに言えば、適切な曲がりを持つオーク材も。
多くの巨木が切り倒されると、適した材がなくなり巨大で丈夫な船を作れなくなって、航海ができなくなります。
それを救ったのがアメリカ大陸という大量の巨木がある大地であり、また北欧の巨大森林でもありました。
木材枯渇は多くの文明にとって致命的です。
中東は船材として活躍したレバノン杉が尽きると、特にメソポタミアは極端に木材に乏しい地域でした。
中国でも、膨大な木材が長い文明で消費し尽くされ、昔は澄んでいた黄河が黄色く土砂を含む暴れ川となり、今は海に達することもなくなったそうです。中国での木材消費では、先祖や親の葬式で大量の木材を消費することも大きかったそうです。だからこそ過剰な葬儀をするなという墨子も受け入れられたのです。
また、木材資源は燃料でもあります。それがなければ製鉄もできません。
旧約聖書でバベルの塔を作り出したのは、「レンガをつくってよく焼こう」、木材を消費する焼きレンガと自噴石油からできる天然アスファルトでした。
アメリカ合衆国ではかなり遅くまで木炭製鉄が続きました。コークスでも石炭は不純物が残るので、木炭が使えればそれにこしたことはないのです。
ちなみに、昔の日本でも西洋でも、近代の大規模コークス製鉄までは、製鉄は森の中で比較的小規模な施設を作り、周辺の木材を消費して製鉄して、職人集団が移動するものでした。
その過程で、特に山を崩し水でより分けて鉱を得る場合には農地に汚泥を流して破壊することになり、軋轢にもなりました。
製塩も日本ではいくつもの山を持ち、一つをはげ山にしては別の山に、という商売だったそうです。
金属素材・道具の進歩は、武器だけでなく木を切り倒す能力も高め……石斧から金属斧、ノコギリ、運搬用の家畜と鎖、チェーンソーとトラックの組……密林を切り開いて農地にする力にもなります。やりすぎると砂漠になりますが。
また大型家畜にひかせる鋤という強大な農具にもなり、莫大な農業生産性ももたらします。これまた砂漠になりやすい技術ですが。
あらゆる文明の崩壊、覇権の変遷に木材の枯渇は、農地の塩害や港湾が砂に埋もれること、伝染病や騎馬民族と並び、常に大きい要素となっています。
西洋文明の強さの一つに、鋼鉄による船があります。装甲として以上に、単純に重量当たりの強度が高いことや、西洋式の竜骨がある構造を木材で作ると大きさの限界がある、その限界以上を鋼鉄なら出せるのでより大きい船を作れることもあります。
『宇宙戦艦ヤマト』も、強化テクタイトなどの装甲素材の強さが言われます。
アンドロメダなどの少人数艦に比べ、重装甲多人数のヤマトはダメージコントロールに優れ、それゆえに戦いに生き残ったということもあります。
重装甲艦が、古いけれどだからこそ有利になるのは『女王陛下の航宙艦』などにもあります。
特に印象が強い装甲は『リングワールド』の「ゼネラル・プロダクツ製」です。
『銀河英雄伝説』のイゼルローン要塞は超硬スチール、炭素クリスタルなどの積層であらゆる攻撃に耐えます。
『ローダン』のアルコン鋼、特殊なべトン=コンクリートなども。
『真紅の戦場』でもプラスチールなどがあります。
面白い装甲が『海軍士官クリス・ロングナイフ』に二つあります。ひとつはプログラム通り自由に変形するスマートメタルで、普段は薄く広い船内、戦闘時は船が小さくなって狭くなるかわりに防御が厚い、ということもできます。もう一つは氷装甲で、水の補給にもなります。技術水準が低いともいえます。
装甲材の優位が大きいのがガンダムシリーズです。宇宙世紀のルナチタニウム・ガンダリウム合金など、顕著に実在より強い装甲材があり、試作機と量産機を分けるものでもあります。ガンダムの強さは、ファーストの冒頭でザクマシンガンの直撃に耐えたように、異様なほど堅固な装甲にもあるのです。
またスーパーロボットは、『マジンガーZ』のZ合金など、特別な素材が話の中心となることも多くあります。だからこそ筆者は民生化して文明水準上げろとよく思うのですが。
現実の、既知の物理学で存在できる以上の素材がなければ、とても戦艦でもロボットアニメでもやっていけないものがあるのです。
また、現実に近い水準の人が見たときに顕著に技術水準が高い、と感じさせる、そのために現実以上の素材を用意することも多いでしょう。特に簡単に透明化する壁などはその印象を強めます。
本当の問題は生産性なのですが、それは不思議と重視されません。
装甲の外側としてバリア、シールドも常に重要になります。大抵の作品にはそれが出てきます。
それこそスーパーロボット系の、ドーム状に基地を覆い、限度を超えたらガラスのように割れるバリア。
バリアをある意味素材として工夫したのが『レンズマン』のQ砲です。
『反逆者の月』ではシールドを素材としたコンピュータが普及したため、人類が全滅し管理者がいなくなると多くの情報が失われました。
『ローダン』のH【Uウムラウト】、パラトロンなどさまざまなバリア、七銀河公会議などの圧倒的な防御は、それこそスペインの中南米征服やアヘン戦争のように、圧倒的な技術差を強調します。
『ヤマト』の白色彗星も同様です。
『三体シリーズ』の水滴も、圧倒的な硬さと攻撃力で地球艦隊を蹂躙しました。それがトラウマとなり、地球人そのものが内向きとなったことが後の自滅にもつながりました……その経験・犠牲を正しく生かすことができなかったのです。
『エンダー』も最初のバガー戦役では、上述のようにシールドで核兵器が封じられたことで地球人は滅亡寸前になりました。
『ガンダム』でもIフィールド、ビームシールドなど盾の側も強化されていきます。
『マクロス』ではピンポイントバリアという独特の防御が映像面で印象深い演出となりました。
『スターウォーズ』でも第二デス・スターのシールドをめぐる攻防が戦いの中心になりました。
『スタートレック』ではシールドを破るための戦術が高度に発達しています。ボーグキューブの圧倒的な強さはシールドの強度にもあります。
『ヴォルコシガン・サガ』は防御が発達しすぎ、レーザーもミサイルも役に立たず、小型化できず射程が短い重力内破槍しか役に立たないので肉薄白兵戦が多くなります。
『叛逆航路』シリーズは、人が隠し持てるサイズの先進異星人が作った銃が、1.11メートルなんでも貫通できる、それだけで巨艦のエンジンのシールドを破って巨艦を花火に変えます。だからこそ皇帝は星系を皆殺しにし、ブレクはその銃さえ手に入れればと長い放浪に耐えます。
『タイラー』では多数の艦が密集してバリアを重ね合うバルバロイ戦法が、惑星破壊級の無限粒子砲も通用しない無敵の強さを誇りました。……ある方法以外では。
リアル系の印象が強い『銀河英雄伝説』も中和フィールド、『彷徨える艦隊』もシールドがあり、その限界が戦いを作ります。
『目覚めたら~』の散弾砲や対艦ミサイルなどはシールドを貫通できることが強みです。
『スーパーロボットOG』は多彩なバリアと貫通武器があります。原作となる「スーパーロボット大戦」の段階から各種のバリアとそれを貫通できる特殊武器の体系があり、それが輸入されたものです。
素材そのもの。より速く大きい船に鋼鉄があったように、より上の文明であるためには……
今も飛行機はアルミ合金です。
そして最先端のジェット戦闘機は炭素複合材やチタン合金を大量に使っています。
しかし、残念ながら石油ショック後の『現実』の地球人は、木から鋼鉄・ガラス・コンクリート、さらにアルミとプラスチック、というような変化を起こせていません。
カーボンファイバーやチタン合金は、かなり優れてはいますが高価なままです。チタンやセラミック、コバルト合金の包丁はありますが、圧倒多数は炭素鋼やステンレスです。
コンコルドが消えたことで、大量輸送の最高速度はむしろ落ちています。自動車でも、実用高級車で時速350キロメートル程度で頭打ち、実際に用いられるのは120キロ程度であり、時速600キロメートルの市販車などありません。
兵器の世界で、M2重機関銃が一世紀を超え、重砲の砲弾規格も古く、B52爆撃機もあまりに寿命が長い。そしてM16ライフルとその後継M4カービンも半世紀を超えている……鋼鉄以上に安く丈夫で熱にも高圧にも強い銃身になる素材もできていないし、真鍮薬莢を過去の遺物とする樹脂も、それどころか重量当たり十倍の力を持つ発射薬もできなかった。
素材・輸送技術の停滞……エネルギー面でも核融合などがすぐにはできなかったこと、それにより宇宙に行くことが高価なままであることが、世界一の金持ちが月旅行に行くことすらない、文明の限界とも思える事態を作っているのではないでしょうか。
それは、この宇宙の物理法則が決める、絶対の制限でしょうか?
少なくとも素材・エネルギーに関しては、徹頭徹尾今の地球人の近代文明が限度だと、物理法則様が決めているのでしょうか?
まさかそれが、フェルミのパラドックス……宇宙が広いのに異星人が誰が見ても分かるように観測されていない……の答え?……それだけは違います、今の地球人も水爆でも何でも使ってものすごく無理をすれば宇宙植民は可能だと思います。やっていないだけ。
逆に多くの作品の世界は、素材とエネルギー・エンジンの革新があったからこそ、宇宙を舞台に発展しているのです。
ただし、せっかくの宇宙技術を有効に使っているとは言えませんが。多数の鏡を並べて太陽光を集め、その熱で小惑星を溶かして住居を作り、あるいは蒸留して無制限の資源とすればいいのにやっていないのですから。
まあ、地球人も今の素材とエンジンでも、できることがあるのにやっていないことは多いと筆者は考えています。
浮体洋上風力発電、砂漠での大規模太陽発電所はもっと早く発達すべきでした。景観を破壊し土砂崩れも起こして電力不足を作ってる日本陸上メガソーラーではなく。
また死の海と、大規模工場畜産の糞尿もとても無駄で、活用すべき資源です。
古代帝国そのものが、エネルギー、動力だけでなく、素材の限界でも頭を押さえられ、人口が環境収容力を超えたら飢餓と戦乱で崩壊する宿命を持っていた……
それは『現実』の今のこの世界文明も、またあらゆる宇宙戦艦作品の帝国も共和国も同じことではないでしょうか。
逆にその制限を切り開くのは科学技術、しかし科学技術に背を向けるのも、帝国、のみならず人間国家の本能と言うべきもの……