宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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貴金属・侵略

 貴金属の性質。これは『現実』の地球人の歴史にかなり大きい影響を与えています。

 貨幣の歴史も、貴金属の性質があるからです。もし、現実には存在しない、色々な性質の金属、いや元素があれば、それだけでも歴史は大きく違ったことでしょう。

 もし『宇宙のスカイラーク』のX金属や、ファンタジーのミスリルやオリハルコンがあれば。その性質、精錬に必要な技術水準、どの程度多く手に入るか、などでも違うでしょう。

 

『銀河英雄伝説』でも貴金属があったことが大きい……門閥貴族財産が公債・預金・株式ばかりだったら下手をすれば帝国全部紙切れになっていたでしょうが、金銀や美術品は価値が残り、それがラインハルトの原資になりました。

 何度も述べたように本来おかしい、原子番号転換技術がなくても小惑星を蒸留するだけでも貴金属も無尽蔵なはずなのに。

 

 貴金属……

 金銀。

 貴金属に準じる銅、水銀。

 プラチナやイリジウムなど。

 錆びる鉄と違い永久的に保存できる。焼かれてさえある程度は回収できる。

 体積当たりの価値が高く、貨幣の情報面が無価値になる異国でも普遍的に価値がある。だから亡命しても富を持って行ける。

 

 金、ゴールドは最古の金属と言われます。砂に含まれる自然金が焚火に触れるだけでも奇妙に液体になり、また固まるものです。

 刃物になる強度はないですが、もっとも容易に入手精錬でき、もっとも美しく、耐食性も最高水準・事実上永久。

 近代工業でも接点などに使われ、電子機器のゴミは優良鉱山以上に金が含まれると言われます。

 

 銀もそれに次ぎ、量もかなりあります。叩けば加工硬化で刃物として使えます。食卓用のナイフフォーク・食器にもなり、銀の弾丸の伝説もあります。長期間大気中に置けばわずかに変色します。

 電気・熱とも伝導率が最高、高級イヤホンのケーブルのメッキにも使われます。ヒ素化合物と反応するので毒殺対策になるし、殺菌能力もあります。それも護符、魔術的な価値を高めたでしょう。

 

 銅。貴金属に準じますが、古代現代問わず文明の主要金属と言えるほど、採掘量も使用量も多い金属。現在であっても電線、モーターのコイル、その他多くの銅が使われ、銅がなければ近代文明は不可能の域。

 青銅時代、武器など多くの用途に使われました。祭具、呪術宗教用途でも、中国の鼎(かなえ)や日本にも伝わる銅鐸、旧約聖書でも巨大な銅水盤などが伝えられます。日本の東大寺大仏なども銅です。

 錫(すず)と合金にして青銅にしなければ、武器やある程度以上の道具にはなりません。錫はイギリスのコーンウォール、マレー半島など極端に分布が限られる資源であり、長距離交易や戦乱につながりました。

 また、青銅は火器の歴史でも重要、青銅は鋳鉄よりも多くの時代・場で使われました。寺院における鐘の鋳造技術が大砲に結び付いたことも興味深いことです。

 

 水銀。室温で液体という奇妙な金属。

 猛毒でありながら、洋の東西を問わず錬金術の中核となり、不老不死の薬とされ、かえって寿命を短くします。鉛もそうですが白粉にもなり、王族の乳幼児死亡率・精神疾患率をどうしようもなく上げてしまいます。

 辰砂、朱という重要な顔料であり、絵画美術には欠かせません。

 使いこなせば金銀の精錬に役立ちます。スペインは本土に水銀鉱山があり、それが枯渇したらメキシコにも大規模水銀鉱山が見つかり、ポトシ銀山の銀の精錬を助けました。神の悪意を感じる配置です。当然重要な専売物資とされました。

 水銀の性質は錬金術という古代の科学になり、占星術や一般の魔術とも密接な関係を結びました。

 占星術が天文学や数学を産んだように、錬金術から生じた化学も多くあります。

 錬金術は、西洋における賢者の石の伝説や中国の神仙・道教との関わりもあり、不老不死とも密接に結びついています。

 また、近代に近いドイツで、錬金術師を領主が脅して磁器の製法が生じ、マイセンという巨大産業が生じたことも特筆すべきでしょう。

『火星航路SOS/惑星連合の戦士』では水銀蒸気を用いて真空を得よう、と、星では手に入らなかった水銀を求め、主人公は宇宙に旅立ちます。

 

 プラチナなどは近代にならなければ使えなかった素材です。

 中南米コロンブス以前にわずかに利用されていたことがオーパーツに関連して知られています。またスペインが大量に入手し、使えないと廃棄したことも知られています。技術が低ければ本当は価値が高いものも無価値になるのです。

 触媒などきわめて多くの用途があります。また他の貴金属は高温高圧に耐える素材などとしても重要になっていきます。

 

 貴金属ではないとされますが、鉛やヒ素も金銀鉱山と縁が深いものです。

 

 

 今の人は、現在の金鉱業がイメージの中心になっています。ロシアと南アフリカが大半。

 ですが歴史的には、現在は金銀産出がない多くの地域が、大量の金銀を産出しました。

 

 歴史の初めである、エジプトや中国も古代では膨大な金が得られました。特にヌビアの金はギリシャローマ関係でもたびたび出てきます。

 スペイン本国もローマ帝国史では莫大な金銀鉱山として知られます。

 コロンブス以前には、ドイツなどに多くの銀鉱山がありました。だからこそ金銀を掘る技術が残っていたのです。

 ギリシャが歴史の中核の一つであった理由に、かなりの規模の銀鉱山があったこともあります。奴隷を用いたその大規模採掘とそれによる貨幣、神々に捧げた貴金属の量など、多くの話が伝わります。

 アフリカにも古来膨大な金があり、アフリカから中東に来た女王の伝説もあります。サハラ砂漠を越える大交易も昔から細々と続いています。

 

 日本もかつては莫大な金銀産出国でした。銅も莫大です。

 それらは日本が近代化し列強になったことにもつながる財産でした。

『火の鳥』でも鳳凰編で描かれる東大寺大仏は東北地方で見つかった金でメッキされ、また乱世編の義経がかくまわれた奥州藤原氏の栄華も砂金によります。

 そして戦国後期から江戸時代。武田信玄は甲斐の金鉱山を開発して甲州金を作って栄え、それが枯渇すれば今川を滅ぼして駿河などの金山を新しい技術で開発しました。

 中国地方の石見銀山が重要な争点となり、まず豊臣秀吉が全国の金銀鉱山を得て膨大な黄金を手に入れ、それを使って金の茶室など自らを飾り、膨大な軍資金にもしました。

 金銀鉱山を引き継いだ徳川家康も、大久保長安という才能と西洋の技術を使って膨大な金銀を手に入れ、それこそが天下統一と維持の元となる力でした。

 江戸時代の間も、日本は莫大な銀を産出しては中国に輸出しました。実はその貿易を仲介することでポルトガルやオランダは莫大な利益を上げました。それによってこそ、ヨーロッパ諸国はアジアに関わり続け、後の征服の足がかりともしたのです。

 コロンブスの出帆そのものが、マルコ・ポーロ描く黄金の国への渇望からだったことも忘れてはならないでしょう。

 

 技術の進歩によって、それまで鉱山でなかったところも鉱山となる、ということが何度も起きていることもわかります。足尾銅山も明治時代に本格稼働しました。

 おそらく、新しい土地を無理な戦争で獲得するより、技術を高める方が資源も利益も得られることは多いのではないでしょうか。

 日本が権利を持つ海底も海水も、利用できれば膨大な金銀を含む資源があることも知られています。

 

 コロンブスの新大陸到達は、まず金銀と奴隷の入手になりました。それ以外の富が目に入らなかったし、船で運ぶこともできませんでした。

 何よりも金銀、それ以外は存在しない……せいぜいブラジルの語源となった染料が得られる木。もったいない使い方としか言いようがありません。

 人類史上最大級の悪行、かつスペインの国益を考えれば史上最大の愚行の一つと言えるポトシ銀山の莫大な銀。それは世界経済を大きく変質させました。

 ポルトガル領だったブラジルも膨大な金を産出しました。

 フランスのジョン・ローとイギリスの南海泡沫事件は、フランスやイギリスが入植した新大陸に、スペインが手に入れたのと同じように大量の黄金があると誰もが思ったことからバブルが膨らみました。逆説的に、すぐ手に入る金銀がなかったからこそ、入植者は真面目に……先住民を皆殺しにして……働き、豊かな国を作り上げたのです。

 そしてカリフォルニア、オーストラリア、アラスカ、と新世界で次々とゴールドラッシュが起き、そのたびにその地域に港湾・都市などインフラが作られ、金が枯渇してからも豊かな都市文明が栄えることが多くありました。

 さらに南アフリカの金はボーア戦争という、イギリスにとって大きな変曲点につながりました。

 ロシアの拡大も、毛皮だけでなく金銀も重要な要素でした。

 

 

 新大陸にはほぼ確実に金銀がある、それで侵略が好まれる……

 金は、他の金属と違って酸化していない自然金・砂金が多くあります。

 それは川の流れが長く大地を削ると、ほぼ普遍的に濃縮されます。

 人がいない新大陸に到達したら、とりあえず河口の砂で、時代劇であるように皿に砂を入れて水を入れて揺らして流すと、砂金を得られると期待していいでしょう。

 南極大陸も、氷河の影響と条約を無視すればそれなりの金があると期待していいはずです。

 さらに技術が進歩し、地図を作ったり鉱山探査技術者が山歩きをする余裕ができ、山奥に楽に行けるようになったりしても、次々と鉱山は見つかるものです。

 だからたとえ人がいなくても、探検と侵略は儲かる、と人は期待してしまうのです。

 人がいれば奴隷という富も得られる……イースター島の先住民を奴隷として全滅させ、文字も読めなくしたように。

 逆に、たとえば中国が樺太やオーストラリアを征服しようとしなかったこと……それは中国にとって、あるいは東アジアの海や地理について多くのことを教えてくれると思います。金銀と奴隷だけのために海を超えることはやらなかった、それほど難しかったか文化道徳の類があった、というわけです。

 

 また、文明がありそれを攻め滅ぼせば、神殿や王侯貴族が膨大な金銀をためこんでいるもので、それを手に入れられます。

 旧約聖書にも神殿の金銀銅宝物が膨大に描写されています。もちろんそれは征服で奪ったものであり、滅ぼされたら征服者の戦利品になったのです。

 アレキサンダー大王が落としたペルセポリス、オスマン・トルコが落としたコンスタンティノープル、スペインが落とした中南米両帝国……どれも膨大な金銀を征服者が手に入れました。

 さらに近代でも、ナポレオンやヒトラーは征服した国の金銀や美術品、債権を得ました。

 

 金銀の貨幣としての面を前回強調しましたが、現実には宗教や王侯貴族の贅沢による吸収も大きい要素です。

 現在の日本では金箔を入れた酒やアイスクリームすらあります。

 戦国時代に当たる時代には、中国は絹や磁器とひきかえに、メキシコ銀の多くをスペインから入手しました。後のイギリスも、茶という商品のためアヘンの前には膨大な銀を中国に払いました。

 また大航海時代に、スペインは新大陸の金銀を「屋根に降る雨のように」借金の支払いとしてイタリア商人に払い、それはイスラム帝国に、さらにインドに流れました。

 イスラム、そしてインド、中国。それらの国は莫大な銀を受け取って、まるでブラックホールのように消え失せた、という印象になります。

 多くは神殿の像や、富裕な貴族の備蓄となります。

 逆に征服者が文化財を破壊するのは、金銀を手に入れるためというのも大きいわけです。

 キリスト教やイスラム教、織田信長のような、神々に媚びず天罰を恐れず遠慮なく神殿を焼く征服者は、退蔵された金銀を市場に流す意味も大きいし、遠慮なく神聖な金銀を奪って味方、また市場にばらまいて軍資金にできるからこそ強いのではないでしょうか。

 さらにそれを一般化すると、「首都・大都市は略奪すると一番儲かる」とも言えます。

『ファウンデーション』では首都の大略奪があります。また「弱い皇帝と強い将軍」ジレンマは、首都こそが最も美味な果実である、ということも骨格とします。

『銀河戦国群雄伝ライ』では巨大陵墓を暴いて金銀を奪う暴虐がありました。

『銀河英雄伝説』では首都ではなく、門閥貴族の富がラインハルトの政策の基盤となりました。

 

 

 征服そのものの目的・損得をもう少し考えてみましょう。

 統治を考えず焼き尽くして金銀だけ奪ってあとは無視、とすれば、おそらくもっともコストパフォーマンスは高いでしょう。

 また長い目で見れば、征服した地によく機能する強い国を作って……アメリカのように先住民を皆殺しにして、が必要かもしれませんが……同盟交易すれば、イギリスのように大きな得をすることも可能でしょう。

 征服される国が農業国家であれば皆殺しにして土地を支持者に分配することもできるでしょう。

 古代ローマ帝国は農業が栄える国々を征服し、奴隷とした民ぐるみ土地を兵に分配しました。

 アメリカは先住民を皆殺しにし、移民に土地を分配して多数の自作農からなる社会を作りました。

 

 しかし、たとえば中南米を侵略したスペイン帝国は、金銀を手に入れるだけでなく、宗教も大きすぎる目的だったのです。また、威信も。

 経済的・軍事的な損得が、あまりにも少なかった。

 宗教……十字軍。キリスト教の最初、新約聖書に刻まれている、使徒たちに全世界に旅立って福音(『エヴァンゲリオン』の元ネタでもあるエヴァンジェリ)=グッドニュースを伝えよという命令。その発展、できるだけ多くの人を地獄行確定である異教から救い出してキリスト教に改宗させよ。だから金銀だけ奪って放り出すことなどできませんでした。

 威信……フランス革命前の、特にフランスとスペインは、威信を求めて膨大な無駄な戦争をしていました。

『タイラー』の『無責任カルテット』でブラック・セラフィムが改宗させるために征服を繰り広げ、また『無責任三国志』の時代ベルファルドの国が営業の名で征服したことも思い出します。『叛逆航路シリーズ』の併合も。

 その後、新大陸、特にメキシコ湾諸島はスペインにとっても、またフランスやイギリスにとっても、砂糖という大きい役割が生じました。

 それ以前、地中海の島や、大西洋にあるカナリヤ諸島などの征服でも、スペインはサトウキビ奴隷農場という商売モデルを身につけていました。

 プランテーションは先住民が伝染病で死に絶えていったら、黒人奴隷を用いることにもなりました。

 砂糖産業はさらに木綿・タバコ、ジュートやコーヒー、後にはゴム、バナナ、アブラヤシ、大豆と西洋の産業革命、そして豊かさ革命に絡んでいきます。

 

 

 昔からの征服の理由に、安全のためも小さくないでしょう。

 

 緩衝地帯を求めて、もよく見られる征服戦争の理由です。

 国境があるだけでは、国境から自国首都までの距離が迎撃距離となり、そこを走り渡られたら落ちる。ついでに自国領が戦場になれば虐殺・略奪・奴隷拉致・放火などで大損する。

 国境を壁・長城にすればそれなりに楽になるが、それも費用が掛かるし、いつ抜けられるかわからない。

 国境が線ではなく、横断に何日もかかる荒野の帯であれば、敵の動きを感知して国境で迎撃できる。

 それこそ『現実』の38度線は要塞の面があると同時に、普通の国立公園では不可能なほど自然に満ちた非武装地帯として何十年も保たれています。

 特に緩衝地帯を求めるのがロシアの伝統的な戦略です。スラブ=スレイブ=奴隷、モンゴルやイスラム帝国に襲われ奴隷として連れ去られてきた彼らは、モンゴルからも、また黒海周辺・黒海とカスピ海の間の地域・ポーランドなどを、緩衝地帯として勢力圏に置きたい、と際限なく征服します。

 また征服したのちも独立させまいと激しい武力弾圧を続けています。それは結果的に際限のない征服になってしまいます。緩衝地帯のはずが領土になれば、単に国境線が広がり、こちらの迎撃部隊の旅が長くなるだけという愚行になりますが……ロシアは止まることができません。

 日本はロシアの南下におびえ、満州や朝鮮半島を緩衝地帯にしたいと征服の手を伸ばして日露戦争につながりました。ですが日本も、緩衝地帯のはずの朝鮮半島や満州を欲張って開発してしまいました。

『銀河英雄伝説』では、イゼルローン回廊周辺が帝国側・同盟側ともに広い緩衝地域となっています。エル・ファシルのような生活に適した惑星が低人口のままです。

 フェザーン貿易があるにもかかわらず、同盟のフェザーン回廊に近いウルヴァシーも開発が進みませんでした。それも緩衝地域だからという意味があるのでしょう。

 奪い合いもあり、奪い合いの結果の低開発・低人口が結果的に広い緩衝地域を作り出しています。

 実際、エル・ファシルのように攻撃されることもあり、帝国側も焦土作戦があるなど戦争の犠牲になりやすいため、開発水準が低くなるのでしょう。帝国側の辺境は元から帝国中枢から遠いこともあるでしょうが。……そういう地域が、軍需で儲かるのと、軍による略奪徴発で衰えるのと、どちらも大きくあります。帝国辺境はマイナスが大きいようです。

 

 その変形として、『孫子』に敵の食物を食うのがいいとあります。

 特にフランス革命以前のヨーロッパで目立ちますが、三十年戦争などでは傭兵が戦場や移動途中の地も荒らしまわりました。普通に戦費をもらってそれで食料を買って運ぶ、ということが不可能です……戦費の財政や貨幣システムの規模もないし、食糧輸送能力もごく低く、食料を生産し保存する技術も低い。

 だからすべて現地調達、略奪。暮らしている半自給自足の農村を襲い、多数殺し女は犯し、拷問して食物のありかを聞きだして奪いつくす。地獄絵図であり、それが当たり前でした。結果的にはものすごく人口が減ることにすらなります。

 そんな軍は、敵国味方国の区別などありません。だからそんな悪鬼が暴れるのは、敵国領土であった方がいいに決まっています。

 だからルイ14世15世も、スペインの王たちも、ひたすら攻め続けていたというのもあるでしょう。

『ヤマト』でさえ、最初の旅でビーメラ星で野菜を求め、雪が罪悪感に苦しんだりもしたのです。

 だからこそ『銀河英雄伝説』でも幾多の史実でも焦土作戦は有効であり、最初はそのつもりがなくても同盟軍は略奪者となったのです。

 

『三体』の暗黒森林説、別の文明が存在しているだけで危険であり、だから滅ぼしておく、が緩衝地域の思想の極端な形です。

『宇宙嵐のかなた』の、攻撃されたくないから、というのもそれでしょう。『楽園追放』も電脳権力者が、他者の存在そのものを容認しないから攻撃します。

 安全だけを考えれば、それこそ皆殺しにして砂漠にしてしまい利用もしなくてもいいわけです。できるのならば。ローマは廃墟を作って平和と呼ぶ、という言葉もあります。

 

 帝国主義の時代には、アフリカなどの土地……文明水準が低い人々がいる、熱帯伝染病もあり、交通も不便な広い土地が奪い合われます。市場、資源、素材農業、またライバル国に奪われるより前に、余剰人材のはけ口、などとして。ただ、その損得は常に議論になります。

 単に宣教師の情熱、「白人の責務」、ゆがんだ善意……近代という正しい生き方を押しつけるという、キリスト教の強制と何ら変わらない情熱も強かったのでしょう。

『老人と宇宙』『真紅の戦場』『宇宙兵志願』のような、地球では戦わず宇宙を奪い合う作品も近い。特に『老人と宇宙』では、少なくとも植民地から地球の老人よりけた外れに多くの新兵を産む、とはなっていないのです。

 

 また、損得をあまり考えない征服も多いでしょう。

『現実』でもイギリスのインド征服、スペインの中南米征服などに多くの損が言われます。それでも宗教、威信などによって、多くの国は征服をせずにはいられなくなります。

『叛逆航路シリーズ』の皇帝の征服も理由も意味もないものと言っていいかもしれません。

 

 群れをまとめるため、また自分の支持者に富・名誉・仕事・機会を与えるため、でも無意味な戦争・侵略はあります。

 ドイツとロシアで目立つのは、ドイツ系・ロシア系が迫害されているから助けるため、という口実での侵略です。帝国主義時代にはイギリスも繰り返し、行ったイギリス人が不当に殺されたから報復に、と攻撃し征服しました。

 

 

 征服の段階ややり方も多様でしょう。人の支配方法にもつながります。

 ロシアがトラウマにしているタタールのくびき。

 イギリスの教育。

 北アメリカの皆殺し。

 フランスや日本の同化。

 土地を奪い、誰に分配するか。古代ローマでは手柄を立てた将軍や兵士に分配、巨大な奴隷農場と多くのパトロン~クリエンテス、親分子分関係で生活も見てもらう有権者の世界を作りました。中南米では有力者が広大な土地を膨大な奴隷で耕しました。北アメリカでは移民に分配し、自作農社会を作りました。

 

 

『銀河英雄伝説』では、ラインハルトの征服がかなり丁寧に描かれています。

 フェザーンでは暴利は禁じるが統制経済にはしない。

 同盟では、裏切者であるロックウェルたちは処刑するがそれ以外には基本寛容、アーレ・ハイネセンの巨像を破壊するだけ。ロイエンタールが法を無視して腐敗を裁くことで民主主義の欠点を浮き彫りにして支持される。後にはオーベルシュタインの草刈り、ルビンスキーの火祭りと繰り返される大事件。

 道徳性が高いから支持される征服者……

『叛逆航路』では、残虐な征服と、その征服後の年月も描かれています。法と福祉に努力する人もいるし、同時に腐敗し被征服民を差別搾取する人もいる……そして被征服民は恨んでいる……

『星界の戦旗』でも征服の傷の深さが、アーヴ貴族の道徳の高さと同時に描かれます。

『ヴォルコシガン・サガ』でもコマールの恨みは底なしです。

 

 古代ローマもイギリス帝国も、またモンゴル帝国も、征服する時点では残忍な虐殺者・文化破壊者であり、それが安定してからは寛容で公平、道徳水準が高く見える感じがあります。

 残忍で邪悪な部分と、そうでない部分……

 ずっと残忍で邪悪なまま、という帝国は何があるでしょう?それはイデオロギーもあります、たとえば徳川幕府や日本明治政府は、立場によって終始悪の権化だったりもします。琉球の砂糖搾取があり、またアイヌの搾取は世界史的にも異例な、プラス面が皆無の残忍さだと司馬遼太郎が。

 基本的には、歴史の流れで負け組になったり、強い思想に憎まれたりすると悪の権化とされることになる、はあるでしょう。かといって、パルパティーン帝国もそうだと言えるでしょうか?

 ただ、例えばスペイン帝国はずっと植民地の先住民や混血は極貧であり、凄まじい格差と身分、暴力に苦しめられ続けました。独立してさえも。

 搾取・暴政は、単に「当たり前」という考えも今は強いです。現在の道徳で過去を裁くな、と。

 ですが、まず損得……無意味な残忍・極端な格差・まともな法がないことなどは、経済的にもマイナスになり、国力も下げてしまうことは?

 それとも、『現実』で民主主義であるアメリカが勝ったからそういわれるだけだ、膨大な資源と土地のおかげなのに、というだけでしょうか?

 結局のところ、どうすれば豊かで強くなるか。産業・科学・強大な軍にいちばん資する、いやとにかく全滅せず生き残るにはどうするのが正しいのか、ということになるでしょう。

 

 

 ただ、歴史全般を見回しても、「残虐性」というものの違いはある程度あると思います。

 それは進歩とは限りません。現在のウクライナ、最近のユーゴスラビアやイランであるように、残虐性の水準が大きく後退することもしばしばあります。

 特に、第一次世界大戦・第二次世界大戦で文明水準が高かったはずの列強諸国が史上空前の残虐行為の限りを尽くしたことは、西洋の知識人にも巨大な衝撃になりました。

『銀河英雄伝説』でのルドルフ前後の人命の軽さは、ある程度以前からでしょうか?シリウス戦役から、人命が軽い文化が当然だった?

『ガンダム』も多くのシリーズで極端に人命が軽く、残忍な人体実験も横行しています。

 

 人命が軽い文化、また極端に人命が軽くなってしまう歴史の流れも『現実』にしばしばあります。

 ペロポネソス戦争前後でのアテナイなどの皆殺し乱発が、それ以前と変わってしまった、と言われます。

 

 帝国主義も各地でおぞましい残酷さを見せます。

 近代においては、国家・民族という物語・ある種の情報伝染病が生じてしまい、民族浄化があちこちで発生します。

 フランス革命も膨大な虐殺があります。

 またスペイン……レコンキスタ、カナリア諸島、中南米征服も恐ろしい残酷さです。

 アメリカ・タスマニアなどの先住民撲滅も。

 そして共産主義という、人類にとりついた恐ろしい思想。ミーム、情報伝染病。

 反共でもインドネシア、チリ、韓国、台湾などで相当な数の拷問虐殺が行われています。

 経済的自由主義はそれ自体、アイルランド飢饉やベンガル飢饉、また多くの労働者の悲惨な労働を思想的に支持し、結果的に膨大な人を殺し拷問しています。

 

 基本的には、欠乏……貧しく飢えた人々は残酷になることが多いです。

 遊牧民帝国は極端に残忍、というイメージもあります。ただ、農業帝国も軍事行動になると残忍になります。

 

 征服そのものと、それがどのように残酷か……

『三体シリーズ』の無造作な暗黒森林攻撃のように、論理的な思考から、苦痛を最大化することを考えず、悪意ではなく理性だけで行われる無差別大量虐殺と、サディズムを前面に出す略奪強姦拷問の地獄はどう違うでしょう。

『タイム・オデッセイ』の遠距離攻撃も、圧倒的な技術水準で無造作に行われます。

『時空大戦』の昆虫型異星人のやり口……征服した異星人のメスの子宮に卵を産み、オスは刻んでメスに食わせて栄養が行き届いたメスの体が幼虫の餌になる……は、まさに身の毛がよだつ残忍さ。ですがそれは、生存と繁栄のための最も合理的な行動なのです。ちょうどハチがクモを正確に麻酔して運び、生きたまま幼虫の餌にするように。

『エンダーのゲーム』でバガーが、地球人一人一人かけがえのない遺伝子と記憶と人格があると知らず、人の髪の毛を抜いて刻んで分析するようにしたことが絶滅戦争につながったり、ペケニーノが学者を無麻酔解剖した事件が人類を揺るがしたりもしました。

『スコーリア戦記』では敵国の貴族がサディストであり、多くの人を残忍に拷問しています。

 逆に『星界シリーズ』ではアーヴは、惑星の征服と宇宙交易の独占は譲りませんが、地上の非征服民を虐待する欲はありません。

 

 規模そのものは小さくなっても、欲望のための奴隷化、また純粋に人の苦を楽しむサディズムも、そういう征服の悪と深くつながります。

 邪悪な権力者はさまざまな作品に出てくる使いやすい悪役です。

 ただ、本人の邪悪さよりも、忠誠のため、体制のために拷問・虐殺・搾取をする人も多くいます……『航空宇宙軍史』のイルカに対する残忍さも、サディズムではなく義務感でしょう。

 やられる側から見ればそんなに違わない、でしょうか?

 

 金、Au、原子番号79の、量子力学をはじめこの時空の物理学から決まる性質が、人類に征服の癖をつけてしまった。

『三体』では超光速技術がないことこそ、暗黒森林という究極の地獄を作り出した。

 サディズムのため、宗教のため、安心のため、善意で、膨大な地獄が生じてきた。

 何が悪のもとになっているのか……

 

 そして、ピンカー『暴力の人類史』『21世紀の啓蒙』、また多くの行動経済学・認知・脳科学など新しい人間理解は、この『現実』という地獄に対して少しでも救いになるのでしょうか?

 行動経済学などがあるにもかかわらず、9.11以降のアフガニスタン・イラクでのアメリカの愚行は、見事なほど「歴史で常にみられる通り」でしたが……

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