宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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医・悪・ポストヒューマン

 あるところで、『宇宙軍士官学校』の、「多くの、地球人とほぼ同じ遺伝子の異星人」「すべての{人類}を滅ぼそうとする敵との戦争」「上位種族もあり」「種族同士が競争、地球人も他の種族も上位種族になる可能性がある」という条件を考えていて、種族そのものが向上しなくてはと考えました。作中主人公たちも、人類が向上することは常に望んでいます。

 筆者の、本作も含めた考えは、他の作品のアイデアを持ってきて番(つが)わせること。

『サイボーグ009』の001、イワン。

 マッドサイエンティストである父親に脳を改造され成長が止まった赤ん坊。その父親は蛮行を止めようとした母親を殺し、赤子ともども黒い幽霊に拾われた。

 だからこそ、赤子のままでだいたい眠っているが、けた外れの知能と超能力。

 

 その001を大量生産……そう考えた瞬間、筆者の内なる声が「だめだ」「絶対破滅する」と判断しました。

 その声を疑ったら?

 なぜわかるのでしょう、筆者は全知の神ではないはずなのに?

「筆者の中のダメだと叫ぶ声」様は、全知の神様なのでしょうか?絶対正しいのでしょうか?

 

 この考えからは膨大な、考えの分岐が出ます。

 本来なら読むべき本も膨大です。生命倫理学。存在しないかもしれない、未来文明倫理学。ポストヒューマン。道徳哲学。中国や日本との比較思想史。「どうすれば文明が破滅を免れるか」。

 1900年前後、大戦までに多量にあった西洋文明の退廃を恐れる言説。人種差別思想の深化。

 東側におけるSF思想。

 英米、日本それぞれの古典SFの思想と時代背景。

 医学。

 そしてサイボーグ、アンドロイド。知性化。超能力。

 善悪そのもの。

 何年かかるかわかったもんじゃない、今とりあえずまとめて、本を読むのは何年もかけてゆっくりと……

 また当然嫌というほど、今までの話と重複するでしょう。興亡、無人、上位存在、道徳などなど。

 

 

 なぜ001の大量生産が否定されるのか。

 まず、他者危害、自分がされたら嫌なことを人にするな、人を傷つけるな、に抵触するから。

『航空宇宙軍史』のイルカ……人類ではない、ある程度の知能がある動物を傷つけることにも、少なくとも筆者は強い憤りを感じる。……異星人でもロボットでも、ある程度以上心を持つ存在を傷つけるな、と拡張できる。

 まだ意識がない乳児であっても、母親は大事な子を傷つけられたくない。それに乳児でも、痛い思いをさせれば泣く、明らかに嫌がっている。手術で別の存在にしてしまうのは、傷つけるに他ならない。

 両親がないコインロッカーベイビーであっても、人間にはかけがえがない権利がある。

 

「人間の尊厳」という概念はいつから生じたのでしょう?

 筆者が知らないことがいくつも出てきます。

 西洋、キリスト教と古代ギリシャローマを共有していない中国・日本でも死体の解剖は忌避され、それゆえにどちらの医学も内臓には無知なままだった。多くの残忍な拷問処刑を考えると不思議なことに。中国・日本では、尊厳のような概念はあったのだろうか?ただし、日本では江戸時代に死体の解剖が可能だった……それほど激しい禁忌ではない。

 ……となると、古代のインド、草原の遊牧民、イスラムは?という問題にも。旧約聖書では……思い出せません。イスラムは復活が中心教義で死体損壊を嫌い土葬、どんな拷問も笑って耐える戦士でも、首・腕・脚を切って違うところに縫ってから埋葬してやると脅せば泣いて自白すると聞いたことが。その体で復活したらたまったもんじゃない。

 ……少し外れますが、旧約聖書の律法では、それこそ十戒の一つであってもおかしくないのに、食人禁止が思い出せないというのも考えてみると不思議です。無論反芻せず蹄が分かれていないのでNGですが。人の生贄も。他にもいくつか読んだはずの古代法で、はっきりとした食人禁止が思い出せない……

 上述のように『銀河の荒鷲シーフォート』で、飢えに瀕したとき死者を食べるか議論され、やはりだめだと主人公は決めました。

 そして西洋では、あれほど徹底的に先住民・有色人種・異教徒の人間としての権利を否定したのに、だからと言って解剖・動物実験・食用などがフリーになったわけではない。剥製展示はやった。……アメリカが核兵器や梅毒の実験をしたケースはあるものの、非難されている。どのような理屈で?なぜ?

 共産主義世界では全面的に容認されなかったのはなぜ?

 

 

 医学。人間が生きていく上で欠かせないと言っていい、にもかかわらず近代での科学技術の発達までは、本当に間違ったことばかりでした。

 以前紹介したベンジャミン・ラッシュ、フィラデルフィアの黄熱病で献身的に見捨てられた患者に尽くした医者が、今の目で見れば何もしない方がましだったと言われているように、近代以前の医学は益よりも害が多いほどでした。

 中国では、多くの帝王が不老不死を求めました。しかしその手段とされるのが水銀などの毒であったため、むしろ精神も健康も破壊し、名将名君だったのが晩年には狂王と化したり、寿命そのものも縮めたり、異様なまでに子供達が死んでいき王朝が乱れたりすることも多くありました。ついでに梅毒の精神障害もあると言われる人も多くいます。

 医学は究極的に、不老不死、人間の支配、人間の改造などにも進むのが恐ろしい。それほど根源的に重要な学、人間の目的の一つです。

 レコンキスタでイスラムだったスペインの大都市をキリスト教徒が落としたとき、図書館の医学の本は残してくれという騎士たちと、全部焼けという聖職者の対立があったとか。

 

 宗教と医学の関係の歴史も深すぎるほどです。

 それこそイエスは、多くの人を癒して信仰されました。その後の使徒も。

 空海らも、仏教と同時に医学も伝えました。土木工事の技術なども。

 

 その医学の進歩そのものも歴史を大きく変えています。以前伝染病のところで触れたように、すぐに伝染病で死ぬから暗黒大陸とされろくに利用できなかった熱帯を、西洋が本格的に侵略できるようになったのは病気が治療できるようになったからでした。

 また、大国の王家でも農民でも10人産んで2人生きれば幸運、の世界でなくなったことは人間の使い捨てが経済的に有利でなくなることにもなります。

 常にたいていの人がひどい病気で生産性が低い社会でなくなったこと、それも長い目で見る、勤勉な労働者を前提とする経済ができたことに大きく関係しています。逆にアフリカなどの生産性の低さは、多くの人が病気で休みが多かったりまともに働けていなかったりすることも重要なのです。

 避妊・出生率……これもとんでもないテーマになります。

 

 医学そのものに、常に残酷さ、死、罪がつきまといます。救うためでもあるのですが。

 それこそナポレオン時代の海洋冒険小説では、麻酔も抗生物質もないので、できるのは傷ついた手足を斧とノコギリで切断し傷口を焼くだけでした。苦痛によるショック死はわかっていても、何人かに一人が助かるか、確実に汚染された傷口から全身が腐って死ぬか。

 リソースが足りなくなると技術が優れていても似たようなことになります。『真紅の戦場』でも多数の軍医たちが激務で限界を超える凄惨な治療風景が描かれています。

 医学の進歩に欠かせないことの一つに、動物の体そのものを調べることがあります。医学史ではむしろ敵役とされるガレノス……古代ローマ最高の皇帝マルクス・アウレリウス・アントニウスの時代の医師は、多くの動物を(もちろん無麻酔で)解剖したことでも知られていました。

 心肺の、血液循環も動物の解剖、死体の血管に色水を注いでみるなどから解明されました。

 キリスト教が禁じていた、人間の死体の解剖がおこなわれるようになった……それこそ、医学の進歩のきっかけとなったのです。法や政治の歴史から見ても重大でしょう。

 

 また、膨大な動物実験も、特に化学合成薬品の効果の確認、化粧品や食品添加物などに至る安全性の確認で大きく近代人の健康に貢献しています。

 さらにワクチンなど、動物そのものを生きた工場にしていることも多くあります。カブトガニの血液に頼っている試薬もありますし、他にも多数。

 それは動物を凄まじい苦痛の末に殺す行為です。異星人連合の法廷で「地球人一人残らず同じ苦痛の末に滅亡の刑」を宣告されても文句は言えません。しかし、それがなければ筆者も含め、今の地球で生きている人の想像を絶する割合は生きていないでしょう。

 それゆえにか、西洋道徳では容認されます。

 

 しかし、人間を実験台にしたり、生きたまま解剖したりすることは、西洋文明の中ではかなり特別な悪とみなされるようです。

 ケン・リュウの短編『歴史を終わらせた男』で描かれた日本の731部隊、またナチスドイツによる人体実験はこの上ない悪として激しく非難されています。

 どこの社会も多くの、子供や無実の人でも膨大に拷問虐殺するのに、医学利用はどう違うのか……人間にとっては何か特段のものがあるようです。「人を手段としてはならない」というカント哲学でしょうか。

 多くの、国際非難や人権を気にしなくていい犯罪組織支配地域・独裁国家があり、またモラルを捨てた金持ちが秘密研究所でやってもいいのに、不老不死が一般でなく世界屈指の金持ちでも若死にすることを考えると、不思議とそれほど有効ではないようです。

 それは、この『現実』の物理法則・生物の分子がたまたまこうであったから、というだけであり、それが違った場合には別の世界になるでしょう。たとえば、人間の脳に、顕著に妊娠を助ける薬効があったとしたら……

 

『彷徨える艦隊』のシンディックでは、敗北したり権力闘争で負けたりした人は、医学ボランティアという名の死の拷問に供せられる、と言われます。

『目覚めたら~』では重罪を犯して捕まった宙賊は医学実験に供され、死刑よりはるかに残酷な目にあわされます。逆に宙賊も、捕まえた人間を玩具として様々に改造して売ったり、けた外れに残酷……だからこそ何の呵責もなく船ごと皆殺しにできるわけで。

『ガンダム』でも、宇宙世紀のニュータイプ研究などではきわめて残忍な人体実験が横行していたことが描かれています。

『ヴォルコシガン・サガ』でマークを拷問したリョーバル大豪も医学研究で多くの資産を持っており、人体実験・人間の遺伝子操作による知識も売り物にしていたようです。それこそマイルズが盗み出し、その後傭兵として活躍した、それ自体がリョーバルの憎悪の理由となったタウラもその実験体の一つでした。そのタウラを作った悪の医科学者もバラヤーに帰化し、思いもかけない形で活躍します。

 マークとマイルズが助けたローワン一族も医学者・バイオ学者として大きい価値を持っています。

 それら、人を医学の研究材料・医学工業の材料とすることはとてつもない悪とされます。

 ですが、それを悪と感じる道徳感情、それはグラデーションをもって変化していくのです……銀河テクを憎む保守クーデター、簡単な手術で治る口蓋裂の赤子を絞め殺す家族、さらに文化大革命で科学者を虐殺した群衆に。

 

 医者、医学者、というのも宇宙戦艦作品では結構重要な登場人物になることが多いです。主人公であることは少なく、やや斜めから見るような立場か、残酷で邪悪なマッドサイエンティストか。

 もともと軍艦でも軍でも、医師はクルーが生きるためだけでもどうしても必須であり、さらに重要性も高い……海洋冒険小説では、艦長が発狂して任務を果たせない、という、見方を変えれば反乱を容認する制度に関わるため、とてつもない責任を負ってもいます。

 英雄である主人公も医者から見れば患者の一人である、というような、俯瞰的な視点から作品世界を眺めている存在にもなります。戦争のため、人殺しのために全力を出している軍人とは違い生かすことを目的にする、根本的に異物なのです。

『ヤマト』の佐渡酒造は主要キャラクターの一人で、彼とアナライザーのコンビはシリアスな空気を緩衝させる、重要な役割を果たします。また森雪は看護師の仕事も多くやっています。

『タイラー』のキタグチは佐渡のコピーに近いキャラです。メタノールで失明するほどのアルコール中毒、チームの雰囲気、といろいろな共通点。

『レンズマン』でも医師のレーシーがパトロール隊でもかなり重要な立場におり、凄まじい拷問で体を破壊されたキムを治療しました。キムの妻となるクラリッサも有能な看護師として困難な手術を補助しました。

『スタートレック』でもTOSのマッコイ、新の医療主任ビバリー・クラッシャーとカウンセラーのディアナ・トロイ、ヴォイジャーのプログラム・ホロであるドクターなど各シリーズで重要なキャラクターです。

『真紅の戦場』では女医がメインヒロイン。

『目覚めたら~』では女医のショーコが結構目立った登場をして、ゲストと思ったら思いがけない形でハーレムに加わり、かなり重要な役割を果たしています。

『天地無用!』の鷲羽もヒロインの一人です。

『ガンダムX』のテクスは人格が高く、まだ子供である登場人物たちを精神的に見守り支えました。

『彷徨える艦隊』でも要所で医者が登場しますが、不思議とキャラクターとして強くはありません。ギアリーが英雄本人であることもどうでもいいかのように病人扱いに近い態度を取ったりもします。

 

 

 医者はどんな権力者でも必要とするので、必然的に権力の近くにいて、権力者になることもあります。逆に医者本人も危険があります。

 それこそ史実の道鏡やラスプーチンは、聖職者であるという以上に医者として権力者に信頼されたのでは?

 またそれは、医者と呪術師がどれほど近いか、宗教祈祷がどれほど重要かも示しているでしょう。

 それこそ医者が暗殺者になれば、どんな権力者でも殺されます。だからこそ強い忠誠や脅迫が必要になります。医者が高い道徳を要求されるのも、道徳によって人を支配する、ということがあるのでしょう。

 そして独特の道徳を叩き込まれた、独特のギルドの一員でもあり、時にはそのギルド・道徳に対する忠誠と権力の間での葛藤もあります。

『銀河英雄伝説』で、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの話として、障害児が生まれたとき、子と生母のみならず医師も死を賜ったと伝えられます。古来権力者の医師が責任を取らされることは多くありました。

 ラインハルトの病を治せなかった医者に提督たちが詰め寄る……もしゴールデンバウム朝の皇帝だったら死刑にされていたでしょう。

 アンネローゼの暗殺未遂では、ベーネミュンデの医師からの密告が重要になります。

 ラインハルトの暗殺未遂事件の一つでは、犯人をそそのかしたのは医者でした。

 ついでに、ラインハルトに可愛がられた従卒のエミールは将来医者になると決意しています。

 さらについでに。あのゴールデンバウム朝では、闇の医者が巨大なカネと闇の権力を持ってしまうのでは?遺伝子検査で、たとえばロイエンタールが父親の実際の子かどうか確定できます。彼の父親が検査をして違ったら事故に見せかけて殺す、ということもあり得たでしょう……闇医者に手を出すリスクを冒さなかっただけか……。劣悪遺伝子排除法は親族にも及ぶので、障害を持つ子を殺して隠しても医師が知っていて脅迫できます。大きい貴族が忠実な家臣の優秀な子に医学の勉強をさせて家に閉じ込めたら、禁断の技術に手を出していないか悪魔の証明が起きます。

『銀河戦国群雄伝ライ』には正宗(紅玉)を救えず、毒刃を受けた雷の生命を救った医師がいます。彼こそ正宗の人間としての苦を察することができ、群臣に不満を持っていました。

『デューン』では医者が特殊なギルドで訓練を受けることが知られ、もっとも重要な役割を果たします。

 

 ほかにも、伝染病が重要になる多くの作品で、医者や医学者は当然重要な役割を帯びます。『天冥の標』では医の組織そのものが政治制度で重要になっています。

 少なくとも解説役、また生物を分析する学者の役割を持つことも多いです。

 

『火の鳥 未来編』の猿田博士は事実上医師でもあります。彼は若いころは宇宙生命の権威として多くの業績を上げ、地球に隠棲してから代償として女性型ロボットを作ったり、人工生命を作ったり、ヒロインを傷つけてまで生命の秘密を解明し放射能に耐えられる手術を開発したりといろいろやって……無駄になりました。

『復活編』の密輸組織の医者は、二人の人間を融合させるという、まさに神に挑戦する手術を行い……失敗の代償に生命を落としました。

『太陽編』のおばばは医者でもあり、領主となった主人公の善政を治療で支え、また呪術医でもあり霊についての知識もあるので主人公の霊界との接触を否定し、人間に戻った主人公の旅に同行するなど重要すぎる役割を果たします。

『黎明編』の主要人物の一人も医者でもあり、内政チートで定番となるペニシリンを使いました。

 手塚治虫自身が医学博士でもあり、『ブラック・ジャック』『きりひと讃歌』など医者を主人公にした多くの傑作も描いています。『鉄腕アトム』の博士たちもかなり医者のような感じがあります。

『サイボーグ009』の、001の父、またギルモア博士らも、サイボーグたちを創造した存在です。その罪をわかっている人もいます。

『Dr.スランプ』の千兵衛も撃たれた熊をサイボーグ化して治療するなど、その科学技術は医にも転用できます。

 また赤ん坊のターボが、実は異星人のUFOに轢かれて致命傷を負い、異星人が治療をしてくれたのです……死ぬよりまし、とリスク承知の特殊治療をした結果、ターボは強大な超能力と超高知能を持っています。それこそ001とほぼ同じです……精神構造があれほど異質ではなく、長時間の眠りを必要としているわけでもなく、両親の家庭で普通に育てられているだけで。

 

『叛逆航路』の後半に登場する医者は、危険なインプラント除去手術を命じられ激しく抵抗します。権力の命令と医者の倫理が葛藤したのです。それこそインプラント技術を根幹とするラドチ帝国にとって、医師は絶対に欠かせない存在です。

 さらに医者には学者としての知識もあります。学者として優れていれば、その能力を転用すれば生物兵器を開発することも、また治療することもできるのです。

 そのように医学はサイボーグ技術、バイオテクノロジーにも近く、多くの天才科学者が活躍することにもなります。

『マルドゥック・スクランブル』の博士たちは典型的なマッドサイエンティストの雰囲気をまとっています。また、「O-9(オー・ナイン)」、戦時に容認された極端な人体実験・人間改造の罪を免責する・生きることを認めるかわりに公に奉仕し有用性を証明せよ、という法システムが、作品の根幹になっています。有用でなければ死、という社会の残酷さでもあり、『アノニマス』は安楽死設備にウフコックが入れられます。

『スーパーロボット大戦OG』ではDC残党の一人である科学者が一ステージのボスと言っていいほどの勢力を誇りました。

 

 医の技術で行われる最大の悪の一つとして、脳を交換することによる長命もあります。

『ヴォルコシガン・サガ』ではマークが襲ったのが、クローン農場でした。被害も大きく敗北した、一瞬の満足にしかならない……けれど、ほんの何人かでも、生かすことができた。それこそその責任で職を失った艦長の一人さえ、だからあまり気に病むな、というほど道徳感情を満足させます。

『反逆者の月』も敵側の主要人物は、脳を交換することで長命を維持し、医療技術を持つもっとも邪悪な一人はその技術を武器として支配力をふるいました。その結果、主人公はヒロインの母親の体を殺し、焼き尽くし、と口が裂けても言えない秘密を抱えました。

『ヤマトよ永遠に』の暗黒星団帝国は、脳を移植するための体として地球人を求めました。

 

 さらに科学者、技師、となるとあまりにも膨大な話になります……それはまたいつか。

 

 

 話を戻します。どれだけ下等な動物であれば、001手術をしてもよくなるでしょう?犬やサル、イルカやタコでも筆者の心はダメだと言っています。ほぼ確信をもって、今の地球人の大半は許さないでしょう。

 自然死した男女の孤児の生殖細胞を受精させ人工子宮で育て、中絶が許される週の胎児であるうちに001化するのは?意識がある人間は誰も傷つけていません。

 そのまま生存する希望がない、生来脳に障害がある子であれば?

 

 さらに、たとえば犬に001手術をしてさらに脳とコンピュータを直結することで、IQが何千もの超知能人間と同様に言語・数学を操れるようになった存在がいたら……

『シリウス(ステープルドン)』が示した問題もありますし、さらに「超知能犬」のほうが人間より優れているとして、人間が「超知能犬」の指導に従うでしょうか?

 さらに犬の知能、何を目的とするかは、人間とはかなり異質になるでしょう。

 

 人間は絶対ダメ……また、そのままでは生存できない、人間とも全く違う、脳だけが巨大な遺伝子操作生物であれば?

 脳細胞だけを膨大な数培養してつなぎ合わせた代物なら?線虫の脳細胞なら?

『現実』の今の人類も、ゴキブリの脳と機械をつなげてゴキブリを操作してみたり、サルの脳に電極をつなげてロボットアームを操作させる実験をしたりしています。それは容認されているのです。

 何を、どれだけ容認するかは常に生命倫理学の問題になるのでしょうが。

 

 また、精神病を治療することは?

 アメリカなどでは多くの、上の方の子供は向精神薬を与えられておとなしく勉強している、という話がありますが、それは?

 生まれたときから、額に当てれば考えるだけで動画もゲームもできる高性能スマホを赤ん坊に与えるのと、001手術はどれぐらい違うでしょう?

 それどころか、メガネを与えるのとサイボーグ手術はどう違うのでしょう?義足は?鉄の肺は?人工心臓は?ワクチンは?

 

 それこそ、「頭のよくなる薬」と「001手術」をどう区別できるというのでしょう?

 

 さらに、その手術を容認するかどうかが、人類の存亡にかかわるとしたら?

 やらなければ人類は衰退していく、また別の人類の方が速く進歩して置いて行かれてしまう、としたら?

 戦争のためなら人間は相当なことができます。アメリカが放射能や梅毒について実験したように。731部隊も、戦争のためだと言われたから平気でやってしまったのです……完全に平時だったらあそこまでやりたい放題できたでしょうか?

 それこそ『復活の日』や『航空宇宙軍史』は戦争のためだからこそ、人類滅亡のリスクでもとんでもない悪でもやってしまうのです。

 戦争ではなく、文明間・種族間の競争であれば?参考になるのは、明治維新をはじめとする、世界各地の英米以外の文明が、英米の産業革命・近代文明を真似ようとする努力でしょう。

 

 どこまで?どこに一線があるでしょう?

 それが人類、地球の生命の存続に絶対に必要だとしても?

 

 001手術は、倫理、誰かを傷つけるから悪なのだ……それ以外にも否定する声があります。

 要するに、ギリシャ神話のフィブリス……傲慢の罪。人が神の特権を犯そうとする罪。

 手段として間違っている、絶対に失敗する、という警告。

 大量の鉄を作るために農家それぞれに製鉄所を作らせたり、敵軍を倒すためにトランプ占いや生贄儀式に頼るのと同じく、失敗するに決まっている手段。

 膨大な星新一作品もそれを強調します。

『火の鳥』も『復活編』や、『未来編』の猿田博士の複数の失敗、他にも多く。

 特に日本の、古典的な昔のSFでは、傲慢の罪を罰するという神話と共通する話がとてもたくさんあります。

 上述ですが、冒険小説のプロットで、とんでもない宝・超技術を手に入れようとして悪党と戦い、最終的に確保したのに捨てる話も膨大にあります。

 

 科学技術は、問題を解決するための正しい鍵、武器、手段ではない、という、多くのSFに共通する主張。

 本屋や図書館を筆者がぶらついて本や週刊誌を読み、ネットをぶらつく限り、おそらく日本人の、活字でものを書いて収入を得ている人……賢い人の多くが、たとえば気候変動問題を科学技術で解決することには反対している。気候工学は考えることも禁止したいほど。軌道エレベーター、宇宙開発は絶対にできないしすべきでもない。

 という、感じを筆者は感じている。

 

 では、逆に技術を用いず、マルクスでもなく、本田勝一でも斎藤幸平でもなく、人類が上の段階に行くというのはどのようなことでしょう?

 本当に人類全体が改心し、子を正しく教育し、資本主義を捨てて正しい経済となり、工業を捨てて正しい生産になり、本当にすべての人間の心が圧倒的に良くなった……それはSFとしても考えられるのでしょうか?

『断絶への航海』のように、要するに親が子に教える憎しみなしでロボットが受精卵から育てればいいのでしょうか?

「それをやったら絶対に失敗する、絶対に破滅する」という確信。それは単なる思い込みで、絶対の真実ではないのでは?

 SFが人の心に叩き込んでいる「真理」は本当に絶対正しいのでしょうか?

 

 実は、筆者は筆者自身の道徳感情や、科学知識が本当に「正しい」、あるいは「日本人の多数・世界のSFを読む階層の多数・世界の知的階層の多数と一致している」自信はありません。

 筆者は、あまりにも誰も同意してくれないことを多く信じているのです。「宇宙船地球号には救命ボートがない」「定常文明?リンや銅が尽きたら終わりだ」など。

 

 

 人類、地球人が、今の「ホモ・サピエンス」よりも上になる。ポストヒューマン。

 以前もある程度、特にそれに反発する人の動きから解説しました。

『デューン』における厳しい禁止など。

 また、ストーリーそのもの、作者・編集者・読者が嫌うようでもある……『タイラー』や『月は無慈悲な夜の女王』などでは人工知能が消滅する。

 

 人類が今より上になる、ということを強く探求した……

 古典に結構多くあります。『幼年期の終わり』や、小松左京『神への長い道』『継ぐのは誰か』。

 人間以上の存在に統治される、アシモフのロボットシリーズ。

『人間以上(スタージョン)』も古典です。

 人が直接、医学などで極端に賢くなるのは『理解』があるでしょう。

 今の人類がイメージする、今の人類よりずっと頭がいい存在とは違う方向性……特にレムの『ソラリス』『砂漠の惑星』に顕著です。『幼年期の終わり』や『ブラッド・ミュージック』も異質な方向です。

『スタートレック』にも、明らかに地球人と相互理解が無理な種族は多くあります。

 短編でそういう異質性が高い異星人は多いようです。

 

 考えてみると、遠い未来なのに、戦艦に乗っているのが今と変わらない外見・精神性の人間であること自体がおかしいのです。

『火の鳥 未来編』の人類も、精神も肉体も今と違うようには見えません。

 

 人とコンピュータの融合・シンギュラリティによる超知能もそれなりに多くあります。

 

 人間そのものを向上させるには、方法としては「サイボーグ、脳~コンピュータの接続」「正しい優生学・進化を用いる」「人類の遺伝子を編集する」がまず考えられます。

『継ぐのは誰か』は、人類と並行して進化した、別の能力を持つ亜種が未開地域に隠れて生きてきた、です。

 また、人類の向上といっても色々な方向が考えられます。

 単純に、より優れた知能を持つ。

 超能力。ニュータイプ。

『ファウンデーション』の第二ファウンデーション人はある意味超能力者です。

 ニュータイプはずっと可能性と言われますが、常に否定されて終わります。

 体力を強くする……それもサイボーグがあり、また動物と融合するなどもあるでしょう。

 作品名は忘れましたが、格闘ゲームのコミカライズに、ネオテニー・幼形成熟である人類をいじることで、全身に毛が生え大型化し筋力も強くなった人間、というのがあったと思います。『天冥の標』の甲殻化した人間は、病気への適応であり宇宙への適応でもあります。

 というより、『ドラゴンボール』では人間も普通に科学文明、戦車などがあったのにピッコロ大魔王にも対抗できませんでした。対抗できたのは少数の武道家です。ですが後のドクター・ゲロは、機械だけでもそうしようと思えばフリーザぐらいまでなら倒せました。

 

 以前の『現実』の人類が人類の向上と言えば、二十世紀前半では人種としての純化が大きい意味でした。それ以前では宗教・精神・道徳の物差しでした。

 

 思い出せないのですが、人間を本当に「善人」にしてしまうという改造は?それこそ、善そのものの意味、自由意思を失わせてしまう、限りなく強烈な危険がある技術です。『時計じかけのオレンジ(アンソニー・バージェス)』がそれでしょうか?

 人間に信仰を与える改造……それこそ究極に宗教・信仰の意義を消し飛ばします。思い出せません。

 

 人類自体が主役から降り、次の存在に主役を譲る……ロボットや、人類の遺伝子改造でもそうなります。

 その変形が『火の鳥 未来編』のコンピュータ頼りでしょうか。他にも同様なものは多くあります。

 

 長い年月での自然進化。

『タイム・マシン』のモーロックとエロイが元祖でしょうか。

『都市と星』ではダイアスパー人もリス人も、かなり今の人類とは外見が違います。精神も。

『地球の長い午後(オールディス)』では逆に、原始的で知性もわずかな状態です。普通なら退化と言われるでしょうが、絶滅していないのは適応して進化しているということです。

 進化、突然変異を促進するために、人は作物などであれば放射能などを使います。

『火の鳥 復活編』で事故があったのはアイソトープ農場でした。

 

 サイボーグ、それ自体が実に膨大なSFのテーマであり、これからの科学技術・生命倫理の重要なテーマとなるでしょう。今はざっと流すしかできません。

『サイボーグ009』が中心的ですが、それこそSF史でのサイボーグ自体がもっと古くから膨大でしょう。さらに思想史に属する話でも。

 宇宙戦艦作品に話を絞っても膨大です。かなり多くの作品ではインプラント・遺伝子改造が当たり前なのです。

『目覚めたら~』も、貴族は高水準の改造を受けており、だから実際に知的能力も戦闘能力も平民からは隔絶しています。貧困層でも言語インプラントは入れており、それを持たない主人公は異様でした。

『ヤマト』でさえも真田の両手足は爆弾入りの義手です。

『紅の勇者 オナー・ハリトン』のオナーも体の一部を失っており、捕虜となったときには医療資源が少なくなるので余分な苦痛を味わいました。

 技術水準が低めの『銀河英雄伝説』でも義手技術は当たり前になっています。

『若き女船長カイの挑戦』でも触手状の手に改造されたサイボーグが主要人物にいます。また多くの人は脳のインプラントで活動しており、主人公はインプラントに関して長くトラブルを抱えます。

 

『叛逆航路』はインプラント技術が根本にあります。普通の将兵でも多くは何らかのインプラントを持っています。そして本来の人格を完全に消し、膨大な人数が艦と一体化する「属躰(アンシラリー)」という衝撃的な存在。また皮肉にも、皇帝アナーンダ・ミアナーイも各個体は属躰に他ならないのです。

『マルドゥック』シリーズこそ、徹底的に人間以上の知性を追求したと言えるでしょう。

『CYBERブルー』では、殺された主人公を助けるために古いロボットが自分と人間を一体化させ、サイバービーイングとなりました。後には強力なバイオビーイングとの戦いになります。また、上述ですが電話でパスワードを言われただけで普通に暮らしていたウェイターが暗殺者になる、また薬物によって女性が強大な筋肉になるなどさまざまな人間改造があります。

 注意深く色々な作品を読めば、薬物を用いる人間改造も多数あるでしょう。

『宇宙軍士官学校』の、皮膚接触だけで脳に膨大な情報が常に出入りする状態は、どれほど自然と言えるでしょう?

 

 上述の、人の脳だけ取り出して培養することもある意味サイボーグでしょう。

『キャプテン・フューチャー』はそれでやっと生きている人もいますが。

『目覚めたら~』でも最近はそれに近い部品扱いの存在が登場しました。

 

 それこそ自爆爆弾を体に入れるだけでも、ある意味サイボーグと言えます。膨大過ぎてすぐに思い出せるものではありません。

 

 遺伝子改造と、サイボーグはどう違うでしょう?さらに特別な徹底した訓練で人間とは別物にしてしまうのは?記憶や人格を薬物などで変えることは?

 

 上記の精神支配技術、また『デューン』で機械に頼らずやっているように交配制御、徹底した訓練でも事実上人間とは別物と言えるほど相当なことができてしまっています。

『彷徨える艦隊』の、シンディックの秘密警察で特別な「ヘビ」と言われる人はもう人間とは別の何かです。

 平井和正作品でも、さまざまな組織の工作員は人間とは別物の何かと言えるほどです。

 

 膨大過ぎる人間の遺伝子改造。

 上述ですが、『エンダー』のビーンは禁止された医学実験の産物、まさに001です。だから上層は抹殺を考え、人類の滅亡を防ぐために活用しているにすぎません。

『スコーリア戦記』の敵側の貴族は遺伝子改良で作られた知能の高いサディスト。まさに人間を支配するための上位種です。

 外見などでかなり極端なのが『ヴォルコシガン・サガ』のクァディー。『自由軌道』という同じワームホール・ネクサスの単独作品でその創造が描かれます。両脚も腕と同じ部品で、脳や内臓も無重力環境に適応しています。また、セタガンダ帝国は遺伝子によって王族を向上させることが最重要の国家の使命のようです。

 誰もがほぼ人間に見える『彷徨える艦隊』ですら、髪色を緑に遺伝子改造した人がいます。

『魔界学園(菊地秀行・細馬信一)』では、バイオサイボーグ、機械ではなく生物的に改造された戦士が登場します。体から突き出た骨が槍と化す、強酸の体液を吹きだす、など。

『星界シリーズ』では、それこそアーヴという生体部品だった遺伝子改造種族が一方の貴族階級で、だからこそ人類の改造を許さない敵と絶滅戦争になっています。

『ガンダムSEED』も遺伝子改造から絶滅戦争が生じています。

 

 知能でなく、嗅覚が犬のように優れている、でもかなり力になるのです。

『ヴォルコシガン・サガ』の上記のタウラは、マイルズの結婚式の贈り物の匂いに気づいたことで暗殺を防ぎました。

『ネアンデルタール・パララックス』ではネアンデルタールは嗅覚にも優れ、だからこそヒロインを犯した犯人を容易に特定できました。

 さらに、嗅覚が犬のよう、などでも精神そのものも人間とはかなり異質になるでしょう。

 

 超能力も膨大過ぎて……

 特に予知能力は上でかなり考えましたが、人間にとって重大すぎます。それ自体人間は、上位存在として服従する根拠にさえなってしまいます。

 精神支配能力も決定的です。

 予知以外の念力などの超能力もアクションシーンなどで重要になります。

『タイラー』の、組織の実験体の一人は強力な超能力を使うようにもなっていました。

 

 人類がサイボーグ化で、高い計算力や強大な運動能力を持っている……これも無数にあるでしょう。

 人間の計算力を極限まで上げることを目的にする、では『量子怪盗』が一番極端でしょう。それこそ地球サイズのダイヤモンドコンピュータを、太陽の資源を材料に多数作っています。その目的はロシアの特殊な思想です。ですが、昔「龍」と言われる異常な機械知性を作って滅亡しかけたことから、かなり保守的に量を追及したり、別の道を歩む「ゾク」の宝に頼ったりしています。

『啓示空間』シリーズ、特に『カズムシティ』も高い計算力が見えます。

 

 人間とは違う生物を改造する、知性化というのも多くの作品に出てきます。

 それは有用な道具を作るためで、人間以上を作るためではないことが多いようです。

『知性化シリーズ』はまさにいくつかの動物の知性化と、それをした知性化されていない地球人が問題になります。

『宇宙軍士官学校』でも恵一が粛清者の勢力圏で、粛清者に抑圧されている知的生命になりかけの動物との相互協力が、上位種族には知性化したと評価されます。

『禅銃』や『啓示空間 シリーズ』では上述のように人間のような知性にされた動物が多く出てきます。

 

 さらに、人類の子孫の一種として、人類が作ったロボット・アンドロイドがあります。

 そのロボットがより優れた計算装置・プログラムを設計し生産したらシンギュラリティ、計算力が人間の想像を超えて歴史が異質になるとも言われています。

 これもまた膨大過ぎてすぐにリストを作ることも無理でしょう。

 

 ここで重大な問題が出てきます……それらの方法でどれほど人類の高い知能の延長を作り利用しても、IQは生存、向上になるとは限らないのです。軍事・政治指導者としても、研究者としても。

 

 賢い指導者なら正しい作戦で勝利する、というのが人類の、当然の前提・常識です。

『エンダー』はそれこそもっとも賢い人間を選び出します。

 ですが、『宇宙軍士官学校』で優れた指揮官となったのは学業成績は平凡だった恵一であり、エリートであったリーは放校されました。

 また上述の、アンドリュー・フォーク。

『現実』のレイモン・ポアンカレ、第一次世界大戦当時のフランス大統領でアンリ・ポアンカレのいとこ。

 そして第二次大戦時の日本両軍、ナチスドイツの最高幹部たちも超高知能の集まりであり、徹底して誤りました。

 ベトナム戦争時の、ケネディを中心としたベスト&ブライテストも超優秀人間の集まりで国を誤りました。

 他にも、超優秀人間を集めて失敗した例は多くあります。

 少なくとも、軍事的才能、格闘技の才能、知能は完全に同じではない。それどころか、研究者としても……『現実』で、ノーベル賞受賞者は超最高学校ではなく、一段落ちる学校を出ることが多いとも聞きます。

 

 科学者も戦力を大きく変えますが、それも知能だけでしょうか?それも問題になります。

 また高知能の科学者を多数育てたり生産したりして、研究費を集めれば本当に成果を出す、軍事力・経済力を強め文明を前進させるか……それも疑う人がいます。

 最近筆者が多く読むのが、特にマット・リドレーが強く主張する、産業革命は科学と関係ないし、マンハッタン計画・アポロ計画のように国が大金を出して天才を集めて大発明を作るというのは間違っている、という考えです。

 

 また科学が本当に限界なのだとしたら、どれほど多くの天才がいても無駄です。

 

 以前、物量・科学水準などが戦力として有効とは限らないという話をしましたが、IQも同じことが言えるのです。

 これは進化そのものについての誤解、西洋文明の傾向ともかかわるでしょう。

 西洋文明は人類、中でも西洋白人が最高の生物としました。それは神から鉱物に至る地位階梯もふまえています。

 しかしダーウィンたち、ちゃんとした進化生物学者は、知能・戦闘力が高い動物が優れているわけではないことはわかっています……生き延びた生物が勝ちなのです。

 IQでも勝てるとは限らないのです。勝った存在の能力が正しいと言えるのです。

 

 向上……それは戦力、生産力だけでなく、道徳だという人も多くいます。

 また、宗教を物差しにする人も多いでしょう。いや、今の地球人でも多数派でしょう。

 

 さらに技術を使うか否かにもつながる、重要すぎる問い、善と悪。

 

 悪があるからこそ正義があります。

 悪の帝国がなければ物語になりません。

 物語という、人類のもっとも本質的な特徴、精神構造の根幹が、善と悪の構造でできています。

 

 悪とは、善とは。

 これもどれほど追求してもきりがないとんでもない問題です。

 黄金律、「自分自身を愛するように隣人を愛せ」「自分がしてほしくないことを人にするな」が善でしょうか?

 それをとことん追求した宇宙戦艦作品はあったでしょうか?

『宇宙軍士官学校』では、生存という正義を疑うなと演説されましたが、今の地球人で生存という正義に仕えている人はどれだけいるでしょう。『復活の日』では徹底的に否定された正義です。

 他にも無数の、あらゆる主人公たちの正義。それのどれが本当に正義でしょう。悪役のどれが本当に悪でしょう。

『ガンダムUC』のサイド共栄圏、『ガンダムSEED』のデスティニープランなどは、その内容をしっかり検討することなく提唱者が悪役だから否定されている、という批判があります。

 

 前も精神論の話で少し触れましたが、軍事の世界では多くの「悪」と、「間違い」があります。「間違い」は敗北につながり、また味方を無駄に死なせる、ついには人類の滅亡にさえつながるため大きな悪と言えるでしょう。

 ミリタリSF、特に『銀河英雄伝説』のヤン、『タイラー』、『宇宙軍士官学校』の恵一やケイローンは、実際の軍が悪を利用して統治していることの逆を描いているとも言えます。

 

 ……それこそすべての作品における「善」と「悪」をリストアップする必要があります。気が遠くなる……今回は無理です。

 そして何より肝心なのは、人間はつい「正義は勝つ」と思ってしまいます。ほとんどのSFも結局は正義が勝ちます。

 正義が勝つ、という方向に心を引きずる引力はすさまじく、それは精神論ともなります。

 しかし、現実には正義が勝つとは限らないのです。

 

 

 人間を改造する、001手術……それはあらゆる悪の中でも特大です。

 しかし、001なしで、「黒い幽霊」と科学者たちの蛮行なしに、あの世界の人類は滅亡を免れることができたでしょうか?結果論に過ぎなくても?

 

 科学技術と、人類の精神。

「近代文明の人類は、科学技術ばかり発達させたのに、精神が進化していない。精神も成長させなければ自滅してしまう」

 これはSFでも社会評論でも、膨大に受け取るメッセージです。

 でもどうなればいいのでしょう?

 人間を機械にせよ遺伝子にせよ改造してより賢く、さらに善良にする。

 それはあらゆる人に否定されるでしょう。

 ではどうしたいのでしょう?

 特に20世紀前半には、多くの思想家たちが人類の、西洋文明の前途を憂いました。『西洋の没落』が代表でしょう。

 日本もその影響を受け、独自に「近代の超克」という、今では軍国主義の一部として非難される知的活動を起こしました。

 ロシアなども含め、神学の側に行く思想も多くあるようです。その思想のごくわずかしか筆者は知らないでしょう。

 さらにそれは人種妄想とも結びつき、悲惨な戦争を招いたものでもあるのです。

 それこそ共産主義自体が、人類を向上させようという理想です。

 この何十年かの日本の、本屋や図書館、活字の世界では科学技術文明を否定する声が無数にあります。封建的な旧来の人間集団も、資本主義も、近代工業も否定した……それはマルクス主義の理想の共産主義でしょうか?何かその理想が実現すれば、人間は完全になるのだと言わんばかり。いや、徹底して何もかも否定しまくるばかり。

 

 

 筆者は、以前から「倫理・善悪の最終根拠に、滅亡防止を置くべきだ。人類、人類が無理なら『火の鳥 未来編』で猿田博士が言ったようにどれか一つの生命でも。それすら無理なら、人類や地球の生命が作った美しいもの何かひとかけらでも」と主張してきました。

 それは、ハンス・ヨナスの、「汝の行動の結果が、人類の純粋生命の永続につながるように行為せよ」とも大きく共通します。筆者とは違いもありますが。

「ウィルソンによれば、いやしくも新しい道徳率を表現しようとすれば、三つの価値観がなくてはならない、という。第一は、人間の遺伝子プールを長期にわたって生存させること。第二に、そのプールの多様性をはかること。第三は、人間の普遍的な権利を守ること、である(科学と宗教 J・H・ブルック。エドワード・O・ウィルソンより)」とも似ています。

 

 しかし、『三体シリーズ』はそれに容赦のない反論をぶつけてきたのです。

 不可能。良かれと思って。

 空間湾曲技術の禁止・木星を盾にする計画が滅亡につながる道だったとは、考えてもわからなかった。

 良かれと思って、人類の滅亡を防ぐためにとやったことが、人類の滅亡につながった。

 タイムスリップでよく言われます、時間旅行者は、木の葉一枚裏返しても、小石一つ蹴ってもいけない。蹴って動かした小石を、数日後に妊婦が悪く踏んで転んで流産、その腹の子がアインシュタインかもしれないしヒトラーかもしれない。

『雷のような音(ブラッドベリ)』、映画化名「サウンド・オブ・サンダー」……わずかに道を外れ、蝶一匹踏みつぶしたことが、未来では巨大な影響になる……アマゾンの蝶の羽ばたきが時間がたてばハリケーンにもなる、バタフライ効果。初期条件に鋭敏に依存する、ごくわずかな違いがはるか先には巨大な違いになる、実質予測不能な現実世界。

 どんな小さな言動、意識できない唇の端のわずかな動きでも、将棋で言えば何百手も先に、人類の滅亡につながるかもしれない。

「こんなことをしたら人類の滅亡の確率が上がるだろう」と、ある実験を中止したら、それがまさに人類の滅亡の原因になるかもしれない。

 わからない。人間は全知ではない。

 ほぼ間違いなく、どれほど進歩し進化したポストヒューマンも、全知ではない。

 

『三体3』のチェン・シンは二度の過ちで人類を滅亡させました。ですがアイ・AAは自意識過剰だ、と言います。

 もっと根本的には、不可能。全知でないなら、何手も先に良かれと思ってがありえる。だから責任はない……

 似ていますね、東日本大震災の原発と。想定外だから責任はない。

 でも、確かあの事故は、紙一重違えば関東全域も避難。そうなっていたとしても想定外にしたのは正しい、責任はない、で済んだでしょうか?

 太平洋を、単独無補助で泳ぎ渡ることができなかった、だから死刑だと言われても無理なものは無理。たとえ家族も死刑だと言われても、どんなに一生懸命でも、不可能は不可能。責任は責任だと言われても無理なものは無理。

 でも……

 

 不可能。無理。全知ではないのだからどうしようもない。

 でも何を考えても無駄、だから考えない?

 人類滅亡などまったく重要ではない?

 どんな結果になろうと重要なのは心が善意だったかどうか?

 違う、と確信できます。

 

 少なくとも、ヒトラーが、ポル・ポトが絶対に間違っていることには確信があります。

『三体3』も、傲慢は滅亡につながる、という真理を忘れたからです。

 神を、聖書を、少なくとも人類の前途について頼ることも間違いでしょう。

 今の、名前がない気がする「思想」、科学ではだめだ定常文明に、が多分間違っていることも確信できます。

 みんながやっている、そういっている、だから正しいんだ、に従ったら間違ったことになることが多いことも確信できます。

 

 膨大なSFが、また宗教が、本屋やネットで目にする文章が伝えてくる「真実」。

 何が本当の真実なのか……

 人権・人道、他者の尊重を捨ててはならない。違う意見にも寛容に。

 戦争では、物量が多ければ勝つ。また科学技術が高くても勝つ。情報と兵站をちゃんと重視するほうが勝つ。

 科学・民主主義・資本主義などに共通する、「自分も師も教会も全知ではない、だから間違いを前提にして修正できるように」。

「一つの籠にすべての卵を入れるな」r戦略、救命ボート。最悪の事態を想定する。

 疑うことを忘れてはならない。

 傲慢は滅亡につながる。

 ……まだ、筆者は間違えているでしょう。どんな間違いなのかがわかるのは『三体3』同様滅亡の日にならなければ、でしょうか……

 

 さらに、人類の存続のためであれば、本当にどんな残酷なことも正当化されるのでしょうか?『航空宇宙軍史』のイルカのように?

 彼らが失敗したのはたまたまであり、本当に悪行をしたら滅亡する、とは限らないのでは?

 

 今温暖化などで言われる、長い視野で考える…

 その極端な形が播種船であり、徹底的に人を道具、手段とすることです。

 本当に、善悪と、人類の存続が矛盾した時にはどうするべきでしょう?




本当に、サイボーグも、超能力も、善悪も……何もかもほんのさわりでしかありません。これからじっくり調べていくつもりです。
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