『彼らはどこにいるのか(キース・クーパー)』というノンフィクション本で、SETIへのアメリカ政府予算支出を中止させたい無駄切り政治家と推進したいカール・セーガンの会話の話題がありました。
核戦争での滅亡を恐れている、このことは二人に共通しました。だからセーガンは、何万年も続いている文明から知恵を借りたいんだ、と言いました。
その政治家はそれで説得できたそうです。まもなく別件でSETI予算は切られましたが。
『三体』を始めたのは、地球人の何人かの、地球人に対する深い絶望です。
助けてくれ、もう嫌だ、という悲鳴を、神のかわりに三体人に向かって投げたのです。たとえ地球人が皆殺しにされ地球を奪われてもいいというほどに。
それこそ『ヤマト』はコスモクリーナーというアイテムを手に入れて放射能汚染で滅びを前にした地球を救うため旅立ちました。
秦の始皇帝も海の向こうに不老不死の薬がある、と大金を出しました。騙されて怒ったことが坑儒のきっかけでした。
日本古代史そのものが、中国からあらゆる知恵、支配のための法や宗教や技術や芸術を輸入することでした。
それは反転すると『火の鳥 太陽編』の残忍な征服者である仏たちとなり、『鳳凰編』の残虐な搾取による大仏となります。
古代においては、多くの国が外から知恵を輸入したのです。
それらは上記の、上位存在を求める心でもあるでしょう。
そのような接触も、様々な言葉で整理できるでしょう。
ファーストコンタクト。
貿易、商人、密輸、海賊、留学、旅行、人質、捕虜、奴隷、移民、棄民、民族浄化、出稼ぎ、漂流、人命救助、征服、開拓、バイオパイラシー、略奪、同盟、外交、派遣軍人、通信、条約、布教、巡礼、生贄……膨大な人の営みが関係します。
生物が、情報が、物資が動くことが。
もとより、SFの中心的なテーマは、別の何かとの接触。
今自分が生活している、習慣、普段見ていること、知っていることと異質な、「外」を知る。
その極端なものがファーストコンタクトであり、宇宙からの侵略者との戦争でしょう。
ファーストコンタクトや防衛戦争は「別の何かとの接触」の一部と言っていいでしょう。平和的な接触であっても接触なのです。
ファーストコンタクト……それこそSFの中核ジャンルであり、そのリストはそれこそ調べたほうが早いでしょう。それこそそれだけで一冊の本ができるでしょうし、英語には『Encyclopedia of Extraterrestrial Encounters(未訳のようです、未読)』が見つかりました。
『三体』も、『宇宙戦争』もファーストコンタクトが中心です。『スタートレック』『宇宙船ビーグル号』も多くのファーストコンタクトがあります。
最悪のファーストコンタクトが『イデオン』であり、ほかにも多くの悪いファーストコンタクトがあります。
『幼年期の終わり』『ヤマト』『星界シリーズ』『宇宙軍士官学校』『エンダー』『スーパーロボット大戦OG』『マクロス』『エヴァンゲリオン』『蒼穹のファフナー』など多くの作品もファーストコンタクトからしばらく過ぎてからの作品です。
『銀河英雄伝説』の、帝国が同盟を発見したこともある種のファーストコンタクトでした。
『深海のyrr』など、生物・怪物系で、実際にはファーストコンタクトなのに人類が長くそれに気づかないケースもあります。
『人間以上』『シリウス』『ブラッド・ミュージック』『月は無慈悲な夜の女王』のように、人間世界の中から人間とは別の何かが出現することもファーストコンタクトの一種でしょう。
ファーストコンタクトは歴史用語でもあります。
コロンブス。人類史上おそらく最大の事件。
何万年も接触がなかった、存在も知らなかった地とその住民との接触。
その後も、大航海時代にヨーロッパの船は、主に太平洋の多数の島やオーストラリア大陸を訪れ、その人々と「ファーストコンタクト」していき、そのたびに悪の限りを尽くしました。
その悪のかなりの部分は、意図的ではない、病原体によるものでした。
そして多くの善意・正義感の類も、すさまじい悲惨を生んだのです。
それこそ『三体』では、架空と言われる研究書で、異星人文明が存在すると知っただけでも、地球人全体が非常に悪い状態になる、と言われました。その悲観的な感覚は暗黒森林説に拡張されていきます。
前回強調した、「別のモノサシ」にもなります。殴られるという言葉を使ったほどに衝撃的です、それまでの価値観が通用しなくなることは。
似た現象として、気候変動・ワープの法則の変化などわかりにくい質的変化もあります。
『現実』の伝播の話を考えると、『現実』の地球表面そのものの面白さがでてきます。
もし、今と違う……白紙に幼児が好きに書いた地図、あるいは遠い過去・遠い未来の地図として見ることができる大陸移動による別の大陸配置、有名なRPGやファンタジー作品の地図からスタートさせれば、人類と生物種を同じにしても歴史の流れは違うでしょう。
それこそ、『現実』の地球の大陸配置に些細な違いをつけただけでも、適当に大規模鉱山を恵むだけでも、相当な違いが出ることでしょう。南北アメリカを切り離せば、オーストラリア大陸を少し南北に動かせば、それだけでも気候や生物にとんでもない違いが生じます。
いや、生物種の配置そのものが、大陸配置に強く支配されているのです。オーストラリアの有袋類をはじめ。
『銃・病原菌・鉄』ではユーラシア大陸の温帯部が東西に長いから、作物や家畜が伝播しやすい……南北に長いアメリカは伝播しにくい、それが歴史そのもの、特にスペインがインカに船で行って攻め落としたのであって逆ではなかった主因としました。アセモグルの「地理ではなく制度であり、制度は偶然だ」も、そのことを否定するほどではないでしょう。
最も大きなユーラシア大陸、それ自体が昔からいくつもの領域に分断されます。
大きく見れば北ヨーロッパ、アルプスで分断された地中海、ヒマラヤとイランからアフガニスタンの山々で分断されたインド、ヒマラヤ・砂漠・深い森で分断された中国、そしていくつもの山や広すぎる荒野で昔の人が大人口・文明を保つことができなかった今のロシア領をはじめ北のほう、と。
アフリカ大陸もナイルはかなり分断された地であり、またサハラ以南はそれ以上に固くサハラ砂漠に分断されていました。
アメリカ大陸は中米は山脈、また南米は森と山脈でいくつにも分断されています。
オーストラリア大陸も異様なほど、ユーラシア大陸に興亡した多くの文明を寄せ付けませんでした。東南アジアの熱帯雨林諸島が伝染病地獄だったこと、赤道無風帯……赤道は風に乏しく帆船にとって厳しいこと、オーストラリアの、地球儀で見る限りではアクセスしやすい北西側の岸が荒れ果てて上陸・生活が厳しかったことなどでしょうか。
そのユーラシアの大地だけでも、いくつもきわめて重要な通路ができてしまいます。しばしば「文明の十字路」と言われます。
ちょうど『銀河英雄伝説』のイゼルローン要塞のように。
イスタンブール=コンスタンティノープル。地中海と黒海を結ぶ細い海峡を扼し、アジアとヨーロッパの境界でもある、難攻不落の天然の城にして港。
エルサレム、ダマスクス、アンティオキアなど聖書の舞台になったパレスチナの諸都市。エジプトと、チグリス・ユーフラテス川のメソポタミア、さらにヨーロッパ方面、アラビア半島、と結ぶまさに十字路。
メッカもアラビア半島、ひいては紅海からインドの航路、アフリカの角、ほか多くの富を中東につなげる要所です。
カイバル峠。インドと中東を分断する山脈の門。アレクサンダー大王が、ムガル帝国の祖が通った門。さらにアフガニスタンには、古代世界であまりに貴重なラピスラズリが出る……だからこそイギリスもロシアもアメリカも、アフガニスタンをあれほど求めたのです。
中国の秦、それ自体が西方への門でもありました。
それら障壁と門があったこと、その厳しさが、さまざまな軍、宗教、商品、伝染病の伝播を許しまた制限したのです。
日本史のかなりの部分は、日中関係史でもあります。同時に対アイヌ暴虐史でもありますが。
稲作の伝来自体が大陸からであり、同時に銅鐸など、金属の技術とそれを用いる祭儀……魔術という切実な戦闘技術も入ります。
『火の鳥 黎明編』では学会は否定しますが大陸の騎馬民族の征服説をとり、残忍な征服者による国家の始まりを描きました。そして最後のウズメの言葉にあるように、征服された側の女の力も。
日本の歴史が始まるころには多くの渡来民が活躍します。仏教も伝来します。
『鳳凰編』に登場する吉備真備も遣唐使として中国で学び、その知識によって日本で大きく出世しました。
また、奈良の大仏が作られた聖武天皇の時代には、中国から伝わった天然痘により日本人の大きい割合が死ぬほどの被害もありました。大仏を作ったことの動機でもあります。さらに金(ゴールド)の発見も大仏建立に大きくつながっています。
情報の伝達は、伝染病と同じでもあります。特に支配層から見れば。
実際、共産主義という情報はとんでもない被害を出しました。
しかし長い目で見れば、完全に封じるのは難しく、また封じ切ってしまうと別の世界での進歩に遅れて文明自体の敗北につながるのです。
伝染病も短期的には大きい被害が出ます……しかし避けすぎればより弱くなるでしょう。日本は奈良時代に天然痘でひどいめにあいましたが、だからこそ黒船が来た時にアステカ帝国のように滅ぼされずに済んだのです。
中国から帝国・天下という概念を学んだ日本は、中国の律令という支配システムを真似ようとしました。
同じように中国を真似る試みはベトナムや朝鮮の歴史にも多く見られます。
その中国は発信する側でしたが、同時に常に「西域」を意識し、そこからより優れた知識などを取り入れようとしていました。
かなり前に、胡服騎射、馬に乗って弓を引く、そのために服装も西の遊牧民を真似て変えることをしました。戦うために。
宗教の大きい部分が仏教という、ヒマラヤ・中央ユーラシアの砂漠を超えて運ばれてきた知識でした。
不思議なことに、キリスト教やゾロアスター教、イスラム教は中国ではそれほど強くはならない……ただし太平天国の乱はキリストの弟を名乗り、それ以前も白蓮教徒の乱など救世主の概念はかなりキリスト教的……し、ユークリッド幾何学すら入るのは16世紀、プラトンやアリストテレスは昔の中国の学問に全く形跡がありません。キリスト教ローマ帝国もササン朝ペルシャもイスラム帝国もギリシャ哲学の影響は強くあるのに。
西域との貿易は大きな利益にもなりました。
特に中国には、絹というとてつもなく価値がある輸出品がありました。
遊牧民の攻撃以外では、たとえば古代ローマ帝国の軍が行くことはできないぐらい障壁は高く何重にも続いていました。中国からもインドすら征服できたことがありません。
交易・伝播の歴史を見ると、絹・紙・鐙(あぶみ)などの伝播は恐ろしく遅いです。千年以上隠し通すことができてしまっています。
ガラス、古代ローマ式の水道橋、オリーブのように奇妙に広がらない作物・技術もあります。ブドウも有名な漢詩にありますが、不思議と中国での酒の主流ではありません。
古代ギリシャ・ローマは奇妙に弓を使いません。
紙の伝播は、戦争捕虜からと言われています。ほかにも多くの伝播が捕虜から生じているでしょう。
絹は、卵を杖の頭に隠し盗んだと言われます。ゴムなど南方のプランテーション作物の争奪戦も激しいものがありました。今もバイオパイラシー(生命海賊)という言葉は聞きます……先進国の企業、資本が残忍な悪行で遺伝子資源を盗み奪う。
地理的なこともあります……たとえばインドは農業生産は豊かなのに、馬を産することができませんでした。
それが、インドを征服する文明は多いのに、インドが出て外を征服したことがない理由でしょうか。
遣唐使、それから多くの学僧が日本から何度も中国に行き学びました。
逆に鑑真は来てくれました。
平安の仏教を作った空海と最澄。その後も多くの僧が中国に留学しました。
空海は仏教だけでなく、土木をはじめとした技術も伝えました。
僧以外にも、儒教を学び伝えた人も多くいます。ほかにも工芸に属することも。
留学……外国に行って、外国の進んだ学問を学ぶ。
これは人間のかなり重要な営みと言えるでしょう。
それは人質であることもあります。捕虜もあります。奴隷として拉致された状態から学んで運を開いた人もいます。商売でもあるでしょう。スパイとも関係します。救助が結果的に留学になる話もあります。
人類は家族に強い情を持つため、常に人質が有効とされます。逆に日本の戦国時代などでは、使い捨てられるように家族に情を持たないような構造を作ります。魔術・贅沢の論理も、家族との関係が希薄な生活を作ります。が、そうすると家族でも争うし、信用できる部下がいなくなります。
たとえばドラキュラとして知られるヴラド・ツェペシュもオスマン帝国の人質として学び、後に逃げて反旗を翻し戦い抜いたのです。
秦の始皇帝も人質であった父の子として先進国に生まれ、後に征服していじめられた恨みを晴らしました。
ヨーロッパの、古代ローマが滅んだ後の歴史で重要なテオドリック大王も、東ローマ帝国の人質として育ち、それゆえにローマの法などを支配下の人々に押しつけてヨーロッパ文明の礎を築きました。
高橋是清が奴隷として売られていたというのも有名な話です。
ロシアを近代国家に向けたピョートル大帝こそ、ヨーロッパに自ら留学し、自分自身が造船所で働いて近代文明を学んだのです。そうする下地は、権力など望めぬ半ば幽閉の子供時代に、近くにいた西洋の人々と接したことにありました。
ガンジーも留学し、そこでの差別から独立の決意と思想を育てました。
アナキン・スカイウォーカーが奴隷の子からジェダイ・アカデミーに行く……それはどうしても、トルコがキリスト教圏から優れた子供を半ば税として奪い奴隷とし、最高に教育して宰相や将軍にもしたことを思い出させます。出世した人の家族がいろいろ要求して腐らせることがない……成功も大きいですが、伝統的な集団だけに狂信的に従う彼らは近代化には抵抗し、皆殺しにするしかなくなりました。
『星界シリーズ』ではやや異例な形で爵位を得たジントがアーヴの中央に留学する、その移動自体が話の始まりでした。彼は自分をアーヴにすることを選んでしまったため、故郷や家族同然だった人たちとは別れざるを得ませんでした。
『銀河戦国群雄伝ライ』では姜子昌も飛竜も留学で学び、羅候も正宗の人質のような立場だったことがあります。また虎丸も人質・留学として羅候に預けられました……人質にできない性格を読み切って。
そして新五丈が智を支配したとき、智の支配層の若者を新五丈の中央に行かせて、人質であると同時に学ぶことによって新五丈シンパとして帰す、というとても長い目で見た征服の策略が行われました。
『ヴォルコシガン・サガ』ではマークが精神の治療を兼ねてベータに行ってそこで恋人と会ったことからその父親が大騒ぎしたりしました。
『スタートレック ヴォイジャー』のセブン・オブ・ナインも極端な存在です。普通の人間の子供がボーグに襲われ同化され、ボーグとの同盟でヴォイジャーに来て……裏切るつもりがしてやられ、ボーグから切り離されて人間に戻されました。価値観などが徹底してボーグで、人間であることは一つ一つ学ばなければならなかった、その苦闘がシリーズの中心となります。
国内でも先進地で学ぶこと、それは留学にも近いでしょう。
義経が兵法を学んだように。
特に戦前の日本では、たとえば郷里の神童を豊かな有力者が支援して上の学校に行かせ、出世した神童は故郷に錦を飾ることで返す、という構造もありました。中国でも科挙支援は大きな営みでした。
人質と留学を複合したシステムと言えるのが参勤交代です。
それに近いこと、地方の豪族たちを中央に集めて大規模儀式をしたりすることはあちこちにありました。
留学すると、どうしても別の価値観に触れてしまう、故郷と価値観・心の面で一つではいられなくなる、特殊な孤独になる……ジントのように故郷を致命的に失ってしまうこともあります。
それは精神を引き裂くものであり、最近のイスラムのテロリストも多くはその痛みが凶行の理由と言われます。
それこそ、別のにおいをつけて巣に戻されたアリが、容赦なく姉妹に殺されるような悲惨にもなります。
故郷の同胞に殺されるというならスパイ扱いもあります。
それで外と接した人が冤罪で殺されることも多くあります。
逆に、『三体』の地球三体協会のように本当に地球を裏切ることもあります。
江戸日本もジョン万次郎など、外に行って帰った人の知識を活用するどころか残忍に扱ったものです。
「穢れ」「不浄」の感情を法とした、という面もあります。
スパイは情報そのものを兵器・商品とする戦争であり、時には兵器以上の威力にもなります。
娯楽としてもかなり重要な小説・映画のジャンルでもあります。「権力の中核にいない個人」が個人の知恵と戦闘力で活躍できる地位であり、だからこそ個人ヒーローの活躍を描く、さらに探検が廃れたのちの冒険娯楽でとても愛されます。
いや、『火の鳥 未来編』で人類を滅ぼしたのはスパイが敵の中枢に仕掛けた水爆でした。『黎明編』も最初にスパイが村に潜入し、味方の軍を導きました。『太陽編』も未来側主人公はスパイであり、過去でも未来でもスパイのライバルとの闘いがありました。『ヤマト編』の、暗殺もそれ自体がスパイと密接に関係します。
『スターウォーズ』EP4とその前日譚も、デス・スターの弱点という重大な情報を味方に運ぶための苦闘、大きなスパイ作戦でした。
『レンズマン』のキムも敵に潜入したり、様々なスパイ行動をします。
『ローダン』でも多くのスパイ戦があります。
『ファウンデーション』のいくつかの話はスパイに近いものがあります。
『マクロス』ではむしろコミカルに、人型機で敵の巨人の服を奪って潜入しました。
『銀河英雄伝説』でもスパイ戦がかなり重要な働きをしました。過去におけるジークマイスター、また同盟のクーデター、幼帝誘拐、ユリアンの地球教潜入などはスパイの要素が強いです。
『銀河戦国群雄伝ライ』では太助が有能な潜入密偵であり、その戦死は雷を変えたとも感じさせています。
『ギャラクシーエンジェル』では敵が姿を変えて侵入したことがあり、その責任でタクトは艦を追われるところでした。
『ガンダム』でも潜入してきたミハルの悲劇などがあります。
『彷徨える艦隊』では複雑な経緯をたどるロマンスがあります。
アライアンスの士官の一人が捕虜になった。
人道的だったシンディックの捕虜担当士官と恋に落ちる。
そのことを知られ、スパイとしてアライアンスに戻される。
互いに祖国を裏切ることなく祖国にもスパイとして利用され、それでも恋心は変わらず、ギアリーの計らいでアライアンスの士官は、同盟を結んだシンディックから独立した国に駐留して連絡役として、恋人と結ばれるように……
極端なのが『三体シリーズ』のユン・ティエンミン。
三体艦隊と接触したい地球人……それこそ、裏切者がいてくれたらいいのに、と言った『戦闘妖精 雪風』の将官ほどに情報に飢えていた。だからこそ核兵器をうまく使って、病気で死にかけた彼の脳だけを三体艦隊に送った。
その彼は三体人の技術で治療され、多くの情報を三体側に伝えてあちらの文化を高め、また地球にも三体側の監視をくぐりぬけて情報を伝えた。……『三体X』ではややこしい真相が語られます。
だからこそ、ある程度軍事を知った国は、敵側の人間をスパイとして警戒し、自分たちを閉ざします。
日本でのシーボルト事件のように。また鎌倉幕府がモンゴルの使者を斬ったように。
人の行き来として、紙の伝播が捕虜からと言われたように、捕虜も重大な接触です。
秀吉の朝鮮侵略で、陶磁器職人を実質奴隷として拉致し、高水準の陶磁器が国産できるようになったことも一事が万事です。
他者、まして敵に対する憎悪、軽蔑、復讐心が強い地球人……多くは捕虜を残酷に拷問虐殺し、生贄にし、よくても奴隷として売る……だからこそ奴隷を得るために戦争をすることも……
しかし、その結果伝染病をもらったりすることもあります。それこそスパイのリスクもあります。
捕虜を返しただけでも膨大な情報を与えてしまうことになりかねないのです。
『銀河英雄伝説』では捕虜交換が重要なイベントになります。それまではスパイとして祖国に拷問されてきた帝国人捕虜をラインハルトは歓迎し、それゆえに軍の支持を強めた……。さらに同盟に帰した捕虜を寝返らせて計画を持たせ、それでクーデターを起こさせて、同盟をさらに弱らせ内乱への干渉を防いだ……。キルヒアイスとヤンの面会も影響は大きいでしょう。
『タイラー』はそれこそタイラーの艦がラアルゴンの艦に拿捕され、タイラーが自分を犠牲に部下を救った……一人で捕虜としてラアルゴンに行ったことから話が動きました。
ラアルゴンは捕虜を実験動物として拷問の末に解剖するのが普通であり、ペットとして献上されたタイラーの扱いは異例でした。
『彷徨える艦隊』ではアライアンスも捕虜を無造作に虐殺しようとしたことに過去から来たギアリーは驚き、今の軍人の心も変えていきます。上述ですが捕虜収容所のシーンも多くあります。
捕虜収容所では優先順位を見失う、軍人・アライアンスとしてのアイデンティティ、文字が許されず頭文字ごとに死者の名前を覚えるなどの苦闘も断片的に描かれます。
捕虜とした敵の指揮官との会話も多くあり、シンディックの体制の邪悪さと、それでも残る人間性が強まっていきます。
『ヴォルコシガン・サガ』の、『無限の境界』は上述です。その後もマイルズもマークも繰り返し捕虜とされます。
『銀河戦国群雄伝ライ』では、師真は練の捕虜は皆殺しにし、徴兵された部族の民は丁重に扱い返すことで敵を分断しました。出世したばかりの雷が捕虜を怒りに任せて皆殺しにしてしまったことが、痛恨の過ちとして彼を大きく成長させます。
『ヤマト』ではガトランティスが捕虜の返還を拒み特攻に至らしめた、それがガトランティスの残忍さと地球の道徳の高さをうまく表現しています。
ほかにも多くの作品で、捕虜に怒りをぶつけようとする将兵とそれを止める将兵、の構図はあります。
また、決して捕虜を与えない種族も多くあります。
『彷徨える艦隊』の謎の種族は捕虜になりそうなら徹底して自爆させ、ベア=カウ族は捕まったと知ったら指一本動かなくても自殺するよう身体機能も精神もできています。
ほか、『宇宙軍士官学校』の粛清者も決して生きた捕虜を得られません。『星系出雲の兵站』も敵の情報を得られず苦慮します。
近年のミリタリSFも、多くの異星人は連絡を拒み、捕虜を取られないようにします。
捕虜の扱い、それは近代西洋の国際法の重要な部分でもあります。
逆にそれが崩壊した第二次世界大戦や対テロ戦争の重大さ、精神的な変容もわかります。
『彷徨える艦隊』でギアリーは、残酷さは弱さだ、きちんと法を守ることこそ強さだ、と部下を説得します。
捕虜は、捕虜になる側も捕虜を取る側も、相手を理解してしまうのです。共感してしまえば、完全な敵であることが難しくなるのです。
ですが、それによる変化を封じきることも多くあります。『銀河英雄伝説』で帝国側の多くの捕虜が忠誠を守り、彼らが帰っても帝国が変わることがなかったように。
日本は遣唐使をやめました。
それまでの大きな流れとして、日本が朝鮮半島に進出して白村江の戦いで負け、当然唐に攻められると思った……のに来なかったことがあります。
それで日本は内向きになり、うぬぼれ、戦争国家だったのが変質しました。
日本は日本海というかなりの距離、水堀があるおかげで、大陸から取り入れる情報をかなり選別できます。
たとえば日本には、家畜の去勢・宦官がないのです。肉食・馬乳酒もないです。後にも科挙を採用しない、そしてカナ文字を作る、という違いがあります。
遣唐使をやめた日本ですが、学僧は行き来し、交易も増えていきます。
『乱世編』で描かれた平家の栄華の相当部分は貿易の利益であり、福原遷都も貿易を視野に入れたものです。
その平家が滅んだことにより、日本はより内向きになりました。しかし貿易は続いています。
特に、銭……銅貨、貨幣は日本は国産せず、中国から大量に輸入したことは特筆すべきでしょう。
元寇で戦争状態になったように思えても、それでも貿易はあったほどです。
室町幕府も中国貿易を重視したことが知られています。
しかし中国は、明で大きく方針を転換しました。南ではなく北に重心を置く……遊牧民に皇帝を捕虜にされるほどの大敗。北京への遷都。
そのこともあり明は鄭和の航海をやめ、海を禁じました。
だからこそ、日本と中国の間では海賊、倭寇が跋扈しました。日本人だけではなく、中国人がむしろ主だったと言われますが。
倭寇は略奪者であると同時に、貿易も行っていました。
密貿易・海賊は世界史的にもかなりの重要性があります。
海賊はそのまま海軍になります。また、帝国が海賊を滅ぼし制海権を確立することで帝国は強まり、圧倒的な経済力が生じます。そして海賊や山賊を抑えきれなくなったとき帝国はバラバラになります。
西洋史を大きく動かしたのは、バイキングという半ば海賊でもある人々です。スラブ、ロシアに通じる人々も海賊として東ローマ帝国などを何度も荒らしました。
密貿易は、今は麻薬があり、昔は塩が上述のように重要でした。
塩は生きるのに欠かせず赤の染料と違い代替品がなく、特に大陸では限られたところでしか得られない品です。だからこそ中国でも西洋でも税をかけ、それが政府の主な収入でした。
その密輸ネットワークはしばしば帝国を滅ぼす反乱にさえつながったほどです。フランス革命もインドの独立も塩税がキーワードになります。
また西洋史では、酒の密造密輸の歴史が、ピート香のきいたアイリッシュやスコッチのウイスキーにつながりました。
逆に言えば、貿易を支配することが為政者にとってどれほど重要か、でもあります。
膨大な、農地と違って手柄を立てた人に与えなくていい貨幣が入ってくるのです。
足利義満も平清盛も、また徳川家康も貿易の利益を手にしました。
スペイン帝国は新大陸への貿易を徹底的に独占し、金銀の一定率を税として手に入れ、それを収入として戦争と征服に……焼け石に水となりましたが。
『星界シリーズ』は、アーヴによる人類帝国は星間交易を支配しているからこそ圧倒的な力を持ちます。
『さいはての宇宙船団』や『ローダン』のスプリンガーなど交易を得意とする種族は多くあります。
戦国では、南蛮人という別の、ある意味ファーストコンタクトがありました。
当時でもよく中国の史書を読めば、中国と接触した古代ローマなどもある程度分かるでしょう。ですが当時の漢籍ばかりだと、世界の正確な地理はつかみにくいのです……特に仏教のとんでもない世界観が強いので。
鉄砲とキリスト教。鉄砲という強力で、軍隊構造を変える……弓道は四月から初めて「離れ」ができたのが頑張ったのに夏休み、鉄砲は……、高価な鉛と硝石と硫黄を輸入しなければならない兵器。
そしてキリスト教。
ですが、秀吉・家康はキリスト教を拒みました。仏教の側の要求もありましたが、秀吉を動かしたのは奴隷貿易。
西洋、宣教師と商人たちは奴隷で膨大な収益を上げていました。それこそ小さなイースター島のわずかな住民すら奴隷として運び文字も読めなくしたほど。
日本の戦国武将も奴隷を使っていたでしょうが、海外に奴隷を運ばれるのは違うと判断した……ありがたいことに。
それこそ、日本がアフリカの奴隷輸出諸国のように短期的には大儲けし、長期的に衰退してもおかしくなかった、別の道を選んでくれた。
結果的に日本は、鎖国という道を選びました。
それは長期的には大きな過ちになりました。
ただ、中国も海禁、朝鮮も頑として世界銀貿易網に加わらなかった、と東アジア全体の強い趨勢でもありました。
奴隷交易も文明同士の接触では重要です。
SFの場合は人類以外も売買になります。
『火の鳥』のムーピー族は『望郷編』では高額商品として扱われ、『未来編』では禁止薬物のような扱いでもありました。
奴隷貿易が禁止されている、だからこそ、ということも『銀河市民』などあります。
スターウォーズEP1ではタトゥーインでは、禁止されている奴隷がありました。
『現実』でも西洋は奴隷貿易を禁じ、その禁止を世界に強制し帝国主義時代には侵略の口実にもしました。
世界全体での、宗教や哲学の伝播も少し復習してみましょう。
中国から日本に、中国の漢字、律令、儒教、漢詩、そして仏教が伝播した……
中国からは、確かに朝鮮やベトナムにも広く征服を広め、朝貢というシステムを広げました。
日本方面以外、西域……シルクロードをこえたインドや中東に、中国から文字・文化・宗教などは不思議と行きません。
逆に、中国はインドから仏教を輸入しました。
ただ興味深いことに、中国にはギリシャ哲学・ローマ古典は入っていません。ユークリッド原論すら大航海時代まで届いていないのです。
かなり近づいた、イスラムもギリシャ哲学を重視し古典をアラビア語に翻訳しましたし、モンゴルは中国を含むユーラシアの多くを一体化したのに。
景教=キリスト教の一派、ゾロアスター教、回教=イスラム教は中国にある程度あるのに。キリスト教やイスラム教の力を思うと、どちらも中国を支配できなかったことも不思議です。
西洋では、まず中東の大帝国であるペルシャを支配したゾロアスター教があり、インドのほうに伝播した少数が生き残っています。
中東の地中海岸で生じたキリスト教が、地中海を支配する古代ローマ帝国を支配し、特に古代ローマ帝国が西側を失い東ローマ帝国になるころにすさまじい力で帝国を支配しました。ギリシャの伝統あるアカデメイアさえ潰すほどに。
その潰された哲学者たちはペルシャに迎えられて学問を進め、後にそのペルシャがイスラムに征服されてから膨大な古典がアラビア語に翻訳されました。
東ローマ帝国でも、ペルシャ滅亡で学者たちが東ローマ帝国に逃げたことも、またキリスト教とギリシャ哲学の統合もあり、ギリシャ哲学の学者・書物は相当ありました。
イスラム帝国、東ローマ帝国の両方から、特にコンスタンティノープルが陥落し東ローマ帝国が滅亡したときに、イタリアに多くの学者が本を抱えて逃げ、またイスラムのアラビア語の書物を翻訳して、それがルネッサンスを始めました。
東ローマ帝国の側のキリスト教はロシアにも布教されました。また、十字軍の一環として東欧にも布教は進みました。
イスラムも、ペルシャを滅ぼし、スペインを含む古代ローマ帝国の領土の相当部分を手に入れて、それからインドも相当部分を落とし、時間をかけて東南アジアにもアフリカにもかなり広まりました。
同時に、海のシルクロードなど強力な交易網も築いていきました。
多くの宗教は遠く旅をして行くときに、どうしても変化することがあります。
複数の宗教が雑種を生み出すように。特に日本では神と仏が混じり、中国でも西遊記のように神と仏がともに活躍します。
カトリックが厳しく支配した中南米でさえ、死の聖母など妙なことはあるのです。
宗教のすさまじい力……イスラム教の征服、そして十字軍。これは後にじっくりと……
十字軍は中東だけでなく、ヨーロッパ内部で異端を大虐殺したアルビジョア十字軍、東ヨーロッパに征服・植民・宣教を広めた東方十字軍、そしてスペインをあまりにも長い時間を隔てて奪い返したレコンキスタもあります。
大航海時代におけるスペインのすさまじい狂暴性・不寛容は、十字軍の延長であったからでもあります。
さらに近代そのもの、帝国主義も、損得だけでなく十字軍の延長でもあるでしょう。フランス革命のあちこちに十字軍の気配があるように。
大航海時代……スペインがアメリカ大陸からフィリピン、ポルトガルがアフリカ大陸を回ってインドから東南アジア、と航海を進めた……それは十字軍の延長であり、暴力的なカソリックの布教がありました。
それにはいくつもの、カソリックにおける修道会の歴史も絡みます。
カソリックの宣教師は中国にも布教しましたが、ローマ教皇の頑迷さもあり失敗しました。
プロテスタントであるオランダやイギリスも負けじと、征服・貿易と同時に宣教もしました。
そして宗教から目を離せば、砂糖という巨大な商品、そして奴隷貿易を可能にしたインド洋のタカラガイ・インドの綿布の大交易、メキシコからも日本からも大量に中国やインドに流れた銀、ブラジルの金(ゴールド)も大航海時代を作ったものです。
日本は鎖国ではありましたが、その中でもオランダや中国と多くの貿易を続けていました。
その中で、ずっと輸入していた銅銭や絹、陶磁器を自力で作れるようになったことも注目すべきでしょう。陶磁器は秀吉の朝鮮侵略があってでもありますが。
鎖国にも関連し、大航海時代に中国と接触しようとした西洋が苦慮したのが、中国には普通に外交をやる、という概念がない……外交、というもの自体が西洋の特殊なものかもしれません。
一つの帝国では支配しきれず、宗教も違う多くの国が共存するようになってしまった、というのは異常事態なのでしょうか。
中国は朝貢という外交・貿易システムを使います。普通に商売をすることはないし、対等に大使を交換することもない。
中国の文明は唯一の正解で無限に高い。別の文明の人は、中国の徳の高さを慕って従いに来る、中国は寛大にもそれを受け入れる。
外の国が中国に尊敬のあかしとして貢物を差し出す。中国はもらった以上の価値の贈り物を返す。
今の日本でも先輩、偉い人が低い人に飲食をおごる……また暴力団や暴走族が、犯罪で得た収入を上に上納する……それに近い、かなり原初的な匂いが強い慣習です。
礼の違いも問題になる……極端なのが『イデオン』での白旗であり、『デューン』では砂漠の民が貴族に唾を吐きかけた……貴族は怒りそうになりますが、砂漠の民を知る部下が止める、水分を与えるという大きな贈り物なのだ、と。貴族はそれを受け入れて唾を吐き返し、それによって友好関係が結ばれます。
歴史的には、ギリシャの使節がペルシャの宮廷でひざまずけと言われて嫌がった、また中国に行った西洋の使節も叩頭礼を強いられ拒否感情を示した、という問題が出てしまいます。
だからこそ、プロトコル(=礼法!)・ドロイドであるC-3POは価値があるのです。
礼の根本は思いやり……でも「思いやり」も怖い言葉です。
イギリス帝国・カナダやオーストラリアが、先住民の子供たちをさらって寄宿舎に閉じ込め、先住民の文化を完全否定して西洋人に作り替えようという下手な拷問虐殺より残忍な「思いやり」。『蒼穹のファフナー』の、フェストゥムの「思いやり」。
それとも、相手は他者なのだ、別の論理・別の礼儀・別のモノサシ・別の心があると理解しての「思いやり」か。エンダーが徹底的にやるように。
……それこそ同じ国の人間同士、それこそ親子でもクラスメートでも、その「思いやり」がどんなに難しいことか。
ファーストコンタクトで失敗するのは、後者を理解できない人です。もっと悪いのも多くありますが。
鎖国の中での日本の外との接触には、かなり漂流や救助があります。『菜の花の沖(司馬遼太郎)』の大黒屋光太夫、ジョン万次郎など。
薄い接触として、人命救助や通りすがるだけぐらいもあるでしょう。
実は結びませんでしたが、『完結編』ではディンギルの少年を救助しました。
『工作艦明石の孤独』で地球人が、半ば事故で異星人に救助され、膨大な情報を交換しました。
『宇宙のランデブー』シリーズはごく薄い接触です。
『スタートレック』では漂流者や密航者をどう扱うか、艦隊の掟に関係して苦慮することにもなります。クルーとして迎え入れることもあります。
それこそ、『現実』オウムアムアこそ、自然物でも人工物でも、とても重要な接触でした。
『ローダン』など、難破船を救助する、と言っていいファーストコンタクトも多数あります。
『マクロス』は難破船と思ったら……でしたが。
『スペースバンパイア』も救助に近いものがあります。『エイリアン』も。
『火の鳥 太陽編』では大友隊と火の鳥がごく薄い接触をし、大友はそれをうまく利用しました。
また、個人で別の文明に行く、というのには旅行もあります。
さまざまな大旅行家の手記は貴重な資料になり、特にマルコ・ポーロの『東方見聞録』はコロンブスも動かしました。
宇宙SFでも、旅行家としてあちこちめぐる人は多くいます。……すぐにはリストが出せないほど多く。
それこそSFの相当部分が、何らかの事情で旅人になってしまった主人公の冒険記にほかなりません。
ほかの用事で移動するのが、結果的に大旅行家になってしまうこともあるでしょう。
そして日本は、黒船を迎えます。
捕鯨という巨大産業。
強力な蒸気船と大砲。
蒸気船があったからこそ、太平洋で捕鯨という大きい産業を動かすことができた。
蒸気船や大砲を維持する文明には、膨大な照明と潤滑油が必要だった。そのために捕鯨がものすごく儲かった……日本と違い、肉は捨てた。
クジラを絶滅寸前に追い込んだ近代西洋文明の蛮行でもある。
エネルギー史、照明史のイベントでもある。
そしてフロンティアを求め、征服を進める、帝国としてのアメリカの歴史でもある。
でもすぐに征服するのではなく、相手のため、というような偽善に満ちてもいる。
黒船を受けた日本……
満足し、まどろんでいた、と言われる。オランダからの忠告も無視したと。
それが、世界は危険なところだと知る……
『三体』でも、人類は真の危機を知らなかった、というような言葉が出てきます。
ファーストコンタクト。他者の存在を知り、他者の暴力にさらされる。今までとは違う論理を知る。
自分が劣った存在だったことを知る。現実を直視するのなら。現実を無視することを選べば滅亡あるのみ。
自分を、国を変えなければならない……それこそジャレド・ダイアモンド『危機と人類』の12のリスト。
どんな犠牲を払っても。今までの日本を否定し、新しいモノサシですべてを計りなおして。
その中で湧き上がる、狂信的な宗教的な感情……それのある部分は天皇、愛国心という国家のための精神支配システムに注ぎ。ある部分が、近代の武器も否定する狂ったような反乱になり。ある部分は、堕落を嘆き破滅を確信し。ある部分は、日本という国は素晴らしい、とすさまじい強さで信じ、その信仰を全員に押し付けて理性的な強弱判断を破壊する……
黒船。それはあらゆる、特に異星人との接触・ファーストコンタクトがある宇宙SFと共通するでしょう。
征服でなかったのは幸運でしたが……それでも日本を席巻したコレラをはじめとする伝染病も含めて。
これを考えると、黒船の側であるアメリカやイギリス、また別の経緯である中国や韓国は……それこそ中国SF、日本SF、アメリカSFの、深いリズムの違いがそれぞれの歴史的経緯と関係しているかもしれません。
本来ならスーパー系ロボットアニメ、その源流である怪獣ものでも……ですがそれらは、自分たちを変えることなくのりきろうとする傾向が強いです。
変化を最低限で済ませる、「行きて帰りし物語」、宝を手に入れてもそれを捨てることで道徳的成功を得る話の系譜。
逆に『三体』では、宇宙に出ただけで人は全体主義、負(ネガ)文明に一瞬で一変してしまいます。
そして日本は近代化……西洋を学び、それでも日本人のキリスト教徒はごく少ない、ある程度入ってくる影響を選別する努力もあったのです。かつて宦官を否定しカナを作ったように。
それこそ、西洋、その成功者であるイギリス自身も、自分の中から湧き上がってくる「新教」「国家」「科学」「巨大産業」「軍隊」などの異物に恐れおののき、それを必死で消化しようともがき苦しみ、とんでもないミスも連発したのでしょう。
それらを考えるとわかるのが、「伝播」「交易」は技術を必要とし、技術が進歩すれば特により多くの物資・軍勢を運ぶことができるようになることです。
大航海時代を作ったのが、頑丈な船、布の帆、そして羅針盤・火薬・コンパスという中国の三大発明だったように。さらに古代ギリシャから、イスラム世界の科学、インドのゼロなど多くの科学の集大成だったように。
さらに、伝播によって多くの技術や知恵が集まれば、それは新しい技術も生み出すのです。『繁栄』で技術が交わって子を産むといわれるように。
活版印刷……ブドウや油を搾るためのネジ。ネジの元はアルキメデスポンプと幾何学。精密に加工するための技術。鉛合金の鋳造。脂を用いるインク。製紙技術。それらの技術が集まり総合されて、はじめて世界が変わったように。
ほかにも地動説、織機、蒸気機関……あらゆる発明発見は、多くの地で生まれた多くの技術や知識が集まってこそできたものです。
今回は詳しく考えませんでしたが、古代帝国は普遍的に道路・駅伝制度を整備します。
交通、通信、軍を動かす、統治、さまざまな儀式……それらが複合して、帝国であっても、いくつもの文明が集まる巨大な交易ウェブであっても作り上げられるのです。
古代ギリシャと中国のように、ギリシャの彫像とインドの仏像に共通点があり、また仏像が中国に伝来し、また中東のガラスが日本の正倉院に収められる、というような間にいくつもの中間をはさむウェブであっても。
それこそ『ギャラクシーエンジェル』『ヴォルコシガン・サガ』のように、ウェブから切り離されただけでもとんでもないことになります。タスマニアの人々が、大陸から切り離され少人数だったため、昔持っていた技術を失いすさまじい貧困な生活を送っていたように。
少し不思議なのが、古代の中国は、東の海の不老不死の薬、西域の汗血馬と仏教に憧れました……不思議とある時期以降は外に何も求めなくなった、そのことです。
イギリスの使節にうちにはなにもかもある、そちらのものはなにもいらない、と言ったように。
もしかしたらそれが、古代と中世の違いかもしれません。
古代ローマ帝国はエトルリアの土木技術、フェニキアのアルファベット、ギリシャの哲学、中東のキリスト教など輸入しまくってできた文明です。
古代の人は上位存在を求める……古代エジプトはほぼ自足しますが。
ですがある時期から、自分は完全だ、変わらないことが正しい、と思ってしまう。それこそ古代エジプトのように。
聖典を定め、自分がその完全な解釈者だ、と決めてしまえばそうなるのでしょうか。昔の日本のように、生き戦うのに最小限の技術が小さい範囲でも維持できるようになれば、でしょうか。
人間の多くは、昔に理想郷を想像します。昔の賢人が完全で、昔の神に与えられた書物が完全で、それを解釈する今の権力者が全知だと信じます。
今こそが、昔の理想郷を正しく再現した理想郷なのだと。
交易も、ファーストコンタクトも、何もいらない。
変わりたくない。『三体シリーズ』で地球人が変わりたくないからこそ後ろ向きの選択肢を選んだように。
あるいは、スペイン……接したすべての他者は、すべての書物を焼き、建物を壊し、美しい物や作物を焼き、踊りや音楽を禁じ、こちらの絶対に正しい宗教を強制する。
あるいは、中国やソ連の共産党……正しい党の理論に無理に押し込む。
他者のない世界。疑いのない世界。変化のない世界。
自分は完全だ。他者は悪であり、できるだけ残忍に拷問虐殺する……
おそらく西洋人にとっての究極の理想は、世界の大半を殺し砂漠にして、自分たちだけが古代ギリシャのスパルタとなる……贅沢を捨て、奴隷を残忍に支配して、徹底的に子を軍事訓練し心に一点の疑いも臆病も私欲も反抗もない勇敢な戦士に育てる、それを永遠に続ける。
ですが、『ヴォルコシガン・サガ』でコーデリアが、人を独房に閉じ込めるのはどの文化でも刑罰になる……残酷なことだというように、他者なしにいるだけでも人は壊れるという形で変わっていく。
他者のない、残忍に統一された集団……大規模民主主義国の権力者の小集団であっても……それは変化していく。
独房や、巨大な後宮の奥に閉じ込められた人が、年月で変わっていくように。
さらにそうなった人々は、弱い。自分では強いと思っている、うぬぼれている。自分は道徳的に、ひいては魔術的に完全であり、だから無敵なのだ、と。
でも現実には違う。より上の技術の前では、スペインに滅ぼされたアステカ・インカ両帝国の運命が待っている……『三体シリーズ』の地球人の運命も。
書くべきことの三分の一も書けていない感じが…ファーストコンタクト、旅行者、スパイ、宗教混交、それぞれ巨大なリストが…
論語を出したところでは「里仁15 夫子の道は忠恕のみ」と「子路19 居処は恭、事を執りて敬、人と与りて忠。夷狄に之くと雖も棄つべからず」「衛霊公6 言忠信、行篤敬なれば、蛮貊の邦と雖も行なわれん」などが混乱していたようです。
また古代日本で駅伝・道路の制度を読んだ覚えがなかったのでなかったと勘違いしていましたが、調べたらある程度はあったような。