宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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 本当は
 アメリカ独立戦争、アルジェリア独立戦争、東南アジア独立、アメリカ独立戦争や植民地帝国の支配する側の論理
 格差の歴史と格差容認イデオロギーの歴史
 十字軍、レコンキスタ
 などなどもっと読んでおきたい本は無数にあります。


格差・統合(宇宙世紀)

『ガンダム』の宇宙世紀は、なぜあれほど悪いのでしょう?

 ジオンの独立戦争で半分が死んだ。連邦側の人も皆ものすごく不満を持っている。

 かなりの時間が経っての話だが、宇宙戦国時代から人を食糧にする。

 いいところはなにもない。

 なのになぜ勝ち続けたのでしょう?

 

 宇宙世紀の地球連邦。全人類統一国家。それに対する独立戦争。それが『宇宙世紀ガンダム』の主な話です。

 以前の、多国の地球が、宇宙世紀になり、連邦になった。その経緯は詳しく描かれていません。

 

 宇宙世紀に「統合戦争」は公式にはなかったようです。

『マクロス』では統合戦争がかなり詳しく描かれています。『スーパーロボット大戦OG』や『宇宙軍士官学校』でも統合戦争が起きており、それで地球は統一されています。

『ヤマト』も当然のように地球は統一国家です。ただし3では各国の伝統を残す船がいくつも第二の地球探しに旅立ちました。『タイラー』も連邦です。

『銀河英雄伝説』も、核戦争後に地球は統一国家になっており、シリウス戦役からまた統一国家となって拡大、それがルドルフによって帝政になっても全人類統一国家思想は受け継がれました。

『スタートレック』は核戦争で混乱した地球が異星人との接触、惑星連邦の加入のために国家の枠が消えたようです。ただしそれ以前に優生人の敗北と逃亡があったとか。

『スターウォーズ』は巨大な議会を持つ共和国が帝国となり、それに反抗する反乱同盟が勝利……でも非正史でもEP789でも安定した統一国家には遠いようです。

 

「地球人すべてを一つの統一国家にすべきだ、という思想の歴史」……これも結構重大になりそうです。

 コスモポリタニズムの思想史だけでも、東西含めてみると膨大になります。

 

 古くは中東の帝王たちも、自分は神に全世界を支配しろと命じられた、と主張して全世界を征服しようとしました。

 エジプトやペルシャは文献の中でも神の命令による世界征服、という感じが強いです。

 アレクサンダー大王も強烈な世界征服の野望を持っていました。

 秦の始皇帝も天下統一をなしとげ、その後も西方砂漠の遊牧民、南方森林地帯、と征服を続けていました。

 チンギス・カンも部族独自の神の命令による世界征服を主張しています。

 

 日本の朝廷も断固として蝦夷と呼んだ関東・東北の人々を征服しました……北海道までは手を出しませんでしたが。

 源頼朝が平泉の奥州藤原氏を滅ぼしたのも、義経の件を口実にしましたが征服そのものでしょう。

 豊臣秀吉は日本の天下を統一して後、唐天竺(中国・インド)までも征服すると豪語して侵略を始めました。失敗しましたが。

 

 中国は、中華思想が強いです。中国中心が文化的に唯一絶対に高く、全世界であり、その周囲は野蛮で劣る、だから支配していい、と。

 自分が高貴で周囲は野蛮、という発想はギリシャにもあります。周囲をバルバロイ、わけのわからないことをいう人、と言語自体を否定したり。その思想は西洋にも受け継がれます。

 

 そしてイスラムが、圧倒的な力で膨大な範囲を征服しました。コーランか剣か、のイメージはキリスト教側のもので、征服が終わってからの統治では比較的寛容ではありました。キリスト教、ユダヤ教といった聖典を共有する宗教の信者は人頭税を払えばイスラム圏内で生活できたのです。後のスペインなどとは大違い。

 ただ、征服の時の破壊はありますし、イスラム教は長期間ある地域を支配すると、文字言語・宗教・文化ともに染め変えてしまう力があります。聖典の翻訳を嫌い、公文書を自分の言語に限定しているからです。出世したければ征服者の言語を学び、最終的には改宗するしかないのです。

 そしてキリスト教、特に西側のカトリックは異端も許さず、中世と呼ばれる時期のかなり早いころ、1100年の少し前から十字軍がありました。

 キリスト教が、神の命令、義務として征服を命じる。

 これは後の大航海時代、また帝国主義にも引き継がれる、西洋文明を支配する……感情、間違った意味ですが遺伝子、考え、法システム、制度……となったようにも思えます。

 征服し、支配しなければならない、と。そして改宗を強制しなければならない……世界のすべて、イスラム教徒だろうと、正教信者だろうと、原始的な宗教で生きている先住民だろうと、しそこねただけで日本人も中国人も、新旧問わず自分が信じるキリスト教に改宗させなければならない、と。ついでにそれは、奴隷化して自分たちの文字・生活文化・食べるものなどを強制しなければならない、もあります。上半身裸で暮らす、食人、一夫多妻などを激しく禁じます。

 自分の宗教・文化を至上とし、征服された側のそれを否定する、それ自体は普遍的かもしれません。

 ですが、中国はあれほどの情熱で海外を征服しようとはしません。そうだったら日本は征服されていたでしょう。

 イスラムもちょっと負けただけでヨーロッパ征服をあきらめましたし、中国も本気で征服しようとしません。インドの侵略と改宗もゆっくりで、全部改宗させることはできないままイギリスを迎えました。

 ヨーロッパキリスト教文明の征服情熱は異様であり、それゆえにか、人種差別が骨の髄までしみつき、奴隷化による利益が経済の重要な部分になってしまいました。

 ほかにもロシアがシベリアから東方を征服しようという情熱もとんでもないものがあります。

 

 中国では何度か帝国が分裂し、そのたびに群雄は天下統一を目的に戦います。分裂している時代に出た名君が、無理に統一外征の軍を起こして自滅することも多いです。

 インドは、以前筆者はアショーカ大王の時代からずっと帝国だったようなことを言っていました。色々調べてみると、中世に当たる時代でのインドは、わけがわからない、としか言いようがありません。

 かなり広い領域の国家は常に生じます。しかしどれもとても短く、インド全体の統一には遠い。

 武人階層がとてもわがままで、どんな名君でも引きずりおろしてしまい、簒奪した新王も短期間で滅びる、が多いのが印象的です。

 インドの王朝が外を征服しようとすることはあまりなく、むしろエフタル、イスラムなどさまざまな外に侵略されることが多いです。

 

 そして近代。

 世界全体を上から見ると、人口や国力は常に、中国・インド・トルコが大きい。

 ただ西洋はコロンブスによる新大陸発見と征服、そしてやや後の産業革命、それに付随する巨大な人口増と銃器の普及、知識の増加があります。

 コロンブスを使ったスペインの王などは、カトリックの守護者として、ヨーロッパを、そして全世界を征服する野望が強くあったようでもあります。イギリスを攻めて壊滅したりしました。

 フランスは、威信にこだわっている印象があります。あの前後の、フランスを始めとした国々は異様なほど戦争を多くしています。

 しかし、西暦600年ぐらいから1500ぐらいまで長く戦乱が続いているのに、たとえばフランスがオーストリアを征服して王族を皆殺しにした、というようなことはあった記憶がありません。せいぜいイギリスをノルマンが征服し、さらにイギリスがウェールズ、スコットランド、アイルランドと征服していったぐらいです。あとスペインが半島を再征服したレコンキスタ。

 十字軍という欲は強くある、でもヨーロッパそのものを征服しようとはしない、というのがヨーロッパの不思議なところです。

 地理的な困難かもしれません。よく言われます、ナポレオン一世やアドルフ・ヒトラーに聞いてみろ、ヨーロッパの統一は困難なんだ、と。

『真紅の戦場』『宇宙兵志願』などでは、特に帝国主義時代を下敷きに、これ以上地球上で戦争をしたら共倒れだから、地球では多くの国が共存し、宇宙の植民星を舞台に戦争を続ける、というありかたを選んでいます。

 

 近代がフランス革命に至った時、ナポレオン一世は間違いなく世界征服を目的として動きました。

 それから、ナチスドイツとソ連も、少なくともできる限りの征服を押し通しています。ソ連は最初は全世界革命を主張し、スターリンが一国での社会主義に切り替えたようです。

 日本は世界征服のために戦争を起こした、と非難されましたが、日本の当事者はどうでしょう?最終戦争、という主張はあっても全世界の征服、は主張されていないような。ただし行動としては、信じられないほど広い範囲を短期間で征服しようとしました。

 

 近代のヨーロッパでは、むしろ平和裏に全世界が国を解消して一つの国家になろう、という思想も多く出ます。

 エスペラントという人工言語を通じて、という考えもありますし、宗教的にも様々な動きがありました。

 共産主義というもの自体が、国家という枠に対する代案でもあります。

 そして、第一次大戦の惨禍、さらにそれに倍する第二次世界大戦の惨禍、戦後も核兵器による人類滅亡さえ現実的となった時代、多くの知識人が世界統一を主張しました……が、結局それは否定されました。

 国家はあまりにも強力な物語でしたし、同時に人類はあまりにもバラバラでした。異星人の攻撃がなければ全人類はまとまれない、と言われるほどに。

 なお『宇宙兵志願』では恐竜型異星人が無差別に猛攻をかけてきますが、国々はまったくまとまらず人類そのものが自滅しようとしています。

 

 古代、中世、近代、という視点から世界征服の考えを抜き出す……これもできたら大きいでしょう。

 古代帝国の世界征服と、中世における世界征服が違うのか。また近代は。

 十字軍思想、また新大陸発見後のキリスト教思想、そして帝国主義の理論的支持。これらも膨大でしょう。

 ムガル帝国の第四代皇帝の名乗りは「世界征服者」を意味したそうです。

 

『現実』の歴史で、世界征服が実現しなかった理由としては、交通・通信の弱さという技術的な問題があります。

 始皇帝、アレクサンダー、チンギス・カンらが、現代の水準の鋼鉄エンジン巨大船と無線通信技術を持っていたら、容易に全世界を征服していたでしょう。

 以前から考えている、特に根拠地がある場合の征服の不都合。征服した地から根拠地まで略奪品を運ぶにもコストがかかる。

 地方の人の反乱を防ぎ、蛮族から守るための戦力を投射するのにかかる時間・距離。距離の暴虐・防壁。

『ファウンデーション』の皇帝と将軍のジレンマ。自分が首都にいて将軍を遠征させる……将軍が征服の富と勝利の名声を得て強敵になり、首都という美味な果実に食いつく。自分が遠征する……首都ががら空きになり、継承権を争う誰かに取られたり、果実を求めるほかの誰かに取られたりして帰る場所がなくなる。

 ヨーロッパの地形。イギリス海峡とピレネー山脈、そしてロシア。

 海峡を越えてイギリスを征服するのが困難であり、ロシアの冬将軍は攻め込んだ大軍を確実に滅ぼす。

 古代ローマ帝国も、中東を征服してさらにインド、には至らなかった。

 

 世界征服を狙うことが多い悪党には、特にスーパー系ロボットアニメの博士たち、『クラッシャージョウ』のクリスをはじめ超能力者、古代からの陰謀集団なども目立ちます。

『現実』では人類はきわめて陰謀論を好み、「シオンの長老たちの議定書」は膨大な人に信じられました。

 手塚治虫から鳥山明のようなマンガの系譜、また『キャプテンフューチャー』のような古典スペースオペラの類でも、力を持つ科学者などが世界征服を始めるのは当然、という感じです。

 

 

『ガンダム』の宇宙世紀は、「環境・人口問題」「宇宙進出技術」このふたつを理由としているようです。

 人口が増えすぎ、地球環境が破壊されて人類全体が共倒れになりそう。

 同時に、大きい荷物を宇宙に出す、そちら側の技術だけはかなり発達している。

 

 とにかく地球環境に負担をかける人口を減らしたい、まず人類の多くを宇宙に出し……特権階級が地球に残ったことで、棄民という意識を持ったスペースノイドとアースノイドが分断され、争いになった。

 

 実際には、人類の半分を殺しても、短期間で人口が戻ってしまいました。

 ずっと前に膨大な人を宇宙に送っていても、全員より少ないはずの特権階級が、地球で贅沢をしているだけで地球環境は危うい……ハサウェイはそう信じて戦いました。

 

 ……筆者には、それに対する正しい対応は見えています。その対応は、『現実』の我々も目指すべき方向だと思っています。

〇生産を指数関数増大させる。

〇宇宙空間にではなく、地球上の利用されていないところに「スペースコロニー」を、宇宙で得たエネルギーと資源を用いて作る。

〇全員に最低限の、生活する物資と、拷問されないような法環境を与える。

〇科学技術を進歩させ、効率の高い生産をする。農業は工業化する。

 

 宇宙では、特に宇宙太陽発電ができればエネルギーは無尽蔵に得られる。

 また、多くの金属資源も地球から見れば事実上無尽蔵であると予想される。特に多くの鏡で日光を集中する、それこそ『ガンダム』劇中のソーラシステムを利用すれば。

 そして、宇宙空間である程度以上の規模の人間が活動し続けられる、ノウハウを得て、最初の種になれるだけの資材と人材を打ち上げることができれば、資源採掘・エネルギー獲得・工業生産をする「塊」を宇宙空間に存在させ、それが糖液中の酵母のように指数関数自己増殖をしながら余力で工業・エネルギー生産をすることで、工業製品とエネルギーの生産をとんでもない量にし、同時に相当な人口を吸収することができる。さらに自己増殖に競争を加えれば進化のようにより優れたものが生き残るようにもなり、向上していく。

 そして、その工業生産とエネルギーを地球上に下ろし、サハラ砂漠・北アメリカの砂漠・オーストラリア大陸の砂漠など生物が少なく環境破壊が少ない地に、大規模な地下都市・ドーム都市を作って、そこに人類の大半を移住させる。

 食糧生産も技術水準が低ければ垂直水耕農業、高くなれば人工光合成からの細胞培養や分子積み上げにしていく。

 それで、地球人のエコロジカル・フットプリントを、現在の地球何個分から、事実上ゼロにする。砂漠の、ほぼ閉鎖系になっていて水も空気も循環させ、廃棄物もすべて原子まで加熱して分解し再利用するコロニーならば、環境負荷は事実上ない。

 

 宇宙に、宇宙世紀程度にでも手が届けば、工業・農業・住居は事実上無限になる……

 以前から繰り返している、冥王星の質量と豪華客船の質量。

 もっと単純に、マンハッタン島の面積およそ60平方キロメートルに高さ1キロメートルかけて1キロメートル立方体60個、それと月の体積……億が出る、まじめに計算するのがばかばかしい比。

 ではなぜそうならなかったのか。

 

『ガンダム』は、他の本でも指摘がありますが、政治などを極力描かないようにしています。

 ファーストの全編で、軍のトップの名は出ていますが、連邦の大統領のような政治トップの名はないのです。ギレンにソーラレイで暗殺された和平会談は、ジオンのトップであるデギンと、軍のレビルでした。

 ですが、いたるところに極端な格差と腐敗はうかがえます。

 ファーストでアムロたちも苦しめられる、軍人の腐敗。

 UCでも解消されない極貧コロニー。UCでは連邦側がコロニーを丸々虐殺するようなことも普通にあったようです。

 最初から、地球人の多くを強制移住させ、何代かかっても返しきれない借金を負わせて、水や空気にも重税をかける。

 

 水や空気に重税をかける、という発想自体は『月は無慈悲な夜の女王』と共通します。

 また、『負債論』や『資本とイデオロギー』に描かれた、征服されたマダガスカルの虐殺の弾薬代、また奴隷が独立したハイチには「財産(=奴隷)を失った所有者に対する賠償」としてふざけた金額の借金を負わせ、つい最近まで何百年も払わせたこと。

 その経験があったから、第一次大戦後、ドイツに滅茶苦茶な金額の賠償金を押しつけたこと……結果は第二次世界大戦。

 

 それらからうかがえる、何らかのイデオロギーに支えられた、超格差。

 それが『宇宙世紀』の人類世界を支配している、と断言していいでしょう。

 

 そして、『国家はなぜ衰退するのか』が示している、収奪的社会は科学・経済的に発達しないということ。……今は西側が自壊しそうで、しかも中国は強いままですけど。

 あまりにも格差が激しい、中南米のような国は、先進的な農業も、科学的な工業も、発達できない。

 それが、本来ならどれほど豊かになってもおかしくない宇宙世紀の連邦が、貧困なままである理由では?

 

 挑戦者であるジオンも、ザビ家・カーン家などを見れば感じるように、明らかに貴族制です。ジオンもまたものすごい格差社会、また恐怖政治だと思われます。

 それでは産業は発達しないでしょう。

 後に描かれている木星も、その連邦以上にけた外れに何もかもが欠乏した、厳しすぎる社会のようです。

 あまりに厳しいため人命が極端に軽くなる、初期開拓地……前述の、『冷たい方程式』『火の鳥』や詐欺も混じりますが『レッド・ライジング』など。

 

 何かがずれているのでしょう。十分に豊かな種を増殖させるのではなく、極端に厳しいところに人を放り込み、極端に厳しい社会制度を作らせ保つようにさせる。

 古代ギリシャのスパルタ、また極地先住民についてトインビーが言うように、環境……寒暖、食糧、周辺の征服者などが厳しすぎる地で、極端な団結が常に求められ、そのライフスタイルの奴隷としてしか生きられなくなる。

 中国の厳しさも、遊牧民の攻撃が不断にあるからかもしれません。

 

 皆を豊かにして、科学技術・生産力を爆発的に拡大させる、ということを考えることもさせない……

 それは、『宇宙世紀』の全ての人たちにも、そして今この『現実』の人々にも共通するのです。

 

 それこそ、『国家はなぜ衰退するのか』『自由の命運』『資本とイデオロギー』、またラテンアメリカやアフリカの極端に格差が激しく貧しい、人権や法の支配がない国々を描く本を読めば、そこにはそのまま宇宙世紀の地球連邦が描かれていると思います。

 歴史の、偶然である経路から、とても強く人々を支配する制度が生じる……極端に人命が軽く、簡単に膨大な人数を殺戮できてしまう世界になってしまった。そして皆を幸せにする、というような政治システムがどうしても育たなくなった。

 

 

 同意しない人も多いでしょう。なんとなくですが、多くのSFを通じて、大半のSFファンは、「宇宙は資源に乏しい」「地球が圧倒的に豊かだ」と思い込んでいるように思えます。

 遠くにある水は価値がない、と。

 しかし宇宙では、重力井戸を脱する・軌道離脱(地球から見た木星衛星上の氷はすごい速度で公転している、その速度を殺さないと地球に持ってこれない)・キャッチ、その三つができれば、途中の距離がものすごくても、常に水・空気・地面の摩擦抵抗がある地球上と違って高真空等速直線運動、エネルギーは使いません。ついでに土星の衛星は小さいので、そこから氷を切り出して衛星の重力井戸を脱するのは地球から水を持ち上げるより楽です。

 

 そして、SFでも「マルサスの罠」の感覚はあるでしょう。人口を増やしたらすぐに資源がなくなる、と。

 しかしエンケラドゥスの水、太陽の総エネルギーは相当に膨大です。ついでに筆者は、「豊かになり女性が教育されたら少子化」「『現実』の超金持ちはピラミッドのような膨大な実資源を費やす贅沢はあまりしていない」を重視しています。

 

『ガンダム宇宙世紀』で生産力の爆発が起きない理由に、ロボット技術が妙に遅れていることがあるのかもしれません。ハロはありますが。『真紅の戦場』同様、労働力が安すぎるのかもしれません。

『ガンダム』には、高水準のコンピュータがなければモビルスーツなんて動くはずがない、でも人がモビルスーツを動かせるコンピュータがあるなら無人機は容易だ、という根本的な問題もあります。

 本来は脳~コンピュータ直結の、比較的小型の人型機にすべきでしたが……ロボットアニメのある意味伝統として、多数のメーターとレバーがある古い戦闘機のコクピットを模した操縦システムを踏襲してしまいました。

 

 

 また、人は食だけでは満足できないこともあるかもしれません。

 ジオン残党が絶えないことも、単に連邦の格差社会が嫌だから、というよりもっと強い、道徳的な何かを感じます。

 連邦はものすごく汚れている、ジオンは清浄だ、というような。かなり宗教的な。

 

 残党が多く活動しているのは『スーパーロボット大戦OG』もそうです。あれはむしろ、指導者たちの強さが目立ちます……アギラのような超邪悪な科学者も、バン・バ・チュンのような清廉なカリスマ武装勢力指導者もいる、多様性がありますが。

 また『宇宙軍士官学校』もずっと、異星人に抵抗し旧来の宗教を狂信するテロリストたちが活動し続けました。

 世界が一つの国になれば内乱が多くなる、ととても皮肉に言うことができます。

 

 世界が一つの国になった、その時にはもう一つ、巨大なリスクがあります……言論・文化・科学技術の弾圧。

 中国が文明競争で負けた理由としてかなり有力なのが、『空飛ぶ機械』……ブラッドベリの短編、皇帝は一声で発明を破壊し発明家を処刑できる。

『近世中国の比較思想(岡本さえ)』で読んだことですが……

 明末はかなり自由に中国文化人も西洋宣教師などと接していた。ただし中国から西洋に留学する人はいなかった。徐光啓は技術を入れて国を救おうとしたが失敗した。

 清になって、「文字の獄」があらゆる知・娯楽に対する絨毯爆撃となった。

 楊光先という恐ろしく程度が低い人が、暦に関して西洋の科学を学んだ天文学者や西洋人の罪を訴えた……そして自分ではまともな暦を作れず自滅した……件をきっかけに、清代を通して知的鎖国が続いた。

 ひとりの皇帝が断ずれば、全ての科学を、知を消し去ることができる……それが中国のような大帝国。

 それは世界のほかでも数多く起きた。

 

 コロンブスはポルトガル、イタリア各都市で断られ、スペインに行って成功した。何度も挑戦できた。

 ケプラーも、ティコ・ブラーエも、ガリレオも、あちこちの都市を渡り歩いた。

 統一しにくい地形、だからひとりの皇帝による科学潰しができない。

 

 広く見れば、ヨーロッパと中東を合わせた大きい地も複雑で、ひとりの皇帝が征服できない、だからこそギリシャ古典は、ローマ帝国がキリスト教化されて否定されたらササン朝ペルシャで生き延び、ササン朝ペルシャがイスラムに滅ぼされたら東ローマ帝国に行き、またイスラムでも栄え、東ローマ帝国が滅んだらイタリアに運ばれてルネッサンスに、となった。

 

『ガンダム』の宇宙世紀も、単一国家だからこそ、あらゆる科学や技術、平等につながる思想を抹殺することができてしまっているのかもしれません。

 ラプラス事件の真相、『0083』のデラーズ、『逆襲のシャア』のサイコフレームによる異常現象・アクシズショックなどを徹底して隠蔽することができてしまったように。あったことをなかったことにすることができる、歴史を書き換えられる権力。

 それこそが、単なる腐敗より恐ろしい……『銀河英雄伝説』で、政治家が賄賂を取るのが腐敗ではなく、賄賂を報道できないことが本当の腐敗だ、と言ったように。

 そしてサイコフレーム技術の封印、という何よりも恐ろしいこと。科学技術そのものを後退させた。

 

 また、『ガンダム宇宙世紀』は、地球をものすごく特別扱いするのも問題です。

 しばしば筆者が疑うのが、『レイストーム』のある巨大人型ボスが、魚のハマチからしか得られない潤滑剤が必要で資源が枯渇しているので量産できない、という設定のように、自然豊かな地球でしか得られない資源が必須なのか、です。

 多くの移民を出したのちに、「重力に魂を引かれた」特権階級が地球に残った……それがゆがみの根本になっています。

 地球に住む、それ自体が目的であり、ステータスシンボルになっている。

 だからこそシャアは地球を凍らせて全員を強制的に宇宙に上げようとした……肝心の地球環境が全滅しても。

 

 地球そのものを神聖視してそれが目的になる、ということも、SFでも『現実』でもよくあります。

 スーパーロボット系から『ヤマト』も、地球を守る、がスローガンになります。

 別の星でも人類、また『火の鳥 未来編』でいう生命家族=地球式の生命が生存していればいい、とは思わないのです。

『スーパーロボット大戦OG』は「人類に逃げ場なし」演説があります。もちろん包囲されている状況もありますが、ビアンが強く地球を愛していることも間違いありません。

『三体』も地球に対する愛着のあまり地球人は道を誤ったと言えます。

 さらに地球そのものを神格化した『銀河英雄伝説』の地球教はもうなにをかいわんやです。

 

『現実』でも、地球そのものは巨大な半ば溶けた岩の、ごく薄い表面が固い塊でしかないのに、「地球を守れ」が標語になります。「人類の生存を」や「どれか一つの生物が宇宙のどこかに生き残れば」では通じないのです。

 ……『新スタートレック』のあの話の状況になれば別でしょうか。

 

 

 地球連邦が体制である、それだけで憎む人も多くあるのでしょう。

 ピンカーらが、世界がこれほどよくなっているのに、人々には悲惨と恐怖ばかりが見えてしまうと言うように。

 本当はかなりマシなのに、それしかないから多くの人が連邦は悪の権化だ、と言っているのかもしれません。

 支持されている、多くの人を食わせそれなりにまともな裁判と治安を与えているからこそ、軍人や警官が戦い続けて勝っているのかもしれません。アムロが反乱していないのかもしれません。Zの時は一線を越えていたので別でしたが。

 どれほどひどい話が多くても、アフガニスタンのタリバンは腐敗しきった政府よりまし、だから勝ってしまうのでしょう。

 ですが、あまりにも多くの人が不満を持っている……そして読者は、遠い未来の悲惨を知っています。結果は破局が確定しています。

 

 アメリカ人は本質的に反政府だ、と言われます。だから銃を持つのだと。

 ヨーロッパの反EUもあります。そして日本の左派も政府を強く嫌っています。

 グレーバー、スコットなど、アナーキズムもあります。日本では紹介されませんが、リバタリアニズムという経済右派、自由主義の極端なものもあります……福祉や税金を徹底して否定する。

 

 前述のエリート過剰生産の要素もありえます。

 また平和が長く続いただけでも格差は際限なく拡大します。

 それですさまじい不満がたまっている、誰もが連邦を嫌っている……

 考えてみると、宇宙世紀の地球連邦は、異様なまでに好かれていない政府なのです。

 そして、「いい」面が見えない、「**(という悪)ではない」ばかりなのです。

「大量殺戮をしたジオンではない、ジオンに勝たなければならない」

「ニュータイプという恐ろしい何かを否定する」

 否定ばかりで、それで何が出てくるわけでもない。

 保守が完全に勝つというのはそういうことに……普通なら保守は、「昔の理想郷」「神の国」など、幻想的な理想を示すものですが、それも見当たらない。ひたすら否定だけ。

 本質的に、大半の人を棄民とみなしていることもはっきり伝わります。

 

 さらに言えば、『ガンダム宇宙世紀』の地球連邦は民主主義で、多くの人が強い不満を持っていながら、ポピュリズム……『銀河英雄伝説』のルドルフや『スターウォーズ』のパルパティーンのような人が出てきません。

 逆に、ブライトやシャアが選挙に出ても暗殺されるだけだ、と言われるように、暗殺でそれを抑止しているのかもしれません。

 

 よくしよう、という……人は普通は自分が住んでいる国はいい国であってほしいと願い、よくしようとします。

 その感情がないわけではないでしょう。

 ですが、それも『ガンダム宇宙世紀』ではいい出方をしません。

 ジオニズムという結果が危険すぎる、選民思想が強い思想の強さ。

 ニュータイプという要素。

 そして宇宙の広さ、交通にかかる時間などから、同胞意識を持てない……アースノイドとスペースノイドの断層、憎しみが大きいこと。

 ハヤトがシャアに選挙に出ろと言ったり、ブライトも政治家になろうとしたりはありましたが、どちらもうまくいきません。たまたま、もあるでしょう。

 

 

『ガンダム』自体が作られた時期は、ローマクラブの『成長の限界』や『人口爆弾』など、人類の未来に対してものすごく悲観的な本が多くありました。環境問題が本格的に問題になったのもあの時期でした。

 ちなみに、そのころはギャレット・ハーディンが救命ボートの倫理を提唱しました。人類全員を助けるのではなく少数だけ、先進国だけ……膨大な人間を殺し人口を減らして地球を守る、という考えをそのころは出すことができたのです。今は不思議と誰もそれを言い出しません。

 また1968年前後、左派の活動、ニューエイジ系統の反近代など、それまでの進歩・科学技術文明に反対する言葉が多くありました。

 進歩・科学技術文明に対する否定はそれからも、日本では脱原発などとくっついてある程度以上の知識人を支配しています。日本の有力な科学啓蒙書を書く人の大半・特に有力な知識人は事実上皆、科学技術の進歩を否定しています……道徳的にも、実際に進歩する可能性としても。とにかく定常文明にしたがります。

 海外でも、キリスト教原理主義に近い保守は温暖化否定などを通じ、科学進歩を嫌っています。第二期トランプ政権はそちらが支配していると言われ、学問を攻撃しています。

 

 

 平等……それに類する、最低限生活保障のような思想もない。科学技術の進歩、爆発的な生産力の増大を嫌う。

 それは長期的に文明を衰退させることすらある。

 それは悪でなくて何でしょう?

 そして、それを打破できるのは何でしょうか?『宇宙世紀』で、平和を訴えたミネバも、道を、光明を示すことはできなかったのです。ニュータイプの洞察……ミネバもハサウェイも、「それ」には届かないのです。

『逆襲のシャア』でアムロが言ったように、変えようとする情熱はすぐ悪いほうに行ってしまう。

『現実』の我々も、「それ」を見ることなく、憎悪と、感情が命じる科学技術否定のまま、自滅の道を選ぶしかないのでしょうか?

 ……それとも、本当に科学は限界だから頑張っても無駄なのでしょうか?だとしたら『新スタートレック』のあの話と同じ、というか何があるかわからない以上、念のために常にサンプルカプセルは打ち上げておけ、という正解があります。それも『三体』の人類のように、逃亡主義だと否定するのでしょうか?

 

 平等、再分配当たりの思想も多様性がありそうです。

 筆者は「全人類が最低限の生活と、残忍ではない治安を享受し、主に天才を生んで研究する(99%が無用者階級という前提)」と考えています。

 ナショナルミニマム、さらにグローバルミニマム、と考えることもできます。

 結果の平等と機会の平等、もあります。

 平等に反する思想……イギリスは自由主義の名で、特にスピーナムランドを叫んであらゆる福祉を排撃し、懲罰的救貧に制度を傾けました。

 そんな世界が、本当に99%が無用者階級となったときどうするか……抹殺するのか、という厄介な問題もあります。

 

 

『宇宙世紀』の人々、特に連邦のえらい人たち。そして『現実』の膨大な財力、絶大な権力を持つというえらい人たち。

 暴れない普通の人たち。ジオン残党として暴れることしかできない人たち。

 何がしたいのでしょう?本当に欲しいのは何なのでしょう?

 連邦は、とことん「目的」が見えないのです。『現実』も。

 それが「保守」というものでもあるのでしょう。目的に向けて進むのではなく、悪を防止する。ですが、希望が何もないのに生き続け、戦い続けるのはきつい。

 

 いや、ひとりひとりが、何がしたい、何が欲しい、など無力、『国家はなぜ衰退するのか』『自由の命運』そして『資本とイデオロギー』……

 制度、イデオロギーの圧倒的な支配力の前に、人間は徹頭徹尾無力。

 怒って革命をしても、中南米やアフリカ、東欧の歴史が示すように……『火の鳥 太陽編』の革命家が確実に倒した前政権と同様の暴政をやって自滅する、と確信できるように……制度の慣性で同じような超格差、権力と富が結びついた残忍な政権にしかならず人々は苦しみ続け、国家は貧困のまま……

 どうすればいい?

 それこそ『暴力と不平等の人類史』が言うように、膨大な死によってしか平等はない?……宇宙世紀は半分が死んでも平等にはならなかった。『銀河英雄伝説』も、13日戦争、シリウス戦役で膨大な死者を出しても……ラインハルトが流した膨大な血で平等になる?

 

 ……制度、イデオロギー、とは何でしょう?なぜ制度は、イデオロギーは、これほど強力なのでしょう?

 仮に、『現実』の、エジプトのそれなりに力がある若者であれば、何をするのが正解なのでしょう……先進国に移民せず祖国の貧困を減らしたければ?

 ハサウェイはどうしていればよかったのでしょう?

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