宇宙戦艦作品の技術考察(銀英伝中心)   作:ケット

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重大ネタバレ多数


地球の扱い、首都防衛

 前回のついでに、多数のSF作品での地球の扱いを考えてみましょう。

「地球が存在していない別歴史」「今も首都」「廃れた田舎」「伝説」「破壊済み」「普通の星」に大別できます。

 

 

【地球が存在していない別歴史】

 

『スターウォーズ』『ギャラクシーエンジェル』などは、地球とは関係のない宇宙の話です。

 

『ガルフォース エターナルストーリー』は一見地球と関係のない宇宙での戦乱と思わせて、実は地球と月だったというオチがあります。

 

【今も首都】

 

『ローダン』では変わらぬ首都。まあ地球ごと動き回りもしますが。

 

『スタートレック』での地球は惑星連邦の首都であり、サンフランシスコに評議会、パリに議長府があります。

 

『銀河の荒鷲シーフォート』でも首都であり、その防衛のためには膨大な……無残なことに無意味だと後にわかった……犠牲が払われました。

 

『真紅の戦場』『宇宙兵志願』その他多数のミリタリSF、現在の延長の国が争い合う場合には普通は地球が中心です。

 ただし『宇宙兵志願』は異星生物の介入で変化が起きていますが。

 

 

【廃れた田舎】

 

『銀河英雄伝説』は地球、太陽系の衰退そのものが地球教というゆがみを産み、ストーリーを裏から支配しました。

 

『彷徨える艦隊』で地球は、アライアンスの開発されていない側の領域にあり、手出し無用で妙な儀式があるだけの、田舎の独立国です。

 しかしもし地球を破壊されたら、アライアンス全人類はブチ切れてどこまでも戦ってしまうだろう、と誰もが合意するほど精神的な重要性はあります。

 

『航空宇宙軍史』は……

 

【伝説】

 

『ファウンデーション』の別作家による続編は、伝説となった地球を探索する話です。

 地球という星が存在していたこと自体が伝説。

 人類の起源が地球だったということが伝説。

 地球という星がどこにあるのか不明。

 そういう水準です。

 

『宇宙空母ギャラクティカ』旧シリーズと『GARACTICA』リ・イマジンの両方とも、伝説的な地球を探す話です。

 

『叛逆航路・亡霊星域・星群艦隊(アン・レッキー)』でも地球は伝説です。

 首都そのものはダイソン球というぶっちぎった規模があり、普通の人間は立ち入り禁止です。

 

【破壊済み】

 

『星界』では地球は星霧化しており、アーヴは妙に罪悪感を持っています。

 別に大きい首都がありましたが、それも過去形であり、その奪還が今の悲願です。

 

『シドニアの騎士』も地球はぶっ壊れています。

 

『怨讐星域』でも太陽系は消し飛びました。

 

【普通の星】

 

『ヴォルコシガン・サガ』の地球はやや田舎ですが普通に栄えています。

 

『銀河鉄道999』では……普通の星に思えるのですが、始発駅なのがおかしい気がします。

『宇宙海賊キャプテンハーロック』などで、ものすごい過去からの特別性が地球にあるので、正直怪しい……

 

〇地球人を含む多数の種族が共存し争う形の作品も、「普通の星」に含まれるでしょう。

 

『ヤマト』はガルマン・ガミラス帝国など多くの国々の中の一つであり、地球が中心です。

 

『ハンターズ・ラン(ジョージ・R・R・マーティンら共著)』では、地球人はやや弱い種族です。

 

『レンズマン』では、地球は多くのレンズで相互理解できる知的種族の一つである地球人の中心です。

 

『老人と宇宙』の地球はやや特殊です。多数の種族がそれぞれの領域を支配し、相争う宇宙の中で、特に暴力的な種族とされる宇宙生活する地球人、コロニー連合……

 コロニー連合と地球は奇妙な関係にあります。地球人は老いて死を前にコロニー連合の軍に志願し、家族故郷との縁を切って絶対の忠誠を尽くさなければ宇宙に出られません。奇妙な形の支配下にあり、ある時点で地球の人も真実を知り反抗を始めました。

 

〇文明化されている最中、というカテゴリーも考えられます。

 

『宇宙軍士官学校』は異星人によるリフトアップ、先進科学文明を与えられ、徴用されるることから始まりました。

『攻勢偵察部隊』時点の地球は泥沼で、テラフォーミング技術を注ぎ込んで回復している最中、人類の大半は窮屈な地下生活ですが、それでも助かったのは幸運です。

 

『ポスリーン・ウォー(ジョン・リンゴー)』シリーズも同様に、ある程度の技術と支援を与えられて、予定される大侵略に抵抗する物語です。

 

〇また、地球人自体は現代に近い宇宙に本格的に出る能力がない段階で、異星人に侵略されたという作品も多数あります。

 

『宇宙戦争』『V(ビジター)』『インディペンデンス・デイ』がそうです。

 バルタン星人をはじめ怪獣ものや、その延長である『マジンガーZ』などスーパーロボットもの、特に軍事侵略の面が強い『ボルテスV』『コンバトラーV』などもそうです。

『機動戦士ガンダムOO(ダブルオー)『蒼穹のファフナー』もその変形と言えるでしょう。

 ロボットアニメの相当数がそのパターンに含まれますし、『ガッチャマン』もロボットがないだけで共通性がとても高いです。

 

『幼年期の終わり(アーサー・C・クラーク)』も、実際にはそれです。

 

『スーパーロボット大戦OG』『マクロス』『ヤマト』はその状態からのし上がっているところです。

 

〇異星人の存在が隠されており、地球人の文明水準は現実現在と変わらない。

 

 これも『To LOVEる』『天地無用』など、いわゆる《おちもの》ジャンルを中心に多数あります。『レベルE』もそうですね……終盤ではもう公開状態ですが。

 マーブル・ユニバースのシャイア帝国もこれに近いでしょうか。

 

〇地球人が優越的である。

 

 比較的少ないですが、『造物主の掟(J・P・ホーガン)』。

 日本語現時点での『孤児たちの軍隊(ロバート・ブートナー)』も、異星人の侵略に対抗すると同時に、多くの星の人類に対し地球人が優越的な立場となりました。

 

〇継続的でない接触

 

『宇宙のランデブー(アーサー・C・クラーク)』など。

 

 

 

 首都防衛戦についてまとめてみます。

 

『ヤマト』を地球側から見れば、常に首都防衛でもあります。首都である地球が唯一の生存圏でもあると言えるのが、地球人の脆弱なところです。

 11番惑星、冥王星、土星の環……と太陽系自体を縦深とした防御も、地球の軍事思想の一つです。最終防衛線という言葉も使われたことがあります。事実上役に立ったことがないですが。

 また『ヤマトよ永遠に』の、惑星全体が絶対防衛要塞となった威容も忘れ難いものがあります。

 

『タイラー』では星系防衛兵器として、重力を利用する巨大要塞があり、小惑星帯に電磁ネットを張ったり、大陸から巨大列車砲を発射したりもしました。

 

『レンズマン』は地球攻撃に応じ、太陽ビームという超兵器が迎撃に用いられました。敵も惑星を要塞化し、それがあまりにも堅固なために、膨大な歴史を費やして究極の兵器が作られました。

 

『彷徨える艦隊』では、多くの主要惑星に強力な宇宙空間の防衛施設がありました。しかし、動きが鈍い施設は隕石もどきに脆弱であり、星系を守る艦隊が壊滅すればいい的でしかありません。隕石もどきを確実に撃破できるほど強力な光速兵器がないのです。

 戦争終盤で、艦隊の大半を失ったシンディックは首都星系自体をおとりとしてギアリー艦隊をひきつけ、ハイパーネット・ゲートの暴走破壊で首都星系ごと艦隊を撃破し、少数の指導部だけが逃れるという非道な作戦をたてました。さすがにそれを放送されたらシンディック軍は分裂し、ギアリー艦隊も巻きこんで激しい争いになり、旧指導部を皆殺しにして講和に応じました。

 

『宇宙軍士官学校』でも、太陽系の多くの巨大衛星などに基地を置き、太陽系自体を防衛要塞とする防衛思想がありました。

 話が始まった当初の敵の攻撃方針は、星系のかなり離れたところに転移し、防衛艦隊と戦いながら大規模なゲートを構築して巨大な恒星破壊兵器を転送するというものでした。

 それが、太陽を異常燃焼させる耐ビームコートつきミサイルを大量に転移させるという新技術になり、そのために実体弾兵器を持つ小型艦艇を消耗させる方針が付随しました。

 ただし新技術ができても、恒星内部・恒星至近距離に転移することができないため、多少の余裕があることには変わりありません。

 また、敵の目的が居住惑星ではなく恒星であることも特筆すべきでしょう。

 

 

 

 銀河英雄伝説での、首都防衛で面白いこと……

 リップシュタット戦役で、ブラウンシュヴァイク・リッテンハイムともに本拠星系ではなく、要塞を本拠としました。連合軍の都合もあったのでしょうが、二人とも本拠星系に撤退せず要塞で最期を遂げました。

 またハイネセンは距離の防壁とアルテミスの首飾りに頼っていました。氷が取れる惑星にも要塞がないのです。

 リップシュタット戦役の最後はラインハルトによる実質クーデター……オーディンが星系ぐるみで巨大要塞になっていれば、経緯は違ったと思われます。

 共通して、重要惑星の星系そのもの、また首都惑星の衛星を要塞化する、という発想がない、ということです。

 いくつかの、裏を見ることができないよう自転が同期している衛星…そうでなくても衛星の両極に十分深い穴を掘って巨砲を据えれば、多少の艦隊を加えればイゼルローン要塞と同様の絶対の守りになるでしょう。それが複数あれば、どこから惑星に迫ろうとしてもどれかに撃たれる状態を作ることもできるでしょう。

 しかしハイネセンもオーディンもフェザーンも、そうなってはいないのです。

 ブラウンシュヴァイク領の本拠星も、そういう逃げこめる要塞にはなっていなかったようです。

『銀河英雄伝説』は、惑星や衛星に防衛施設を作っても無駄な技術の在り方だと思われます。

 容易に、黄道面の上や下から攻撃できるということでしょう。

 衛星上の要塞から、艦隊をアウトレンジで殲滅することはできない……火炎直撃砲、瞬間物質移送機のようなノータイムの攻撃手段がない、巨大な(ほぼ)光速弾兵器は超光速通信を持つ偵察機に発射を察知され、着弾より先に敵艦が針路を変えてよけられてしまう、と推測できます。

 戦艦をアウトレンジできる超巨大砲が異様に高価であることも考えられます。生活と防御を捨ててトールハンマーだけの使い捨ての、五千メートルぐらいの艦があれば役立つでしょうが、ありません。

 

 

『航空宇宙軍史(谷甲州)』のように現実に近い……出力が低く推進剤を気にする作品では、常に惑星軌道を考えます。それぞれが別の周期で公転することで変化する惑星間距離が戦争にかかわるほどです。

『ガンダム』シリーズも基本的に推進剤が必要で、ある程度は軌道を気にします。

 

『銀河英雄伝説』はほとんど軌道を気にする必要がない、外惑星からの射程内を通らなくても標的惑星に直行できるほど、星系内行動能力も高いと思われます。

 

『彷徨える艦隊』では星系内では最大0.2光速程度の通常航行に束縛され、星系の別のジャンプ点に至るまで何日もかかることがあります。惑星は何日も前から破滅をもたらす隕石もどきを察知し、偉い人は避難し弱い人はなすすべもなく死を待つ、ということもあります。艦隊戦も何日も前から状況が決まっており、何時間も接敵を待つことが常です。

 

『ヤマト』は推進剤不要・星系内ワープ可能とかなりエンジン性能が高いのですから、太陽系内防御を考える必要はないと思われますが……

 

 

 現実の地球で、航空機以前には都市に対する攻撃で一番怖いのが艦砲射撃と陸兵の上陸であり、それを阻止するため、湾口の岬や海峡の島など航路の要点に巨砲を据えたことを思い出します。

 フィクションですが『ナヴァロンの要塞(アリステア・マクリーン)』で、航路を見下ろす要塞の巨砲が多くの艦船を撃沈したように。

 爆撃機ができてしまえば無駄でした。


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