本作は、サークル「Yuraiz Miuber」様からの合同小説本の企画へのお誘いを受け、今年(2018年)の春に行われたCOMIC1において同サークル様頒布された、「よろず二次創作小説本『夕暮れの先に』」に掲載させていただいた作品となります。
ここでは、当日頒布したものより一部の文章に加筆・誤字の訂正をしたうえで掲載いたしております。
ガールズアンドパンツァー劇場版から、最終章第一話までの間に、もしかしたらあったかもしれない、小さな友情の物語です。
どうぞ、最後まで見ていただけると嬉しいです。


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エリカとみほの大切な一日

『今度の休日、二人だけで会わないかしら?』

 

大学選抜チーム対大洗女子学園の学校存続をかけた戦い(尤もこの時の大洗は殆ど高校選抜チームのようなものではあったが)が終わり、冬季無限軌道杯へ向けて準備を進めていたある日、突然かかって来たエリカからの電話にみほは驚いた。

普段エリカから電話がかかってくることなど皆無に等しかったこともあり、恐る恐る電話に出てみれば、まさかの再会の誘いである。

みほはエリカからこのような誘いが来るなど、はっきり言って想定外の出来事だった。

 

「えっ!?い、いいけど、急にどうしたのエリカさん?」

 

幸か不幸か、エリカから提示された日は、戦車道の練習も友人との約束も入っておらず、エリカからの誘いを断る理由は無かったため、多少の戸惑いはありつつも承諾したのである。

エリカがなぜ誘ってきたかが分からず、みほはその理由を聞いたが…

 

『そ、それは…り、理由なんてなんでもいいでしょ…!』

 

なぜかはぐらかされてしまった。

 

『それより、そっちは大丈夫なのよね?』

「え、う、うん…大丈夫だけど…」

『黒森峰の学園艦が横浜に寄ることになってるから、出来れば横浜で会いたいんだけど。』

「えっと、ちょっと待ってね…あ、うん、その日なら横浜まで臨時の連絡船出てるから大丈夫だよ。」

 

双方の学園艦は熊本沖と茨城沖で離れているが、黒森峰の学園艦が都合により横浜港に停泊する予定になっていたようだった。

ちょうど最近、大洗学園艦から臨時便で東京・横浜方面の連絡船が出るようになったため、みほはそれに乗って横浜港を目指すことにした。

 

『そ、なら連絡船のりば前で集合、いいわね?』

「わ、わかった。」

 

嵐のように訪れたエリカからの電話は、衝撃と困惑だけを残し、再び嵐のように去っていった。

 

・・・

 

エリカとの再会当日、みほの乗った大洗からの連絡船が横浜に近づいたとき、黒森峰の巨大な学園艦が目に入り、時間を確認する。

このままいけば横浜港接岸は予定通りといったところだろうか、みほは携帯を取り出し、エリカに電話をかける。

 

『もしもし?』

「あ、もしもし、エリカさん?今横浜港が見えてきたよ。多分予定通りつけると思う。」

『そ、着いたらちゃんとのりば前まで来なさいよ。』

「うん。それじゃあ、またあとで。」

『ええ。』

 

そこで通話は切れた。

みほは携帯をしまい、ふと間近に迫った黒森峰の学園艦を見つめながら、複雑な心境になった。

とはいっても、その内は以前ほど暗いものではなかった。

黒森峰での日々や大切な仲間、先輩たちのこと、時には先輩とぶつかったこともあったし、固く手を取り合ったこともあった。

改めて、黒森峰女学園での4年間は、自分にとって大切な時間だったのだと思う傍ら、やはり今の大洗での時間のほうが、今までよりずっと楽しくて充実していて、結局どっちも大切な時間であり思い出なのだと思い返す。

横浜港の内湾に入ってからどれだけそう思い返しただろうか、と自問自答しつつも、また気が付けば同じことを振り返っている。

それほどまでに、中高の5年間でおきた出来事が多く、みほにとってかけがえのない人生の1ページとなっているのだ。

そして、最後に思うのは、やはり母、しほのことだった。

姉のまほとはもう以前の様に仲良くなれているが、母とはあれ以来一度も話したことがない。

このままでいいのだろうかと思う反面、やはり母に会うのを躊躇ってしまう自分がいることもよく分かっていた。

こればかりは自分一人で考えても仕方がない、姉に話してみることにしようと決め、思考を彼方へと放り投げた。

連絡船は既に、ものの数分で接岸しようとしていた。

 

・・・

 

到着してすぐ、みほはエリカのもとに向かっていった。

 

「おまたせ、エリカさん。」

「来たわね、そしたら少し移動しましょ。」

「う、うん。それにしても、こうやってエリカさんと二人で出掛けたりするのって、初めて…だよね…?」

「そうね、あんたと出掛けようなんて、今まで一度も考えたことなかったし。」

 

横浜港から横浜の街へ向けて歩き始めた二人は、そこから途切れ途切れながらも会話を始めた。

学校での調子について、今度復活開催されることになった無限軌道杯のことについて、その他身の回りのことについてなど、話す内容は様々で、どれも他愛もないことだった。

そのうちみほは心の中で、こんな風に二人で話すのも悪くない、と感じ始めていた。

その時だった。

 

「あんたとこうやって話すのも、案外悪くないわね。」

 

そんな言葉がエリカから聞こえてきたのだ。

みほは驚愕しながらエリカを見た。

前を向いて歩き続けるエリカの顔は、少し微笑んでいた。

その顔は、あの全国大会の決勝戦が終わった後にみほに向けていたものとは少し違ったもので、エリカが今まで一度も見せたこともなかった、優しい表情だったのだ。

みほはそのことにさらに驚愕するも、すぐに、う、うん、と曖昧な返事を返してエリカの隣を歩き続けた。

この時みほは、もしかすると、自分とエリカの関係は、自分が想像している以上に改善していけるかもしれない、と思い始めていた。

 

・・・

 

どれくらい歩いただろうか、時折雑談を挟んだり、観光施設や建造物を見てみたりしていると、エリカがある店の前で立ち止まった。

 

「エリカさん?」

「…ここにしましょ。」

 

そのお店は、横浜中華街の中ほどにある中華料理店だった。

メニュー表を見る限り、1000円以内でそれなりの量の中華料理を食べられるお店ということだった。

その良心的価格からか、お店の中はお客が多くいた。

 

「結構混んでるけど…座れるかな?」

「さあ…まあ、空いてなければ他の店を探しましょ。入るわよ。」

 

そういって、エリカは店の中に入っていった。

みほもワンテンポ遅れて店の中に入っていく。

幸いなことに2階が空いていたようで、二人で2階に案内された。

席に座った瞬間に店員が水替わりの黒烏龍茶を置いて去っていった。

みほ達は、出された黒烏龍茶を口に含み、メニューに目を通す。

 

「エリカさんはもう決まった?」

「うーん…もう少し待って頂戴。みほは?」

「私ももうちょっと…あれ?今エリカさん、私のこと『みほ』って…」

「っ…!」

 

初めて『みほ』と呼ばれたことにみほは驚き、エリカを見る。

当のエリカはそれを指摘され、ついうっかり言ってしまった、と言わんばかりに顔を赤くしてしまう。

その顔を見たみほは、思わずふふっと笑ってしまう。

それを見てエリカはそのことを否定せずに軽く憤慨する。

 

「な、なによ、悪い!?」

「ううん!そうじゃなくて…その…ちょっとうれしくって…」

「ぅええっ…?」

 

みほのうれしいの一言に対して、エリカはうまく反応できず、何とも微妙な空気が二人の間に広がってしまう。

これはよくないと察したエリカは、瞬時に話を元に戻す。

 

「そ、それより、あんt…み、みほは!」

「ふぁ、ふぁい!?」

「注文、決まったの?」

「あ、う、うん、ちょっと待ってね…うん、今決めた!え、エリカさんは!?」

「わ、私も大丈夫よ。」

「じゃ、じゃあ、ボタン、押すね。」

「え、ええ…」

 

ボタンを押すと、戦車喫茶として有名なルクレールとは違い、一般的な飲食店でよくある「ピンポーン」という音が鳴る。

ほどなくして店員がやってきて、注文を取り始める。

それに対して二人は、落ち着いてる風を装いながら注文をしていく。

それを聞き終えた店員は、注文が終了したことを確認するとすぐに下がっていった。

それを見た二人は、どっと溜息を吐く。

 

「戦車以外でこんな変にドキドキしたの、初めてかも…」

「分かるわその気持ち…まさかこんな変に緊張するとは思わなかったわ…」

 

それだけ言葉を交わすと、二人はプッと吹き出し、お店の中であることを考慮してか、フフフと控えめに笑いあうのだった。

それから少しの間笑いあったあと、みほがこう切り出した。

 

「でも、どうして急にみほなんて呼んでくれたの?」

「え?あ、あれは…その…そう!たまたまよ、たまたま!別に呼びたくて呼んだわけじゃないんだから深く考えないで!」

「そ、そっか…ねえ、エリカさん…」

「な、なによ…?」

「さっきみほって呼んでくれたの、ほんとにうれしかったから、もしエリカさんがよければ…その…これからも、みほって呼んでくれないかな?」

「なっ…」

「だめ…かな…?」

「っ…わ、分かったわよ…!呼べばいいんでしょ、呼べば!」

 

半ばみほの上目遣いを用いた懇願による可決で、エリカは不満げではあったものの、エリカの顔は逆に満更でもないような、微妙な表情をしていた。

が、みほがそれに気づくことはなかった。

そのやり取りが終わるのを見計らっていたかのように、店員が「失礼しま~す」と言いながら料理を運んできたため、この件に関してはここで話題は打ち切りとなった。

 

・・・

 

料理を食べている間は、料理の味の感想や、先ほど道中で話していた日常の他愛もない話をしていた。

しかし、ここまでの道中よりも明らかに会話に途切れが少なくなっており、時には話の内容で二人で笑いあったりしながら、とても明るい雰囲気となっていた。

そうして会話をしているうち、気が付けば二人は食事を食べ終えており、そのあとは黒烏龍茶をゆっくりと飲みながら話の続きをして、二人ともちょうど飲み切った頃合いを見て店を出ることにした。

店を出た二人は、エリカの提案で山下公園へと足を向けることにした。

 

「そういえば、横浜って確か、聖グロリアーナの学園艦の寄港場所だったよね?」

「そうよ。今回の黒森峰の接岸も、元はといえば聖グロとの練習試合のためだったの。」

「そうだったんだ、ということは練習試合って昨日やったの?」

「いいえ、明日の予定よ。今日はその前に気分転換も兼ねて終日オフにしたのよ。」

「そっか、いい練習試合になるといいね。」

「そうね…」

 

ふと、エリカの声に複雑な心境を感じたみほは、エリカの顔を見る。

すると、エリカの表情は、先ほどの明るい表情とは違って、少し暗い感じのものとなっていた。

 

「エリカさん…?」

 

しかし、その声に返事はなく、直後にエリカはその場に立ち止まってしまった。

 

「エリカさん、どうしたの?急に立ち止まって…?気分でも悪いの?」

「…ごめんなさい、そうじゃないの。ただ、ちょっと考え事でね…」

「…私でよかったら、話聞くよ…?」

「…いえ、この件は私個人のことよ。だから一人で考えるわ。」

「…そっか。やっぱりすごいね、エリカさんは…」

「すごいって、何がよ?」

「なにか考え事とか、悩み事があっても、それを一人で頑張って解決しようとするところ…わたしには、とてもじゃないけど、できないから…」

「みほ…」

 

ここで二人の会話は、久方ぶりに途切れた。

先ほどまでの明るい空気とは真逆の、暗い静寂が二人を包む。

それをよく思わなかったエリカが、思い出したかのようにあっと声を上げた。

 

「そういえば、この近くに、あんたが好きな…なんだったっけ、クマの…」

「ボコられグマのボコのこと?」

「そうそれ、そのお店が近くにあったはずなのよ。」

「それ本当!?」

 

急にみほの顔が笑顔に変わり、目がまぶしいくらいに輝き始めたかのような錯覚を覚えるエリカだが、こうなることは予想済みだったようで、一瞬驚きはしたものの、すぐに冷静になる。

 

「え、ええ。ちょっと待ってなさい、すぐに調べるから。」

「うん、ありがとうエリカさん!」

 

スマートフォンの地図検索機能で店を探すと、山下公園のほど近くにそれがあることが分かった。

そのことをみほに伝えると、みほはエリカの腕をつかんで一気に走り始めた。

エリカは突然のことに抗議するが、みほはごめん!とだけ言うだけで、結局お店の近くまで二人とも走りっぱなしだった。

さすがにお昼を食べた直後だということもあり、二人とも普段より余計に疲れた状態となってしまった。

 

「ご、ごめんねエリカさん…急にたくさん走らせちゃって…」

「ホントよ全く…ご飯食べた後なのにこんなに走って…すごい疲れたわ…」

 

息も絶え絶えにボコのお店に入った二人は、そこで様々なボコグッズを見回った。

といってもみほがグッズをひたすら見て回り、エリカはそのあとをついていっただけなのだが。

それでもエリカは、この時間を悪いものとは考えていなかった。

先ほどのやり取りで暗い空気にしてしまったのはまずかった。

だから空気を変えるためにボコの話題を振ったのだ。

それでみほが喜んでくれたなら、それで十分だと思っていたからだ。

 

「お待たせエリカさん…!」

「いいのよ別に…というかみほあなた…どんだけグッズ買ってるのよ…?」

 

買い物を終えたみほは、両手で抱えるほどの大きな紙袋を持っており、その紙袋は溢れんばかりにパンパンになっていた。

エリカの指摘に、みほはうれしさを隠しきれないといった様子で苦笑しながら言い訳を放つ。

 

「えへへ、ここにしかないボコのグッズがたくさんあったから、つい…」

「そう…やっぱりあなたは変わらないわね…」

「エリカさん、何か言った?」

「何も言ってないわ。」

「そっか…」

「ほら、それ持ってあげるから、行くわよ。」

「あ、ありがとうエリカさん。」

 

店を出た二人はその後、予定通り山下公園まで行き、公園内の海が見える場所にあるベンチに座って、くつろいでいた。

 

「なんか無理やり誘って悪かったわね。」

「そんなことないよ。エリカさんが誘ってくれたこと、すごくうれしかったから。誘ってくれてありがとう、エリカさん。」

「…」

「エリカさん…やっぱりわたしに話したいことがあるんじゃ…?」

「…そうね、この際全部話しちゃうわ。」

 

そういうと、エリカはみほのほうを向いて、真剣な表情でみほを見つめる。

みほも、それに併せて少し真面目な顔になる。

一体何の話だろう、とみほが考えていると、エリカが口を開いた。

 

「…この間ね、私が隊長から、正式に次期隊長の任命を受けたの。」

「そ、そうなんだ!すごいよ!おめでとう!」

 

なんだ、複雑な話じゃないのか、とみほは胸をなでおろした。

しかし、この直後にエリカから飛び出した言葉に、みほは固まらざるを得なかった。

 

「…みほ、黒森峰に帰ってきてくれないかしら?」

「…えっ?」

 

みほは信じられない、といった顔をした。

どうして急にそんなことを言いだしたのか、みほには全く分からなかった。

 

「ど、どうして?」

「私ひとりじゃ、とても不安なのよ…あなたに黒森峰に戻ってきてもらって、私を支えてもらいたいの。」

「そ、そんな!私には無理だよ!?」

「大洗でいきなり隊長やって、いきなり全国優勝かっぱらっていったのはどこの誰よ?」

「そ、それは、みんなの協力があったからで…」

「お願いみほ。無茶なことを頼んでることはわかってる。でもこんなこと頼めるの、あなたしかいないの。」

 

深々と頭を下げるエリカに対し、みほは少しおどおどしてしまうが、すぐに深呼吸して気持ちを落ち着ける。

そして、少しだけ考えてからエリカを見る。

 

「顔を上げてエリカさん。エリカさんの気持ちはよく分かったよ。」

「!じゃ、じゃあ…」

「でもねエリカさん、私にはもう、大洗女子学園のみんながいるの。だからごめん、黒森峰には戻れない。」

「そう…よね…」

 

その言葉を聞いたエリカは、暗い表情をしたまま項垂れる。

考えてみれば当たり前のことなのだ。

他校で現役の隊長をしている人間を、いくら古巣とはいえそこに引き込んで隊長の補佐をさせるなんて、無茶苦茶にもほどがあるのだ。

しかも相手は戦車道復活後一番最初の全国大会で、戦車不足で経験不足、戦車の種類はバラバラというかなりハチャメチャな急造チームであった自校を優勝させるほどの実力者。

そんな人物を、自分一人で部隊を引っ張れるわけがないという理由だけで引き抜くなど、許されるはずがない。

この話はおしまいにして、手早く解散にするかと考えたエリカだったが、みほはそのあとフッと口を開いた。

 

「エリカさん、私思うんだ。エリカさんなら、きっと黒森峰を引っ張っていけるって。」

「え?」

「エリカさんはね、私やお姉ちゃんとは全然違う黒森峰の可能性を持ってるような気がするの。」

「そんなもの…私には…」

「ううん、あるよ。私は黒森峰にいた時からそう思ってるし、多分お姉ちゃんもそう思ったから、エリカさんに隊長を任せたんだと思う。」

 

黒森峰にいたころ、みほはエリカが持つ強い心の中に秘めた才能の片鱗を感じていた。

そしてそれは、みほの後釜として副隊長になったあと、より分かりやすく感じられるようになった。

それが隊長としての器を表すものなのかは分からないかったが、みほはエリカに対して、何らかの可能性を感じていたのだ。

 

「みほ…」

「エリカさんは私なんかより全然すごい人だから、きっと大丈夫。それに、エリカさんは一人じゃないよ。チームのみんながいる。」

 

そういってみほはエリカの手を優しく握る。

 

「一人で抱え込んじゃうのはダメだよ。周りには必ず誰かいるから。その人に相談してみてもいいんだから。」

「…」

「それにねエリカさん、お姉ちゃんみたいな完璧な隊長にならなくてもいいんだよ。」

「えっ?」

「お姉ちゃんは本当にすごい人だったからなんでもこなせちゃうけど、あんなにできる人って普通はいないんだよ。私だって無理だよ。」

 

でもね、とみほは続ける。

 

「私には、大切な友達が、チームのみんながいたから、助け合えたの。だから隊長だって頑張れた。エリカさんも、そうやっていいんだよ。」

「助け…合う…」

 

みほがチームメイトに助けられたことは、あの全国大会期間中何度もあった。

みほの機転によって、チームが救われたことも数知れない。

書類や資金面に関しては全面的に生徒会が請け負っていたし、戦車の整備は常に自動車部の面々が動き続けてくれた。

砲術や操縦、戦車そのものに関すること、様々な質問を受けたこともあったが、それもあんこうチームの面々が分担して受けてくれた。

沙織、華、優花里、麻子、生徒会三役、そしてチームのみんな。

それぞれがそれぞれで手を取って助け合ってきたからこそ、大洗は勝ち続けられ、そして生き残ることができたのだと、みほは確信をもって言える。

だからこそ、隊長は完璧であり続ける必要はないのだと、みほはエリカに伝えたのだ。

 

「でもね、もしどうしても辛くなった時は、迷わず私かお姉ちゃんに相談して。その時は絶対に力になってあげるから。」

「…ありがとう、みほ。私、自分なりに足掻いて、なんとかやってみるわ。」

「うん!エリカさんなら絶対大丈夫だよ!絶対に!」

「買いかぶり過ぎよ。でも、あなたと話せて本当によかったわ。あ~スッキリした。これで明日の練習試合、気兼ねなく戦えるわ。」

 

ようやく、二人の間に明るい空気が戻った。

その明るい空気は、今までこの二人の間にできたことなど一度もなかった、非常に温かい空気だった。

 

・・・

 

大洗学園艦行きの連絡船の出港時間が迫っていたこともあり、二人はそのまま横浜港へ向かった。

 

「それじゃあ、明日の練習試合、頑張ってね。」

「ええ、絶対勝って見せるわ。」

「そしたら、次に会うときは、隊長同士…かな?」

「そうね…話、聞いてくれてありがと。」

「ううん、私も、誘ってくれて、話してくれてありがとう。エリカさんの力になれたなら、本当によかったよ。」

「そ…それじゃあ、私はもう行くわね。じゃあね、みほ。次は絶対負けないから。」

「うん!私も、絶対に負けないから…!バイバイ、エリカさん!」

 

そういって、みほは連絡船の中へと消えていった。

ほどなくして、「ボー」という汽笛を残して、連絡船は横浜港から離岸した。

デッキを見れば、みほがこちらへ大きく手を振っているのが見えた。

エリカはそれをみると、フフッと微笑みながら手を振り返した。

その姿が小さく見えなくなるまで、エリカは手を振り続けた。

その目は、強い決意に激しく燃えていた。

例え隊長の様に完璧にこなせなくてもいい。

私は私なりに、最後まで隊長を務めあげて、黒森峰をもう一度王座に持ち上げてみせるのだ、という強い想いを胸に、エリカは自らの学園艦へと足を向ける。

その足取りに、もはや迷いなどなかった。

 

・・・

 

翌日の練習試合は、黒森峰の完勝となった。

この日を境に、エリカはメキメキと隊長としての頭角を現し始めた。

それは、西住まほや西住みほのようなカリスマ性とは全くベクトルの異なるものだった。

チームメイトの意見を積極的に聞き、良いものがあればそれをどんどんと取り入れてチームを強化する。

さらにエリカからチームメイトに対して改善案や疑問点を聞かれることも多くなり、こうした動きから、チーム内の連携は今まで以上に強化され、メンバー間の信頼関係も大きく強化された。

その様子は、前隊長のまほから見ても凄まじいものがあり、エリカを起用してよかったと何度も言わしめるほどのものだった。

或る時、まほはエリカにこう問うた。

「あの休日、いったいエリカに何があった?」と。

それに対して、エリカはこう答えた。

 

「私の大切な友人から、隊長の在り方を教わっただけですよ。」と。

 

黒森峰が王座を取り戻す日は、そう遠くないのかもしれない。

 

おわり。

 



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