多分、四~五話で終わります。タイトルはかなり適当です。
穢れていると言われている地上には『兎はひとりぼっちだと寂しくて死ぬ』という噂があるらしい。もしも、それが本当なら俺はいったい何回死んでいるのだろうか。まあ、一度も死んでいないからその噂は迷信なのだろう。
全く、地上の奴等は変な迷信を作るものだ。兎は例え、病気になったり怪我したりしても、周りにそれがバレないように生きる程の強い気持ちを持っていると言うのに……もしかしたら地上の兎は寂しがりやなのだろうか。
まあ、地上に行くすべを持たない俺は地上の兎が寂しがりやかどうかを調べる事はできない。地上の兎が、月に居る俺のような気高い精神を持っている事を祈るばかりだ……俺が例外とか思いたくないし。
しかし、俺以外の玉兎が毎日のようにだらけているのを見たことはない。他の玉兎はだいたい週三ぐらいで、月の住人の荷物持ちをしてたり兵士としての訓練をしてたりするからだ。やっぱり俺は例外なのだろうか。
全く、まるで俺たち玉兎は月の住人の奴隷みたいじゃないか……いや、まあ奴隷というかペット的な存在なんだろうが、お互いに会話してコミュニケーションが取れるというのに何故ペット扱いされなければならないのか。
だが、俺は一人で居るせいか、全く月の住民について情報を知らない。せいぜい、ドレミーさんから聞いた事を知っているぐらいだ。そして、その内七割がサグメ様の愚痴だったりする……俺、自分が知っている所の人達について知らなさすぎね?
まあ、どうでもいいか。どうせ、やることも無いし眠っていよう。そう思い、俺は寝転がると意識を手離した。
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「さて、久しぶりね」
「……夢の中に突然出てこられるのはびっくりするんだが」
現実世界で意識を手離したかと思えば、夢の世界で意識を取り戻す。いや、現実と夢は違う世界なのだから取り戻すというのは少し違うのかもしれない。
「とりあえず、頼み事が貴方にあるのよ」
「頼み事?俺に頼んだって無駄だろうに」
言ってしまえば俺は他の玉兎より働かない玉兎である。訓練もしなければ、月の住民の下についたりもしていない。ずっと一人で寝たり、遊んだりしながら暮らしている、玉兎なのだ。
「貴方ぐらいにしか頼めない事なのよ……他の玉兎や月の住民だと嫌な事が起きるわ」
「どんな事を頼もうとしているんだ……」
「とりあえず起きて貰うわよ。体はもう用事のある場所に運んであるから」
そう言うと、ドレミーさんは鉄でできたポールを生み出し、俺に向かって何本も刺した。勿論、夢の中だから痛くはない。その代わり、俺の意識はゆっくりと薄れていった。
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「……本当に移動してやがる」
「起きたわね?じゃあ、連れていくわ」
目が覚め、起き上がるとドレミーさんはすぐそこにいた。まあ、ドレミーさんがここに連れて来たのだから居なきゃおかしい訳だが。そして、俺は頼み事を断る事はできないらしい。そんなの連れてこられた時点で明白ではあったのだが。
ドレミーさんはどこかに向かって歩く。ここがどこかも分からず、帰る方法も無い俺は仕方なくドレミーさんに着いていった。ついでに周りを見渡す。綺麗な内装だ。誰か身分の高い者が暮らしているのだろうか。
だが、それにしては窓一つもついていない。まあ、外を見たって建物と、クレーターしか見えないのだからつける必要も無いかもしれないが。中の空気を入れ換えるのだって機械を使えばいいし。
「さて、ついたわよ」
そんな事を考えているともう目的地に着いたらしい。ドレミーさんが止まった前には一つのドアがある。特に、目立つ事は無い。とてもシンプルなドアだ。だが、傷一つも無い為、大切にされている事が分かる。
単なるドアがそこまで大切にされる訳がない。つまり、ここに身分の高い月の住民が居るのだろう。仕事場か、家なのか、それは判断がつかないがドレミーさんが意図も容易く俺を連れて来たことから仕事場が妥当では無いだろうか。
「頼み事の内容を言っておきますね。このドアの奥にはサグメ様が居ます」
「……は?」
「聞こえていませんか?サグメ様が居ます。それともサグメ様が誰か分からないのでしょうか?」
「いや、別に聞こえているし、そのサグメ様が誰なのかというのも分かる。だが、もう一回言うぞ?は?」
この状況を例えるなら、とある会社でバイトしてたら突然上司に社長の居る部屋の前へ、連れてこられたようなものだ。本当に理解できない。連れてこられた理由も、何故俺なのかといえ事も。
「なら、頼み事の内容を言います。サグメ様が芸人になりたがってるらしいんです」
「……げいにん?なんなんだよ、それは。」
「私も、詳しくは知りませんが、地上での娯楽の一種だそうです。お客様を喜ばせる為に滑稽な事をしたりするみたいです」
「……地上には不思議な職業があるみたいだな」
お客様を笑わせる為の職業……月に無いのは月の住民が変に高いプライドを持っているからだろうか。でも、玉兎とかならやっていてもおかしくないと思うが、玉兎自体が月の住民の娯楽みたいなもんだから無いのかもしれない。
「サグメ様と対話して、その芸人の夢を諦めさせて下さい」
「……三回目も言うぞ?は?」
この貘はいったい何を言っているのか。確かに、月の賢者である人が、変な職業をやろうとするのを止めるのはまだ分かる。だが、何故俺が止めなければならないのか。
「サグメ様には厄介な能力があるのは教えましたよね?」
「ああ、『口に出すと事態を逆転する程度の能力』だったよな?」
サグメ様はこの能力のせいでかなり無口であるらしい。人と話す時も筆談らしい。
「芸人というのは喋べる職業です。その過程で、サグメ様の能力が発動してしまえば恐ろしい事になるかもしれません」
「でも、サグメ様の能力って発動条件がいろいろあるだろ?その芸人をやっている途中で能力が発動したりなんてするのか?」
「芸人というのはお客様に対して会話したりする職業です。それが発動条件に合う可能性があります。更に、能力を発動するのに発言した内容は関係無いので、サグメ様の言葉を聞いたお客様達に関する事態が一気に逆転するかもしれませんね」
……確かにそんな事が起こるかもしれないならそれは止めておくべきなのかもしれない。月の会社が次々潰れていったりする可能性があるかもしれないということなのだからな。
「止める理由は分かったが、なんで俺が止めようとしないといけないんだ?俺は単なるぼっち玉兎だぞ」
「貴方が単なるぼっち玉兎だからですよ。もしも、サグメ様が言葉を口に出してしまって貴方の事態が逆転したとしても誰も迷惑がかからないですし」
「……おい」
「あと、貴方がサグメ様に関係ない第三者というのもありますね。こういうのは知り合いよりも、知り合いでもない者から言われた方が、現実味が大きくなりますから……という事で頼みますね」
ドレミーさんはそう言ったあと、ドアをノックして「サグメ様、連れてきました」と言い残したあと、ドアを開け姿を消した……あいつどっか行きやがった。そもそも、俺に頼んだ理由もあいつがどこかに行くため嘘だったのでは無いだろうか。
しかし、もうあいつがここから去って行ったのは事実であり、今ここにずっと立ち止まっていても無意味だろう。もはや、俺には中に入るしか道は残されていないのだ。仕方なく、俺はドアの中に入っていく。
[どうぞ椅子に座って下さい]
そう、書かれている紙を持って椅子に座っているサグメ様が居た。当然、俺はサグメ様に会った事はない。だが、見た目とか性格とかはあいつから愚痴と共に聞いていた。流石にあの大きな翼の情報を聞いていて、実際に見たら誰でも分かるだろう。
俺は進められた通りに椅子に座りサグメ様と対面する。恐らく、サグメ様とこうやって対面するのは前にも後にも今回だけだろう。それほど俺とサグメ様は立場が違い過ぎている。
しかし、その場に訪れたのは静寂のみ。まあ、これも当然の事だろう。お互い、知らない同士なのだ。それなのにお互いの知り合いであるあいつがどこかに行ってしまったのだ。会話ができる訳もない。
そんな事を思っているとサグメ様がまた紙を何かを書き始める。そして、すぐに書き終えこちらに見えるようにその紙を持った。
[緊張はしなくて大丈夫です。特に言いたい事を言ってくれれば]
……サグメ様は良く出来た人物であるらしい。名前も知らない知り合いの知り合いにそこまで気を回せるのだから、部下にもしっかりと気を回せるのだろう。部下がどれぐらい居るのかは分からないが。
「じゃあ、サグメ様が芸人になりたい理由を教えてくれますか?」
一度も会った事がない、サグメ様がこんな俺の為に気を使ってくれているのだ。ならばそんなことをしなくてもいいように余裕を見せるしか無いだろう。そもそも、こうやって会ってるのでさえ奇跡なのだから。
[敬語じゃなくても構いませんよ]
思わず、目を見開いた。その一文は俺としてはあり得ないような文だったのだから……サグメ様はそこまでプライドが高く無いのだろうか。
「いや、流石にそれは出来ませんよ。」
[敬語じゃなくても構いませんよ]
その紙を更に近づけて見せてくるサグメ様。
「いや、だからそれは出来ませんから。」
[敬語じゃなくても構いませんよ]
もはや、目の前までその紙を近づけてくるサグメ様。もはや、サグメ様というか、周りの景色すら見えない。多分、敬語を止めないと離してくれないだろう……仕方がない。
「じゃあ、なんでサグメ様は芸人になりたいと思ったんだ?」
俺がそう言うと、サグメ様は紙を俺の顔から離し、満足そうな顔でこちらを見てくる。仲良くなりたいとでも思っているのだろうか。だが、何の為に?
[あれは今から十年前の事です]
[その時、私は月の賢者として暮らしていました。能力の為、うかつに喋る事は出来ませんでしたが、そんなこと問題無いくらいに幸せに暮らしてました。仲良く話せる友人もドレミーぐらいでしたがそんなことも問題ありませんでした。]
[更にそこから九年経ちます]
「いや、何でだよ⁉」
俺がそう言うと、サグメ様は[どこかおかしいところはありましたか?]と書かれている紙を見せてくる……どうやら、サグメ様は天然なところがあるようだ。俺の中でサグメ様のイメージが少し崩れる。
「いや、そこでまだ芸人になりたいと思って無いんだろ?」
[はい]
「十年前は単なる月の賢者として幸せに暮らしてたんだろ?」
[はい]
「なら、そこは必要無いだろ」
[いえ、必要です]
「なんでだよ‼」
サグメ様にはサグメ様なりの理由があるのかは分からないが、普通に月の都を歩いてる者達に聞けば百人中、百人が必要無いと答えるような場所だ。訳が分からないとしか言いようがない。
「まあ、今回は譲ってそこはいいとするか。そこからどうなるんだ?」
[例え九年経ったとはいえ、特に大きな問題は起こりませんでした。その為、私は気が緩んでいたんでしょう。もう少し、月の賢者としての自覚を持っていればあんな事件は起こらなかったでしょうに……]
その紙を見せてくるサグメ様の表情はとても深刻だった。まるで、その事件の影響がまだ残っているかのように、さっきまでの表情が嘘のように……そこまで表情が変わっていた。
「何が……起こったんだ?」
[ドレミーが私のお餅を食べました]
「いや、事件ショボ⁉月の賢者の自覚とか関係無いだろ‼そこまで深刻な顔をするからどんだけやべぇ事件なんだって思ったら、餅を勝手に食べられただけって……」
[勝手にって……私はちゃんとドレミーに許可をあげましたよ]
「じゃあ、事件でも何でも無いじゃねーか⁉何⁉一旦、一年前に戻して何が話したかったんだよ‼」
[で、そこから一昨日まで遡ります]
「十年前まで遡ったのに結局一昨日の事なのか……」
俺の中のサグメ様のイメージはもはや跡形も無くなっていた。単なる誰にも気をつかえる天然の人だよ。こんだけ天然なんだ、そりゃあドレミーさんも愚痴を溢すわ。
[一昨日、八意様から一つのDVDという者が送られてきたんですよ]
DVD……何なんだそれ。やはり、地上には月には無いものがたくさん置いてあるのかもしれない。いや、俺が知らないだけかもしれないが。
[勿論、月にはDVDより便利な物はありますが、DVDを見るものはありませんでした。その為、ドレミーに頼んで夢の世界でそのDVDを見たんですよ]
どうやら、DVDとやらを見るには専用の何かがいるらしい……もしかして、DVDとやら写真や映像等を保存している物なのだろうか。それなら確かに、月にも似たような物はある。触ったことは無いが。
[そこには、地上の人間達が行う漫才という物が映っていました。そして私はそれに魅せられたのです]
DVD=映像映すやつというのは合っていそうだ。特に気にする事でも無いかもしれないが。
[そして私はその人間達のようになりたいと思いました]
「それがサグメ様の芸人になりたい理由か……」
恐らく、そこにある感情は憧れだろう。普通ならそんな感情はゆっくりと薄れていき、気づけば諦めるのが大半だ。だが、ドレミーさんが本気で止めようとしているのに諦めていないということは憧れ以外にも何かあるのだろう。
だが、その憧れ以外の何かは簡単に想像がつく。未知への好奇心、暇な現状を破ってくれるかもしれない何かに期待を持っている、そんな所だろうか。全く、月の住民らしい理由だ。
もしかしたら、地上の人達が出来るんだから月の私達も出来るだろうという考えも持っているのかもしれない。俺に読心術は無いから真実は分からないが。
「諦める気は無いんだな?」
[はい]
「サグメ様、貴方には貴方にも制御できない能力がある。その能力のせいで問題が起こるかもしれない……それでも諦め無いんだな?」
[はい。紙に書いてやる漫才……新しいと思いませんか?]
……なんかサグメ様の回答が少しずれている気がする。まず、漫才がどんなものか分からないから新しいかも分からないんだが。
「まあ、新しいかもしれないがお客様には見えないんじゃないか?」
[確かに⁉でも、それこそ映像を使ってやれば……]
大丈夫なんだろうかサグメ様は……誰かが見てないと何かしでかすんじゃないか?あっ、だからドレミーさんが居るのか。
[……周りからは止められるような事でしょう。しかし、それ程度で諦める訳にはいかないんです]
そう書いた紙をサグメ様が見せてくる。今思ったが、あの小さい点って自分で書いてるのだろうか。
[それに、私達の漫才で月の民が笑ってくれると思うと面白いじゃないですか]
そう書かれた紙を持つサグメ様は笑っていた。本気でそう思っているからこその笑いというやつなのだろう。私達というのは……ドレミーさんとのコンビという訳だろうか。そりゃあ、ドレミーさんも本気で止めようとするわな。
もう、俺にはサグメ様を止める事なんてできないだろう。サグメ様の意思を、サグメ様の頑固さを見てしまったんだ。まあ、見てなかったとしても止める事は無理だっただろうが。
「まあ、頑張ってくれ。俺は応援するから」
サグメ様を止める事ができない俺はそんな言葉を残す事しかできなかった。サグメ様はそんな言葉に少し驚いたのか、目を見開いた後、また笑顔になって[ありがとうございます]と書かれた紙を見せてくれた。
次にサグメ様を見るときはきっと、芸人になっている事だろう。なんとなくたが、そんな気がする。芸人がどんなものなのか、どんな事をするのかはサグメ様の芸人になった姿を見て、知ることにしよう。
「じゃあな」
[ええ、またいつか]
そんな文字を見たあと、俺は立ち上がり、その部屋を出た。全く、ドレミーさんには申し訳ない事をしてしまった。まあ、単なる頼み事だ。そこまで気にする事でも無いだろう。
俺以外、誰もいない廊下で俺は少し笑う。さて、どうやって帰ろうか。
玉兎➡サグメ様(芸人になる夢を諦めさせねぇと)
サグメ様➡玉兎(??????????????)