護りたいもの   作:影風

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二学期の文化祭編スタートです!!!

スイス編及び予定してたフランス編はちょっと時間がかかりそうだったので、また本編が落ち着いたら隙を見て書きたいと思います!


【第28話】祭りの前の静けさ

 新学期早々生徒会に大きな仕事が回ってきた。今月に行われる文化祭の準備だ。今日はそのための会議が生徒会室で行われている。

 

「じゃあ、次にクラブ企画の賞品を決めていこうと思うんだけど何か意見ある?」

 

「あの…」

 

 まず最初に虚さんが手を挙げる。

 

「はい、虚ちゃん」

 

「昨年までと同様上位の部活に特別助成金ではダメなのですか?」

 

「それもいいんだけど、どうせなら今までと違うことをやってみたくない?思いっきりインパクトのあることをさ」

 

「インパクトですか…?」

 

「そう。全校生徒が盛り上がれるようなやつをね♪」

 

 虚さんは困惑した表情を浮かべる。

 

 楯無さんは簡単に言ってのけるがこれは非常に困難な問題だ。部活動と言っても文化系も運動系もあるのだ。それに部活ごとに必要な機材なんかも異なる訳だし現物支給という形で全部活が納得できるものなんて簡単に思いつくものではない。

 

 案の定沈黙に包まれる生徒会室。それを破ったのは本音だった。

 

「私、食堂のデザートのフリーパスとかいいと思うな〜」

 

 なるほど、これなら部活動に関係なくメリットがあるし、確かクラス対抗戦の賞品にもなっていたはずだし割といい案じゃないか?

 

 しかし、楯無さんの表情は晴れないものだった。

 

「うーん、それも考えてみたんだけどイマイチインパクトに欠けるのよね。それに昔それを景品にした時はフリーパス目当てで入部してすぐ辞めちゃう子なんかもいて結構問題になっていたらしいからそれはちょっと難しいかな…」

 

「そっか〜、残念」

 

 そう言ってがっくりと肩を落とす本音。

 

 再び生徒会室は沈黙に包まれる。

 

「ダイチ君は何か意見ない?」

 

「そうですね…」

 

 楯無さんに意見を求められ、俺は熟考する。

 

 運動部、文化部関係なく必要となるもの。部費と部員くらいか…ん、部員?そうか、この手があるじゃないか。

 

「織斑を景品にするっていうのはどうでしょうか?」

 

「どういうこと?」

 

 本音が訊いてくる。

 

「クラブ企画で優勝した部活に織斑を入部させるんです。部員なら文化部、運動部問わず絶対に必要なものですし、織斑は絶大な人気を誇っていますからインパクトの面でも申し分ないと思うんですがどうでしょうか?」

 

 そう言って楯無さんの方を見ると楯無さんは真面目な表情をしてこちらを見ていた。

 

「ダイチ君…」

 

 ヤバい、流石に現実味がなさ過ぎたか…とりあえず謝ろうとすると次の瞬間

 

「素晴らしいアイデアじゃない‼︎」

 

 パッと顔をほころばせ生き生きとした声でそう言う。

 

「よしっ、そうと決まれば早速準備に取り掛かるわよ‼︎」

 

 そうして珍しくやる気を出した楯無さんのバイタリティは凄まじく、学校側への許可申請書類の提出から各関係団体への連絡、生徒会自体の出し物の企画など現時点でやれることはほぼ全てわずか1週間の間に仕上げてしまった。

 

 その仕事のスピードに付き合わされる方の身にもなって欲しいと内心では思ったが、やる気をなくされるよりはマシなので黙っておいた。

 

 1週間後充実した笑みを浮かべる楯無さんの傍らには、疲れ切った表情の俺と虚さんがいたことは言うまでもないだろう。本音は何をしていたのかは俺は知らない。

 

_______

 

 こうして生徒会の仕事がひと段落したのもつかの間、今度はクラスの出し物を決めるホームルームがあったのだが…

 

「えっと…『織斑一夏、上代大地のホストクラブ』、『織斑一夏、上代大地とツイスター』、『織斑一夏、上代大地とポッキー遊び』、『織斑一夏、上代大地と王様ゲーム』…却下!」

 

 一夏がそう言うとえええええー!と女子からの大音量のブーイングが響く。当たり前だろうが…逆にどこに大丈夫な要素があったのか教えて欲しい。

 

「アホか!誰が嬉しいんだ、こんなもん!」

 

 至極真っ当なことを言っているはずの一夏に対し女子から集中砲火が浴びせられる。

 

「私は嬉しいわね。断言する!」

 

「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

 

「織斑一夏と上代大地は共有財産である!」

 

 看過できない発言があったので俺もそろそろ反論を始めることにするか…とは言っても全面的に反論してもどうせ一夏の二の舞だ。ここはある程度譲歩するしかないな。

 

「おいちょっと待て。一夏はいいが俺を巻き込むな。俺の名前を抜いてくれるならこれらの提案には全面的に賛成する」

 

「はぁ⁉︎ダイチお前裏切るのか⁉︎」

 

「悪いな。最悪の事態を避けるためには犠牲が必要なんだ」

 

「ダメよ。織上はセット。マストバイ何だから!」

 

「そうだそうだ。二人のくんずほぐれずを…」

 

「生徒会役員としてそういうのは看過出来ない。却下だ!」

 

 教室を一喝し若干の文句もありつつも騒ぎが収まる。就任して初めて生徒会役員肩書きが役に立った瞬間だった。

 

「他に誰か意見はないか?」

 

 そこで意見を挙げたのは意外や意外。ラウラであった。

 

「メイド喫茶はどうだ?客受けはいいだろう。それに飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れるのだろう?それなら、休憩場としての需要も少なからずあるはずだ」

 

 発言者が発言者だからかクラス全員がポカンとしている。正直あまり気は進まないが現実的にここらが落とし所か。

 

「まあ、それならいいんじゃないか?とりあえず多数決取るぞ」

 

 そうして俺たちのクラスの出し物は無事(?)メイド喫茶改めてご奉仕喫茶に決まった。

 

_________

 

「ただいま戻りました…ってこれどうしたんですか?」

 

 部屋に戻るとそこには段ボールの山があった。その山の向こうから声が聞こえてくる。

 

「おかえり〜。ちょっと引っ越すことになってね」

 

「引っ越し?」

 

「ええ。亡国機業(ファントム・タスク)が一夏くんを狙ってるって情報が入ったからその護衛のために、ね」

 

 なるほどそれなら仕方ないな。第2世代の俺のISよりも第4世代相当のISを持つ一夏が狙われるのも当然だ。

 

「楯無さんのことだから大丈夫だとは思いますが、お気をつけて」

 

「…それだけなの?」

 

 不満げな視線が向けられる。

 

「いや、もっとこう……ないの?」

 

「何がですか?」

 

「だから、その……」

 

 そこで言葉が止まる。楯無さんらしくなく妙に歯切れが悪い。

 

 自分でも上手く説明できないのだろう。

 

「別の男の子の部屋に泊まるんだから、もうちょっと何かこう……あるじゃない?」

 

「いや、護衛任務ですよね?」

 

「それはそうなんだけど‼︎」

 

 思わず声を上げた楯無さんは、はっとしたように口を閉じる。

 

「…もう、いいわよ」

 

 少し拗ねたように視線を逸らす。

 

 正直、何を怒られているのかよく分からない。

 

 ただ__

 

「…あんまり無茶しないで下さいね」

 

 そう言うと、楯無さんは一瞬だけ目を丸くする。それから少し俯きながら呟く。

 

「うん、ありがと…」

 

___________

 

 放課後、いつものようにアリーナに来ていた。しかしいつもいるはずの楯無さんの姿はない。どうしたんだろうか、そう思って連絡しようとした時にようやく一夏の特訓のためいなくなっていることを思い出した。

 

「まあ、ちょっと体を動かすか…」

 

 そう思い、軽くストレッチをしていると予想外の人物から声をかけられた。

 

「やあ、ダイチ」

 

「こんにちは、タニスさん。訓練ですか?」

 

「いや、君に会いに来たんだ」

 

 とてもいい笑顔でそう言うタニスさん。何故だか嫌な予感が予感がする…

 

「楯無に頼まれたんだよ、しばらくの間訓練出来ないから代わりに鍛えてやって欲しいとな」

 

 その言葉に俺の脳内には夏休み後半の地獄のような訓練が浮かんできた。

 

「あっ、そう言えば生徒会の仕事があったのをすっかり忘れてました。ってことで失礼します」

 

 そう言って俺は足早にタニスさんの傍を抜けアリーナの出口に向かう。が、肩をがっしりと掴まれてしまった。

 

「楯無からはそのような話は聞いていないのぞ。まさか逃げようとした、などということはあるまいな?」

 

 俺の肩を掴むタニスさんの力が強くなる。ってか骨が軋んでいるんですが⁉︎

 

「ギブギブギブですっ‼︎そういや今日はなくなったんでした‼︎訓練をやらせて頂きます‼︎」

 

「まったく、手間をかけさせるな」

 

 そう言ってようやく彼女は手を離す。

 

「さてダイチ、ではまず軍規の復習からいこうか?」

 

「はい?」

 

 てっきりISの訓練をするものだと思っていた。

 

「我が隊で一番重い軍規違反はなんだ?」

 

「それは脱走…あっ」

 

 そこで俺は気付く。彼女は最初から全て分かっていたのだと。

 

「あの…タニスさん?」

 

「ほう、上官を名前呼びとはいい度胸だな。少々鍛え直す必要がありそうだ」

 

 あっ、詰んだわこれ。

 

 その後俺は、普段の楯無さんの特訓が優しく思えるレベルの特訓をさせられたのは言うまでもない。

 

______

 

 訓練が終わった俺は学食に寄って夕飯を詰め込んだ後、部屋に戻っていた。

 

「全くひどい目にあった…」

 

 とりあえずシャワーを浴びて今日は寝てしまおう。そう思いながら部屋に入る。

 

「やあ、遅かったな」

 

 無意識に俺は部屋から出ていた。疲れているせいで幻覚が見えただけなんだ、きっと。

 

 気をとり直してもう一度ドアを開ける。

 

「これは何の遊びだ?」

 

「…どうして隊長がここにいらっしゃるんですか?」

 

 自分の部屋にタニスさんがいるような幻覚を見た気がしたが、どうやら気のせいではないらしい。

 

「こんなところで話をするのもなんだからとにかく入りたまえ。注目を集めるのは君も得意ではないだろ」

 

 確かに俺の奇妙な行動に先ほどから何人かの女子生徒がこちらをちらちら見ている。

 

「そうですね。では失礼します」

 

 自分の部屋に入るのに失礼しますというのはおかしいような気もするがまあいいか。

 

 部屋の中に入ると先日まで楯無さんが使っていたスペースにいくつかのダンボールが運び込まれていた。それを見て俺は大体の事情を察した。

 

「ひょっとして、隊長がここに住まれるんですか」

 

「そういうことだ。あと隊長呼びはやめてくれ。私は公私は分ける主義なんだ」

 

「はぁ…」

 

 肯定とも否定とも取れない返事が思わず口から溢れでる。自分の上官と同じ部屋で住むことになったという事実にハッキリ言ってついていけていない。

 

「…とりあえずお茶淹れますね」

 

 ひとまず目の前の現実から逃れるように俺はキッチンに向かった。

 

______

 

「うむ、なかなか美味いな」

 

「お褒め頂き光栄です」

 

 緑茶が口に合うか心配だったが、どうやらお気に召したようでひとまず安心する。

 

「タニスさんが引っ越して来たのは、俺の護衛のためですかね?」

 

「半分正解だ」

 

「半分?」

 

 てっきり楯無さんの代わりの護衛として来ていたのとばかり思っていたのだが…

 

「ああ。君の護衛を任されたのももちろんあるが、1番は君のことをよく知りたかったからだ」

 

「俺のことを?一通り資料はお渡ししていますし訓練でもご一緒させて頂いていますが…」

 

 正直タニスさんは先ほど自分でも言っていたように公私をキッチリ分けるタイプで、プライベートな部分はそれほど深入りしないタイプだと思ってので意外だった。

 

「ああ、だがそれだけでは不十分だ。私は隊員を家族だと思っている。自分の背中を預ける相手のことは、出来る限り知っておきたいからな」

 

 タニスさんは淡々と言う。

 

 ただその言葉には不思議と聞き入ってしまう重みがあった。

 

「IS部隊は通常の軍隊とは違う。実戦経験のある人間などほとんどいない。だからこそ私は技量も大切だが、それ以上に人間性を重視したいと思っている」

 

「人間性、ですか?」

 

「ああ、極限状態においてこそその人間の本質が出る。戦場なんてまさにその典型だろう」

 

 タニスさんはお茶を一口啜る。

 

「恐怖した時にどう動くか。追い詰められた時に何を優先するか。そして何より仲間のために動くことが出来るかどうか…そういったものは資料を読んでいるだけでは分からんからな」

 

「…」

 

「ああ、勘違いしないでくれ。君のことは疑っている訳じゃない」

 

 そう言ってタニスさんは少し笑う。

 

「模擬戦でも、訓練でも、君がどういう人間かはある程度見えている。だからこそ興味が湧いたんだ」

 

「興味、ですか?」

 

「ああ、見どころのある後輩だからな」

 

 あまりに真っ直ぐに言われ、俺は思わず言葉に詰まる。

 

「……随分と買って頂いてるんですね、俺のことを」

 

「当然だ」

 

 タニスさんは即答する。

 

「私が認めた隊員だからな」

 

___________

 

 タニスさんとの訓練が始まって、1週間ほど経った頃、俺はだんだん楯無さんとの指導方針の違いのようなものが分かってきていた。

 

 当然だが、どちらも教えるのがとても上手い。

 

 楯無さんの指導は特に凄まじく、複雑な技術でも驚くほど分かりやすく噛み砕いて説明してくれる。実際、俺の操縦技術が短期間で伸びたのも、楯無さんの指導による部分が大きい。

 

 ただ、その上で求められる水準が高い。戦闘における最適解を常に求められる。

 

 それに対しタニスさんの指導はきちんと理論に基づきつつも、上手くいかなかった時にどうするかといったことに重点が置かれていた。

 

 避けきれなかった時にどう戦うか。被弾した時にどう動くか。格上の相手に対してどう食らいついていくか。

 

 最初は随分泥臭い戦い方だと思っていたが、実戦形式の訓練を繰り返すうちに、その考え方が腑に落ち始めていた。

 

 そして今日の訓練でも、タニスさんはいつものように俺の戦い方を静かに観察していた。

 

「君の戦闘スタイルに関して意見したいところがある」

 

「何でしょうか?」

 

「君の技、『明鏡止水』と言ったか。君はあれに頼りすぎている節がある気がしてな」

 

「そうですね…」

 

「いや、正確には“回避のためだけに使いすぎている”と言うべきか」

 

「……っ」

 

 鋭い指摘に思わず言葉に詰まる。

 

 臨海学校の時に白銀につけてもらった稽古で、確かに俺は明鏡止水を攻撃にも転用する感覚を掴みつつあった。

 

 だが実戦になると、どうしても被弾を避ける動きを優先してしまい上手く使いこなせているとは言えない。

 

「普通のISならそれでも問題ないだろう。だが君のISは攻撃力不足だ。避け続けるだけでは、いずれ押し切られる」

 

「確かに…」

 

「だからこそ、今日はそこを矯正する」

 

 タニスさんは静かに続ける。

 

「君は被弾を恐れすぎている。だが君のISは馬鹿みたいに装甲が厚い。多少無理して突っ込んでも問題なかろう」

 

「……」

 

「自分の機体がどこまで耐えられるのかを知るのも訓練のうちだ。どの程度なら押し込め、どこからが致命傷になるのか。それを身体で理解しろ」

 

「はい」

 

「では始めよう。実戦形式で行う。君は明鏡止水以外は何を使ってもいい」

 

「えっ、ちょっ、それは…‼︎」

 

 突然始まる演習。俺はとりあえずファントムをコールし初撃を受け止める。

 

 タニスさんの口元が微かに緩む。そこで俺は思い出す。エンリルナイトの武装は遠近両用武器、ソニックソード。その特徴は真空の刃を作り出せることにある。

 

 ソニックブームを避けるために俺は咄嗟に横に飛ぶ。

 

 が、回避先を読んでいたタニスさんに回り込まれ、まともな一撃を叩き込まれる。

 

「かはッ‼︎」

 

「…」

 

 タニスさんは俺に追撃することはなく、その場で俺を見ていた。

 

「まずは私の一本と言った所か。ダイチ、何故今横に飛んだ?」

 

「それはソニックブームを避けるため_」

 

「だが君はその一撃を耐えられることを知っているはずだ。そして私のISが当たりどころが良ければ一撃で仕留められることも。なら正解は何だった?」

 

「…肉を切らせて骨を断つ、ですか?」

 

「そうだ」

 

 タニスさんは短く頷く。

 

「実戦で明鏡止水を使うなとは言わん。むしろあれは君の大きな武器だ」

 

 だが、と続ける。

 

「君は被弾しないことに意識を割きすぎている。勝つためではなく、綺麗に勝つために戦っている節がある」

 

「…」

 

「ワンサイドゲームを目指さなくていい。泥臭くてもいいから、相手に勝つことを考えろ」

 

 真っ直ぐこちらを見る。

 

「被弾してでも一撃を通す。君に足りないのは、その覚悟だ」

 

「はい…」

 

 言われたことはもっともだし、頭では理解している。白銀との稽古でも似たようなことを言われていた。

 

 だが、実戦となるとどうしても無意識に回避を優先する動きをしてしまうのだ。

 

「すぐに出来るようになれとは言わん。ただ身体に覚え込ませろ」

 

 そう言ってタニスさんはソニックソードを構える。

 

「今日は徹底的に付き合ってやる。避けるな。とにかく前に出ろ」

 

「いやその言い方めちゃくちゃ嫌な予感しかしないんですが⁉︎」

 

「安心しろ。大破しない程度には手加減してやる」

 

「どこにも安心出来る要素がないんですが⁉︎」

 

 次の瞬間、再び凄まじい速度でタニスさんが突っ込んでくる。

 

 反射的に回避しかけた体を止め、タニスさんを真っ向から迎え撃つ。

 

「はぁ!!!」

 

 タニスさんがソニックソードを振るい、ソニックブームが飛んでくる。俺は歯を食いしばり真っ向から突っ切る。

 

「ぐぅ…‼︎」

 

 着弾したソニックブームが強烈な風の刃となり、シールドエネルギーと装甲がガリガリ削られていく。

 

 アラートがうるさいほど鳴り響いている。ただ、前回のタニスさんとの戦闘からまだ動けることは分かっていた。

 

「うぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 俺はISを更に加速し、ファントムを叩き込む。

 

「…っ‼︎」

 

 俺の一撃を受け止めたタニスさんが僅かに目を細めた。

 

「そうだ。それでいい」

 

 だが次の瞬間には、カウンター気味に決められた斬撃に吹き飛ばされていた。

 

_____

 

「で、二人ともこれは何かしら?」

 

「すみません」「すまない」

 

 ISを中破させた俺とタニスさんはナタリアさんに平謝りをしていた。

 

 ただこの後も何度もナタリアさんのお世話になること、そしてその度にナタリアさんの目の下の隈が大きくなっていったことは言うまでもなかった。いや、本当にすみません…

 

_____

 

 生徒会側の仕事もひと段落したのでクラスの方の進捗状況を確認しに行くとシャルが申し訳なさそうに相談に来た。

 

「ダイチ、どうしよう?お店からメイド服は借りられたんだけど執事服はちょうど他のところに貸し出してるみたいで一着しか借りられなかったんだ」

 

「演劇部とかに借りられないか?」

 

「それも試したんだけど演劇部にはメイド服はあっても執事服はなかったんだ」

 

 足りなければ演劇部に借りればいいと思っていたが甘かったな。まあIS学園は女子校だから男物の衣装が無いのも当然といえば当然か。

 

「それならその衣装は一夏に着てもらえばいい」

 

「それじゃあダイチはどうするの?」

 

「調理とかの裏方に回るさ。裏方なら制服でもOKだしな」

 

 生徒たちは一夏の執事服姿を見れて嬉しいし、俺は目立つことが無くて嬉しい。なんと素晴らしい解決策だろう。

 

 だがそう上手くはいかないようでシャルに速攻でこの案は却下される。

 

「それはダメだよ。ダイチが接客出来ないじゃないか」

 

「一夏がいれば十分だろ?」

 

「そんなことないよ。他のクラスの子たちからもよくダイチの執事姿を楽しみにしてるって話を聞くんだから‼︎とにかくその案はダメ‼︎」

 

 これだけ強く否定されてしまっては仕方ない、別の案を考えるか。

 

「じゃあ交代で着るっていうのはどうだ?これなら二人とも出られるし」

 

「うーん、執事服って着替えるのに時間がかかるし大変じゃないかな?」

 

「ああ、大変だぞ。だから…」

 

「一夏だけに着てもらうとかは無しだよ」

 

「あっ…ハイ」

 

 どうしてシャルは俺の考えていることが分かったのだろうか?

 

「全く…すぐにそっちの方向に持って行こうとするんだから。そんなに執事服を着るのが嫌な…」

 

「ああ、嫌だな」

 

「即答⁉︎」

 

 別に執事服を着ること自体に抵抗がある訳じゃないが、不特定多数の前で着るのは何だか見せ物のような気がして気が進まない。それに着なくてもいい選択肢があるならなおさらだ。

 

「うーん、困ったなぁ。今から作ろうにももう予算はないし…いっそのこと二人のうちどっちかがメイド服を着てみる?」

 

「何、嫁がメイド服を着るのか⁉︎まさかこれがクラリッサが言っていた『男の娘』というやつか⁉︎」

 

 冗談交じりのシャルの呟きに真っ先に反応したのはラウラだった。お前さっきまで搬入作業をしていたはずだろ、コラ。それにその解釈間違ってるし。

 

 ラウラの発言に教室中が湧き上がる。

 

「えっ、織斑君がメイド服着るの⁉︎」

 

「織斑君が着るなら上代君も着るよね?」

 

「カメラ用意しておかなきゃ…」

 

「いやっ、上代君がメイド服で受け、織斑君が執事服で攻めっていうのも…」

 

 おい、最後に特に不穏なのが聞こえてきたぞ。とにかくこの流れはよろしくない。

 

「待て待て、冗談に決まってるだろ!第一誰が得するんだ、なあシャル?」

 

「えっ、僕⁉︎」

 

 自体を収拾すべくこの場で唯一マトモそうなシャルに話を振る。が…

 

「僕は一夏やダイチのメイド服姿なら見てみたいかな…」

 

 完全に当てが外れた。シャルの発言によってより一層教室中が騒がしくなる。これは本格的にマズイ。

 

「そんなの風紀的にダメに決まってるだろ⁉︎」

 

「えー、でも服がないんじゃしょうがないよねー」

 

「民意の勝利よ‼︎」

 

「上代君も裸よりはマシでしょ?」

 

 最後の裸かメイド服の二択はおかしいだろ⁉︎それにしても一度火が付いた女子達は止まらない。この事態を収拾するにはもう奥の手を使うしかなさそうだ。

 

「ああ〜もういい!執事服は俺が用意するからこの話はおしまいだ」

 

 パンパンと手を叩きみんなに告げる。

 

「でもダイチ、用意するって言ってもこの周辺の他の店も回ってみたけど借りられそうな所はなかったよ?」

 

「大丈夫だ、俺は自分のを使うからな」

 

 俺がそう言うとシャルは不思議そうな表情を浮かべる。

 

「ん?どうかしたか」

 

「いやっ、ダイチがコスプレとかすると思わなかったから意外だなーと思って」

 

 ああ、なるほど。シャルロットは自前の執事服と聞いてコスプレ用のだと思ったらしい。確かに今の日本じゃメイドとか執事なんて創作の世界でしか登場しないしな。

 

「言っておくがコスプレ用じゃないぞ?」

 

「えっ?どういうこと」

 

「仕事着だから一応本物だ」

 

「ちょっと待って。それじゃあダイチは執事ってこと⁉︎」

 

「ああ、一応な」

 

「「「ええええぇぇぇ⁉︎」」」

 

 俺の発言に一時的に収まっていた騒ぎが再燃する。あれ、ひょっとして選択肢を間違えたか?

 

「本物の執事⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「えっ、何それ初耳なんだけど⁉︎」

 

「あー、妙に動作とか綺麗だと思っていた‼︎」

 

 有る事無い事好き勝手に言われ始める。

 

「いや、皆が想像しているようなものじゃ_」

 

「じゃあ『お嬢様』とか実際に言っていたの?」

 

「いや、俺の主人(あるじ)は名前呼びを所望されていたから_」

 

「「「キャーーーーー‼︎」」」

 

「主人⁉︎主人だって!!!!!」

 

「主人と執事の禁断の恋⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 なぜか女子達のテンションが爆発している。

 

「待って、これ文化祭ヤバくない?」

 

「本職じゃん‼︎」

 

「これは覇権確定では?」

 

 一方、ラウラは腕を組みながら真剣な顔で頷いていた。

 

「なるほど。これで上代が問題なく接客担当が出来るなら嫁との連携も期待出来るな」

 

「だから何でそこがセットなんだよ」

 

「あくまで嫁がメインだ。そこは勘違いするな」

 

「いや、別に俺はそこは気にしてないんだが…」

 

 俺はこめかみを抑える。頭が痛い。

 

 助けを求めるようにシャルに視線を送る。

 

「…うーんでも、やっぱり僕も楽しみかな」

 

 そう言って苦笑しながら頷いていた。

 

 やたら期待値が上がってしまったし、シンプルに余計なことを言ってしまったかもしれない。

 

 ただでさえ多い文化祭までの懸念事項が増えた俺は頭を抱えた。




まさかの文化祭に入る前に文字数が1万字を超えそうになってしまったので一旦区切ります。続きも近いうちに出せると思います!
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