護りたいもの   作:影風

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本編のみで気付けばとうとう30話で感慨深い…
文化祭編ラストです!どうぞ!


【第30話】仮面の終幕

 

 タニスさんに連れられてやってきたのは、人気のない整備室の集まっている区画だったであった。

 

 文化祭中ということもあり、本来なら使用されていないエリア。祭りの喧騒もここまでは届かず、不気味なほど静かだった。

 

「タニスさん、こんな所に何の用事ですか?」

 

「なに、大したことじゃないさ」

 

 前を歩くタニスさんは振り返らない。

 

 その時だった。ポケットの端末が震える。短く1度、長く3度、そしてもう一度短く1度。

 

 瞬間、背筋に緊張が走る。

 

 スイス軍のIS部隊で使われている緊急コード。

 

 このコードの意味は、『敵襲。直ちにIS展開せよ』

 

 考えるより先に体が動く。

 

「ッ‼︎」

 

 ガーディアンを展開しファントムをコール。一気に間合いを詰め、背中に斬りかかる。

 

 ギィィィン!!!と鋭い金属音が響く。

 

 振り向きざまに抜かれた刀が、俺の斬撃を受け止めていた。

 

「……ダイチ、これは何のつもりだ?」

 

 静かな声。だが、その目は俺の知るタニスさんのものではなかった。

 

「貴様こそ何者だ?」

 

 距離を取りながらファントムを構え直す。

 

「先ほどからずっと、たった今もタニスさんから緊急事態を告げる緊急通信が入っている。お前は一体何者なんだ?」

 

 一瞬の沈黙。だが、目の前の女は不敵に笑う。

 

「流石はスイス代表候補生。あらゆる不測の事態も想定済みですか」

 

 そう言って謎の女はISを完全展開する。

 

「チッ、白銀か…‼︎」

 

 目の前に現れた純白の機体を見た瞬間、先ほどまでの学園祭の空気が頭から消し飛ぶ。

 

 整備室には、ISの駆動音と殺気だけが満ちていた。

 

「…手加減はしないぞ」

 

「安心して下さい。私は手加減してあげますから」

 

「ッ!!!!、舐めるなぁああああ!!!」

 

 俺は瞬時加速《イグニッション・ブースト》で白銀に切り掛かる。

 

 が、難なくかわされてしまう。

 

「怒りに身を任せての直線的な攻撃。無謀ですね」

 

 そう言って白銀はエネルギーライフル『銀雪』2丁をコールしエネルギー弾の雨を浴びせながら距離を取る。

 

(あの銃撃を近距離で受けるのは流石にまずい…)

 

 そう判断して俺は咄嗟に明鏡止水を発動。

致命傷となりそうな攻撃だけを紙一重で交わし、それ以外は装甲で受け切る。

 

 大丈夫だ。まだ戦える。

 

「冷静な判断、少しは成長できたようですね」

 

 白銀は感心したように言いながら距離を取る。

 

 だが、その分俺が踏み込む。

 

 白銀が放つエネルギー弾に対して、最低限だけを回避し、それ以外は装甲で受けながら強引に距離を詰める。

 

 ファントムを振るう。

 

 が、届かない。

 

 ならもう一歩。さらに踏み込むだけだ。

 

「ほう…」

 

 白銀の声に微かに感心が混じる。

 

 俺の斬撃は依然として届かない。まるで動きを読まれているようだった。

 

 ただ、それなら相手の予想するさらに一歩前へ…‼︎

 

「っ……‼︎」

 

 瞬間、白銀がショートブレードをコール。

 

 剣と剣が打ち合う甲高い金属音が整備室に響く。

 

 だが、押し切れない。

 

 直後、白銀が俺の剣を受け流すように弾き、そのまま後方に大きく飛ぶ。

 

 互いに剣を構えたまま睨み合いになる。

 

「なるほど、以前よりも格段に攻撃に対する姿勢が変わりましたね」

 

「……なにが目的だ?」

 

「そう警戒しないで下さい。今日はあなたを殺しに来たわけではありません」

 

 白銀は淡々とした口調で続ける。

 

「率直に言います。亡国産業に来ませんか?」

 

 思いがけない言葉に、一瞬思考が止まる。

 

「…は?」

 

「あなたほどの人材を、国家間の思惑や政治の都合で消耗させて終わらせるには惜しい」

 

「…言っている意味が分からん」

 

「本当に?」

 

 白銀は淡々と続ける。

 

「日本人であるあなたが、今はスイスの代表候補生としてここにいる」

 

「……」

 

「そこにあなた自身の意思は、どれほど反映されていたのでしょうね」

 

 思わず息が詰まる。

 

「男性操縦者という希少性、各国の利害、政治的判断…まさしく国家の思惑そのものじゃないですか」

 

「…亡国産業なら違うと?」

 

「ええ」

 

 白銀は迷いなく頷く。

 

「我々は国籍や政治的事情で人の価値を判断しない」

 

「その大層立派な人間が集まってやっていることがテロ活動か。ご立派なことだな」

 

「否定はしません」

 

 俺の皮肉に対し白銀はあっさりと答える。

 

「ですが国家もまた暴力の上で成り立っている」

 

「だから自分たちは正しいと?」

 

「少なくとも、あなたを都合のいい駒としてしか見ていない連中よりは誠実なつもりです」

 

「誠実、ね」

 

 思わず鼻で笑う。

 

「人さらいみたいなことをしておいてよく言う」

 

「でもこうでもしなければ、あなたは話すら聞いてくれなかったでしょう?」

 

「俺はお前らみたいな人間に与するつもりはない」

 

「…六角雪菜の話を聞いても?」

 

 その名前が出た瞬間、一気に血が沸騰した。

 

「…貴様、なぜその名を口にした?」

 

「あなたがスイスを選んだ理由の一つ。違いますか?」

 

「…黙れ」

 

 俺の声を無視し白銀は構わず続ける。

 

「植物状態の少女。あなたは今でも彼女を___」

 

「黙れと言っている!!!!!!」

 

 俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に距離を詰める。

 

 ファントムを叩きつけるように振り下ろすが、白銀は後方に飛んで回避。

 

 そのまま銀雪をコールし、牽制射撃を放つ。

 

「…やはり、今あなたにとってよほど大切な存在のようですね」

 

「貴様らが雪菜様を語るなぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 再びの瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

 一気に白銀との距離を詰め、ファントムを叩き込む。

 

 だが、届かない。また紙一重でかわされる。

 

「感情任せですね」

 

 白銀は淡々と銀雪を構えエネルギー弾を放つ。

 

 俺は最低限だけを回避し、それ以外は装甲で受けながら強引に前に出る。

 

(止まるな…‼︎押し切れ…‼︎)

 

 俺はファントムを振るう。またかわされる。

 

 ならば、もう一歩。また届かない。

 

 そう言った間にも白銀はエネルギー弾の雨を降らせ続ける。

 

「…」

 

 白銀は依然として冷静だった。まるでこちらの動きを観察しているかのように。

 

 その態度が余計に癪に障る。

 

「舐めるなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 さらに加速しファントムを叩きつける。

 

 次の瞬間_

 

「グッ!なっ⁉︎」

 

 度重なる銃撃を受け、右肩のアーマーがブレイクし生身にダメージを受ける。

 

 焼けるような痛みが走る。

 

「ガッ‼︎」

 

 思わず体勢が崩れる。

 

(馬鹿な。エネルギー弾とはいえ流石にガーディアンの装甲がこんなに早く突破されるのはおかしい…)

 

 そこでようやくISの被弾状況を確認し、起こっている状況を理解する。

 

「ッ…‼︎」

 

 思わず息を呑む。

 

「…本当に手を抜いてたってわけか?」

 

 デタラメに撃っているように見せかけて被弾箇所は右肩を中心に集中していた。

 

「人聞きが悪いですね。装甲の薄い部分を狙うのは定石じゃないですか」

 

 そう言って白銀は銀雪を構え直す。

 

「装甲を信頼して攻撃に専念する。あなたのISの性質上悪くない手です。ですが_」

 

 白銀の視線が俺の右肩に向く。

 

「ですがもう少し被弾箇所に注意を割くべきでしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこは私が教えていなかったんだ。許してやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場に合わない落ち着き払った凛とした声。

 

 ここ1ヶ月みっちり聞き続けてきた声だった。

 

「タニスさん…‼︎」

 

 整備室の入り口。そこにはエンリルナイトを完全展開したタニスさんが立っていた。

 

 挨拶とばかりにソニックソードを薙ぎ払い、ソニックブームが白銀に襲いかかる。

 

「エンリルナイト…スイスの第3世代ISですか」

 

 白銀はそう呟くと、ショートブレードをコール。あろうことか飛来したソニックブームを切り捨てる。

 

 余波が整備室の床を抉る。

 

「なかなか厄介な火力ですね」

 

「光栄だな。褒め言葉として受け取っておこう」

 

 タニスさんは軽い口調で返しつつも、油断なく剣を構える。

 

 その横顔に焦りはない。むしろ平静さそのものだった。

 

「ダイチ、動けるか?」

 

「はい、なんとか」

 

 右肩を負傷したことによって右手の感覚は鈍いし、シールドエネルギーもかなり削られている。

 

 だが、今は泣き言を言っていてもどうにもならない。

 

「よし。ならば2対1だな」

 

「…連携ですか」

 

「不満か?」

 

「いえ、合理的判断だと思います」

 

 次の瞬間タニスさんは突っ込む。

 

 白銀は後退しながら銀雪を連射するが、タニスさんは最小限の動きでそれらを掻い潜っていく。

 

「ダイチ!」

 

「っ、はい!」

 

 タニスさんの攻撃に合わせ、俺も側面から突っ込む。

 

 二方面からの同時攻撃。

 

 だが、白銀は冷静に銀雪を片手ずつ撃ち分け、俺とタニスさん双方の軌道をズラしていく。

 

 その射撃は牽制の域を超えていた。

 

(チッ…1発1発が正確すぎる…‼︎)

 

 回避を優先すれば攻めきれない。かと言って無視すれば、今の俺のように装甲を持っていかれる。

 

(どうする…?)

 

 俺たちが攻めあぐねていたその時だった。

 

 白銀がショートブレードを構える。

 

 不意に空気が変わる。

 

「ッ…‼︎」

 

 背筋が粟立つ。今までとは明確に圧が違った。

 

 だが次の瞬間、白銀は構えを解く。

 

「…なるほど」

 

 ショートブレードが粒子へと還元される。

 

「あなた方2人を同時に相手取ると、少々予定が狂いますね」

 

「何…?」

 

「今日は勧誘と実力確認が目的でしたが、これ以上やると大ごとになりそうです」

 

 そう言ってため息をつく。

 

「なので今日はこの辺にしておきましょうか」

 

「逃すか‼︎」

 

 俺が踏み込むも、白銀は余裕を崩さない。

 

「次会う時までには、もう少し強くなっておいて下さい」

 

 次の瞬間、白銀が足元に何かを投げる。

 

「ダイチ、下がれ‼︎」

 

 タニスさんの声と同時に白煙が炸裂し、視界が真っ白に染まる。

 

「チッ‼︎」

 

 警戒して距離を取る。数秒後視界が晴れた頃には、すでに白銀の姿は消えていた。

 

「逃げられましたね」

 

「ああ…」

 

 2対1。それでも全く余裕を崩さなかったどころか、恐らく本気すら出していなかった。

 

 情けなさと悔しさが込み上げてくる。

 

「そう落ち込むな」

 

 タニスさんが静かに言う。

 

「生き残っただけでも上出来だ。あれはそういう相手だった」

 

 その言葉に、俺は拳を固く握りしめることしか出来なかった。

 

________

 

「では、一夏君の生徒会副会長就任を祝って、乾杯〜」

 

 色々なゴタゴタがあったが何とか文化祭も終了し、生徒会室では打ち上げ兼一夏の副会長就任祝いが行われていた。それはいいのだが…

 

「何か不満かしら?」

 

 ティーカップを片手に楯無さんが上機嫌に訊いてくる。

 

「一夏が副会長に就任したのに、何で俺の役職が副会長のまま変わってないんですか?」

 

「いつから副会長が一人だと錯覚していた?」

 

「なん…だと?」

 

 期待通りの俺の反応に楯無さんは心底楽しそうに笑う。

 

 そうしていると何だか不機嫌そうな本音と虚さんがジト目でこちらを見る。

 

「二人とも〜、今日はおりむーの就任のお祝いなんだよ〜?」

 

「仲が睦まじいのは結構ですが時と場を弁えて頂けるとありがたいのですが」

 

 本音と虚さんに注意され、思わず二人揃って黙り込んでしまう。

 

 そんな俺たちに一夏はとんでもない爆弾を放り込む。

 

「そう言えばダイチと楯無さんって付き合ってるのか?」

 

「はぁ⁉︎」

 

「ちょっ、ちょっと何言ってるのよ⁉︎」

 

 動揺する俺たちを尻目に一夏は続ける。

 

「どう見てもお互い好きっていうのがバレバ…って何すんだよ⁉︎」

 

「そろそろ黙ろうか、一夏?」

 

「一夏君、おねーさんそういうところには感心しないな〜」

 

「ほらやっぱり今の息ピッタリ…って楯無さんなんでIS展開を⁉︎」

 

「自業自得よ」

 

 この後一夏は無事に楯無さんにお灸を据えられた。

 

…それにしても唐変木のくせに変な所で勘がいいのは困る。灯台下暗し、岡目八目といった所だろうか。今後のやりとりはちょっと考えなければと思う俺であった。

 

_________

 

「はぁ〜、やっぱりこの部屋は落ち着くわね〜」

 

 当面の一夏の襲撃の危機は去ったということで戻ってきた楯無さんはさっきからベッドの上でゴロゴロしている。

 

「別に寮の部屋なんてどこも同じでしょう?」

 

 俺はキッチンでお茶の用意をしながら楯無さんの相手をする。

 

「やっぱり違うわよ〜、一夏君の前じゃあんまりだらしない姿を見せられないしね」

 

「出来れば俺の前でももっとしっかりして頂けるとありがたいんですが」

 

 この人最近ちょっとだらけ過ぎじゃないかと思う時がよくある。脱ぎっぱなしのシャツを俺が洗濯機に持って行ったことも一度や二度ではない。…たまに下着さえ落ちているのは流石に目に毒なのでほんとにどうにかしてほしい

 

「いいじゃない、それだけ一緒にいることに慣れて信頼しているってことよ。ダイチ君もそうでしょ?」

 

「ええ、そのせいで刀奈さんがいない間少し寂しかったですけどね」

 

 からかいの意図も多少はあるがこれは間違いなく俺の本心だ。

 

「えっ、今何て⁉︎」

 

 聞こえてきた楯無さんの声は少し上ずっていた。

 

「さあ?さてお茶が入りましたよ。楯無さん」

 

「ちょっと、ダイチ君⁉︎」

 

 その後も楯無さんからの追求は続いたが、俺はそれをのらりくらりとかわし続けた。ただ久しぶりのお茶会はとても楽しく、久しぶりに満たされた気分になった。

 

「あっ、楯無さんに一つ言い忘れてたことがありました」

 

「何かしら?」

 

 怪訝そうな顔をする楯無さんに俺はとびきりの笑顔で告げる。

 

「おかえりなさい」




次は来週末にまた出せるように頑張ります!!!
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