護りたいもの   作:影風

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 Q.主人公が出場してないのにこのタイトルは詐欺では?
 A.細けえことはいいんだよ‼︎
 ってことでキャノンボール・ファスト編です!


【第32話】キャノンボール・ファスト

 いよいよ迎えたキャノンボール・ファスト当日。会場は大賑わいを見せていた。

 

 プログラムではまずは2年生のレースがあって、次に1年生の専用機持ちのレース、その後訓練機組のレース。そして最後に3年生によるエキシビジョンが行われる。

 

 俺はと言うと、今は観客席の警備の任務についていた。IS産業関係者や各国政府関係者も来ているが、それを除いても客席は超満席でISというものの注目度の高さを思い知らされる。

 

 開会式が終わり早くも2年生のレースが始まっていたが、デッドヒートの末楯無さんが優勝していた。やっぱりあの人凄いな…

 

 決して仕事をサボっているというわけではないが、やはりISという金属の塊が超高速でレースをしている様子はやはり見応えがあって心が躍るし、同時にそこに参加出来ないことに少しだけ後悔があった。

 

(…いや、焦っても仕方ないな)

 

 今回あの場に立てていないのは実力不足が原因ではなく、単純に機体の仕様の問題だったのだから仕方ない。

 

 今は与えられた仕事をこなすだけだ。

 

『それではみなさん、1年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

 

 そのアナウンスでここまでも高かった会場のボルテージが更に1段階盛り上がる。

 

 ただでさえ貴重な専用機持ちが6名も一堂に会した上、織斑一夏という男性操縦者までいるのだからそれも当然か。

 

 スタート位置へ向かう6機を見ながら、俺は小さく息を吐く。

 

 箒、セシリア、鈴、シャルにラウラ。

 

 誰も彼も個性は強いが、その実力は折り紙付きだ。

 

 それに加えて一夏までいるのだから、派手なレースになるのは目に見えていた。

 

『3…2…1…ゴー‼︎』

 

 シグナルと同時に、専用機持ちたちが一気に加速する。

 

 刹那、静寂を切り裂き観客席から大歓声が上がる。

 

 まず先陣を切ったのはセシリア。

 

 だが、鈴とラウラが即座に食らいつき、それに続いて一夏とシャルも後ろにつける。

 

 それぞれの専用機の特性を活かした駆け引き。そして、各々が持つ技量のぶつかり合いによるデッドヒート。

 

 警備中であるにも関わらず思わず見入ってしまいそうになるが、そこはキチンと本分を思い出す。

 

「…ん?」

 

 不意に嫌な予感が背中を走る。

 

 咄嗟に観客席を見渡すがその気配の元凶は見当たらない。

 

(だが、確かにいる‼︎どこだ…⁉︎)

 

 そこでハッと上空を向く。そこには今まさにレースが行われているアリーナに向かって凄まじい勢いで降下していくISの姿があった。

 

『シャル‼︎ラウラ‼︎避けろ!!!!!』

 

 試合中にプライベートチャネルが繋がるかは分からない。ただ俺は声の限りに叫ぶ。

 

「⁉︎」「‼︎」

 

 二人は咄嗟に機体を捻る。

 

 直後、凄まじい轟音がアリーナに響く。

 

 そこにいたのは、セシリアのブルー・ティアーズよりも更に濃い青色の機体。サイレントゼフィルスであった。

 

 俺はアリーナの飛び出そうとした刹那、プライベートチャネルに通信が入る。

 

『ダイチ君‼︎』

 

 声の主は楯無さんであった。

 

『アリーナは他の専用機持ちに任せてあなたは観客席をお願い‼︎』

 

「ですが…‼︎」

 

『相手は亡国機業よ‼︎単独じゃない可能性が高い‼︎』

 

 その言葉で一気に頭が冷える。確かにそれはそうだ。派手な動きの裏で他に目的があるかもしれない。

 

『会場内に別動隊がいるかもしれないわ‼︎そっちをお願い‼︎』

 

「了解です‼︎」

 

 そうして通信を切る。そうして冷静に周りを見渡す。

 

 パニックに陥っている観客席。逃げ惑う人々。飛び交う怒声と悲鳴。

 

 その中に混じる異様な気配。

 

(…見つけた)

 

 俺は静かにその元凶に向かって歩き出した。

 

 

____

 

 

 通信を切った直後、楯無も謎の襲撃者を発見していた。

 

「はぁぁぁぁ‼︎」

 

 楯無は奇襲を仕掛けるも、まるで分かっていたように襲撃者は難なくかわし、大きく距離をとった。

 

「いきなり随分なご挨拶ですね」

 

 耳障りな機械音が聞こえてくる。

 

「『亡国機業(ファントム・タスク)』、狙いは何かしら?」

 

 楯無の質問に白銀は挑発するような口調で答える。

 

「言うわけないじゃないですか。何なら無理やり聞き出してみます?まあ、そんなこと出来っこないでしょうけど」

 

「その言葉、後悔させてあげるわ」

 

 次の瞬間、蒼流旋に搭載された4門のガトリングが一斉に火を噴いた。

 

 

____

 

 

「ふふ、流石はエムね。あれだけの専用機持ちを相手によく立ち回るものだわ」

 

 サングラス越しにエムの戦闘を見ながら、その女性は楽しそうに目を細めた。

 

「しかし、たいしたことないわねぇ。もう少し頑張って欲しいのだけど」

 

 ふぅ、とため息を漏らす女性の背中に声が掛けられる。

 

「おいおい、イベントに強制参加しておいて、その言い草はないんじゃないか」

 

 女性は意外に思うものの振り返らない。この世界に二人しかいない男性操縦者。そのうちの一人である織斑一夏は目の前でエムと戦っているのだから声の主は明らかだったからだ。

 

「てっきり生徒会長さんがくると思っていたのだけど、まさか貴方が来るとはね」

 

「ご期待に添えなくて悪かったな、あいにくうちの会長様は忙しいんでね」

 

「まあ、許してあげるわ。あなたはうちのミストのお気に入りだからね」

 

「ミスト?ああ、白銀か。それはありがたい。ならついでにお前らの目的も教えてくれると有り難いんだがな」

 

「いくら女尊男卑の世の中だからって何でも女性任せにする男性は嫌われるわよっ」

 

 そう言いながら振り返りナイフを投げつける。が、特に避ける様子もなくダイチはISを展開しナイフを払いのけた。それと同時にパラライザーをコールし射撃。

 

「マナーのなってない女もな‼︎」

 

 だが、その弾丸は女性に当たる前に彼女を包む繭のような黄金のベールによって打ち消された。

 

「やめましょう、上代大地。あなたの機体では私のISは突破出来ないわ」

 

 諭すように話す女に対し、ダイチは苦笑しながら答える。

 

「お前の言う通り勝てそうにないし、倒せそうにない。おまけにそっちから引けとのありがたい助言まで。俺としてはぜひお言葉に甘えたいところなんだが_」

 

 ダイチはファントムにパラライザーのマガジンを装着。瞬時加速(イグニッション・ブースト)によって一気に距離を詰める。

 

「生徒会副会長として、信頼してくれている会長様の期待を裏切るわけには行かないんでね‼︎」

 

 エネルギーの刃を纏った斬撃を女はヒラリとかわし、またナイフを投擲する。

 

「チッ、芸のない‼︎」

 

 ファントムによってナイフを叩き切る。しかし、次の瞬間ナイフは大爆発を起こす。

 

「ッ⁉︎」

 

 もうもうと立ち込める黒煙。ハイパーセンサーで確認するとその奥には逃走を図る女の姿が映っていた。距離にして100m。

 

(この距離なら、まだいける…‼︎)

 

 次の瞬間、空間が歪みダイチの姿が消える。

 

「逃がすかっ‼︎」

 

「⁉︎」

 

 逃走に意識を割き油断し切った女は、突如目の前に現れたダイチに反応が一瞬遅れる。

 

 振り抜かれたファントムが黄金にベールを激しく軋ませる。

 

「チッ…‼︎」

 

 完全には抜けない。

 

 だが、その衝撃で女の体勢が大きく崩れる。

 

「捕えた‼︎」

 

 ダイチはそのまま強引に距離を詰め、女を地面にねじ伏せた。

 

「さあ、貴様らの目的を教えてもらおうか?」

 

「フフッ、そんなことしていいのかしら?」

 

 少しも慌てることなくむしろ挑発するように女は言う。

 

「どういうことだ?」

 

「あなたの大事なお嬢様…確か六角雪菜さんだったかしら?」

 

「‼︎」

 

 全身が硬直する。なぜ亡国機業がその名を知っている?

 

 それだけじゃない。六角雪菜と言う名前をあまりにも自然に口にした。

 

 まるで全てを知っているかのように。

 

「貴様、なぜその名前を_」

 

「ふふっ」

 

 次の瞬間、女はISを完全展開しテールユニットが閃く。

 

「しまっ_」

 

 至近距離で炸裂した熱波が視界を埋め尽くす。反射的に防御体勢を取る。

 

 次の一瞬、爆炎の向こうから女の笑い声が響く。

 

「やっぱりミストのお気に入りね、あなた」

 

「…クッ、待て‼︎」

 

 炎が収まった時には、既に女の姿は遥か上空へ離脱した後だった。

 

________

 

 

 白銀はマトモに戦うことなくのらりくらりと逃げ続けていた。

 

(くっ…強い‼︎)

 

 ダイチ君から事前に情報は得ていたものの、実際に戦ってみるとその実力は想像以上のものだった。

 

 ただ単に逃げ続けているだけではない。要所要所で牽制の射撃を入れてくるし、隙を見せようものなら明らかに仕留めて来ようとする攻撃の姿勢も見せていた。

 

 それでも、私もただ振り回されているだけではない。

 

 蒼流旋による牽制を混ぜながら、少しずつ白銀の動きを制限していく。

 

 開けた上空で自由に動かれては不利なのはこちらだ。だからこそ飛行ルートを絞り込むように動き続ける。

 

 もちろん白銀もそれに気づいている。

 

 だから不用意に踏み込まず、だからと言って距離を完全に離すわけでもない。

 

 こちらの狙いを理解した上で、それでも自分の間合いを保ち優位を維持し続ける動きだった。

 

(本当に厄介な相手…‼︎)

 

 距離を詰めれば逃げられるし、離れれば正確無比な射撃が飛んでくる。

 

 おまけにこちらが有利な位置を取ろうとすると、それを察したように軌道を変え、簡単には追い込ませてくれないのだからタチが悪い。

 

 だがそれでも少しずつ、本当に少しずつではあるが戦場は私の望む方向に移り始めていた。

 

 高層ビル群の隙間。自由な回避行動を取りにくい空域。

 

 そして_

 

「…‼︎」

 

 白銀は殺気を感じて立ち止まる。次の瞬間目の前に銃弾のカーテンが形成される。

 

「あちゃ、気づかれちゃったか〜」

 

 ようやく狙っていた空域まで追い込めた。あらかじめ待機させていた味方ISによる挟撃。

 

「チェックメイトよ。ここならあなたのお得意の銃撃戦は出来ないわ」

 

 私の言葉に、白銀はクスリと楽しそうに笑う。

 

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

 

 白銀はショートブレードをコール。

 

「私、銃撃戦は苦手なんです」

 

「_なっ」

 

 次の瞬間、白銀の姿が消える。

 

 速い。そう認識した時には、白銀はもう目の前にいた。

 

「くっ‼︎」

 

 咄嗟にラスティーネイルをコールし、その一撃を受け止める。

 

 切り結ぶこと数度、その斬撃の鋭さと重さは学園内はおろか、国家代表として戦ってきたどんな相手よりも手強い。

 

(ダイチ君、全然情報足りてないじゃない…‼︎)

 

 事前情報から完全に射撃型だと思っており、実際その射撃技術は低く見積もって代表候補生レベル。

 

 それにも関わらず、まさかそれが前座で本命が近接戦闘なんて夢にも思わなかった。

 

 白銀の刃が再び迫る。

 

 何とか受け止めるものの、その衝撃に思わず歯を食い縛る。

 

(このままじゃ…‼︎)

 

 その時だった。

 

『ミスト、遊びはそこまでよ』

 

 不意に白銀の動きが止まる。恐らく亡国機業の通信が入ったのだろう。

 

「…了解」

 

 白銀は短く答えると、ショートブレードを収納し一歩後ろに飛び退いた。

 

「待ちなさい‼︎」

 

 反射的に追おうとする私に、白銀はどこか楽しそうに笑う。

 

「今回はここまでにしておいてあげます」

 

「…っ‼︎」

 

「次の機会があれば、その時はもう少し楽しませて下さいね」

 

 そう言い残し、白銀は高層ビル群の奥へ一気に加速していく。

 

「っ…逃げ足まで一流ってわけ…」

 

 追撃しようとして、私は動きを止めた。

 

 今の仕事は会場の警備であって、亡国機業のISの撃破ではない。だから、相手が去っていった以上深追いする必要はない。

 

 何より_

 

「はぁ…」

 

 気づけば、小さく息を吐いていた。

 

 悔しい。正直、完全に押されていた。

 

 だが、同時に生きて帰れたことへ安堵している自分もいた。

 

(…本当に何者なのよ、あいつ)

 

 そこでふと、先ほどまでの戦闘が脳裏に過ぎる。

 

 凄まじい剣撃。正確無比な射撃。もちろんそれらも驚異的ではあった。

 

 だが、何より異常だったのはこちらの攻撃が殆ど当たっていないことだった。

 

 白銀は速度を重視した機体なので、もちろん速い。だが、それだけではない。

 

 まるでこちらの動きを先読みするかのように回避していたのだ。

 

 ふと脳裏に1人の少年の姿が浮かぶ。この半年間、誰よりも近くで見続けてきた愛弟子の戦い方と不意に重なる。

 

(まさか、ね…)

 

 私は軽く頭を振り、芽生えた疑惑を消し去る。

 

 そんなことがあるとしたら。

 

 

 世界は彼にとっては厳し過ぎる。

 

 

_____

 

 

 超高層ビル群の一つ、その最上階に作られたアジトにミストは帰還した。

 

「おかえりなさい、ミスト」

 

 ソファーに腰掛けたスコールが楽しそうに笑う。

 

「随分と上機嫌ですね」

 

「ええ、だって会ってきたもの」

 

 スコールは意味ありげに肩をすくめる。

 

「あなたのお気に入りに」

 

 一瞬だけ、ミストの動きが止まる。

 

「…余計なことを」

 

「ふふっ、やっぱり特別なのねぇ」

 

「別に」

 

 即答だった。だが、その返答はどこか空々しい。

 

「なら、少しくらい壊しても問題ない?」

 

「やめて下さい」

 

 返答は一拍も置かずに返ってきた。

 

 スコールは思わず吹き出す。

 

「ふふっ…冗談よ」

 

「…」

 

「でも、あなたにも執着なんてあるのね」

 

「…」

 

 ミストは答えない。だが、その沈黙は肯定しているも同然だった。

 

「少し安心したわ」

 

 愉快そうに肩をすくめ、スコールは立ち上がる。

 

「完璧な怪物よりも、そう言う方がよっぽど人間らしいもの」

 

 そう言い残し、スコールは部屋を後にした。

 

 静寂の中、ミストは小さく息を吐く。

 

「…人間、ですか」

 

 その呟きは、どこか自嘲するようでもあった。




 ちょっと明日は出せそうにないので、また来週末出せるように頑張ります‼︎次あたりから徐々に原作から逸れていく予定です
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