・木遁と写輪眼持ちオリ主
この設定でも読める作品にするにはどうすればいいか必死こいて考えた導入だ柱間ァ!
「きみは誰かな?」
その日、ぼくはアカデミーの入学式を終えて一人で帰路につくところだった。式を終えるとアカデミーの先生の一人が「あの千手柱間の子孫だから」と期待していることを告げて、「行く行くは初代様のような立派な火影に」と激励をした。
愛想笑いでお茶を濁したことは覚えている。毎日嫌でも目に入る顔岩の一番左端にある、いかつい顔の主がぼくのひいひいおじいちゃんだ。隣にはその弟である二代目の陰険な顔もある。彼もぼくの先祖に当たり、木ノ葉の里を立ち上げた偉人だと聞いているけれど、ぼくの家系がそれほど凄いという実感は一度ももてなかった。
木ノ葉の里と言えば日向とうちは一族の二枚看板だったし、長いこと里の実権は猿飛一族が握っていて、逆に里を興したぼくの千手一族は殆ど残っていなかった。
二度の大戦で最強と謳われた森の千手一族は大きく数を減らし、三忍と名高い直系の綱手様は借金を抱えて逃亡生活を送っている有様で、本当に里の年寄りが讃えるほど凄い一族なのか幼いぼくにはピンと来なかった。
アカデミーの入学式でも注目は化け狐――と大人が呼んでいるのを聞いた――の女の子やアカデミー始まって以来の天才の妹、そして猪鹿蝶の子供たちといった名族が同時に入学したことに集まって、ぼくは目立たない存在だった。
だから、帰りがけに美人のお姉さんに声をかけられて驚いた。
小紋の着物を着て、長い黒髪のお姉さんは、眩暈がするような笑顔でぼくの顔を覗き込んでいる。
「せ、千手欄間ですっ」
「千手……ランマ?」
お姉さんは苗字をつぶやくと唇に手を当てて考え込んだ。笑顔が難しい顔になって、ぼくはますます動揺した。
「きみのお婆さんって、もしかしてあの三忍の綱手様だったりする? それとも二代目火影の子孫かな?」
「ぼくは初代様の子孫で……綱手様は大叔母です」
「そうなんだ。へえ、ランマ、欄間ねえ」
お姉さんは笑顔でぼくを値踏みするようにじろじろ上から下まで眺めた。
「きみ、NARUTOって知ってる?」
「……ナルト? ラーメンに入ってる?」
「あー、わかった。そういうことね。ごめん、今の忘れて。変なこと聞いちゃった」
お姉さんは額に手を当ててため息をついた。お姉さんが何を考えているのかぼくにはさっぱりわからなかった。
「アヤメ、何をしている。帰るぞ」
「あ、はい。すいませんフガクさん」
怖そうな父兄がお姉さんを呼び止めて、愛想笑いしたお姉さんは頭を掻いた。名前はアヤメというらしい。
フガクと呼ばれた怖いおじさんの後ろに女の子が所在なさげに立っていた。ぼくは三人がどういう関係なのかわからなかった。
「また会おうね」
去り際にお姉さんはぼくだけに聞こえるように言うとウィンクして手を振った。ぼくは胸がドキドキして顔が熱くなった。
●
「こんな所に呼び出してごめんね。でも、わたしはきみを見極めなければならない」
お姉さんに里の外れに呼び出され、心を弾ませてスキップしながら向かった先で、色っぽい要素皆無の逢瀬が始まった。
お姉さんはぼくに手裏剣術や忍術を教えさせ、その様子をつぶさに観察した。頻度は三日に一回。お姉さんもくノ一としての仕事があるはずなのに、率先してぼくを鍛えることを優先していた。
「まさかここまでとはね。やはり天才か……大した奴だ」
土遁・心中斬首の術を食らって地面から首だけが生えたお姉さんが感心しながら目を細めた。
「得意な術は水遁と土遁。手裏剣術もわたしが教えることがないし、体術は大人顔負けだね。なんだお前は、オリ主か。ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこうなのか。もしかして木遁も使えるのか、あーん?」
「痛ッ! む、無理やり弟子にしたくせに、オーボウだ、リフジンだっ!」
地面から這い出してきたお姉さんはぼくを小突いてから首が取れかねない勢いで頭を撫でた。
自慢じゃないけど、アカデミーでは入学してからずっと、何をやってもトップだった。誰にも負ける気がしなかった。
ぼくは中忍のお姉さん直々にスパルタで教わっているから、誰よりも真面目に修行をして、誰よりも成長している自覚もあった。
先生にも、火影様にも手放しで褒められた。
「まるで初代様の若い頃を見ているようじゃ。いや、扉間様にも似てるのう」
と、火影様は褒めているのかよくわからなかったけど、凄いと褒めてくれた。
家に帰っても誰も褒めてくれないから、それが嬉しかった。頑張れば頑張るほど、認められる気がした。
「痛いかもしれないけど、耐えなさい」
ある日、お姉さんは怖い顔でぼくの腕をクナイで斬った。
前腕をざっくり斬られて、ぼくは喚いた。とても痛かった。痛くて反射的に身を捩ろうとしたけど、お姉さんが腕を握って離さないから動けなかった。
お姉さんはじっとぼくの傷口を見つめていた。ぼくは泣いていたけど、下を向いていたら自然と腕が目に入って、しばらくぼくも眺めていた。
傷は、すぐに塞がり始めた。痛みも引いた。ぼくは困惑していた。お姉さんは屈むと、ぼくと目線を合わせて、抱きしめた。
「ひどいことをして、ごめんなさい。でもわたしはもっとひどいことを言う。きみは、初代火影・千手柱間と同じ力を持っている。とても大きい力を」
お姉さんが言うには、ぼくは全身柱間細胞で、初代様しか使えなかった木遁忍術も使えるらしい。
初代様の力は強すぎる反面、悪い人もこの力を利用しようとするから、ぼくも狙われるかもしれないのだという。
「でもぼくが困ったときは、師匠が助けてくれるんでしょ」
ぼくは修行をつけてもらうときだけ、お姉さんを師匠と呼んでいた。ぼくが呼び始めたのではなく、お姉さんに強要させられたのだ。
ぼくは力強く頷いて欲しかったのに、お姉さんは困ったように笑った。
「任せなさい! ……と言いたいところだけど、どうかな。もうわたしの知る世界じゃないみたいだから。一応、三代目に頼んでみる。千手の直系と呼べるのはあなただけだから、もう見守ってるかもしれないけど」
いつも自信満々なお姉さんが、そのときばかりは憂うように目を落とした。
●
「偉い! さすがわたしの弟子!」
アカデミーの成績発表の日、ぼくはアカデミーが終わるや否や、いつもの場所に行って、お姉さんに成績表を見せた。
ぼくは全科目で一位だった。成績表を開いた瞬間、お姉さんは花が咲いたように笑って頭をぐりぐり撫でてくれた。
顔がにやつくのを止められなかった。どうしよう。いま絶対に情けない顔してる。
「初代に似てるからバカかと思ったけど、頭もいいのねえ。そういえば変なセンスしてないし術もチャクラ馬鹿な使い方しないものね。性格は陰険じゃなくて初代っぽいのに変なやつう」
お姉さんはたまに見てきたように先祖のことを語る。二代目は陰険らしい。それだけではなくどうしようもないくらい卑劣らしい。初代は馬鹿でダサいらしい。
どうしよう、尊敬できない。
「よし、今日はお祝いにとっておきの術を教えてあげよう。この世界の象徴とも呼べる忍術、多重影分身の術と、応用が利きすぎて卑劣な飛雷神の術だ。前者は戦闘の他に修行にも使えるし、後者は戦術の幅を圧倒的に広げるうえに戦略兵器にもなる。これを開発したのはきみの御先祖様、二代目火影だ。まったく、こんな術を思いつくなんて卑劣にもほどがあるな!」
ぼくには想像がつかないくらい凄いのだろうが、お姉さんは口を開くたびに二代目を卑劣だ、姑息だと貶すので本当に二代目は酷い人物だったようだ。
なぜ知っているのかは知らないけれど。
「多重影分身はあっという間に会得、飛雷神はさすがに難易度が高すぎたかな。でもコツや理論は掴んだか。大した奴だ……やはり天才……」
お姉さんはぼくを褒めるとき、いつも大した奴だと天才かしか言わない。口癖だと思うけど、もっとバリュエーションを増やしてもいいと思う。
「もっともきみには木遁分身があるから、戦闘では消費が激しい影分身は使いづらいかもしれないね。飛雷神は、使えるようになったらクレーバーな使い方を心がけるように。どうもアシュラの系列は、閃きはいいけど基本パワー馬鹿みたいだから」
身に覚えのないことでコケにされながら講義は続いた。
その日の修行は、身体を使うことよりも座学――影分身を用いた高度な修行法、チャクラのコントロールを磨く修行法、木遁の発展形、大きく強くなってから湿骨林で仙法を学ぶこと、そして里の興りや他里の重要人物についての情報、ぼくが警戒するべき人物など、みっちり教えられた。
どうしてそんなことをぼくは教えられたのか、どうしてお姉さんは教えられるのか、ぼくは深く考えなかったけれど、全部話し終えたあとに、お姉さんがまるでもう教えられることはないかのような顔をしたのが寂しかった。
「師匠、次はいつ?」
「んー。わたしも忙しいからね、まだわからないから未定で。……そうだ、ひとつ聞いてみたかったんだ」
「なに?」
「同級生にゴーグルかけた金髪の女の子いるでしょ? 知ってる?」
「ううん。……あ、先生に怒られてるのは見たことある」
「あはは、そっか。じゃあ、うちはの子は?」
「いつも睨まれてる。何も悪いことしてないのに……」
「へえ。あのコがねえ」
「それがどうしたの?」
「ああ、こっちの話。そうか、やっぱりそうか……」
お姉さんはひとりごちて自分の世界に入った。ぼくは疎外感を覚えて、寂しさを紛らわせるように木遁・真数千手がどれくらい大きいのか想像して、自分がそれを使う姿を想像した。
あまりに夢物語のようで、本当に出来るようになるのか不安になったけれど、お姉さんが出来るというから、ぼくは期待に胸が膨らんだ。
次に会ったときには出来るようにならないかな、と思った。
●
「未定だって言ったのに、来ちゃったか……弟子」
連絡はなかったけど、もしかしたらいるかもしれないと期待していつもの場所に向かうと、血だらけのお姉さんが木に寄りかかっていた。
「いや、いい。どうせ助からないし、助かっても死ぬつもりだから」
手当しようとしたぼくを遮ってお姉さんが言う。ぼくはお姉さんが死ぬという事実に胸が苦しくなり、何も考えられなくなった。身体が震える。
「わたしも所詮うちはの血から逃れられなかった、ということか。生まれたときは、こんな一族とは縁を切って、遠い所に逃げるつもりでいたのになぁ」
お姉さんは遠い目をしている。
「よく見えると思ってた。でも、わたしの写輪眼は曇っていたんだね。いや、曇らせていた、かな」
お姉さんはやっとぼくを見た。
「そんな顔しないで。ダンゾウは再起不能にした。やること為すこと全て裏目に出る無能は、もう悪巧み出来ない。……仮面の男もきみには気づいていない。大丈夫、きみは大丈夫だから」
ぼくのことなんてどうでもよかった。お姉さんに生きていて欲しかった。生きて、褒めて欲しかった。
お姉さんは優しく微笑んだ。
「きみに渡したい……いや、託したいものがある。ダンゾウから奪ったシスイの眼……わたしの大切な仲間の眼だ。グロいかもしれないけど、きみが持っていて。必要になったら使いなさい。師匠命令だ」
透明な容器に入った眼球をぼくに手渡した。不気味だったけれど、ぼくの感覚はマヒしていてすんなりと受け取った。
「そして――」
お姉さんはぼくの手を引くと、額をこつんと合わせて、まっすぐにぼくの眼を見た。
「きみに、わたしの眼をあげる。アカデミーで一位になった、プレゼント。……余計なお世話かな。でもきみにあげたい。もらってくれる?」
考えるより早くぼくは頷いていた。
「……ありがとう」
お姉さんが影分身を出す。
「マダラのコンタクトレンズ感覚とは言わないけど、医療には自信があるから、すぐ繋がる。わたしが最期に見た景色は、きみだ。よく焼き付けておくよ」
施術は、想像よりも早く終わった。
お姉さんの眼で最初に見た景色は、空洞から血涙を流すお姉さんだった。
「わたしの眼の付け心地はどう? ……え?」
お姉さんの影分身が耳打ちする。涙が止まらない。痛々しい姿のお姉さんは、なぜか可笑しそうに笑った。
「写輪眼は心を映す鏡……愛の喪失が瞳力を強くする。その最たるものが万華鏡写輪眼――最も大切な人を喪ったとき、目覚める愛の力。そっか、きみにはわたしが……」
お姉さんは笑うのを止めた。
「ゴーグルの子に、優しくしてあげて。それと、うちはの子にも。彼女たちは、きみと同じで孤独で、孤独になって、苦しんで……まだ小さいきみに何もかも背負わせるのは間違ってるかもしれない。それでもきみが、わたしが見込んだ男の子だから、頼みたい。聞いてくれる?」
声を出そうとしても嗚咽しか出なかった。だからその分、力強く頷いた。
「……ありがとう。わたしの物語はここで終わったけれど、これからはきみの眼を通して、きみの物語を見させてもらうよ。特等席でね」
お姉さんはチャクラを練った。それが最期のチャクラであることはお姉さんの眼ではっきりとわかった。
そして微笑んで、
「欄間、きみは、わたしが考えた最高の主人公だ。だから大丈夫。この先、何があっても、わたしがいつもきみの傍で、きみの幸せを祈ってるからね」
夢のように、ぼくの前からいなくなった。
数日後、ぼくらは孤独になった。
だけど、ぼくだけは一人じゃなかった。だから、ぼくから始めよう。
これは、孤独で愛を知らない子供と、愛を失った子供と、愛を探す子供たちの物語。
――なんてことを、全てが終わったあとで、ぼくは振り返るに違いない。
これはそういう物語の、その触りだ。
TSナルサスをヒロインにし、木遁&写輪眼持ち千手オリ主という設定をどうにかしてクリアしようと思ったらこうなりました。
続きはありません。
理由はTSサスケの名前が思いつかないのとTSしたサスケが想像もつかないからです。
誰か書いて(懇願)