八月一日。黒澤ダイヤは悩んでいた。
「千歌さんの誕生日、ではあるものの……どうお祝いすればいいのかしら……」
真面目な性格であるが故に、片手間に祝いたくない。そんな考えが、当日まで準備を持ち越す結果になってしまった。他の理由に、
「千歌の誕生日? あー適当でいいんじゃない?」
「Oh、千歌っちのBirthdayもうすぐだったのね。全然知らなかったわ!」
という親友二人の役に立たないアドバイスがあったのだが。なるべく秘密裏に準備をしたかったので、あまり大事にできず二人以外には相談していなかった。
「曜さんや梨子さんは、個別に何かしら準備しているでしょうしね」
自室で座りながら、
「千歌さんの好物はミカンですが……旬は冬ですし今は入手が難しいですわね。何か雑貨を……いえ、雑貨は好みが分かれるし、千歌さんが気にいるかは難しいですわ。文房具などの小物……は、誕生日プレゼントというにはあまりに特別性に欠けますわ。いっその事、μ'sのライブを……それだと、私の知識をひけらかして終わりそうですわ……」
ダイヤは考えつくアイデアをことごとく却下していく。
「……難しいですわね、プレゼントというのも……」
天井を見上げて、長く息を吐き出す。
──ピンポーン、と。
唐突にインターホンが鳴った。
「どなたでしょう?」
ダイヤは玄関へと向かい、相手を確認しようとする。
「──ダイヤさんダイヤさん!」
「って、千歌さん⁉︎」
ドアを蹴破らんばかりの勢いで、千歌が飛び込んで来た。
「どうしたのです、そんなに慌てて……」
もしやしびれを切らして祝われに来たのかとすら思ったダイヤだったが、
「明後日! 明後日が何の日か分かりますか⁉︎」
「μ'sのリーダー、高坂穂乃果さんの誕生日ですわね」
即答できた自分に、自ら苦笑する。
「そう!」
求めた答えが返ってきた事が嬉しかったのか、千歌は顔を輝かせた。
「一緒にお祝いしましょうよ!」
「……はい?」
「いやー、実はこうやって遠くの人を祝うのって初めてで……。どうやればいいのか分からなかったんですよ……。私よりずっとμ'sファンなダイヤさんなら、何かいいアイデアあるかなーって思って」
「あなた……本気で言ってますの?」
ダイヤは勘ぐってしまった。遠回しに今日をアピールしているのかと思ってしまったのだ。
「うぇ……私、何かマズい事言いました……? 実はあんまり祝う事はしないとか……?」
だが相手は高海千歌。そんな器用な事ができるなら、ダイヤはメンバーの統率に苦労したりはしない。
「はぁ…………」
ダイヤは盛大にため息をつくと、
「……あなた、今日が何の日か知りませんの?」
「え、今日? 今日って、何かの記念日でしたっけ……? うわぁごめんなさい! 勉強不足でした!」
ため息、二つ目。
「もういいですから。玄関での立ち話もなんですから、お入りなさい。歓迎しますわ」
「えっと……」
「さ、早く。そこは暑いでしょう?」
「は、はいお邪魔します! ──何か怒らせる事言っちゃったのかな……」
「──あ、そういえば今日は私の誕生日でしたね!」
「本当に忘れてるとは思いませんでしたわ……」
客間に通したダイヤは、すぐに今日が何の日か話した。あまりに予想通りすぎる反応に、ダイヤは肩を落とした。
「まったく……μ'sに夢中になるのは構いませんが、もっと自分を大切にして下さい」
「あはは……そんなつもりじゃなかったんですけどね……」
「あなたは、自分が思っている以上に魅力ある人ですわよ」
「えええっ⁉︎ ダイヤさん急に何言うんですか⁉︎」
唐突な一言に、千歌は麦茶を少しこぼした。
「慌てすぎですわよ」
ダイヤは少し笑って、布巾を差し出す。
「だって、ダイヤさんが変な事言うから……」
「私は嘘はつきませんわ。千歌さんに魅力が無くて、どうしてAqoursを引っ張っていけますか」
「……それって、見てないと危なっかしいとか、そういう事じゃないんですか?」
「そう卑屈になる事ありませんわ。自分の魅力というのは、自分じゃ気付きにくいもの。残り多くないスクールアイドルの時間を、千歌さんになら任せられると思ったから私は今Aqoursにいるんですのよ」
「ダイヤさん……」
「だから、もっと自分に自信を持って下さい」
「はい!」
「──勿論、無理だと思ったら即座にリーダー交代をしてもらいますが」
「うっ……本気でやりそうだから怖い……」
千歌は、最後の言葉で思わず背筋を伸ばした。
「冗談ですわよ」
「え……ええダイヤさんさっき嘘つかないって言ったのに!」
「嘘はつきませんが、冗談を言わないとは言ってませんわ」
「屁理屈だよー! ずるい!」
頬を膨らませる千歌を一瞥して、微笑むダイヤ。
「──そういう大きい感情の振れ幅だって、魅力の一つですのに。気付かないものね」
「あー! またそうやって聞こえない声で何か言ってるしー!」
ダイヤは立ち上がると、
「さて、せっかくいらっしゃったのですし、今日は誕生日です。特別に、私の秘蔵μ'sコレクションを見せてあげますわよ?」
「えっ、ホントですか⁉︎」
ふくれっ面はいずこへ。キラキラした期待顔の千歌に、ダイヤはまた笑いそうになる。
「みんなには、特にルビィには秘密ですわよ?」
「分かりました!」
即答。理由を聞いてこない辺り、やはり単純なのだろうか。
「まあ、千歌さんの魅力は言葉で表すのは難しいですわね」
「むー、ダイヤさん褒めるかそうでないのかハッキリして下さいよー!」
褒めているつもりなのだ。何となく、まっすぐ褒めると負けた気がしてしまうだけで。自分も大概だと、ダイヤは苦笑する。
「お誕生日おめでとうございます、千歌さん。あなたがリーダーで、本当に良かったと思いますわ」