穂乃果ハッピーバースデー!

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高坂穂乃果生誕祭2018Ⅰ

今年もまた、この日がやって来た。

私の人生を変えてくれたあの人の生まれた日。

暑い日だった。頭上で輝く太陽が、まるであの人のような存在感で少しおかしくなった。

大学生の私は、今は夏休み。今日はお出かけ。特に理由や目的は無いが、きっとあの人もこんな日には家でじっとはしないと思う。

本当は、和菓子屋だというあの人の実家へ赴こうかとも考えた。だが、有名すぎる故に人が押しかける事も多いらしい。それであの人が困ってしまうなら、それは私の本意ではない。

 

 

 

 

最低限のおめかしをした私は、ひとまず家を出る。

時刻は午前九時半。ひとまず駅前の繁華街へ向かい、そこでぐるりとお店を眺め回してみる。

……そういえば、朝食がまだだった。空腹を訴えるお腹を軽く触ってから、よく利用する喫茶店に入った。

と、人が多い。席はほぼ全て埋まり、喧騒が幾重にも反響していた。きっと、近場で働く会社員の人達が遅めの朝食を取っているのだろう。この時間に入る事があまりないから、知らなかった。

「いらっしゃいませ〜」

どうするか悩んでいると、店員が歩み寄ってきた。

「ただ今、店内大変混み合っておりまして……」

うん、それは見れば分かる。少しくらいなら待つつもりでいたのだが、店員から意外な言葉が。

「相席でしたら、すぐにご案内できますが……いかがしましょうか?」

相席か……。元々人見知りするし、気まずい空気になったら嫌だけど……ここで尻込みしては、あの人に怒られそうだ。こんな時こそ、ファイトしなければ。

私は了承し、ただし女性なら、と条件を付けた。

店員は頷くと、

「こちらへどうぞ」

と店内へ案内した。

 

 

私がついて行くと、店員が一人の女性に声を掛けていた。相席の確認なのだろうが、女性は朗らかな笑顔で頷いていた。……良かった。気難しい人じゃなさそうだ。

店員に示され、私は女性の対面の椅子へ腰を下ろす。

「こんにちは」

間髪入れずに、女性が挨拶をしてきた。

「あ、こ、こんにちは」

人の良さそうな笑顔。顔立ちが綺麗なのは勿論、それ以上に引き込まれる魅力を感じる人だった。雰囲気が、どことなくあの人に似てるなって思った。

「あの、すみません。突然に相席で……」

「気にしなくていいよ〜。こうやって誰かとお喋りできるのも楽しいし」

そこへ女性が注文したのか、ティラミスと紅茶が運ばれてくる。私もついでに、フレンチトーストとカプチーノを注文する。

「それじゃあ、お先にいただきます。あなたは、今日はどこかに用事?」

「えっと……特にこれと言った予定は無いんですが、今日という日を、精一杯堪能したいと思ってます」

やや含みのある言い方だったせいか、女性はキョトンと首を傾げた。

「あ、その、今日、誕生日なんです」

「え、そうなの? それはおめでとう!」

祝福するような女性の笑顔。しまった。主語が無かった。

「ち、違うんです。私じゃないんです。私じゃなくて、とても大切な人の生まれた日なんです」

「へ〜。その大切な人って、家族? それとも友達? もしかして、彼氏さんとか?」

変わらず嬉しそうに、ティラミスを口に運ぶ女性。どう話したらいいんだろう?

「その……私は会えないんです。その人には」

「え…………」

女性のフォークが止まった。

「ご、こめんね。私、そんなつもりじゃ……」

急に慌てたように、取り繕う女性。どうしたんだろう? 何か、勘違いをしている気がする。……あ、もしかして。

「違います違います! 別にその人が亡くなったとかじゃないんです!」

「へ? そうなの?」

「はい」

ああやっぱり、そういう事だったのか。私の言い方が悪かったなぁ……。

「じゃあ、どんな人なの? あ、言いたくなかったら、言わなくてもいいからね?」

ここまで会話を広げておいて、今さら“じゃあやめます”とは言いづらい。……この人が、そこまで自覚しているかは分からないけど。

「私は、とある人のファンなんです」

「ファンって事は、芸能人か誰か?」

「芸能人……ではないと思います」

この人がスクールアイドルについてどこまで知っているか分からないけど、ここまで想う私が正常じゃない自覚はあるので、おおっぴらに言うのは躊躇われてしまう。

「私は、その人に出会って人生が変わった。その人の誕生日が今日なんです」

「へ〜。そうだったんだねぇ」

ニコニコと笑顔の女性。

「……何か、嬉しそうですね」

「うん。実は私も、今日が誕生日なの」

「え?」

「あなたの大切な人が誰かは分からないけど、不思議な偶然だなぁって思って。そしたら嬉しくなっちゃった」

「そ、それはおめでとうございます」

「ありがと〜。あなたの大切な人も、おめでとう」

それは何だか、変な気持ちだ。でも、自分の事のように嬉しかった。この人の言葉には、そんな不思議な力が込められている気がした。話しているだけで元気になれる、不思議なパワーが。まるで、あの人のパフォーマンスと歌声のように。

ふと、私の頭にある仮定が浮かんだ。

「……あの」

「ん? どうしたの?」

女性は相変わらず笑顔だ。少しキョトンとした仕草も、非常に可愛い。

「……いえ、誕生日、いい日になるといいですね」

「ありがと〜! 実はこの後、友達と出掛ける約束してるんだ〜」

そんなはずはない。あの人が、秋葉原から近くもないこんな場所にいる訳がない。

「それじゃあ私、そろそろ行くね」

待ち合わせの時間が近いのか、女性は身支度をすると立ち上がった。

「あなたの分のお金も、払っておくから」

「え、いやそれは申し訳ないですよ」

「いいのいいの! 楽しくお話しできたお礼と、あなたの大切な人のお誕生日だから!」

それはあなたも同じなのではと言いたかったが、この人の言葉には、有無を言わせない力強さがあった。『この人が言うならきっとそうなる』と思いたくなるような、そんな力を。

「いつかあなたの大切な人に、会えるといいね!」

「あ、ありがとうございます。お姉さんも、素敵な一日にして下さい」

「うんありがとう! ファイトだよっ!」

そのフレーズには、聞き覚えがあった。慌てて振り返ったが、すでに女性はお店を出た後だった。

「…………」

私は一人座ったまま、

「……まさかね」

小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いですよ。どこにいたんですか」

「ごめんごめん! ちょっとカフェで時間潰してたら、遅くなっちゃった」

「せっかくあなたの誕生日だというのに、本人が遅刻してどうするんですか!」

「怒らないでよ〜! 今日誕生日なのに!」

「だから怒ってるんです!」

「ま、まあまあ……。落ち着こ?」

「──今日は、いい日だな〜」

「誕生日だからといって、そんなに喜べるのはあなたくらいでしょうね」

「違うよ〜。それもあるけど、さっきカフェで話した人が、ロマンチックな人でね〜」

「ロマンチック? どういう事?」

「秘密っ。──さあ行こうよ! 全力で遊ぼ!」

「まったく……変わりませんね」

「わわっ、待ってよ〜」

「──きっと、繋がってる。夢は、きっと叶う!」


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