~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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 激突の一つ目は、星の光を手繰る者同士の戦い。

 それぞれの覚悟を示し合い、最後まで貫くために信ずるものとは何か。

 果てに得るのは、果てにするのは、なんであるのか――その答えは、ここで決まる。


第十二章 星光激突、貫きたい覚悟

 V.S. グラナート

 

 

 

 ――――シグナムたちがトゥルケーゼを破ったのと同じ頃。

 

 ヴィータとユーノもまた、上陸してしまったグラナートの侵攻を制止させようと必死に食らいついていた。

 上陸は許してしまったが、シュテルをなのはが引き受けてくれた為、二人はグラナートを止めることに集中できる。

 しかし、グラナートは強い。

 なかなか隙を覗かせない様はどこか、引き連れてきた少女を思わせる。

 まさに堅実。

 まさに堅硬。

 目立った攻撃手段を持っている訳ではないが、じわりじわりとこちら側の制止をまるで意に介さずに施設内を進み続けている。

 〝城塞〟の名は伊達ではなく、一朝一夕で落とせるほどに甘くはない。

「――〝ケージングサークル〟!」

 故にと言うべきか、それを止めるべく、ユーノはグラナートを拘束しようと試みる。

 ユーノの使った翡翠の光を放つ拘束帯(ケージ)は、二年前に『闇の書』の〝闇〟を止めて見せた高位の結界魔法『ケージングサークル』。

 この魔法は内側に対象を閉じ込め、且つその対象が内部で動くと反動でダメージを与えるというもの。言うなれば、プロテクションなどのバリア系魔法と同じ特性を有しているのだ。

 もちろん、早朝の練習試合ではやてに用いたように対人戦に置いては非殺傷設定が適応されるが、物理的な兵器が相手なら破壊力も相応に上がるはずだった。

 が、グラナートは自身の損壊を一切鑑みずに進み続ける。

 肝心の部分までは破壊できず、またそれ以外に与えたはずの損壊も即座に再生してしまい、グラナートの力を削ぎきれない。

 そうして進み続けるグラナートの屈強さに歯がみしつつも、ヴィータは換装した『プロトカノン』での攻撃を加え続けるが、電磁砲による被弾も効果は薄い。

 おまけに、

 《バッテリー、エンプティ》

「ちっ……!」

 連射により『プロトカノン』のバッテリーが切れてしまった。

 これ以上は新装備による攻撃を続けられそうにない。

 その上、グラナートはこれを狙い澄ましたかのように建設中の施設を標的に定めている。

「「な――ッ!?」」

 ユーノとヴィータの声が被ると同時。

 二人は飛び出して、施設とグラナートの間に割って入った。盾を張り、グラナートの猛威から建設物を守る。

「ぐ――!」

「う、ぐぅ……ッ!」

 しかし割って入りはしたものの、グラナートの圧は凄まじく、それに押されて二人はじわりじわりと後ろへ下げられてしまう。

 このままではと、ユーノはヴィータに、

「ヴィー……タ! 僕が押さえてる間に……ギガントで、押し戻して……ッ!」

 一か八か、決定打を与えて止めるしかないとユーノは言う。

 けれど、

「ば、っかやろぉ……! 最初に、それが出来てりゃ……とっくにしてる、っての……っ!!」

 ヴィータもそれが出切れば最初からしていると言い返す。

 事実として、最初の一撃でヴィータはギガントを振るったが、グラナートを押し戻しきれなかった。

 おまけに二人で支えてもギリギリなのだ。

 片方が離れた瞬間、グラナートは関を外された水の如く一気に進む。

 更に言うならギガントは被害が大きい技だ。加減なく振るえば、ここの地面を陥落させかねない。その上にユーノが押さえているとなれば、打てる範囲は余計に狭まる。

 もちろんユーノもそのことは理解している。

 だから、と二の句を告げるよりも早く、その場に援軍が飛来した。

「でぇぇやぁぁああああああッ!!」

 鋭い叫びを伴って飛び込んできたのは、ヴィータと同じ夜天の守護騎士。

『ヴォルケンリッター』が一角、守護獣・ザフィーラである。

 機体の胸元に飛び込んで放たれた拳によって、グラナートの装甲の一部が壊れ、赤い球体が露出した。

 それを狙うザフィーラだが、グラナートはユーノたちから彼に目標を切り替えたらしく、頭部に備えられていた腕部を用いて対象を叩き落とそうとする。

「ぐっ……!」

 向けられた攻撃に盾を張る。しかし、パワーファイターの彼でもグラナートの攻撃を防ぎきることは出来ない。

「ザフィーラ!」

 ヴィータが案じるような声を上げたが、これは好機である。建設中の施設からグラナートは狙いを外し、その最奥を明かしているのだから――!

 それを察知したユーノとザフィーラは、二人同時に拘束魔法を発動させた。

「〝チェーンバインド〟!」

「〝鋼の軛〟――ッ!」

 ダメ押しにグラナートの抵抗を削ぎ墜とした二人が叫ぶ。

 

「「ヴィータ! 胸元の赤い球体を狙え(って)!!」」

 

「応っ!!」

 と、二人の声を受けたヴィータが力強く応じた。

「行くぞ、アイゼン!」

 《Jawohl!(了解)

 そして、掲げたアイゼンが姿を変える。それは、鉄の伯爵が獲得した、新たな『フルドライブ』形態。

『パンツァーヴェルファー』――。

 象られたその姿は、ただの巨大な鉄槌には非ず。

 そも、彼女の二つ名に込められた意味は何か。それは、全ての障害を打ち砕き、仲間たちの道を切り開いていく為のものであり、この新たな形態(すがた)はそれを為す為のもの。

 ならば、こんなところで――!

「負けてられっかああああああああぁッ!!」

 振り払われたグラーフアイゼンが、グラナートの開かれた中枢部に叩き込まれる。

 無論、再生機構が働いている以上は当然ながら、ザフィーラの空けた穴は防がれ始めていた。

 だが、いくら装甲を修復しようとも、全てを込めたこの一撃には及ばない。

 回転機構(ドリル)噴出口(ジェット)を備えたパンツァーヴェルファーの真髄は、打ち砕くこと――打撃力に特化した最大攻撃の『ギガント』に、『ラケーテン』の噴出特性を加えた打ち砕くための攻撃として昇華しているのだ。

 

「――ぶ、ち砕けぇえええええええええええええええええええぇぇッッッ!!!!!!」

 

 叫びに呼応する様にアイゼンの噴射が一気に上がった。

 ドリルが唸りを上げ、ジェットが激しい光を増し、覆われた始めた装甲を粉砕して内側にあるコアに攻撃が到達する。

 弩級の一撃に潰された中枢機の破壊に伴い、グラナートは遂に倒れ伏せた。

 崩壊していく機体を眺め、荒息を吐きながらもヴィータは、自身らの獲得した勝利を噛み締める。

「状況、終了……っ」

 支局への報告を済ませ、肩の力を抜く。

 天を仰ぎ、もう一度息を吐く。すると、彼女を労う様にユーノとザフィーラが言葉を掛ける。

「お疲れ様、ヴィータ」

「流石だったな。見事な一撃だったぞ」

「おう……。あんがとよ」

 二人に礼を返すも、気を緩めていられたのもそこまでだった。

 

「「「――――!」」」

 

 瞬間、佳境に入っていた星々の激突が《オールストン・シー》を震わせた。

 遠方より届いた光が、その激しさを伝えてくる。

「――行かなきゃ」

 まるで引き寄せられるかのように、ユーノはポツリと呟き飛び出した。

「あ――お、おいユーノ!」

 ヴィータの声にも止まらない。普段穏やかなユーノにしては珍しく、非常に感情的な反応に思えた。

 その為、ヴィータは彼を追おうとしたのだが、ザフィーラは彼女を止める。

「ザフィーラ、何で止めんだよ!? アイツ、絶対なのはのとこに行こうとして――」

「だからこそだ」

「……どういうことだよ?」

 訝かしむように訊ねるヴィータだが、ザフィーラの方はというと、酷く平静にユーノを見送りながらこう答える。

「落ち着け、ユーノは別に焦りや感情で動いている訳ではない」

 少なくとも冷静に判断はしている、と。

 ザフィーラの言葉に、ヴィータはますます判らないと言った表情をするが、その彼は彼女の疑問に噛み砕いた説明を添える。

「アレは、どちらかというと本能的なものだろう。――〝砲撃魔導師〟が万全の戦いをするために、〝結界魔導師〟が必要だと感じ取ったのだろう」

「…………あ」

 言われ、気づく。

「そういうことだ」

 頷くザフィーラが止めていた肩から手を外すと共に、ヴィータも上げかけていたアイゼンを下ろす。

 そして、ポツリと呟いた。

「……なぁ、ザフィーラ。時々思うんだけどさあ――なんかユーノって、変に思い切り良いって言うか、なんか妙に決断力(こうどうりょく)ある時あるよな……」

「言えている。決めたら動かなそうなところは、師弟揃ってそっくりだ」

「……確かに」

 なんとも似たもの同士だ。

 それでいて、互いをここぞと言うとき必要とする辺り――酷く固い絆で結ばれている様にも思える。

「――にしても、好き勝手しやがって。これで負けでもしたらアイゼンの頑固なシミにしてやるからな」

 ぶっきらぼうにそう言いつつも、ヴィータの口角は上がっていた。

 正直なところ、不安は湧いてこない。

 やるべきことを目の前に据えて、全力で挑む。

 そんな二人が失敗するとも思えない。――後は信じて、自分たちもすべきことをするだけだ。

「行こうザフィーラ。シグナムたちに合流しておかないと」

「ああ。主もまだ交戦中だからな、場合によっては行かねばなるまい」

「おう」

 残る武装局員たちを引き連れ、二人はそのエリアを去る。

 そして、その少し後――彼らの去ったのとは逆の方向で、三つの光が輝いた。

 

 一つ一つ戦いの幕が閉じていく。

 けれどそれは、まだ先へ続く道の通過点。

 未だ終わりを覗かせない結末は、果たしてどのような形で彼らにその姿を見せるのか――――。

 

 

 

 *** V.S.星光(シュテル) ――殲滅の理と守る側の矜持――

 

 

 

 ――――二つの星が空を翔ける。

 

 踊る様に飛び交う桜色と紅蓮の光。

 なのはとシュテル。二人の少女の激突が、夜の遊園地を震わせる。

 互いが、互いの手の内を知り尽くしたかの様に〝似た行動〟を取り続ける以上――戦いの行末は、結局のところ力と力のぶつかり合いに委ねられた。

 が、それも必然。

 光が散り、火花が舞う。その度に、少しずつ判ってくる。

 相手が決して引かないという確信が湧く。そして、同じでも違うところ。癖や特性、或いは目指す志の違いが見えてくる。

 しかし、だからこそシュテルは、どうしてもなのはの行動に解せない部分があった。

 

「――ナノハ、質問しても良いですか?」

 

 戦いの最中だというのに、張り詰めていた琴のような空気が一変した。

「え……えっと、いま?」

 いきなり向けられた言葉になのはが驚きを覗かせるが、質問をした側は構わず、そして一切攻撃の手を緩める事無く喋り続ける。

「あなたは先ほどから、地上の建造物を守る様な挙動を取る。地上に生命反応は見当たらない――だというのに、そこまでして無人の建造物を守る理由は何ですか?」

 なのはが何をしているのか判らないとシュテルは語る。

 誰も、そして何も居ない無機物を護り続ける意味など無いだろうに、と。

 少なくともシュテルにとって、〝戦い〟を行う上で他のことに気を取られる必要など無い。

 

 〝互いが持てる力を全て投じて、最後に敵を屠った側が勝利を得る〟

 

 シュテルにとって、戦いとはそういうものであった。……だというのに、なのはの〝戦い〟にはどこか不自然な行動が伴う。

 何か、相手以外を見る()()が入る。

 情熱を注いでいる場で、己の技量を見せるための時であるのに、敵が気を抜いているように見えれば愉快ではないだろう。

 要するに、シュテルはこう言いたいのだ。

 余計なコトになど気を取られず、思うままに掛かって来いと。

 なのはも相手側の発言の意図を察したのか「それは――」と、少しだけ返答への間を空けた。

 確かに、シュテルからしてみればとても失礼な事に思えたかもしれない。それに、彼女は戦いの最中に他所見をして勝てるほどに甘い相手ではない。

 そんな相手に――全力で戦っても勝てるかどうかなど判らないのに、別のことにまで気を回そうとしているのは、非常に傲慢なことなのかも知れない。

 ――――が、それでも。

 戦いに誇りを懸けるようなタイプであるシュテルに相対する上であっても、決して譲れない思いがある。

 彼女が抱く誇りと同じように、なのはにも胸に抱く決意があるのだ。

「ここの施設はみんなが頑張って造っているもので、完成を楽しみに待っている人たちが居るところで……たくさんの人の努力と期待が籠もった場所だから――――」

 沢山の人の思いから生まれた場所を。

 沢山の夢が込められたこの場所だからこそ、

「――絶対に、壊したくないの!!」

 言葉にした思いを乗せたかのように、なのはの攻撃に重みが増した。

 それを受け、シュテルは僅かに後退するも、直ぐに体勢を立て直して次撃(つぎ)に出る。

 僅かに空いた距離は、彼女らからすれば微々たるもの。

 自身の最も得意とする魔法の範囲内――であれば必然、放つべき魔法は一つ。

 お互いに光の矛先を見せながら、シュテルは問う。

「それらを守りながら、わたしの攻撃を受けきれるとでも?」

「やってはみるよ」

 それに対し、なのはは即答した。

 交わされた言葉を載せたように、二人の砲撃が交差する。

 当たることはなかったが、それぞれの放った光に威力の優劣はなかった。

 つまりはこれこそ、決してそこに懸ける思いが、間違っても〝手を抜く〟などという行為に当たるものでない証明になる。

 

 ――戦いにおいても理想においても、そこに一切の妥協は挟まない。

 

 シュテルが戦いに手を抜くなというのなら、抜いていないと返す。そして、その上で全てを守り通して見せるとなのはは宣言したのだ。

 砲撃の交差から間髪開けず、一気に距離を詰めてシュテルの胸元に飛び込む。

 突進を柄で受け止めたところで、二人は再び鍔迫り合う。

 ギリギリと握りしめた柄が呻きを上げるが、シュテルもなのはも一歩たりとも引こうとしない。

 強き思いがぶつかり合い、決して譲らないという想いが燃え上がり、焼け付きそうな情熱を噴き上がらせる。

 そうして掲げた心を込めるように、なのはは真っ直ぐにシュテルを見据え、揺るがぬ決意を叫んだ。

 

「無理でも何でも、物解り良く諦めちゃったら後悔するから! ……だから決めたんだ。どんな時でも、諦め悪く食らいついて――――わたしの魔法が届く距離にあるものは、全部守っていくんだって!!」

 

 夢物語でも、都合の良い理想だと笑われようと構わない。

 最初から決めている。

 初めて『魔法』を手にした時から変わらない。

 この力はずっと誰かを助ける為のもので、悲しみで溢れた涙を拭うもの。

 絶対に揺らがない想いを胸に、不屈の心が紡いで来た絆――心を満たすそれらこそが、なのはが戦い続ける理由であるのだと。

 そうして向けられた言葉を、シュテルは滑稽だと笑い飛ばすことはなかった。

 むしろ、彼女の対応はその逆で――――

 

 

 

「――――それが、貴女の覚悟ですか」

 

 

 

 向けられた強い決意に応えるように――シュテルは、全力で以てなのはの掲げた志を潰しに掛かる。

「――――ッッッ!?」

 鍔迫り合った柄を外された刹那。

 唐突に顔面へと左手が翳されたかと思った時には、既に頭を捕まれていた。

 先ほどまでは使っていなかったが、シュテルの左腕に装備された篭手は明らかに防御のための物ではなかった。

 その事実を、まさしく()()()でソレを視たなのはには嫌と言うほど理解出来たことだろう。

 

 ――目の前が、炎に染まる。

 

 このままでは拙い、と雷閃の如く脳裏を駆ける思考が彼女を突き動かす。

 通常であれば篭手から逃れるべきだが、捕まれた時点で逃げられる可能性は低い。

 故に、

「ぅ……ッ!」

 なのはは敢えて、迎撃を取ることを決めた。

 

「な――!?」

 

 瞬間。

 二つの爆発が起こり、再び二人の距離は開くことになった。

 先ほどよりも更に遠のいた距離を見て、シュテルは僅かに歯がみする。

 不意を突いたつもりが、恐れることなく迎撃を選んだ相手に不意を突かれた。

 その事実にシュテルの形の良い眉根が寄り、鋭さを増した色の薄い瞳はなのはを睨むように見据えている。

 しかし、強張った表情は直ぐに解け、平静に現状を認めた。……結果としては非常に不本意だが、それでも実に判りやすい対峙になったとも言える。

 自らの策を逆手に取られたが為に、あつらえた様な距離が開いた。

 であればこそ――こんな過程もまた、自身らの決着には相応しい舞台になったと受け取ろう。

 整えられた舞台に応じるように、シュテルもまた、自身の覚悟を口にする。

 

「わたしにも覚悟があります。――王を守り、王の願いを叶える〝(ほのお)〟であるという〝覚悟〟です……!」

 

 シュテルの発した声と共に、彼女の愛機(つえ)である『ルシフェリオン』が形態(カタチ)を変える。

 なのはの本来の愛機である『レイジングハート』と同様に、『ルシフェリオン』の持つもう一つの形態もまた、槍の様な形をした砲撃の為の姿。

 ここまで来れば、最早語るまでも無い。

 発した宣告と共に、シュテルの足下に紅に輝く陣が広がった。それを見て、なのはも確信を得たことだろう。

  ――ここからが、自分たちの本来の戦いになるのだと。

 〝砲撃〟を主とした魔導師同士の戦いこそ、互いの覚悟を問うた結末に相応しいとシュテルの行動が物語っている。

 砲撃魔導師らしい――力と力のぶつけ合い。

 最後はそれで白黒を付けようと、そうシュテルは言っているのだ。

 が、同時に。

「バインド……!?」

 当然ながら、シュテルは一切の手加減などしてこない。

 先ほどの攻防において、駆け引きの上ではなのはが一歩先を行ったのは認めよう。だが、ダメージまで含めればシュテルの与えたものの方が大きかった。

 事実として、なのはは拘束魔法(バインド)を掛けられるだけの隙を見せた。

 故に、そこを突いてシュテルは『ルベライト』を発動させ、なのはの四肢を縛ったのである。

 一切の躊躇いも、容赦もなく――覚悟を認めた相手だからこそ、シュテルは全力で倒しに掛かる。けれど、更に突き詰めて言えば、仮になのはがバインドをどうするかなどに興味は無い。

「集え、明星(あかぼし)――全てを焼き消す炎と変われ」

 集束の渦に引き込まれるように、炎を纏う星光が彼女の元へ集い始めた。

 ――既にシュテルは砲撃の準備に入っている。

 制止を掛けようとしたところで、撃ち放てば済むことだ。

 ただ、そうなれば確実に施設も破壊され、なのはも防御を取らざるを得ない。

 少なくとも、掲げた覚悟を貫くことは出来なかったという結果を生むだけの効果はある。

 逆に、なのはが砲撃による相殺を図るのならばそれも望むところだ。

 相手を自分の土俵(けつい)(がわ)に引きずり込んだ分――なのはがそれを相殺出来ようが出来まいが、戦いにおいての矜持は自身の勝ちだと言えるだろう、とシュテルはそう考えていた。

 故に、彼女は集束の刹那において――ただ静かになのはの行動を見守っていた。

 決意の固さを認めた好敵手が、あれだけの覚悟を抱いた相手が、ここでどういった選択を行うのか。

 ただ、ひたすらにそれを見極めに掛かる。

 

 そうして、しばしの静寂の後――。

 なのはがバインドを砕き、身体が自由を取り戻す。そうして、自由になったなのはが選んだのは、〝砲撃で相殺〟という選択であった。

 

 無論、受けて立つことに変わりは無い。

 ……が、なのはの様子は、シュテルの想像していたものとはだいぶ違っていた。

 集束を始めたなのはの表情に、負の感情は一切見られない。

 悔しがるでも、嘆くでもない。

 開き直ったというわけでもない。

 ……まるで、この状況であっても、自分の選択を違える事は無いと確信しているような反応である。

 シュテルには判らなかった。

 現状において、未だに光を失わずにいるなのはの心境が。

 その上、僅かに困惑を覗かせたシュテルを更にかき乱すように、なのははこんなことを言ってきた。

「ねぇ、シュテル――今度はわたしから、良いかな?」

 始めにシュテルがそうしたように、問いを投げてくる。

「今更、何を……?」

 このタイミングで、何を言うつもりなのか。と、訝かしむようにそう問いかけると、なのははこう応えた。

「すごく勝手かも知れないんだけどね……わたし、信じてるの」

 今度こそ、本当に意味が分からない。

 なのはの返答(こたえ)もそうだが、この状況で信じられるものがあるなど、あまりにも馬鹿げている。

 彼女の覚悟を笑いはしなかったが、根拠のない夢想に付き合う気はない。

 故に、シュテルは突き放すようになのはの言葉を切って捨てようとしたのだが――間違いなくそのつもりだったにも関わらず、どうしてか二の句を継ぐ事が出来ずにいた。

 混乱するシュテルを置いて、尚もなのはは語り続ける。

「迷ったとき、困ったとき――いつも導いてくれる人が居るの」

 星々が舞い集う刹那。

 静寂と、張り詰めた糸を穏やかに解すようにして、なのはは語った。

 一部の揺らぎもなく、何の恐れもなく〝信じている〟のだと。

  ――自分が進む先を守ってくれる人が、今は傍にいる。

 離れてしまっていたぬくもりが、帰ってきたかのような感覚だ。

 それはまさしく、自分の欠片にも等しいもの。

 少しだけ離れていたものだったけれど、過ぎた時を感じさせずに帰ってきた欠片は彼女の心にピタリと嵌った。

 二年前から変わらないそれが、なのはの心を支えている。

 だから、疑いなく信じられる。

 何時だって、どんな時だって変わらない。

「進む道に迷ったときでも、支えてくれる人が居るから!」

 その声を聞くと同時。

 起こりえない筈の事態に、シュテルは驚愕を露わにした。

「!?」

 自身らの足下から翡翠の輝きと共に、この島全てを覆い尽くすかのような巨大な障壁が展開される。

 その輝きを生み出したのは、一人の少年。

 己が隷を踏破されたことや、どうして単身で此処にやって来たのか。

 驚きに混じる感情は様々であるが、それでも一番の衝撃はと問えば、それは彼らの信頼を目の当たりにした直後だったからだと応えるだろう。

 連絡を取る素振りなど皆無だった。

 にも関わらず、まるであの少年は示し合わせたかのように。なのはの想いに応えるようにして今、この場を訪れた。

 

「行って―――なのは!」

「うんっ!!」

 

 その上、見合うこともしないまま、たった一言であの二人は全てを預け合う。

「集え、星の輝き……!」

 彼の声に応えるように、なのはもまた集束の速度を増す。

 使用者の魔力を強化する『ストライクカノン』の補助もあってか、集束の速度は先に始めたシュテルにも引けを取らない。

 ――――桜色の輝きが増して行く。

 それに呼応するように、抱いた希望は欠けることなく、浮かべた笑みは何処までも明るいものに。

 立て続けに起こる展開に、シュテルは訳が分からなくなってしまう。

 

 どうして今ここへ来た?

 何がそこまで二人を引き合わせた? 

 いったい何故、そこまでの信頼を持ち合える?

 

 シュテルには判らない。

 奇跡的なまでのタイミングもそうだが、背中を預け合う二人の心情に理解が届かない。

 最初の邂逅の際に見た限り、少なくともあの少年は強力な魔導師というわけではなかった。

 これまでの行動を鑑みるに、防御にはそこそこ秀でているようだ。

 だが、いざ戦闘の為の力を競えば、絶対になのはにもシュテルにも敵わない程度の存在でしかない。

 強者か弱者で言えば、間違いなく弱者の側である筈の存在。

 なのに、どうして――

「あなたは……彼の何を、そこまで信じているのですか……?」

 理解不能だ。

 何がそこまで、なのはが彼への信頼を生んでいるのか。

 自分自身が戦えるわけでもない、強いて言えば防御が多少秀でるだけ。

 自分たちよりも遙かに()()である以上、自分たちの撃ち合いに耐えられる道理はない筈だ。

 よしんば一分野への特化型であろうと、必ずなどという保障もない。

 あれだけの決意。あれだけの覚悟。

 それだけのものを抱きながら、何故その采配を他人へ任せられるのか。

 どうして其処まで信頼出来るというのか。

 そうしたシュテルの混乱に応えるようにして、なのははこう言った。

「簡単だよ。わたしがユーノくんを信じてて、ユーノくんもわたしを信じてくれてる」

 何処か嬉しそうに、誇らしそうに。

 柔らかな親愛を噛み締めるように。

「迷ったとき、何時だってユーノくんはわたしの背中を押してくれるの。それでね? たくさんの力をくれるんだ。だからわたしは、こうして戦えてるの!」

 「――――」

 そんなのは、回答になっていない。

 ――そもそも戦いとは、あくまでも他者を屠るものである。

 戦えない人間など、戦場にいても邪魔なだけだ。まして、自分よりも弱い人間に力を貰うなど。

 仮に力が守りを指しているのだとしても、そんな理屈は通らない。

 ただ〝守る〟だけの人間といて、力が増えるなどという事も無い。

 どんなに堅い防壁も、いずれは陥落するのが道理である。

 だというのに、

「何時だって背中を押してくれてる手が温かいから、一人じゃないから……わたしは、どこまでだって進んで行ける!」

 なのはは本当に、本気でそれを信じているらしかった。

 ――シュテルの中にあった理が瓦解を始める。

 意味が分からず、理解も出来ない。

 仲間や同士というものは、同じだけの力を持つ者であればこそ。自分より弱い人間を守ることはあれど、頼るなど有り得ない。

 ……しかし、そんな彼女にとっての〝当たり前〟を覆そうとする力が目の前にあった。

「だからわたしは負けない! 絶対に、全部を悲しいままで終わらせたりなんかしない!! ユーノくんから貰った魔法はその為のもので、誰かが囚われている運命なんて鎖を壊すためのものだから!!!!」

 なのはの魔方陣が輝きを増す。

 ……たった一人いるだけで、何がそこまで変わるのか。

(いったい――彼の何が、あそこまでナノハを突き動かしている――?)

 受けた答えは理解できなかった。

 考えてみても判らなかった。判らなかったが――なのはの持つ志が、どうやら本物らしいことだけは解った。

 つまるところ、結局は越えねばならぬ壁。

 何が変えているかなど、答えの出ない思考など今は要らない。

 今何よりも為すべきことを為すのみ。

 それは己が使命を完遂し、自分自身の覚悟を全うすることに他ならない。相手の覚悟がどれほどであろうと、壁があるなら越えていくまで――!

 

「……良いでしょう。ならば、わたしたちの覚悟(こころ)魔導(まほう)――そのどちらが上か、これで決着(ケリ)をつけましょう。ナノハ!」

「うん、受けてみて――これがわたしの、全力全開ッ!!」

 

 シュテルの声と共に、彼女の足下にある陣が輝きを増した。

 すると、それに負けじとなのはも自分の全てを引き出しに掛かる。

 

 ――――二人の元に集う星々は、合わさり一つの星となる。

 

 向かい合う二人の持つ輝き。力の示し合い。

 各々の覚悟を懸けた、魂の一撃――!

 

「スターライト――ッ!!」

「ルシフェリオーン……ッ!」

 

 彼女らの持つ、最大の魔法。

 運命の鎖を砕く光と、阻むものを焼き尽くす炎。

 お互いの本質をかけた、その一撃が今――――撃ち放たれた。

 

 

「「――――ブレイカァァァアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッッ!!!!!!」」

 

 

 光の本流が海上の楽園を照らして行く。

 鬩ぎ合う二つの光。さながらそれは、超新星同士の激突を思わせた。

 希望を集めた桜色の星雲と、全てを焼き消す灼熱の太陽。

 単一によって輝くことへの矜持なのか、数多の光を背負うが故か。

 二人の心を対比させたかのような超弩級の一撃は、果たしてどちらに勝利をもたらすのか。

 

 ――――その結末(こたえ)は、ここで決まる。

 

 

 

 激しくぶつかりながら弾け散った炎と光の奔流。

 鬩ぎ合うその輝きが夜の闇を裂いて、《オールストン・シー》を呑み込んで行く。

 衝撃を受け止め、苦しげな顔を覗かせながらも――シュテルは押し勝ってみせると、ルシフェリオンを握る手に力を込める。

 撃ち切れ――そう自身の愛機と、己自身に発破をかける。

 そうした己の矜持を全て込めて、なのはの砲撃を打倒せんとして光の先を睨みつけた。

「この砲撃に、耐えられる人間など……っ!」

 しかし、

「な……これは……っ!?」

 またしてもなのはは、シュテルの予測を越えて来た。

「〝ストライクカノン〟――A.C.Sモード!」

 複合武装である『ストライクカノン』には、砲撃に特化した電磁砲撃機構のみでなく、半実体化した魔力刃を電磁コートした〝ストライクフレーム〟も装備されている。

 が、普通ならばそれを砲撃の激突の中で使用するなど考えもしないだろう。

 しかし、だからこそ――撃ち合いの最中であったという虚をついた一撃が生まれた。

「ドライブ、イグニッション――ッ!!」

 あろうことかなのはは、〝ストライクフレーム〟と〝A.C.S〟という瞬間突撃機構を併用して、荒れ狂う魔力の中を突っ切るという手段に出た。

 確かに、集束砲撃は基本的には〝集めた魔力を撃ち放つ〟というプロセスによって撃ち放たれる魔法だ。

 つまり、極端なことを言えば、撃ち手が射出口からの砲撃を放った後は集められた魔力が勝手に撃ち出されるだけであるために、撃ち手が場を離れる事は出来なくはない。

 ――なのはは、その虚を突いてきた。

 集束砲撃(ブレイカー)同士のぶつかり合いは、ただの威力比べ合いではない。

 拡散する魔力の余波に晒されながらも、自分の放つ魔力をどれだけ相手の側に押し付けられるかによって、砲撃同士の威力比べが決まる。

 けれど、駄目押しの一撃を直接――それも魔力の奔流を自分から突っ切って与えようなど、一体誰が予想するというのか。

 ――自分の砲撃を放棄するにも等しい行為である。加えて、制御を欠いた砲撃が余計に拡散してしまう可能性も否めない。

 あれだけ守ることに執心していた相手だからこそ、思い至らなかった埒外の攻撃。

 されど、確かに効果的な一撃である。

 凡百の魔導師であれば、恐らくこの時点で敗北を喫することだろう――が、シュテルはこれだけで終わってやる気など更々ない。

「ぐっ……、ぅぅ……ッ!!」

 左手の籠手でなのはの向けたブレードを受け止め、右手に持った『ルシフェリオン』を突きつける。

 すると、なのはもシュテルの次撃を察したのだろう。

 激しい光の中。二人の鋭い視線が交錯して、最後の一撃へと移行する。尤も、この状況で細かい動きなど出来はしない。

 故に、最後とするならば――それは。

「ヒート――ッ!」

「バースト――!」

 当然というべきか、結局はこれも意地の比べ合いに他ならない――!

 

「「エンドォォォ――ッッッ!!!!!!」」

 

 二人の叫びと共に、桜色の光と紅の炎がぶつかり合い、《オールストン・シー》は目が眩むような閃光と爆発に包まれた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 激しい輝きが止み、再び夜の暗幕が《オールストン・シー》を覆い始める。

 そのベールを一度は剥いだ二人の少女は、最後の激突が終わったにも関らず、未だ空の上で互いを見ていた。

 しかし――――

 

(…………っ)

 落ちそうになる浮遊感。

 身体の力が空中へ溶け落ちるような感覚に苛まれたシュテルは、それを受けて自分の敗北を悟る。

 ――そんな中で、漸く理解した気がした。

 自分が飛ぶ空を守ってくれる存在というものを。

 間違ってもそれは、先を行く者ではない。

 先駆者でも、先導者でもなく――言うなれば宿り木のようなもので、同時に道標のようでもあった。

 そっと行先を照らす人。

 想いを託してくれる人。

 背中を守ってくれた人。

 思いを背負うだけではなく――進む先を示し、支える者がいたからこそ、なのはは強かったのだと。

 シュテルは漸く、そのことを知った。

 自分の全てを預け合えるだけの信頼。

 見たままのモノだけを見ていたシュテルでは、決して気づき得なかった。

 そこにどれだけの月日があったのか。

 或いは、どれだけ深い出来事があったのか。

 結ばれた過程を知ることは出来なかったが、その重みだけはしかと知ることが出来た。同時に、それに足るだけの結果も。

(――――なるほど)

 眼下に広がる施設は、木々などは多少倒れているものの、破壊や致命的な破損に至るだけの被害を受けている様子は見られない。

 ――確かに()()は、この場所を守り通していた。

 互いを理解し、至らぬ部分を双方が補い合う。言うだけなら簡単だと切り捨てもできるが、実践して見せられてはぐうの音も出ない。

(…………わたしが及ばなかったのは、そういう道理だったということですか……)

 負けた。

 二人の信頼に。二人の覚悟に。

 二人の行った戦いとぶつかり合い、そして負けた。

 ……あの少年が〝戦えない人間〟だと思っていたのも、誤りだったのだろう。

 これが彼の戦い方であり、確かな覚悟と矜持を伴った、シュテルの知らない信念の元にあったもの。

 そう、彼女はそれに負けた。

 

 ――――〝守る側の矜持〟に、敗北したのだった。

 

 けれど、敗北に対する悔恨はなかった。

 世界が広がった様な感覚と共に、自分が持ち得なかったものを見たという高揚が静かに彼女の中に広がって行く。

 そして、及ばなかったという実感だけが胸に残る中で。

 シュテルは、槍としての責を果たせなかったことを己が王に詫びながら――最後に、彼女は戦う者らしく、こう結んだ。

 

「……無念、ですが…………あなた方の……勝ち……で、す……」

 

 擦れを伴った最後の声が途切れると同時。

 シュテルの視界が暗転し、彼女の身体が地へ墜ちる。

 しかし、それはなのはとユーノによって防がれた。意識を失ってしまったシュテルを受け止めた二人は、彼女をそっと地上まで誘う。

 そうして、シュテルを地上まで下ろしたなのはは。

「……うん。わたしたちの、勝ちだね。――目が覚めたら、シュテルたちのこと……聞かせてね?」

 先程の彼女の言葉に応えるように、こう言った。

 聞こえてはいなかった筈だが、シュテルの表情はどこか穏やかだ。

 戦いは、確かにシュテルの敗北で終わりを迎えた。だが、同時に彼女が知り得たものはとても大きかった。

 そして迎えた、淀みのない戦いの終幕。

 そんな終わりを感じたように、シュテルは……二人の腕の中で、どこか満足そうな顔で眠っていた。

 

 ……こうして、二つ目の戦いが幕を閉じた。

 けれど、未だ全ては明けることなく――――悲しみを背負ったままの物語は、更に先へと加速して行くのだった。

 

 

 

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