~魔法少女リリカルなのはReflection if story~ 作:形右
ある星から始まった物語は、その目覚めと共に加速する。
いくつもの痛みを超え、絶望に苛まれる世界であろうと、それでもまだ希望を捨てずに立ち上がる魔法使いたち。
翡翠と桜色の光が闇の中で、新たな光を紡いでいく。
悲しい物語を、悲しいまま終わらせないために―――戦いは、再びここに幕を開けた。
第十八章 戦いと涙、時を経た再会
衝突せし光
「――イリスさん、わたしたちと来て下さい! 困ってることがあるなら、必ず力になりますから……‼」
《オールストン・シー》海上エリア上空。アミタへ迫るユーリの攻撃を防いだなのはは、イリスへ向けそういった。
しかし、
「――――――」
イリスは冷ややかな視線でなのはを見下ろすのみ。感情の起伏を示さない緋色の瞳を返され、なのはは自分の言葉が届かないことを悟る。
その意思が二人の間で通った瞬間、イリスは傍らの〝
「ユーリ」
短く、簡素な声。
けれどそんなひと声が、ユーリの裡にある破壊の力を呼び覚ます。
「ぅ、……っ、ぅぅ……!」
漏れる呻きに合わせ、ユーリの身体を赤い波動が二、三度振れさせた。そうして、まるで内側から生まれ出る悪魔を迎えるように、ユーリから金色の光が激しく迸り、彼女の周囲を覆って行く――。
「う、ぁぁ……ァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァっっっ‼︎‼︎‼︎」
ユーリの悲鳴に合わせ、彼女の周りに浮いていた『魄翼』に加え、新たな外部武装が生成された。
次いで、雷が海に注ぐ。
すると雷の注がれた水面から、先程局員たちを苦しめた『結晶樹』が生えて来た。
……否。それはもう、
「……っ」
せり上がって来た島から伸びる樹から、一度なのはは距離を取る。
他の局員たちも、次々と自分へと向かってくる樹を避ける。いくらユーノが緩和の結界を張っているとはいえ、直接喰らえば再度大ダメージは免れないだろう。
そもそも、島をまるまる一つ作り出す魔法など聞いたこともない。君子危うきに近寄らず、と言ったところか。……尤も、仮にそういった思考が無かろうと、おそらく彼らは身を引いていたに違いない。
何せあれは、氷結や固定の類ではなく―――何らかの形で周囲のエネルギーや物質を作り変える類の魔法だ。あれだけの魔法は、古代遺失物指定を受けたくらいの品でしか再現できない。
つまりユーリは、そんな品と同じか、それ以上の力を持っているという事と同義だ。
改めて、自身の脅威を場に示したユーリ。更にその彼女を操っているイリスは、自分たちを止めるなどと宣ったなのはに対し、
「困ってることも、力になって欲しいこともない」
力の差は歴然であると宣言し、また邪魔をするなと宣告をする。そしてイリスは、こうユーリへと命じた。
「後は任せたわよ? あたしは離脱する。危険度の高い順から排除して」
すると、それに対する返答は―――。
「
「ベルカ語……!?」
そう。ユーリが口にしたのは、既に失われた世界の言語。地球でいうところのドイツ語と似た体系を辿るそれは、かつてベルカと呼ばれた地で用いられていたものだ。しかし、現代にもベルカの流れは継がれており、使用者が皆無というわけではない。はやてもそこについては十分に理解している。
だが、それでも驚きを隠せないのは、相手が魔法とは違う術式体系を経た世界からの使者だという、既存の認識を壊されたからに他ならない。
これまでずっとまったく別だと思っていたはずの世界が、少しだけ繋がっていく。……が、それはあくまでも縁。実際に分かり合える状況かどうかは、まったくの別問題だ。
「―――
五つの『
何者をも寄せ付けず、全てから己を守り、そして外の全てを蹂躙する〝
「ユーリちゃん……」
けれどそれは、望んだ破壊ではない。
絶大な力で何かを壊すたびに、同じだけ大切なものをすり減らしていく行為。……また、新たに悲しみを生み出し続ける哀しい連鎖である。―――が、そんな感傷を介する間を一気に吹き飛ばす様にして、囚われの〝
「っ―――!」
空間を圧殺したように距離を詰めたユーリを、なのはの『フォートレス』が受け止める。フェイトとシグナムを呆気なく海へ沈めたのは、決してまぐれなどではない。
恐ろしいほどの圧に押され、なのはは飛行魔法を足に集中して踏ん張りを利かせるように
「ぅ……ぅぅ……ッ!!」
足首に鈍い痛みが走る。だが脚の痛みも、ギシギシと盾が上げる悲鳴を聞いても尚、なのははまっすぐ目を逸らさないまま、ユーリへこう言った。
「直ぐに、助けるから……ちょっとだけ、ゴメン───!!」
《Fire!》
レイジングハートの声と共に、『フォーミュラカノン』の先から桜色の砲撃が放たれ、ユーリを吹き飛ばした。
ユーリの力が強い様に、なのはが得た新たな力とて伊達ではない。凄まじい砲撃によって、なのはは一撃で『鎧装』の一部を破壊することに成功するが―――。
「―――!?」
砕けたはずの『鎧装』が再び形を成す。
それを見たレイジングハートは、なのはへこう告げる。
《
そのようだ、となのはも内心で納得する。どうやらユーリの『魄翼』とは異なり、『鎧装』の方はそこまで高い耐久力を持たないらしい。―――だが、逆に此方は砕けても即座に直る再生機構を有している。
形状変化の様を見たところ、アレは魔法による産物ではなく、『ヴァリアントシステム』の類だろうか。
だとすれば厄介だ。アミタやキリエ、そしてイリス同様に、ユーリの『
しかも、先程の砲撃によるユーリ本体へのダメージはほぼ皆無。そんな悪魔の腕を砕いた一撃を嘲笑うかのように、ユーリは再びなのはへ迫る。
その為、なのははユーリとの距離を測りながら空を翔け、必勝の一撃を放つチャンスを狙うのがベストだ。
しかし、それではイリスの方を疎かにすることになる。
如何にユーノの張った結界とはいえ、魔法を無効化するイリスを放置すれば宣言通りに離脱されてしまう可能性は否めない。
が、そんな彼女の危惧を察した様に念話が
《大丈夫ですなのはさん。イリスはわたしが追っています! 彼女を止めれば、その子も止まる筈ですので……ッ!》
《アミタさん……!》
声の主の方へ視線を向けると、青の光が緋色の光を追うのが見えた。
どうやらアミタは、単騎でイリスを止めるつもりのようだ。するとそこへ、さらにもう一人から念話が。
《アミタさん、まだ相手は隠し玉を持っているかもしれません。十分に警戒を……! いざとなれば僕が支援に回ります》
ユーノだった。警戒を促し、手が足りなければ呼んで欲しいと告げる。
その心遣いにアミタは感謝を述べる。しかし、この場でユーノの力を必要とするのは寧ろ、なのはの側だ。
《ありがとうございます。ですが、戦力的に言えば、ユーリの方が危険度は上―――その上、激しい火力のぶつかり合いとなれば、余波から皆さんを守る方が必要です。ユーノさんには、そちらの方を……!》
そう言われ、ユーノは浮かびかけていた心配を呑み込んで『分りました』と短く返答。なのはもまた、
《助かります……!》
と、応え、三人はそれぞれのすべきことを為すために動き出す。
ちょうどそれを察知したように、ユーリは距離を離そうとするなのはへの対抗手段として、広範囲攻撃を繰り出してきた。
「〝
瞬間。場を無数の閃光が埋め尽くす。
結晶化の余波を伴う攻撃を放たれ、局員たちの身に危険が迫るが、ユーノが皆に迫る危機を防ぐ。
しかし、彼一人で個々人をカバーし切るのは負担が大きい。そもそも彼が倒れた場合、この結界も崩壊する可能性があるのだ。
少しでも負担を減らす為、手助けは必要である。
「――シャマル!」
「ハイッ!」
はやてが名を呼ぶや、シャマルも待っていましたとばかりに障壁を展開する。
そんな彼女に続くように、他の高ランクの魔導師たちも自分が出来ることを為すために動き出した。
そうした局員たちを守るために張られた盾を見ながら、なのはは少し微笑む。
みんなが力を貸してくれている。ユーリを止めて、助けるための場を整えてくれている。
ならば自分もまた同じように、やるべきことを全力で成すまで―――!
「はぁぁ――ああああっ!!」
速度を増して、砲撃距離を合わせ、向き直るや一閃。砲撃により再びユーリを圧し留めるが、ダメージは少ない。余波が消えるやユーリは、また執拗になのはを狙う。
―――危険度の高い順から排除。
あのイリスの命令は本当にそのまま、ユーリの意思を縛り付けて動かしているようだ。
先ほどのような広範囲攻撃はともかく、こうして距離を保つ限りユーリはなのはを最優先に排除するために戦い続けるという事か。
それならば、と、なのははユーリを引き付ける為の策を巡らせていく―――
《
が、その時レイジングハートから声がかかる。
「良い方は?」
《
「悪い方っ!」
《
「じゃあ、三分以内に助けられるように頑張ろう」
《
愛機の言葉に「うんっ!」と強くうなずいて、なのはは更に速度を上げて空を翔ける。
ユーリを操るシステムも、なのは相手に近接のみでは無駄と判断し、『鎧装』から砲撃を撃ち放つ。
撃たれ、なのはも負けじと撃ち返す。
そうして、激しさを増していく砲撃の激突と爆風の最中―――局員たちの防御に回っていたフェイトは、キリエの姿が消えていることに気づく。
「っ……、キリエさん……!?」
辺りを見渡しても確認できない。
どこに行ったのか、と思考を巡らせようとしたフェイトだったが……その思考を断ち切るようにして、また新たな轟音が二つ場に響いた。
***
時は僅かに戻り、なのはとユーリの激突地点のはるか後方にて――イリスとアミタが、剣撃の火花を散らしていた。
「イリス、貴方の目的は何ですか……っ!?」
「ハッ―――それを訊いてどうするのッ?」
問い質す様に切り結びながら、そう叫ぶアミタ。しかし、イリスはまるで動じることもなく淡々と言い返した。
弾かれる刃と同様に、イリスはアミタを突き放そうとする。
だが、それでもアミタはイリスへ食い下がるようにして剣閃を重ねていき―――二人は、まったく同じタイミングで
交錯する視線と、互いを捉えた銃口。
二つの線が交わる中であるが、どちらも引き金を引こうとしない。
相討ちを狙っているわけではないイリスはもちろん、アミタとて足止めを買って出たとはいえ、イリスから
故にこそ、この沈黙にも似た間が生まれた。
「…………」
このままでは埒が明かない、と判断したイリスは口を開いた。ただし、それはアミタの問いかけに応えるためのモノではない。
「家族を裏切って、この世界に厄災をもたらし、残された時間を無駄にした妹。
滅びていくだけの星を救えず、何も果たせないまま死んでいく父親と、夫と同じ病でこの世を去ってく母親……」
「…………ぇ?」
「っ―――!」
そう――。それは、のこのこ近づいて来た得物を狩るための罠。
キリエが近づいて来たことを察知し、イリスは言葉に含ませた毒で姉妹をそれぞれ静かに
「ああ。キリエは知らないんだっけ?
「…………」
姉の援護に回ろうとしていたキリエの身体が、まるで凍り付いたように制止する。
……母親の病気。
考えが回らなかったわけではなかったが、父であるグランツの容態が悪化する姿ばかりに目が行き、都合よく忘れてしまっていた思考だった。
父の助手のような形で研究を手伝っていた母が、『死蝕』の影響を受けていない等という事はありえない。
進行が遅いだけで、病魔は既に、自分たち姉妹を除いた家族全てを蝕んでいた。
当然と言えば、当然の事実。
ただそれだけのことの筈なのに、酷くその事実はキリエの心を揺らす。新しい恐怖が、じわりじわりと染み渡っていく。
しかし、それ以上に―――
「―――あなたはいったい何者ですか?」
アミタは、イリスの言葉が解せない。キリエも知らないことを知っていることもそうだが、何故イリスがそんなことまで知っているのか。
キリエを利用するために用意していた材料の内の一つなのかもしれない。……だが、イリスの態度はこれまでの突きつける様なそれと、どこか違う。まるで初めから分かっていたことを告げているような、そんな違和感。
だからこそ、アミタは問うた。―――何者なのか、と。
対してイリスは、
「わたしは〝イリス〟よ。あなたと同じ
そう返答し、
「な―――ッ」
瞬間、足元から『機動外殻』が出現した。これまで確認されていた者とは別の、イリス自身が使うために造られた機体。
(―――四機目の、機動外殻……っ!?)
赤い燐光を放つ機体から飛び退いたアミタ。イリスも同様に退いたが、それはイリスが待っていたチャンスそのものだ。
「――――――」
静かに、けれど一切の惑いなく。
イリスの構えた銃口は、真っ直ぐにアミタを捉えていた。
「ッ……!?」
イリスは、銃爪に懸けられた指を軽く引いた。
「―――お姉ちゃんッ!!」
悲鳴のようなキリエの声が聞こえた時にはもう、アミタは自分の身体を抜けていく
「ぁ……」
「お姉ちゃん……おねえちゃん……!」
吹き飛ばされたアミタを急ぎ受け止め、声を掛けるキリエ。だが、完全に隙を突かれた一撃は、予想以上に重かった。
弛緩していく姉の身体。キリエは急ぎ地上にアミタを下ろそうとしたが、そんな逃亡は許さないとばかりに、機動外殻が姉妹揃って海へと彼女らを沈めた。
「誰にも邪魔はさせない……」
邪魔者を排除したイリスは、彼女らの沈んだ水面を見下ろし、ぽつりと呟いた。
そうして視線を外すと、再びイリスは戦線を離脱いていった。……けれどそれは、単なる撤退行為ではなく―――
***
―――アミタとキリエがイリスに敗北を喫した頃。
なのはとユーリの戦いもまた、苛烈かつ佳境を極めていた。
ディアーチェ、シュテル、レヴィの三人もまた、状況の目まぐるしい変化と、抱えた記憶の不完全性から静観を余儀なくされていた。
「凄まじい力ですね……」
「……ああ」
シュテルの弁にディアーチェも同意する。
確かに凄まじい力だ。魔導師という存在に対し、ほぼ無敵に等しいポテンシャルを持ちながら、その上でなお通常の基本性能が群を抜いて高いという無茶苦茶な存在。それが、あのユーリという少女だ。
……しかし、そんな力を振るっているにも関らず、ユーリは。
「でも、あの子―――泣いてるよ……?」
そう、ユーリは泣いていた。
何に対する涙なのか。自分たちの記憶さえ朧だというのに、他者の涙の理由など、見当がつく筈も無い。……ない、ハズなのに。
どうしてか、彼女の涙に三人の心は酷く揺れていた。
痛ましい姿に対する憐みでもなく、単なる同情でもない。それはもっと、どこか深い所からくる何か。
単なる〝魂〟に過ぎなかった少女たちが、その命に刻みこまれていた何か……。
「…………くっ」
知らず、ディアーチェは歯噛みしていた。シュテルやレヴィも、似たようなもので、何に対する悔しさなのかさえも判らぬまま、三人はその感覚に苛まれ続ける。
そうしてこの戦いが、この苦しみが終わって欲しいと、無意識のうちに願いながら―――三色の瞳が、夜空を翔ける桜色と金色の光を追っていた。
ユーリの力によって作り出された島の上空を飛びながら、なのはとユーリは激しく火花を散らしている。
―――レヴィの弁の通り、ユーリは泣いていた。
操り人形の様にされながらも、その悲しみだけは縛り切れずにあふれ出した様に……光を失った金色の瞳からは、絶え間なく滴が零れていく。
なのははそれを見て、なおのこと助けなければならないと気を引き締め直す。
だが、
《
残り時間は、無慈悲に過ぎていく。
「っ……」
周囲への余波も増え、活動限界までの間が迫るごとに、なのはが少しずつ圧され始めていた。いくら皆が守ってくれていても、ユーリの強さは桁が違う。
しかし、それでも引かずにユーリと撃ち合う。短い溜めでも込められるだけの魔力をカノンに注ぎ込み、ユーリへ向けて撃ち放った砲撃は、やっとユーリの動きを止められるだけの威力を伴った。
とはいえ、躱しながらの溜めではこの程度が限界だ。
しかも加えて、稼働限界が迫るごとに、まだ完全ではない『フォーミュラ』と『魔法』の乖離が始まっている。
(フルチャージの一発は、撃ててあと二発……っ!)
《
それなのに、時間はもう僅か。
そして、自分の限界が迫っているという事は、このエリアを囲んでいるユーノの限界も迫っているという事。
なのはよりは魔導運用に優れたユーノであるが、それでもこんな大規模な結界を維持したまま皆をずっと守り続けるのは不可能だ。
万が一それが消えてしまえば、他の局員たちが再び結晶化に晒されるばかりか、イリスの逃走を許してしまいかねない。
そして、それはなのはも同じこと。
このまま倒れてしまえば、決定打を与えられる魔導師はもういない。だからほんの少し、たったの一〇秒でも構わない。
砲撃を打ち込めるだけの隙を作れるのなら。
(ちょっとで良い。隙を作れれば―――ッ!?)
が、焦りが先行し先に隙を生んでしまったのは、なのはだった。
気づけば、自分のことを覆う『鎧装』の手につかまれかけていた。加速を掛けるが、迫る手はもうなのはをその手中に収め握り潰さんと閉じていく。
せめて防御を、と『フォートレス』を向けるが、二枚の盾だけでは握り潰しを防ぐことは出来ない。
だが、その時―――何かに横から掬い上げられる。
「っ!? ……ぇ」
驚きはしたが、何が起きたのか、などと確認するまでもなかった。
自分を抱え上げたのが誰かなど、ユーリの『鎧装』を押さえつけた
「ユーノくん……!」
嬉しそうな顔を浮かべるなのはだが、まだ戦いの渦中であることに変わりはない。
「ごめん、飛び出してきた説明をしてるヒマはなさそう……」
お互いに、と、ユーノは暗に『フォーミュラ』の残り時間がないことを告げる。それを受けて、なのはも気を引き締めなおす。
「とにかく僕がサポートする。だからなのは、ユーリを助ける為の一撃を撃って! 多分、ウィルスコードは思考矯正のための外付けの術式だ。砲撃による飽和魔力で外部干渉の一切を取り払えば―――」
「ユーリちゃんを、助けられる……!」
「そう。だから、行くよ―――なのは」
「うん、ユーノくん!」
と、二人が示し合わせたところへ、ヴィータとフェイトの姿が。
「おい、そこ二人! アタシらを忘れんなっ!」
「ヴィータちゃん……! それに、フェイトちゃんも」
「応、でも挨拶してるヒマはねぇ―――ボーっとしてんな、連携行くぞッ!!」
「分かった!」
ヴィータの一声の後、畳み掛けるようにフェイトがバルディッシュを振るう。
「ハァ―――アアアアアアッ!!」
フェイトの振り払った黄金の大剣から、黄金の雷が降り注ぐ。
ユーノから喰らった拘束魔法を弾き飛ばした直後であったことに加え、残った魔力をすべて注ぎ込んだその攻撃に、さしものユーリも全てを封殺することは出来ず『魄翼』による防御を取らざるをえなかった。
そのまま勢いに圧され、ユーリが〝島〟の中に押し込まれたままになる。
その行動が鈍った隙に畳み掛ける如く、はやても攻撃を放つ。
「―――〝クラウ・ソラス〟!」
上空より降り注ぐ、白色の直射砲撃。広域型らしいはやての弩級の攻撃でユーリは〝島〟へ叩き付けられる。
そこへ、シグナムが三連のファルケン。
「はぁぁああああああッッ!!」
〝島〟に突き刺さる三対の矢。追撃を受けたが、しかしユーリも負けじと撃ち返す。
『鎧装』を変形させ、花びらのように開いた射出口から砲撃を放つ。広範囲に注ぐ、放射線を描いて局員たちへ放たれる攻撃だった。
放射状に飛び散る攻撃を意地でもせき止めてやると、ユーノとヴィータが盾で防御。そちらに気を取られ、ユーリの動きは止まっている。まだ起き上がれてもいない。
―――その生まれた隙を狙い撃つように、なのはが集束砲撃を撃ち放つ。
「エクシードォ……ッ!」
なのはの声。そして、彼女の基に集う星の光。それらに気づき、ユーリは一拍を置いて自分を狙う脅威を認識する。
だが、それではもう遅い。
「…………ッ!?」
桜色の太陽のように集束した魔力の塊が今、ユーリへと向けて放たれた。
「ブレイカーァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ───ッッッ‼︎‼︎‼︎」
凄まじい光の奔流が〝島〟に注ぐ。〝島〟の殆どが、なのはの砲撃によって呑み込まれ、崩壊していった。
そうして全ての魔力を撃ち切ったなのはへ、レイジングハートが超過した時間を告げる。
《
ほんの少しのオーバー。だが、無茶をした代償は大きく、なのはのBJは黒く燃え尽きた灰のようになってしまっている。
けれど、荒れた息を整えながらも、なのははユーリの様子を確認しようと視線を向けた。
「はぁ……はぁ――ユーリちゃん、は……?」
煙が次第に晴れていく。次第に水面が見えていき、その中にユーリの姿が見てくる。気を失っているようで動かない。どうやらユーノの見解は当たったらしく、先程イリスに操られていた呪縛は消えているようだった。
が、一同は驚愕に目を見開く。それはユーリを止められたことにでも、ユーリの命を危険に晒してしまったからでもない。
どころか、ユーリは守られてさえいた。
彼女を守っていたものに、彼らは驚きを隠せなかったのだ。
「な……あれは……!」
「……〝夜天の書〟の、ページ……?」
そう。『夜天の書』の
球状に形成された障壁の中に、ユーリがぐったりと仰向けになって浮いている。
いったい、目の前の光景はどういうことなのか。
何故、ユーリを『夜天の書』が守っているのだろう。理由が分からずに呆然となった一同であったが、そんな中で。
「―――行くぞ」
「はい」
「え……あ、うんっ!」
ディアーチェたちがユーリへと近づいていく。何かを感じ取った三人に続くように、魔導師たちもユーリの元へと向かう。
再会を染めた血
ユーリの周囲へと集まった魔導師たち。魔力ダメージによって気絶しているユーリに、はやてが心配そうに声を掛ける。
「ユーリ……」
が、反応がない。その様子を見ていたユーノが、ユーリの傍によって治療を施そうとしたのだが。
「おい、ユーリ!」
ディアーチェの声に、ユーリの瞼が微かに動く。ほんの少し身動ぎすると、ユーリが目を覚ました。
「ユーリ、大丈夫……?」
改めてそうはやてが声を掛けると、ユーリは彼女へ視線を向ける。
その背後にいる三人の少女を見るや、驚愕を隠せないといった表情で起き上がった。愛おしさと切なさ。そんな苦おしいほどの郷愁さえも感じさせる声で、ユーリは三人を涙交じりに見つめた。
「っ……!? ま、まさか―――ディアーチェ? ディアーチェですか……? シュテル……レヴィ……! それに、あなたは……っ!!」
三人の前に立っていたはやての方を向くユーリ。初対面の筈だが、何故かユーリはまっすぐにはやてを見ていた。
突然呼ばれ、はやては少し驚きつつも、とにかく名前を名乗った。
「え、あ……『夜天の書』の主、八神はやてです」
それを聞いて、ユーリは自分の目の前にいるはやてがそうであると知るや、
「はやて……お願いがあります……っ! どうか、ディアーチェたちを……それに、あの子……イリス……」
ユーリは、必死で彼女に何かを渡そうとする。
はやてに差し出されたのは、先程ユーリを守っていた『夜天の書』の紙片だった。何故それを渡そうとするのか、まるで見当もつかない。しかし、傷だらけの彼女があまりにも必死に渡そうとしたため、はやては呆気にとられつつもそれを受け取ろうとした。
その傍らで、ユーノはボロボロであまりにも必死に、焦った様子であるユーリを落ち着かせようとする。
「ユーリ。落ち着いて、大丈夫。ウィルスコードは消えてるから……あとは
「ですが、わたしは……わたしは……っ」
更に何かを伝えようと、ユーノとはやてに食い下がろうとしたユーリ。そのあまりの必死さに、先に訊いておかなければならないと思ったユーノだったが。
それを―――。
「―――喋らないの。ウソはもう聞きたくない」
舞い降りた〝悪魔〟が、背後から遮る。
「…………ぇ……?」
何かが自分の中を掻き回している。ユーノが感じたのは、そんな感触。痛みでも何でもない異物感。何が起こったのか、理解することが出来なかった。
が、
「が――ハ……ごふ……っ」
目の前から自分の身体に掛かった鮮血。
それが、目の前にいたユーリが吐き出したものだと気づいた瞬間。ユーノもまた、喉の奥から命の色を吐き出した。次いで何かが抜ける感触と共に、燃えるような痛みが腹部を襲い、脳の神経を焼き切っていく。
そのまま体が一気に力を失い、崩れ落ちる。
「ユーノくん……っ!」
だがその寸前、傍らのはやてが彼の身体を支え、ユーノは海に落ちるのだけは免れた。
そこまでは認識することが出来た。けれど、その先の声は段々と遠く薄くなり、思考が流れていく。
「……これで、やっと邪魔が消えた」
「貴様……っ!!」
淡々としたイリスの声と、激高するディアーチェの声が聞こえた。どうやら、イリスは偶然ではなく、初めからこのタイミングを狙っていたのだろうか……ぼんやりと、そんな思考だけがユーノの脳内を流れ続ける。
そうして、思考とは裏腹に水面を赤く染めていく中。
イリスは涼しい顔で淡々と、
「少し予定が狂った。立て直さなきゃ」
そう言って、一冊の本を取り出した。その手にあったものは―――。
「―――〝夜天の書〟……!?」
そう、イリスがはやてから、キリエを使って奪った魔導書そのものだった。
「便利な本よねぇ。用済みになるまで使ってあげる」
妖しく嗤いながらそう告げると、イリスはユーリを連れ離脱していく。
先ほどユーリを守ったのとは逆に、旋風に巻かれた木の葉のように
その姿に、
「ユーリ……ユーリ……ッ!!」
ディアーチェは訳も分からないまま、ユーリの名を呼んだ。また、何かを手放してしまったような感慨を感じながら。
舞い散るページに気圧されて、一同は彼女たちの逃走を許してしまう。
呆然と空を見やる一同。
そんな中、はやての手に破片が降ってきた。それは、先程ユーリが必死で渡そうとしていたページだった。
「これ、は……?」
段々と熱を失っていくユーノを支えながら、はやては訳も分からないまま残されたものを前に呆然と夜風に晒されていた。
戦いの嵐は一度止み、幾つもの傷を残して更に続いていく―――
やっと始めることが出来ました……!
本編沿いのDetonationでございます。
映画の迫力を少しでも出せるように頑張っていきたいと思うので、今後ともよろしくお願い致します^^