~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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 ―――それは、かつての夢の痕。
 残された紙片(きおく)は……希望と出会い、絆が生まれ、そして絶望へと消えていった場所(ほし)の記憶であった。



第二十章 希望と絶望、悲しみと憎しみの果て

 惑星再生委員会

 

 

 

 〝―――資源の枯渇と、土壌の砂漠化。

 生命(いのち)が暮らす場所としては、既に死にかけている星……。それが、わたしたちの故郷、『エルトリア』―――〟

 

 そこは、荒れ果てた大地。

 枯れた砂埃の織り成す、命無き土色の世界。……だが、確かにそこは、彼ら彼女らの故郷だった。

 だからこそ、

 

 〝―――殆どの人間が、この死にかけた星を見捨てて、新しい大地へと旅立っていく中……。この星に残って、星の再生を目指している人たちがいます―――〟

 

 その夢はごくごく当たり前の、とても小さく、そして尊き願いから始まった。

 

 

 

「―――それが我ら、『惑星再生委員会』……!」

 

 

 

 幼い少女の声が、『惑星再生委員会』の活動について語っていく。

「大地を荒廃させる汚染――〝死蝕〟の繁殖原因を調査したり、地下にある水を汲み上げる土木工事をしたり……その他にも、過酷な環境でも生きていける生物や家畜の研究をしたりしています」

 何故、死にかけた星をそこまで救おうとするのか。

 その意味とは、なんであるのか。……それは本当に、ささやかな祈りから始まったものだった。

「願いはひとつ。この星を、また人の住める場所にすること―――」

 そこで、それまでとは異なり―――記録(えいぞう)の枠が、カメラのフレームじみたものに切り替わる。画面には、一人の少女の姿が映された。一〇歳から十二、三歳といった見た目の、薄紅色の髪をした少女。

 

「ちなみに、わたしも委員会の制作物の一つ。惑星再生を目的とした、生態型・テラフォーミングユニット。

 型式、《IR-S07》―――愛称(マスコットネーム)は〝イリス〟」

 

 ……そう、これは。

 ユーリの残した紙片に収められていたのは、かつて、イリスが『エルトリア』で暮らしていた頃の記憶そのものだった。

 

「この星にもう一度、命と緑をよみがえらせるために―――いつもみんな一緒に頑張っていますっ!」

 

 

 

 

 ***

 

 

「―――はい、オッケー!」

 

「ふぁ~……」

 撮影終了の合図に、イリスは気の抜けたような声を漏らす。

 そして、少しだけ戸惑った様子で撮影を見ていた白衣の男性と女性へこう訊ねた。

「こんな感じでいいのかなぁ……?」

 するとそれに対し、白衣の男性―――『惑星再生委員会』、フィル・マクスウェル所長は、娘の仕事に大変満足げにこう返す。

「もちろん。これで宣伝もばっちりさ!」

 ちょうど今日は、『惑星再生委員会』の宣伝用PVの撮影日。これは、〝星の再生〟の意義を少しでも多くの人々―――とくに、エルトリア政府の上役たち―――へと伝えられるように催された企画だ。……しかし、政府はエルトリアの復興についてあまり乗り気ではなく、これでもどれだけの効果があるか分からない。

「……これで追加の予算、出るかな……?」

 見通しがつかない現状に、イリスはどこか不安そうだ。

 そんな〝娘〟の不安を宥めるように、所長は優しく「出してもらうさ、必ずね……」といった。

 努力し続けることも、こうした研究が無駄でないと信じている。

 だからこそ、彼らは日夜『エルトリア』という、愛すべき故郷の明日を描いているのだから―――

 

 

 

 ―――その後も、PVの撮影は続いていき、イリスは汚染地域の撮影に出向いていた。

 

「えーと、ここは特に汚染が酷いですね……。汚染濃度レベル(ナイン)、微生物も死滅するほどの死地帯(デスゾーン)です。

 ―――アンディ、ジェシカ、聞こえてる?」

『大丈夫よイリス』

『ああ、ちゃんと聞こえてるよ』

「オッケー」

 解説をカメラに吹き込みながら、イリスは撮影の様子を並行して観ている二人と時々交信を行いながら、先へと進んでいく。

 正直、こうした被害そのものを見せるのはあまり宣伝としては好ましくはないが……『汚染を緩和する措置をとれる』と証明するには、こういった映像も必要なのだ。

 尤も、先ほどの解説の通り―――ここは生半可な場所ではない。ただの人間なら、防護服を着ていないだけで病に侵される。また、その防護服といえど万能ではない。

 そのため、イリスが撮影係を引き受けた、というわけだ。生態型であるので、イリスとしてもあまり長々といるのは好ましくないが……通常の人間よりは汚染の影響を受けにくい分、万一の場合でも被害は少ない。

 とはいえ、こんな場所に危害を加える存在がいるわけもないのだが。

 

 ほどなくして、奥の突き当りに扉が見えた。汚染地域に扉というのも変な話だが、ここはもともと人が住んでいたが、放棄された場所―――いうなれば遺跡のようなものだ。

 単に放棄された理由が、時代の経過で人が消えたか、星からの拒絶で人が去ったかの違いというだけで。

 『エルトリア』の各地にはこうした場所が無数にあり、残っていたはずの記録さえも破棄されているケースが多い。せっかくなので、イリスはここを奥の隅々まで調査してみることにした。

 しかしそんなことも、彼女にとっては日常茶飯事。

 よくある日常の一コマに過ぎない単調作業くらいのもののはずだった。―――そう、この時までは。

「そぉーっと……、―――ぇ?」

 扉を少し開き、隙間から中を覗いたイリスが固まったように動かなくなる。

『? どうしたんだい、イリス』

 何か異常でもあったのか、とアンディは声をかける。すると、イリスはカメラを扉の隙間に向けながらこう言った。

「……ヒトが居る、子供だよ……」

『えっ……?』

 返答に驚き、アンディとジェシカはこぞって映像を確認する。

 在りえるはずがない、と思いながら。……けれどそこには、間違いなく〝人〟がいた。しかもイリスの言っていた通り、まだ幼い子供が。

『そんな馬鹿な……』

 目の前の現実が受け入れられず、ジェシカは茫然と映像を見返し続ける。だが、何度確認しても結果は同じ。

 間違いなくそこには、小さな子供がいた。それも生身の、防護服すらつけない格好のまま、紫色の光を放つ球体に収まったような形で()()()()()

 死んでいるわけではなく、本当にただ眠っているだけ。どう考えても、普通の人間にできることではない。

『イリス、近づいちゃダメだ。そのまま、撮影だけ―――』

 アンディは対象を危険と判断し、イリスに様子見をするように指示を出す。が、どうやらイリスはあの子供のことが気になったらしく「だいじょうぶだよ」と短く返して、その子へと近づいていった。

 

 本当に小さな子が、紫の球形のバリアに包まれたまま、部屋の台座の上で膝を抱えるような恰好で眠っている。背には五枚の鋼で出来た翼が畳まれており、それらに包まれ眠るさまは、どこか卵の中に居る雛を思わせた。

 仲間たちは未だに気を揉んでいるようだが、イリスはそれほど目の前の子が危険だとは感じられなかった。―――否。どちらかというのならば、むしろイリスはその子のことを、とても綺麗だなと感じてさえいた。

 本当に金を溶かしこんだような金髪や、華奢な体躯が見せる無垢さ。

 強いて言うのならば、そう……ちょうどその姿が、〝天使〟みたいだな、とイリスは思った。

 

 そうしてイリスはその子の傍まで歩み寄っていく。

 すると、その子も近づいてきたイリスに気づいたらしく、目を覚ました。開かれた瞳も髪と同じ、夜空の星をそのまま埋め込んだような美しい金色をしている。

 それを見て、どうやら意識はあるようだと確認したイリスは、さっそくその子に声をかけた。

「ねぇ、大丈夫……?」

 しかし、その問いかけに対する応えは。

此処は(Wo ist hier)……あなたは(Wer bist du)?』

「―――え?」

 イリスの知らない、まったくもって未知の言語で返ってきた。

 一度、聞こえてきた言葉を反芻してみるが、やはりイリスの学習記憶には存在しないものだという結論に落ち着く。

「えっと……何語だろ……」

「……?」

 少しだけ困ったように呟くイリスへ、その子はどこか不思議そうな目を向けている。

 とりあえず言葉が通じていない。その為イリスは、一先ず意志を伝えるためにヘルメットを取って表情を直に見せることにした。

「大丈夫? あなたは、どこから来たの?」

 身振り手振りから、その子にもイリスの意図は何となく伝わったようらしい。向けられたどこから来たのか? という質問に対し、その子も仕草で応答を行う。

 そうして、指で示されたのはというと。

「……ん」

「え、……穴?」

 今まで目の前の子に気を取られ、気づかなかったが……天井部分にやたらと大きな穴が空いている。

 ちょうど何か、球形の物体が飛来した様な穴。その大きさは、ちょうど少女が先程まで包まれていたバリアらしきものの直径と同じくらいで―――

 

「―――もしかして、落ちてきたの?」

 

 空から、とイリスが言葉にならない驚きに呑まれている間に、その子は立ち上がりると、手に持った『本』を開く。

 そして、右側の項目を軽く指でなぞると―――

「だい……じょう、ぶ……です。こんにちは……挨拶は、これで合ってますか……?」

 先程聞こえてきた言葉(もの)ではなく、イリスたちと全く同じ言葉で、挨拶を返してきた。

「……合っ、てる……」

 かろうじてそう返すも、二の句が告げない。あまりの事態に、イリスは言葉を失いかけていた。

 ただ、それでも。

 事態はまるで解らなかったけれども、一つだけ気になったことがあったので、どうにか言葉にして訊いてみる。

「……えっと、君はアレかな? ひょっとして、天使様か何かなのかな―――?」

「??? てん、し……?」

 思わず訊いてしまったそれに、その子は首をかしげるだけだ。そんな無垢な様子に、イリスは流石にメルヘンすぎたかな、と少しだけこみ上げてきた笑いをこぼし、一緒に外へ出ようと促した。

「まあ、お互いに分かんないことだらけだけど……まずは外に出ようか? ここは危ないから」

「……はい」

 イリスの提案に、その子はただ、こくんと頷き返す。先ほど見せられた不思議な力に比べると、なんだかとてもちぐはぐに見える。

 だからというわけでもないが、イリスはこの不思議な子に対して、とても興味が湧いてきた。

 いったい誰なのか、何故あそこにいたのか。

 疑問は尽きないが、ひとまず二人はそろって外へ続く道を歩いていく。

 

 

 

 ―――そして、これが最初の出会い。

 遠い世界の果て巡り合った、二人の少女を取り巻く物語の、始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 喪失(ぜつぼう)への刹那(みち)

 

 

 遺跡の外へ出たイリスと、謎の少女。

 まだ自己紹介もすんでいないこともあって、ひとまずはお互いの事を知ることから始めることに。ただその前に、

「流石にこんな格好じゃなんだし、着替えちゃおっか?」

「?」

 イリスはそう提案した。別段その子の格好がおかしいわけではないが、いくら似合っていても半ば裸同然の装束では何となく気になる。そんなわけで、イリスはその子の分も服を用意して着替えさせた。

 同年代くらいの子供と接する機会が少ないこともあり、ついつい興がのって髪型も少しいじくってみる。自分がサイドテールにしているので、ポニーテールに結ってみた。ふんわりとした(ウェーブ)を描く髪が、シンプル故にとても栄えている。

 ―――と、そうこうあった後。二人は外にテーブルとイスを用意し、そこに座って向かい合う。テーブルの上には小さなモニターが置かれていて、そこには研究会を代表して所長が二人の間に第三者として立ち会う形になっている。

 そうして、イリスと遠くから来たお客様との、自己紹介も兼ねたインタビューが始まった。

 

 

「それでは、インタビューを始めます。

 まずは、遅くなったけどはじめまして。わたしはイリス。〝惑星再生委員会〟っていうところで生み出された〝テラフォーミングユニット〟……っていっても、よくわかんないよね? まあ、普通の人とちょっと違うかなぁーくらいに思って貰えれば」

 最初にそうイリスが切り出すと、少女はこくんと素直に頷く。だが、その表情には戸惑った様子はない。どうやら、こういった類の話には適応性のある質のようだ。

 呑み込みが早いのはイリスとしても話が進めやすくて助かる。

「あなたのお名前は?」

「ユーリ・エーベルヴァインです」

「良い名前だね~。じゃあ、ユーリって呼んでも?」

「はい」

「じゃあ、ユーリ。―――ユーリはどこから来たの?」

「出身は〝ベルカ〟……ここへ来る前は、〝オルセン〟に居ました」

 流れに乗ってきたイリスがそう訊ねると、ユーリは自分の事を一つ一つ語ってくれた。しかし、彼女から出てくる名称はどれもイリスには馴染みがないものばかり。

「それはどの辺?」

「この星ではないんです。ずっと遠くの世界……」

「ふぅん……」

 どうやら、本当にユーリは遠い世界から来た存在らしい。星の海への移住が進む『エルトリア』では、人工居住衛星(コロニー)などの技術も進んでいるが、別の惑星を開拓する技術もとても進んでいる。その為、エルトリア周辺にある惑星体系の更に先まで調査は及んでいるのだが、ユーリの口にした『ベルカ』や『オルセン』という名は一度も聴いたことが無かった。

 単身で聞き及ぶことも出来ないほどの世界からの移動。不可能ではないが、かなり希有な事例であることに変わりは無い。とりわけ、ユーリの見た目はギリギリ十歳に見えるかといったところだ。

 いったい何者なのか、イリスはますますこの不思議な少女の事が気になってくる。

「―――あ、そういえば……」

 不思議だったというなら、ユーリの持っている『あの本』もそうだ。

 こうしてイリスとユーリが言葉を交わすことができているのも、どうにも『あの本』の何かが働いたからで―――

「その本って……?」

 イリスが訊くと、ユーリは抱えていた本をよく見せるように持ち上げながら、本の名前を口にする。

「〝夜天の魔導書〟です」

 ユーリが名を呼ぶと、『魔導書』が浮き上がってイリスの周りを踊るように回った。本らしくない動きに驚いた様子のイリスをみるや、ユーリはちょっとだけ慌てたように付け加える。

「ちょっと危険なところもありますが、とっても良い子なんですよ?」

 良い子、というのはまるで……その本が生きているかのような言い方である。しかし、先ほどの挙動を見るに―――あれは〝ただ動いた〟のではなく、何らかの意思で本そのものの挙動が現れたということなのかもしれない。

 だが、まだ『夜天の書』なる本の詳細は分かっていない。そこでイリスはユーリに、それがどういう代物なのかを訊ねてみる。

 するとユーリは、問いかけに対しこう応えた。

「〝夜天の書〟は、主と共に旅をする魔導書……。そして、選ばれた主に様々な力を与えてくれる品でもあります。

 ですが、大きな力を持つ分、同時に少しだけ力が不安定になってしまうこともあって……わたしは、この子が主にそうした危険を及ぼさないように説明したり、安全に管理する為に生み出されました」

 話を聞く限りでは、ユーリが生まれてきたのは『魔導書』の管理をするためらしい。それを聞き、イリスはなんとなく親近感を覚えた。何かの為に生み出されたというのが、自分と似ているな、と。

 が、こうなってくると余計に『夜天の書』が何をするための物かが気になってくる。ユーリはどんなものかは説明してくれたが、具体的に何が出来るかなどについてはまだ語っていない。なので次はそれについて質問しようと思ったのだが、

『ユーリ、その〝マドウショ〟というのは何が出来るのかな? 具体的には』

 彼女がその質問を投げるより先に、二人の様子を委員会本部の方で見ていたマクスウェル所長が訊いてきた。

 それに対し、ユーリは「主が使えば、いろいろな事が出来ます」と前置きした上で、出来ない事を順に挙げていく。

「出来ないのは、『失われた命を取り戻す』事と『時間に干渉する』事―――ですが、それ以外なら、割と何でも……」

「凄いね、願いの叶う魔法の指輪だ!」

 ユーリの弁に、イリスは思わず声を上げてしまう。しかし、無理もない。ユーリの話をそのまま聞いただけでは、まるっきり御伽話の『魔法』そのものだ。

 だが、簡単に何でも出来る物があるならば元から苦労はない。しかも当の本人は、「ゆびわ……?」とイリスの言っているたとえが分からず首をかしげている。

 大げさな事を言っている様子は皆無。これだけで『大抵の事は何でも』というのを信じる方が難しい。

 ―――けれど、

 

「所長」

「何かな?」

「いえ、あの本を軽く解析してみたんですが……とりあえず、見て下さい」

「―――これは」

「ええ。凄まじいエネルギー反応ですよ。

 あんな小さな本の中に……しかも、それこそ天文学的なレベルなまでの凄まじい力が納められている様です」

「ふむ……」

 管制室では、目の前にある結果に愕然としていた。研究者たちが『夜天の書』を外部スキャンしたところ、そこに込められたエネルギーは、とてもではないが通常では有り得ない数値であった。

 確かに、そこに力がある。故に半信半疑ながら、所長はユーリへ試しに訊いてみることにした。

「ユーリ、君自身もその〝マドウショ〟の力を使えるのかい?」

 そして、その問いかけん対しユーリは―――またしても彼らの予想を超える返答を返してきた。

 

「ほんの少しでしたら。あとは、わたし自身も『魔法』をそれなりに……」

「―――魔法⁉ ユーリは魔法使えるの⁉」

 ユーリからの返答に、思わずイリスはイスからばっ! と立ち上がる。そのまま勢い余ってユーリに向かってつんのめる様な体勢になってしまったが、そんなことさえどうでも良くなるほどに、ユーリの言葉は衝撃的だった。

 何せ『魔法』だ。

 これで驚かない方が、胸躍らせない方がどうかしている。とりわけ、先ほどそれらしきものを見せられていたのなら猶更に。しかし、興奮まかせのままイリスが迫ってきたので、ユーリは少々面食らっている。

「え、ぁ……はい」

「うわぁ~ッ! 魔法見てみたい……! ねぇユーリ、見せて見せて‼」

 かろうじて応えられたのは、ちょっと詰まった返事だけだったのだが……イリスの方は肯定の返事だったということ以外はどうでも良かったらしく、俄然きらきらと目を輝かせてユーリに魔法を見せてと頼み込んでくる。

「ぇ―――あの、えっと……」

「お願いっ! あたしの〝フォーミュラ〟も見せてあげるから、ねっ? ねっ⁉」

「は、はい……」

 熱に押されて了承すると、イリスは益々嬉しそうな顔で椅子から降りてユーリの側に回り込む。

 そうしてさっさと手を引くと、ユーリを少し広い場所まで引っ張っていく。

「やったーっ! じゃあユーリ、ほらこっちこっち!」

「あの……ぇ、ええ……⁉」

 驚きながら、流されるままユーリはイリスに手を引かれていた。こうして唐突にはじまった『フォーミュラ』と『魔法』のお披露目だったが、戸惑いこそあれ、ユーリは不快だとは微塵も感じていなかった。

 彼女がその時に感じていたのは、久方ぶりに握られた手から伝わってくるぬくもりと、いっさいの負の色を感じさせないあたたかで純粋な心。……とてもとても昔に置いてきてしまったと思っていた、眩しいもの。

 

 そうして再び―――

 破滅の連鎖に囚われていた〝天使〟は、この小さな出会いから、自分がそれを感じられるのだということを思い出していた。

 

 

 ***

 

 

 テーブルから少し離れた場所に立ち、先程持っていたカメラをユーリに渡したイリスは、さっそく『フォーミュラ』の実演を開始する。

「あたしの〝フォーミュラ〟は、血液中の〝ナノマシン〟から発生するエネルギーを通して、物質に含まれる『エレメント』に干渉する力」

 まずは、簡単な術式の説明。

 『フォーミュラ』の持つ基本理念は、体内を循環する『ナノマシン』から起こるエネルギーを外側に干渉させるもの。つまり、自分の中に何かを取り込んで発動するのではなく、中にある物から外側にある物を操るとうイメージだ。

 そうした補足を加えながら、イリスは〝エレメント〟を指先に集め光弾を生成し、足下にある石へ向けて発射する。光弾がぶつかった瞬間、顔と同じくらいの大きさがあった石は簡単に砕けた。

 それを見て、ユーリはぼんやりと『魔法』と『フォーミュラ』の違いを頭の中で軽く照らし合わせてみる。

 〝エレメント〟―――ようするにエネルギーを操ると言う点において、魔法とフォーミュラはとてもよく似ている。ただし、干渉する手順が異なるのだ。

『魔法』によって造られる事象は、魔力素を体内の『リンカーコア』に取り込んで放出し、形を作るというプロセスを辿っている。逆に『フォーミュラ』は、外にある〝エレメント〟……つまり『魔法』で言うところの〝魔力素〟を取り込まず、最初から体内で発生しているエネルギーを使い、外側の物に作用するらしい。

 そして、

「〝フォーミュラ〟と、無機物や金属に干渉する〝ヴァリアントシステム〟を、こうして組み合わせると―――」

 『フォーミュラ』には、更にこんな側面も。

「じゃーん! こうしていろんな形に作り替えられるんだ~」

「わあぁ~……っ」

 此処が、『魔法』と『フォーミュラ』の一番異なる点だろう。

 何かを形状変化させるくらいなら、魔法でも出来る。一番初歩的なところでは、デバイスが形状を変えるのがそれだ。ただしこの変化は、最初から組まれているものを魔力で実体化させるなどと言った手順を辿らなければ出来ない。つまるところ、プログラミングされた範囲の変更は出来ても、変化させる事は出来ないのだ。

 しかも使用する魔力が掛かる割に、汎用性も薄いことが多い。

 今イリスの見せた『ヴァリアントシステム』のように、手近にあるものをその場で自由自在に変える、と言うことは出来ない。実際、イリスは『ガトリングブラスター』の他にも、様々な形態を作れると語ってくれた。

「まあ、基本的にはこれって工具みたいなものでね? こういう武器っぽい形態を取るのは、土木工事で堅い岩盤を破壊したりとか……あとは、あそこに転がってる残骸なんかを処理するのにも使ったりするかな。一回壊してまとめてからの方が、造り直しやすいんだ」

 そう言って、イリスは近場の残骸を破壊するところをユーリに見せる。威力もなかなかの物で、呆気なく残骸は粉々になった。

 すごいですね、とユーリは『フォーミュラ』に感心した様子である。

 それはそれで嬉しいが、イリスとしてはこうしている間も早くユーリの『魔法』が見たくて堪らない。

「あたしのは、だいたいこんな感じかな? じゃあ次は、ユーリの番だよっ!」

 興奮をどうにか抑えながら、イリスはユーリにこう促した。最初は戸惑っていたユーリだったが、今はもう落ち着いたようで「分かりました」と返事をすると、早速『魔法』の実演に掛かる。

「わたしの〝魔法〟も、その〝フォーミュラ〟とよく似ていますね。

 エレメント……〝魔法〟でいうところの魔力素を操ることで、わたしも同じ様なことが出来ます。

 あとは、そうですね―――例えば、こんな使い方も出来ます」

 そう言って、ユーリは残骸の前にしゃがみ『夜天の書』を開く。彼女の所作に呼応する様にして、ユーリの足下に何かの〝陣〟が浮かび上がった。

 『フォーミュラ』でも『プレート』と呼ばれる円形の模様が浮かぶが、アレとは異なり、ユーリの足下にある陣の形は三角だ。そして、更に黒い触手のような何かが、足下から残骸へと伸びていく。

 あれが魔法なのか? と、イリスを含めた委員会のメンバーは、固唾を呑んで遠き世界から来た小さな〝魔法使い〟の様子を見守っている。

 何が起こるのかも分からないまま、数拍の間を置き―――

 

「―――ぁ」

『!』

 

 ……奇跡(それ)は、彼らの前にもたらされた。

 目の前で起こったそれに対し、イリスは言葉を失ってしまう。

 ただ映像を見ていただけの研究所の面々でさえ、酷く驚いた様子で口々に「馬鹿な」「有り得ない」などと言った言葉を漏らすのがやっとだ。

 ―――それほどまでに、ユーリの見せた『魔法』は奇跡的だった。

 

「壊すことにも使えますが、わたしはどちらかというと……こうして、〝育てる〟ことに使うのが好きです」

 

 柔らかに微笑みながら、ユーリがイリスの方を振り返る。

 些細な動作さえ、どこか神々しい。優しい風が彼女の背後から吹き抜けて、その後ろにある『魔法』の見せた奇跡の結果を揺らしていた。

 

 

『…………奇跡か、これは……』

 

 

 誰かが、そんな事を口にしていた。しかし、それは奇跡であっても、ただ夢物語などではなく―――現実にもたらされた、本物の『魔法』だった。

 ユーリの『魔法』が、壊れ枯れた残骸を、今のエルトリアでは育つことさえ出来ない緑へ変えた。死に逝くだけの大地を、再び命のゆりかごに戻してしまったのだ。

 それはこれまで幾度となく貶され、不可能だと断じられ続けたことであり、この星を救いたいと願った者たちが、これまで出来なかったことだった。

 

 ―――しかし今、ユーリがその不条理を完全に覆してくれた。

 

 運命の使者。あるいは神の使いか。なんの大げさなこともなく、等しくその場の誰もがそう思ったことだろう。

 なぜなら彼女は、この星に本当の希望をもたらしてくれたのだから……。

 

「ぅ、ぁぁ……ユーリ……! ユーリ……ユーリぃ……っ!」

 思いっきり奇跡を起こした小さな身体に抱きついた。詰まったような声で、イリスは何度も何度もユーリの名前を呼ぶ。

 戸惑ったようなユーリは、イリスが泣いているわけが分からない。……でも、ただその涙が、悪いものでないことだけは、何となく感じられた。

 だから、ユーリはしばらくの間。イリスが泣き止むまで、ただ彼女の背に優しく手を添えていた。

 やがて身体から震えが消えて行き、イリスは赤くなった目のまま、まぶしい笑顔でユーリにこう言う。

「ユーリは、本当に〝天使〟なのかも! ユーリの『魔法』が、わたしたちの星を救ってくれる……!

 命に触れる力、育てる力! わたしたちが一番欲しかった力なの……ッ‼」

 やっと見つけた希望。出会えた奇跡。

 不明瞭で、偶然で……けれど、どうしようもなく尊い出会いに感謝しながら、イリスはユーリにこう言った。

「ねえユーリ、お願いがあるの。わたしたちに力を貸して……! ユーリの力が、わたしたちの希望なの―――ッ‼」

「わたしが、ですか……?」

「ユーリが、だよ……ッ!」

 戸惑うユーリに、イリスはそう強く念を押した。……しかし、ユーリはどこか不安そうに、まるでこの先にあるかも知れない何かを恐れるようにして、ハッキリと自分の意思を決めかねていた。

「でも……わたしなんかが、本当にお役に立てることなんて……」

 けれどそれを、

「あるよ!」

 ユーリが抱え込む不安や、卑屈とさえ言えそうな自己評価の低さに対し、イリスは真っ直ぐに『ある』と肯定する。

「勝手なお願いなのは分かってる……。

 けど、わたしたちがユーリに助けて欲しいのとおなじくらい、ユーリが悩みとか……困ってる事があるなら、わたしたちだって力になれる―――! 一人だけじゃできなくても、一緒なら、きっと……だからお願い、わたしたちに力を貸して―――?」

 打算が無いとはいわない。半ば自分勝手な願いだというのも承知している。けれど、そこに込められた想いだけは、偽りのない真摯なものだった。

 ユーリは迷っている。何に対するものなのか、それは今のイリスには分からない。

 何があったのかさえ知らないけれど、ユーリがこれまで一人で彷徨っていたのだとしたら……もしも、自分のあるべき場所を見つけられていないのなら。

 この星をそう思って欲しいと、これからも一緒に居たいと思った。

 もちろん、それはユーリがここに居たいと思ってくれることが前提だ。ユーリが嫌だと言えば、引き留めるだけの理由をイリスは持ち合わせていない。しかし、それでもイリスはユーリの迷いや不安を感じ、それを此処でなら和らげることが出来るかも知れないと、そう思ったのだ。

 そうして、短い逡巡を経てユーリは―――

 

「―――どれくらいここに居られるかも分かりませんし……ご迷惑をお掛けする事になるかも知れません。それこそ、本当に役に立てるかどうかさえ…………でも、本当にわたしの魔法が、皆さんのお役に立てる力なら……ッ!」

 手伝わせて欲しい、と。

 イリスと、委員会の皆へ向けて、そう応えた。

「ユーリ……ありがとぉ~っ! 大好きッ‼」

「えっ、あの……イリスさん……ッ⁉」

 いきなり()()()()()()、ユーリは戸惑ったような声を上げる。だが、イリスは嬉しさを隠そうともせず、そのまま踊る様にユーリを抱き上げたままターン。二度ほど円を描いてから、ユーリを下ろした。

「〝さん〟は要らない、イリスで良いよ。所長の付けてくれたお気に入りの名前なんだ♪」

 そう微笑むと、ユーリもイリスに歩み寄り、彼女の手を取って応える。

「じゃあ……イリス」

「うん、ユーリっ!」

 枯れた星。死にかけ、滅びの定めに縛られていたこの場所で……未来を紡いでいく、幼き少女たちの絆が此処に生まれた。

 

 ―――そんな、新しい友情の始まりの瞬間。微笑み合い手を取り合った二人の姿が、管制室のモニターに映されていた。

 それは僅かとは言え、蘇った緑の中で……未来を紡いでいく子供たちが、笑顔でいられる世界。これから先において、自分たち大人が子供たちに残すものとして、成し遂げられるべき世界の縮図だ。

 ……それにしても、こうしてみているとまるでこれは。

「友情ドラマだねぇ……」

「なんだか、イリスがお嫁に行っちゃったみたい」

 生まれてからずっと、同世代の子供が少ない場所で育ち、またその生まれた方も少々特殊だったイリスに、対等な友人が出来た。喜ばしい事ではあるが……同時にそれは、これまで大切に育ててきた自分たちのお姫様が、どこか遠くへ行ってしまったような感慨を与えてくる。

 とりわけ、イリスの〝生みの親〟であるマクスウェル所長は尚のことだろう。モニターを眺める所長の瞳は、どことなく複雑そうだ。

 その様子に、研究者の一人が「どうです? パパとしては」なんて茶化してくると、

「……ウチの子にはまだ早い」

 と、少し拗ねたように返した。本当に嫁入り前の娘を抱えた父親のような応えである。普段は頼れるリーダー風な所長がこうも分かりやすい反応を示すのを見て、なんだかおかしくなった研究者たちはくすくすと笑い出した。

 そんな部下たちの笑い声に、所長は咳払いを返して話をもう一度仕切り直す。

「まぁ、イリスとも我々とも、まずはお友達からだ。

 ―――歓迎しよう。新しい仲間と、新しい可能性を……っ!」

 所長の言葉を受けて、一同は再びモニターに映る二人へと視線を向けた。そこでは手を取り合ったユーリとイリスの後ろから、柔らかな風がそよぎ始めている。

 そしてその風が、花びらが散らし、命の吹き込まれた緑の大地をさらさらと穏やかに揺らし―――遠き世界を越えて巡り会った、この『運命』を美しく彩っていた。

 

 

 

 ―――それから二年の歳月が過ぎ、『エルトリア』の復興は劇的なまでの進歩を遂げた。

 

 ユーリのもつ、命に触れる力―――『魔法』による生命操作能力は植物の復活に多大な成果をもたらした。

 これまで大地に根を下ろすことのなかった植物たちが、ユーリの力添えによって徐々に元通りになっていった。枯れた大地を緑が覆い、色とりどりの果実を実らせ、本来在るべき連鎖を成していく。

 こうして『エルトリア』は、命の箱船としての姿を取り戻しつつあった。

 魔法技術も、今はユーリしか扱えないものの……いずれ『フォーミュラ』と同様に汎用的な術式に落とし込めれば、惑星再生は更に前進していくことだろう。

 先を見通せずに消沈していた委員会も、これらの成果が見え始めた事で活気に溢れている。

 そしてそれは、ユーリやイリスもまた同じ。

「この子たちは本当に安定しましたね。もうわたしが手を掛けなくても育ってくれるようになりました」

「うん。何時かこの果樹園、世界中に広げていきたいね!」

「はいっ!」

 やって来た当初は戸惑うことも多かったユーリも、今はもう随分と明るく、元気な姿を見せてくれる。イリスもユーリが楽しそうにしているのが嬉しくて、一緒に様々な事をして時間を過ごしていた。

 よく遊び、よく学び、そして時にはちょっと危ないこともあったりするが……そんな時間がひどく温かく穏やかに、彼女らの幸福な時間を彩っている。しかし、問題が全くなくなったわけでは無く―――

「でも、委員会の予算がなぁ……」

「オカネですか……」

「うん……。所長いつも悩んでるもん。みんな惑星の再生より、宇宙に逃げることばっかりだー、って」

 まだまだ、〝エルトリア復興〟に対する懸念は多い。わざわざ死にかけた星に固執せず、他の星やコロニーの運用に力を注ぐべきだという考え方が根強く残っているのだ。しかし、ユーリが来てから惑星の再生は大きく進んでいる。

 故に、

「……頑張りましょう! もっと研究が進めば、きっとみんな分かってくれます」

「―――うんっ、そうだね―――!」

 二人は希望を捨てず、共に明日を歩み続ける。明るい希望を胸にした少女たちは、確かに幸せで……夢に溢れた時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 だが、――――

 

 

 

「―――アレ?」

「途切れちゃいましたね……?」

 

 残されていた記録は、この先を映そうとしない。

 ……否。より正確に言うのなら、まるでこれ以上映してはいけないと警告するようにして、紙片に残されていた映像は止まった。

 復元を担当したレヴィは修復に不備があっただろうか、と首を捻りながら紙片を再度解析している。そうして僅かに空いた間に息を吐くはやてたちは、今しがた途切れるまでの映像について反芻する。

 残されていたのは、大まかな予想の通り、かつてのエルトリアでの記録だった。だが、ここまでに見えたそれは、予想とはまるで異なるものだった。

「…………色々びっくりやね……」

 はやてはつい、そう零した。

 イリスとユーリの過去も、エルトリアの過去も……そして、ユーリが『夜天の書』と共にあったという過去についても。

 あまりにも想像していなかった事ばかりが明らかになり、一同は驚きを隠せずにいた。

「……〝夜天の書〟の傍に、あんな子が居たとはな……」

「ごく短い間だろうがな……。アインスは、知ってたのだろうか?」

「多分、知ってたんじゃねーかな。アイツは主がいないときでも、時々は目を覚ましてた筈だし……」

 守護騎士たちは、自分たちの知らなかった守護者の存在について口々に語る。古い記憶については彼女らも曖昧ではあるのだが、それにしても『夜天の書』を管理する様な役目を持って居るのなら、アインス同様に記録されているハズなのに……ユーリのことは、誰の中にも存在していなかった。

 忘れ去られた空白に、果たして何があったのか。

 多くの謎を抱えている『夜天の書』には、まだ明かされていない先があった。という事実を明かされて、守護騎士たちは複雑な感慨を覗かせる。

「やっぱり、データが破損してるみたい……。とりあえず、再生できるところまで飛ばすね?」

 と、そこへレヴィが再解析を終えたらしく紙片の状態について皆に告げてきた。どうやら破損の完全な修復は難しかったらしく、一先ずレヴィは残った断片部分をスクリーンへと投影していく。

 しかし、そこから順に映されていったのは……先程までとは真逆のもので。

 

 

 

 ざらざらと砂嵐のような雑音(ノイズ)を伴った、荒れた映像が映る。

 最初に映っていた宣伝PVと同じカメラフレームの映像から始まり、掠れた息を漏らしながら階段を焦ってかけ下りるシーンに続き、悲痛な声で『こっちへ!』と誘導する研究員を背後から何かが撃ち抜いた様子が映った。そして、「ひっ――!」と喉を潰したような呻きが漏れると同時、研究員の持っていたらしいカメラが床を滑るように転がり暗転。

 

 次いで、研究施設が映るが―――

 ユーリとイリスが育てていた果樹園は見る影もなく荒れ果て、明るく日差しの注いでいた空は灰色の雲に覆われている。

 そんな見る影もなく荒んだ空気の中で、銃痕だらけの家畜たちの死骸が無残に転がっていた。

 

 ―――――――、そして。

 

 暗い所長室が映った。照明の一切が切られており、大きなモニターだけが部屋の中を照らしている。

 ……その奥にあるデスクの前で、イリスが血だらけの所長を抱えながら泣いていた。

 

 

「―――何、で……? ……ねぇ、ユーリ……どぉして……? ねぇ……ユーリぃ……っ‼」

 

 

 悲痛な声。

 耳にするだけで心をかき乱す、深い深い悲しみの声。

 目の前の現実を認められず、否定を求める声が入口にたたずむ金色の髪をした少女へと向けられる。……けれど、それに対する返答はなく―――

 

 再び場面が飛んで、磔にされたイリスの姿が映し出された。

 

 背景の奥には、キリエが避難所にしていた廃協会が映っている。……つまりこれは、イリスが一度『エルトリア』で()()()()時の記憶。

 そして、その下には―――ユーリの姿が。

 

 顔の上半分が隠れており、表情は見えないが……返り血にまみれ、傍らには夜天の書が静かに浮いている。

 ……何があったのか、詳細は分からない。

 しかし、途切れ途切れの記録(えいぞう)はそのまま、そこで終わりを告げた。

 

 

 ***

 

 

「…………」

 途切れた映像を前にして、残されていたモノの凄惨さと、流れていった命の重みに……今度こそ誰しもが言葉を失っていた。

 だが、沈んでいては何も進めることは出来ない。

 はやてはそんな空気を破るようにして、本局に居るアミタへ、画面(モニター)越しに質問を投げかけた。

「アミタさん、〝惑星再生委員会〟っていうのは……?」

『ええ……。四〇年前ほど前ですが、確かに存在していた組織です。わたしたちの祖父母も、そこに所属していたと』

 曰く、ある〝事故〟によって職員と施設が全滅し、『エルトリア』の再生を目指す人々はいなくなってしまったのだという。当時まだ八歳と九歳で、唯一その事故の被害から逃れる事が出来た二人の両親を除いて。

 そして、その〝事故〟の原因とは。……皆まで言わずとも、誰しもがこう推測していた事だろう。―――イリスの目的だという復讐とは、自分の家族を殺したユーリへ向けた報復である、と。

 

 ―――事件の様相が、そこでガラリと塗り変わる。

 

 操られ、苦しめられていたユーリが、実は全ての元凶だったかもしれない、と。……しかし、仮にそうだったというのならば、何故ユーリはこの記憶を託すために、あそこまで必死になっていたのだろう?

 自らの罪を誇るでも、隠そうとするでもなく。

 まるで自分が受けた罪を悔い、嘆き。そして、償おうとするように。

 ディアーチェたちと、イリスを想いながら、ユーリはこれを此方に託した。そこに込められた意図は、いったい―――

 

「―――あのね? これは仮説って言うか、推測なんだけど……」

 が、それを明らかにする前に。ここまでの間に判明した事柄を、推察を交えつつシャマルが確認していく。

 映像が完全に停止する前に映された、イリスとユーリの姿。そこから導かれた推察とは、ユーリ自身があの場から消えてしまった理由について。

「最後の場面……。あの後、ユーリちゃんも動けず、〝夜天の書〟の中のアインスも目を覚ましていなかったとしたら―――ユーリちゃんは仕方なく、自分自身を〝夜天の書〟に蒐集させたんじゃ……?」

 シャマルがそう言うと、魔導師の皆は彼女の考察を反芻してみた。

 確かに、あの当時の『夜天の書』は完成しておらず、ユーリとイリスが戦闘になったのだと考えれば、相当数の項目(ページ)が失われていたことだろう。となると、『夜天の書』は何らかの蒐集を行おうとした可能性は十分に考えられる。

 とりわけ、あの当時はまだ『夜天の書』は『闇の書』だった。完成していないまま魔法を行使し続けていたなら、減ったページを強制的に埋めようと動き出したかもしれない。あるいは、ユーリ自身が暴走を恐れたということも。しかし、あの星に魔導師はいない。そうなると、蒐集の対象となるのはユーリのみ。

 となれば、選択肢は一つだ。

「そうなれば、ユーリちゃんは〝夜天の書〟の中で眠る。主と出会えなかった〝夜天の書〟は、そのままエルトリアを後にして―――」

「……何人かの主を経て、わたしの所に来た」

「だからアインスも、ユーリがどうなったかを知らなかった……?」

 仮にこの仮説が正しければ、大まかな筋は通っている。

 〝外側から見守る〟という役割を持っていたはずのユーリが、なぜ『夜天の書』とは別の場所にいたのかも、自身を蒐集させたのだとしたら、在りえない話ではない。そもそも、ユーリは自分を生み出された存在だといった。『夜天の書』を見守るという役割のために。ならば、何も不自然なことはない。なにせ守護騎士やディアーチェたちも、元々は『夜天の書』の中で眠っていたのだから。

 が、

「……でも、それなら何でユーリはあんなところに?」

 と、リインが疑問を提示する。

「そういえば……水族館の、宝石の中だっけ?」

 言われてみれば、少しおかしいと、その疑問にヴィータも頷く。

 確かに、ユーリが自分を蒐集させたことで『夜天の書』が『エルトリア』から地球に来たという可能性は高い。けれど、ユーリが本当に『夜天の書』の中で眠っていたのなら……イリスはわざわざ《オールストン・シー》を襲撃することもなかったはずだ。

 しかし、キリエとディアーチェたちの証言によると、イリスは宝石の中からユーリを目覚めさせたという。

 そうなると、ユーリが自分を蒐集させたかが怪しくなってくるところだが。

 

『―――たぶん、あの時じゃないかな? 二年前に〝闇の書の『闇』〟を切り離した、あの時に……』

 

 そこへ、誰かが合いの手を入れて来た。しかし、まったくの第三者ではなく……寧ろその声は、魔導師たちにとっては馴染みある人物のもので。

 空中に浮かび上がった仮想窓(ウィンドウ)を見上げてみると、目を覚ましたらしいユーノの姿があった。

「ユーノくん……!」

 目覚めていたことになのはたちは嬉しそうに彼の名を呼ぶ。ユーノもそれらに笑みを返し、途中から口を挟んだことを短く誤って、自身も話の中に入っていく。

『ゴメン、勝手に割り込んじゃって……でも、シャマル先生の仮説は大筋としてあっていると思う。だから、ユーリが自分を蒐集して、結果的に切り離された可能性は十分に……』

 ユーノの弁に、呼応して思考を回していくシャマルとはやては、そこから先に置いてユーリが辿ったであろう経緯を考察する。

「そうして、切り離された後……あの宝石(ほうせき)になって、海の底で眠っていたユーリちゃんが―――」

「―――《オールストン・シー》の開発で発見されて、水族館に展示された」

『恐らくは。それに、ユーリが操られていた時に使用していた力……。

 あれが純粋に魔法によるものなのか、そうでないのかはまだ断定できないけど……紙片の映像と、聞いた話の限りでは、〝生命力を結晶化して奪う〟もの―――もしくは、もっと単純に〝命の形を変える〟類。だから、自分自身を覆い疑似的に時間を停止させるようなことも出来たんじゃないかと……』

 そう言って一度ユーノが話を区切ると、場に再び沈黙が訪れる。……ユーリの辿った経緯は、大まかには見当がつけられた。しかし、解かったのはそれだけだ。

 惨劇の理由も、ユーリがどんな存在であったのかも、まだ何も明かされてなどいない。

 それに、もっと根本的なところさえ。

「……我らは出ておらなんだな」

 ディアーチェの口にした通り、ユーリはあれだけディアーチェたちのことを案じていた。そのためにこの紙片を託したというのに、一番あるべきものがない。

 だが、

「ええ。―――ですが、委員会の施設や人々には、どこか見覚えがありました」

「よく考えたら……イリスのコトも……」

 と、シュテルやレヴィは自分たちがあそこにいたという記憶を、僅かながらに取り戻し始めていた。

 だというのに、どうしようもなく霞は未だ彼女らの記憶を熱く覆い続けている。

 隠された記憶。残された記録。

 それらの意味とは、果たして何なのか。静かに深く、思考のそこへ自分を沈みこませていっても、未だそれは分からない。

 しかし、その逡巡さえも許さぬとばかりに―――戦いは再び、彼女たちを呼び寄せる。

 

 

 

 

 

 

 増殖(しんしょく)する悪意(にくしみ)

 

 

 どこかの倉庫。

 薄暗く、赤黒い照明(ひかり)に染められた小さな部屋の中に、二人の少女が共にいた。

 かつて友として、固い絆を結んでいたはずの彼女らの間には、今はでもう埋めがたい溝が生まれている。

 歳月(とき)次元(きょり)では測れぬほど遠い世界。

 別たれ、二度と(まみ)えることも叶わないほどの狭間を詰めても尚―――それこそ手を伸ばせば、こうも簡単に触れられるほど近づいているというのに、まだ何も埋まってなどいなかった……。

「―――ずっとアンタを探してた」

 静かにユーリの傍へ歩み寄り、今はもう意志を剥奪し、何もモノを言えないかつての友へ向け、イリスは静かに語りす。

 自分の動く理由を、改めて確かめるように。

「……どうしてあんなことになったのか、本当のコトを聞くためでもあるけど……。どんな理由があるにせよ、裏切ったアンタへの復讐のためでもあるの―――」

 ……長い時間があった。

 眠りについてから数えれば、凡そ四十年。目覚めてからでも、八歳程度の少女が、一人の乙女へと変わる程度には時間が過ぎた。

 それだけの時間があったのだ。そうなれば、少しくらいは思考も和らぐ。

 けれど、

「―――本当にアンタがみんなを殺したんなら、絶対に許さない。……ウソをついてあたしの前から消えたんなら、それも許さない……っ! あたしを殺さずに逃げたのも、…………みんなと一緒に眠らせてくれなかったのも……」

 だからと言って、何もかもが変わるはずもない。

 理由など、家族を奪われた身からすれば意味をなさない。

 どれほど言葉を重ねても、何もかもが延々と、ドス黒い連鎖に呑まれていくだけだ。

 ……嗚呼、そうだ。罪も傷も、いずれは風化し消えていく。しかしそれでも、いったい残された心はどこへ行くというのか。

 家族を亡くし、友も、身体さえも失くした、心だけの空っぽな人形のように……イリスは過去から先へ進む、何かを持ち合わせられずにいた。

 故に、

「あたしは過去を終わらせたいの。―――そうじゃなきゃ、生きることも死ぬことも出来ないから……」

 真実を。

 あの日に迎えられなかった終わりの続きを。

 復讐と、知るべき真実を前に、残る邪魔者を消すために、遂に動き出す。……しかし、その先への路を阻むようにして。

 彼女らの居る拠点の外を、ぞろぞろと局員たちが張り込みを始めていた。

 

『パイルスマッシャー三機、配備完了』

『よし、狙撃準備完了しました』

『了解。こちらも準備は完了、いつでも突入出来ます』

 

 聞こえてくるのは、悠長な確認の言葉。―――まるで、舐められている。

 確かに精鋭ぞろいなのだろう。少なくとも、脅威の度合いを認識できなければ、それはただの木偶に過ぎない。

 だが、この程度で自分たちを止められるとでも思うのなら、それは。

 思い上がりも甚だしい。

 

 

「この星はうるさくて敵わないわね。――始末して」

 

 

 無粋な来訪者に、イリスはかすかな苛立ちを覗かせ、()()()()()()

 すると、次の瞬間。

『ぐああぁ―――ッ⁉』

 局員たちを緋色の海へ沈める為に、イリスの『悪意(にくしみ)』が動き出す。

『な、狙撃……!』

『A班、B班共に狙撃を受け、……がぁああああッ‼』

『ッ―――監視は中止、突入する!』

 攻撃を受けたことに焦り、突入を開始する局員たち。対象であるイリスを捕えられれば、せめて拠点だけでも奪還できれば動きを止められる。だが、制圧すべき拠点だと考えられていたそこは、殆どもぬけの空。

 そして、目の前の事に気取られている隙を突くようにして―――

『な、こいつは……ッ!』

 ―――想定とは明らかに外れた、数えるのもばからしいほどの『何か』が、群体を為して彼らを襲う。

 局員たちは訳も分からぬまま、ただ嵐の如く起こった怒涛の進撃に巻かれていった。

 一度ユーリのところから離れ、その様子を写す画面を見やってから、イリスはもう一度ユーリの前まで歩み寄りこう告げる。

 この先に置いて、これを為せという命令を。

「わたしの分身たちも頑張るから、手分けして働こ? ユーリはあの〝魔女〟たちと、王様たちとも殺しあってくれたら嬉しいよ」

 そして、

「―――この本を返して欲しかったら、生きて必ずわたしのところへ帰って来て」

 イリスは『夜天の書』をユーリの前に差し出して、深層に沈めた意識に刻み込むように念を押す。

「……良いわね?」

 すると、ユーリはゆっくりと目を開けて、簡潔に応えた。……金色の瞳を、緋色の呪縛に染めて。

 

了解(Verständnis)

 

 ユーリの返答を聞き、イリスは自らの分身へと指示を出す。残る局員を殲滅。合わせて、倉庫の扉を破壊せよ、と。

 その指示に合わせ、分身たちが命令された事柄を実行。

 未だ抵抗を続ける武装局員たちの放つ魔力弾の合間をすり抜けるようにして駆け、本体の力を一部再現した駆動体で以て蹴り伏せ、地面へと叩きつけた。呻きに対し一切の感慨も覗かせず、邪魔者の排除は済んだとばかりに転がった局員を踏み越えて入口へ片腕を向ける。

 瞬間、その腕が一気に回転砲へと変形。

 撃ち放たれた砲弾がシャッターを破壊し、ゲートが開いた。

 そこからバイクに乗った個体がぞろぞろと出現する。中心に立つのは、本体であるイリス。その姿は、さながら国を統べる女王(おう)の如く―――

 

 

「―――行くよ、みんな」

 

 

 冷たい声で指示を出すや、イリスの声に呼応して分身たちが動き出す。目的を遂げる為の、立て直し後の始まりだ。

 ここからが本番。―――そうして、〝群体イリス〟の総進撃が始まった。

 

 

 ***

 

 

 武装局員の全滅。

 その報告を受け、本局にある管制室は驚愕に包まれていた。……しかもそれは、『魔法』という枠の中にいようとも、まったくの理外の展開。

「イリスが、増えている……っ⁉」

 指揮船に集まっていた皆に向けて、イリスの拠点が判明した旨を告げようとしたレティの元へ、とんでもない報せが飛び込んできた。

 イリスという単一の対象へ向けたハズの捕捉信号が、一気に増殖している。

 そんな馬鹿な、と訝しむようにレティはモニターを睨みつけるが、アミタがそれについてこう説明した。

 

『父から聞いたことがあります。惑星再生委員会の開発していた〝テラフォーミングユニット〟には、星の環境と状況に合わせ自己増殖する機能があると。

 元々、星の環境を丸ごと改良することが目的です。

 資源の乏しいエルトリアですら、それを可能にするだけの力があった……。資源もエネルギーも豊富にあるこの地球(ほし)でなら―――」

 

 ―――当然、イリスの力は際限なく振るわれることになる。

 まさしく悪夢と言わざるを得ない。乏しい資源を無駄なく活用する、という本来の形が、逆に増えすぎた水を持つ場所で、存分に振るわれるというのだから。

 しかも、

「結界から、出ようとしている……?」

 イリスは外へと飛び出すつもりでいる。立て直しで一時沈黙していたが、今度こそ外に出て海上での続きをしようというのならば―――それは。

『次長、本体位置の特定は出来ますか?』

 通信がつながっていたクロノが、リンディへこう訊くと、

『ええ。識別反応(マーカー)で判別がつくわ。結界内なら逃がさない……!』

 と、リンディも敵の意図を阻止するべく動き出すと言った。それを受けて、レティもイリスを捕獲、および群体の制圧を命じる。

「ではまず、群体イリスの制圧を……。クロノくん、はやて、頼んだわよ?」

 即座に動ける地上の二人へ向けそういうと、

『『了解』』

 二人もまた即答し動き出す。

 次いで、なのはとフェイト、フローリアン姉妹へも出撃要請が掛かる。

「なのはちゃんとフェイトちゃんもお願い」

 それに二人もまた、先のはやて同様に応えた。

 

「「了解」」

 

 ―――――戦いが、再び始まる。

 

 

 

 

 

 

 夜空へ向かう星々

 

 

 

「共同戦線やね」

 指揮船の廊下を歩きながら、はやてはディアーチェたちへ向け、そんな事を言った。けれど、その言葉を受けたシュテルたちの側はどこか不思議そうにしている。

「信用して良いのですか? わたしたちのことを……」

 しかし、それも当然と言えば当然。

 何せ数時間前までは敵対していた間柄であり、彼女らもまたユーリ同様にイリスによって目覚めさせられた存在だ。これを簡単に信用して良いかと聞かれれば、簡単には認めがたい所ではある。

 だが、

「お前たちは、お前たちの目的のために動けば良い」

「ああ。仮に敵に回るというのなら、その時はその時だ」

 と、ザフィーラとシグナムが、主や仲間たちの心情を代弁した。とどのつまり、手は多い方がいい。信頼を置き合うことに対しての躊躇いで時間を食うよりは、一時であろうと足りない分を補えるならそれでいいと。

「せやね。戦力は多い方がええし……もちろん、協力し合えるんならそれが一番や」

「そういうこと」

 はやてとシャマルがそう言ったところへ、リインが何かのトランクを抱えて飛んできた。

「はやてちゃん!」

「リイン。ありがとうな~」

「はいです~っ!」

 にこやかに笑みを交わし合う主と完成融合機の様子を見ながら、ディアーチェはそれが何かをはやてに問うた。

 するとはやては中身を取り出しながら、こう答える。

「わたし専用の、特注の魔導書型デバイスや。わたしの使う魔法は規模の大きいのが多くて、最初からストレージに記録しとかんと発動が遅くなってまうからなぁ。それに、王様にも渡しとこう思って」

「我にも、だと?」

 はやての答えの中に、どこか引っ掛かりを覚えたディアーチェが聞き返すと、はやては補足としてこう応えた。

「うん。王様の魔法も、わたしのと同じで広域系が多いみたいやし、あの時ユーリがやったみたいな守り方もできる……。せやから、王様やったらきっと上手く使えると思うよ」

 そう言われ、ディアーチェは「……うむ」と言ってそれを受け取った。

 紫色の表紙をした、魔導書型のストレージデバイス。はやてのデータを基にこの姿を取っているディアーチェが使えるのは至極真っ当な道理である。

 そして、これが臣下を守る力にもなるのであれば、受け取ることへの躊躇いもない。

『大いなる力を求める』という目的は変わっていないが、それを果たすためにはまずユーリを止めなくてはならない。

 あの映像を見た限り、深い疵があるのは間違いない。

 だが、それでもまだ―――ディアーチェたちは、ユーリから自らルーツを聞かなくてはならないと思えていた。

 故に、

「ユーリが出てきたら、そっちは任せる。わたしらはイリスを追いかける。王様、それでええ?」

「―――ああ。異存はない」

「よっしゃ。

 今頃なのはちゃんたちもこっちへ向かっとる頃やし、ユーノくんも少し紙片を調べたら来てくれるってゆーとった。わたしらも、今できることを全力でやるよ!」

 はやてがそう呼びかけると、

「おうっ!」

「「ええ」」

「心得ました」

 守護騎士たちとそう同意し、ディアーチェたちもまた頷いた。そうして、彼女らの出撃の時が訪れた。

「―――ほな、行こっ!」

 その声を皮切りにして、一同は再び夜空へと向けて飛び立った。

 

 

 ***

 

 

 本局組、技術部へ向かうなのはとフェイト、そしてフローリアン姉妹。

 「皆さん、お待ちしてました」ドアを開くと、シャーリーとマリーが彼女たちを出迎えてくれた。

 そうして、トレーに乗せられたデバイスたちを差し出して笑顔でこう告げる。

「この子たちもこの通り、バッチリ全快してます!」

 シャーリーの言葉を受け、いの一番にレイジングハートが翼を羽ばたかせ、なのはの元へと向かう。

「お帰り、レイジングハート」

ただいま戻りました(I am back.)

 主と愛機の再会は、そうして柔らかな信頼と共に。不屈の心を抱く二人は、また再び空を目指すために立ち上がる。

 そこへ、本局の職員が転移準備の完了を告げる。

「遅くなりました。転送ゲート、使えます!」

 

 

 そうして、転移ゲートへと向かう一同。

 戦闘装束(バリアジャケット)防護服(フォーミュラスーツ)を纏い、準備は万端。バリバリの臨戦態勢である。

「わたしも追っかけで地上入りします。ユーリさんの残した紙片の解析をしますので。ユーノさんが今大まかに進めているそうですが、わたしが引き継いだ後は結界の防衛に参加するそうです」

 シャーリーがひとまず増援について少し述べると、なのはは「うん」と頷き笑みを浮かべる。ユーノが目を覚ましたのは通信で知っていたが、彼が来てくれると思うと……本当は、無理なんてして欲しくはないけれど……それでも、どうしても嬉しくなってしまう。

 そんな小さな温かさを感じながら、なのはは小さく足の具合を見た。ユーリとの戦いで捻挫してしまったが、治療とBJのおかげでほとんど違和感はない。―――これなら、十分に戦える。

 

「それじゃあ、シャーリー、マリーさん。―――行ってきます!」

 

 そう告げた直後、なのはたちは蒼い転移魔法の光に包まれた。転送中は、ほんの少しだけ不思議な光の螺旋の中を潜ることになる。

 次元を超える道の中、アミタがなのはにこう告げて来た。

「なのはさん。言えた義理ではありませんが……どうか、無茶なされませんように」

「大丈夫です……!」

 心配げに言うアミタへ、なのははまっすぐな瞳でそう頷き返す。その様子に、アミタは少しだけ複雑そうな表情を浮かべた。そんな姉と友のやり取りの裏で、キリエとフェイトもお互いに頑張ろうと言葉を交わし、しばし穏やかな時間が流れる。

 やがて、路が途切れる。

 瞬間、彼女らの眼下に夜空が広がった。

 東京湾上空へ転送されたことを確認し、四人はお互いに再度会釈を交わすと、一筋の光となって、其々が向かうべき四方(ばしょ)へと飛び去った。

 

 

 




 どうも、おなじみの駄作者でございます~♪(謎のテンション

 何気に今週は三本あがているという状況ですが、クオリティは……となっている気もして、少しブルってますが、今回は結構頑張った(つもり)でございます! ……まあ、ちょっとユーノくんの出番についてはかなりビビってしまった部分が。
 ウィークリームービー3であったように、ユーノくんは今回のユーリのルーツを探し当てているので、エーベルヴァインの姓から速攻で何かに辿り着く――みたいなのもアリかと思ってたんですが、入れるタイミングどうしよう? となって構成力の低さから、こんな無難なところに逃げてしまったという駄作者っぷり……くそぅ、文章力……ヤツがこの腕に宿ってさえくれていれば……。

 と、そんな寒いギャグを飛ばしながら書いてました。申し訳ありません……。
 でもまぁ、ユーノくん目覚めたばっかりですし、紙片の解析に回ってから今回のマテ娘たちの正体に気づく、なんてのもそこまで悪くはないかなとも思ってます。
 あと、ホントはフェレットモードの登場もアリかなとは思ってたんですよ。というか、出すとこ書いてました。ユノペディア炸裂なパターンで……でもそれだとちょっとギャグ過ぎるかなぁ……と思い、封印。
 …………ホント、これがギャグでも良いのなら、ユノシュテの絡みが書きたかった。愛らしい師匠の姿にシュテるんがうずうずして本能的な部分もうずかせちゃって撫で繰り回してだんだん危ない思考に行ったりするところとか書いてみたかったんだ……っ!
 と、本人の方が暴走しかけるという馬鹿な事態になっておりますが、とりあえず大丈夫。そっちはinnocent時空の方でシュテゆと一緒に出してフェレットなゆーのくんの方に滅茶苦茶絡ませるので(果たしてどこが大丈夫なのか)。

 とまぁ、こんなくだらない事ばっかりやってましたが、ひとまず出撃までは書き終えることが出来ました。
 これで次からは戦いのパートに入れます。
 そして同時に、作者念願のマテリアルズVSユーリのパートもあと少しのところまで見えてきました……ッ!
 あの戦いがもう書きたくて書きたくて……。
劇場に通う度に逆に深みを増して泣いちゃいまして、書きてぇ……! とずっと思いながら今日まで至ります(笑)
 こんな風に言ってるとハードル上がりすぎて書いたものがつまらなくなってボロクソになっちゃいそうですが、多分……いや、きっと大丈夫…………ホント、多分。

 そうこう言いながら弱気になってる駄作者ではございますが、ともかく今後も頑張っていくのでよろしくお願い致します。
 あと、毎度感想等々くださっている読者様方、本当にありがとうございます。
 ああいうメッセージは励みになりますので、個人的には公式からの燃料と同じくらいの爆発力を持つものだと思っております。これからもそういった「読んでいてよかった」と思って頂けるようなものを掛けるように精進いたしますので、今後ともよろしくお願い致します^^

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