~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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第二十四章 終わりの光、暁の空へ捧ぐ祈り

 賭ける(こころ)、託された(ねが)

 

 

 

 東京タワーの上空で、激しい戦闘が繰り広げられていた頃。同様に、東京駅でも交戦の幕が上がっていた。

 しかし、魔導師たちの前に立ち塞がっているのは、マクスウェルの残した『機動外殻』とユーリ。首謀者であるマクスウェルは、自身の放った手駒を残し逃走を図った。アミタが単独でそれを追ったが、今の彼女の状態では懸念が残る。

 本来なら、逃走に至る前に喰い止めるべきではあったが、何せ相手が相手だ。

 

「〝宵星の円環(Ring des Abendstern)〟」

 

 声に合わせ、ユーリの周囲に小さな射撃魔法がばらまかれる。炎に変換された輪状の射撃魔法。弾速はさして速くはない為、周囲にばらまかれたそれを、ユーノは盾を張って防御しようとした。

 が、

「ぐ……ぅぅ―――っ!」

 張った盾を上から強引に抉るような威力を秘めていたことに、遅れて気づく。

 ユーリの放ったそれは、相手が受けることを前提とした攻撃。当然それは、隙を生むための手段となる。即ち、本命となる攻撃は、その次撃だ。

「ッ⁉」

 『鎧装』の拳が、ユーノを狙う。単純な打撃というのは、魔導師にとってはある種の殺し手だ。古代・近代を問わず、『ベルカ式』の使い手が一対一においての戦闘を得意とするのは、魔法を武器や拳に直接作用させて放つところにある。

 無論、魔法せよ体術にせよ、片方だけならば対処の仕方はいくらでもある。しかし、あるということがイコール対処出来る事にはならない。……とりわけ、強引に突破できるだけの力を持ち、かつ自らを省みることのないよう操られているなら猶更に。

「―――まずは(Vor allem)一人(eins)

 冷たい声が、間近に響く。

 どうにか対処しようとして、ユーノは一か八か捕縛盾(バインディングシールド)を構成し、向けられた『鎧装(こぶし)』を受け止めようとした。

 しかし、

「が、ぁぁ……ッ!」

 足場のない空中で留め切るには機動力の差がありすぎた。防御しきることは敵わず、反動を殺しきれ無かったユーノは後方へと吹き飛ばされてしまうが―――重要なのはそこではない。

(……少しでも、拘束出来れば……ッ!)

 そう。ただ単に攻撃を受け止め逸らすだけなら、わざわざ強度の下がる付加(じゅつしき)を加える必要など無い。通常の『盾』の方がよほど逸らす事に長けている。が、それでも敢えてそうしたのは、ユーリのパワーがただ受け止めるには度が過ぎていたからだ。

 防御して受け止めるのならば、シールド系よりもバリア系の魔法の方が良い。その辺りは『盾』と『膜』性質の違いから来ている。しかし、ユーリのパワーを鑑みると、膜を張るだけでは突き破られてしまう。

 それならば強度の高いシールドで防御し、拘束の一手を掛ける方が良いとユーノは踏んだのだ。

 事実その思惑通り、ユーリはユーノを吹き飛ばしはしたが、発生した鎖を躱すまでには至らなかった。

(―――これなら行ける!)

 まだ吹き飛ばされた反動が残っているが、ユーノは構わず次の拘束魔法を走らせながら、なのはたちに攻撃を仕掛けるよう念話を飛ばそうとした。だがそれを、『機動外殻』が阻害する。

「な―――」

 唐突に飛んできたレーザーを防御し、ユーノは迫り来る巨大な鉄兵を睨み付ける。

 『機動外殻・ヘクトール』―――地上侵攻型としては、シュテルの連れていた『グラナート』の上位互換とでも言うべき力を見せつける。

 地上からしてこれでは、ユーリだけを狙って止めることは出来ない。事実、彼らが翻弄されている隙を突いて、ユーリも拘束を外している。

 魔導師たちを場に足止めするべく放たれた弩級の戦力を前に、魔導師たちは操り手の思惑の通り、確かに動きを封じられていた。

 このままではダメだ、と誰しもがこの膠着状態を打破する切っ掛けを探す。

 初めに思い至ったのは、はやてだった。

《みんな、このままじゃアカン……! 手分けして対処しよ。地上の『機動外殻』はわたしが引き受ける、ユーリの方は―――》

《わたしに任せて。倒すのは無理でも、引き付けるくらいなら……!》

 はやてからの提案に、フェイトがそう応える。しかし、先程もそうだったように、フェイトだけではユーリの結晶化の影響をもろに受けてしまう。

 そこで、

《それなら僕がサポートに回る》

 と、ユーノがフェイトの援護に回ると告げる。

《今〝フォーミュラ〟を使えるのは僕となのはだけだけど、僕じゃ所長と戦うには力が足りない。でも、結晶化から攻撃役(オフェンス)を守る事は出来る。

 だからなのは、こっちは気にしなくて良いから、先行したアミタさんと協力して親玉を捕まえてきて!》

《了解!》

 ユーノからの言葉に、なのはも強く頷いた。

 そうして意志が揃ったところで、はやては一つ頷き、皆にこう言った。

《決まりやね。ほんなら行こか……!》

 

「「「―――うん‼」」」

 

 すると、揃って声に出した返事を皮切りとして、四人がそれぞれすべき事のために動き始める。

 が、動き出したのは彼女らだけではなく。

 同じように、戦場へと赴かんとする少女が一人―――負った傷を押してでも、己が主人の元を目指そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 先程まで交戦が行われていた大橋の下へ、シャマル率いる管理局の医療班がやって来た。報告にあった、マクスウェルに深手を負わされたディアーチェたちを治療するのに搬送するためだ。しかし、やって来たシャマルたちの制止を聞かず、ディアーチェはユーリの下へ赴かんとしていた。

「は、なせ……っ!」

「ダメだってば!」

 乗せられた担架台車(ストレッチャー)の上で起き上があろうとして暴れるディアーチェ。それをシャマルが止めようとするが、彼女はその手を拒むばかり。……だが、その振り解こうとする動きも、酷く弱々しい。

 外傷が一番少なかったディアーチェですらこれなのだ。他二人はもちろん、彼女自身もこんな状態で戦いへ赴けば今度こそ命に関わる。

「そんな状態じゃ、今度こそ再起不能になるわ……ううん、その程度で済めばまだ良い方。下手をしたら、今度こそ殺されるわよ―――っ?」

 シャマルは医者として、そんな患者を行かせるわけにはいかない。

 キツく忠告を掛けるシャマルだが、ディアーチェは彼女の言葉を聞こうともせずに藻掻き続ける。

「知ったことかっ! 我は、こんなところで寝ておる暇など無いのだ!」

 駄々をこね続けるディアーチェに、穏やかなシャマルも流石に声を荒げざるを得ない。

「ダメです! 医者として、絶対にあなたを行かせるわけにはいきません。むざむざ命を捨てにいくような真似なんて……ッ!」

 

「―――ユーリが泣いておるのだ!」

 

「っ……」

 だが、それをディアーチェのたった一言がねじ伏せる。

 思わず言葉を詰まらせたシャマルに構わず、ディアーチェは更に捲し立てる。ただ一途なまでに助けなければならない相手を、助けたい相手を想いながら。

「今、ユーリが泣いておる……。元よりこの身体も、命さえ(まがい)い物だ。それで彼奴を救えるのなら、こんなものなど……!」

 しかし、それは自己満足じみていた。

 助けられる可能性に命を賭けることは、何も悪ではない。自身の大切なものを思うのならば、尚更に。……けれど、それも度が過ぎれば意味を失う。

「ディアーチェ、そこまでです」

 故にシュテルは、己が王の言葉に口を挟む。

 当然ながら、ディアーチェは彼女の横槍に対し怒りを覗かせる。己が臣下でありながら、引き下がれなどと宣うのか、と。

「シュテル、貴様―――!」

 だが、それは撤退を進言するものの類ではなく。ディアーチェの激高と根源を同じくした、シュテルの矜持ゆえのものである。

「勘違いしないで下さい。わたしが言いたいのは、()()()()()()ではありません。むしろ、その逆―――()()()()と、そう言っているのです」

「なに……?」

 込められた熱に、ディアーチェもいったん矛を納めはした。しかし依然とその意図は彼女の中に落ちてこない。訝かしむディアーチェを他所に、レヴィとシュテルは頷き合うと、時間を惜しむ様に傍にいた局員たちに頼み、自分たちを少し広い場所へ移動させて貰う。

 そして、並べられた台車の間にディアーチェが立つと、シュテルとレヴィは魔方陣を展開する。紅と蒼の陣が重なり、何かに同調している。―――否、むしろ()調()()()()()()()()()のか。

「あの子たち……まさか」

 その様子を傍らで見守っていたシャマルが、シュテルの意図に気づいた。彼女自身、あの三人同様に特殊な出自を背負っている。だからこそ気づけたそれを、止めることなど出来はしなかった。

 何故ならそれは、純粋に人間(ヒト)で無いがために出来る行為。同時に、与えられた命の形を捨て去る行為でもある。

 しかし、だからこそ。

「……悔しいですが、わたしたちはもう戦えそうにありません」

「でも、ユーリを助けなきゃいけない。―――だから決めたんだ」

 それ故に止めることなど出来はしない。触れ合う手を、交わせる言葉を捨ててでも、守ろうとするその覚悟の前では。

「王、手を」

「……っ、貴様ら……」

 まさか、と息を詰まらせるディアーチェ。そう促すシュテルの言葉に、ディアーチェも漸くそれに気づいたようだ。

 手を伸ばすことを拒むディアーチェを落ち着かせるように、シュテルとレヴィは短く共に。

「―――はい」

「ボクらの残った力と魔力……その全部を、王様にあげる」

 と、ディアーチェに再度手を伸ばすように促す。……そこには、揺らがぬ決意があった。何よりも重く、同じだけ熱く優しい願いと共に。

 それを拒み続けることなど、ディアーチェには出来なかった。

「……馬鹿者が……そんなことをしたら、今の姿を保てなくなるぞ……っ」

 だが、胸を張って受け入れられるかどうかはまた別の話だ。

 ディアーチェはこの祈りを受け入れざるを得ない己を、不甲斐ない王であることを恥じるようにして、僅かな未練を残し悪態をつくが、

「どうせ、仮初の姿です」

「猫に戻っちゃうと、話が出来なくなるのが残念だけど……でも、平気」

「ええ。……これなら、あなたも必ず帰って来られる。そのために、この力を―――私たちに残されたすべてを、あなたの翼に託します」

 しかしそれを、シュテルとレヴィが否定する。

 これは悲しみや憎しみを残す遺恨ではなく、取り戻すべき未来を繋ぐ布石であると。

 

 

「……やっと分かったんだ。ボクらが本当に探してた、ずっと欲しかった力……。大切なものを、守る為の力。

 ―――だからね、王様……約束して?」

 

「わたしたちの主人を救い、そしてあなた自身も共に、此処へ帰ってくることを」

 

 

 一つ一つ、染み渡るようにして二人の力がディアーチェへと託される。その度に、二人の人としての姿が失われていく。けれどそれが、二人の覚悟。また同じように、自分たちとユーリの願いだ。

 ならば、ここで躊躇う理由などどこにもない。

 それを遂げることこそが、何よりもなすべきことであるがゆえに。

「…………あぁ、まかせよ……」

「安心しました……。信じていますよ。何時か故郷で、また共に暮らせる()が来ることを―――」

 その声を最後に、二人の少女はその場から消える。

 二匹の猫の姿に戻った二人を両の手に優しく抱きながら、ディアーチェは託された力に誓う。

 無駄にはしない。この覚悟と祈りを、明日へ繋げるために。

 

「……待っておれ、必ずユーリを―――いや、必ず〝ユーリとイリス〟を助け(つれ)(かえ)る……ッ!」

 

 闇と、炎と、雷。

 その三色は、夜が明け行く暁の色。そして、取り戻すべき日常の色だ。

 明日へ向かう大きくなった翼を広げ、王は盟主の願いを遂げ臣下の元へ戻ると決めた。全てを終わらせ、決着を付けるために。

 ―――それを遂げるために今、闇を統べし王が空へと飛び発った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 三人と別れた後、はやては市街地へと攻め入る『ヘクトール』の対処に当たっていた。しかし、如何に彼女の力を以てしても、急速に増え続ける『機動外殻』たちを殲滅するのは難しい。

 加えて彼女は広域型だ。多数との戦いは得意であるが、それはあくまでも味方が敵を押さえてくれている状態に置けるフィニッシャーとしてのもの。なのはやフェイトのような機動力に乏しい分、はやては単独での戦闘はあまり得手ではない。

 だが、

「どんどん増えてる……再生速度も、どんどん早く……!」

 何時までも手を拱いてはいられない。

 悩む暇も持たない機械群は、はやてに考える時間さえ与えないとばかりに増え、更なる侵攻を続ける。抑止程度の射砲撃では埒が明かない。

《目視範囲の敵は〝ウロボロス〟で吹き飛ばせます。味方各員の効果範囲外への完全離脱まであと少し、はやてちゃんは発動準備を!》

 主の意図を汲み取り、リインは侵攻の阻害よりも殲滅を優先するように告げる。が、それは破れかぶれに出たというわけではない。

 むしろその逆だ。リインという補佐を持つはやては、砲撃制御を融合機である彼女に任せて、持ち前の膨大極まりない魔力砲を遠慮なく撃ち放ち、『機動外殻』を一気に薙ぎ払える。

「了解!」

 愛機の言葉に頷いて、はやては一旦市街地の上空まで上がる。ここまでくれば、下手なちょっかいを出されることもないだろう。そう確信したはやては、すぐさま魔力光球(スフィア)を生成。白銀の光を放つそれは、さながら小さな太陽のようだ。

 これこそが、広域Sランク魔導師たる彼女の真骨頂。

 圧倒的な火力による、広範囲殲滅。抑止に徹したままでは被害が増すばかり。ならば、一度に殲滅することで被害を最小限に留める。はやてとリインは、そういう策に出た。とはいえ、そこまで時間はかかるまい。少なくともほとんどの場所で戦闘は終わっている。あとは味方の離脱が確認でき次第、撃ち放つだけでいい。

《発動まであと九十秒、―――ッ⁉》

 しかし、そんな彼女らの思惑を読み取ったかの如く、はやての下へ更なる『機動外殻』たちが一気に押し寄せる。

「増援か……っ!」

 空から迫る『アメティスタ』の群れ。ここまで空の侵攻を行わなかったのは、この奇襲をかけるためか。

 敵側もまだ詰め手を残していたことに歯噛みするも、まだそれだけで敵側の侵攻は止まらない。

《地上からも来ます!》

 リインの言葉に眼下へ視線を飛ばすと、そこには高速道路ではやてを襲ったものと同型の外殻の姿が。

 地上を始め、空まで侵し始めた機動兵器の大群を前にして、はやては高速で思考を走らせる。

 現在、彼女の支援役はリイン一人。しかもユニゾンをしている状態であるため、制御精度を除けば数の上では単体と同じ―――『ウロボロス』は、地上に被害を与えずに殲滅を行う為に微妙な調整を図っていたところだ。制御から手を離しては拙い。

 かといって、いったん空の敵を殲滅するに使うというのもいただけない。空を覆う『アメティスタ』は数が多すぎる。地上に向けた数との釣り合いが取れず、これだけでは殲滅しきれない。

 となればこれを放棄して空の『アメティスタ』を狙う、というのがセオリーだろうが、あいにくと地上の市街地を侵攻する『ヘクトール』とは別の機体が出てきた。先ほども言った通り、はやては機動力という面においては些か劣る。膨大すぎる魔力量の所為もあって、制御が疎かになってしまう部分があるのだ。

 ゆえに、引くも進むも茨の道。何かしらの弊害が生じてしまう。

 が、その迷いを晴らし行動に出ないまま止まってしまえば、最悪の事態に陥るだけだ。

 意を決し、はやてはまず空の敵に当たろうと決める。地上の避難が確認できてない以上、空から潰していくしかない。そう思い、リインに呼びかけようとするが、

「リイン、〝ウロボロス〟の照射角を修正、空の〝アメティスタ〟に照準を……!」

《大丈夫ですはやてちゃん、その必要はありません》

 何かに気づいたらしいリインは、はやてにそう返す。

「え? リイン、それって―――、ッ⁉」

 どういうことなのか、とはやてはわずかに驚きに苛まれたが、言葉の意味を理解するのに時間は不要だった。

 何故か、などと問うまでもない。

 次の瞬間。

 リインの言葉に被せるようにして襲い掛かってきた『アメティスタ』を、雄たけびと共に叩き壊す青き守護獣の姿が目に飛び込んできた。

「でぇぇぇえええいやぁッ‼」

「ザフィーラ……!」

 嬉しげな声を上げるはやてに、来たのは彼だけでないと言わんばかりに他の騎士たちもまた、同じく己が武を振るう。

「はぁあああッ!」

「せぇええええええいッッッ‼‼‼」

 新たな叫びを載せて、空を舞う黒翼を墜とす矢と鉄槌が唸りを上げる。

 真紅と赤紫の装束を身に纏った二人は、『ヴォルケンリッター』におけるフロントアタッカー筆頭。

「シグナム、ヴィータも……!」

 だが、そこで終わりではない。

 地上に蔓延りはやてを狙っていた小型中型の『機動外殻』を、新緑の如き光を放つ鉄糸で編まれた『手』が一掃する。

「わたしもいますよ~ッ!」

「シャマル!」

「はいッ、『ヴォルケンリッター』ただいま現着致しました! もう大丈夫ですよ、はやてちゃん、リインちゃん!」

「みんな、ありがとうなぁ……。でも、生産拠点の方は?」

「そっちも大丈夫ですよ、クロノ支局長が対処に当たってくれてます。味方各員も、はやてちゃんの広域攻撃に備えてほぼ離脱済み。あとはタイミングだけです……!」

「ほんなら、わたしたちは―――!」

《ええ、地上の敵を薙ぎ払いましょう!》

 その声と共に、いっそう輝きを増す白銀の太陽。そうして幕引きを告げる光が、解き放たれる時を待ちわびている。

 戦いの終わりは迫っていた―――もう、直ぐそこまで。

 

 

 

 ***

 

 

 

 夜の静寂(こうそくどうろ)疾走(はし)り抜けながら、アミタはマクスウェルを追いかける。ただし、追跡は陸路で行っていた。そもそも、通常の運用における『フォーミュラ』は『魔法』ほど空戦に特化してはいない。無論、強化加速を使えば別だが、敵と同様に空路で追わないのは、先程の戦闘で『アクセラレイター』使用したにも関わらず即座に叩き落とされた事に起因している。

 だだでさえ出力に差が開いた以上、これ以上の無駄撃ちは出来ない。

 使うのならば、使うべき時―――

 その一瞬に賭けるくらいの心持ちでいなければならない。故にこうして乗り物を使った方が、自分自身のエネルギーを消費しなくて済むのだ。

 事実、差は詰めている。程なくしてマクスウェルに追いつけるだろう。だが、このままでは決定打に欠ける。

 単なる強襲では、彼の『アクセラレイター・オルタ』を越えることは出来ない。

「アミタさん!」

 そこへ併走するようにして、なのはがアミタの傍らへ近づいてきた。

 声を掛けられたアミタは、駅周辺の防衛ついて一瞬思わなくもなかったが、なのはがそれを放り出してくる様な性格ではない事は、この短い付き合いでも重々承知している。つまり、彼女は託されたのだろう。あの、たのもしい仲間たちに。

「わたしが犯人確保の担当になりました、一緒に捕まえましょう!」

 そして託された彼女は今、自分にも機会をくれている。

 先程の懸念も、これならば問題は無いだろう。だが、やってきた助っ人に対し、アミタは未だ申し訳なさを感じずにはいられない。

「本当に、ご迷惑をお掛けするばかりで……」

 出来るなら、決着は付けてしまいたかった。アミタの心情も、なのはたちには伝わっている。けれど、もうこうして関わってしまっているのだ。

 なのはたちも、このまま終わるまで傍観することなど出来ない。

「こちらもご協力頂いて、ありがとうございます。でも、今は行きましょう、アミタさん」

「―――ええ、なのはさん!」

 短くそう言葉を交わすと、二人は長年連れ添った相棒顔負けに息を揃え、標的へ向け疾走する。

 

 

 

 

 

 

 一方、マクスウェルも二人の追走に気付き迎え討つ機会を窺っていた。しかし、『フォーミュラ』は索敵においては『魔法』に劣る。最初から無かったものが出現すれば反応も出来るが、封鎖領域内に元々いた相手を、広範囲索敵(エリアサーチ)するには向いていない。

 故に、迎撃は敵側が仕掛けてくる前に叩くのがベスト。

 市街に足止めしている魔導師たちから引き離し、アミタと『もう一人』を単独で迎える機会を窺っていたのだが。

「―――ん……?」

 思いの外アミタの追走が早かったのか、気づけば彼女の乗るバイクの反応がかなり距離を詰めていた。とはいえ、何も焦ることではない。単に遅いか早いかと言うだけのこと。

 マクスウェルは落ち着き払って、背後の高速道路へ視線を向ける。距離は路上から目測で三〇〇メートルといったところか。この距離なら、強化加速で一息の間に詰められる。

 ―――来い。

 そう念じながら、光学迷彩に包まれたままにマクスウェルは来たるべき敵を待ち構える。が、彼が目にした光景(モノ)は誰も乗っていない空の車体のみ。

(から)、だと……? ッ、しま―――)

 それに気づいた時には、もう遅かった。

 

 

「「―――はぁあああああああああああああああああッ‼」」

 

 

 威勢よく飛び込んできた、赤と桜色の光。

 だが、それだけのことではマクスウェルを墜とすことは出来ない。

「甘い……!」

 当然、この場合も考えてはいた。大型の剣に武装を換装し、二人の少女を弾き飛ばさんと待ち構える。

 しかしそれを、二人は全開の出力(いじ)で超えて来た。

「ぬ、ぐ―――ぅぅ……ッ‼」

 先ほどの醜態を忘れさせるまでに、アミタが振り下ろした一撃は重く響いた。詰めも甘く、死に体だと彼女を侮っていたのは彼の方だと言わんばかりの剛の一撃。そこへ畳みかけるようにして、桜色の魔力砲が重ねられた。

 注がれる魔力の圧に負け、マクスウェルは遂に地上にまで押し戻された。しかし、致命傷は皆無。すぐさま迎撃に出れば済むだけの事という認識を、さらに二人は越えてくる。

「―――な……ッ⁉」

 マクスウェルの四肢を封じる桜色の拘束魔法。魔導師たちが攻撃を仕掛ける定石にして、最も効果的な戦法に彼は嵌められていた。

 剣先と砲口が、次撃を載せて彼を狙う。

 ……侮っていたことは認めよう。だが、その程度で長年(としつき)を掛けた研究(チカラ)の底を知った気でいるならば、あまりにも浅はかである。

「言ったはずだろう? ……私は君たちと戦っても負けない、と―――!」

「っ……⁉」

 聞こえてきた声に、アミタは僅かに焦りを孕んだまま剣を振り下ろそうとした。だが、それを……たった一言の下に起こった、紫の嵐が吹き飛ばす。

 

 

「―――〝アクセラレイター・オルタ〟ぁぁぁぁぁぁッッッ‼‼‼」

 

 

 瞬間、彼の姿が掻き消えた。

 マクスウェルは掛けられた拘束を吹き飛ばし、加速機動(ドライブ)に入る。振り下ろされた一撃を躱し、背後へ回りこんだ勢いのままアミタを建物の壁へと蹴り飛ばした。壁にめり込んだアミタは、衝撃で動きが鈍っている。そこを狙い、マクスウェルは手に持った剣を突き立てんと迫った。

 しかし、それに対しアミタも、簡単にやられるものかと剣を突き出してきた。ろくに動かぬ身体で無駄なことを、と嘲笑い、そのまま剣ごとアミタを切り上げ空へと吹き飛ばすマクスウェル。だが、上空は先ほどの地上でのもつれ込みとは異なり、遮蔽物の無いガラ空きの射程をなのはに晒すことになる。

 けれどそれは、

「―――ぁ、ッ……!」

 アミタがマクスウェルの傍に居なければの話だ。

 高い威力も正確な射程も、味方を巻き込む恐れがあれば簡単には撃てまい。如何な非殺傷設定とはいえ、痛みはもちろん、魔力余波による傷を負わせることになる。まして、今のアミタは満身創痍を意地で持っているようなものだ。そんなところに砲撃を撃ち込むわけにはいかない。

 無防備な相手を前に、刃を向けられた仲間を前に、なのはの動きが一瞬止まる。

 ―――どうすれば良いのか。

 その答えを出すには、この思考(じかん)はあまりにも短すぎた。同時に、迷っている暇も無い。マクスウェルの剣先が、アミタの腹部に今にも突き立てられようとしている。

 撃つしかない。即席ではあるが、この状況を作りだしたマクスウェルはそう確信していた。

 なのはの砲撃は防げる。そうすればアミタは戦闘不能になり、あとはなのはを片付けるだけで事足りる。仮に撃ってこないのであれば、目の前にあるこの命を、自分が刈り取るというだけのことである。

「どうやらお別れのようだ―――」

 砲撃は来ない。ならばアミタを刺し殺し、再び加速機動に入りなのはを(たお)すだけだ。

「さようなら、アミティエ……ッ!」

 が、そのための第一刀を入れんとしたその時――マクスウェルは、()()()()()()()()()()()を耳にした。

 

 

 

 

 

 

「―――〝アクセラレイター〟ァァァあああああああああああああああああッッッ‼‼‼」

 

 

 

 

 

 

 何が起こったのか、マクスウェルは理解できなかった。

 身体は迫る脅威に反応し迎撃と防御を試みてはいるが、目の前で起こっている現象に意識が追いつかない。

 桜色をいっそう濃くしたような、どこか鮮血を思わせる燐光(フレア)を伴って飛び込んでくる少女。その速度は、マクスウェルの『アクセラレイター・オルタ』に迫る。

 単なる『フォーミュラ』だけでは簡単には到達できない領域。間違ってもそれはこんな土壇場で簡単に覆すことの出来るモノではないというのに―――

「―――ッ、ぅぅぅお、ぁぁぁああああああああああああああぁぁぁッッッ‼⁉⁇」

 在り得ない。

 桜色の閃光によって地に叩き伏せられて尚、攻防の果てに自分が敗れたのだと理解して尚、目の前で起こった事柄が信じられない。

 見上げた(そら)にいるに、年端もいかない少女が今しがた見せた力を。

 ……けれど見上げた先の光景が、その不条理が現実だと言うことを何よりも雄弁に物語(かた)っている。

 

 

 

「アミタさん……大丈夫、ですか」

「なのはさん……また、無茶を」

「えへへ……。何度も見せてもらったから、出来るかなって…………でも、ちょっとだけ、キツいですね」

 上空で、二人の少女が無事を確かめ合う。無傷ではなく、当然ながら相応の代償を払ってもいる。だがそれは、少なくともそうはならなかったはずの光景だ。

 そこへ至り漸く、覆されたという事をマクスウェルは理解する。

 また、何によってそれが起こされたのかも。

「……エルトリア式〝フォーミュラ〟と、〝マドウ〟の融合―――

 イリスとユーリを使って……私が成し遂げようとしていた事を……あんな、子供が……何故……?」

 が、悔しさに塗れたような言葉を吐きながらも、彼の口元は狂気(よろこび)に歪んでいた。

 マクスウェルは知るところではないが、なのはたちの用いる魔法は、ユーリのモノとは異なる『ミッドチルダ式』と呼ばれる体系を辿っている。

 ユーリの用いる『古代ベルカ』は特殊性や対人へ特化されたものが多く汎用性が薄いため、他のモノと融合させることは容易ではない。まだ『ミッド式』や『近代ベルカ式』へと受け継がれた分、それらとは稀に適合を有することもあるが、彼のやろうとしていたような『別の体系(フォーミュラ)』とは相性が悪かった。

 だが、時間を掛ければ出来ないこともなかっただろう。事実、イリスが『夜天の書』にアクセスし、その一部を操ることが出来たのがそれを証明している。

 けれど、あくまでも一部。長い時間を掛けても完全な融合など、彼には出来てはいなかったというのに。

 それなのに、あの子供は―――なのはは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 妬ましくないはずも無い。当然ながらマクスウェルの胸中は悔しさに染まっている。しかし、それ以上に。

「―――素晴らしい」

 目の前で起こされた、その奇跡への称賛をせずにはいられない。

 イリスも、ユーリもそうだったが、彼の前に現れる子供たちはいつも彼の予想を超えた〝奇跡〟を見せてくれる。

 だからこそ、

「……く、くくっ……!」

 欲してしまう。求めてしまう。何よりも魅惑的な力、理外の力に魅せられた欲望が渇き疼いて仕方がない。

 起き上がり、交戦(つづき)を始めんとするマクスウェル。そこに浮かんだ狂気に、なのははただ真っ直ぐな視線だけを返す。

「―――――」

 一度目を閉じて、静かに思考を逡巡させる。改めて確かめるほどのことでもないが、それでも彼女の心に宿る信念は固く熱く燃え上がる。

 目の前にいるのは、間違ってしまった人。止めなければならない人だ。

 

 そして、彼の欲望が悲しみを呼ぶのならば―――なのはは、その狂気を越えていく。

 

「アミタさんは、支援に回ってください」

「っ、そんな……わたしはまだ……ッ」

「大丈夫なのは、分かってます」

「なら―――!」

 なおも言い縋ろうとするアミタに柔らかな笑みを返し、なのはは握った愛機(レイジングハート)を構え直す。主の意思に応え、レイジングハートは新たな姿をそこに晒した。

 否、新たな姿と言っても、形態としては寧ろ原点への回帰だろうか。

《Unit set!》

 大型の魔導砲から、レイジングハートは槍の様な形態へと姿を変えた。それは、魔導師が持つモノとしては、実に古典的かつ王道。彼女がある少年から魔法を託されたときから変わらない、何よりも馴染み深い形態(カタチ)―――『杖』だ。

「……ふふっ」

《Master?》

「ううん、何でもないよ。レイジングハート」

《All right, Let’s do our best.》

「うん!」

 なんとなく、なのはは奇妙な懐かしさを感じていた。最後にこの姿の彼女と共に戦って、まだそう時間は立っていないというのに、どこか郷愁じみた感覚。それは、魔法との出会いに立ち戻る様な、懐かしさにも似た気持ち。

 同時にそれは、悲しみと(むきあう)う為の心を決めた、始まりの決意だった。

 そうして固めた決意を胸に、アミタへ向き直って、なのはは先程の続きを告げていく。アミタが諦めたくないのも、頑張りたいのも分かっている。

 なのは自身が、彼女に確かめたのと同じ。

 危険だから引っ込んでいろと言われて、簡単に引っ込みが付く様な性ではない。

 けれど、今は―――。

「わたしの方が、もっと大丈夫っていうだけです!」

 愛機を構えたなのははアミタへそう言うと、溢れんばかりの闘志を魅せてくる。

 絶対的な安心を与えてさえくれそうな輝きに、アミタはもう言葉を返せない。逆に、マクスウェルはいっそう悦びを露わにしてなのはへこう言った。

「素晴らしい……。君は素晴らしい。欲しいね、その力……!」

 惜しみない賞賛ではあるが、込められたものは実にドス黒い。

 

「君も、私の〝子供〟にしてあげよう―――ッ‼」

 

 歪んだ笑み。ある一人の男の裡にある虚無(から)に込められた『欠落』と対峙しながら、なのはは鋭い視線を向け、再び舞い散る火花(あらし)の中に飛び込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 (あす)へ捧ぐ、(おも)

 

 

 

 そんな歪みとの対峙が始まっていた頃。

 高速道路上ではユーノとフェイトの二人と、ユーリの戦いが続いていた。戦況は善戦と呼んで差し支えない。ユーノによってフェイトは結晶化から守られ、支援を掛けられたフェイトは攻撃に専念できている。

 しかし、ユーリを完全に止めきるだけの戦いは出来ていない。

 激しい攻撃の余波を防げても、どれだけ隙を作ることが出来たとしても、ユーリの防御を突破し、その先にある呪縛を解くだけの力を有してはいなかった。

 『鎧装』の第二形態。正しく箱舟や城塞と言った力を有するそれは、ユーノとフェイトの二人を相手にしてなお、差を残し続けている。

「―――――ハァッ!」

 先程から拘束を掛けても間を置かずに弾き飛ばすユーリ。堰き止められる間は、結界術師のユーノを以てしても三十秒に足るか怪しい。

 フェイトが大型の攻撃魔法を発動するだけの間を与えてくれない状況。

 が、力を完全に溜め切るだけの時間を得られないのなら、接近してユーリをあの中から引きずり出せば良い。

 元々、フェイトの戦い方は近接寄りだ。ならば、この戦法は正しいと言えるが、しかし―――。

「ッ……!」

「フェイト!」

 近づこうとしたフェイトを、ユーリはまるで機械の様な正確さで迎撃する。

 タイミング的には直撃だったのだが、

「っ……ぅぅ、ぐ……ッ‼」

「ユーノ……!」

 フェイトへ向け振るわれたその攻撃を、ユーノが全開の盾で守る。

 前衛を失っては、ユーリを止める芽が完全に潰えてしまう。それだけは、絶対に避けねばならない。

 彼のそんな意地を賭けた防御だった。

「だい、じょうぶ……攻撃は防ぐ! フェイトは、攻撃に専念―――、ッ⁉」

 けれど、そうした意地さえもユーリは呆気なく超えていく。

 ユーノとフェイトを打撃では倒せないと知ったユーリは、零距離で砲撃を放つべく砲口を向ける。

 膨れ上がっていく魔力。文字通り目の前に生まれた脅威に、ユーノとフェイトは目を見開いた。

 このままでは盾を突き破られる。しかし、フェイトだけ離脱させたら其方が狙われ、共倒れになりかねない。こうなれば、とフェイトがユーノの盾に更なる防御を重ね、ユーノはイチかバチか転送魔法を発動させようと右手を翳すが、発動時間と砲撃のどちらが早いかなど考えるまでもない。

 そんな、緊迫と半ば身構えの様な刹那。

 張り詰められたその糸を断ち切るかの如く、()()()()が二人の危機を救った。

 叫びすら上がらないまま、ユーリと『鎧装』が吹き飛ばされる。何が起こったのか、ユーノとフェイトは分からなかった。危機を脱したにも拘わらず、二人は暫し呆然とその場に立ち尽くしてしまう。

 が、一拍遅れて二人は自分たちを救った光の出所を振り向く。

 すると、そこには―――

 

「あれは……」

「……ディアー、チェ……?」

 戸惑いを孕んだ声で、二人はそう呟いた。

 声を向けられた主は応じない。しかしそれは、二人の認識が間違いだからではない。ただ、長々と語る言葉を持ち合わせてなどいないという決意の表れ。

 この戦いを終わらせるためにやって来た者の、静かで鋭い覚悟そのものだった。

「手間を掛けたな。後は任せよ」

「な、一人じゃ無理だよ……! わたしも―――」

「一人ではない」

 淡々と語るディアーチェにフェイトは驚いたように声を上げるが、彼女の不安を断つようにして、ディアーチェは短くフェイトの間違いを正した。

 

 

「シュテルもレヴィも───我と共に在る」

 

 

 瞬間。

 ディアーチェの手の中にある魔導書が項目を周囲へとバラ撒き、再び三色の光がユーリへと注がれる。

「――――――」

 圧倒的なまでの破壊力。それは、明らかに普通ではない魔力運用。魔導師が単体で出せる出力を軽々越えていた。

 その光景に二人は呆気にとられる。

 あまりにも唐突な登場に事情が呑み込めず、フェイトとユーノは彼女の傍まで飛ぶ。するとディアーチェは、二人へ向けてこう言い放つ。

「元よりユーリを確保するのは()()の役目。

 助けがいるのはナノハたちの方だろう? ―――行ってやれ」

「ディアーチェ……」

 素っ気なく突き放す様な言葉にも聞こえる。だがそれは、同時に何かしらの代償を背負ったものであるという事にも気づく。

 また、彼女の言葉に間違いはない。役割も、助けが一番求められているのは誰なのかも。

 重い決意の末に、ディアーチェは此処にいる。同じように今、日常を守るために戦っている少女がいる。ならば、二人の応えは一つだ。

「分かった。みんなも気を付けて……」

「ありがとう、ディアーチェ。僕たちも必ず決着を付ける……だから、君たちも」

「―――ああ」

 短く言葉を交わし、三人は―――否、三つの魂と二つの魂は己が向かう場所へと向かって行く。

 それぞれの、幕引きの為に―――

 

 

 

「―――待たせたな。行くぞ、ユーリ」

 

 

 

 二人と別れた後、そう口にしてディアーチェは静かにユーリと向き合う。

 しかし、返礼は『鎧装』の拳だった。大橋の上での決戦から数刻も経っていないというのに、すっかり傀儡に戻されている。

 そんな無粋さを弾き飛ばす様にディアーチェは右手を翳し、そこに出現させた雷光の薙刀(つるぎ)で『鎧装』からの攻撃を叩き伏せ、粉微塵に叩き壊した。

 想定外の衝撃に相手は呆気にとられるが、負けじともう一方の腕を突き出してくる。……が、魂の籠らない一撃など、今の彼女には軽すぎる。左手の籠手で『鎧装』を掴み、逆に噴射させた魔力砲で吹き飛ばした。

 腕を失った『鎧装』は再生を試みるが、ディアーチェはその隙を許さない。

 

 とっくに、するべきことは決まっている。

 無駄な時間など、一部たりとも挟まない。

 そして、それを成せるだけの力も共に―――いや、本当は全てこの時の為にあったのかもしれない。

 

 三つの魂は、合わさることで一つの力となった。

 守るための力。泣いているユーリを、囚われた呪縛から解き放つための力だ。

 

 けれど最早そんな憶測さえ、どうでも良くなっている。

 今はただ、決着をつけるのみ―――

 

「―――ッ、……⁉」

 

 再生の隙を突いて、ユーリの腕に拘束魔法が掛けられる。闇色の光を放つそれは、捕らえるためのモノでありながら、解放するためのモノ。

 主人を縛り続ける悪意の糸を、全てまとめて吹き飛ばすまでの布石だ。

 

「聞け、ユーリ!

 シュテルとレヴィから預かった力、そして我が魔力の全てをこの一撃に込める。必ず貴様を救って見せる。あともう少しだけ、辛抱しておれ!」

 

 ディアーチェからの声に、ユーリは焦り彼女の行動を止めようとする。

 構成された躯体で、三人分の魔力全てをコントロールするなんて無茶苦茶なことをしたら、根底にある基礎部分にまで被害が及んでしまう。

「っ、ディアーチェ……ダメです……! そんなことしたら……‼」

「―――ハッ」

 先刻、大橋の下で交わした言葉と少しだけ似たそれに、ディアーチェはどこか可笑しそうに笑う。

 

 ―――確かに一度、三人はユーリを救えた。

 

 笑顔を取り戻した筈だった。……それなのに、今こうしてユーリは泣いている。

 何故か、などと問うまでもない。

 つまるところ、救いきれていなかっただけだ。

 掬い上げることは救いとは呼べない。不十分であったというのなら、それまでの力で足りなかったというのなら―――

 

「元より拾った命と、仮初の力……ッ! お前の涙を止められるのなら……投げ捨てたとて、悔いはないッ‼」

 

 ―――全てを賭してでも、成し遂げる以外の選択があるというのか。

 ディアーチェの気迫が増していく。彼女の中へ託された、ユーリへの想いと感謝。その全てを此処に込めるために。

「貴様のくれた、生命(いのち)(こころ)は―――貴様と共に過ごせた日々は、まことに温かで……幸福であった!」

 するとその意思に呼応するようにして、ディアーチェの裡から迸る魔力が一気に膨れ上がる。

 〝エクスカリバ―・トリニティ〟―――

 それは、三つの魂のこれまでを余すことなく詰め込んだ……彼女たち三人の持つ最大の魔法を全て束ねた一撃。与えられたぬくもりへ報いるための、幸福への感謝を告げる光だった。

 紫電が走り、焔が舞う。そしてそれらをまとめ上げる優しき闇の光が、主人の未来(あす)への路を示すための輝きを増していく。

 しかし、

「っ、ぐ……ぅぅぅ……ッッ!」

 同時にそれは、ディアーチェの躯体(にくたい)を傷つけ壊していく。

 文字通りの、命がけの一撃。無事で済む保証など何処にもない。

「――――――ッッ!」

 声にならぬ叫びが虚空に消える。響く旋律は、微かに魂を震わせた。決めたはずの硬い魂さえ揺らがす、大切なものだから。

 

 しかし、臆すな。

 託されたものを信じ、いま胸を満たした思い出たちが大切であるのなら、その全てを明日へと紡いで行け。

 

 故に、今度こそは負けるな。

 かつて、死に行く星に見捨てられたことに負けた様に―――あの時、悪意と欲望の前に屈した様な、そんな敗北は許されない。

 ……今度こそは絶対に!

 そして、かつて救われた音と、命に報いる為に今。

 

「故に今度は! 我らが貴様の明日を切り開く……ッ‼」

「ディアーチェェェェ───ッ‼」

 

 ユーリが、彼女の名を呼ぶ。思えば何度も何度も呼ばれていたのに、気づくのがすっかり遅れていた。しかし、そんな無礼さも此処で返そう。そうして、最後の旋律(さけび)をかき消す様に、ディアーチェもまた叫んだ。

 ただひとえに、純粋に伝えたい言葉を―――

 

 

「我らの、渾身の恩返し! う、けとれェェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええェェェ……ッッッ‼‼‼」

 

 

 そして、

「――――――、ぁ」

 三つの(やみ)が激しく、けれど(おだや)かに、ユーリの華奢な身体を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 ……焼け焦げるような、しかし洗われていく様な(ひかり)の中で、ユーリは一人漂い続けた。

 が、やがてその微睡みにも終わりが訪れる。

「……っ、ん……」

 目を覚ますと、彼女の周囲は焼け焦げた焦土と化していた。

 自身の置かれた状況を確かめるようにして起き上がり、微かに痺れと気怠さの残る手を握り、開いてみる。

 もう、彼女を縛る呪縛(いと)も『鎧装(よろい)』も消えていた。

 けれど、それはつまり―――

「ッ、ぅ……!」

 無理やり身体を動かし、周囲へ視線を飛ばす。

 煙だらけだが、次第に引いていく霞の奥に、小さな影があった。

 それに気づき、駆け寄ろうとして身体が崩れかける。だが、倒れるわけにはいかない。あの、小さな命の元へ行くために、こんなところで倒れている暇などない。

 一歩。また一歩と距離を詰める。

 倒れそうでも、崩れそうでも、また一歩。

 

 ――――――そうして、ようやく辿り着いた。

 

 

 

「は、ぁ……、っ―――ぅぅ……!」

 

 息が詰まった。嗚咽にもならない呻きが漏れ出し、金色の瞳から大粒の滴が幾重にも零れ落ちていく。

 膝を付き、小さな体躯を(やさし)(やさし)く抱きしめる。

 時間にしてみれば、再会からここまで半日程度しか経っていない。あれだけの時を置いて、様々な傷の中で誰しもが苦しんだ。

 ここは、そうしてやっと戻れたはずの場所。それなのに、ユーリは声も上げられずに泣いていた。

「恩返し、なんて……。わたしのほうが、ずっと……ずっと、たくさんの幸せを……貰ったのに……っ」

 震えた声で、ぽつりぽつりと零れていく涙と言葉。

 零れ落ちていく熱に呼ばれるようにして、彼女の腕の中で小さく鳴き声がした。

 それでは意味がないだろう、と告げるように、小さな手がそっとユーリの頬を撫でる。その感触に、ユーリはまた泣いてしまった。……ただ、今度の涙は悲しみではなく、優しい喜びがあふれていく優しいもの。

 その熱と、抱えられた腕から感じる温もりの中で、猫に戻った少女は静かに()()()()()

 

 こうして(あさ)へと向かう夜空の下で、一つの戦いが幕を閉じた。

 

 未だ果てぬ戦いの最中。

 祈りを告げる光の先に待つ、終結の光へと路は進む。

 

 

 

 

 

 

 先を照らす光(うちぬくまほう)

 

 

 

 暁へささげられた祈りの光が、一羽の〝天使〟を救った。

 それに拍車をかけられたように、なのはとマクスウェルの戦いも激化の一路を辿っていた。

 

 切りかかる剛腕の剣閃を相手にしながら、なのはは砲撃を撃ち放つ。

「っ、はぁ―――ァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ‼」

 かつて、一人の女性を相手にした時、なのははこう言われたことがある。一つ覚えの砲撃が通るとでも思うのか、と。

 しかし、彼女の答えはたった一つ。

 ―――通す、だった。

 その答えは、今でも変わっていない。

 ゆえに、例えどれだけの剣戟にさらされようと、彼女は魔法を放つことを止めようとはしなかった。

 向けられ刃を柄で止め、銃弾を光弾で相殺する。そうして生み出された隙を、超弩級の砲撃で撃ち貫抜(つらぬ)く―――!

「ぬ、っ―――ぐ……ァァァああああああああああああああ!!」

 だが、マクスウェルの方も簡単には屈しない。

 以前なのはがシュテルに対して行ったように、無理やり砲撃の中を抜けてきた。

 『フォーミュラ』と融合し、今のなのはが放つ砲撃は通常のエネルギー分解装甲では防ぎきれない。また、基本的に砲撃魔法の術式は放つためのものであり、魔法そのものの構成ははっきり言って雑だ。

 とどのつまり、マクスウェルは炎の中を焼かれながら抜けているのとさして変わらない状況だといえる。けれど彼は、そんなこともお構いなしに、なのはに剣先を突き付けてきた。

 イリスの群体化によって復活を果たしたことで、アミタのような生来の肉体ではないものの、同等以上の筋出力を機械躯体によって手に入れている。そもそも、彼はイリスに残したデータからでも復活できるし、彼という本体はここに居るが、予備機構(バックアップ)はきちんと機能するだろう。

 だというのに、

(……何故、倒れない……!)

 火花を散らし入り乱せる閃光の狭間を駆けながら、マクスウェルは心内でそう吐き捨てた。しかし、如何に強力な力を持つとはいえ、相手にしているのは年端もいかない少女である。

 それなのにマクスウェルは、なにやら背筋に薄ら寒いものを感じてさえいた。

 なんとも奇妙なことだが、恐怖していたのだ。イリスやユーリと見た目そう変わらない、年端もいかぬ小さな少女の姿に対して、一歩でも退いたのなら、確実に己が存在を消し去られる様な恐れを抱いていた。

 新たな躯体(カラダ)を得て、期待以上の拠点(しんてんち)へと辿り着き、宝物(むすめたち)を手の中に取り戻してなお、拭い切れぬその恐怖。

 訳が分からなかった。

 理解の範囲を大きく超えた、決して折れない心。それは娘たちを愛しながらも道具として弄んだ彼をして、知る事の出来ない〝狂気〟だった。

 

(―――何だ。何なんだ、コイツは……ッ⁉)

 

 ただの正義感ではない。自分を犠牲にしてでも何かを守ろうとするのではない。

 そこに込められているのは、何かもっと別のもの。相対して初めて、マクスウェルは高町なのはという少女の得体のしれない何かに真っ向から触れていた。

 情報にあった〝少女(ヒーロー)〟の本質―――

 華々しい力とも、成し遂げてきた偉業ともまるで異なる、そのイメージに。

 次第に焦りは募り、僅かに攻撃を鈍らせる。彼がまだ、機械ではなく人であるからこそ起こった余分(ロス)に、なのはの放つ砲撃が重ねられた。

「ぅ、がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁッッッ‼⁉⁇」

 魔力の奔流に吹き飛ばされたマクスウェルだったが、逆にこの攻防で自分が押されていることを認識し、ある一つの結論を得る。

 目の前の少女が、何かしらの理解の範囲外にいることは分かった。

 この力を欲してはいたが、それはもう諦めよう。―――何故なら彼女は、自分が再び前へ進むために、ここで絶対に消しておかなければならない脅威であるがゆえに。

「ぁ―――ァァァ、うぐぉぉぉぉッッッ‼」

 認識を変えた瞬間。

 マクスウェルが再びなのはに迫る。しかし今度振るわれたソレは、本当に出し惜しみを捨てた攻撃だった。

 躯体の損傷もエネルギーの量も省みない、純粋にただ全開の一撃。強化加速によって強化された彼の剣閃は、その時漸くなのはへと届いた。

「ぅ、―――ッ⁉」

 なのはが防御に(まわ)した()()()()()()、マクスウェルはその先にいるなのはを確実に殺すための一撃を見舞う。

 どんな方法でも、薄皮一枚に届こうかという距離で突き立てられた刃を覆す方法など存在しない。

(終わりだ……ッ!)

 だからこそ、マクスウェルはそう確信していたのだ。

 ここであの少女、なのはを葬り去れるのだと。得体のしれない脅威を消し去れるはずであると、そう確信していたはずだった。

 なのになのはは、そんな現実(じじつ)さえも覆してきた。

「ハ、ァァァァ―――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼‼‼」

 自分に迫る刃を躱すでも、受け止めるでもなく、防御しても強引に押し切られると知ったそれに対し引くでもなく、なのははむしろ、前へと突っ込まんとばかりに前のめりで、自分自身を巻き添えにする形で制御を無視した砲撃を撃ち放った。

「な―――に……?」

 再度吹き飛ばされたマクスウェルは、()()()()()吹き飛ばされたなのはを見て、呆然と目を見開いていた。

 受けた痛みよりも、今しがた自分もろとも吹き飛ばした子供が、もう既に自分へと向かって来ているという事に。

 そしてまた、マクスウェルの身体を光が包んだ。

「ぉ、ごがっ……がぁァァァァァ――――ッ‼」

 だが、光の中で嵐のごとき威力に揉まれながらも、マクスウェルは脳裏を染め尽くす疑念(おそれ)を振り切って、目の前の脅威を殺し尽くさんとばかりに戦いへと意識(カラダ)を急き立てた。

 今度こそは油断もなく、一部の隙も与えることなく一刀のもとに切り伏せる。

 加速の上限を更にいっそう引き上げ、制御機構を逸脱した速度の中へと飛び込んでいくと、それに追走すようになのはも彼を追う。

 今度こそ、二人は止まることもなくただひたすらに空を舞い、切り結び、撃ち合った。

 後先などもう考えない。ただひたすらに、この攻防を終わらせるラストアタックを探り続ける。

 敵側の防御を丸裸にし、その上で一撃をみまい終わらせる。ただその一点のみを狙い、最初にそのきっかけを手繰り寄せたのは―――

 

「終わりだ―――ッ!」

 

 マクスウェルだった。二度目の、今度は口にも出した決着(終わり)を体現するために、目の前の少女を切り伏せる為に刃を振るう。

「ッ―――!」

 迫る一撃に、なのはは自らの終わりを半ば確信する。けれど、どうしても諦めない心だけが生への道に手をかけようと足掻き続けていた。

 真っ向から迫るマクスウェルも、彼女のその意志は読み取っていたが、そんなものがあってたまるものか、と嗤う。

 加速した思考が、外部状況の一切を捨て去り、一点のみを写し続ける。

 止めるべき相手、消し去るべき脅威。

 どちらも同じ『敵』という存在。しかし、同一でありながら、そこに込められた認識はまるで異なる。

 その差異が戦う理由に直結しており、それこそがこの張り詰めた刹那の均衡を破る一手として具現した。

 そして、次の瞬間―――

 二人の道は、まるで初めから決まっていたかのようにして、真逆に分かたれた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 前線から離され、なのはによって支援に回って欲しいと頼まれたアミタだったが、実際のところ回復のために外されたようなものだった。しかし、彼女の身体はハッキリ言って重体だ。

 駅からこの戦いへ至るまでに、様々な傷を負ったのは勿論、先程の攻防でマクスウェルから受けたダメージによって、もはや身動きもままならない。

 とはいえ、戦況はなのはが押しているのだけは間違いなかった。

「なのはさんが押している……でも、」

 が、それはあくまでも押していると言うだけで、確実に勝てるという確信にまでは至らなかった。

 今し方マクスウェルとの交錯した刹那、あわんや絶命と言うところまで追い詰められて尚、死中に活を見出した胆力は凄まじい。けれど、それだけ危うい部分も持つ戦い方をしているということだ。

 とっくに限界は超えてしまっているのに『戦えている』事自体、異常といって差し支えない。

 これ以上長引かせでもしたら、場合によっては―――

 

「たす、けなきゃ……っ」

 過ぎる予感に、アミタは必死で身体を起き上がらせようとする。奇しくもその直感に押されたように、なのはの側の状況が悪転する。しかし、一度へたり込んだ身体は彼女の意志に反して力を取り戻してくれないが、それでも尚―――動け、とアミタは強く思考を走らせる。

 こんなところで諦めてたまるものか。

 みすみす自分たちを助けてくれた人を殺されてたまるか、と。

 目の前で、自分たちの星から齎された災厄と戦っている少女がいるというのに、自分がこんなところで呆けているわけにはいかない。

 

「……動け……動けぇ―――ッ‼」

 

 そんな意志を込めて、あらん限りの気力を振り絞り、アミタはそう叫んだ。

 けれど、満足に戦闘へと立ち戻るほどには至らなかった。だが、声に叫んだ彼女の気迫が呼び寄せたのか――込められた『助けたい』という願いが、小さな希望を呼び寄せる。

「!」

 風を切る音に驚くも、振り向くまでもなかった。

 二つの光が、激突するなのはとマクスウェルの元へと飛び込んで行く。その光は、いつだって彼女にとっての福音を告げるもの。

 

 閃光と翡翠(二つの光)が、なのはが進むべき道を示し切り開いた。

 

 

 

「な……に……ッ?」

 

 信じられない、といった声が響く。

 その声は、確実に追い詰める側であったはずのマクスウェルの方から発せられていた。

 何度も何度も、在り得ないことばかりが彼を襲う。

 向けていた剣の切っ先は割り込んできた雷閃に弾き飛ばされ、ガラ空きになった躯体を戒めの鎖が縛り付ける。

 驚きと悔しさ、そして何度目かも判らない驚愕に目を見開きながら、マクスウェルは歯噛みした。

 訳が分からなかった。

 いや、彼は知っていたはずだった。

 ヒトが何を以て限界を超えていくのか、あるいは、敷かれた不条理を突破していくのか。彼が〝燃料〟などと称した、その根底にある、本当にちっぽけな原動力を。

 十分な準備はしていた。だが、それでも足りなかったのである。

 ちっぽけな宝石(いしころ)から始まり、ここまで輪を広げ続けた、この〝魔法使い〟たちの『絆』を超えていくためには。

 

「今だよ―――なのは、フェイト!」

「「うん!」」

 

 ―――その呼び声に合わせ、終結へ向けた最後の魔法が放たれる。

 

「〝ホーネットジャベリン〟!」

「〝エクシード・エストレア〟!」

 掲げた二人の『杖』の下へ、星と雷が集う。二人の周囲に、無数の光球(スフィア)が浮かび上がる。

 なのはとフェイトが編み出した、コンビネーション。

 

 

 

「「〝ブラストカラミティ〟―――ファイアーッッッ‼」」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 〝ブラストカラミティ〟―――フィールドを生成し、効果範囲を限定することによって魔力砲の飽和攻撃を可能にする中距離殲滅コンビネーション。しかも今回は、結界術師であるユーノの支援(バックアップ)もあり、形成されたフィールドの制御により、通常以上に魔力をその内側へ集束させる。加えて離脱もできないように調整されているため、万に一つもその檻から逃れうるすべはない。

 場は、ここに整った。

 そうして、示された道を照らすようにして、なのはとフェイトの魔力砲撃が撃ち込まれていく。

 

 これまで幾重の運命を切り開いてきた撃ち抜く魔法。

 そんな少女たちの意思を乗せた一撃が今、この世界を掻き乱す事件(あくい)根源(おおもと)を打ち倒す!

 

 

 

「「ブレイク、シュ――――――トぉッッッ‼‼‼」」

 

 

 

 少女たちの声に呼応して、魔力の出力が跳ね上がる。飽和した魔力で満たされた空間の中で、マクスウェルは断末魔を残し呑まれていった。

 

「ぅ、ぉぉぉぉがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁっっっ‼⁉⁇」

 偽りの身体は崩れ、次第に機械の躯体の外装を引きはがしていった光は、彼の奪うための四肢を吹き飛ばす。

 これまで、幾重にも奪い続けてきた代償を、彼は今、ここで支払うこととなった。

 同時に、唯一残されていた彼の欠片も、だんだんと消えていく。本来こうした機能停止へ陥りそうになった場合、あるものが送り出されるはずだった。

 予備記憶(バックアップ)更新(アップデート)―――

 本来イリスの中に(のこ)されるはずだったそれは、奇しくもこの魔法の特異性によって防がれていた。

 空間を形成してからの飽和攻撃。しかも今回は封鎖系の効果を付加したフィールドが形成されており、マクスウェルが出そうとした通信は完全に遮断された。加えて、彼自身の持つ通信機能もこの攻撃によって封殺(ダウン)

 結果、ただ更新と交信の不具合を残し、彼は魔法の渦の中に呑み込まれた。

 

 

 

 また、その時を境として―――

 最後に残されていた呪縛(かせ)が消え去った。

 

「―――――ぁ、……」

 何か、大事なものがかすれて消えていく。

 大切だったけれど、今はもう遠い日の記憶が、だんだんとだんだんと砂嵐(ノイズ)の中に消えていく。

 そうして、激しい剣戟を振るっていた虹の女神が、夜空の上で急に弛緩したように制止する。操り手を欠いた人形のように、赤い鉄塔の上空より落ちていく少女が一人。だが、彼女がただ墜ちる事は無く。

「イリス……ッ!」

 その名を呼び、彼女の身体を受け止めた少女と共に、地上へと下っていった。

 

 各地での戦いはこれですべて幕を閉じた。

 

 残されたのは、市街地を侵攻する『機動外殻』のみ。

 しかし、それらも最後の光によって消え去る。夜天より注ぐ終結の光が、残された残骸を焼き払い浄化する。

「なのはちゃんたちの方も、戦闘終了。効果範囲からの、味方各員の離脱を確認。キリエちゃんとイリスも無事よ!」

「よっしゃ、ほんなら―――」

《はいですっ! 〝ウロボロス〟発動、発射六秒前。五、四、三、二、一……ゼロッ!》

 リインの声に合わせ、はやてが杖を振り下ろす。するとそれに合わせて各地へと白銀の光が注いだ。街を侵し続けた脅威を薙ぎ払い、天へ伸びる楼閣のようなはやての魔法が、悪意の残骸を浄化していく。

 

 

 

 終わりを告げる光の柱が立ち上り、戦いはいよいよ終わりへと差し掛かった。

 誰しもが一時的な安堵に浸る中、フェイトとユーノはなのはとアミタを保護し、彼女らを休ませるために医療班の元へ行くように促す。

 

 

 

 そして―――。

 

 

 ユーノとフェイトの二人は、地面に転がされたマクスウェルの下へと歩みより、逮捕(おわり)を告げようとした。

「フィル・マクスウェル所長、あなたを逮捕します」

「今のあなたに言うのもなんですが、抵抗は無駄ですよ。

 通信手段や洗脳術式(ウィルスコード)の阻害の為に、先ほど張ったフィールドはそのままにしてありますから」

 けれど、

「……逮捕、ねぇ……」

 二人の声に、マクスウェルは気怠げにそう応じるばかり。しかし、言葉とは裏腹に、もはやヒトとしての形骸を残すのみでありながら、何の悲壮も無念も残すことなく、彼は尚も不敵に嗤っていた。

「まぁ別に、()()これ以上する気はないよ。―――そう、()()ね」

「なにを……」

 今更、と、ユーノは口にしようとして止めた。

 文字通り手も足も出ない事件の首魁を前にしながら、ここへ来て漸く浮かび上がる違和感に苛まれた。この落ち着きと、敗北した上でのこの余裕。そして、彼の言葉に込められた意味について。

「―――、まさか……!」

「ユーノ……?」

「ふふっ、そっちの坊やは気づいた様だが、もう遅い。

 ―――そう、遅いんだ。空をご覧、そうすれば分かるだろう? ()()()()()()()()が、ね」

 その声と共に、宇宙(はてのそら)で一つの『星』が瞬いた。

 終わりの光を拒み、寧ろ己の光で染めてやらんと言わんばかりに―――最後の最後まで意地の悪い、最悪の悪あがきをそこに示す。

 

 

 

 戦いはまだ、終わってなどいない。

 ―――まして決着など、ついてさえもいなかった。

 

 

 




 どうも遅くなって申し訳ありません、駄作者こと型右でございます。

 まことに遅くなって申し訳ありませんでした。思いの外、今回と次回は難しく時間を食ってしまっております。
 ですが、どうにかこうして更新へ至れたことは幸いです。

 とはいえ、あんまりぐだぐだ言っても何なので、早速今回の話の方に触れていこうと思います。

 今回の話は、正直詰め込みすぎかなぁと思いつつも、次回のあのシーンまでの間をメインに持ってきたいことや、単純に自分が《暁の祈り》のパートを書き切りたかったというのがあります。
 これは別に面倒だから、という理由ではなく―――ディアーチェへ託された二人の思いや、ディアーチェの決意の果てに迎えたあのパートでユーリを解放できないなんて有り得ないという個人的な印象があるからです。

 ぶっちゃけ自分は悲劇や絶望も物語のスパイスとしては好きですが、ディアーチェの側に立ってあんな傀儡みたいに操られたユーリを何時までも放っておいて、苦しませ続けるなんてしないだろうと。そんな風に思っているので、戦いの〆は比較的早く、文章量としては比較的少なめの戦いになってしまいました。
 本当は此処も挿絵用意しとけば良かったんですけどね……筆が遅いので、このままだともっと時間経ってしまうので、映画のままなシーンよりもこの小説での改変が加わった部分を優先させて頂きました。技量不足で申し訳ありません。
 ですが、短く終わったとは言え全力で書きましたので、少しでも込めた熱が伝わっていたら良いなと思います。

 次に触れておくべきは、夜天一家についてでしょうか。
 今回はだいぶ合間合間な活躍になってしまいましたが、はやてちゃんはやはりエグいですよね。街一つに蔓延る機動兵器を一掃できるんですから。うーん、やはり広域Sランクは伊達じゃない。支援言さえいればフィニッシャーとしては最強過ぎる……。
 あ、それと余談なんですが、本当はシグナムのシュランゲフォルムも出そうかと思ったんですよね。ただ、Refのパンフで緊急改修のため一時的に凍結されているというのがあったので、改変入れようかどうか迷った末に取り下げました。なるべく原作沿い、というスタンス的にそうしたんですが、アメティスタのところシュランゲあったら滅茶格好良くなってただろうなぁ……と、実際のところ映画で項だったのは作画的な都合なのかどうかは分かんないんですけども、なんというか勿体ない気がしてます。

 そして次は所長戦と援軍のとこですね。
 此処については割とすんなり決めてまして、フォーミュラ使えるのは二人で明らかにフォーミュラがないと倒せない所長の相手はなのはちゃんを。逆にユーリを足止めする上ではユーノくんとフェイトちゃんのコンビが良いかなと。これにアミタを加えて、全員が一応二人組という感じになったので。
 はやてちゃんにはリインがいますが、フェイトちゃん映画で単独でユーリとバトルしてたの凄いけど滅茶危ないよねと思って、ユーノくんぶち込んでみました。援軍にも二人で行けますし、前半で喰らった結晶化もユーノくんが守ってくれますから安心ですし。あと、ちょっと前半でフェイトちゃんのとこに援軍行って欲しかった的な話が挙がってたので、何となくその時の未練も少しありましたから今回の流れにしてみました。

 で、ここからいよいよ所長戦について触れていきます。

 割と今回の話は所長サイドの心理描写が多めになっておりますが、これは彼の目の前に立ちふさがった『なのは』という少女への印象を書き出してみたかったのでこうしてみました。
 今作ではフォーミュラと魔法の融合についてゃユーノくんもやっていますが、所長の戦闘利用に特化した技術へのこだわりから、ユーノくんはいれば便利だけれど、やはりまずは個人単位でも使用できる融合体系を手に入れたいだろうと思い、あんまりユーノくんの方には触れてません。そもそもイリスが手の中にあったわけなので、本気で数で押せば通常の戦闘ではどうにかなりますから。
 実際、局員たちも相当に苦しめられてましたからね。ちょっと簡単にやられすぎなんじゃないかという突っ込みも無くはないんですが、狙撃は兎も角、量産型との対峙については割と妥当なのかなと個人的には思ってます。
 フローリアン姉妹(と恐らくイリス)の筋出力はミッド人の数十倍という話でしたから、仮にミッド人が地球人とほぼ同じと考えれば、魔法やフォーミュラのハンデ抜きにすれば生身でゴリラ並みのパワー相手にしてるようなものですから、かなり厳しいかと。
 もちろん、魔力量や運用次第では並べるんでしょうけど、ある程度交戦できて生還が可能だっただけでも相当に善戦だったのではないかと思います。もちろん、ゼストさんみたいな熟練の局員とかがいてもいいんですが、地球は管理外世界で二年前の事件以来事件もなく平穏だったことを考えれば急に起こった事件でそんな重鎮を呼べるのかと言えば難しいかと思いますので……。
 まあ、その辺り含めでちょっと人材不足すぎる感がありますけれど、スタンド使いとスタンド使いが惹かれ合うように、イレギュラーの元にイレギュラーが集う『リリなの』のシリーズ内での事件が異常すぎるのかもと思うと物語としてはそうなのかなとは思いますが。

 とまあ、こんな感じで今回の話はおおよそ語り終わりましたが、次回へのことを考えるとまだまだ嵐は止まりません。
 次回、遂にあのシーンへと至るワケなのですが、きっとこのシリーズを読んでいただけているなら何となく予想は付くのかなとおもいます(笑)
 しかし、そんな予想を少しでも上回ることが出来る様に、自分も全力で書いていこうと思います。因みに、次回も挿絵を用意いたしましたので、拙いですが、今回同様に少しでもイメージの補完になれば幸いです。

 では、次回も色々語りたくなると思うので、今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
 恐らく更新は金曜日の深夜か土曜日の正午になると思われるので、またその時にお会いしましょう。
 今回もここまで読んでいただいてありがとうございます。これからも皆様に楽しんでいただけるような物を書けるように頑張って行きます^^
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