~魔法少女リリカルなのはReflection if story~   作:形右

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夢の誘い、祝福を与えし銀色の風

 再会という名の微睡み

 

 

 

 イリスとエルトリアから来た四人が面会していた頃。

 彼女らと合流する前に、なのはは一人、医務局で診察を受けていた。

 

 護衛機との戦いで喪失してしまった左腕は、エルトリアからの技術提供と魔法の併行治療によってほぼ完治している。けれど、今はまだ実戦に出てはいけないとシャマルたちにキツく言い渡されていた。今日の経過観察もその一環で、彼女が無茶をしないようにと改めて釘を刺す目的もあった。

 しかし、そうは言っても治療自体はほぼ済んでいる。

 結果としてもう半ば形式的になってきているこの診察に、なのははちょっと飽きを感じていなくもなかった。無論、医務局のスタッフは丁寧に対応してくれているが、それでもじっとしているのが苦手であるなのはは少し鬱屈していた。

 

 ありがとうございました───とお礼を言って退出する頃には、僅かに眠気を誘われてしまう程度には。

 なので、完全に呆けてしまう前にみんなのところへ向かおうとしたのだが……生憎と一緒に局まで来たフェイトは、兄であるクロノに頼まれた用事がまだ終わっていないようで、あと少しかかるという連絡が入っていた。面会中の皆も、面会場所を出るまでの手続きでもう少し時間がかかるという連絡が来ている。

 

「……うーん」

 

 有り体に言って、なのはは完全に手持無沙汰であった。

 特にどこへ行きたいというわけでもなく、会いたい人たちはもう少ししないと来られないという。しかも、すっかり辟易した神経は休息を求めている。

 あーあ、とため息一つ。

 これからどうするかを考えるために、廊下の壁に四角く空いた穴の様な椅子に座って、空いた時間をどうするか考えようとした。けれど、瞼を重くしていく睡魔に誘われて、次第に瞼が重くなっていく。

 そうして、うつらうつらとした頭にしばらく抗っていたが───程なくして、なのはは眠気に負けて眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「……アレ?」

 

 目を覚ますと、そこは知らない場所だった。……否、〝知らない〟というのは語弊があるだろうか。

 場所そのものを言葉で表すことは出来る。しかし、目の前にある場所は、端的に言って異質であった。

 

 ───宇宙、だった。

 

 一言で目の前の場所を言い表すのならば、それ以上の形容詞は見つかることはなさそうである。

 現実的という言葉からは尤も遠く離れたような、正しく夢の様な静寂が彼女を包む。

 何故、今ココにいるのか。それは判らない。

 しかし今、なのはは星々を背負い、青い惑星を俯瞰していた。……が、目に映る光景は確かに綺麗ではあったが、眺めている少女の表情はあまり芳しくない。

 とはいえ、なのはがここを好ましいと胸を張れないのは、ある意味当然である。何せここは、彼女が命を落としかけた───いや、より正確に言うのならば、自分からそれを捨て去ろうとした場所だったから。

 

「…………」

 

 『あの時』の事を思い出して、何となく痛い様な苦しい様な気持ちになる。乗り越えたはずの寂しさを、改めて思い出させられている様で……。

 何より、自分の取ろうとしていた行動の浅はかさを思い返すと、いっそうそんな気持ちになってしまう。そうして、ますます顔を曇らせたなのはだったが、そこへふと、無い筈の声が掛かる。

 

「……不安なのかい? この場所が」

 

「———え?」

 投げかけられた声に不意を突かれ、小さく声が漏れる。

 だが、それも無理はない。

 何せそれは、聞こえるはずのないものである。

 

 ───そう。

 その声は、二年前に彼女が救えなかった……けれど、確かに救われて逝った女性(ヒト)のものだったから。

「アインスさん……?」

 呼ばれた名の響きに嬉しそうな笑みで応え、アインスはなのはに柔らかにこう告げた。

 ああ、ひさしぶりだね───と。

 

 

 

 ***

 

 

 

「でも、どうして……?」

 

 思わず呆気にとられながらも、なのははどうにかそう訊ねる。

 すると、アインスは少しだけ目を伏せて、闇の空に目を走らせながら、ゆっくりと応えていく。

 

「……さあ、どうしてだろうね。

 だけど一つ言えるのは、ココが君の〝夢〟の中だということくらいだろうか」

 

 返ってきたその答えは、なのはも半ば予想していたものであった。

 

「…………」

「その様子だと、薄々気づいてはいたようだね。しかし、残念ながら私にはこの世界に置いても───君に正しい答えは与えられない」

 

 言葉を噤むなのはに、アインスは優しく、けれど寂しい表情でこう語りかける。

 

「ぇ……?」

 

 が、返ってきたものは、ほんの少しだけ予想と外れていた。

 わかっていたつもりで、何か自分は大事なところを外していたのだろうか。いかにもそう聞きたげななのはに、アインスは『そうではない』と伝えるために言葉を続けていく。

「ココは夢───だから、君の知っている以上のこと、或いは感じたことよりも先を伝えられない。たとえこれが、本当の再会であったのだとしても……。

 私に出来るのは、せいぜいささやかなきっかけを残すくらいだ」

 

「でも……アインスさんは、あの時」

 

「───さて。それが本当なのかどうか、私には答えられない。

 こうして言葉は交わせていようと、私は所詮残響のようなものだ……。少なくとも私が還った日から、君たちや我が主のこれまでを知っていることなどからもね。

 何方が真実なのかは定かではない。もし天国なんてものがあって……罪を重ねた私でも、何かの弾みで辿り着けたのなら、きっと私は見守りたいと願うだろうから」

 

「……だけど」

 

 煮え切らないなのはの様子に、アインスは少しだけ寂しそうな顔をする。落胆や失望ではなく、ただ目の前の小さな子供が抱く悩みを労わるように。

 

「……君は、自分で自分を認めることが───ただ〝そこに在る〟ことが、あまり好きではないんだね」

「……うん。

 何も出来ない自分は───キライ」

 

 たとえそれが、望まれたものであったとしても。

 彼女の心は、けっしてそれを良しとしない。何故なら、自分に出来ることから逃げ出すのは、彼女の最も嫌う行為。

 何かが出来るのなら、

 自分に変えられるのなら、

 尻込みして見ないふりをして、苦しむ誰かをそのままになんてしておけない。───ある意味それは、救いとは正反対の行為である。

 しかし、これまではその心を通じ合わせることができた。

 だから、嘘ではなかったのだ。これまで紡いできた絆も、自分の力を振るってきた道のりも。

 ……だが、

 

「でも、わたしが迷惑かけるたびに……みんなが嫌な思いをしちゃうのも……イヤ」

 

 あの時、気づけたことも確かで。

 その心もまた、彼女にとっては本物だった。

 アインスは、そこに至ることが出来たなのはに、大切なことを学んだ子供を褒めるような声色で応じた。

 

「うん。だが、その心はとても良いものだよ。

 自分が相手にどう思われようと、何かを成そうとする行為は絶対的な『悪』ではない。ただどうしても通じ合えない事や、起こした結果を嫌う心も、同じだけあるというだけのことで……」

「……うん。そう……なんだよね」

 

 折り合えず、分かり合えない。

 だから、ぶつかる。

 だから、同じだけ反発し合う。

 どれだけ遠くにいても通じ合えるのと同じくらい、どんなに近くにいても通じ合えないこともある。

 ただ、それだけのこと───

 しかし、アインスはそこでなのはにこういった。

 

「それでも君は、答えを見つけた。

 ───いや、持っていた答えに、ちゃんと向き合うことが出来たじゃないか」

 

「…………」

 しかし、そういわれてもなお、なのははまだ……自分の中にある答えに納得はしきれていないようだ。

「それでも、君はやはり信じられない? 自分が自分で、満足した事に背を向けて安寧を望むのは」

「——————」

 返ってこない応え。その沈黙は、肯定を物語る。

「そうか……。

 だが、気に病むことはない。今はそう直ぐに絶対に正しい答えを出したがらない方が良いよ。何が正しいのか───そんな問いかけは、時として呆気なく歪むものだからね。君たちが私たちを、救ってくれた時のように」

 アインスはほんの少しだけ寂しそうに言って、けれどなのはに対し追及するでもなく、ただ今はそうでいいと肯定する。

 

「───え……?」

 

 だが、むしろなのはは、その肯定に含まれた例えこそ分からなかった。

 はやてたちや、ヴォルケンリッターの皆が救われたことが、何かを間違えていたなんて、考えたことがなかったから。

 けれどアインスは「そう驚く事でもないさ」といって、さらに言葉を続けていく。

「私たちはずっと『呪われた魔導書』と呼ばれ……事実、幾多の時代、様々な世界でその『呪い』を振りまいてきた。だから、ある意味本質は絶対悪と呼んで差し支えないと言える───」

「そんなの……ッ!」

 しかし、淡々と語られていく言葉に耐えられなくなり、なのはは思わず遮ってしまっていた。

 ……確かに、いくつもの傷を残してきたことは確かだ。

 クロノの父であるクライドの命や、彼を慕っていた人々の悲しみ、これまでいくつもそうしたものが重なっていたことは知っている。けれど、はやてやヴォルケンリッターの皆は必死にその『呪い』に抗おうとしていた。ならば、それは決して間違いや、まして歪みなんて呼んでいいものではないから。

 そのなのはの心に、アインスは改めて感謝するように目を閉じて微笑む。

「……ああ、やはり君は優しいね」

 アインスは向けられたあたたかい思いを抱くようにして、一つ一つ語り始める。なのはたちがくれたもの、はやてやヴォルケンリッターが自ら手繰り寄せたもの、何より自分自身が託した未来が、今もこうしてしっかりとつながっていることを、本当に嬉しそうに。

 

「そう、その真っ直ぐな〝想い(こころ)〟が───私たちを変えてくれた。

 元に戻してくれた、とも言えるかもしれない。

 遠い忘却の彼方に置き去った、己が本質を取り戻したのだ、とも。

 ……しかし本質(それ)がどうであれ、今の時代は呪いの爪痕が間違いなく残されている。それこそ、『夜天の書(わたしたち)』という存在(イミ)を伝えるまでもなく、忌み嫌われても仕方がないほどに。

 だからこそ、消えるべきだと思っていた。主と騎士たちが、これまでにないほどに優しい時間を過ごせた、この幸福と共に。そしてまた、忘れた先で呪いが続いてしまうのも、仕方がない事なのだと。

 けれど、そんなわたしたちが抱く幻想を、君が壊してくれた。

 生きて行く道を、救うことで見せてくれたんだよ……。他ならぬ君と、君の仲間たちが」

 

「だけど……アインスさんは、空に還ったよ……?」

 

「そんな悲しい顔をしなくても良い。

 私の消失(あれ)は天命だよ。長い長い旅の果てに、あんなに優しい主と出会えて……苦しみに呑まれていた騎士たちを、その先の未来へと誘うことが出来たのだから───私にとって、これ以上の救いはなかった。

 けれど、君は違う───」

 

「違、う……?」

 

「そうだとも。

 君は、まだ十年ほどしか生きていないほんの子供だ。

 だがらこそ、そんな〝満ち足りた死〟なんてものにユメを抱いてはいけない。そんなものはユメでさえない、死神に取り憑かれたタチの悪い幻想のようなものだからね。

 ───いつか、君は言ったな。

 いつかは眠る。だけど、それは今じゃない、と……そういうことさ。

 確かに、いつかは眠る。だが私は何百年と呪いと共に在ったが、それでも全く幸せが皆無というわけではなかった。時には小さな天使と出会うことさえあったほどに───だからこそ、君には投げ出す幻想(ユメ)より、先を目指す希望(ユメ)を失わずにいて欲しい。

 君が皆を大切に思うのと同じくらい、いや、或いはそれ以上に君は皆に愛されている。それこそ、死んで良いと思ったら引き戻してしまわれるほどにね?」

 

 悪戯っぽい笑みでアインスは言う。しかし、なのはもそれには覚えがあるのか、少し恥ずかしそうな顔で頷いた。

 そんな可愛らしい反応を受け、アインスはゆっくりと続けていく。

 

「だからいつか、きっと君がまた同じような窮地に立った時───その〝絆〟が再び君を救いに来るだろう。

 君が何よりも大切に思い、何よりも君を大切に思ってくれる人たちが、必ずね? だから、答えはその中でゆっくりと見つけて行けば良い。

 そうすればきっと……まだまだ出会えていない幸せに、これからもたくさん巡り合えるだろうから」

 

「…………うん。

 でも、それなら───この夢って」

 

 いったい、何? そう問い掛けたなのはに、アインスはまるで内緒だと告げるようにして、人差し指を口元に当てまた微笑んだ。

 

「最初に言った通り、ここがどんなものなのか、それは私にも分からない。君の中にある私という存在の残響なのか、それとも本当に運命の気まぐれなのか……定かではないし、断言することは出来ない。

 ───ただ、そうだね。

 仮に一つだけ確かなことがあるとすれば、それは私が君の中にある心を確認するのを見届けているようなものだ、という事なのかもしれないな」

 

「見届ける……?」

 

「ああ。少なくとも君は、私の言葉一つで〝本当の意志〟を変えるようなタイプではないだろう?

 始めて戦った時もそうだったが……あれだけの力量差を前にして、まだ『魔法』と出会って一年も経っていない子供が引かないなど、普通なら在り得ない。

 君はそれくらい頑固者だ。一度その信念の前に敗れた私では、とてもではないが君の心を変えられないからね」

 

 アインスは、どこか楽しそうに語る。

 過ぎてしまった日のことだからなのか、本当に呆れているのか、あるいは両方なのか。それもまた分からない。

 しかし、

「それでもこうして見届けているということは、見失わないようにという願いなのかもしれない。岐路に立たされ、どうしようもないと思えた時……また前を向くための、きっかけを祈っているようなね」

「……見失わない、ように……」

 それは、確かあの時───同じようなことを、言われた気が、して。

 

 あれは、暗い空の上。

 背に回された腕が強く、優しく、泣いている自分を抱きしめてくれている。伝わってくる温もりはとても暖かくて、ますます溢れてくる滴は虚空に星を描いていく。

 そこで告げられた、その言葉は———

 

 

 

〝———僕は、なのはが困っているなら力になりたい。なのはが僕に、そうしてくれたみたいに……なのはが帰り道に迷わないように支えたい———〟

 

 

 

 ───そして、自分が彼に向けた答えは、確か……。

 

「……っ……」

 思い出しかけたその言葉に、なのははほんの少し頬を染める。それに対し自分の返した答えも含めて、まるで戦いの中で起こる昂揚とは別の沸騰するような熱を感じて。

 年頃の少女らしい心の波動に、アインスは柔らかな笑みと共にこう告げる。それなら大丈夫そうだね、と。

 言われて、なのははちょっと驚いたように肩を震わせた。そんなかわいらしい反応に、ますますアインスは楽しそうな様子である。

「うぅ……。イジワルだよアインスさん……」

「ふふっ。いや、すまないね。何となく昔、似たような少女を見たことがあったから、つい、ね……」

 懐かしそうに語るアインス。だが、

「???」

 なのはは、彼女の言う〝よく似た少女〟に心当たりがなく、不思議そうな顔をしている。だからというわけではないが、とても訊きたそうな雰囲気が出ている。

「ん? ……ああ、その子のことかい?」

 アインスもそれに気づき、そう訊いた。すると、なのはもこくりと頷いて、知りたい意志を示す。

 なのはの反応に、アインスもそれならば語るべきだろうと判断し、その少女のことを少しずつ語っていく。

「そうだね……。君はまだあまり馴染みがないかもしれないが、ミッドの方ではもう少し有名かな?

 かつての〝夜天の書(わたしたち)〟や〝紫天の翼(ユーリ)〟の居た『ベルカ』で、君と同じか、それ以上に強固な意志で悲しみに立ち向かった少女がいたんだ。……君は、少しその子に似ている。

 心の在り方が、とてもね。まあ、私自身はそこまで深い繋がりがあったわけではないが……我が生まれた地を統べた人物として、あの地の戦乱を終わらせてくれた少女のことを気にかけていたのは確かだ。彼女は子を成さなかったが……今の君と同じように、心に隣り合う人がいて、同じくらい傍にいる人たちに愛されていた。

 ───だからかな? 君には、次へ繋げて欲しいと思ってしまうのは」

 素直な気持ちの籠った声色と穏やかな表情から、アインスがその〝彼女〟を憎からず思っているだろうことが伝わってくる。

「それだけではないが、今の君が自分で自分を肯定するのがあまり得意でないというのなら、これから過ごしていく時の中で……誰かの傍に〝ただ居たい〟と思えるようになったら、きっと君にもそんな『結び』が出来るかもしれないな」

「む、結び、って……その」

 話の流れで分かっていなくもなかったが、しかし、それでも訊かずにはいられない。

 顔を赤くして、なのははアインスに訊ねると、アインスは「そう、君の子供さ」と優しく返す。

 なんだか猫の鳴き声じみた嘆息を漏らして顔を真っ赤に染めるなのはを、楽しそうにアインスは見ている。やっぱり、なんだかイジワルだと沈みながら、「うぅ……」とこの間アリサにからかわれていた時のことも思い返すなのはだった。

 流石にここまでくると、話の流れとはいえ揶揄いが過ぎたかな? とアインスは矛をひっこめてなのはに謝った。

「いや、すまない。ついこんな話に持って行ってしまった。……でも、いつか見てみたいものだ。君や、君たちの次の世代が担う物語を」

 が、半分は本音だった。残念そうなアインスに、なのはは「それならまた来て欲しい」と言う。

 はやてちゃんもみんなも、きっと喜びますから! ───そう言われると、弱い。

 確かに弾みで会えたのなら、次の弾みもあるかもしれない。たとえそれが幻であろうと、或いは都合の良い確認であっても、通い合わせる心に嘘はないから。

「そうだと、良いね……。

 だけど、今はもうお別れの時だ」

「え、……ぁ」

 身体が、消えていく。

 あの冬の別れとは逆に、なのはの身体の方が消えていく。その〝戻っていく〟感覚に、なのははこの『夢』の在り方をやっと、それでいてなんとなく知った気がする。

 

 これは別れだが、同時に離れていても通じ合う心の確認でもある。

 同じように、誰かの中に生き続ける誰かが、導いてくれることもある。

 

 それは単に答えを提示するのではなく、独りきりで浮かべた考えを検める為に必要な事なのだ。

 一時の満足を優先して、二度と大切なものの元に帰れなくなることを願い、けれどそこに残してきたものの価値を───そこにいたいという自分と、自分の想いの重みを確かめる為に、きっと必要なのだろう。

 

 ───だから、また会える。

 楽観でも何でもなく、いつかまた、きっと───

 

 そう願い、己の中にあるものを確かめようとしたとき。

 もしくは、酷く道に迷ってしまったとき、それまでに紡いだ絆が、きっと心を導いてくれるから。

 そんな暖かなものに満たされながら、なのははアインスと別れた。

 別れの言葉は、あの時と同じ。

 意識してか、自然と出たものなのかさえも、結局は明らかにならなかった。……でも、それでも確かに、この気持ちはいつかへと通じていくのだろう。

 この祈りの様な、願いの様な言葉と同じように。

 

 

 

〝───いつか、きっとね───〟

 

 

 

 そうして美しい銀色の風が、一羽の鳥を再び元の居場所へと誘った。

 翼を広げた蒼穹は果てしなく先を魅せており、辿って来た軌跡を彩るように小さな花弁が舞い、見下ろす大地は空に負けないほどの緑を讃えている。

 

 ───そんな穏やかな光景を最後に、なのはは目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 *** 夢は明け、少女は先へと進み行く

 

 

 

「ん……」

 少し強ばった身体を動かしたら、眠気に誘われた声が漏れた。ぼんやりと辺りへ視線を飛ばしていると、少し上の方から声が聞こえてきた。

「あ、起きた」

「ふぇ……?」

 まだちょっとぽわぽわした頭で声の主を見る。

 水色の髪と、真珠色(パールピンク)の瞳を持った少女は、自身の親友と同じ顔をした少女──レヴィだった。

 覗き込まれたことに驚き、なのはは「うぇ……っ⁉」と改めてちょっと椅子から飛びあがるようにして立ち上がる。気づけば、彼女の周囲を友人たちが囲んでいた。───どうやら、うとうとしていただけのつもりが、思いのほか深い眠りに落ちてしまっていたらしい。

 それを疲れが出たと見たのか、フェイトは心配するように声を掛ける。

「なのは、大丈夫? なんだか随分ぐっすりだったけど……」

「あ……えっと」

 心配してもらえるのはありがたいものの、実のところ本当に只の居眠り以上の理由がなかった。まあ、それならそれで素直に言えばいいだけの話なのだが、見ていた夢の内容が色々とアレだったので、少しばかり言葉に詰まる。

 そんな動揺を感じ取って、はやてはなのはにこう訊ねる。

「なのはちゃん、そんなにええ夢でも見とったん?」

「ふぇ……ッ⁉」

「いや、確かにぐっすりやったけど───寝顔は割と幸せそうやったから、起きるのが惜しかったんちゃうんかなぁーって」

 ドキッ⁉ と、図星を突かれなのはの顔が赤く染まる。

 大きくなった鼓動が早鐘を打ち始め、その視線の先には、翡翠の瞳があって───

「???」

「え、っと……その、だから……」

 ちょっと俯くなのはに、皆はますます不思議そうな顔を深めていく。ただ、はやてだけは何かを察したようで楽しそうにニヤついている。

 ちょうどそれは、前に病室でアリサに揶揄われたのと似ていた。

 気づかれていない事、気づかれていること。それらが全部照れ臭くなって、なのはは結局言葉に詰まったまましばらく沈黙を守らざるを得なかったという。

 

 

 

 ───だが、その後〝夢〟を見た事を口にすることになり、その内容を断片的ながら語ると、はやてはどこか嬉しげな顔をしてなのはの話に柔らかに頷いた。

 そして、途中で「子供」というワードを放り込まれたなのはは顔を真っ赤にして、それをシュテルがちょっと面白くなさそうに追及するという微笑ましい画があったのは余談である。

 

 

 




 はい、どうもこんにちは。久方ぶりにマシな更新ができた駄作者です。
 番外編第三段、今回はウィークリームービー5の内容を取り扱いました。しかし、結構シリアスめかつポエミーな感じに仕上がっている上に、勝手に独自補完しているとこもあるのはご了承願います。
 やっぱりこういう心理描写をくどいくらいに書いてるの好きですね……だから普通の話が下手糞なんだよって突っ込まれそうですが、その通りなので申し訳ありません。今後も精進いたします(;^_^A

 さて、ではここからは話の内容に触れていきます! ……と行きたいところなんですが、今回のモノについては劇場で見た記憶がもうだいぶ曖昧なので、前述の通り結構自分勝手に補完入れてます。
 まあ、一応大筋は外していないつもりですが、違和感あったらごめんなさい。

 とりあえず主軸となるのは、あの〝夢〟の話と、なのはちゃんの歪みが今どうなっているのかという部分ですね。
 映画の方ではユーノくんのことが一切触れられてなかったので、今回はもう『あの子』のこととかを出したりして今後へ繋げていく布石をめちゃ打ってみました。
 いやぁ、此処は結構不満なとこだったんですよねぇ……。同じ空にいるフェはやだったり、日常のアリすずだったりに心配を掛けられないというなら、その飛ぶための翼を与えてくれた今は同じ空にいない人にはもっと心配かけられないだろうとWM見たときに思ったんで。
 あと、子供が出来るくらいの時が経ったらまた会えるかもしれないという発言を更に広げたのは個人的趣向です(ヲイ
 アインスがあの子をどこまで知っているのかは分からないですが、GoDのユーリが発していた発言からしても、多分知っていてもおかしくないだろうと思ってこうしました。

 そして〝人は人の中で生きている〟という事をより描く事が今回の話では大事なとこだったので、余計に曖昧にして判らなくしてみました。
 あの軌道上で視た夢で、自分が死ぬことで大切な人を悲しませてしまうことに気づけたなのはちゃんでしたが、人の中に大切な人が生きていることを今回の話ではより強調した感じなっております。

 この辺りはDetのキャッチコピーである『孤独(ひとり)じゃない。心を繋いだ絆があるから』という部分にも掛かっていていいなと思いますね。

 なにより、まだ十年くらいしか生きてない子供が〝満足いく死〟なんてものは希望を見出すのは死神にとりつかれているみたいなものだというアインスの台詞はまさにその通りですから……。
 メガマガだったかで都築先生が掛かれていた感じだと、完治はしないまでも『辛い』ことはなくなるらしいので、『ただ一緒にいたい』という在り方というか必要とされる『母』として『先達』としての側面が染み込んでくるのかなと思います。
 ですが自分としては、子供ができるくらいの時間が経ったらのくだりは、再会に至るくらいの事件が起こるのがそれくらいの時間がかかるだろうというアインスの予想と、『高町なのは』という少女の『歪み』がそうしたものによって癒されていくだろうという祈りみたいなものなのかなと勝手に予想してみたり。

 まあ、そんな感じで書いた今回の番外編、いかがだったでしょうか。
 楽しんで頂けたのなら幸いでございます。今回は短編と一緒ではありませんが、短編の方も後で上げると思うので其方も楽しんで頂けたらと嬉しいです。 
 また、続編のプロットというか大雑把なメモ的なものを短編の投稿と同時か、その前後で出したいと思っているので、そちらもみてご意見など頂けたら嬉しいです。なお、落とす場所は支部では単体で投稿、笛吹では活動報告として投稿しようと思っているので、そちらの方をご確認いただければと思います。

 では、今回はこんなところで筆を置かせて頂こうかと思います。次回以降も楽しんで頂けるように頑張りますので、よろしくお願い致しますね。
 ここまでお読みいただき、ありがとうございました^^

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