「アレか。一般兵が苦戦してるな…」
近くの木にとまったロートスたちは、様子を伺っていた。
目線の先には、聖遺物の使徒と思われる人物がドイツ兵を次々に斃していた。
「創造の能力はなんだろう」
「まず創造まで行ってるかが分からないと。シュピーネやシスターみたいに形成で止まってる可能性もある」
「それは無いんじゃないかな。あんなに戦い慣れしてるし、多分、聖遺物も扱い慣れてるよ」
たしかに、聖遺物と思われる機関砲を器用に使い、一般兵を殺し続けていた。
「どうする?私が先に行こうか?」
「お前を駒にするようでなんか嫌だけど、…頼む。創造はあまり使うなよ」
「わかった」
木から飛び出した櫻井は、奇襲をしようとしているらしい。
音もなく、その首を狙いに行く。
すると突然、敵の聖遺物の使徒が動きを止め、櫻井が飛んでいる方向に拳を振ってきた。
「ッ!?」
間一髪、避けることが出来たが、気づいていたとは…。
「奇襲だなんて汚い手は使うなよ、嬢ちゃん」
顔を合わせた。
その人は紫色の長髪に同色の眼。高身長の男性だった。
(…ザミエルみたいだな)
「相手が気づいていないと思ってるんだから、奇襲するのは当然でしょう?それとも、わざと発狂しながら突っ込んでこいとでも言うの?」
「ははは、面白いこと言うね。ま、当然のことか」
一般兵をあしらいながら質問に答える。
「…こいつぁ強そうだな。櫻井、無茶しなきゃいいけど」
「ドイツ軍の兵士諸君、攻撃をやめたまえ。これはラインハルト・ハイドリヒ大将閣下の言葉である」
「ほう。賢明な判断だ。ここで無駄死にさせるより、あとに温存した方が良いという考えか。…良いだろう、私も見逃してやろう」
ドイツ軍の一般兵が早急に去っていく。
「さて、ここには私と嬢ちゃんしかいない訳だが、…名乗ろう。私はヴィクトル。本来は空軍なのだが、聖遺物と契約してからは陸軍に編成されたんだ」
「私も名乗らなきゃいけない雰囲気になってきたか…。仕方ない。私は…レオンハルト。軍の特別部隊に所属しています」
「レオンハルト?日本人じゃないのか?」
「こっちに来て改名したんです。…そんなことはいいんですよ。あなたの聖遺物はそれですか」
機関砲を指さして問うた。
「そうだよ。これだけじゃないけどね」
「それだけじゃない?聖遺物は基本1つのはずです。それ以上だと身体が持たない」
「それは戦いながら紐解いていけばいいよ」
そう言うと、ヴィクトルは櫻井に向けて銃撃を始めた。
「ッ!!」
完全な不意打ちだったため、太もも部分を銃弾がかすめた。
「形成!」
赤い刀が形成された。
「ハアアアァァッッ!!」
大きく振りかぶり、ヴィクトルに斬りかかった。
(相手の武器は銃だ。白兵戦ならこちらが有利のはず!)
ヴィクトルは機関砲を振り上げ、櫻井の攻撃を受け止めた。
かなり重いはずの機関砲を振り上げるとは、なんて怪力なんだ…。
「おそらく、白兵戦なら有利だという考えだろう。…ふふ、そりゃそうでしょう。コレなんだから」
笑いながらそう言う。
「では、私の聖遺物の真価を見せるとするか」
そう言うと、機関砲が消え、剣が出てきた。
「私の聖遺物は形が存在しない。故に私が形作らなければならない。そう、私の聖遺物の形成は、『私の思ったものが形成される』というものだ!」
「喋ってばっかりで、手が止まってますよ!」
櫻井が激しく攻撃を始めた。
それをヴィクトルが受け流す。
「やはり、面倒だ。おそらくあなたは強いだろう。だから私は卑怯な手を使うよ」
「なに?!」
ヴィクトルの周りをそよ風が吹く。
「
詠唱すると、櫻井の身体が動かなくなった。
「…!?これは…!」
「私はね、ずっと虐げられていたんだよ。村に住んでいた子供時代、学校に行けばクラスの馬鹿どもから理不尽な暴力を振るわれ、家でもそうだった。だから軍人になった。だが、それでも上の人間からはゴミのように扱われた。だから私の渇望は『絶対的な権力が欲しい』というものになった。そして具現した能力は『命令を相手に強制的に実行させる』というものだ」
「なんてチート能力…」
「君…レオンハルトって言ったか、君に命ずる。『その刀をお前の首のところに持ち上げろ』」
!!!!????
そう言われた櫻井は、その手に持つ刀を首のところに持ち上げ、そこに刺す準備を完了させた。
「『自害しろ』!」
櫻井は首にそれを刺し、自殺した…。
と思ったが、よく見ると、先程の状態から変わっていない。
「それをする必要はねぇぞ。櫻井」
男が立っていた。
そいつは刀を素手で持ち、抑えている。
「あいつ…!」
「あなたは、遊佐君!?」
オレンジ色の髪に赤い服。普段着で司狼は立っていた。
「お前は誰だ」
ヴィクトルが質問する。
「あ?俺はケンカが好きな一般人だよ」
「だったら、『消え失せろ一般人』」
ヴィクトルがそう言ったが、司狼には何も起こらない。
「効かねえ効かねえ。一般人っても、ただの一般人じゃないからな。形成」
司狼がそう言うと、棘鎖を辺りに漂い始めた。
「それは…!」
「そ、聖遺物だ。そんで…」
数秒ためると、
「―太・極―
太極の詠唱をした。
司狼が太極を展開させると、空が幾何学模様に変化した。
「くそ!『これを終了させろ』!」
「やなこった。っつーか効かねえんだけどな」
櫻井の腕も降りている。
「俺の太極はな、『あらゆる異能を無効化する』って能力なんだよ。だから、お前の創造も効かない」
「じゃ、じゃあ『レオンハルト、自害しろ』!」
しかし何も起こらない。
「なに…!?」
「無効化するっつってんだろ。俺以外の人に対してもそれは適用される。こいつがもし創造を使おうとしても無効化されるわな」
「あなたが戦っても勝てる確率はほとんどゼロに等しい。さあ、どうする」
櫻井がヴィクトルに強気で問うた。
「引くなら私たちも見逃してやろう。ここで自殺に等しい行為をするか、引くか。まあ、答えは決まってるだろうけど」
「……ッッ!」
ヴィクトルはそのまま背を向け、去っていった。
「よえーなー。軍人ならお国のために命捧げろよ」
「軍人だって恐怖心くらいあるだろうよ、司狼」
ロートスがそう言った。
「なんだよ、蓮、いたのかよ」
「いちゃ悪いかよ」
「別に悪くねえけどよ、この偏屈姉ちゃんに危険が迫ってるってのに傍観してたって思うと、な」
「まあ、こっちだって色々あんだよ。つーかなんでお前来たんだよ。前にも言ったよな自殺の手伝いは御免だって」
日本にいた頃、司狼がまだ聖遺物と契約してない時に、聖遺物の使徒であるヴィルヘルムと戦おうとしたことがあった。その時にロートスを頼ってきたから、自殺の手伝いは御免だと言ってあしらった事がある。
「別に、俺は簡単に死ぬわけじゃなし?いいだろ。この状況だってデジャヴなんだからよ」
「…そうか。だが、一般人のお前を向こうの戦場に連れていくことは出来ないな」
「そうかよ。俺も軍に入りたいんだがなぁ」
露骨にガッカリしてみせる司狼。
「…だが、聖遺物の使徒としてなら連れていくことが出来る。ラインハルトとは顔見知りだろ?」
「ん?ああ、何度か会ってる」
「なら話はつけておく。
すると、おもちゃを見つけた子どものように目を輝かせ、
「これで強いヤツと戦える!ありがとな」
とロートスに感謝をした。
「櫻井は?さっきの攻撃で精神的には大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。それより、さっさと行った方がいいんじゃない?もし、さっきの…ヴィクトル?があっちに行ってたら苦戦を強いられるのは目に見えてるよ」
「そうだな。じゃあ行くか。念の為、俺は序曲で先に行っておく。お前らは追いつき次第、交戦を始めてくれ」
「「了解」」
ロートスは歩きながら詠唱を始める。
「
詠唱を終えると、ロートスが青い光に包まれた。
「じゃあまた後で!」
そう言うと、時速300キロは軽く超えているだろうスピードで駆けて行った。
「俺らも行くか」
そう言って櫻井と司狼はロートスを追いかけるように駆けて行った。