虚無と銀の鍵   作:ぐんそ

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中々話が進みませんよ!


16:王都へ行こう!

ちゅんちゅん、と小鳥がさえずり、その声でアビゲイルは目を覚ます。

ふわぁ、と小さく欠伸をしてから両手を上げて伸びをし、隣を見てみればまだルイズはまだ眠っているようだ。

 

今日は虚無の曜日、即ち王都へ行く日だ。

アビゲイルはわくわくとした気持ちでカーテンを開けると、まだ外は少しだけ薄暗い。

遥か遠方は白んでいるため、これから朝日が顔をだし、朝の訪れるのだろう。

 

耳を澄ませてみれば、人の喧騒や生活音はほとんど聞こえない。

まるで自分だけが今こうして目覚め、清澄な朝の空気を吸っているかのように思えて、不思議と気分が高揚してきた。

 

「まあ、そんなわけないんだけどね」

 

この時間であれば、既にシエスタ達は起きている筈だ。

貴族たちの洗濯や朝食を作ったり運んだりする使用人はおそらく休日でも日頃の習慣で起きてきてしまっているだろう。

 

アビゲイルは暫く朝の爽やかな風を浴びてからベッドへと腰を下ろす。

ルイズは相変わらずすぅすぅと寝息を立てて眠っていた。

その寝顔にはいつものツンと周りを突っぱねるような表情がないため、いつも以上に幼く見える。

むに、と頬を突いてみれば、そのきめ細やかな肌に指が沈み、むにむにと柔らかい感触が返ってくる。

それと同時に「うーん」と言葉を発したかと思えば、すぐににへらとだらしなく笑みを浮かべた。

 

「可愛い。 ルイズったら、どんな夢を見てるのかしら」

 

アビゲイルはくすくすと独り言を呟く。

そしてルイズが起きるまでの間に、洗顔用のお水を汲んでくることにした。

 

 

.

 

..

 

...

 

「おはようシエスタさん!」

「おはようございます、アビーさん」

 

二人が遭遇したのは水汲み場。 アウストリの広場から出てすぐ左側の外壁に設置されているこの水汲み場にはライオンの像が立っており、ライオンの口から流れ続ける水が半月型の受け皿に延々と注がれるという仕組みになっている。

どんな魔法がかかっているのか分からないが、この受け皿から水は溢れ出さないのだそうだ。

 

「今日は何処かへお出かけですか?」

「ええ! ルイズと一緒に王都の方へ行くの。 シエスタさんにも直してもらったけど、もうこの服も生地が弱っちゃって、きっとすぐ破れてしまうだろうし…」

「そうですね……折角似合っていたし、勿体無くもありますけど」

 

王都へ行っても流石に同じようなデザインの服は見つからないだろう、と言う事でシエスタは残念そうにしながら言う。

アビゲイルが水を汲み終えてせっせと重たくなった桶を持ち運び始めようとした時、「あっ」とシエスタが声をあげ、真面目なトーンでアビゲイルを呼び止めた。

 

 

「アビーさん、王都は人が一杯です。 迷子にならないようにしてくださいね」

「え? ええ」

「それと知らない人について行っちゃダメですよ。アビーさんは可愛いから何をされるかわかりませんからね」

「え、ええ……」

「持ち物は肌身離さず、しっかり持っていてくださいね。人が多いと落としてしまうかも」

「……、分かったわ」

「怪しい道に入るのも危ないです。 悪い人達が一杯いるかもしれませんから、極力大通りを歩いてくださいね」

「………」

 

 

 

 

「あと変なお店に」

「子ども扱いしすぎじゃないかしら!?」

 

アビゲイルは、自分が周りからどんな風に思われているのか、少しだけ分かった気がしたのであった。

 

.

 

..

 

...

 

 

「ふあ……おはよう、アビー」

「おはようルイズ。 早く支度しないと、トリスタニアには此処から馬で2時間もかかるんでしょ? あんまりゆっくりしていると向こうについた時に時間が無くなっちゃうわ」

「わかってるわよう……」

 

眠い。二度寝したい。 と思いながら、ルイズはもそもそとベッドから動き出す。

それからクローゼットに掛かっている服をゆっくりと着る間にアビゲイルはせっせとルイズの髪を梳かしていった。

 

「よし、もう大丈夫よ。 お水は汲んでおいたから、それで顔洗ってくださいな」

「…………」

 

寝ぼけたままルイズはパシャパシャと顔を洗う。 ひんやりと冷たい水を受けて、少しだけ眠気が飛び、目覚めてきた。

 

「はいルイズ、タオルよ」

「ありがとう……手際いいわね、アビー」

「そう? 普通じゃないかしら」

 

そう言ってキョトンとするアビー。

自分から言ったことだが、年下の小さな女の子に身の回りの世話をやらせるというのはなんとも言えない罪悪感があった。

しかし、本人が特に嫌がっているそぶりがないためその話については心の中で保留にしておく事にした。

 

 

 

女子寮の外へと出て、そのまま馬小屋へと向かう。

外は雲一つない快晴で、春の暖かい風と共にぽかぽかと陽気な気分にさせてくれる。

今日一日は雨も降らなそうであるため、絶好のお買いもの日和と言えるだろう。

 

ルイズは馬小屋へと着くと太陽に向かってぐぐっと大きく伸びをし、それから大きく息を吐いた。

これから2時間のも馬に乗ることになるので、軽いストレッチもかねて体を解さなくてはならない。

 

アビゲイルは馬へと近づくと、「お馬さん、今日はよろしくね」と軽く首筋を撫でてにこりと笑う。

馬は目を細め気持ちよさそうにしてから、準備万端だと言わんばかりにぶるると鼻を鳴らした。

 

「…さてと。アビーは馬に乗った事は?」

「ない…と思うわ」

「じゃ、私の後ろに乗って。 私の腰に手を回してしっかり捕まってなさいよ」

「ええ」

 

まずはルイズが馬に乗り込み、ルイズの手を借りるような感じでアビゲイルも後ろへと着く。

それからルイズの腰へとしっかりと手を回し、胸を背中にくっ付けるようにしてしがみ付いた。

 

「そんなくっつくほどじゃなくてもいいけど……」

「だ、だって落ちたら怖いわ…」

 

確かに馬の高さから見下ろす景色は、馬に乗ることに慣れておらず、アビゲイルように身長の低い少女であれば(ルイズもだが)恐怖感を抱いても仕方がないだろう。

ルイズは何となく『頼られてる感』があって気分が良くなり、ふふふと上機嫌に笑った。

 

「……それじゃ、出発するわよ! いざ王都へ!」

「お、おー!」

 

ルイズが声高らかに宣言し、アビゲイルもそれに合わせるよう声を上げる。

こうして二人は馬を走らせ、王都へと向かっていくのであった。

 

 

.

 

..

 

...

 

 

「アビーちゃーん、あっそびーましょ♪」

 

ルイズとアビゲイルの居る部屋の扉の前。

キュルケはコンコンと扉をノックをした後、スキップして居るかのようなトーンで言った。

 

なんせ今日は虚無の曜日。

そして外はそれを祝福するかのように青々とした快晴。

こんな日に外で遊ばなくて何が青春か!

手始めに、アビゲイルに王都の案内をしながら色んな店に連れ回してやろう。

…………と思ってアビゲイルを誘いに来たのだが、部屋の中からは返事が無い。

 

「……アビーちゃん? まさか、ルイズも居ないの?」

 

もしや、と思い急いで窓の外を見ると、そこには馬に乗り走り出していく二人の姿があるでは無いか。

「あー!」というキュルケの叫び声も当然届かず、馬に乗る二人の姿はぐんぐん遠くなり、あっという間に見えなくなってしまった。

 

「先を越された……! あたしだってアビーちゃんと遊びたいのに! というか、他のお誘い全部断っちゃったのに!」

 

キュルケは痛恨のミスを犯す。

ルイズの部屋にいる、ルイズの使い魔であるアビゲイル。 であれば、先を越されるのは当然なのだが、そうであるならばアビゲイルが自分のことを誘ってくれるだろうと期待していた。

おそらくルイズの差し金だろう、とキュルケは予想し歯噛みする。

 

「おのれルイズ……」

 

このままでは折角の虚無の曜日が台無しになってしまう……!

そこからのキュルケの行動は早かった。

急いでタバサの部屋の前に向かい、扉をがちゃがちゃと開けようとし、鍵が掛かっていることを認識すると素早く杖を取り出して《アンロック》を唱えた。

 

カチャン、という音とともに扉を思い切り開けると、そこにはベッドに座ったまま本の世界に閉じこもる親友の姿があった。

 

「タバサ!お願いがあるの!」

「…………」

「ルイズ達を追いかけてほしいのよ!」

「…………」

「タバサぁ〜〜〜!お願いよ〜〜〜!」

 

必死に懇願するが、まるで聞こえて居ないかのように無視をするとタバサ。

というより事実、キュルケの発する騒音はタバサの耳には届いていなかった。

 

《サイレント》

 

周囲の音を遮断する風系統の魔法であるが、タバサはこれを本に集中したいときによく使うのだ。

しかし――――ゆれる。

視界の端に、どすんどすんと駄々をこねる地震の発生源の姿を見て、タバサは小さくため息を吐いて魔法を解除した。

 

「……なに?」

「あたしの休日がピンチなのよぉ〜〜!」

 

キュルケが先ほどの説明をもう一度繰り返し、タバサはなるほど、と理解し、頷く。

そして友人の方を顔だけで向き、無表情のまま言った。

 

「頑張って」

「ありがとう! ………じゃない!!?」

 

キュルケは一瞬期待していたがずるっとずっこけた。

タバサには王都へ行く予定はないし、今日はゆっくりと部屋の中で本を読もうと決めていたのだ。

 

風竜であるシルフィードに乗っていけば確かにあっという間に着くことはできるが、用事もないのにわざわざあの人ごみの中に突撃するのは余りにも馬鹿らしい。

タバサは静かに平和な一日を過ごしたいのだ。

 

既に此方への興味を失い、本に顔を落としてしまったタバサに対して、どうしたものかと頭を抱える。

何かタバサを王都へと連れ出すいい方法はないか……と考えている間に、タバサは杖をもって今にも《サイレント》の再発動をしようとしている。

 

「ま、まって! じゃあ、その―――」

 

必死に時間稼ぎをしようと試みるキュルケ。

しかしその瞬間、一つの閃きが降りてきた。

 

「そうだわ! ねぇタバサ、あなたその本の前に読んでた本あったわよね。 確かそろそろ発売するんじゃなかった?」

「…!」

 

それを口にした瞬間、タバサは少しだけ目を大きくして此方を向いた。

 

「……そうだったかもしれない」

「でしょう? ついでだから行きましょうよ! お昼も奢るから!」

「……、……わかった」

 

タバサはしぶしぶと言った感じで頷くが、既にその本を買うつもり満々の乗り気の状態になっていた。

とある平民の男が己の借金を返済すべく、巨大な組織を相手に命を懸けたギャンブルをする―――という本なのだが、毎回の様になかなか話が進まず、早く先が読みたいとやきもきさせられていたのだ。

 

「それじゃ、あなたの風竜の所に先に行ってるから、タバサも準備が出来たら来て頂戴」

「わかった」

 

タバサが頷き、キュルケは部屋を出る。

素早く準備を終え、「はやくはやく」と足踏みするキュルケの元へ向かうのだった。




その本、異世界で漫画化されてるらしいっすよ。


特に変哲の無い日常回&タバサにようやくスポットが…?
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