虚無と銀の鍵   作:ぐんそ

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アビゲイル武器を探すの巻


20:爆ぜる大剣

結局、あの後のギャンブルは男が親番を2回引き受けた所で終わり、タバサの手元にはエキュー(金貨)が300程詰まった袋が握られていた。

 

ピンゾロからのピンゾロ、五倍漬けからの五倍漬け。 つまり本来であれば500程になるのだが、流石に男の手持ちの袋にはそんなに詰まっていなかったため、支払える分でキリのいい300を貰うことにしたのである。

 

「タバサさん、ギャンブル強いのね……」

「得意」

「得意ってレベルじゃなかったと思うわ」

 

アビゲイルは一瞬にして今日の稼ぎと軍資金の大半を失った男の絶望感溢れる表情を思い出し、なんとも言えない表情になる。

しかしタバサはそれはさておき、と言った風に気にも留めないで話し始めた。

 

「これで武器が買える。 武器屋はこっち」

「え、ええ」

 

しばらく歩き進めると武器屋の看板が見えてきた。 木の看板はすこしだけくたびれているものの、建物自体はそこまでボロボロと言うわけでは無さそうだ。

 

武器屋の扉を開ける。

からんからんと鈴の音が鳴り、店主が此方を見た。

 

「いらっしゃいませ。 どの様な武器をお探しで?」

「……、何がいい?」

「え? 私に振るの!?」

「あなたが握る武器」

 

タバサの無茶振りにアビゲイルは悲鳴をあげる。

何がいい? と聞かれても、何も握った事のないアビゲイルにとって武器の持つ特性など何も知らないのだ。 精々剣は扱いやすい、槍はとても長い、ぐらいの認識だろう。

アビゲイルは暫く悩み、パニックを起こしながら言った。

 

「つ、使いやすい武器が良い!」

「はあ、使いやすい、ですかい……」

 

店主はなんとも気の抜けた返事を返し、店の奥にある倉庫から武器を漁る。

見たところ貴族と平民の組み合わせの様だが、武具に関してはあまり詳しそうには見えない。それに、話を聞く限り剣を振るうのはあの金髪の少女のようだ。 どう見ても戦いを知らぬ華奢な町娘、といった感じで、武器などふれそうに見えない。

 

どうしたものか、と店主は頭を悩ませる。

店主は取り敢えず初心者が扱いやすそうな剣を渡してみることにした。

 

「初心者でしたらこいつなんかどうです? ブロードソードって言うんですが、突くもよし切るもよしのスタンダードな剣になっとります。 騎士様の持つ様なロングソードよりは刀身が短いですが、その分重さも減ってるんでお嬢さんでももしかしたら振れるかもしれやせん」

「へえ……ちょっと持ってみてもいいかしら?」

「ええ、もちろん」

 

店主はアビゲイルの要望に答え、ブロードソードを手渡した。

アビゲイルがそれを受け取った途端、ずしりとブロードソードの重みが両手にのし掛かる。

刀身を鞘の外側へと抜き出してみればシャキン、という金属の擦れ合う音が聞こえ、刀身には照明の光がきらりと反射した。

それからギーシュの見せてくれた剣で武装したワルキューレの姿を真似て剣を構えて、縦へ、横へと何度か剣を振り回した。

 

ぶん、ぶんと風の切る音が店内に響くが、どれもこれも鋭さに欠ける。

店主の目から見て―――誰の目から見ても剣に振り回されていた。

刃は振り下ろす瞬間にぶれてしまい、あれでは切っている、というよりぶん殴っているといった方が正しいかも知れない。

 

店主はなんだか幼い孫娘にせがまれて剣を貸してみた時の様な生暖かい気持ちに襲われ、頬杖をつきながらその様子を眺めていた。

 

アビゲイル暫く剣を振っていると、はあはあと息を切らして剣を下ろした。

 

「はぁ……はぁ……ど、どう?」

「あ―……」

「……下手」

「うっ……仕方ないじゃない、武器なんて重たいもの振り回したことないんだもの……!」

 

店主とタバサの視線が恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして憤慨し、アビゲイルは店主に剣を返した。

 

「もっと軽いのはないの…? 例えば突き立てる用の細い剣とかがあるはずだわ……そう、レイピアだったかしら?」

「そりゃ細剣の類では軽そうに見えますがね……まあ、手に取ってみればわかると思いますぜ」

 

店主は再び奥へと引っ込み、倉庫からレイピアを取り出すとアビゲイルに渡す。

しかし、すらりとした細身な刀身とは裏腹にその重量は重く、ブロードソードを握っている時と同じぐらいの重みがあるように感じた。

 

「お、重いわ…」

「そりゃ刀身が1メイルほどはありますからね」

「……もっと短くて細い武器はない?」

「あるにはありますが、実戦には使えない練習用のものになりますぜ。 そんな軽くて細いものを実戦で振り回そう物なら一瞬で壊れちまいます」

「そうよね……タバサさん、どうしたらいいかしら?」

「とりあえず適当にいろいろ触ってみる?」

「……そうね。 店主さん、いいかしら?」

「ええ、そりゃ別にかまいませんが……『土塊のフーケ』に対抗するならそんな子供に武器を持たせるより、護衛を雇った方がいいのでは?」

「フーケ??」

 

アビゲイルは聞き馴染みのない言葉に首をかしげる。

 

「土塊のフーケ。 土系統のメイジで、貴族の邸宅に忍び込んで財宝を奪っていく盗賊」

「そうそう。 しかも盗んだ後には必ず署名を残していくって噂ですぜ。 そんなわけでフーケの襲撃を警戒して武器をお買い求めになるお客様が増えて、今こうして需要が高まってるってわけです。 ……てっきりお客様方もそうのかと思ってましたが、違いましたかい?」

 

確かにそういった事情があるのなら、こんな武器も使った事のないような少女に装備を買え与えるのは不自然ではない……のかもしれない。

 

タバサとアビゲイルは深く突っ込まれないようにするために、「まぁそんなところです」と言葉を濁して返事をした。

 

棚に置かれた武器を改めて見てみると、その品質は良いものから悪そうなものまで様々であった。 なぜ知識のないアビゲイルにもそれらがわかったかというと、武器の鍔の部分が欠けていたり、装飾の為の何かがはまっていたであろう部分に何もなかったりなど、中古品であると分かりやすい目印があったからである。

先ほどのブロードソードとレイピアが店の奥から取り出されたのは、恐らく高価であるか、新品だった為だろう。

入り口付近に置かれた棚の中に詰められているもので特に酷いのは、錆にまみれて茶色くなってしまった剣だろうか。かなり大振りの剣で、自分には全く使えそうになさそうだ。

 

仕方がないので、さらに次の棚を見ようと移動する。

すると先ほどまで見ていた棚の中でカタリ、何かが動いた。

 

「……え?」

 

ネズミか何かだろうか、と再び棚の方へと近づいていく。

しかしその音は徐々に激しくなり、カタカタカタカタとまるで金属と金属が噛み合う様な音が連続した。 勿論その音に連動するかの様に棚自体も小刻みに揺れている。

 

「な、なんの音?」

「あぁ………今日は妙に静かだと思ったら、全くもう限界か?」

 

呆れた様に吐き捨てる店主にアビゲイルは益々疑問を深める。 するとタバサ が珍しいものを見たような表情で「まさか」と呟いて言った。

 

「……インテリジェンスソード?」

「インテリジェンスソードって何? タバサさん」

「知性を持つ剣、意識を持つ剣。 つまり、喋る剣」

「そうなんですよ。 いつもは客が来るたびギャーギャー喚き散らしやがるもんで、こっちも困ってたんでさぁ。 ボロ剣だから買い手も付きやしねぇただの疫病神さ。 どういうわけか今日はお客様方が来てから一度も喋らねぇみたいですが……」

 

おかしいなぁ、と店主は首を捻った。

アビゲイルは恐る恐る棚の方へと近づいていく。

若干恐ろしくもあったが、インテリジェンスソードという代物には興味がある。

 

棚の中を覗いてみれば……居た。

ぶるぶると先ほどのボロ剣が震え、根元につけられた金具の様なものがカタカタと音を立てている。

改めて見てみても刀身のあちらこちらだけでなく、鍔や柄の方までもが錆を纏い、まるで一度海底にでも沈められたのではないかという程のボロさだ。

 

アビゲイルはそっと剣に触れようと手を伸ばす、その直後。

 

 

「おわあああああああああああああああああああああああああああやめろ触るなああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「きゃあああああああああああああ!!?」

 

 

響き渡る大絶叫。

インテリジェンスソードは勢いよく鞘から飛び出ると、根元につけられた金具を激しく慣らした。

一方のアビゲイルも悲鳴を上げてすっ転び、タバサと店主も耳を抑えて顔を顰めている。

 

「う、うるせぇぞデル公! 鼓膜がぶっ壊れるかとおもったじゃねぇか!」

「ば、ばば、馬鹿やろおめぇ!! 何て邪悪なもんを俺に触れさせようと―――」

 

怯えたようにまくし立てていたインテリジェンスソードだが、アビゲイルの姿を認識した途端にぴたりと止まった。

 

「いたた、なんなの……? びっくりしたわ……」

「……あんだよ小娘じゃねぇか」

「え?」

「全くビビらせんじゃねぇよ! いや、ビビッてなんかねぇがな!!」

 

強がっているようにも見えなくもないが、インテリジェンスソードはケタケタと嗤い始める。

突然心臓が縮み上がるかと思う程の大絶叫をしたかと思えばこの態度。 流石のアビゲイルもムッと納得のいかない表情をしてインテリジェンスソードに詰め寄った。

 

「……もう、なによそれ! 酷いわ! 急に大声を出すなんて」

「へぇへぇ悪かったよ。 反省してるって、ハハ」

「全然反省してるように見えない!」

「うるせぇやい! 小娘がこんな所いないでさっさとお家帰んな!」

「あ、頭にきた……」

「おお? やんのか!」

 

アビゲイルは再び立ち上がり青筋を浮かべてインテリジェンスソードの元へと近づいていく。

剣と人がどうやって喧嘩するつもりなんだ、と店主は内心呆れかえりながら店の奥の方へ引っ込んで行ってしまった。

 

「……邪悪?」

 

タバサはぽつりと、小さく呟いた。

このインテリジェンスソードの言った言葉は余りにも突拍子もないように思えるが、あながちタバサの推測から逸れているという訳では無かったからだ。

しかし、どういうこと?と聞く前にアビゲイルがインテリジェンスソードを手に取った刹那、

 

 

「ちゃんとごめんなさいって言って!」

「あっ!! ちょ、やめ、おめぇ触ったら………ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

インテリジェンスソードの金具が吹き飛び、動かなくなった。

 

 

 




R.I.P デル公


此処でのアビーちゃんは筋力Bのステータスは魔力放出及び触手によるもの=本人の通常筋力は低いままという事で武器を扱う事ができません。


購入前から商品を触れただけで破壊してしまったアビゲイル、次回に続く。

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